「………ひあぅ」ぷしゃっと何かが弾ける感触と共に、繋がった場所近くにに生暖かいものを感じ、続けてちょろちょろ、ちゅーちゅー、困憊の中にも馴染みの深い開放感。
「…あ……あ……」迫る尿意にも似た感覚、ではなく、本当に尿意も迫っていた。結局漏らしてしまう、それも床やシーツの上にですらなく、繋がった男の腹の上にだ。散々飛び散った男女の混合液と洗い流すかのように、ほとんど透明な熱い液体が、重なり合った腹部や太腿の合間に広がっていく感触。「…うあ……とまんにゃい……とまんにゃいぃ……」呂律の回らない舌で、全身を弛緩させながら呟く少女。すぐ下にある自分を抱いた男の顔が、明らかにハァハァ鼻息荒い、片手に彼女の背を抱きながら、もう片方で後ろ頭を撫で撫でしてくれるのも問題だった。…汚いと突き放してさえくれない。全部受け止められてしまう。「…あう……うっ……う……」
ゆっくりと下降し引いていく絶頂の余韻に合わせての、温かな放出感、開放感。絶頂の激しい快感とは、また違った意味で非常に危ない――――病み付きになりそうな、そっちの意味で『精神に失調』をきたしそうな快感だった。…純粋な少女は知る由もなかろうが、『おもらし』は癖になりやすいのだ。特にこんな風に前後不覚に陥るほど攻め立てられ、忘我自失の中に味わってしまうと、無意識レベルに快感が刷り込まれてしまい、最悪慢性化の恐れさえある。自分がどれだけ危険極まりない状況にあるか、少女は知らない、少年さえ知らない。
男根による圧迫で、結局完全に放尿が終わったのは絶頂から一分近く経った後。…逆に言えばそれだけの間、少女は男の上で漏らしてしまった。「………」茫然自失の中で、ただ下に敷いた男の肉体と、腹部に残った温水の感触を貪る。小さな子供がよくそうするよう、排尿の終わりにふるるっと身体を震わせて、…そうしてそんな少女を実に満足げに観察していた男が、ここでようやく言葉を発した。「漏らしちゃったな」「…!!」――やり過ぎだ。びくんと身体を痙攣させた女に、男はますます興奮を強めるが、でもこれはもう行き過ぎだ。もっとちゃんと、…男の方も興奮しておらず、冷静で正気だったなら気がついたはずだ。女の目が恍惚と幸福に陶然としてはいても、――もう光を宿していないことに。「ダメな女だなぁ」「……ぅぁ」耳元でねっとりと囁かれた今の言葉だなんて、確実に心に傷を残しただろう。カリッと浅く爪でひっかくように、けれど剥き出しの心に傷がつく。
「………いっ」――びちゃ、と下から突き上げられる。「いっ、あっ、あ」――びちゃっ、びちゃっ、ずくっ、ずくっ、と下から小刻みに突き上げられる。寝台のクッションと腰のバネだけを使ったその動きに、『おもらし』で湿ったシーツがじゅくじゅくと音を立てて温水を滲ませ、男の腹筋の凸凹を受け皿に残った尿を跳ね散らせる。
「あっ、やっ…」これは、辛い。「やっ、やあぁっ、やだああぁぁぁっ…」もうお終いだと思い込んでいた、弛緩し安息していた少女にこれは辛い。
「も…もうやだ…、もう気持ちいいのやだ……」泣きながらばたばたと力なく手足を動かし、逃げられないのにもぞもぞもがく。「やだ、気持ちいいのやだ、気持ちいいのやだあああぁッ」せっかく熾火のように収まっていた快楽が、たちまち再燃し出すのを感じる。疲れてるのに、もう止めたいのに、反応するいやらしい己の肉体が怖い。「やっ、やだ……や……はっ、はう、はん…あんっ」ぬちゅぬちゅと行き来する肉柱に、それでも濡れた膣壁が絡みつく。ごりごりと凶悪な雁の段差の裏側にさえ、恋人のようにぺっとりと抱きついて離れない。「あう…あふ…は…はうっ…はふ…ぅんっ…」ああでも気持ちいい、やっぱり気持ちいい、気持ちいい気持ちいい気持ちいい。好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。
「……頑張ってよもうちょい」「んっ、んっ、んっ」こてんと男の胸板に横たわったまま、股座からの快感に耐えていた少女の表情が、「辛いかもしんないけど、俺ももう少しで出るからさ」「……ん、ぅ?」『出る』という単語に、流石に不穏な反応を示した。「…あ。出るってのはもちろん、ションベンのことじゃなくて白いののことな?」「………」――『出る』、『でる』、…『射精る』?
のろのろと男の表情を見やると……やっぱりとても気持ち良さそうだった。彼女の腰を掴んで上下させ、剛直に感じるぬめぬめときゅうきゅうを愉しんでいる。時折恍惚とした息を吐きながらピタリと腰の動きを止めるのは、込み上げてくる射精感を堪えるためだろう、なるべく長く、限界まで愉しむつもりなのだ。…それは慈悲でもなければ悠長でもなく、ましてや女への気遣いでもない。そうやって焦らし焦らし長らく愉しんだ方が、とろとろに練られた白濁が大量に出る、濃く多い吐精が長く続き、快感もまた高まることを知ってるのだ。完全に自分が愉しむ動き。女の身体を『使う』、自分の快楽重視の動きとそこに伴う忘我の表情に、さしもの少女も本能レベルで、自分がされそうになっていることを理解した。
「……や……だめ……」拒絶の言葉は洩れた。…一切の物理的抵抗を伴わない、声にさえ諦めと迷いを含んだ拒絶だったが。「……そとに……なかに出しちゃだめ……ぇ」本当はもう大量の先走り汁に膣奥を犯され、更には既に一度出され済みなのだが、それでも外に拘るのは、まあ立場的に無理からぬ心理だろう。…それでなくとも準備の出来てないところへの不意打ちだった一度目とは違い、今は心も体もすっかり準備が出来てしまっている、蕩けた肉はぷるぷると男自身に絡みつき、淫らに乞い願って仕方がないのだ。最初は七割八割しか入らなかったはずの剛直が、今では根元まで入ってしまっている事実も、少女の心を苛んだ。
挿れられる前に見た、舐めしゃぶったモノの全容を思い出す。…入るはずがない、あんな異常な大きさのものが、根元まで体内に埋まるはずがない。はずがないのに、現実には柔軟な膣壁、豊潤な膣肉が、ゴムのように柔らかく伸びて、全身で男を受け入れてしまっている。胃や腸、更には肺が圧迫される感覚に、軽いえずきや息苦しさも感じつつ、槍のように突き上げられ、捉えられせり上がってしまった子宮を思い、女は泣いた。――する。――絶対妊娠する。――絶対妊娠させられる。「……赤ちゃん……できちゃう……」
無知な少女に分かろうはずもない。自分のそんな啜り泣きが、どれだけ目の前の男を興奮させるかなど。
