ナレーション | 昔々、美しい一人の奴隷がおりました。 彼を縛るのは、重い鎖ではなく、お姫様の愛情でした。 夜ごと夜ごと、お姫様は奴隷に愛をささやき、奴隷はそれに応えます。 縛られた体、縛られた気持ち。 動けないでいるのは奴隷とお姫様、本当はどちらなのでしょう。 |
ふぁきあ | あぁ。 俺は…。 |
(ふぁきあ) | (は、はなせ一人で歩ける。) |
(プリンセスチュチュ) | (だめ) |
ふぁきあ | そうか、プリンセスチュチュに助けられて…。 ふん、手当なんて余計なことしやがっ…!? おい。 |
プリンセスチュチュ | あ、ふぁきあ、傷どう? |
ふぁきあ | 傷どうじゃねぇ。なんでチュチュのまんまなんだ。 |
プリンセスチュチュ | え、ああ。 男子寮に入るのに普段の格好じゃまずいかなーって。 |
プリンセスチュチュ | な、なんか変? |
ふぁきあ | いや、世話をかけたな、悪かった。 |
プリンセスチュチュ | そんなのは全然平気。 あ、大丈夫? 動ける? |
ふぁきあ | ただし、だからといってお前と協力はしないからな。 |
プリンセスチュチュ | でも、みゅうとを探しに行くんでしょう? |
ふぁきあ | あ…。 |
プリンセスチュチュ | それくらい協力してもいいじゃない。 一緒にみゅうとを探そう。 |
プリンセスクレール | 何もかも、忘れてしまえばいい。 そうして、全てを私で満たしていけばいいのよ。 ここには誰も来ないわ。私とあなただけ。 だからあなたは私だけを愛すればいいのよ。 私だけを愛していると言って。 |
みゅうと | 僕はクレールだけを愛している。 |
プリンセスクレール | 本当に? |
みゅうと | 本当に…。 |
プリンセスクレール | まさか、どれくらい? |
みゅうと | ……。 |
プリンセスクレール | 愛してるなら、私に笑ってみせて。火祭りの夜のように。 |
みゅうと | どうやって? |
プリンセスクレール | もとのお人形さんに戻ってしまったの? 無理矢理心を引き抜いたから。そのせいで他の心も全て閉ざしてしまったの? それならそれでいいわ。 他の誰かを愛するくらいなら、誰も、愛さない方が…。 あなたがいけないのよ 私がこんなに愛しているというのに、私を見てくれないから。 ううん。悪いのはあなたじゃないわね。 そう、あなたが心を取り戻したりしなければ、何もかもうまくいっていた。 私もカラスである事を、思い出さなくても良かった。 全部、あの邪魔者のせい。邪魔なんだもの。 退場させるのなら早い方がいいわよね。 一人の王子に、姫君は二人もいらないの。 ねえ? ヘル・ドロッセルマイヤー。 |
ドロッセルマイヤー | なに! バカな! 今私を呼んだのか? |
プリンセスクレール | どこかで見ているんでしょう? |
ドロッセルマイヤー | ほ、ほう。私を呼ぶとは侮れん。 |
プリンセスクレール | 私が最高のお話を聞かせてあげるわ。 |
ドロッセルマイヤー | ええ! ホント? |
プリンセスクレール | 最高のお話には最高の終幕。それにはふさわしい舞台が必要よ。 |
ドロッセルマイヤー | うん、そうだね。それならばとっておきの舞台がある。 200年の間誰も立ち入るの事無かった湖。 そちらへご案内しよう。はっは。 |
あひる | みゅうと! ここにもいない。 |
あひる | いないねぇ。 |
ふぁきあ | いるさ。 俺たちが見つけられないでいるだけだ。 |
あひる | うん。あっ! レッスン室は? |
ふぁきあ | は? |
あひる | 今頃レッスン室で踊ってるかも。 |
ふぁきあ | なんでだよ。 |
あひる | え、だってみゅうとは踊るのが好きだから。 |
ふぁきあ | なわけないだろ。 |
あひる | だってだって、前にさらわれた時もいつの間にか戻ってたでしょ。 だから今回もそうかもって。 それにもう思いつくとこないし…。 |
