婚儀は、滞りなく進んだ。中華の国たるこの国が、異国の姫を迎え入れる式典は、国の威信を示すように盛大に執り行われた。花嫁の真紅の衣装に身を包んで豪奢に着飾ったメイファも、それはそれは綺麗だったけれど、大勢に囲まれた中で喋りもせずじっと座っているだけというのは退屈だった。まあ、メイファと約束したから、じっと大人しくはしておいたけれど。 * * *「──困ります、あの、まだ姫様は支度がお済みではございません!」その侍女は、必死に僕を押し留めた。いや、押し留めようとした。しかし、異国から着たばかりとはいえ、シン国の皇族の身体に下級の身分の者が触れることは許されていない、という程度の知識は、持ち合わせているようだった。強引に歩を進めると、彼女は道を空けざるを得ず、かわりに房室の中に居た他の侍女たちもわらわらと寄って来て、こぞって僕の非常識を非難し始めた。「わあ、新鮮な反応。まるで六年半前、この国に来たばかりのメイファみたいだ。懐かしいねえ。」婚儀が終わってすぐに、僕はメイファを訪ねた。男の方は着替えも支度も大して時間はかからないのに、女の支度というのは、特に花嫁にもなると異常に時間がかかる。その間ぼんやり待っているのも退屈だし、ましてや客の相手なんか真っ平ごめんだ。せめてメイファとお喋りくらいは許して欲しいものだ。退屈で長くて疲れる儀式の間はずっと我慢していたのだから。僕が喧騒をのんびり楽しんでいると、房室の奥から凛とした声が響き渡った。「やめなさい! その人はそれで普通なのだ。今更何か言った程度でどうにかなるなら、とっくに素行は直っているだろう。」彼女は鏡に向かって、髪をほどいている最中らしかった。金糸で刺繍を施された上着と二重の上帯はもうはずされていて、内側に着ていた吉祥色である鮮烈な真紅色の、無地の絹製の襦裙のみを纏っている。複雑な髪型を結っていた髪は半分くらいが解かれ、残りの細かな三つ編みが、ふわふわに揺れる解いた髪の中にいく筋も残っていた。彼女は鏡の前から立ち上がり、背筋をぴんと伸ばしてこちらを真っ直ぐに見据えていた。主人のはっきりとした言葉に、侍女たちも一斉に押し黙る。「メイファ。逢いたかった。」「何が『逢いたかった』だっっ!! 今日は朝からずっと、顔をつき合わせておっただろう?!」「ずうっと澄ました顔でじっとしてなきゃならないなんて、やっぱつまんないよねえ?でも我慢したよ、メイファのために。ところで君が連れてきた侍女さんたちは、『こちらの事情』にはあまり精通してないみたいだねえ?反応が初々しくて、面白いよ。」メイファはくっと息を詰まらせた。「それは…っ、本人の居ないところで悪い評判を話すのもどうかと思って、躊躇っておったのだ。」「うんうん。メイファは陰口叩くのって、嫌いだもんね? 偉いなあ」僕はにっこり笑って同意する。「黙れっ! 私も少しは説明しておくべきだったと、反省しているところだ…馬鹿にするなっ!」「やだなあ。苦労して迎えたばかりの妻を、どうして馬鹿になんて」「その細目っっ!! 細目のにやにや笑いが、馬鹿にしているっ!! 絶対、馬鹿にしているっっ!!」「世の中には『絶対』なんて、本当は滅多に無いんだよ?」「詭弁を弄するな──────ッッ!!大体、こんなところで何をしている?! 着替えが早く終わるとは言っても、シン国の第三皇子たるおまえに目通りを望む客人ならいくらでも…。」
