うっそうと茂る森は昼にも関わらず、穏やかな日の光も通さない。
時々、鳥の鳴く声が響くだけで人はおろか獣もいないかのような静寂さだ。
しかし、その静寂さを破る喧騒と草木を無理にかき分ける音がして
女は何事かとその音の方向に向かう。
「やっ、いやーー! 助けてー!! エリック!!」
「イザベルを放してくれ!! 頼む、金なら全部やる!!」
醜悪さが顔に滲み出ている男は仲間らしき、またそいつも、どう生きてきたか
分かるような顔の男にうつ伏せで押さえつけられている若者に言い放つ。
「へっへ、心配すんな。金も後で頂いてくぜ。
───あんたの可愛い子猫ちゃんとたっぷり楽しんでからな。」
と、覆いかぶさるように押さえている女のブラウスを引きちぎった。
派手な音を出してブラウスがちぎれ、たわわに実る二つのふくらみがむき出し
となった。
涙でグチャグチャになった女の顔が引きつり、唇が小刻みに震えている。
「イザベル!!」
若者の叫びも空しく、男は笑いながら女の胸を形が変わる程揉みながら、
締りのない口から長い舌を出し小さく突起した紅色の乳首を舐め回す。
「エリック! ──エリック・・・!!」
大男に押さえられては優男では太刀打ちできない。
身動き一つ出来ないでいる恋人を見て諦めたのか、助けを呼ぶ女の声も
段々と小さいものとなった。
「俺のモノの方があんたの男より数段上だぜ?」
下品な笑いをし、再び女の胸に顔を埋めたその時
「──────そうか。」
「─────ヴ・・・。」
ひゅんと鋭い音がしたかと思うと、女を襲っていた男の背中から血が吹き出た。
「ひっ・・・!!」
絶命し、なおも覆いかぶさる男から恐々女が逃げる。
「残念だな、もう二度と使えなくて。」
独り言のように絶命した男に話しかける───見事な赤毛の女が一人、剣についた
血を振って落としている。
若者を押さえている男の方は、何が起きたのか一瞬分からないでいたようだが、
片割れの背中から血が流れ、事切れているのが分かると
「てめえ!! 何しやがる!?」
と、剣を片手に赤毛の女に襲い掛かる。
赤毛の女は不敵な笑いを浮かべると、
「やかましい減らず口を閉じさせただけだ。」
男の大振りの一太刀をするりと難なく避け、下から持ち上げるように男を切りつけた。
「・・・・・。」
男は声も上げられずに、そのまま事切れた。
* *
「あっ、ありがとうございます。」
恋人の肌けた身体に自分のシャツを掛けながら若者は赤毛の女に礼を述べる。
ホッとしたのか、恋人の方も目を潤ませながら赤毛の女の顔を見た。
「───!?」
しかし、瞬間さっと顔を青ざめ俯いた。
女の顔は端麗であったが、左目に細かい装飾がついた眼帯を付けていた。
一難去ってまた一難とばかりに震えだす恋人を不思議そうに首を傾げる若者。
女の方を見て察したのか、赤毛の女は右手の平を上にしてヒラヒラさせた。
「─────?」
「お金よ!! 早く渡して!!」
訳が分からずますます首を傾げる若者に恋人は怒気した。
若者から金の袋を受け取った女は、それを腰のポーチに詰め込みながら淡々と喋る。。
「大方、愛を語り合おうとこの森に入って来たのだろうが、災難だったな。
─────この森は最近ならず者の隠れ家になっててな・・・死にたくなければ近寄るな。」
女は踵を返しその場から去った。
「自分こそならず者のくせに・・・。」
「────えっ?今の女性・・・何か・・?」
呟くように吐いた恋人の台詞に若者は驚く。
「知らないの? ほんとに?
───────隻眼のアーシャよ!」
「あっ!!」
若者も思い出し、震えだす。
「どこの賊にも入らず、孤高を保っている女盗人・・・彼女に掛かったら盗めない物は無い
と言う・・・。」
「・・・あの噂、本当かしら?
