3-11

夏休みは、気づくとあっという間に過ぎ去っていて。またいつもと同じ生活が始まる。
始業式を終えた後もまだ頭が夏休み気分なのか、優れない。
というのも、宿題の一部を終わらせる事ができなかったからだ。プリントは写せばいい。
だが、自由研究だけはそういうわけにもいかない。
同じものを提出したその日には、鬼担任から殴る蹴るの嵐を受ける事は目に見えている。
それは、提出しなかった際にも同じ事だ。
鬼担任は他のクラスの担任と違い、とてもスパルタだ。できない奴にはできないからと、折檻。
しかも、それがバレないよう上手い具合に折檻するから驚きだ。(鬼担任のポケモンの回復技のおかげだ)
明日で、宿題提出期限は最終。
 としあきは頭を抱えてうなった。提出しなければ痛い目にあう。だが今からやって間に合うか?
机の上に突っ伏し、教科書を開いて何か自由研究になりそうなものを探した。
だが、どれを見ても一日でできそうなものなんてない。理科の教科書なんてあてにならない。
何が星座だの月見だのだ。実験にしろ、機材がどこの家庭にもあると思うなよ!
心中で悪態を吐きつつ、としあきは窓の外を見やる。
じりじりと、まだ暑い日ざしが道路を照らしている。近くの木にはテッカニンがとまっている。
ふと、としあきの脳裏に”昆虫採取”と言う四文字が浮かぶ。
としあきの家の周りには木が沢山生えているし、ちょっと出れば林だってある。
「昆虫採集!おかん、昆虫採集してくる!」
ベッドの上のモンスターボールを手に取り、としあきは元気よく外へ飛び出していった。

としあきは近くの木にとまっているポケモンには目もくれず、林へと向かっていた。
以前、親戚のおじさんに教えてもらった穴場。あそこには大物のヘラクロスが生息している。
としあきは大物のヘラクロスを見て腰を抜かす鬼担任の姿を想像し、笑った。

林の中は意外と涼しい。木の葉や枝が日の光りをさえぎっているのだ。
だが、涼しいとは言ってもうっそうと生い茂る草木は邪魔な事この上ない。
としあきは腰のモンスターボールへと手をやった。
「出て来いロコン!」
ぼむ、と音を立てて出てくるロコン。としあきは前方の草木を指差した。
「ロコン、火の粉!」
ロコンの口から、小さい火の粉が飛び出す。ちりちりとした火の粉は、前方の草木に降りかかる。
前方の草木が動いた。火のついた頭に驚き、慌てて飛び出すナゾノクサ。根っこに飛び散った火を消そうと必死になっているマダツボミ。
うごうごと、草木が徐々にとしあきの前から消えていく。
「はははは、流石炎タイプ!」
笑いながら、としあきはどんどん奥へと進んでいった。焦げた匂いが後に残った。


穴場へ向かうまでに、としあきは何度もロコンに火の粉を吐かせた。
その都度、周囲の草ポケモンは慌てて逃げていく。
としあきは数回、逃げようとする草ポケモンを捕まえて焼いた。好奇心からだ。
ナゾノクサは焼くと壮絶な匂いがしたが、マダツボミは面白い具合に焼ける。
ぱちぱちと音を立てて、マダツボミの頭の溶液が焼けるのだ。そのうち、必死にぱたぱた動いていた手もとまる。
くたん、と折れてしまったマダツボミはそのうち頭から焼けてしまう。
簡単にポケモンを殺してしまえる。としあきは面白くなった。