「放って来た。いちいち顔見なくても、名簿に名前書かしときゃいいよ。おっさん達の顔ばっか見てもつまんないし。メイファと話してた方がずっと楽しい。」「つまるとかつまらんとかの問題ではないっっ!! 真面目にやれっっ!!」「メイファ、婚儀を終えたばかりの美しい主人の剣幕を前にして、君の祖国から長旅をして付いてきた健気な侍女たちが動揺しているよ?」言われてメイファは、はっと後ろに目をやる。解きかけの髪のまま言い合いを始めた主人を、侍女たちはおろおろと見守っていた。「すまない…おまえ達。大国の第三皇子ともなればさぞや素晴らしい方なのだろうと夢を膨らませているので…ちょっと言いづらかったのだ。その…色々と問題行動が多めだとか…。別に悪い奴じゃないし…。」「夢見るって、大切だよね? 皆の夢を壊さないようにしてあげて、メイファは優しいなあ。君達のご主人様の事は大切にするし、この国が提示した条件も本物だから、安心していいよ。」「黙れ元凶。体良く放蕩者の皇子のお目付け役を押し付けられたようなものだと気づいていたら、もっと条件をふっかけておくのだった。」「ふふ…。言い得て妙だね。メイファは色恋には鈍いけど、頭はいいんだよね。頼りになるなあ。」「この…っ、変人! 嘘吐き!! 恥知らずっ!!」「人聞き悪いねえ。何をそんなに拗ねているのかな? この可愛い花嫁さんは。」怒りと羞恥に震え始めた彼女を眺めながら、僕はとぼけた振りをする。メイファは紅く塗られた唇をきりっと噛んだ。「おのれ、白々しいことを…。──おまえ達、もういいから下がれ。わたしは、レンに話がある。」周囲の侍女たちにざわり、と動揺が走った。「でも姫様、御髪(おぐし)もまだお済みではありませんし、このあと湯浴みとお召し替えが…。」「ひとこと言ってやらないと、新床の準備などできんっ!幸い、レンが放ったらかしにしてきた客人達以外は、今日は公のことは終わりだ。シン国の皇族の皆様方も、今日はこのレンが婚儀の間中大人しくしていただけで、心底驚いているだろうよ。身内の事で多少予定がずれても、他でもないレンの事だ、今更何か言われることもあるまい。わたしでも、一通りのことは出来るから、わたしが呼ぶまで席をはずしてくれないか。──お願いだ。」付き従ってきた主人に真剣に懇願されれば、侍女たちもそうそう否とは言えないようだった。戸惑いながらも、しずしずと出て行く。最後の一人が房室を後にして、僕とメイファは二人きりで向かい合った。「良かったの? 侍女の皆さん、下がらせちゃって。」「良かったも何も、おまえが大人しくしていればこんなことには…っ。」「でもメイファのほうも、これを侍女に見られるのは、嫌だったんじゃないの? ちょうどいいから、このまま湯浴みまで、自分でする気だよね?」ここは花嫁のために特別に用意された控えの間なので、隣室に湯浴みの準備が既にしてあるのだ。紅い襦裙の合わせ襟に指先を掛けて、ついと左右に緩める。柔らかなふくらみの白い谷間があらわになって、そこに残されたいくつもの紅い花弁のような跡が見え隠れした。昨晩、僕がつけたものだ。「これはっ…おまえがっ…! 何度も、嫌だって言ったのに…っ」「そうだっけ? まあ、あんな声で言われても、ちょっと拒否には取れないよね。」「なんなのだ声、声って…。あんなもの、どこかから勝手に出てしまうのだ。わたしのせいではない。」メイファの国では、貞節と節制が美徳で、シン国に留学中も、そういった方面の噂話はせずに育ってしまったらしい。嬌声を上げるのが演技でもなんでもなく、抑えようもなく自然に出てしまうのだと告白してしまうことが、どれほど男を興奮させるのか、彼女は気づいていない。細い腰に腕を廻して抱き寄せ、少し開いた襟元に指を滑らせた。
