「日の丸」「君が代」の強制に反対する市民アピール

「日の丸」「君が代」の強制に反対する市民アピール
                                   2003年3月12日

 1999年の第145回国会で、「日の丸」「君が代」を国旗・国歌であるとする法律が制定されました。国旗・国歌法の成立時に、政府は再三「強制するものではない」と表明し、法律にも「尊重義務」の規定は盛り込まれていなかったにもかかわらず、法制化以来、文部科学省と各地の教育委員会は、入学式や卒業式を中心として、学校の中で、子どもと教師に対して「日の丸」「君が代」の押しつけを強めています。

 「日の丸」「君が代」については国民の中に様々な意見や思いがあります。「『日の丸』は容認できるが『君が代』は容認できない」やその逆の考えもあります。私たちは、そうした様々な考えを前提とした上で、「日の丸」「君が代」の強制は、憲法が保障する「精神の自由」を侵すもの、あってはならないものだという立場でこの「アピール」を行うものです。

 入学式や卒業式において、会場のステージ中央に「日の丸」を掲揚したうえで、「起立、礼」という号令のもとに敬礼を強要し、式次第に明記された「国歌斉唱」の名のもとで「君が代」への伴奏を強制したり、起立し、声を出して唱うのを強いることは、人間としてのいちばん大切な権利をふみにじることです。自らの考え方、良いことと悪いことの基準、信仰の在り方から、「日の丸」に敬礼したり、「君が代」の歌詞を声に出して唱うことを、したくない、してはいけない、と思っている子ども、教師、参会者にとって、その強制は、自分の心そのものを裏切らなければならない、という一人の人間としての一番中心にある尊厳を暴力的に侵されることです。

 私たちは、憲法および子どもの権利条約が保障する、思想、良心、信教、表現の自由、並びに意見表明の権利を侵害する「日の丸」「君が代」の学校における一切の強制を、ただちにやめるように要求します。

 自分の思想、信条、信教上の理由から、「日の丸」に敬礼すること、「君が代」を唱うことに反対であったり、違和感を抱いている子ども、教師、参会者に起立、斉唱、伴奏を要求することをただちにやめて下さい。

 なぜなら人間は、自分の意思にそわない思想の表明を強制させられない自由、沈黙の自由、特定の思想を一方的に押しつけられることを拒む自由、そして押しつけられない自由を、基本的な権利として持っているからです。

 文部科学省と各地の教育委員会は、「リクルート」からわいろを受け取った高石邦男文部事務次官を中心にして作成された、1989年版の学習指導要領の「指導するものとする」という文言を「根拠」に、入学式や卒業式における「日の丸」「君が代」の強制を行ってきました。強制の達成率を100%にすることを自己目的化し、教育委員会は校長に、校長は教職員に対して「職務命令」を出すという形で、行政的強権によって全国的に統制しようとしてきました。そして「職務命令」に従わない者に対しては繰り返し処分を出し、精神的な攻撃をかけつづけています。

 私たちは「職務命令」による「日の丸」「君が代」の強制をただちにやめると同時に、これらの「職務命令」に従わなかった教職員に対するすべての処分を撤回し、今後一切行わないことを強く求めるものです。

 また「日の丸」「君が代」の強制に従わない教職員に対して、洗脳とも言える想像を絶する個人的な精神的攻撃が、「不適格教員」にしたてあげるかたちで日常的に行われてもいます。私たちは、基本的な人権である精神の自由を根本から侵害する、人間の心に対する攻撃をただちにやめるよう要求します。

 私たちは、「日の丸」「君が代」を容認するかどうかということは留保し、「日の丸」「君が代」の強制に反対することを一致点にしています。「日の丸・君が代」それ自体に対する考え方に様々な違いがあることは当然です。その違いについて自由に議論ができ、多様な立場が保障されるというのが、民主主義的な人間関係、人権を認めあう人と人とのかかわりの基本です。その基本を破壊するのが「日の丸」「君が代」の強制です。

 一人ひとりの心の自由を、教育が行われる学校現場で保障するために、多くの方々のアピールへの賛同を心から呼びかけます。

《呼びかけ人》
池辺晋一郎(音楽家)、大田堯(東京大学名誉教授)、尾山宏(弁護士)、喜多明人(早稲田大学教授)、北野弘久(日本民主法律家協会理事長)、小森陽一(東京大学教授)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、澤藤統一郎(弁護士・日本民主法律家協会事務局長)、高橋哲哉(東京大学助教授)、俵義文子どもと教科書全国ネット21事務局長)、野田正彰(京都女子大学教授)、西野瑠美子(ジャーナリスト)、森村誠一(作家)、渡辺和恵(弁護士)
(あいうえお順)
※なお、森村誠一は「君が代」の強制にのみ反対の立場で呼びかけ人になっています。