どんどん奥へ進んでいくにつれ、焦げたポケモンの死骸も多くなっていく。
マダツボミなどを倒した事により、ロコンのレベルもいくらか上がっている。
これなら、ヘラクロスだって大丈夫だ。としあきは、穴場へと通じる短い洞窟を通り抜けた。
 目先に広がるのは、今さっき通ってきた林の木よりも数段大きい木が生えている、森に近い。
心地よい緑の香りが肺の中に入ってくる。家でクーラーに当たっているとしあきには新鮮だ。
「これがマイナスイオンか!」
としあきは叫んだ。と、ロコンがほえた。
後ろを振り返ると、としあきとロコンの目の前に、ヘラクロスが立っていた。
どうやら、としあきの声に驚いて木から落ちてきたらしい。至極、怒っているように見える。
目的の大きさではなかったが、としあきは満足そうに笑った。
「うんうん、俺って運がいいよなー」
けらけらと笑いつつ、ヘラクロスと間合いを取る。ヘラクロスが、動いた。
「ロコン、かわして炎の渦!!」
ヘラクロスのとっしんを横へとかわし、ロコンは口を開けた。灼熱の炎が、ヘラクロスへと襲い掛かる。
ごぉおおお、と音を立てて燃え盛る炎。ヘラクロスは慌てて火から逃れようとするが、動けない。
だんだんと、ヘラクロスの体が黒く変色していく。時折、ぱち、と音を立てる。
としあきは黙ってその様を見ていた。
捕まえるにはもう充分な程に体力は減らした。が、何故かとめる気になれなかった。
もっと、見てみたくなったのだ。ヘラクロスが焼けたらどうなるのか。
以前見た、虫を食べるテレビのように焦げて死んでしまうだけなのか。好奇心に、かられた。


何分経ったか解らない。ただ物凄く暑いのだけは解る。熱い。
はっと、我に帰ってとしあきはロコンに技をやめるように声をかけた。
炎の筋がぷつっ、と切れる。だが、ヘラクロスに燃え移った火は尚も燃え続けている。
としあきはヘラクロスへと近づき、その体を足で軽くつついてみた。
まるで、何かのもろい皮のように、背中の皮がぽろぽろと崩れた。
「…マジで?」
死んでしまった、ようだ。目玉からは、しゅーと言う音がする。ご丁寧に、煙まで上がっている。
生き物の焼ける匂い、ナゾノクサやマダツボミとはまた違う匂いがとしあきの鼻孔をつく。
としあきは足でヘラクロスをひっくり返し、仰向けにさせた。こらえる、の状態のまま焼け死んでしまったのか手足がおかしな姿勢で固まっている。
軽く蹴ると、すぐにぽきんと折れた。としあきは笑った。
「はははは!なんだよ、ヘラクロスって言うからもうちょっと骨があると思ってたのに。」
笑いつつ、としあきはとりあえず角でも持って帰ろうと考えた。
角はしっかりと焼けなかったおかげでまだ形が残っている、これを提出すればいい。
あの鬼担任はこういうものに目がないと聞いた事がある。
「これで俺の通信簿もオール5!!」
早速、ヘラクロスの角をへし折ろうと手を伸ばした瞬間、ロコンがまたほえた。
びくっ、と肩を振るわせるとしあき。
「…え?」

背後には、何匹ものヘラクロスが。としあきが一匹に夢中になっているうちに、取り囲まれたのだ。
ロコンが威嚇しているが、流石に数が多い。無理だ。としあきの頬を冷や汗が伝う。
「…、マジ?」
ヘラクロスたちがとっしんしてきたところで、としあきの視界は暗転した。

――


その日の夕刊の一面。
『少年、昆虫採集のつもりが逆に採集された!?』
「この事件は今日昼過ぎ頃、林を散歩していた老人が、木にかかった不思議な生き物を見つけたと警察に通報がありました。
駆けつけた警察によると、木にかかっていたのは人間の少年とポケモンの死体で、まるで貼り付けにされるように木にかかっていたとの事。
事件の真相は明らかではないが、道端に幾つものポケモンの焼死体があった為、警察ではこの貼り付けにされていた少年が殺したものと考えている。
専門家の話によると…」

――
最終更新:2021年05月25日 12:16
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