漆黒の闇が太陽によって消される前
古ぼけた屋敷に喪服のような黒のローブを纏った女の均整のとれた足音が響く
やがて足音がとまり、魔法認証による解錠音とともに、扉が開く
物言わぬ闇の空間に通路の松明が灯され、彼女の淡い影が闇の方へと伸びていく
主人と二人だけの屋敷に明かりを灯すことが、彼女の最初の仕事である。

彼女の名は、リタ・フェルナンデス。
とある組織のトップに仕える女である。
席に着いたリタは、まず依頼主から届く案件の確認を行う
その後、その後、分刻みで詳細な計画を立て、それを頭に叩き込む
無論、不測の事態に備えての、回避策とその優先順位も確認しておく
このようなことは普通の秘書でも行うだろうが、リタの凄い所の一つとして挙げられるのは、絶大な予想能力である。
まるで不測の事態などあり得ないかと思うほどの洞察力、判断力ともに著しく優れているのだ。
もう一つ、依頼主の案件のほぼ全てを、彼女一人でこなすということ……。

こうして、リタは業務の殆んどを、この早朝に行う。
リタは席を立ち、当日必要となる、道具の準備と整理を行い、備品のチェック、自身の魔力の管理を行う。
マスターに余計な心配をさせない様に、細心の注意を払って、部屋を整える事も彼女の習慣である。
空が白ずみ始めた頃、リタは窓の覆いを魔法で一斉に開けマスターを出迎える全ての準備が整う事となる。
そして、ここから早朝最後の習慣がはじまる。
部屋の片隅にあるキッチンに向かったリタは市場で手に入ったばかりの新鮮な水が入ったやかんに火をかける。
そのまま、さまざまな薬草を挽いて粉末状にした薬缶を取り出す。
その所作には一切の無駄がなく、熟練の職人の機能美すら感じられる。
日々完璧な結果を求められ、それに答え続けているリタだが、
早朝、マスターの為に煎れるこの薬湯だけは、どんなに完璧な手順を踏んでも毎日異なった味になる。
そのような不確定故の楽しさを仕事に求めるのは御法度であると認識しているリタはこの時間のみ、そんな楽しみを見出している。
窓を通して差してくる朝日を眺めながら、カップに口をつける。
マスターの為の苦味の利いた薬湯が口に広がる。
一口一口をゆっくり楽しみ、その数が五回目になる時、カップの薬湯が底を尽きる。
これも日々繰り返される習慣の一部。
薬湯を飲み干したリタは、マスターの為に用意した分量の薬湯のみを残し、手早く薬湯を煎れるのに使った道具を片づける。
器具の手入れも済ませ、最後にカップを洗浄したところで、壁掛けの時計が鳴る。
マスターが起床する時間だ。
リタは薬湯をトレイに置いて運びながら、部屋を後にして師の部屋へ向かう。

「おはようございます、マスター」

「おはようリタ、仕事のほうはどうかね」
ベッドの上から、声が聞こえる、その初老の男こそリタを一流に育てたマスターである。
彼の本名は彼女が捨て子だった頃に拾われてから今までリタは知らない。
「極めて順調です」
マスターは闇から人々を守る組織の長であった。
あの頃、暴君の将軍と皇帝の親子によって、あの国は荒れ果ててしまった。
彼は光の当たる世界の者を闇から支援した。
しかし、代償は重かった、リタを除く多くの同胞達、そして息子、妻らが自由と解放の為に命を落とした
それに加えて、“奴”との戦いで、決して身体から消えぬ病を植えつけられてしまった
辛うじて知り合いの薬師によって、延命しているものの、死は刻々と迫ってきている。

「マスター、今日は天気もよろしいでしょうから、散歩に行きませんか」
「……そうするか」
リタから注がれた薬湯を飲み干したマスターは力なく返事をするが、リタはテキパキと車椅子を用意する。
この空間に長らく篭ってしまうと、気分が落ち込んでるのではないかと感じてるリタは事あるごとに、マスターを外気に触れさせてる。
「車椅子へどうぞ、マスター」
「……ああ」
またマスターは力なく頷く。
外気に触れれば気分も良くなるだろう、そう考えていたリタは、己の算段が外れてしまい
マスターの具合が悪かったのかと心配になる。
「お疲れになりましたか」
「いや、そういう訳ではない」
彼の目線には光が差す窓があった。
この時リタにはある無力感が去来する。

