・・・──気がつくと彼の腕がからみついている─
まだ明け方の鳥も夢の中にいる頃
少しの息苦しさを感じ彼女は目を覚ます。
そして自分の状況を理解する。
「・・・まただ・・・」
彼女の婚約者─いや、恋人の腕が彼女をしっかりと抱え込んでいた。
首を動かして彼の様子を伺う。
彼は安らかな寝息をたててその深い眠りから覚める気配はなさそうだ。
「器用な奴・・・」
ひとつのため息とともに、見事に自分を放さないその腕に目を移す。
普段室内で働いている彼だが毎日の鍛錬を欠かさない自分の腕よりも色は白いが太くて逞しい。
──こいつも男なんだよな・・・
ほんの数時間前には彼は男で、自分は女なのだと感じるのがこれ以上無いくらいの行為をしておいて
不思議と彼女はそう思った。
騙されたような形で婚約者扱いされていたのはお互いがだいぶ幼いころだったが
その頃と比べるとやはり周りも二人も変わったと思う。
もちろんそれが嫌だとかずっと子供でいたいだとかそういう訳ではないのだが少しの寂しさも感じる。
──まぁ昔から性格は良いほうとはいえなかった気がするが・・・
恋人に対してにしてはひどいことを考えながら
彼女は自分を抱く恋人を起こさないように細心の注意を払い、そっと彼の柔らかくて少し癖のある髪を触る。
髪を触りながら普段の彼とは全く違うあどけない少年のような寝顔を眺めていると
彼女は温かくて優しくて、でも胸の奥が柔らかく締め付けられるような感覚で胸が満たされる。
──こういうのが愛というのだろうか?
こんな気持ちのときなら愛の言葉の一つや二つ言えるかとも思ったのだが
やはり照れくさいし自分には似合わないと思い、もう大人しく眠ることにする。
ゆっくりと瞳を閉じて自分を包む彼の体温を感じるとすぐに意識がぼやけてくる。
彼女はそのぼやけた意識のなか友人から聞いた異国の愛の言葉を思い出していた。
もう彼女は半分夢の世界に入り込んでいたし、
彼が少し眠りから覚めかけていたのにも、思わずその愛の言葉が口からでてしまっていたのにも気づけずにいた・・・
「 ・・・・・・・・・──ほ・・・しゅ・・・・・・ 」
おわり