2-32

ラッタ虐

作者:シン


コラッタ、ラッタ。この二匹は前歯がないと生活ができない。
前歯は永久歯であり、徐々に伸びてくるそれを木の実をかじる事によって削る。
丁度いい長さに保つ事で、この二匹は生活を維持しているのだ。

なら、その前歯がなくなってしまった場合、この二匹はどうなってしまうのだろうか。

―――

無機質な壁に囲まれた、窓もない部屋。地下に位置するそれは、拷問部屋を連想する。
天井に無造作につけられた滑車。いくつかの大きさの檻。中では何かが動いている。
明かりはニ、三個程度のランプのみ。それでも、形が見えるのは意外とでもいうのか…。

部屋のほぼ中央に、滑車と、男の姿があった。

男の目の前には、宙吊りにされた子供のコラッタがいる。
尻尾の先に縛り付けた紐は、コラッタが暴れる度に食い込み、そしてコラッタに激痛を与える。
それに耐えかねるコラッタは更に暴れる、悪循環そのものだ。
「っくくく…もっと暴れろよ。」
男は下衆な笑みを浮かべ、そしてコラッタを金属バットでつつく。
子供のコラッタの前歯は未成熟で、金属バットに噛み付こうにもやわらかい歯ではどうしようもない。
本来、自然界で成長する場合は親が木の実をくだいて子供に与えるというが。
人間の手で育てられるコラッタはある程度野生のものより前歯の硬度が劣る為、多少硬いものを与えてその硬度を成長させる。
だが、男の目の前にいるコラッタはその為のものを与えられていない。このコラッタは、男に抗う術を持っていない。
「さて、今日はお前の日だ。」
男は口の端を吊り上げると、手にした金属バットを構えた。球の変わりは宙吊りのコラッタだ。




金属バットで何をされるかなど、このコラッタには検討もつかない。
だが、男の表情から解るものは、恐怖。やけにぎらついた目の男は、コラッタの目には恐怖の対象としてしか映らない。
「ッシャー!」
コラッタはそれから逃れたい一心で、更に自分の体を振り続ける。
尻尾に縄が食い込んで痛もうと、それよりも今目の前にいる恐怖から逃れたい。
だが、そんなものはただの願いにしか過ぎない。男の金属バットは無造作に振られる。
「馬鹿だなぁ、やっぱりお前もそうなのか。」
男の笑みが、今度は不気味なものへと変わる。コラッタの目が見開かれる。
みしっ、という音。そしてコラッタの体が不自然な形へと歪み、そして後方へと飛ぶ。
まるでサンドバックだ。
「み゛ゅ゛っ」
鳴き声とも思えないような歪な音を立てて、コラッタの体はとんだ方向から再びまた男の下へと戻る。
男は再度、金属バットを構える。既に、コラッタの腹は凹んでいる、死んでいるのだ。



ぎしっ、と音を立てて縄が軋む。さび付いた滑車も、妙な音を立てる。
男は二打目を繰り出した。今度は顔面めがけて。
ぐしゃ、と表現する事はあまりにも単純すぎる。それほど、たとえがたい音が室内に響く。
コラッタの顔面は子供であるが故に、小さい。その小ささからは想像できない程の脳髄と血液が噴出す。
金属バットに滴る血は、すぐに金属バットの表面を滑り落ちて、床に赤い色をつける。
コラッタのゆがんだ体は、今度は脳髄と血液、そして砕けた髄骸骨により飛ばなかった。
男は無理やり、金属バットをコラッタの顔から引き離した。みちゅ、という気味の悪い水音を立てて、コラッタの顔面から金属バットが離れる。
つぅー、と赤い糸が引く。男は満足げに、コラッタを見やった。
腹が異様に凹み、そして顔面は既にコラッタの原型を留めてはいない。ぷらぷらと縄に揺られるその姿は、何物にもたとえがたい。
もし比喩するならば…適当に、サンドバックとでもしておこう。
それ程までに、コラッタは無残な様だった。ぽたぽたと顔面から垂れる血と脳髄は、徐々に溜まり、そして血たまりに変わった。



