アメジストの水槽の中に、彼女は直立した姿で浮かんでいた。
色素の薄い肌と髪は、誕生してから一度も太陽の光に当たった事がないのだろう。
『この魔法羊水に浸かったまま、彼女は一体何世紀過ごしてきたのだろうか?』
そんな感慨に浸っていた僕に、隣で同じく彼女を見つめていたリシィが尋ねてきた。

「なにかしら、これ? アルピノの人体標本?」
「いや、たぶん戦闘用ホムンクルスだ。完全体を実物で見るのは初めてだけど」
「ホムンクルス? こんなに大きいのが?」

リシィが信じられないのも無理はない。
僕もだって、文献と分解された臓器標本でしか見たことが無いのだから。

液体の中で眠り続ける優しげな顔からは、彼女が戦闘用生命だとは想像もできまい。
だが、この遺跡の状況等から推察するに、おそらく間違いはないはずだ。
彼女の水槽の他にも、僕らの周りには同様の培養槽が大小取り混ぜて存在する。
その中に泳いでいるおぞましい姿の生物、魔獣たちは、分類する名前すら存在しうるかどうか怪しい。
この僕でさえ、それらは魔法書の挿絵ですら見た覚えが無いのだ。
まさか、このような魔獣兵器に混じって、家事用の人造生命を作製していたという事とはあるまい。

しかし、魔法で作られた人造生命体は、大概身体のどこかにいびつさが現れてしまう物だが、彼女は違う。
すらりとした骨格。
肌の下の、伸びやかな筋肉。
閉じられた瞳と、整った鼻梁。
形の良い桃色の唇。
人体美の粋を凝縮したかのような、機能性に満ちた均整。
彼女の四肢のバランスの見事さには、僕も感動さえ覚える。

塔の魔力炉を製造するのに必要な、大量の水晶を掘り出そうと思って来てみれば、
またとんでもない代物を見つけてしまったようだ。

「……ウィル、どう思う?」
「うん、おっぱい大きいね」
「どこ見てんのよっ!!」
「リシィ、勘違いしないで欲しいんだけど?
 僕が言いたいのは、本来戦闘に必要の無い── むしろ邪魔にすらなる筈の部分を、
 これほど大きく、形良く、全体との均整を保ちながら造型した事に対し、
 製作者の意図的なものを感じるって事だよ」
「あ…… そういえば、何でかしら?」

首を捻るリシィだが、僕には判る。
つまり、彼女の創造主も、僕と同じおっぱい好きだということだ。

 

 

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最終更新:2008年12月28日 08:15