───────どこかの国の王女様を盗んだと言う・・・。」
恋人は思い出したようにぽそりと呟いた。
* *
下町の奥の入り組んだ場所にひっそりとある居酒屋。
分かりにくい場所の割には、その一角だけ賑やかだ。
それもそのはず
この居酒屋、国の許可なしで経営している裏の飲み屋で当然
真っ直ぐ日の光に当たって歩けない者達の憩いの場であり、また情報交換の場でもあった。
こう言う居酒屋は、定期的に無くなりまた他の場所で経営すると言うのを繰り返している。
裏ルートがあるのか、ならず者達は大して苦労せずに場所を見つけ出し大いに飲み食いしてい
るのだ。
そのカウンターの一角で、隻眼の女盗人アーシャが一人ちびりちびりとブランデーを口にしていた。
居酒屋で騒いでいる男達は、楽しく酒に食事に舌鼓をうってはいるが、
皆、この女盗人が気になるようでちらちらと視線を彼女に投げかける。
それもそうだろう
波打つ赤毛はランプの灯りに照らされ輝いているようであり
身体付きも、余計な贅肉が付いていないようでスラリとしている。
足を組みなおす度に見え隠れする太股のラインが、女らしい曲線を失っていないことを物語っている。
端麗な顔立ちに眼帯が付いてはいるが、艶やかな刺繍が施されており無骨に見えない。
女盗人はそんな視線を知ってか知らずか、2杯目のブランデーをバーテンに所望する。
「何か、面白い話は無いか?」
酒を所望ついでに話も催促する。
バーテンは「んー」と、目を上に泳がしながらアーシャの前に2杯目を置く。
「─────そういえば・・・マイケルが『素晴らしい牧場を見つけた』と言ってましたね。」
「牧場・・・?」
「あの男はいつでも盛ってますからね・・・。大方、そっち方面でしょうが・・・。」
バーテンがやや呆れ気味に言う。
バーテンの方はマイケルと言う名の男の話に辟易しているようだ。
アーシャの方も、『牧場』と言う意味を理解したようだ。
「マイケルは今此処に?」
「─────ほら、あそこに・・・。貴方を意識してるようですよ。」
バーテンは顎をしゃくり上げ、仲間と輪を作るように飲んでる細身の男を指す。
確かに、見えているのか分からない位の細い目でしきりにこちらをうかがっている。
不快になるから止めといた方が良い、と言うバーテンの忠告を尻目にアーシャはブランデーを片手に
彼に近づいた。
突然の指名にマイケルは手にしていたウイスキーのグラスを落としそうになる程驚いていたが、
どうにか平静を保ちつつ誘われるまま、宿になっている2階の階段を上る。
下から、冷やかしの掛け声や舌打ちする音が聞こたが
雲の上の人と言っても過言でもないこの美しい盗人に「儲け話がある」と個人的に誘いを受け、
これから起きる甘い期待に心も身体も既に彼女に奪われているようだ。
* *
「驚いたな。アーシャさんから儲け話を持ちかけられるなんて・・・。」
嬉しさで興奮し、やや早口で話をするマイケル。
興奮しすぎて飲むウイスキーが口からこぼれる。
アーシャは自分のブランデーを簡素なテーブルに置くと、笑みを浮かべながらマイケルの口元から
こぼれたウイスキーを舐めた。
「ア、アーシャさん・・・?」
アーシャは自分より背がやや高めのマイケルの肩に手を回すと、なぞるように彼の背中をさする。
そしてひとひきりさすると、ゆっくりとマイケルの腰に手を当てた。
その彼女の誘う指の動作にぞくりとした。
期待はしていたが早い展開に頭がぼーっとする。
アーシャはマイケルの耳元に口を寄せるとこう囁いた。
「お前の行きつけの『牧場』は『羊』の買取もしてるのか?」
それを聞いてマイケルは思い当たったらしく、ニヤリと一物もった表情をする。
そして自分もアーシャの引き締まった腰をなぞり
また、たまにはち切れそうに熟れている尻に触れる。
「───売りたい『羊』は、噂になってる例のですかい・・・・?」
アーシャはその問いに答えず、
「高く買ってくれる所を探していてね・・・。
あんた、その道につてがありそうだから・・・。いい買値を提示してくれる『牧場』を紹介
してくれないか?