「…ひゃっ?!」彼女は驚いて身体を震わせる。その様子があまりにも愛らしくて、開いた襟元から首筋にかけて、音を立てるようにして何度も口づけた。「あ…あ…、駄目、まだ、話は終わっていない…っ」たちまちのうちにメイファの声にも甘い吐息が混じりだす。「聞いてる、続けて?」僕は舌で、指で、唇で、存分に胸元と首筋に皮膚の柔らかさを味わいながら言った。「レンの、嘘吐きぃ…っ、狼藉者…っ、わたしは、あんなことまで、許したおぼえはない…っ…」「『あんなこと』って、何かな? 服の下に、愛の跡をいくつも残したこと?それとも、あのあと二回も『した』ことかな?」メイファはさっと顔を赤らめ、さらに泣きそうな声を出す。「あぅ…う…。レンの、ばかぁ…っ。」「どちらも、『嘘吐き』とまでは、言えないな。だって、『これ以上は何もしない』とか、その類のことを約束したわけじゃないしね。約束を取り付けるときは、ちゃんと条件を確認しないといけないよ?」「この、詭弁家…、詐欺師…っ!」「メイファは、騙されやすそうで心配だなあ。シン国の宮廷は、騙しあいで成り立ってるとこあるからねえ。暫くは、ちゃんと見ておいてあげないといけないな。」僕は彼女の、くったりと力を失いつつある身体を抱き上げて、傍にある応接卓の上に腰を下ろさせた。両脇に背もたれつきの椅子が三脚ずつ揃っているが、今は卓上には何も置いていない。「何をするっ?! 卓は、座るものではない!」「高さが丁度いいから。ちょっと、借りようと思って。」「や…っ、離せ…っ…」彼女は抵抗の意思を見せるが、その力はもう弱々しくて、僕は、彼女の上体をゆっくりと卓上に抑えつけた。「昨日は婚儀の前だから、見えないところにしかつけられなかったけど、今日はもういいよね?君が僕のものになった証を、誰の目にも明らかに──」両腕を押さえ込んだまま、柔らかな首筋の皮膚に唇をつけて、思うざま吸いたてる。「や…っ、見えるとこは駄目! みえるとこはだめ!! やぁ、ああぁあぁぁ──────ッッ!!」メイファは僕の下で身体を震わせながら、語尾を高く長く伸ばす悲鳴を上げた。抗議の意図を伝えたいのかもしれないが、何も知らない彼女は、こんな声を上げることがどれだけ男を猛らせるのか、分かっていない。思うに、貞節やら節制やらといった、彼女が大好きな道徳観念も、所詮は男社会の産物だ。かつてはその頑なさに辟易したが、こうして自分のものにしてしまえば、実は男にとって魅惑的な女を育て上げるためのものだったのかと思うほどだ。無垢で、何も知らないがゆえに刺激に対して無防備に鋭敏に反応してしまうメイファは、それほどに蟲惑的だった。勿論、こうしてつけられる印がどんな意味を持つかさえ、彼女は全く知らなかった。それは男女の交わりの最中にしかつかないこと、少し見れば他の跡と区別がつくこと、程度にもよるが数日の間は消えないこと──は、昨晩、彼女の肌を弄っている合間にそっと教えてあげた。明かりを灯してその紅い跡を見せてあげたときの表情の、可愛かったこと──
「…ぁ、はぁ、い、嫌だって、言ったのに…っ。」メイファは潤んだ瞳の端に涙をため、震える声でそう言った。「どうして毎回、嫌だって言っても、聞く耳を持たないのだ?! き、昨日だって…!」「…ああ、でも最後は嫌って言わなかったし、どんどん感じやすくなって…。三回目は、なかでイッたよね? 凄く、可愛かった。」「勝手な事ばかり、言うなっ!! この…嘘吐き! 我儘! えと…色狂いっ!」顔を真っ赤にして、必死になって罵倒の言葉を捜すメイファは、やはりとんでもなく、可愛い。もっと美辞麗句を使えばいいのに、心の中でも言葉でも、出てくるのは『可愛い』ばかりだ。相当、浮かれている。卓上に彼女の身体を押し倒したまま、僕は囁いた。「ねえメイファ。メイファの中に、入りたいな。」「だ、駄目。