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 世の中は、様々なもので成り立っている。
 それは政府と言った政治機構であったり、貨幣経済であったり。本当に様々なもので出来ている。
 そしてまた、人との絆や縁、そんなものも世の中では重要な働きをしているのだろう。でもそれは、とっても気づきにくい事で、でもひょっとしたら何よりも重要な事なのかも知れなくて、でもやっぱり、なかなか気づけなくて。
 もし気づけたなら。
 その先には、どんな世界が広がってるのだろうか。
 貴方は、興味がありませんか?




Bonds unite them~絆が彼らを繋いでいる~





AM9:31
 某駅前。
「遅いな・・・・」
 そうボソっと呟いたのは年の頃にして16か7くらいの男。何かを探すように眼が人の波を見ながらキョロキョロと動いていた。それでも見つからなかったのか、ふと視線を遠くにやったその先に、彼が求める人物のうちの1人を見つけた。
「皆本!」
 そう声を上げて、軽く手を振る。そうすると振った相手――どこか怜悧な感じのする少女、皆本環菜も手を振り返し、小走りで彼の元へとやってきた。
「渡会君!悪いわね、遅くなっちゃったわ」
 彼――渡会八雲はそれには首を振った。何しろ6人で集合の予定のこの場に、今来た環菜を含めて2人しかいないのだから。ちなみに集合予定時間から31分過ぎている。
「あれ…?他の4人はどうしたの?」
「来てない。どうしたんだか…」
 そう言って軽く溜息を吐き出す。環菜も遅れたのだ。時間通りに来たのは八雲だけなのである。そりゃまあ、溜息もつきたくなるってモンだ。
「…ねえ、あれって…?」
 言った彼女の指す指の先、そこには猛ダッシュする人の姿が1人。此方が見ている事に気づいたのか、ごーめーんー、などと言いながら周りの注目を集めて走ってくる。・・・よく見ると、走る人物の片手には、何か大きなものが掴まれていた―否、物ではない。人だ。どうやらこちらが注目の理由のようだ。そりゃそうだ、小柄な女の子が自分より大きい男を引きずっているのだから。
 そんな彼女に軽く苦笑し、環菜は軽く手を振る。それにならい、八雲も手を振った。それに気づき、走る人影も手を振り返す。
 まだまだあると思っていた間はみるみると縮んですぐにつまり、あっという間に八雲と環菜の元に到着した。人を半ば引きずっているのに早い。
「ごめん、遅れちゃった!」
 中村陽菜。それが少女の名前だ。
 そう言って勢い良く手を合わせるのは、活発そうな、ボーイッシュな雰囲気の女の子。髪も短く切っていた。服装も、動きやすそうなズボンに、上着を重ねただけの見たからに活動的な感じのするファッション。もっとも彼女自身、イメージに違わず活発な少女であるが。
「大丈夫よ、中村さん。貴女たちが3番目だから」
 そう言われて陽菜は初めて周りを見回す。そして軽く首を傾げた。
「あれ、まだなの?加賀美に夏姫」
「ああ、まだ来てない。メールでもしてみるか・・・」
 その瞬間、ようやっと息を吹き返した者が1人。陽菜に引きずられていた彼。まだ息も絶え絶えだったが、なんとか文句を言う程度には回復した。
「はっ…陽菜!いったい何するのさ!?待ち合わせ場所に遅れて来たと思ったらいきなり引きずって!」
「遅れたんだから暢気に挨拶なんかしてるより一刻も早く待ち合わせ場所に行くべきでしょ!それを泰祐がノロノロしてるから!まどろっこしかったの!」
 そう言われ、どこか諦めた表情で溜息をついた、陽菜に引きずられてきた彼。名前を山里泰祐と言う。表情は疲れきっていた。いや寧ろ病人。
「もぉ…勘弁してよ…休日の朝から激しい運動させないでってば…」
 そう言うとへなへなと地面に崩れ落ちる。倒れたわけではなくしゃがんでるだけだが。肩で息をしている。
