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『背が高い』というのは、やっぱり古今を問わぬカッコいい王子様の必須要件だ。
なにせ部下への威厳も保ちやすいし、長身痩躯は伊達男の条件。
低身長に悩んだ王が歴史上ごまんと居ることからも、高い方が得に決まってる。
決まってるのだが。
「………」
「ん?」
ぐぎぎぎ、と音がしそうなくらい首を反らせて、少女は王子(仮)を仰ぎ見た。
「…おっきいですね」
「ん」
実に率直な感想である。
「…何食べたらそんなに大きくなるんですか?」
「? 肉とか魚」
実に明快な回答である。
並んで立てば殊更に分かる、少女の頭のてっぺんが、やっと少年の鎖骨下。
こっそりぐぐぐと背伸びをしてみて、でも土台無理そうだと断念する。
…背伸びをしてさえキスができない。…踏み台でもない限り無理っぽかった。

彼女は決してチビではない。神賭けてチビ女ではありえない。
遠い未来と比べると、遥かに栄養状態の悪いこの時代、世の平均身長は低かったのだ。
…そりゃあ栄養状態に恵まれた、権力者有力者に限れば庶民の比ではないが、
でもそういう富裕層女性の平均値から見ても、彼女はあくまで『低め』程度。
庶民と比べれば『高め』な以上、やっぱり自分はチビ違う、くどいようだがチビ違う。
――相手が大きすぎるのだ。

過ぎたるは尚及ばざるが如し。

高すぎる背はもう『カッコいい』を通り越し、普通に『怖い』の域にある。
太すぎる腕はもう『逞しい』を通り過ぎ、『壊されそう』の域にある。
どうしてモテないんですかと訊いた時、
そんなん俺だって知りたいよと嘆かれ、今更のようにだが思い出した。
慣れれば可愛くて仕方ない、猫科の動物めいたその瞳も、
でも初対面者には恐ろしい獣の眼、残酷さ忌まわしさとしか取られぬのだと。
慣れてしまったからちっとも怖くなくて頼もしいのであって、
でもこんな巨体が肉食獣めいた笑みを浮かべ、のしのし近づいてきたら普通は怖い。
精悍ではあっても怖すぎる。野性的ではあっても虎すぎる。
哀しいけど存在自体がもう暴力だ、背が高すぎて、立ってるだけで威圧感。
ましてやこんな、褐色の肌に赤色の髪。
半裸で斧でも振り回し、騎士に討伐でもされてた方が、よっぽど似合う外見だ。

『んああああああ゙あ゙っ!!』
でもそんな蛮夷の少年の上で、少女はあられもなく雌の鳴き声を上げてしまった。
『ひはっ、ひあっ、はひッ!』
身長40cm差で肩幅も倍、体重もほとんど倍近い、巨漢と子犬の交わりは、
肌の色の対比もあり、客観的には純然たる暴力、強姦か陵辱にしか見て取れない。
ましてや白肌に無数の青痣、局部にピアスまで施され済みと来れば、
百人が百人男を疑う、誰もが暴虐の場だと断じただろう。
『気持ちいいい゙ぃっ、気持ぢい゙いよお゙お゙ぉっ』
はてさて盗賊団の若き頭にでも攫われて、調教されてしまった良家の令嬢か。
あるいは名のある傭兵に酷使される、性欲処理用の奴隷の少女か。
『いっ、イグッ!? 来てるっ、またイクッ、またイグぅッ!!』
どびゅん、と最奥に受けるあの衝撃。
『わおおおおオオオオッ!!?』
びちゅッ、と白い溶岩に、激しく子宮を撃ち抜かれる、抱っこされて逝くあの歓喜。


「…リュカ? どしたん?」
「いっ!」
一瞬で想起から引き戻され、子犬姫はギクリと引き攣った。
さぁて目に淫色は漂っていなかったか、はしたなくも涎は零れていなかったか、
ややキョドりつつも意識を走らせ、それでも迅速に立て直すとフォローを、
「ひゃあっ!?」
する暇もなく子犬みたく抱き上げられ、両脇から掬い上げられ宙吊られる。
ムードも何もなく、口付けされた。

「…いやらしいこと考えてたろ?」
「……わう」
火照った息を吐きながら、優しく意地悪く小さな声で、ご主人様に叱られた。
「分かんだぞ? 女の匂いしてるから」
「………」
デリカシーゼロだとか、王子様の嗅覚じゃねえよとか、そういうことはどうでも良かった。
虎さんの前ではどんな嘘も見抜かれる、それだけ分かれば十分だった。
その絶対性。逆立ちしたって自分は勝てないその事実。
少年が本当はどれだけ偉くて強くて凄いのか、その身に感じられるから少女は濡れる。
「今夜、また遊びに行ってもいい?」
隠喩も奥ゆかしさもない逢瀬への申し込みに、のろのろと頷きつつ少女は思う。
――自分達は一体、どういう関係に見えるのだろう?
「…ロア」
「ん?」
取り落として砂利の上に転がった扇子や、外れて植え込みに引っかかったストールに、
少なくとも『庭園を散策する王子様とお姫様』、それには見えないのだろうなぁとぼんやり思った。

「…大きいから好きですよ? …おっきいから好きです」

 

 

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最終更新:2008年12月27日 06:17