湯浴みも着替えもまだだし、あの、侍女は待たせているだけだし、支度が」衣越しに、固くいきり立った股間のモノを彼女の秘所のあたりに押し当てる。その固さの意味も、何を望まれているかも、彼女はもう知っている。「じゃあ、僕が脱がしてあげよう。」「そういうことじゃ…ないっ・・・」早速、彼女の裳裾をたくし上げてすらりと伸びた白い脚をあらわにする。膝から太腿の素肌に手を這わせ、その滑らかな感触を愉しんだ。「メイファのなかに、入りたいな。」「…だ、め…」「入りたい」「…や…っ…」単純に繰り返すだけでも、徐々に拒否の勢いが無くなって、か細い声になってくる。楽しい。でも、メイファはちょっと押しに弱いみたいだから、外に出すときはそこも気をつけておいてあげないといけない。太腿から指を滑らせ、繁みの中へと分け入ってゆくと、そこは既にしっとりと濡れていた。「君のここは、欲しがっているみたいだけど?」ひくつく秘唇に、指を差し入れる。昨日から何度も弄り続けた身体はひどく敏感になっていて、刺激に反応して奥から蜜を溢れさせる。それを知っていながら、わざと言ってみる。「昨日、男を知ったばかりなのに、もうこんなにするなんて、メイファは淫乱だね。」「そんな…っ」反論する言葉も持たない哀れなお姫様は、顔をますます赤くして、羞恥に震える事しか出来ない。僕はそっと自分の下帯を解いて下衣をずらし、衣の間から痛いほどにみなぎった陽根を取り出す。「──じゃあ入るね。」彼女の片腿を持ち上げて脚を開かせると、濡れそぼった割れ目にそれを押し当てる。「…え? や、やぁぁああぁあぁっ!!」準備の整っていたそこは難なく僕の一部を飲み込んだ。「……ぁ……っ…だめ、だめぇ…っ…」「──メイファ。暴れないで。」身を捩って逃れようともがく彼女の両手首をふたたび卓上に押さえつけ、抗議の言葉を零そうとする唇を強引に塞いだ。「…ふ…っ、…んんっ…」唇を割って舌を差し入れ、何かを言わんとする舌を絡め取った。そのまま罵倒も嬌声も、全てを奪い取るように激しく吸いたてる。夢中になって貪っていると、やがて組み伏せた身体からも腕からも、徐々に力が抜けていく。かわりに吐息には、甘えるような響きが混じり始めた。力が抜けて柔らかくなった彼女の舌を、あらためてゆっくりと味わう。舌先で優しく舐めあげ、さすり、唾液を絡めて撫でてあげる。それから、濡れた口腔内を丹念に調べるようにして舌で辿った。そうしているうちにも繋がった身体が、狂おしいほどの熱を放ち出す。唇を離すとメイファは、蕩け切った瞳をしていた。
「いい表情になってきたね…どうする? 続ける? やめる?」「あ…、あ…、ひどい、ひどい…!」彼女は蕩けた瞳のまま、泣きそうな声で抗議した。「途中でやめたらどうしようもなくなって、もっと狂うんだって、おまえは、知っていたんだな…。知っていて、昨日も、あんなに…っ」「それはメイファが、意地っ張りだから…。つい、焦らしてあげたくなっちゃうんだよね。でも、可愛くおねだりできたら、ちゃんとしてあげたでしょ?それで、ちゃんと気持ちよくなったでしょ?」「…うう…」「ふふ、ちょっと思い出しただけで、また反応して。そんなに良かった?大丈夫、僕は優しいから、今日はおねだりしなくても、してあげる。」僕は腰をゆっくりと動かし始めた。まだほとんど動いていないにもかかわらず、メイファの締め付けは厳しくて、長い口づけの間にも達してしまいそうだった。それはメイファのほうも同じようで、たちまち弓なりに身体を反らせて切迫した声を上げる。「…あ、あぁ…っ…」「気持ちいいの? メイファ。」彼女はもうすすり泣くような甘い声を漏らすしか出来ないようだった。