──────もちろん仲介料は出すよ。」
と、薄笑いを浮かべた。
マイケルは他の女に無い脳髄をくすぐるようなアーシャの魅力に、もう自分の芯が熱くたぎり
準備を迎えてるのをどうにか堪えながら、冷静さを繕いながら彼女に伝える。
「仲介料・・・か。 たんまり貰えそうで悪くない話だが・・・。
──────俺が三度の飯より好きなもの・・・アーシャさんも聞いてるんじゃないっすか?」
「・・・・一番良い『牧場』教えてくれるかい? ───────そしたら・・・・ 。」
アーシャは自分の腹に熱くたぎっている物が当たっている彼のものを、腹を左右にわざとずらす。
ふいに刺激を与えられて彼は耐え切れず、彼女を簡素なベットに押し倒し彼女のスパッツを
下着ごと下ろす。
赤毛と同じく波打つ恥毛がマイケルの 視界を 思考を それのみにし、彼女の身体の隅々まで
支配したいという欲望にかられ、アーシャが何を自分に質問したのかまったく耳に残らず、
言われるがままに答えた。
アーシャは、自分の股間に顔を埋めている男の髪を触りながら、『牧場』の情報を聞き出す。
(昼間の大男らよりはマシか・・・・。)
心の片隅で自分自身を慰めながら・・・・・。
* *
マイケルは好色らしく、アーシャの身体を散々舐め尽し自分の精を彼女の体内にも、意外と滑ら
かだった肌に何度も放ち、いい加減にしろとアーシャに呆れられシャワーを浴びに行ってしまった
ことでようやく情事が終わったかのように見えた。
しかし彼の方はまだ事足りないらしく、一服済ますとそろりと足を忍ばせながらシャワー室に
向かう。
──────次があるかどうか分からない相手だ。
しっかり彼女の甘く喘ぐ声と、自分の愛撫にのたうつ姿を、細部余すことなく記憶に留めておこう
と───────そう思うだけで再び熱く反り立つ。
他の者より数段気配を感じ取りやすいであろう相手に、悟られぬようシャワー室に近づき、ドアを
開けることが出来るかどうか不安だったが、
いざとなったら無理に押し倒そうと、肌を合わせた気安さと甘さが彼にはあった。
が、しかし、容易にシャワー室のノブに手を掛けることができて拍子抜けした。
音に気を配りながら、そろそろとドアを開ける。
アーシャは壁に寄りかかり全身にたたき付けるように、お湯を浴び瞳を閉じていた。
あまりに強く出しているため、水圧の音で彼がドアを開けたのに気づかなかったらしい。
胸や 腹に 肌に 弾けては落ちる水滴のさまにマイケルはうっとりしながら、眠っているかのよ
うな彼女の顔を間近で見ようとドアから顔を出した。
瞬間、マイケルは驚いて声を出す。
────隻眼────のはず
彼女は若い頃に戦争に巻き込まれ、
受けた傷が元で左目を蝕まれ腐った果実のように落ちたと───────
仲間うちで聞く真しやかな話。
眼帯を外すと、あるはずの物はそこには存在していなく底の無い落とし穴のようだと・・・。
マイケルの驚愕した声に夢から覚めたように彼を見つめる彼女の瞳は
右目と同じ薄い茶の瞳をカッと開けてマイケルを凝視している。
「──────あんた・・・誰なんだ・・・?」
彼のその言葉に、彼女は弾けるようにマイケルを押しのけシャワー室から飛び出ると
床に転がっていた自分の剣を引き抜き、
驚きで半ば腰が抜けている彼の胸を一突きした。
ガバッ───────!!!
マイケルの口から、刺した胸から血が吹く。
白い裸体に返り血を浴び、彼女は震えながら既に絶命している彼に言い訳をする。
「お前が、お前が悪い・・・! 黙って覗くから!!
─────私がアーシャではないと知ったから・・・!!」
ひとしきり絶叫すると、彼女は剣をマイケルの身体から引き抜き倒れるようにしゃがみ込む。
「・・・・すまない・・・すまない・・・。
まだ私は、アーシャの振りを止める訳にいかないんだ・・・。」
平気で罪を犯して来た者達を、同じ犯罪者の振りをしながら生活し自分も罪を重ね、自分の
正体を知った者はこうして殺めて行った。
もう、全てを投げ出してしまおうか
罪の中に身を投げようか
何度そう思い、悶えたか
しかしその度に脳裏に浮かぶ、屈託無い少女の顔─────
(シルヴィア姫・・・・)
口からでまかせの私の話を純粋に信じ、盗人アーシャに捕らわれた。
人買いに売られれば、平民だろうが姫だろうが関係が無い。
器量が良い者は、仕込まれ、娼婦になりさがる。
まだ、それでも良い方だろう。
姫のような温室育ちには、きっと耐え切れない・・・。
壊れるか
自ら命を絶つか・・・・
王も王妃も、私を決して責めなかった。
─────そして諦めた・・・。
「シルヴィア姫・・・。私は諦めません・・・・。
───────タチアナは、姫を必ずお救い致します。」
もうすぐです
待ってて下さい
身体についた返り血も拭いもせず
止め処も無く流れる涙も拭いもせず
うわ言のように何度も呟いた───────