ナレーション | 昔々、一人の男が死にました。 男が書いたお話の王子様と大烏は、お話から飛び出して戦い、 その末、王子様は自ら心臓を取り出し、その禁断の力によって大烏を封じました。 心をなくした王子様はある街で一羽のアヒルに出会います。 王子様を思う心でアヒルはお姫様に変わり、なくした心の欠片を集めるのです。 王子様は少しずつ心を取り戻し、とうとう愛する心も取り戻すことができたのです。 めでたし、めでたし…。 だけど、本当にそうでしょうか。 お姫様は王子様に愛を告げたとたん光の粒になって消えてしまう運命なのですから。 |
アヒル | くわっ。 |
アヒル | 王子様、綺麗…。 そうだ、王子様は王子様に戻れたんだっけ。 そしてあたしは…。 くわっ! あたし!? あたしは、もうただの鳥のアヒルで…。 |
あひる | あたしは…。 ぁ…。 |
あひる | あたし、王子様とパドドゥを踊ってる。 プリンセスチュチュじゃなくて、ただの女の子の、あたしが。 |
あひる | それは…。死のマイム…。 ふぁきあ? ふぁきあ! し、死んじゃだめぇ! ぇぇぇぇぇ。あ!? う、おおおお。 うぎゃ! |
アヒル | ふわぁ、夢かぁ。よかった。 あ、ふぁきあの夢…。 |
アヒル | ふぁきあ…。ぐわっ! あたしってばなに考えてんだろぉ。 うーん。 はぁっ! |
あひる | ふわぁっ! やったぁ! 夢だよね。そうよ、ただの夢。う…。 |
あひる | おまたせ、うわーー! う、あ。 本当あんた達っていつもご飯のことばかり。平和だよね。 ねぇ、知ってる? あたしってプリンセスチュチュなんだよ。王子様を助けるプリマドンナ。 まあいいけど、別に。 あれから一週間、ケガ治ったかな? 大丈夫だよね。 |
ぴけ | あひるー、起きてる? |
あひる | あ! |
りりえ | 早く! あわてて! |
あひる | え! |
りりえ | めちゃめちゃ急いで! 焦って! |
あひる | うそ! もうそんな時間? あ、あああーーー! |
りりえ | あぁー、いい音だわぁ。 |
ぴけ | そんなに慌てなくてもいいけど、とりあえず先行くよ。 |
あひる | はーい。 |
あひる | あー、やっぱし、あたしってあひるのままって感じ。なんにも変わってない。 あっ。 るぅちゃん、戻ってくるよね。 るぅちゃんはるぅちゃんだよね。プリンセスクレールなんかじゃないよね。 あ…。と…。 |
みゅうと | おはよう、あひる。 |
あひる | え!? あっ!? お、おはよう、みゅうと。あ、ふぁきあ…。 あ、け、ケガはもういいの? |
ふぁきあ | ふんっ。せっかく治りかけていたのが、お前の顔を見たら傷がうずき出したぞ。 |
あひる | ううぅぅ…。 |
みゅうと | 一週間も休んでいたから、心配してくれたんじゃないか。 |
あひる | (うん!) |
みゅうと | そんな言い方は良くないよ、ふぁきあ。 |
あひる | (うん、うん!) |
みゅうと | 気にしないでね、あひる。これからも仲良くしてくれる? 何でも話せる友達ってあひるしかいないから。 |
あひる | あ…。うん。何でも話せる…。 あたしはみゅうとに隠してる。プリンセスチュチュの事も。 鳥のアヒルだって事も。 ずるい? あたし…。 話さなきゃいけないよね…。 でも…。 |
みゅうと | あひる? |
あひる | あの、あたし、えっと、ホントは、ホントはね…。 |
ふぁきあ | プリンセスチュチュ! |
あひる | ぐわっ! あ…ちが、ちが…! |
ふぁきあ | ……が飛んでるぞ。 いや、ワニか? どっちだと思う、みゅうと。 |
アヒル | ぐわっ! |
みゅうと | 何もいないよ。 第一、チュチュとワニじゃ、全然違うよ、ふぁきあ。 |
アヒル | ぐわっ! |
みゅうと | ふぁきあ? |
ふぁきあ | あ? ああ、俺の気のせいかな? 確かに牛が飛んでるように見えたんだが。 |
みゅうと | 牛? |
ふぁきあ | 何でもない、気にするな。 |
みゅうと | 変だよ、ふぁきあ。 あれ? あひるは? |
ふぁきあ | さあな、俺の言い方が気に入らなくて、先に行ったんだろ。 |