かわりに僕の背中に両腕を廻し、両脚を絡めてぎゅっとしがみつき、こくこくと頷いて肯定を示す。「…僕もだ。」そのまま少し激しく揺らすと、か細く高い声を放って彼女はあっさりと達した。昨日から幾度目かの交わりで慣れてきた彼女の身体は、僕のそれをびくびくと締め付けて、昨夜幾度か精を放っていなければ、僕のほうも耐え切れずに達していたに違いない。「メイファ、いったね? いくときは、ちゃんと僕に教えなさいって、言ってるだろう?」「あ…、でも、わか、らない…。」彼女はほんの昨日、処女を散らしたばかりで、絶頂だってまだほとんど経験が無い。そんな状態で前もって分かるはずも無いのに、僕はわざと意地悪なことを言いつける。こんな風に、瞳を揺らして僕の言葉に戸惑う様が見たいから。「いけない子だね、メイファ。」いつもだったらキッと見返して反論するはずだけど、慣れない絶頂を迎えたばかりの彼女は、蕩けた瞳を少し伏せて、身体を震わせるだけだ。「…悪い子だ。」きっと、いつも凄くいい子の彼女が、言われ慣れてるはずもない言葉を、優しく甘く耳許で囁く。「お仕置きに、次は少し激しくしようか。」そこでやっと彼女は、自分の内部に残っているそれがまだ固いままなのに気づいたようで、僅かに身じろぎする。「や…っ、もう、無理…っ。ゆるして…。」今にも泣き出しそうに震えた声で、頭を振って懇願なんかされたら完全に逆効果だというのに、それを全く分かっていないところも更に可愛い。「僕のほうは、まだ終わっていない。それとも、途中でやめて、苦しさにのたうちまわれと言うの? 昨夜の君のように」「うぅ…」昨日散々焦らされた苦しみを思い出したようで、途端に抵抗をやめて大人しくなる。メイファはいつだって、自分と同じ苦しみを他人に味わわせるのを良しとしない、思いやり溢れる娘なのだ。少し名残惜しげに彼女の中から陰茎を引き抜くと、彼女の身体を抱えるようにして向きを変えさせる。真紅の花嫁衣裳をしどけなく乱れさせ、豊かな髪をうねらせて、僕の花嫁はうつ伏せの上体だけを卓上にぐったりと預けた。そして、たくし上げられた裳裾からすらりとした脚を露出させて、従順に僕を待っていた。僕はその割れ目に引き抜いた陰茎をあてがうと、もう躊躇わずに一気に貫く。彼女は短く悲鳴を上げたが、一度気をやったそこは柔らかく充血して僕の一部を押し包んだ。それから、言った通りに少し激しめに突き始める。彼女のそこはもう充分に慣れていて、遠慮はいらなかった。
女の身体というのは、不思議だ。たった一晩のうちに、刻々とその姿を変える。メイファはいま、時間をかけてゆっくりと開いた美しい花だ。たっぷりと蜜を含んで、あたりに甘い芳香を撒き散らして。どうして、貪らずにいられよう。婚姻という形に特にこだわりは無くて、彼女にその気さえあればいつでも奪ってしまうつもりだったけど、結婚前にこんな状態にしてしまわなくて良かったと思った。契約という鎖で縛る前にこんなに魅力的になられたら、心配で仕方が無い。「メイファ、好きだよ。」後ろからそう囁いて、乱れた上衣の首元を引き下げて、うなじに口づけた。抱き締めるようにして、肌蹴た前合わせからこぼれる乳房を掬い上げる。固くしこったその先端は、愛撫されるのを待っていた。「あぁ…っ、ああ、そこ、駄目…っ」「こんなに身体は反応してるくせに、メイファは嘘吐きだね。」きゅっと固くなった先端をつまんでこりこりと転がしてあげると、僕を包み込んだ媚肉が切なげに収縮を繰り返す。「嘘吐き。嘘吐きなメイファ。ほら、今度こそ『いく』って、言わないの? また、いきそうなんでしょう?」僕はもうほとんど声すら上げれなくなっている彼女を更に弄る。