「山里、大丈夫か?」
 流石に気の毒に思い、八雲が声を掛ける。すると泰祐はそれには首を振って答えた。しかも横に。よく見れば顔も少し蒼かった。いや、凄く蒼い。
「お、おい中村。お前山里に何したんだよ……」
 その声に振り向いた陽菜の顔には、純粋な疑問符が浮かんでいた。どうやら彼女としては何か特別な事をしたつもりは毛頭ないらしい。
「え、何って?急いで引っ張ってきただけだけど?」
「いや引っ張ってきただけでこうにはならないだろ……」
 そう言って八雲はすっと泰祐を指差す。すると、そこには何やら蒼い物体、いや人体が一つ。
「…泰祐?ちょ、ちょっと大丈夫?ね、ねぇ!?」
 余りの顔色酷さに流石に陽菜も少し慌てた。思わず泰祐の肩を掴み大きくゆする。しかしそれでも反応がない。段々揺れが早くなり、人を心配してやってんじゃないだろそれ、という速度になってようやく泰祐が反応を示した。
「…ちょ…や、やめ…陽菜…」
 呻き声と共に情けなく言葉を搾り出す。相変わらず顔は真っ青。それを見て、陽菜もようやくゆするのをやめた。余りに激しかったせいか手を離されても泰祐の頭がグラグラと揺れていた。
「どうしたの、山里君?体調悪い?」
 環菜も心配になったのか、泰祐の顔を覗き込む。泰祐はしかし、それには首を振った。どうやら風邪を引いたというわけでもないらしい。
「よ…酔った…は、陽菜に…」
 その言葉を聞き、八雲と環菜は陽菜を振り向く。そこには汗が伝いながらもそっぽを向いて無関係を装っている女の子が一人。
「中村…お前なぁ…引きずってきた相手が乗り物酔いって…一体何したんだよ…」
「い、いや、本当に引きずってきただけよ?他には何もしてない…と思う」
 今回ばかりはいかな陽菜でも少し反省しているらしい。というか、あんな小さなからだでよく人、それも男を引っ張ってきたなぁ、と今更ながらに思う八雲と環菜であった。
 陽菜の様子に少し苦笑し、それから環菜は言葉を継いだ。
「…まあ、もう少し山里君は休ませておきましょう。それにまだ夏姫さんと加賀美君が来てないし」
「あ、そっちなら今メールが来た…あー、もう少しでそっちにつくから待っててくれって。冬梧からだ」
 環菜と陽菜、それに死んでいる泰祐もその言葉には頷いた。良く見れば、泰祐の頭はまだグラングランと揺れていた。それを見た八雲は頭を掴んで強引に揺れを止める。その頭から情けなくもありがとう、という声が聞こえたが、あまりに情けなかったために思わず言葉を返せなかった。
 そんな八雲を見てか見ないでか、環菜が話題を変える。
「そうね、じゃあ何をするか少し話し合っておきましょうよ。集まってから決めるって事だったし」
 すぐに手が上がる。少女の性格にピッタリの力いっぱいの上げ方だった。それを環菜は先生よろしく指名する。
「ハイ、じゃあ中村さん」
 指名した刹那。
「先生!バスケがしたいです!」
 思いもよらない言葉が飛び出した。
「へぇ、中村読んでたのか。なんか意外だな」
 それには得意げにVサインを作る陽菜。どうやらわかってもらえた事が嬉しかったらしい。
「そりゃそうよ!バスケやってる人間にとってのバイブル!あの漫画はね!」
 そう言って手を胸の前で合わせると、どこか眼をうっとりとさせる陽菜。その表情は、一言で言うならイッてしまっていた。何がって、精神が異次元へ。これはヤバイ。慌てて話題を変える。
「…まああの漫画は置いておくとして。バスケやりたいのか、中村は」
 その言葉に一瞬にして現実世界に戻ってきた。そして満面の笑みでブンブンと何度も頷く陽菜。さすがバスケ好き。ちょっと可愛いなと思ったのは八雲だけの秘密だ。
「まあ6人でも3on3とか出来るしいいけど。どこか近くに出来るところあるか?」