みゅうと | そう。 ふぁきあはもっと女の子にやさしくしないと。 |
ふぁきあ | お前、プリンセスチュチュのことどう思ってる? |
みゅうと | なんだい、急に。 |
ふぁきあ | いつも心を戻すと姿を消してしまう。 正体が知りたいか? |
みゅうと | そりゃあね。 |
アヒル | …あ。 |
みゅうと | でも、今は知らないほうがいいのかもしれない。 いつかきっと話してくれる日が来ると思うから。 それより今は一日も早くすべての心を取り戻さなくちゃいけないと思ってる。 プリンセスチュチュの力を借りて。 |
ふぁきあ | みゅうと…。 |
みゅうと | ふぁきあも助けてくれるよね。 |
ふぁきあ | ま、一応騎士だからな。 |
みゅうと | ふぁきあならきっとそう言ってくれると思ってたよ。 そして、僕はお話に還っていく。 |
アヒル | みゅうと…。 |
ふぁきあ | それがお前の望みなんだな。 |
みゅうと | だって僕は、お話の王子だもの。 |
ふぁきあ | そうか…。 行くか、遅れると猫先生に怒られる。 |
みゅうと | うん。 |
ふぁきあ | 世話かけやがって! |
アヒル | ぐわーっ! 何言ってんのよ! あんたのせいでしょ! 遅刻して猫先生に怒られればいいのよ! あ、でも、もしかしてみゅうとの話を聞かせるために、わざと? ぐわっ! 遅刻だよー! |
ぴけ | 猫先生、かなり怒ってるみたいよ。 |
りりえ | いいわあ、絶好のタイミング。 あひる早く来ないかしら! |
あひる | そ~。 |
猫先生 | あひるさん。 ですね…。 |
あひる | あー、はい! いつも通りに寮を出たんですが、えと途中、ワニと牛が空を飛んでいまして、それで…。 |
猫先生 | あひるさん…。 相変わらず余裕たっぷり、まるで上級クラスの方達のようですねえ。 |
あひる | え? いやあ、それほどじゃないと思います! |
猫先生 | これからも私の授業に遅刻するようですと、再び見習いクラスに落ちてもらうか、私と…私と結婚してもらいますよ! |
ぴけ | こんなに頑張ってますから、許してやってください! |
りりえ | 見習いはともかく、結婚だけは勘弁してあげてえ! |
猫先生 | ふぎゃぎゃぎゃ! ふぎゃぎゃぎゃ! |
あひる | みゅうと…。 よかった、話が聞けて。 みゅうとの心のかけらを全部取り戻すまで、もっと頑張らなくちゃ。 |
りりえ | そうよ、あひる! 何だか知らないけど、頑張らなくちゃ! 頑張って頑張って、思いっきり失敗するのよ! |
あひる | うぃーうぃーうぃーうぃー! |
ドロッセルマイヤー | なんと穏やかな日々、なんと平和な日々。 だがそんなものはいつまでも続かないよ。 それがお話のいいところ。 ハッハッハ! ハッハッハッハ! |
猫先生 | いいですか、みなさん。バレエというものは、1に練習、2に練習。3、4が無くて、5に練習です。 では一体何のために練習するのか。それは基本を身につけるためなのです。 |
あひる | あぁ…。 |
猫先生 | 今日は皆さんに一つお話をしましょう。 よそ見をしたりせずに。 |
あひる | んん…。 あ…。 |
猫先生 | よーく聞くように。 |
あひる | はい。と、当然です! |
猫先生 | そう、あれは私がバレエスクールの学生だった時、偶然ニャジンスキー先生の練習風景を拝見することができたのです。 |
生徒 | えぇ…。ニャジンスキー… |
あひる | ニャジンスキー? |
ぴけ | 伝説のバレエダンサーよ。 |
りりえ | 何にもしらないのね。 |
猫先生 | 私たちバレエスクールの生徒がニャジンスキー先生の公演のお手伝いをした時の事。 私はまだ1歳と三カ月。生意気盛りの若者でした。 |
(若き猫先生) | はぁ…。 |
猫先生 | そう、それは奇跡とまで呼ばれたジャンプと、斬新な振り付けで天才の名を欲しいままにしていた、ニャジンスキーその人だったのです。 しかし、その時ニャジンスキー先生はゆっくりと、本当にゆっくりと、ただ基本に忠実な練習だけを繰り返していたのです。 |
(若き猫先生) | はあぁぁぁ…。 |
(若き猫先生) | はあぁぁぁ。 |