「お前も同じだなぁ」
男はせせら笑いつつ、コラッタの体を滑車から下ろす。縄を縛り付けていた尻尾の部分は、毛が抜け、赤黒く変色していた。
ぼた、と音を立てて顔面から落ちるコラッタ。ひしゃげた顔面が床にぶつかり、コラッタの体が立つ。
そして、力が抜けたように…抜けているせいか、くたん、と折れた。男はそのコラッタの尻尾をつかんだ。
ぶらん、とゆれると、脳髄の塊が床に落ちた。男は苦笑しつつ、部屋の奥にある、机にそのコラッタを放り投げた。
ランプの光を直に受け、そこだけが明るく光っている。まるで、手元を照らすように。
男はコラッタの体を机に置きなおし、そして金属バットを床にほうった。カラン、という音がした。
男は腰のホルダーにつけてあった、サバイバルナイフを取り出した。何度も研がれているのか、ナイフの刃は中々鋭い。
光沢こそ放ってはいないが、切れ味はよさそうに見えた。男の笑みが、今度は笑みに変わる。
それは下衆でもなく不気味でもなく、まるで子供のようだった。子供が、何か新しい玩具を手に入れたような、そんな…。
「ははは」
乾いた声で、男はそのナイフの刃を、コラッタの歪な形の頭へと当てた。
ごちゅっ、という、骨を砕く音と肉を裂く音が耳につく。
前後に動かし、そして推し進める度に、ごりごりという骨を削る感触が手を伝って男を刺激する。
ごとん、とナイフが机に到達する頃には、男の手は真っ赤に染まっていた。



男は、そんな調子でコラッタの体を切っていった。細かく、適度な大きさになるように。
切り終わる頃には、机も、男の足元も血まみれだった。生臭い匂いが男の鼻腔をつく。
ガタン、と言う音が、男の背後で聞こえた。男は振り返ることもなく、切り分けた肉塊をボウルの中に入れた。
「大丈夫、もうすぐだから」
男はしゃがみこみ、机の下からミキサーを取り出した。かなり、使い込まれている。
机の上にガタン、と音を立ててミキサーを置く。それは男の日課。大切な一日の動作のひとつ。
慣れた手つきで、男はボウルの中の肉塊をいくつかミキサーの中に放り込んだ。
ギュイイイン、と音を立てて回転するミキサーの刃。徐々に、徐々に肉塊は液状のものへと変わっていく。
それでも、多少原型は残るのか、液状とは言っても、本当にどろどろとしている。
男はその動作を数回繰り返し、どろどろとした液体を作り上げた。赤黒い色をしたそれは、とても食欲を殺ぐ。
だが男は気にもしない様子で、フレークの箱を手にする。ざらざらとボウルの中にフレークをいれ、そして素手でかき混ぜる。
生暖かいそれが男の手にまとわりつく。傍から見れば、何とおぞましい事をしているのか、と思われるかもしれない。
だが、男は慣れている。慣れ、とは時に恐れをもしのぐ。それがまさに、この男を作り上げたとでも言うのか。
フレークに赤黒い液体がしみこみ、まるでオートミールのようになる。男は手を引き抜き、そしてボウルを片手に、先ほど音がした方へと向かう。



男の目の前には、檻があった。多少大きめの檻の中に、動く影が見える。
敷き詰められた藁の上で、身を丸める…ラッタの姿があった。
一瞬目を引くのは、そのラッタに、前歯がない事。男は檻に手をかけ、そして開けた。
「さぁ、出ておいで」
ラッタはおどおどとした動作で、その体を檻から外へと出す。外、といっても閉鎖された空間なのは檻とあまり変わらないが。
それでも、ラッタは狭い檻よりも外…部屋の方がいいらしい。伸びをして、男の顔を見やる。
男の目が優しい目に変わり、笑みが微笑へと変わる。男はボウルをとん、と床に置いた。
「どうぞ」
ラッタはうれしそうに、そのボウルに飛びついた。前歯のないラッタは、すするようにボウルにくらいつく。
ガチャガチャと音を立てて、まるで暴れるように食べるせいか、びちゃびちゃと液体が床に飛び散る。
それでも、男は笑っていた。ボウルの中身に食らいつくラッタを一見し、檻の中を見やる。
そこには、まだ生まれて間もないコラッタの姿があった。コラッタらしい体をしていないが、コラッタだ。
男はにんまり口をゆがめると、ラッタの頭をなでた。
「よく頑張ったね、えらい。」
ラッタが一度、びくん、と震えた。




コラッタ、ラッタの前歯がなくなるという事は。
それは抗う術を奪われるという事。だがポケモンは意外に利口だ。
からこそ、被害を最小限に、抑えようとする。

これはそのほんの一例でしかない。

――
最終更新:2011年04月16日 14:50
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