「仕方ないって」愉悦と興奮を抑え切れない男が、実に悪魔らしく甘きに囁く。「好きだからしちゃうんだよ」「……やだ……」――嫌がれる理由を掴もうとした。「気持ちいいからやめらんないんだって」「……やだぁ……」――壊れた人形のように定型の文句を呟きながら、それでも嫌がれる理由を探そうとした。「だからできちゃうんだろ? だから中で出しちゃうんだろ?」「……やだ……やだよぅ……」――だってそうだろう? 犯され孕まされるのを自分から喜ぶ女が何処にいる?「好きだから出来ちゃうんだよ、…仕方ねえって」「や……」
――だから掴もうとする、なのに見つからない。何処にも無い、あんなにたくさん、数え切れないくらいあったはずなのに。
「…や……だめ……」虎視眈々と狙っていたのだろう。「そこ……深いぃ……奥……だめぇ……」肉襞を掻き分けた亀頭の鈴口が、むちゅう、と子宮口に口付けを施した時にも、だから少女には何も出来なかった。「だめ……だめ……ちゅーしちゃ……やだぁ……」くりくりと、ちょうど男の巨体がじゃれ付いて来るように強く押し上げられて、同時に正真正銘全部挿入ってしまう、ぷにぷにとした土手がぎゅっと男の恥骨に押し潰される。「あ……あ……あ……あ……」それだけにびくんと男の腰が痙攣し、同じく震えた先端がぐっと膨らむのも、全部感じた。「っあああ゙!」「っ」高い悲鳴と低い呻きが重なった時には、白濁が少女の最奥を射抜いていた。
完全には味わえなかった一度目とは違い、待ち構えての二度目。
「…く、ふぁ」ジュッ、ジュッ、と明らかに何か出ている感触が膣奥に伝わる。その時点で何か脳の奥がジン…と痺れる、訳の分からない歓喜に吐息が洩れる。そんな明らかに何か出てると分かるのは最初の二度三度だけなのだが、でも何か熱いものが、じんわりとそこを中心に広がっていく感触がそれに続く。「は、ふ……」これも危険だ。訳が分からないくらい幸せになる。胎の中にぽっと火が入ったような感覚、狂おしいほどの幸福に涎も垂れる。ギチギチに収まった肉柱が、びくんびくんと脈動する感覚もいい。熱が逆流していく感覚も、結合部からびゅっびゅっと飛び散る感触も素敵だ。なまじ反射的に締まってしまうせいで、余計に強く感じてしまう。震える男の腰も、がっしりと彼女の身体を掴んで離さない腕の太さも、勿論好き。
「…ひぁ、ん……」『雌の歓び』…なんて言うのは少女のためにもやめてあげるが、とにかく『女の子に生まれて良かった』と、心の底から思えてしまう危険な歓びだった。深い絶頂の劇的な波濤とも、先刻のお漏らしの流砂めいた背徳とも違う、また別の歓び、これはこれで危ない麻薬めいた恍惚。
「…ん、んッ」ひくひくと震えていた肢体が、冬の寒さに瘧を起こしたが如くぶるぶるっと震え、放出は終えても未だビクビクと震える男の剛直を絞り上げた。最初挿入された時にも彼女が感じた痙攣だが、でもこれは絶頂というよりは、単に幸福の酩酊に感極まっての反射的な震え、『それも絶頂の一種』とするのは、あまりにも可哀想なので彼女のためにもやめておく。『何回イッてる、淫乱の素質があるんじゃないか』と、そういう話になってしまうから。
……ああほら、言わんこっちゃいない。
「……しゃせー……きもちい……」心に傷が残った、「あつい……あったかひ……」心に傷が残った、「……せーえき……びゅーって……びゅー……」間違いなく心に傷が残った。
そうしてドン、ドン、と分厚い大胸筋ごしにも感じる心臓の鼓動を聴きながら、ふーふーとだらしなく射精の快感を貪る男の表情を盗み見る。だらしなくても、やっぱりとっても幸せそうで、やっぱりとっても気持ち良さそうで。「……かわいぃおぅ……」唾液で呂律の回らない舌、男に意味ある言葉として届かなかったのが、不幸中の幸いといえば幸いだったかもしれない。
……終わり切ってから十二分に間を置いた後、男の両手が女の足腰を離す。伸びきることで根元まで男を飲み込んでいた膣肉が反動で戻り、ずず…とゆっくり、一割ほど男の剛直を吐き出した。
どろりとした白濁が溢れ、捲れ上がった朱肉が滑り戻りながらひくひくと蠢く。自由になった腰の対価に、背中を抱かれ、頭を撫でられ、「……できちゃう……できちゃうよぅ……」しかし言葉とは裏腹、甘えむずがるような声色で男の胸に擦りつく辺り、手遅れだ。目がキちゃってる。完全に正気じゃない。
男の両手が女の腋下を掴むと、引っ張り寄せるようにしてキスをする。身長差が辛いせいで実は微妙に届かない、結果として黒檀色の肉棒がずるずるっと半分ほど抜け出、ビクビクと白い下半身が痙攣したが、股間からぼたぼたと白濁を垂らすにも関わらず、少女は夢中で施される口付けを貪った。ちゅむちゅむはむはむ、絡んでくる舌と、幸せな後戯。
「…いいだろできちゃっても」「……ふぁ」てろりと唾液の橋を残しながら、唇を離した男が呟く。「てか産もう? 産んじゃお? 俺の子産も?」「くッ? うぅんッ、……あ」そのまま引っ張り上げて抜いた分を、肩を抱き圧すことによって再び押し込む。再び満たされ、ずるるると八割近くまで飲み込んでしまいながら、でもそこでようやく、少女も回らない頭なりに気がついた、経験則的に。
「…な……なんで、ちっちゃく、なんない……」「…ん?」男が小首を傾げる。…ちょっと可愛い。「…だって…さ、さっきも、今も、出したのに…全然縮まない…おっきいまま……」「…え。…そりゃお前、だってさっき言っただろ」どこかふわふわした女の問いに、どこかふわふわした男が真顔で答えた。「忙しすぎて抜く暇も無かったって。大体十日分くらい溜まってるって」「………」
歯車が噛み合わない。彼女の中での男の陽根とは、一度精を吐けばすぐ縮むものだ。十日もなにも、三日置こうが一ヶ月間を空けようが、それが不変の事実だったし、そもそも一晩に二回射精だなんて、そう言えばされた覚えはない。というか、こんな出ない。出てると分かるほど、激しく出された記憶ない。
「…そりゃ俺だって抜かずは二連が最高記録で、三連行けそうな今は新境地だけど、でも別に抜かずでなきゃチャージ満タン、最高記録も更新できそうだし…」要領を得ないことをブツブツと呟く男の声を、疲れ果てた脳で半分も理解できずに聴く。鼓膜に響く低音だけで心地よい少女は、だからとうとう気がつけなかった。「…そもそも、萎えろってのが無理あるぞお前」
男の目もヤバい。虚ろに高揚してて、地味にこっちも正気じゃない。
「『イヤダメやめて赤ちゃん出来ちゃう』とかさぁ、勃つだろ、男的に当然」「……うあっ!?」高揚して完全にハイになってる男が、極めて正直な自分の気持ちを吐露したが、でもこれはちょっと正直過ぎだ、いくらなんでも正直過ぎだ。