猫先生 | 気がついた時、私は思わず質問していました。 「あなた程の高名な踊り手はもっと特別な練習をしてるのかと思った」と。 先生の答えはこうでした。 「基本のできていない者に高い技術、崇高な精神を得ることはできないのだ」 このシューズこそは、その時ニャジンスキー先生に頂いた物なのです。 |
生徒 | うわぁ、すごい…。 |
猫先生 | そして私はこのシューズに誓ったのです。私の命をバレエに捧げようと。 |
ぴけ | ま、要するに基本練習をまじめにやれって事ね。 |
りりえ | でも、どんなに基本を練習しても、一生うまくならない人もいると思うから、気にしちゃダメよ。 |
あひる | あう…。 |
猫先生 | このシューズはこんなに傷んでますが、しかし私にとっては、世界で最も美しいシューズなのです。 |
みゅうと | う、うぅ…。 くっ…。 |
あひる | う? どうしたんだろうみゅうと。 な、なに? |
みゅうと | う、うう…。 |
みゅうと | は、はぁぁぁ…。はぁ、はぁ…。くっ、はっ、あ…。 |
ふぁきあ | みゅうと! みゅうと、戻ってたのか? |
みゅうと | ふぁきあ…。 |
ふぁきあ | レッスンの途中で急にいなくなってどこ行ってた? 探したぞ。 |
みゅうと | どうしたのかな。気分が悪くなってその後は…。 |
ふぁきあ | いきなり王子に戻ろうたって無理なんだよ、あまり頑張るな。 |
みゅうと | そして君のようになれって言うの? |
ふぁきあ | 何…? |
みゅうと | 僕には無理だよ。 ねえ、ふぁきあ、話があるんだ。聞いてくれるかい? |
猫先生 | ニャジンスキー先生の言葉、しっかり心に刻みましたね。 |
あひる | たとえ基本練習をまじめにやっても、一生うまくならない人は、一生うまくならないからぁ…。 えーと、何でしたっけ? |
猫先生 | はぁ。とりあえず明日は遅刻しないように。 |
あひる | はいっ! …って自信なーい。 |
ぴけ | ま、そんなに気にすること無いわよ。 |
りりえ | そうよ、遅刻はあひるの重要なチャームポイントよ。 |
あひる | うう…。 |
猫先生 | ぎゃーーー! |
ぴけ | 今の叫び声って? |
あひる | 猫先生!? |
りりえ | 事件? 事件なの!? |
あひる | うわぁぁぁ。 |
りりえ | もう、あひるったら野次馬根性丸出しなんだからぁ。 |
ぴけ | あんたのせいでしょ。 |
りりえ | うそぉ。 |
あひる | いたたった。ああ! くぅ! ぅぅぅぅ! |
りりえ | どこ行くの? あひる。 |
あひる | うわぁぁぁぁぁ。 |
ぴけ | 猫先生! |
りりえ | まあ! まあまあまあ! あひるのせい? あひるのせいなのね! |
猫先生 | んにゃ。 |
あひる・ぴけ・りりえ | うわぁ! |
あひる | ああ! |
あひる・ぴけ・りりえ | あー! |
あひる | ニャジンスキーのシューズ…。 |
ぴけ | ひどい…。 |
りりえ | 猫先生が自分でやったの? |
あひる | (どうしてみゅうとの事が気になるの? どうして?) |
りりえ | あひる、どこ行くのよぉ |
るぅ | んふふふふ。 |
あひる | どうでした? みゅうといました? |
ミーアキャット郎1 | いないよ |
ミーアキャット郎2 | いないね |
ミーアキャット郎3 | いないさ |
ミーアキャット郎4 | いないとも |
ミーアキャット郎1 | 最近どうかしたのかい? |
ミーアキャット郎2 | ふぁきあ |
ミーアキャット郎3 | 変だよね。 |
ミーアキャット郎4 | 変だ変だ。 |
ミーアキャット郎5 | キキキーッ! |
ミーアキャット郎1 | だってさ、図書館だよ。 |
ミーアキャット郎2 | ずっとこもってる。 |
ミーアキャット郎3 | 調べ物かな? |
ミーアキャット郎4 | 調べてるみたいだね。 |
ミーアキャット郎5 | にあわないね。 |
あひる | 図書館? |
ミーアキャット郎(全) | おっと! |
ミーアキャット郎1 | 今のはなし! |
ミーアキャット郎2 | 僕らが言ったなんて秘密! |
