伝説の魔神、ナヴァルの再来と人々から恐れられるアニーは、今小鳥のように震えていた。
目の前にはむくつけき大男―――とは全く無縁の、華奢な体躯の優しげな微笑を浮かべた男が一人。
吹けば飛ぶような細身の身体は、アニーが本気になればあっという間に腕をへし折り、窓から叩き出しているはずだ。
なのに、今や指一本自由に動かすことが出来ない。
男は柔らかい笑みを浮かべながら、またひとつ、口づけを落とした。
男の腕に挟まれたアニーはまた小さく震え、吐息を洩らす。

「……可愛い」

普段のアニーなら、烈火の如く怒り狂ったであろう。
強靭な肉体と精神を誇る女戦士にとって「可愛い」という言葉は屈辱以外何物でもない。
なのに―――
アニーは、胸の奥底から沸き上がる歓喜にうち震える。吐息にはいつしか甘やかなものが混じる。
こんな―――こんな自分がいたなんて。
驚異を持って、男を見上げる。
涙がつうと睚を伝い落ちるのを、男はその白い指先で絡め取る。

「怖がらないで……」

また、羽毛のようなキスをひとつ。
たったそれだけなのに、男の触れたその部分が炎のように燃え上がる。

「僕のアーニャ」

耳元に涼やかな声で囁かれ、アニーはついに小さな声を洩らした。

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最終更新:2010年04月25日 00:18