「白いよなぁ肌も、山羊乳みたいで、綺麗で」腿や尻を撫でる目には、それでも青痣や傷跡、肩下と脇腹の火傷痕は映らない。傷なんて見慣れてるし、そもそも肌がミルク色の女がして珍しいのだ。「…こんな白い股からさぁ、お前が唸りながら小麦色のガキがひり出しちゃうとかさ」「ふ、ああっ……んんっ」そうしてそんな光景を、実にまざまざと想像したのだろう。ぐいいいっと、二連続の放出で八分勃ちぐらいには柔らかになっていたものが、たちまち硬さと体積を取り戻し、女が鼻に掛かった声を上げた。
「普通に鼻血でない? 出るよ俺? だって男だもん、ケダモノだもん」「うあ…あ、あぁ……ああんっ…」ぎゅうっと両腕両肩を拘束されながら、逃れようも無く過激な睦言を囁かれて、なのに少女は嫌がれない、甘えた息を洩らしてしまう。「で、そうやって産んじゃったのに、頑張ったねって俺に褒められると頷いちゃって、キスされたらラブラブチューしちゃうとか、そこまでやって『本当の陵辱』だろ?」「はぁッ、はあぁっ」くちくちと突かれる最奥に、亀頭と子宮口の隙間で精液が練られ擦り込まれるのを感じ、なのに歓んでしまう、幸せにぞくぞく、勝手に身体が擦り寄ってしまう。
「こんな牛みたいな輪っかつけちゃってさぁ、乳垂れ流して、でも笑ってんだよ、でかい腹抱えて、なのに幸せいっぱいで、中に入ってんのは俺の子で」「ひ……」言われて、でも容易にはっきり想像できた。
家畜のように乳を腫らし、胎に子を孕んで、…でも褒めてもらえる、撫でてもらえるのだ。偉いね、頑張ったね、よくやったねと、愛されて、可愛がられて、キスされて。それにどうしようもない自分はますます乳を漏らし、犯されて孕んだ子なのに愛しくなってしまう。それをダメな女だなって優しく叱られて、でも幸せで、気持ちよくて、がくがくぞくぞくして。
「口先では嫌がりながら『悔しいけど産んじゃう』ってのも捨てがたいけどさぁ、口先でさえ嫌がれなくて『幸せいっぱいで産んじゃう』ってのも、それはそれで良くね?」「あっ、あっ、あ……」まるで貴公子が理想の夫婦像を説くかの如くに、下卑た笑いでも上げながら言うべきを甘く優しく囁いてくるのが、また痛烈に心を冒す。言葉は優しくて、抱き締める腕も優しいのに、でも目だけが強くて蠱惑的だ。
「…お前も、幸せ? …お前も、俺と家族したい?」「……ッ!!」隠し切れてそうにもない膨大な歓喜に、少女は息を詰まらせて身を竦ませる。欲しい。産みたい。産まされたい。「…なぁ、やっぱ本当に避妊しないとダメ? なんでダメなん? どうしてダメ?」「ふ…、ふ…」ずるい男が、約束を反故にしても怒れない。強く、大きく、立場の上の男が、でも脅すのでなくおねだりしてくるのが理性を溶かす。可愛い。あげたい。使ってほしい。「復讐の道具にしなきゃいいんじゃん、愛し合って作るならいいんだろ?こうやって毎日中出しまくってさ、それでデキちゃったんなら仕方ないだろ?」「んっ…、んっ…」純粋にまっすぐに攻められて、嘘も悪気もないせいで、勢いに押される、飲み込まれる。
「作ろう? てか結婚しよう?」「……ぁ」結婚。…その言葉の持つ幸せな響きが、じり、と女の脳を灼く。結婚。結婚。夫婦。つがい。ちぷちぷという小刻みな甘い波紋も、一層女を耽溺に落とす。「爺とのなんて結婚にも入らねーよ、だってこれお前、まんま性奴隷の待遇じゃん」「…だ……だめ……だめ……」ぶたれない結婚。蹴られない結婚。…好きな人との、幸せな結婚。「俺とホントの結婚しよ? ホントの正しい恋人同士して、正真正銘の夫婦して、いちゃいちゃラブラブで毎日エロいことして、いっぱい子供作っていっぱい産もう?」「だめ……だめ……けっこん……だめ……」したい。したい。それなら別に家畜でもいい、ずっと一緒に居られるなら、それならどこまで堕ちてもいい。
――でもダメだ。
「……わたひ……いぬ……だからぁ……」釣り合わない。『貴』と『賎』では、『強』と『弱』では、……『人』と『犬』では釣り合わない。今までずっと認めたくなくて、でもここでようやく自認する。「……いぬ……ぅ……」前夫を殺した相手と寝た。領土を侵した相手と寝た。蛮族、異民族、異教徒と寝た。寝たのみならず心を許して奪われた。自分から求め、自分から応じた。喘いで、善がって、媚び狂った。唇を吸われながら達し、男根を咥えながら達し、獣のように尿を撒きながら達し、種付けされながら咽び鳴いて、今尚男の子供が欲しくて溜まらない。あまつ男の若さと逞しさに酔い、力に魅せられ、餌に釣られる。「よごれ……ちゃう……」自分の方こそがむしろ相応しくない。男の方こそがむしろ素晴らしい。野蛮人だとか、異教徒だとか、簒奪者だとか、もう関係ない。こんな強くて眩しくて輝いている、純粋で穢れ無い、熱量と活力の塊みたいな男に、自分は相応しくない、自分には勿体無い、夫婦だなんて恐れ多い。「……にんげんじゃ……ないの……」そもそも一度の交合でここまで相手に溺れてしまうなんて、本当に売女かもしれなくて、だから少女は最後の力を振り絞った、男の誘いを押しのけたのに。
「…なんで犬だとダメなん?」「……――」 飴のように溶けた理性、崩壊した価値観、ガタガタの心。「…犬、好きだよ俺?」「………ぁ」 もう守る鎧が何一つなくなった剥き出しな精神に、これは致命の一撃だった。「可愛いし、従順だし、尻尾振りながらすりすりしてくるし」「………ぁ、ぁ」 彼女のトラウマの要。負い目引け目の核。最後の砦。「おバカでダメなところとか、ちょっとアホの子なところとかも好きだし、サカっちゃうとどうしようもないところもエロくて好きだなー」 お互い汗だくで寝転んで抱き合いながら、ちょっと冗談めかしつつ軽い気持ちで、 バカで頭の悪い男が目の前の『それ』を、トン、と押す。「…そんなに可愛いのに、なんで犬だとダメなんだ?」「は…――、あ――」 それにぐらりと傾いだ高い塔、影を落として均衡点より外に出てしまった積み石が、「いいじゃん犬で。別に」「――――!!!!」 折れる彼女の心そのものだ。
がしゃん
…枯れたと思った涙をまたみるみる溢れさせ、がたがたと震えだした少女に対し、男はおもむろにごろんと側位になると、猫背で深々と口付けをした。『女落とすにはチューが基本戦術だぞ!』とは、兄の一人からの至高の助言である。今までの体位も良かったのだが、身が屈められずキスしにくいのが難点、…本当を言うならバックか立ちバックで、獣のように激しくしたい気分だったのだが、それは経験則から断腸の思いで我慢、またの機会にお見送りする。
辛いのだ後背位は。体格差的にまず間違いなく女の側が痛がる。というかそれで一度苦い失敗もした、だからもっと慣れてから余裕のある時に試したい。…巨根だとか、身の丈八尺余(※当時の一尺は約23cm)の大男だとか、そういう意味では皆は羨望の目で見るものの、あまり良いものではないと男は思う。サイズが大きすぎるせいで、テクの入り込める余地が少ない。前戯も十分に必要で、挿入後も激しくは動けず、結果長引き相手をうんざりさせてしまう。泣き叫ぶ女で楽しめる趣味はなく、濡れてない穴でだとこっちまで痛い。愛撫が人一倍丁寧なのもある意味当然で、別に特別なことをしてるつもりはなかった。