 皆、それには首をひねる。市民体育館みたいな所に行けばあるかも知れないが、生憎とここからは大分離れていた。近くでそう言う事ができる場所と言えば高校があるが、不法侵入してまでやりたいとは思わない…陽菜はどうだか分からないが。
「無い…わね?うーん、中村さん、どうする?」
 一瞬悔しそうな顔を見せ、うぅ…と唸りながら言葉を発する。
「ううぅ…仕方ないもの。今回は諦めるわ…で、でもっ!今度ね!?今度やろう!?」
「わかったわかった。今度な?」
 苦笑しつつ、八雲は宥める。陽菜の様子があまりに必死だったのだ。そんなにバスケが好きなのか、と考えを改める。今度集まる時はバスケにしようと八雲はしっかりと頭に刻んだ。
「それじゃあ、どうするかな…っと、あれ加賀美と冬梧と違うか?」
 そう言い八雲が指した方向には、確かに仲良く手を繋いで歩く姉弟の姿。巨n…胸の大きな、そこらの女子よりは可愛いと殆ど人が認めるであろう女の子―実際、周りの視線を集めていた―に、なんと言えばいいのか…所謂「ヘタレ」を具現化したかのような男の子。可愛いという人もいるだろうが。
「あ、手繋いでるわ。あれは間違いないわね」
「そうね。あれは加賀美君に夏姫さんね、間違いようもないわ」
 なんだか微妙に失礼な判別をしている気がしないでもないが、実際八雲も気が付いたのはそれがきっかけなので口には出さないでおいた。
「夏姫ー!加賀美ー!こっちこっち!」
 陽菜が手をふる。体から元気さが染み出しているような振り方。それを見て、八雲と環菜も手をふる。それに気が付いたのか、手を解いて走り出す…冬梧がコケた。
 それに気が付いた夏姫が慌てて駆け戻り、何か必死に、見ようによっては余計な程に声をかけて、これは誰もが聞かないでも確信したことだが、「しょうがないわね」と言って手をさしだし、立ち上がらせた。そしてまた、こちらへ走り出す。
「ごめんね!遅れたわ!」
「本当にごめんね…僕がちょっと寝坊しちゃって」
 そう言い小さく頭を下げる冬梧。何やら本当に申し訳なさそうな声色だった。
「気にすんな。俺以外全員遅刻してきたから」
 八雲がわずかに棘を含ませたその言葉に、その場にいた二人の女子は顔を背ける。認めないつもりらしい。
「あ、そうなの?でも本当にごめんね、僕のせいで…」
「そうよ、全くしっかりしないとダメじゃない、男なんだから!」
 そんなツンケンした事を言いながらも、表情はとても優しい。そう言う少女なのだ、夏姫は。昔はもう少し違った、などという話も冬梧から聞いた気もするが、今のこの雰囲気からはとても想像できなかった。
「ま、揃ったんだしいいわ!どこ行く?夏姫はなんかいい意見ない?」
 かなりフランクに呼び捨てする陽菜。しかしそれでも嫌な感じがしないのは彼女の人徳だろうか…人徳は適切ではないかもしれないが。
「そうね…この人数だし…ボーリングでチーム戦、ってのはどう?」
 おお、と全員がどよめく。
「それ、いいんじゃないかしら。私は賛成よ」
 環菜が言えば、
「うん、私も。体使うならなんでもいい!」
 元気いっぱいの返事。
「体力持つか心配だけど…チーム戦なら大丈夫かな」
 そんなちょっと情けない言葉の後に。
「俺も賛成。それじゃ決定でいいか?」
 そして、全員が頷く。それを見て、夏姫がパン、と手を打った。そして彼女が掛け声をかける。妙に
「よし、それじゃ行きましょう!Let’s Go!」
 オー!と全員-1の声が響く。そして、意気揚々と全員でボーリング場へと向かって歩いて行った。全員が全員、昔から知っていたわけではないのに、それでも皆仲良く話す。日差しの下をさも皆幼馴染であるかのように。
 そしてしばらく歩いたころ。冬梧がポツリと言った。
「……あれ…?泰祐さんは?」
 全員の表情と言葉が仲良く同時に一瞬停止して。
「あ。」
 綺麗に重なった。芸術的に。