―闇に生きる我らは光にあたってはならない―

マスターの働きは絶賛という言葉では評価しきれない程の働きだった。
しかし、この国に対してさらに貢献する道をマスターは選ばなかった。
我々は目立ちすぎたのだと。
多くの仲間を失い、リタと二人だけになった彼は、国からの報酬を断った後、リタと共に国を去り
新しい国でこの主のいない古い屋敷を隠れ家にして、組織を再興するするはずと彼女は思っていた。
だが、彼の身体の病状は進み、仕事を全うすることも困難になってきた。
リタ一人の稼ぎでは、新たな弟子をとるどころか、日々の生活すら霞を食う生活が続いた。
だが、ようやく余裕ができた頃にはマスターの病状はかなり進行していた。
薬で延命することしかできないリタは無力感と絶望感がリタの心を押しつぶそうとする。
「…タ、リタ」
マスターの呼びかけに気づき、リタは我に返る
「リタこそ大丈夫か、気分がよくなさそうだが」
心配そうに声を掛けてくるマスターの声、そんな何気ない一言であったがリタは完全に気を取り戻す。
リタはマスターにそっと微笑みを返す。
「いえ…大丈夫です」と。

リタは身支度を済ませ、ベッドで本を読むマスターの前に立つ。
「では、行ってまいります」
「死ぬなよ」
「はい、マスター」
その日の夜……
広大な敷地に建てられた豪邸でパーティーが行われていた。
豪邸内で最も広いホールでは、盛大に貴族の婦人達が着飾り紳士服で身を包んだ男達に手を引かれ、音楽に合わせてダンスを踊る。
そんな中、ホールから遠くはなれた寝室で、男が、アンティーク調の、いかにも豪華と言うべきベッドで横たわっていた。
しかし、既に男の呼吸は止まっていた。
唯一の明かりとなる月明かりが、男を照らす。
すると、ベッドの側にメイド服姿の長身の女性がいるのが確認できた。
背中まで届く黒髪の、白い肌の無表情の女である。
女は、手にしていた毒入り針を懐に戻すと、男の首元に指をやる。
完全に息絶えた事を確認すると、全く表情を歪めぬまま寝室を後にして廊下に出る。
途中、衛兵数名と出会ったが、会釈を行うだけで別段メイドを不審に思われる事はなかった。
女はそのまま近くの洗面所の個室に入る。
そこには下着姿の少女が気を失ったまま便座に座っていた。
だが、彼女は娘に目もくれず、足下で丁寧に畳まれた愛用の黒いローブに着替える。
そして、ローブのおいてあった場所に、今度は少女のメイド服を同じ様に畳んで置いた。
それから、何食わぬ顔でホールへと脚を踏みいれる。
会場はここ一番の盛り上がりをみせ、クラシック音楽を奏でる演奏者達の演奏にも熱が入っていた。
何度か、紳士達が彼女に気づき、手を差し伸べたが女はそれら全てを丁重に断った。
会場を一瞥し、未だ不審な動きが会場内から見られない事を確認し、そこから離れる。
酒を浴びる様に飲んだのか、二人の門番はともに彼女を見ると、もうお帰りですか、そう声をかけたきり側にあったボトルでまた乾杯をしていた。
黙って一礼すると、やや足早に敷地内を横切り屋敷へと向かった。
依頼主に対しての任務完了の旨は明日伝わることだろう。
彼女にとって大した仕事ではなかったが、支払われる報酬は十分すぎるほどだった。

そして彼女は帰宅後、夜遅くなったにもかかわらず、炊事・洗濯・掃除とテキパキとこなす。
マスターのために食事を作った夕食も終わり、食器を流しに置いてピカピカに洗浄する。
「もう少し、楽しんできたらどうだ」
「いえ。不用意に動いては怪しまれるだけですから」
マスターが、冗談めいた言葉でリタに話すが否定とともに遮る。
「リタ。今日は久しぶりに…いいかな」
彼は唐突にこう言ったのだ。
「ええ」
彼女の返事はただこれだけである。

・・・・・・

金銭と生活に余裕のできた頃、師は彼女に最後の願いを彼女に託していた。
一つ目は組織の再興、生きる場を失った者に知恵と技術を与え、導く事。
二つ目はマスターの死後、マスターの称号をリタが受け継ぎ、務めを果たす事
三つ目は師の血筋を残す事……

「ん、っく、ふぁ」
ベッドの上で二人の舌が絡み、粘膜同士が甘く擦れ合う。
この時、リタは冷徹な暗殺者としての仮面を取り去り、師であり父であり愛人であり……夫でもあるマスターに愛される“女”になる。
彼が気を緩めてやると、今度はリタの舌先が中に押し入り、師の舌の裏まで這いずりまわる。
リタはうっとりした表情をマスターに向ける。
マスターはそのまま彼女を抱きよせ、リタの服の内側に手を這わせ感触を楽しむ。
くびれた腰、張りのある尻と胸を賞味していく。

「くはぁ、ぅうんっ……」
心地よく、だけど焦れったさをかきたてられ、思わず吐息を乱す。
外腿から内腿へと愛撫する場所を変えていく。
「はぅうぅぅんっ!」
彼の指が送り続ける快感に彼女は全身を震わせて喘ぐ。
もはや、座っているのがやっとの状態だった。