「…俺のペット、なる?」「………はい」だから鎖骨の下、胸板に寄せた女の頭がこくんと頷いた時は狂喜した。『ヤッター陵辱成功ー、祝陥落今日から俺の女ー』とか、『やっぱり再婚とか捕虜とか言うから重いんだよな、ペットなら軽くてフレンドリー』とか、心の中でリビドーのままにワーイした。「…俺の子、産む?」「………ふぁい」だから幸せそうな顔をした少女がこくりと頷いてしまった時は興奮したし、「……赤ちゃん……ください……」自分の胸に顔を擦り付け、少女がもじもじしながら言ってきた時は感動さえした。
「ん。…じゃあ子作りしよっか!」「………」爽やかにも卑猥な誘いに、でもビクンとした少女が顔を真っ赤にしながらも頷く、…どころか期待さえ込めた上目遣いでぽーっとこっちを見て来た時なんか、もう幸せ絶頂だ。『うわー、何ちょっとこいつ、なんかあり得ないくらい可愛いよ、鼻血出そう』と、少女がひたすら可愛くて愛しくて、そんな彼女を幸せにできる自分が誇らしくて有頂天。
――これだからバカは怖い、始末に負えない。
相手の片脚を持ち上げて余裕を確保すると、一気に半分ほど黒柱を引き抜く。「ふぁああッ!?」案の定多少膣肉は捲れこそしたが、意外とスムーズにずるずると抜けた。凶悪な雁にぷりぷりとした肉が絡みつく抵抗感こそあったが、膣肉が噛んで止まってしまう感触や、相手の女が痛みで悲鳴を上げる様子も無い。「あっ……あ……」濡れ具合もあるが、相当温まって、『緩んで』も来た結果だろう。…これが並の者なら『締まりが悪くなってきた』と眉を顰めるところだろうが、男にしてみれば好都合、ようやく激しくも動かせそうだった。
至って普通の、激しいピストン。娼婦相手にさえ相手が顔を顰めてしまい、なかなか出来ないことが出来るのだ、興奮を抑えるなというだに無理がある。「ああ、あ、う、ううぅぅう……」ぐににーっ、と再度押し込まれていく肉の杭に、ぼたぼたと掻き出された混合液が垂れる。持ち上げた脚はぷるぷると痙攣して、女の喉からは呻きが洩れる。
…『何か反応や声質の大胆さが変わったな』、とは男も思ったが、でもそれは『陥落して妊娠OK宣言出しちゃったからかな』、ぐらいの結論に収まった。それとてトロンと虚ろな女の蒼い目が可愛い以上、実に瑣末な問題だ。「んうっ」こつん、と奥まで当たったのを感じ、女がビクンとするのを腕に覚えながら、今後の展望についての算段を立てる。
内容は実に簡単。女が苦痛を覚えない程度に、今の出し入れのピッチを上げていく。耐え切れなかったらペースを落とすが、耐え切れるところまで行ってみよう、そう思いながら、男は二度目の引き抜きにかかった。
<ここからが本当の地獄だ>
「はっ、ああっ、んっ、くうぅっ」ずるっ、ずるっ、と激しく行き来する肉棒に、女が歓喜の悲鳴を上げる。「うあっ、うあああっ、うあああっ、うああああっ」犯される快感に、膣肉がぐぼぐぼと雁に掻き出される感触に、だらしなく口を開けて快感を貪る。「気持ちいい? な、気持ちいい?」「いっ、いいよぅっ、いいいぃっ、気持ちいいいぃっ!」訊かれてためらいもなく、秘所から走る快感のままに幸せそうに叫んでしまうその姿は、――ああでも手遅れだ。引き返せないとこまで行っちゃった。
「いいっ、ごっ、ごしゅっ」更には。「…ご主人様、ご主人様っ、ごしゅじんさまぁっ!」「うおわ!?」唐突な爆弾発言に、これには男もビックリする。…腰の動きは止めないが。「…え、お、俺、ご主人様? ご主人様なの?」「はいっ、はいいいっ! あっ、あっ」おっかなびっくり男が訊くが、少女は何か限界突破でも成し遂げたかのように幸せそう。
(…え、ええー……)でも男の方からすれば、この突き抜けられぶりは逆に照れくさくて恥ずかしい。何しろ冗談やおふざけではなく、至って真剣に呼ばれてるのだ。ご主人様――Lord(君主)――なんて柄じゃあないのは、本人が一番分かってる。
「ご主人様……ご主人様……あなた……あなたぁ……」「……う」だから「My Lord」――ご主人様とかあなた――なんて、顔が赤くもなる。そうやって呟きながら恍惚と胸にすりすりされると、どう反応していいのやら。幸せなんだけどもよもよする、嬉しいんだけどむず痒い。贅沢な悩みだとは分かっていても、それでも『英雄』と同じで重たくて困った。狙って軽くしてるんでなく、本当に重いのが苦手なのだ。
「…ご、ご主人様はいいよ……。……ロア。ロアネアム」「……ろあねあむ、さま?」「様はつけなくていいって! ロア! ロアでいいから!」思わず腰の動きも中座してしまって、耳まで真っ赤にしながらそう叫ぶ。褐色肌の自分はそれが露になり難いから助かると思い、――そうしてそう言えば、お互い名前も名乗ってなかったのに気がついた。
極めて本末転倒で、今更もいいところの話だったが、「……ろあ……ロア……」でも目下、噛み締めるように自分の名前を連呼している少女を見ていると、流石に名さえ分からないのは不便極まりないと気がつく。「――そういや、名前は?」あまりそういう出自だとか姓名には拘らぬ性質だが、それでも聞く。
「……りゅけいあーな・おる……」応えて紡がれかけた女の名乗りもまた、はたと中途で滞った。長い本名の大部分、家格や出自を表す語句が、今やどれほど価値を持つか。「…………リュケイアーナ」そう思った、だから『ただの女』のリュケイアーナは、ただそうとだけ小さく呟く。…本当は帝国での通俗的に、愛称は『イアナ』か『アナ』になるのが通例なのだが。「そっか、じゃあリュカだな、リュカ」与えられ決められた新しい呼称に、それでも少女の心は嬉しさに震える。
――名前。ご主人様から貰った新しい名前。
たかが名前だが、それでも名前だ。「リュカ、リュカ」愛でるように名を呼ばれながら、ずぽずぽと動きを再開される。「あっ、ろ、ロアっ、ロアああッ」呼ばれたから応える。善がり声の代わりに、噛み締めるように、確かめるように。「リュカリュカ、リュカー」呼び声に合わせ、徐々に往復が加速し、「ロア、ロア、ロアっ、ろあっ」肩までの鳶色の髪が散るのにも関わらず、動きに応えるように女も応じる。
りゅかりゅかろあろあ。ぐりぐらぐりぐら。
下は激しく、上は大甘。確かに陵辱のはずなのに、実際気品の欠片もない獣交なのに、もう恋人同士の逢瀬にしか見えない。誰もが『ご馳走様』と呟くだろう、立派なバカップルの出来上がりだ。