 目的のボーリング場。全員でついたロビーでは、泰祐が非常に憤慨していた。もはや半泣き。いや四分の三泣き?
「非道いじゃないかぁあぁぁぁ!人が気持ち悪くてぼーっとしてる間に置いていくなんてさぁ!」
 そう言われ、陽菜は目線をさまよわせ、皆は曖昧に笑うのみ。そんな全員、特に陽菜を軽く泰祐はねめつけ、しかし諦めたように溜息を吐く。
「…まあ、陽菜の無茶はいつものことだからいいけど。ボーリングも好きだし、結果良しか」
「そうそう、結果良し!それじゃ、早くチーム分けるよ!」
 話題を露骨に逸らす。額からは少し汗が浮かんでいた。そんな様子に夏姫と環菜は苦笑する。
「それじゃあ、どうする?2人組の3グループ対決か?」
 ボーリングは10回投げる。人数は10の約数の方がいいのだ。それには、全員異論なく頷いた。しかし、頷きながらも冷や汗が流れる奴がいた。
 まあ当然、冬梧なワケで。冬梧が夏姫以外の女と組んだらどうなる事やら…ボウリングボールで殴りかかるとかやりかねない…!
 などと思い、恐れ慄いていた。どうしよう、どうしよう!このままでは姉さんが殺人者になってしまう…!ど、どうにか中村さん、や皆本さんと組むのは回避しないと…!
 と思っていたところに、かなり意外な救いの手が冬梧を掴む。
「それじゃ、冬梧、俺と組まないか?」
 八雲が声をかけてきてくれた。何やら軽く目くばせのようなものもよこしていた。どうやら彼の事情を理解してくれているらしい。
「あ、うん、じゃあ、八雲さん、お願いします!」
 ガシっ、と二人で手を打ち合わせる。その横で、夏姫が舌打ちした事に冬梧の背筋には冷や汗アンド震えが走ったが、相手が八雲であったことで見逃してくれたらしい。
 ほっと吐いた息を見てか、八雲が耳打ちする。
「女子とは組みたくないんだろ?よかったかこれで?」
「あ、はい。ホント有難うございます! 姉さんを殺人者にしなくてすんでよかった…
 ボソッと呟いた声は八雲には届かなかった。冬梧としては、まあ、それでよかったと思う。……事にする。
「私は泰祐以外と組みたいかな。いつもとは違うカンジでやってみたいわ…飽きるし」
 そう言って2人を見る。その脇では飽きる、という言葉に泰祐がショックを受けて半分死んでいた。本日二回目。今日は散々である。
「よし、じゃあ陽菜、私と組みましょう!」
 そう言って元気に手を挙げたのは夏姫。こうして陽菜と夏姫が並ぶと、同学年には見えない。顔つきとか、性格とか、身長とか…胸とか、胸とか、胸とか…以下自粛。
「OK、夏姫!頑張りましょ!狙うなら優勝よッ!!」
「応ッ!」
 頼もしい二人組。なんと二人の周りには気合いのオーラが噴き出していた。こう、なんだか…グァアアアァ!っと、ゴアァァアアアァ!っとなんだかこう、純粋な闘気の現れ…そう、竜闘気を纏ったダ○とでも言えばいいのか、もしくは魔炎気纏ったハ○ラーと言うのか。とにかくそういう雰囲気なのだ。
 そんな2人を少し引いたような視線で眺め、環菜は己のパートナーへ声をかける。
「それじゃ、私と山里君ね。宜しくおねがいするわ」
「あ、うん。よろしく」