「…ほら、言ってごらん。この可愛いお口と舌は何のためについているのかな?」卓上にうつ伏せになっている彼女の顎に手を添えて僅かに上を向かせ、上下の唇を何度も指先で辿った。そして唇を割って中指を口中に侵入させ、その中にある柔らかく濡れた舌をまさぐる。「んん…っ…」彼女は苦しげに、しかし甘く喘ぎ声を漏らしながら、それでも僕の指に応えるように舌を動かした。僕は口中の熱く濡れた感触をゆっくりと愉しんでから指を引き抜き、指に纏った唾液を赤い唇に塗りつけるように動かしながら、もう一度彼女を促す。「…言ってごらん。」「あ…あ…、い、く…っ」メイファはようやく、揺れる声でその言葉を口にした。「よく、できました。」僕は一層強く彼女の中を突き上げた。どのみち、僕のほうももう限界に近い。受け止めて欲しい、受け入れて欲しい。そして許して欲しい。僕がどんなに汚くて、捩じれていて、澱んでいても。それがいつでも僕の密やかな願いだ。僕は何もかもを叩きつけるように、彼女の中に自分自身を打ち付けると、その最奥に欲望の塊を吐き出した。
* * *「結局、こんな事になって…どんな顔をして侍女達を呼べばいいのやら」「どんなって…普通に。新婚の夫婦が睦まじいのは、別に非難されるべき事じゃない。」僕はメイファが座っていた姿見の前の椅子に腰掛けて、膝の上にメイファを横向きに座らせていた。指先まですっかり力の抜けてしまっているメイファは、大した抵抗も出来ずにされるがままだ。かわりに、彼女の髪に残っている幾筋もの小さな三つ編みを解いてあげていた。解くだけなら大した技術もいらないし、何より艶のある長い髪に思う存分指を絡ませる事が出来て、楽しい。「うぅ…、目一杯文句を言ってやるはずだったのに…。今回はすっかりレンの我儘に付き合わされてしまったが、毎回こうはいかないからな。きっとあれだ、おまえの性根が歪んでいるのだ。わたしが、おまえの性根を叩き直してやる。」思いっきり難題に取り組む宣言をしてしまっていることに、気づいているのかいないのか。メイファが何かに奮闘する様もまた想像するだけで可愛い。ごく軽い気持ちで、質問で返した。「ふうん。叩き直して、どうするのかな?」「幸せに、してやる。」「……っ。」僕は虚を衝かれて、一瞬押し黙る。メイファは、さも当然で自然なことのように何の気負いも無く、唄うように続けた。「何か、おかしいかな?そんなに何もかもを持っていて、何もかもに優れているのに、妙に不幸せそうな顔をしているのは、やっぱりどこかおかしいと思うぞ。レンはもっと、幸せを感じるべきだし、感じられるはずだ。難しいことじゃない、小さな幸せってやつからで良いんだ。」何だそれ。何だそれは。完全に不意打ち。だからメイファは油断ならない。好きな娘にそんなことを言われて、このうえもなく幸せな気持ちにならない奴なんかいるものか。僕は泣いていいのか笑っていいのかわからなくなって、香油の香りを漂わせながらふわふわと波打つ君の髪に顔をうずめる。きっと君なら、上手に笑うんだろうな。上手に、蕩けるような極上の笑顔を見せて、相手の心を魅了するのだろうけれど。「まあ、わたしがそれを見たいだけ、なんだけどな。なんか見ていたい気持ちになるんだ、レンがこの先、どんな風に生きるのか。そして、せっかくなら、幸せに生きるところが見たい。」自覚の無いメイファは、更に追い討ちをかける。何これ。この容赦の無い破壊力。