ふぁきあ | うふっ。 だめもとで、行ってみるか。 |
あひる | えっ…。 あ、待って。 |
あひる | 日曜の学校って静かだね。 |
ふぁきあ | まあな。 |
あひる | あっ。 みゅうとかも! |
あひる・ふぁきあ | ああっ! |
猫先生 | んんにゃぁぁ! |
ふぁきあ | おい! |
あひる | え? |
ふぁきあ | みえてる。 |
あひる | え、なにが? え? え? |
猫先生 | んんんにゃぁぁぁぁ。ふぅぅぅぅ。にゃぁぁぁぁ。んにゃっぁぁぁ! にゃぁ! |
猫先生 | 私の日曜練習の邪魔をするのは、 |
あひる | はぁっ! |
猫先生 | あひるさん、わ、私のたゆまぬ努力を邪魔した罰として…、速攻結婚してもらいますよっ! |
あひる | すいませーん。 |
猫先生 | はっ。んにゃにゃにゃにゃにゃにゃ…。 |
ふぁきあ | 何やってんだよ。 |
あひる | だってー。 |
みゅうと | やあ…。 |
ふぁきあ | あっ! |
あひる | みゅうと! はぁ…。 無事だったんだ。よかった。 |
ふぁきあ | まてっ! |
みゅうと | 王子とカラスの話は知ってる? 勇敢な王子が大烏と戦うお話。 |
あひる・ふぁきあ | うぅ…。 |
みゅうと | 王子には信頼していた騎士がいた。 でもその騎士はカラスに一太刀も浴びせる事もできずに、 カラスの爪で二つに引き裂かれてしまったのさ。 王子を守るなんて口先だけの役立たず。 |
ふぁきあ | うぅ…。 |
あひる | ああ…。 |
みゅうと | だから王子はとても苦労をしたんだ。 お話から飛び出した大烏を一人で追って、一人で封印するしかなかった。 自ら、禁断の力を使ってね。 そう、王子は自分で自分の心臓を、取り出したのさ。 |
あひる | え、うそ…。自分で、自分の心臓を? |
るぅ | 本当よ。 |
あひる | るぅちゃん! |
るぅ | あひるは何も知らないのね。 プリンセスチュチュの事は知ってる? |
あひる | プリンセスチュチュって、あたし、別に、なに…。 |
るぅ | プリンセスチュチュはね、王子とカラスの中にほんの数行紹介されているだけ。 お話の人物でさえ誰もなりたがらなかった惨めな存在。 いつの間にかお話からも置きざられた取るに足らない存在。 王子に振り向いてもらえるはずもない。ただの賑やかし。 かわいそうね。 |
あひる | るぅちゃん、どうしてそんな話、あたしに… |
るぅ | ふふっ。 まだ気がついてないのね。 るぅなんて本当はいないのよ。 そろそろ気がついてもらえたかしら? プリンセスチュチュ。 |
あひる | プリンセスクレール!? うそ! だってるぅちゃんはお友達で、一緒にお喋りしたり、一緒に踊ったり! |
ふぁきあ | やめろ。 |
るぅ | そうね、でももうそんな馬鹿馬鹿しい事もおしまい。 |
あひる | るぅちゃん! |
るぅ | 今は王子の忘れ物を取りにきただけだから。これで失礼するわ。 |
ふぁきあ | 忘れ物? |
るぅ | ふふっ。 出来損ないの騎士ごときが持っていていいものでは無いのよ。 |
ふぁきあ | 王子の剣! いつのまに。 |
プリンセスクレール | 早く王子を助けにいらっしゃい。 うふふふ。ははははは。 |
あひる | あ、エデルさん。 エデルさん! |
エデル | 水は火に、火は闇に、闇はしじまに、惹かれるもの。 さあ、いきましょう。 |
ふぁきあ | え? |
あひる | どこへ? |
えでる | あなた達の行くべき所へ。 |
あひる | ここって……、エデルさん? |
ふぁきあ | あっ……。 鍵が。 |
エデル | ここから、王子とクレールのところへ行かれるわ。 |
ふぁきあ | こんな所に、入り口が? |
エデル | お行きなさい。 |
あひる | ありがとう、エデルさん。 いつも親切にしてくれて。 |
エデル | 親切ではないわ。 |
あひる | え? |
エデル | 人形は命令に従うもの。 |