ミーアキャット郎3 | 別に詮索好きなわけじゃないからね! |
ミーアキャット郎4 | 好きだけどさ! |
ミーアキャット郎5 | キキキ。 |
ミーアキャット郎(全) | キキキキキキキキキキキキー! |
あひる | ふぁきあ、図書館で何を? ううん、今はみゅうとを探すのが先! あ、あれ? いるの? う~ん、見えない! うん、よし! |
ふぁきあ | 何!? 本当なのか? |
みゅうと | 今頃大騒ぎかな。 ふっふふふふふ。 |
ふぁきあ | なぜそんなことをした? |
みゅうと | 美しい思い出や夢がいっぱい詰まったシューズ……。 おかしい。 おかしいでしょ、ふぁきあ。 |
大鴉 | おお、わが娘よ。 |
クレール | お加減はいかが、お父様。 |
大鴉 | 悪くはない。 ……が、よくもない。 |
クレール | かわいそうに……。 でも、良い知らせがあるのよ。 |
大鴉 | ほう? |
クレール | お父様にいただいた鴉の血、あれが力をふるい始めたみたい。 |
大鴉 | そうか、王子の愛する心にしみこませた私の血が。 |
クレール | ええ、お父様の言いつけどおりにして本当によかったわ。 |
大鴉 | そうであろう、私はいつも可愛い娘の幸せだけを願っているんだよ。 |
クレール | 王子は変わっていくのね。 鴉を愛する王子に。 |
大鴉 | そしてお前と結ばれ、私の息子となるだろう。 |
ふぁきあ | おい、みゅうと! 何かが起こっているのか!? お前の中で。 |
みゅうと | だったらどうするの? また僕の胸を刺し貫くつもり? でもあの剣はもうないよね。 君が折ってしまったから。 |
あひる | うーん、よく見えない。 う……あーっ! ! こわっくない、こわっくない |
みゅうと | 怒ってるの? せっかく僕が心を取り戻したって言うのに。 |
ふぁきあ | お前の心はまだ完全じゃない! |
みゅうと | そう……。 早く完全に取り戻さなくちゃ。 うっ。 そうして……。 鴉に捧げてみようか。 |
ふぁきあ | お前は……誰だ? |
みゅうと | 僕は……、僕は……! |
あひる | うひょおおおお! うわあああ! ……こわかった! あ! |
みゅうと | あ……っ! はっ……! 僕は……! |
ふぁきあ | どうした、みゅうと! ・ |
みゅうと | 助けて、ふぁきあ! 僕の心が! |
ふぁきあ | みゅうと! |
あひる | 鴉……って、まさか! |
鴉 | カアアアァッ! |
みゅうと | あああああああああぁっ! ! ……チュチュ……。 |
あひる | みゅうと!? |
ふぁきあ | みゅうと、しっかりしろ! みゅうと……! |
みゅうと | ふっふっふふふふ! 僕が誰だって? ふぁきあ、今から君だけに教えてあげるよ。 よーく見るがいいよ。 |
ふぁきあ | お前……、みゅうと! |
みゅうと | ふふふふふ。 |
ふぁきあ | みゅうとー! ! |
あひる | みゅうと! ! |
生徒たち | キャーッ! |
ふぁきあ | ……あっ……。 |
みゅうと | ふふふふふ。 |
あひる | みゅうと! ダメ! |
チュチュ | みゅうと! |
みゅうと | チュチュ……。 |
チュチュ | よかった……。 |
ドロッセルマイヤー | ブラボー! いよいよ第二幕が始まりだ! おーやおや、騎士と王子、そして二人のプリンセス。 四人の役割はちょっとばかり変わりそうだね。 さあ、お話を聞かせておくれ。 楽しみにしてるよ、プリンセスチュチュ。 へへへへへへ。 |
あひる | みゅうと、ぴけのことが好きになったんじゃないの? |
ぴけ | みゅうと様があたしと付き合っても、あひるには関係ないでしょ。 |
りりえ | あひる、本当に? 本当にそれでいいの? |
みゅうと | お前は誰だ……。 なぜ、僕の中にいる。 |
ふぁきあ | お前か! みゅうとに何をした!? 本性をあらわせ、クレール! |
クレール | 王子は変わるわ。 私だけを愛し、お父様のために若く美しい心臓を見つけ、ささげるのよ。 |
みゅうと | 君の美しい心臓、僕にくれるね? |
ドロッセルマイヤー | お話の好きな子供はよっといで……。 |