「…メイファは、格好いいね。惚れ直すよ。」君の首筋に抱きついたまま、ようやくそれだけを言うと、彼女はむぅ…と小さく頷いた。「そうか…。レンはそういうことで惚れ直すのか。…憶えておく。」もごもごと、打って変わって照れくさそうに呟く。「それであの…。惚れ直す、というからには、その前も、惚れていたということで相違ないな?」うわ、今度はなんか素っ頓狂なこと言い出した。「はあ? 何を今更。」「あの…ごめん。何か凄く好かれているのは分かるのだが、何故そんなに好かれているのかは、まだなんか分からないというか。髪や肌を侍女たちが磨いてくれても、それが好かれるということなのか。美しさで言うなら、わたしなど足元にも及ばない美姫が沢山、王都にはいるはずで。」「メイファは、鈍いからなあ。君のどこをどう好きかなんて、六年間で言い尽くした気がするよ。」僕は苦笑交じりにそう返した。もしもどこが、と訊かれたとしても、今更短い言葉で言い表せるような気はしない。「うぅ…鈍いということは、少しは自覚している…。だから、これからちょっとずつ、憶えていく。好きって、どういうことなのか。好かれるって、どういうことなのか。愛するって、どういうことなのか。愛されるって、どういうことなのか。」メイファは、やはりどんなときにも真面目だ。どんなことにも真剣に、真正面から向き合って。そんな彼女に、きっとこれからも、何度でも惚れ直してしまうことだろう。「レンに代わって表に出るという話も、よく見て、よく考えて、レンが一番良くなるようにする。責任を引き受けるのも、幸せを感じる上では割と重要だからな。」僕は漸くそこで顔を上げた。彼女の嫌う皮肉そうな笑みではなく、もっと嬉しそうな表情が、うまく作れていることを願って。「メイファは、責任感あるもんね?君の、言う通りなのかもしれない。今までは、自分のことだけで手一杯だった。でももう僕も、子供ではないしね君が隣りに居てくれるのなら、君と共に、僕に何が出来るのか探そう。僕に出来ないことは君が、君に出来ないことは僕が、きっと補い合えるだろう。」彼女は不思議そうに訊く。「レンにも、出来ないことってあるの。」「あるよ。メイファにとっては簡単すぎて、ちょっと想像つかないことばかりだろうな。」「わたしでも、レンの役に立つ?」「うん。」「わたしでなければ、ならない?」「うん。」メイファは、僕の膝の上で、はにかみながらほんのりと頬を染めた。やっぱりメイファは、こんなときにはどうしようもなく人を魅了する素敵な表情を見せるのだ。
「それで、順序としては、この後湯浴みってわけだね?メイファはこの恥ずかしい身体を侍女に見せるのが嫌で、自分で入るつもりだったんだよね。」「ご…語弊のある言い方をするなっ。これは、おまえが跡をつけた所為で…!うわ、首筋にも、本当に遠慮なく特大のを?!」彼女は鏡で自分につけられた紅い跡を確認して驚いたような声を上げる。「つける時にも、ちゃんとそう言ったでしょ?ひとりで湯浴みの作業を全部するのは大変だから、僕が手伝ってあげよう。」「いらんっ! レンのほうだっていつも、手伝われる方だろう?! 人のを手伝ったことなんて、無いくせに!!」「いつも手伝われているからこそ、手伝い方も分かります。」「わからんっ! 何だその論理?!わたしだって、自分で入ったことくらいあるっ!!いいから去れ、邪魔するなー!!」僕は真っ赤になって暴れる新妻を眺めながら、このまま強引に手伝うべきか、それとも身体を洗ってあげる楽しみは後日に取っておいて、怒らせないようここは引き下がるべきか、割と真剣に思案していた。 * * *その後──シン国では初の女性宰相が誕生したり、夷狄を退けた名将が居たりしたけれど、それはまた、別のお話。 ────終────
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