     八雲&冬梧 VS 陽菜&夏姫 VS 環菜&泰祐……戦闘開始ッ!!!!



 第一投目は、冬梧。重さは8ポンド。因みに八雲が12、環菜が9、夏姫が10、泰祐が11、陽菜が9。一番軽い。散々夏姫に言われていたが、その時の夏姫はやっぱり目が優しかった。余程弟が大事なんだなぁと、他の全員は思った。
 精神統一して、地面に立つ。
「よし、それっ…!」
 タイミングを計り、トン、トトトン!
 タイミングはよかった。……よかったのだが。


 ボールを離す瞬間、指が引っ掛かってしまった。


「あれ…?」
 予想より上の位置ですっぽ抜けたボールは大きな音を立て、そして転がってゆく。


 ゴロゴロ、ゴトン


 周りに気まずい沈黙が流れる。五人から、そして周りで少しこちら(の女子の事)を見ていた他の客からも、果ては(やっぱり女子を見ていた)係員からも。1ゲーム目の一投目。そりゃあ気まずくもなる。
「な、ナイスガーター!」
 その空気に耐えられなかったのか、八雲が余計なことを言う。さらに冬梧が落ち込んでしまった。夏姫のガンつけが飛ぶが、それだけで今は辛うじておさえる。ここが3人の場で、公共の場でなかったらまず間違えなく撲殺の刑であっただろう。八雲は感謝したほうがいい、大人数で遊びにきてた事を。そして休日故に人がたくさんいたことに…!そして祈ったほうがいい。帰りに闇討ちに会わない事を…!
「が、頑張って、加賀美君!もう一回投げられるわよ!」
 珍しく環菜が明るくふるまっていた。どうやら相当に冬梧が哀れに見えたらしい。そんな言葉も届かず、冬梧は何事かブツブツとつぶやいていた。皆が耳を澄ます。そうして聞こえてきたのは。
「はぁぁ…やっぱり僕は何やってもダメなんだ…ヘタレなんだ…いっつも姉さんに助けてもらってるし…姉さんがいないと何にもできないヘタレ人「黙れっ!」グフッ!?…な、なにするの姉さん!?」
 鉄拳、もとい鉄チョップが冬梧の頭に炸裂する。
 ひいっ、と見ていた全員が息を飲んだ。なんと陽菜も。彼女が息をのむとは…すさまじい勢いだ。
「アンタはねぇ、いつもそうだからダメなのよ!わかる!?男ならもっとシャキッとしなさい!いい!?もっと自分に自信を持つ!マイナスに考えない!!わかった!?」
 冬梧の背筋がピッと伸びる。なんだかそれはそう、所謂条件反射というやつに他の人間には見えた。
 いやまあ、実際そうだし。
「ハイっ!」
 それに満足したのか夏姫は一つ頷いて、そしてポツリと呟く。その眼は伏せられていて聞き取りにくかったが、隣にいた環菜だけははっきりと聞き取れた。
「ダメなんかじゃないわよ…いつもいつも一緒にいてくれて、それだけでわたしは…」
 聞こえなかった人間も、その時はいいことを、優しい事を言ったんだろう、という事は分った。そういう顔を、夏姫がしていたから。彼女も、意外と顔に出やすいのかもしれない。多分、彼女は否定するだろうが。
「よし、じゃあ冬梧、もう一投いけ!」
「あ、はい!」
 夏姫の(過激すぎる)応援(と呼ぶにも怪しい行為)によって立ち直ったのか、冬梧は八雲のその声に鋭く返事を返した。そして再び集中する。
 その集中が終わったのか、冬梧は先ほどとは違い、静かに歩を進める。その様は、どこかいつもの冬梧にそぐわず堂々としていて……あれ、髪が白く……?
 今度は完璧も完璧超完璧。絶妙なまでのタイミングでボールが指から離れ、先ほどのミスとは比べ物にならない速度、正確さで先頭のピンへとボールが奔る。そして。