あひる | 人形? |
エデル | そう、私は人形。 心も気持ちも持っていないの。 |
あひる | でも! エデルさん、いつもあたしにいろいろ教えてくれて、優しくて、だから……、あたしエデルさんのこと……! |
エデル | それは、それが私に与えられた役割だから。 命令はここまで。 さあ、お行きなさい。 |
ふぁきあ | 誰の命令だ? |
エデル | ふふふ……。 |
あひる | エデルさん……。 |
エデル | さあ、お行きなさい。 ……あひる? |
あひる | エデルさん、ありがとう。 行ってきます。 |
エデル | あひる……。 あたたかいのね。 それにやわらかい。 |
あひる | エデルさん。 |
エデル | さあ、急いで。 |
ふぁきあ | よし、行こう。 |
あひる | うん。 |
ドロッセルマイヤー | やれやれ、人形もあまり長く使いすぎると、人の心に興味を持ったりするから厄介だ。 忘れるんじゃないよ。 私のかわりにお話に輝きを添えるのがお前の役割。 お前に出来るのはそれくらいだ。 身の程を知らないことは危険だよ……。 |
あひる | こわ~。 あたたた! |
ふぁきあ | ばか! もっと真ん中歩け! ただでさえお前そそっかしいんだからな! |
あひる | わー、なんかすごいね、ここって。 ぐっ! ちゃんと前見て歩かないと。 ふぎゃっ! はぁはぁはぁ。 |
ふぁきあ | お前、ホントにプリンセスチュチュなんだよなあ? |
あひる | はあ、それがナニカ? |
ふぁきあ | いや、プリンセスチュチュって、なんか……、もっと……こう……。 |
あひる | は? |
ふぁきあ | いや、いい。 |
あひる | ねえ、ふぁきあ。 |
ふぁきあ | なんだ。 |
あひる | ううん、何でもない。 |
ふぁきあ | 何だ、言いたくないんなら最初から黙ってろ。 |
あひる | あ、……と、そういうんじゃなくて。 ふぁきあのこと騎士として駄目だとか思ってないよ、あたし。 |
ふぁきあ | 何が言いたい。 |
あひる | 言いたいっていうか、何ていうか。 最初はやな感じって思ったけど、今は少しだけわかるような気がするから。 |
ふぁきあ | 言っとくが、お前と協力し合うつもりはないからな。 俺は俺でみゅうとを助ける。 それだけだ。 |
あひる | ……知ってるよ。 |
あひる | あのさ。 |
ふぁきあ | ん? |
あひる | ううん、何でもない。 |
ふぁきあ | さっきから何だ!? 言いかけたことを途中でやめるな! |
あひる | ほんとのこと言うとね、みゅうとのどこがいいかとか、考えたことないんだ、あたし。 最初見たときはきれいな人だなって、それだけだったの。 でも、よく見たらものすごくさびしそうな目をしてて。 それでプリンセスチュチュになれば、この人のために何かしてあげられるって。 はじめはホントそれだけだったの。 でも、今は、あたし……。 |
ふぁきあ | くそっ! |
あひる | ふぁきあ! |
ふぁきあ | 走れ! |
あひる | うわ、ああっ! |
ふぁきあ | ばか! |
あひる&ふぁきあ | うわあああああ! |
あひる | ご、ごめん、怪我してない? |
ふぁきあ | ……のが奇跡だな。 なんだ、ここは。 ……またのぼるしかないか。 |
あひる | あ! うーん……。 あ! 水の中から抜けられるかも。 鳥になれば確かめてこられるけど……。 |
ふぁきあ | コケだらけで、のぼれそうにないな、くそっ。 |
あひる | ……ふぁきあなら。 ふぁきあ! |
ふぁきあ | なんだ。 |
あひる | 前に、この首飾りなくしたとき、ふぁきあが持っててくれたことあったよね? |
ふぁきあ | はあ? それがどうした? |
あひる | もっかい持ってくれる? |
ふぁきあ | なんなんだよ、一体……。 |
あひる | はい。 |
ふぁきあ | はあ? |
ふぁきあ | な、どうなってるんだ? あいつ、どこに……っ!? |