「はぅうぅぅっつ、ふぁ、あんっ、ひゅうぅぅう。やはぁんっ…」
師の指は彼女の陰核に触れる、皮一枚隔てて、尖りをつぶされ、形をわずかに変えながら弄ばれ続けている。
不意に彼の責めが緩まって、リタが気を抜いた瞬間。
現れた愛らしい突起を、思いきり抓まれる。
「ひぎゅうんっ!はうぅんっ、ぁんっ、やぅうんっ、いうっ、いぅうぅぅっ――――――んっ!」
愉悦が爆発し、絶頂へとリタが押し上げられる。
リタはマスターにもたれかかったまま、嬌声をあげ、彼の身体を抱き締める。
下半身が愉悦に侵されて、どろどろに溶けてしまったかのようで、ただ、肩で息をするぐらいがリタにできる唯一の事だった。

「いくぞ…リタ」
「はい…マスター」
ゆっくりとベッドに仰向けにし、彼女の両腿を左右に押しひらく
同時に役目を失った下着を引きおろし、蜜液で潤った割れ目がのぞいた。
リタの上着も残さず剥ぎとって、丸裸にしていく。
貴族の婦人らのように豊満な胸など目立つ長所的な部分は無い。
だが誘惑も可能な程の魅力的で見事にバランスのとれた肢体をリタは幼年期の頃から作り上げられていた。

彼も堪らず衣服を脱いでいく、初老で余命少ない男のものとは思えない程の肉体がリタの目の前に姿を現す。
分厚い胸板に割れた腹筋、盛り上がった腕と脚の筋肉、そして傷痕だらけの身体が彼自身の歴史を語っていた。
脱ぎ終わったと同時に勃起した肉棒を押しあてると、膣口から、さらに蜜液があふれ出す。
マスターに愛される喜びと期待が、リタの胸を支配する。

彼のいきりは膣壺へ滑り込むようにつるりと、あっというまに根元まで入ってしまう。
「はぅうぅぅんっ!マスターのがいっぱいで、すご、い…っ、ふぁぅ……ぁんっ」
下腹部に満ちた彼の圧迫感に、息がつまりそうになる。
マスターはそのまま腰をゆっくりと使いだす。
雁首が内側をえぐり、膣壁をかきまわすたびに、リタは蕩けるような悦びを感じつづけた。
「っくぅ……ひゃぅぅんっ!あんっ、ひぅうんっ!やぅんっ!…ぁんっ、ぁあん!」

マスターの腰使いはますます激しくなっていく。
前後左右の膣壁を擦りあげられるたびにリタは全身を震わせて喘いだ。
全身に連続で押し寄せる快楽に、リタはあられもない声を何度もあげる。
「やぅんっ!ぁんっ、ぁん、あんっ!ぁんっ!ぁ、んぁっ!」
マスターは両腿をさらに押し広げ、より深く肉棒を突きたてられた。
何度も何度もリタの中に叩き込まれ、彼女の膣底を激しく責め立てた。
衝撃に内蔵までもが激しく甘く揺さぶられていうかのようだった。

彼が手塩に育てた暗殺者は喘ぎ、感じ、乱れて、ただひたすらに夫を求め続けた。
「―――っ、もう、だめっ、マスターのぉっ、マスターのが、欲しいですっ!ぁうんっ、いぅぅぅうっ!」
今まで以上に大きな嬌声と共に、びくんと身を震わせて、絶頂に達した。
絶頂の悦楽の深さに、ぐったりとその場に横たわってしまう。
「俺も、いくぞ――――」
リタの膣腔の筋肉の締め上げと同時に、精がリタの内側に注ぎ込まれた。
何度も膣壁に刺激され、そもまま精子が噴き出し続ける。
「ぁ、ふぁぅんっ……、マスター、熱い…」
マスターはそのまま顔を近づけると、仰向けのままのリタは抱きとめるような格好で師を受け止める。
唇をリタのそれと重ねると、その粘膜の蕩けるような感覚を貪った。
二人は繋がり合ったまま互いの身体を抱き締めあう。
孤独から生まれ、師と出会い色々な物を得たリタ。
築き上げてきた多くを失ったマスター。
互いの足りない部分を補うように二人は一つになっていく………

・・・・・・

5年後にマスターが死ぬまでの間に4人の子どもをもうけた。
彼らが中心となり、師の組織を再興させていったのである。
そしてリタは組織のマスターとして、後世に伝えられる伝説となった。
何十年も時が過ぎた頃、立派に育ち、組織を動かす程に育った子らと孫、弟子達に看取られながら、師と愛し合ったこの屋敷で彼の元に旅立った。
屋敷の傍に位置し、彼女の遺骨がある墓には二つの名が刻まれている。
師の本名と、リタの名が……。

終わり

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最終更新:2011年04月16日 17:08