「んんっ」しまいには感極まったらしく口付けまで交し合いだす。「んんーっ、んゔーっ」当たり前のように舌入れディープが基本になってることに、つい一刻前にファーストキスを経験したばかりのお姫様は何の疑問も抱かないらしい。鼻息荒くも一生懸命相手の舌に絡んで、ちゅーちゅーお互いの唾液を吸う。幸せ、幸せ。
「ふはっ、はっ、はああっ、あああッ!」「イクの? またイッちゃうの?」やがて腕の中でじたじたし出したリュカに、ロアが唇を離して強く問いかける。「イク? イク?」「いっ、いく!」反復して問われるがままに、オウム返しで復唱する。高貴な身分の者が使う言葉ではない、下々の農奴が使うような下卑た言葉だが、「…いく、イクっ、イクッ!」――でもいいよね、犬だし、もうただの女なんだし。
「あああ゙あ゙またイクっ! またイッぢゃううぅ!!」漏らしはせずとも怖いのには違いない。投げ出されるような恐怖感。だからぎゅうっと男の身体に抱きつく。腰に足を巻きつけて、胸板に顔を押し付ける。「いぐっ、ひぐっ、い――グ、ぅッ!!」激しく、でもしっかり抱き締めて、抱き締められて。結局世界で一番相手を感じながら、とっても幸せにリュカは絶頂してしまった。
「あ…ああ゙……あ゙…」膣肉を痙攣させながら、だらしなくロアの胸に涎まで零して、でもオーガズムに酔う。本来ならそれで良く、それで終わりだった。眼がチカチカ、頭が真っ白になるほどの辛い快感は、けれど静かに拡散して、緩やかに落ちていく曲線、ふんわりと軟着陸する心地よさ、むしろそっちの方が目当てかもとも言える、甘くて幸せな時間がやってくるはずだった。――本来なら。
(…うあっ?)白く濁った思考の中にも、更なる下からの突き上げを感じる。ビクビクと絶頂に収縮する膣壁を、張り出した雁がぐにゅううっと掻き出す感触を覚える。(あっ、あうっ、あう)ずん、ずん、ぐに、ぐに、…結果としてなかなか下に降りない。小刻みに下から突き上げられるせいで、下降中にも微妙に跳ね上がるのだ。――でもそれだけならまだいい。(はうっ、はうっ、はう、…はうっ?)下降曲線がふんわり軟着陸しだす――地面よりも遥かに高い空中で。
熱い重湯のような濃い快楽が、まだたゆたって渦巻いてる、薄れきっていないのに、(は……)曲線が平行になる、どころか『くくくっ』と、まだ底からだいぶ高いところで上を向く。
「あ、ああっ、うあ……」恐れもする。熾火どころかちょっと火勢が弱まった程度のトコに、油ぶっ掛けられるようなものなのだ。火が勢いよく燃えるのを見て、無邪気に興奮している投入者の『子供』はともかく、燃えている『火本人』としては非常に怖い、火事になったらどうすんだこれ。「や、やああッ、やあああああ!」叫びもする。
「やだ、な、なにっ、へん、変、おかしい、これっ」がくんがくんと揺すられながら、身に起こる変調を機能しない頭で必死に訴える。「とまんなっ、きもちいい、やだっ、や――」その訴えすら唇で塞がれる。
――拷問だ。当事者二人がなんと言おうと、第三者からすれば拷問。
「んっ、んっ……」愛情たっぷりの優しいキスで、生じた恐れや不安がみるみる温かく蕩かされる。絶頂直後のバカになった頭では、すぐに幸せにぼーっとしてしまうのだが、でも下からの責めはそんな時でも止まない。(んーっ、んんーっ)快感は折り重なる。一枚一枚、でも確実に蓄積し、このままではすぐに閾値に達する。でも何もできない、甘さに蕩かされる、優しい、温かい、気持ちいい。怖いと思うことさえ、恐れることさえ許されない、ほぐされて、溶かされて、浸されて。
「…やめて……やめてよ……とめてよぅ……」壊されて、壊されて、壊された挙句の、先刻から散見される幼児退行のきらい、ぎゅうっと蒼い涙目を瞑ってふるふるするちっちゃい女に対し、虎は、鬼は、――少年は悪魔めいて笑った。「じゃあ止めような」そうして一番奥まで、限界まで捻じ込む。「がうっ!」子宮を、内臓を、肺を押し上げられて、女が吼えるような悲鳴を上げた。
小刻みにしか動けなかった時に、大体感覚は掴んでいた。ごっ、ごっ、と軽く鋭く突くのではなく、どむ、どむ、と重たく鈍く、面積が広いところで当たれるよう、押し潰すようにしてコリコリを叩く。「あっ……や、やだ……これも、やだぁ……ぁっ」効果のほどは、女のぶるぶるという震えですぐに分かった。「これも、きもちひ……、…これも、くるぅッ、ぅ……」優しさなんて微塵もなく、まるで虎のように少年は笑う。
再三言うが苦しいのは事実だ、苦しさだけは変わらない。どれだけ膣壁が柔軟で、どれほど行為で温まった結果緩んだ、痛みは微塵も無かろうと、長さも太さも標準の1.5倍、イコール体積は3倍超、胃や小腸、消化器官は軒並み押し上げられ、結果横隔膜も圧迫される。ほとんどの女は気持ちいいどころではない。呼吸は苦しい。軽い嘔吐感は伴う。食事直後に乱暴にやられたら間違いなく吐く。
「…おか…ひいよう……」なのに。
「苦しいのにきもちいい……苦ひいと気持ちいいの……」「…そっか」――おかしいな、と男は思う。自分は苦痛に泣き叫ぶ女相手に、興奮する性癖は持ってなかったはずなんだが。「痛いのに気持ちいい……痛いのに、いっ、ひっ……」「そっかぁ」――おかしいな、と女は思う。自分はあんなに痛いのが嫌だったはずなのに、痛いのが怖かったはずなのに。
大好きだから苦しいのにも耐えられる、痛いのにも我慢できる。我慢できるから誇らしい、耐えられる自分が嬉しく思え、もっともっと頑張りたい。「……もっと」首を絞められるのが気持ちいいように、辛い苦行が気持ちいい。非常に危険な精神状態ではあるが、それでも幸せなのも事実だった。倫理的には正しくない。道徳的にも間違っている。そこまで女が追い詰められた、その全てが男の責ならば、まだ男をも非難できた。…でもこの構図が真に救えないのは、そうでないというその事実そのもの。「……もっと、もっと!」
宗教洗脳、思想洗脳、大いに結構、効果的なのは否定しない。ただしやるなら徹底的に、一片さえ矛盾を許さずムラなく完璧に塗り潰すべきだった。――『洗脳』で本当に怖いのは、万が一解けてしまった際のその『反動』。
「だいじょぶだから…頑張れるから……だからもっとどすどす、奥どすどすぅ」「うん、うん」…なんて高等理論分かるはずもなく、男は「マゾだなぁ」と思いながら要望に応じた。『ああこれが噂に聞くドMってやつか、辛くても感じちゃう特殊性癖か』、『やっぱりこの体格差じゃ少し辛いみたいだけど、でも感じてるんだし別にいいよな』、ぐらいにしか考えず、興奮してただひたすらにずむずむと突く。