アヒル | くわっ! |
ふぁきあ | アヒル!? |
アヒル | くわっ! |
ふぁきあ | ……あいつ……。 これはチュチュになるためのペンダントじゃなかったのか? まさか……あのアヒル……っ!? |
ふぁきあ | みっともないとこ見られちまったな……。 |
あひる | 騎士として駄目だとか、思ってないよ、あたし。 |
ふぁきあ | 泣いてるとこ、見られた……。 |
ふぁきあ | まさか、おぼれてるんじゃないだろうな? アヒルっておぼれるのか? いや、あいつならありうる。 ……あのバカ……っ! |
アヒル | くわっ、くわくわくわっ! |
ふぁきあ | な、なんで……なんで言わねえんだよ、黙ってんなよ、そんなこと! |
アヒル | くわ? |
ふぁきあ | き、き、きたねーぞ! ! |
あひる | そんなこと言うけど! あたしだってばらしたくてばらしたんじゃないもん! でも鳥のあたしの方が小さいし調べやす……ん? ウヒヒヒヒヒヒッ! 見た? |
ふぁきあ | 見ねーよ! てゆーか、どうだったんだよ! それを一番に言うべきだろうが! |
あひる | だってふぁきあが! |
ふぁきあ | 立つなーーーーーッ! ! |
あひる | 水の中から向こう側に抜けられるの。 別の水のにおいがしたから、きっとこの先に湖があるの。 ね、まだ奥に行けそうでしょ? きっとみゅうとはそこにいるよ。 ふぁきあ、大丈夫だった? |
ふぁきあ | ……ふっ。 |
あひる | え、何? |
ふぁきあ | アヒルのプリンセスチュチュか。 |
あひる | え? |
ふぁきあ | いいことを教えてやるよ。 まだガキの頃、みゅうとに『王子とカラス』の話を読み聞かせてやったとき、あいつが一番興味を示したのは、自分のことでも大鴉のことでもなくて、ほんの少ししか書かれていないチュチュのことだったんだ。 チュチュが光の粒になって消えてしまうっていうくだりを何度も何度も聞きたがった。 心を取り戻したいって思うようになったのは、きっと返してくれるのがチュチュだからだ。 |
あひる | でも、みゅうとは自分で心を取り出したって……。 |
ふぁきあ | そういう奴なんだ。 誰かを……小さくて弱いものを守る。 それがみゅうとの一番の願いなんだ。 そのためなら、自分のことなどかえりみない。 心を失ってもそのことだけは忘れなかった。 そういう奴なんだよ。 |
あひる | ああ……。 |
ふぁきあ | ……行こう。 |
あひる | うん! |
クレール | やっと来たのね。 待ちくたびれたわ。 |
あひる | あっ……。 みゅうと! |
ドロッセルマイヤー | ようこそ、とっておきの舞台へ。 さあ、最高のお話を聞かせておくれ! 命もかえりみず語っておくれ! はっはっははははははは! |
チュチュ | お願い、もうこんなことはやめて! |
クレール | そうね、もう終わりにしましょう。 王子の愛する心はここにあるわ。 人を、世界をすべて愛する心。 まだ誰のものでもない。 このかけらは私とあなた、どちらを選ぶのかしら。 思いのたけをささやいて、どちらの言葉にひかれるか。 かけらがチュチュを選ぶなら、王子とかけらを返してあげる。 さあ……、語ってあげたらどう? あなたの思いを。 ねえ、プリンセスチュチュ? |
チュチュ | ねえ、どうしてこんなふうに争わないといけないの? だって、私たち……。 |
クレール | 所詮あなたはプリンセスチュチュの力を借りているだけの見せかけだけのプリンセスなのよ、あひる。 |
ふぁきあ | プリンセスチュチュの運命を笑って受け入れることができるような奴はお前以外にない。 |
みゅうと | 君が僕のプリンセス。 |
クレール | そう、私こそがあなたのプリンセス。 |
チュチュ | 本当の私は何の力もないただのアヒル。 でも、あなたがいれば、私は変わる! ドロッセルマイヤー |
お話の好きな子、寄っといで。 |