「「「「「おお~!!!!」」」」」


 今度は見ていた全員から歓声と拍手が沸き起こる。それは確かに拍手に値する一投であった。正確な軌道、そして速度。当然結果は10ピン。一回目で失敗しているので残念ながらスコアとしてはスペアではあったが。
「え、あいや、その、ぐ、偶然ですから…!」
 周りの歓声にすこし慄き緊張しながら、そんな事を言う冬梧。髪は黒のままで、あれは見ていた人間の勘違いであったのだろうか。何分、一瞬の事なのでよくわからなかったのではあるが。まあ目の錯覚なのだろうなと、全員がそれを口にはしなかった。
「いや、偶然でも凄いよ!やるねー冬梧」
 と泰祐。
「これは意外な伏兵ね。私と夏姫の優勝が危うくなってしまう…」
 陽菜が続け、
「ナイス冬梧!俺達が一歩先んじたな」
 八雲が喜びのガッツポーズを作る。
「すごいわ、加賀美君。なかなか上手いのね」
 環菜は感嘆の声を上げ、
「よくやったわ!冬梧!!さすが私の弟!それでこそよ!!」
 夏姫が歓喜の叫びを上げる。顔はどこか狂気染みていたりしたが、そこは敢えてだれも突っ込まない。
「よっし、じゃあ次は私!」
 そう言って立ち上がったのは小柄な少女、今の世に具現化した勇者、もしくは魔王、陽菜。彼女は再び竜闘気か魔炎気を纏っていた。漫画ならば効果音がついている所だろう。口の端には、不敵な笑みが刻まれる。
「ふふふふ、事体を動かす事にかけては私が負けるはずなんてない…いや負けてはいけないの…ふふふふふふふふ!」
 風圧を伴って発せられた圧倒的な瘴気に、周りの人間は少し引く。しかしその中で夏姫だけが同じ瘴気、またあるいは別の狂気を纏っていた。そしてその異様な人間は目をぎらつかせていた。その様は地獄の閻魔か修羅か羅刹か。とにかくその人ならざるものと化した夏姫の口が言葉を発する。
「陽菜、やぁーっておしまいっ!」
 女王様のようだ!と周りがざわめく。そして陽菜はその言葉に。
「アラホラサッサー!」
 そう言い片手で敬礼をしてから球を豪速で投げた。
 ヤッ○ーマンかよ!と冬梧以外が突っ込んだのはお約束。
「…なんか中村さんのイメージが音を立てて崩れていくなぁ…」
 そうボソリと呟く、唯1人冷静な冬梧であった。






 その後はもう、大混戦。
 夏姫が素でなのか、かわざとなのか、八雲に玉をぶつけて彼は苦悶の叫び声を上げさせるわ、環菜が投げようとした球が一回ガーターに落ちたのに戻ってくるというミラクルを達成するわ。そして泰祐はあの後何回も心無い天使、もとい陽菜に殺されていた。言葉を使って、鋭利に無残に残酷に、冷酷無比に正確に。
 いつの間にか観客が彼らの回りに固定化し、最早このボーリング場でボーリングをしているのは彼ら6人以外にいなかった。凄まじい盛り上がりよう。異常な空気。そのお陰で、途中から入った客は全てその空気を恐れて出て行く始末。しかも何時の間にか観客は環菜派、夏姫派、陽菜派に分かれていた。しかも誰が一番可愛いかで論争が始まるし。最も、女三人は満更でもないようであったが。
 最初は男に対してもそんな派閥があったが、冬梧への黄色い声援が上がる度に誰とは言わないが1人が暴れだすためにいつの間にか女性集団の一部(冬梧派とも言う)は居なくなっていた。
 どこに行ったかって?それは夏姫のみぞ知る…。