何より、ロアの方も気持ちいい。こんもりとしたリュカの土手は、見た目通りぷっくりしていて肉が厚く、いざ限界まで押し込んでみると、ひんやりとした肉布団がぷにっと根元を包み込む。それがなんとも心の快感、なんだか幸せになれる気持ちよさ。「俺も気持ちいいよ、すっごい気持ちいいよ!」もっと奥。もっとぷにぷに。「…っ、わっ、わたひも、わたひもぉっ」
無茶してるのに、相手がそれを受け入れてくれるから調子に乗る。演技でなく本気で感じてるのが丸分かりだから、心配や手加減もできなくなる。気持ちよくなって貰えてるのが嬉しくて、だからまたチューをして、そうして『今なら出来るかも!』と思い、思慮も加減もないバカな問いをした。
「…ね? 俺とフェリウスの爺のと、どっちが気持ちいい? どっちが幸せ?」
呪縛を解いてあげたかったのだ。悲しい思い出を忘れさせたかった。だからやった、相手の心がガタガタなのは漠然と感じ、今なら出来るとの自信を持って。はたしてリュカがほんの少しだけビクリと震えた後、「…こ、こっち! こっちいぃ!」決別するかのように高らかに叫んだ時は、内心力の限りにガッツポーズした。
ブチブチと鎖が切れる手応え、女がこっちの胸に飛び込んできてくれたのを感じて、――なのでさっぱり分かってない、自分が何を引き千切ったのかを。
身分や性差が絶対の帝国貴族にあって、夫への背反がどれほどの禁忌か。絶対的君臨者だった前夫への反抗が、少女にとってどれほどの勇気を要したのか。根が真面目で奥手な少女にとって、それらがどれだけ普通よりも重いのか、卑しい蛮族、お気楽なバカには、それらが全然分からない。
「ロアの方が、ご主人様の方が、ずっといい…、ずっと幸せで気持ちいい…!」「だっから、ご主人様はやめろってば」苦笑しながら、ちょいちょい女の顎をくすぐる男には分かってない。「おっきくて、強くて、優しくて……あぅ、太いの、ずむずむ太いの、気持ちいい…っ」「ん。そか、そか」褒め称えられて満足そうに頷くバカには、やっぱりちっとも分かってない。
「嫌いだったよな、本当は爺のこと? こんな酷いことする奴だもんな?」「…っ、…うん、…うんッ!」ちりちりと乳首の輪飾りを弄びながら、けれどあまりにも酷なことを聞く。「…きらい、嫌い、あんな人…!」ロアからすれば、妻であるはずの少女に対してこんな仕打ちをしたのである、嫌われて当然、殺したことへの罪悪感さえ失せた、背反に何を躊躇うとさえ思うのだが。――でも故人なのだ、それでも前夫、恐怖公ではあってもそれでも公。それでも少女が略礼喪服を着ていた、着ざるを得なかった周囲背景を何も知らない。
「しんじゃえばよかった……さっさとしんじゃえばよかったんだ……!」
故人への罵倒。亡くなった人間に対する呪詛。それも前夫に対しての。…でも倫理や道徳なんて薄皮をめくった下にあったのは、確かに憎悪、怨恨、軽蔑で、立場や責任なんかで抑えつけてた下に溜まってたのは、汚く澱んで濁った膿で。
「うん。だよな。フツーそうだよな」そんなのをこの蛮族は残酷に。「ちゃんと自分の本当の気持ち言えたな。偉いな。よしよし」「あ……」――褒められた。ご主人様に褒められた。偉いねよしよしって撫でられた。――自分は正しいことをしたんだ。間違ってないんだ。
べちゃり、べちゃり、と白く濁った軟膏をもって、僅かな罪悪感まで塗り潰していく。
「…ご主人様……ご主人様ぁ……好き……大好き……」傷を癒され、薬を塗られる歓びに、愛敬の念いっぱいで抱きつく女。「まーたご主人様ってお前は」対して、全くどうして『たかがこの程度』で、「Only my lord」だの「True my lord」だの、やめろと言ってるのに言ってしまうかとばかりに男は笑うと、「――ホント、ダメな女だなぁ」「…あ、っ」軽蔑どころか逆に愛情たっぷり、『仕方のないわんこだね』と言わんばかりに、女を金色の獣眼で見下ろした。
「…ごっ、ごめんなさい、ごめんなさっ、ぁっ?」『ダメなわんこ』、『いけないわんこ』としての自覚がある少女としては、そんなご主人様からのたまらない視線に耐えられるはずもなくビクビク来ちゃい、「…っ、ふあっ、イっ、…ひぐぅッ!?!?」くりくりくりくり、先っぽで子宮の入り口をいじめられながら、ビクンと跳ねた脚、少女自身でも不意打ちの到達を迎えてしまった。
「……――、――ッ、――っ…」がくんがくんと仰け反ってイク少女と、そんな少女をどこか獣の目でみる男。当然、腰の動きを止めることもない。ちろりと舌で唇を湿らせると、静から動、再び激しい動きで女を攻め始める。……たまらないのは女の方だ。
「…かはっ、あっ、ああああああっ!!」流石に理解する。行き着く先を。さっきよりももっと地面から遠く、もっと高い所で快感の曲線の下降が止まった。「だめっ、またっ、まだあああっ!」というかもう来てる、もう気持ちいい、また気持ちいい、すごい、狂う、おかしくなる。強すぎる快感は苦痛に同じと言われるように、深い絶頂ほど辛くて疲れる。…ごろごろと飲み込めない唾液で喉を鳴らしながら、だからリュカは恐怖し懇願した。「ゆるっ、ひてっ、ゆうっ、ひてええぅっ!」…そんな彼女が唾液を詰まらせて窒息死してしまいそうで怖かったので、とりあえずロアは仰け反った頭に下を向かせると、トン、とリュカのうなじを叩き、けぽん、と己の胸の上に溜まった唾液を吐き出させた。…どうせ二人とも体液まみれなのだ、今更汚いということもない。
「あっ、ああっ、ああっ、うあああっ」ただ、そうしている間にも下からの責めはやめないので、ガクガクと揺すられる彼女の動きが止まることはないし、喘ぎ声が止まることもない。そんな少女の様子を、またちろりと唇の端を湿らせつつ確かめると、「――変だな、『犬』が人間の言葉で話すんだ」どこか陶然として放たれたロアの言葉に、リュカの肩から上がギシリと固まった。
「『犬』はなんて喋ればいいの? …どういう風に鳴くんだっけ?」高すぎず低すぎず、よく通る頭一つ上からの男声に、両者の視線が一瞬交差する。
不遜と喜悦に満ちた、強い虎の目、燃え盛る硫黄のような金色。謙虚と快楽に満ちた、弱い犬の目、青く澄んだ海のような蒼色。
我が身を卑しむということは、ずっと彼女にとって苦痛だった。自虐し卑屈になる度に、暗い坑の底に落ちていくような、暗澹と諦観を感じていた。でも。「……わん」それももう変わる。「わん、わん。…わんわんわんわん、わんわんわんわんッ!!!!」
落とされる男の視線、みるみる吊り上って笑みの形になる口の端に、眩暈がするほどの恍惚を得ている、充足感、被征服の快楽に溺れる己を知った。開けたのは新世界の扉だ、眩い、眩しい、彼女にとっての光の扉。――見て、ご主人様見て、もっといやらしい自分を見て、ダメでいけない自分を見て!
「かっわえぇー…」「わっ、わんっ! わんんっ!」どこか夢見るようなロアに抱き締められ、万感の想いで荒波に合わせるがままに吼える。きつくきつく抱き締められる。それに今までの何倍もの幸せが襲ってくる。その瞬間、漠然と無意識に感じるのではない、リュカは自分で理解に到達してしまった。
自分は、彼に支配されたかったのだ。だから種付けされたかった。だから苦しくても快楽だった。全部奪われたかった。こちらからあげるのでは半減なのだ、無理矢理力ずくで征服されることに意義がある。そうすることでより強く相手の力を、強さ凄さを体感したい。犯されたい。組み敷かれたい。弄ばれたい。孕まされて所有されて、でも愛されたい。
「わっ、わうっ、わうううううっ」この上なく卑屈で、この上なく淫らな、実に自主性のない願望なのに、でもそう気がつく、『自分でそうしたいのだ』と自覚すると――俄然勇気と元気が湧いてきた。頑張りたいのだ、ロアの蛮勇、際限ない活力に限界まで付き合えるように。ついて行きたいのだ、いつでも一番に、誰よりもその側で蹂躙してもらえるように。尽くしたい、自分が一番ロアの願いを叶えられる、一番望みに応えられる。頑張る、ついてく、まだ頑張れる、まだついてける、負けない、負けない、負けたくない!
――体の快楽に、それを受け止められる心の器が追いついて。
「わっ、…あああああ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」とうとうそれさえ辛くなくなった、心身共に歓喜として受け止められるようになった。連続三度目、今日全体ではもう何度目になるかも分からない、心身ともに疲れ果てての受け止めだったが、けれど完璧に抱擁できた。今までで一番高く、辛く、一番激しい絶頂で、そうしてそれでさえ終わりじゃない、まだすぐ次が来るけど、でももう怖くなかった。「……わっ……わぅ……あぅ…ん……」
完全覚醒、最終進化。ただでさえ後戻り出来ない地点だったのを、更なる魔境に紐無しバンジー。……そうして男の方も男の方だ。
「リュカ、可愛い、かわいいよ」「わぅ……うん……あぅっ、わうっ、あうっ!」ぎゅうっと強く強く抱き締めながら、イッたばかりの少女を愛でる。相も変わらず優しいのは上半身だけで、下半身からの責め苦は苛烈の一言。もちろん、自分のせいでリュカが『越えてしまった』とは露ほども知らず、ただ相手が嫌がってない、快楽に溺れてくれてるからこそ、尚ロアも深く溺れていく。その目は優しく、でも残酷で、ギラギラと輝き、爛々と光る。
…ぶっちゃけ、もう優しくなんかない。あるのは若さと好奇心、そうして少年特有の獣欲だけだ。ロアは今まで自分の腕の中で、こんなにも乱れてくれた女を見たことがなかった。だからこそ嬉しくて、だからこそ若さと好奇心が前に出てしまった。凄い、見たい、まだ気持ちよくできるんだろうか、どこまで行くんだろう、もっと見たい。
愛しさがないわけではなく、むしろ相手が愛しいからこその暴走だ。女への畏敬の念もあり過ぎるくらいなのだが、それ故に人一倍強い好奇心が抑えられない。情動豊か、あまりにも強くまっすぐ過ぎて、結果相手を思いやれる余裕が消える。――それ故にロアは何度も苦い失敗してきた。許婚の時も、それ以後も。失敗を重ねる度により慎重になり、より自分を抑えられるようになって来てはいたが、でもあまりにもリュカが耐えられるので、とうとうタガが跳ね飛んだらしい。
「あああリュカ! 可愛い、かあいい、かあいいよー」「わうっ、わうううっ、わんんっ、がうううっ!」興奮し理性を失って、ただひたすらに相手への賛辞を繰り返す姿は、無邪気な子供が蟻を撫で殺し、興奮した猫が鼠をいたぶり殺すのに似ている。本当に悪気はないのだ、ただ無駄に図体と力が桁外れなだけ。そうしてそれ故に、下手に悪気がある場合よりもある意味ずっと厄介なのだった。
現にリュカはそうしている間にもまた達し、それでもまだ止めてもらえない往復、30秒と持たず再度絶頂してしまっている。ロア自身はめいっぱい優しい言葉をかけて、めいっぱいしっかりと抱き締めてあげ、射精感を堪えながら、めいっぱい気持ちよくさせようと頑張ったのだが、それも全然効を為さな……というか全部逆効果。力さえ加減すりゃ壊さずに済むというわけもなく――スタミナはガリガリ削れていく。相手が彼女でなかったら、とっくに別れを決意されてる頃だ。
「…あオ……おオォ……」連続で五回目、ガクガクしながら実にヤバげな獣っぽい歓声を上げちゃうリュカを見て、でも『可愛いなぁ』としか思わない、そこまでのバカ。こんなちっちゃな、いかにも清楚で可憐な少女が、でも桜色の唇をめいっぱいに開けて、獣みたいな唸りを上げてしまっている、そういうのに興奮できる健全な少年。――相手が農奴や平民女ではない、帝国貴族だという事実は、とっくの昔に念頭にない。
ロアは身体が大きい。モノも大きい。だから今まで本気で愛してしまう度、相手の女を壊しかけてきた。泣くのを見たくない、喜ばせるのも十分に楽しかったから、遠慮と奉仕でも楽しめて来たが、…でもやっぱり本気の想いの丈をぶつけたい、それも若者として当然の本心。『ゆっくり丁寧ねちねち』も嫌いじゃないが、少しだけ痩せ我慢してたのも真実だった。――でもこの少女は壊れない。――壊れない、壊れない、壊れない!