 そして時は夜。
 6人は駅までの帰り道を歩いていた。一体何時間やっていたのか。それは突っ込んではいけない。世の中には知らなくていい事というのもあるのだ。これは正にそれだ。
「いやー、久しぶりに今日はめいいっぱい体を動かしたわー!爽っ快!」
 伸びをしながら陽菜が言う。彼女は少し寒そうなノースリーブであったが、運動と異常な熱気でほてった彼女の体には丁度いい。ほのかに肌と頬が色づいて、いつもの彼女よりもいくらか女ぽかった。まあ勿論、それは環菜と夏姫にしても同様だが。
「本当に。しかもなんかお金は観客が持ってくれたしな!」
 そうなのだ。
 今日はいいものを見せてもらっただのなんだのと騒ぎながら、何故か観客の一部が代金(恐らくは凄まじい値段)を負担してくれたのだ。これはラッキーだった。
「一日殆ど無料で遊んだようなものだものね。でも楽しかったわー」
「私と陽菜は惜しくも優勝を逃す、か…チッ、悔しいわね」
 今回の優勝は環菜と泰祐ペアだった。最も、戦半ばで泰祐が死んだ(精神的な意味で)のでほぼ環菜の功績ではあるが。アンタはプロボウラーか!?と言うようなコントロール。
「今回は私の勝ちね。ああ、一位って気持ちイイ…!」
 環菜の目がなんだか潤んでいた。彼女にしてはなんだか珍しい表情。それほど一位が嬉しかったようだ。
「まあ何にしても楽しかった。またやろうな…っと、今度はバスケだったか?」
「ふふふ!そうよ!バスケ!!今度こそ私は負けないッ…!」
 そう言って目に闘志を宿らせる陽菜。こんな様子だとバスケがいつの間にかドッジになりそうだ。恐すぎる。
 そんな事を言い合いながら、5人は駅への道を歩く。全員が全員、昔から知っていたわけではないのに、それでも皆仲良く話す。星と月明かりの下をさも皆幼馴染であるかのように。
 そしてしばらく歩いたころ。冬梧がポツリと言った。
「……あれ…?泰祐さんは?」
 全員の表情と言葉が仲良く同時に一瞬停止して。
「あ。」
 綺麗に重なった。芸術的に






 ある日常の、ほんの僅かな一ページ。
 でもそれをとって見てみただけでも、そこには人と人の“絆”が詰まっていた。友情と言う名の絆、姉弟と言う名の絆。仲間と言う名の、絆。
 その絆こそが何の変哲のない日常の一ページを盛り上げた。楽しく可笑しく、愉快に痛快に。
 そう、これが絆の持つ力。
 日々と言う変哲のないものに変化を与えうる力。それはプラスだけでなくマイナスも然り。
 しかし、しかしそれでも人は絆を結ぶことをやめられない。


 なぜなら人が生きているから。
 人は人と関わるから。
 そして人生を、退屈に過ごしたくないから。
 だからこそ、絆を人は大切にするのではないだろうか。たとえそれが負の側面を孕むのだとしても。


 きっとそうだと、信じたい。
 人は、人の間で生きるのだから。
 心は、絆は、人との間に生まれるから。





【了】









後書き。


 プレ・ジャム!-絆-、私の作品はこれにて了にございます。
 ここまでお付き合い下さった皆々様、ありがとうございました。


 さて、恐らく私のものは他の方々に比べて短い事でしょう。これは私事態が口下手(筆下手?)な為です。申し訳有りません。しかし、書きたい事は濃縮して詰め込んだつもりです。


 今回のこの話、絆というものを書くにあたり、まず必要に思ったのは「日常」。
 デジモンにしろなんにしろ、「日常」の話があるからこそ「非日常」が生きる。私はそう思うのです。デジモンと言う存在がある以上、それはあくまで「非日常」。恐らく他の方々がそれを私がそれをやるより余程面白く書いて下さる事と思います。
 故に、今回私はデジモンを一切登場させないで「日常」を描く事に徹底しました。それが成功しているといいなぁ、と思います…ど、どうですかね?(汗
 キャラ崩壊に、ネタのオンパレード。私が普段しない手法を多様(又は濫用)した為、読みにくい箇所、わかりにくい箇所もあったのではないと思います。しかし、今の私の実力全てをつぎ込んだつもりでおります。すこしでも楽しんでいただけたのなら、幸いに思います。


 さてさて、話す事も尽きて参りました。この辺でお暇させていただくとしましょう。
 他の方々の作品を読まれたみなさん、いかがでしたか?
 そして私のを最初に読んで下さった奇特な方。他の方々の作品も是非お読みください、きっときっと、とても素晴らしい物語が貴方を待っています。


 では、この辺で。次は本番のお題で、お会いしましょう。湯浅桐華でしたー。


最終更新:2009年08月26日 13:35