「…こっ、こわひて……こわひてぇ……こあっ、ッあああ゙あ゙あ゙あ゙!!」「うんっ、うんっ! 壊すぞ! 壊すよ!」無知な少年は分かっていない。それはよくある定型の善がり文句などではない。本当に壊れてるのだ。――本当に壊してしまった。「しっ、しぬっ、ひぬっ、ひぬうっ、ひっ――」「だいじょぶ、だいじょぶだよリュカ! 一緒に逝こう? 一緒に逝こうな!」ぎゅう、ぎゅううっ、と『死ぬ死ぬ』言う少女を包み込むように抱き締めて、終わりの確信、射精へのラストスパートに、更に激しく腰の動きを加速させ。
「――がっ、」それにとうとう、「…ガあああああアアああああああッッ!!」リュカの最後の天井が壊れた。
「あ゙あ゙あ゙あああっっ、ああああアア゙ア゙あ゙あ゙あ゙!!!!」イク。イキ終わる前からイク。更にイク。イッてるのにイク。膣どころか脚まで痙攣して止まらない。肺の空気が全部搾り出され、結果声帯が振動する。全部が漂白されていき、もう自分の存在さえ分からない。「ああああああああッ!!」ロアの方も雄叫びを上げる。なんか相手が叫び出したのでつい。それが始まると同時に、膣内が別の生き物のように締め付けて来て止まらなくなったので、叫んでいないと射精してしまいそうだった、だから合わせて声を吐いた。凄いことになっちゃってる腕の中の少女をもっと見ていたい、だからここまで来てまだ堪える。
――二人とも、誰も傍にいない、人払いされてることに安堵した。これが本来なら、『すわ何事か、侵入者』と衛兵に駆けつけられててもおかしくない事態だ。――そうして二人とも、感謝した。もしも誰か、お召し換えを用意した侍女なんかが傍に居たら、ここまでの域には来れなかった。つがう二匹の情交の間に、余分なものは何も要らない。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ――」ただ延々叫ばせ続けるわけにもいかないので、ロアが強引にリュカの口を塞ぐ。むーむーと唸り続ける中、ぴちゃぴちゃと舌を絡めてお互いを求め合い、そんな中でも下から突く、突き上げられる、まだ腰を振る。おかげでもうイキっぱなしなのに、ずっとイッてるのに更に下から押し上げられて、高いところに昇らされてしまい、更に高いところに昇らされてしまい。
(あ……気持ちいい……気持ちいい、きもちいい、きもちいい)薄い白が濃い白、濃い白が乳白色、乳白色が青みさえ帯びてスパークし出す思考の中、疲労困憊からのランナーズハイ、苦痛倦怠さえ本当に快楽に変換しつつ、リュカは快楽に耽溺した、この世のものならぬ悦楽に狂い、甘い海の中を漂った。自分の身体の感覚がない、もう男の肉体しか分からない。
(死んじゃう……しんじゃう……しんじゃうよぉ……)今ならたとえ死であっても、ロアから与えられるのなら喜んで受け取ったに違いない。震え、ガクガクし、全身が溶けたみたい、頭が甘く痺れてジンジンする中、犬のようにただ与えられる快楽を貪り、受け止め、貪り、受け止め、歓び、泣き。
(…すき、すき、すきすきすきすき、すき…だいすき……だいすき)甘え、瀕死になる中で、でもずん、ずん、と突き上げられての更なる飛躍、更なる浮遊。この瞬間が、この甘美な時間が、永遠に続くのだと信じて疑わない中で――――どぶっと奥まで押し込まれた肉棒、痙攣、膨張。……馴染み深い、ビュッと熱いものが奥にかかる感触、かけられる甘美。
「――――~~~~~~ッッッッ!!!!」びくん、とミルクにチョコレートが混じる。
練乳のように真っ白の海になっていた世界が、ぷつりと緊張を失って弾けて崩壊し、……まるで熱く濃厚な白濁液が、全身にびしゃびしゃとかかるような快楽の中、(………わう)白黒反転、流石にリュカもぐるりと目を剥くと、そのまま意識を暗転させた。
チョコレートミルク。ちょこれーとみるく。
……流石に抜かずでは三回が限度、完全に凶暴さを失った陰茎がずるりと膣内から抜け落ちるのに及び、そこでようやく少年は唇を離し、少女を腕の中から解放した。ずるり、と腰に乗っけられていた脚が汗で滑り落ちて、こてん、と横を向いていた彼女の身体が、まるで人形みたく仰向けに転がる。
乱れた呼吸を整えながら、そんな彼女をぐらつく頭で眺めていた。兄達から伝え聞いた、本当に気持ち良くなってしまった時の女の様子と比較して、自分の戦果がどれほどか、何点満点かを考える。(……98点、かなー)――分かってない。(漏らしたしイキまくったし目ぇガクガクしてて涎鼻水で焦点は合ってねーけど、流石に失神はしてねーし、白目でも泡吹いてもねーもんな)
泡も吹いた。失神もした。その瞬間ずっとキスしてたので気がつかなかっただけだ。どうもロアは『失神≒気絶』だと勘違いしているようで、実際15秒ほどリュカは白目を剥いてた、見逃したのは完全にロアの不注意だ。98点どころか120点……いや、100点満点での200点だろう。なのにその辺を全然分かってない、これだから教養のない野良英雄は困る。
でも、『ああでもすっげぇ良かった、今までの女の中で一番良かったなー』とか思いながら。「………っと」ぐったりするリュカを抱きかかえたまま、器用にごろごろ、左から右へと転がって、汚れてないシーツの上に移動した。ついでにいつの間にかずり落ちていた、掛け布団代わりの薄布を掴むと、端っこのところでぐしぐしと、彼女の顔を拭ってやる。――そこまで出来ないほど野蛮人ではない。自分の口元も吹き、性器周りの汚れも吹き取って、同じく相手にもそうしてやる。…ぱっくりと広がってしまって戻らない陰唇から、もうほとんど精液と見分けのつかない、白濁した愛液が零れてるのを見た時は、思わず萎えた陰茎が反応しかけたが、幾ら何でもそれは抑えた。――そこまではロアもバカじゃない。
そうやって一息つくと、改めて女の横に寝転がり、汚れてない方の布を掛けてやる。特に意図もなくリュカを抱き寄せ、何となく頭を撫でてやってたら、ふいに仰向けに虚ろを見ていた彼女が、か細い声で呟きだした。「………私」「ん?」男はとてもバカだったが、「…私、…犬じゃ、ないです」「………」こんな時何と答えるべきなのかを間違えるほど、「……犬じゃ、ないよぅ」「……うん」そこまでの無神経、阿呆ではない。
「そうだな、犬じゃないな」
* * *
夢を見ているように幸福なのは、英雄の方とて同じだった。 彼女が男の素敵さを再認識したように、女の素晴らしさを再認識できた。
「……犬じゃないぞ」半身を乗せて抱きかかえるようにして、左胸に少女の頭を感じながら呟く。「……犬なもんか」柔らかな身体の心地よい重さに、自身もウトウトして英雄は言う。腕の中には、泣き疲れてくーくー寝ちゃった彼女。自分が鳴かせて、自分がイカせて、自分が幸せにした、自分の彼女。
…本当はちょっと、『女ってそんなにいいもんかなぁ』とか思いかけてた。…本当はちょっと、『セックスってそんなにいいもんかこれ?』とか思いかけてた。
五月蝿くて、面倒くさくて、壊れやすくて、すぐ泣いて、一緒にいると疲れて。…頑張っても頑張っても気持ちよくできない、痛がられる、泣かれる、うんざりされる。だけど家族や悪友や部下の手前、男の見栄っていうか、意地っていうか、…ちょっと怖くて認めたくない部分もあった、『自分はへたっぴ』で『難モノ持ち』だと。そういう普通の10代後半らしい、普通の悩み、普通の劣等感があったのだ。城主でも、将軍でも、領主でも。…王子でも王族でも英雄でも。
でも今はそんなモヤモヤぶっ飛んだ。実にすがすがしく爽快な気分だ。――なるほど、これが真の女の良さってやつか!――なるほどこういうのが『相性抜群』、こういうのが『へぶん状態』ってやつか!!天恵得たりとはまさにこのこと、今なら目から鱗だって撃てる。
「……りゅか」だから溢れんばかりの愛情と共に、愛しい少女の名前を呼ぶ。たった一晩、たった一回で、今までのどんな女よりも彼女のことが好きになってしまった。こんなに孕ませたいと思ったのは初めてだし、中出しの気持ち良さも別格だった。キスしてるだけで心が満たされ、こうやって抱いてるだけでも幸せになれる。肉欲から始まった恋だけど、得がたいものだとは分かるからこそ、誓って込み上げてくる愛しさは本物だし、大事にしたい、大切にしたい。このくすぐったいじんわりを、ずっとずっと消したくない。
予想外の大魚、意外な埋蔵金、砂漠で蹴躓いたらダイヤモンド。英雄だろうと皇帝だろうと、届かない奴には永遠に手に入らない至高の宝。それを思い、今回の遠征の一番の収穫はこいつだったなぁと思いながら、少年はゆっくりと眠りに落ちた。
優れた剣には優れた鞘を、大きすぎる陽には大きすぎる陰を。 救済を与えて救済を得、自信を与えて自身を得、互いを高めて互いに得る。 得たのは比翼、得たのは連理。
虎王ロアネアムと犬姫リュケイアーナ。 二人の名前が天下に轟き、歴史に名前を残すのは、もう少し先の夜明けの話だ。
<終>
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