《賛同者》
青木恵子(日本YWCA会長)、青木輝光(税理士)、赤川次郎(作家)、浅井基文(明治学院大学教授)、味岡尚子(全国PTA問題研究会)、鯵坂真(関西大学名誉教授)、新井章(弁護士)、荒牧重人(山梨学院大学教授)、伊賀正浩(小学校教員・「日の丸・君が代による人権侵害」市民オンブズパーソン)、猪飼隆明(大阪大学大学院教授)、石部正志(元宇都宮大学教授)、石山久男(歴史教育者協議会事務局長)、市川須美子(獨協大学教授)、内田雅敏(弁護士)、永六輔、海老名香葉子(*)(エッセイスト)、大谷昭宏(ジャーナリスト)、大谷猛夫(中学校教員)、大津健一(日本キリスト教協議会総幹事)、尾木直樹(教育評論家)、小沢牧子(社会臨床学会運営委員)、笠原十九司(都留文科大学教授)、桂敬一(東京情報大学教授)、加藤幸子(作家)、加藤周一、金子勝(立正大学教授)、亀井淳(ジャーナリスト)、川田悦子(衆議院議員)、吉川経夫(法政大学名誉教授)、越田稜(アジア民衆法廷準備会)、小中陽太郎(日本ペンクラブ専務理事・日本キリスト教団「信徒の友」編集委員長)、小林直樹(憲法学者)、小牧薫(大阪歴史教育者協議会委員長)、早乙女勝元(作家)、佐藤信子(声楽家・二期会会員)、佐藤学(東京大学教授)、佐野洋(作家)、下重暁子(*)、壽岳章子(国語学者)、城丸章夫(千葉大学名誉教授)、新屋英子(俳優)、鈴木良、徐京植(作家)、申恵 (青山学院大学教員)、高嶋伸欣(琉球大学教授・高嶋教科書裁判原告)、田中伸尚(ジャーナリスト)、田港朝昭(琉球大学名誉教授)、土屋公献(弁護士)、坪井秀人(名古屋大学教員)、勅使河原平八、外山雄三(音楽家)、中塚明(歴史学者)、中西新太郎(横浜市立大学教員)、中村博(日本子どもを守る会会長)、中村政則(歴史学者)、永井憲一(法政大学名誉教授)、永原陽子(大学教員)、成嶋隆(新潟大学教授)、西原博史(早稲田大学教授)、朴慶南(作家)、長谷川孝(教育評論家)、羽田澄子(*)、東谷敏雄(元大阪教職員組合委員長・全国革新懇顧問)、平山知子(弁護士)、広川禎秀(大阪市立大学教授)、細見茂(弁護士)、堀尾輝久(東京大学名誉教授)、前田朗(東京造形大学教授)、増田れい子(ジャーナリスト)、松尾章一(法政大学名誉教授)、松村高夫(慶応義塾大学教授)、丸山昇、水島朝穂(早稲田大学教授)、三宅晶子(大学教員)、宮原武夫(元千葉大学教授)、三輪定宣(千葉大学教授)、三輪隆(埼玉大学教授)、無着成恭(僧侶)、毛利子来(小児科医)、本尾良(市川房江紀念館理事長)、谷口彰男(日本大学教授)、安川寿之輔(名古屋大学名誉教授)、山内久、横井久美子(シンガーソングライター)、吉岡数子(平和人権子どもセンター代表)、吉田晶(岡山大学名誉教授)、吉田ルイ子(フォトジャーナリスト)、渡辺治(一橋大学教員)
                 (2003年3月11日現在)(あいうえお順)
 ※名前の後に(*)が付いているのは、「『君が代』の強制にのみ反対」に賛同された方です。

      「日の丸」「君が代」の強制に反対する市民アピール事務局
       〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-6-1 小宮山ビル201
       子どもと教科書全国ネット21気付
        ・:03-3265-7606 Fax:03-3239-8590
        E-mail:kyokashonet@a.email.ne.jp


「『日の丸』『君が代』の強制に反対する市民アピール」がめざしていること

 「日の丸」「君が代」が法律で国旗・国家として定められて以来、文部科学省や各地の教育委員会は、学校(子どもと教師)に対する「日の丸」「君が代」の押しつけを強めており、憲法および子どもの権利条約が保障する思想、良心、信教、表現の自由並びに意見表明権を侵害しています。そのあまりにもひどい実態を見ると、時代が戦前・戦中に逆戻りしたのではないかと危惧される程です。これによって精神の自由や人間の尊厳は蹂躙されており、わが国の民主主義を危殆におとしいれています。
 私たちは、この事態を憂慮し、ここに「『日の丸』『君が代』の強制に反対する市民アピール」を立ち上げ、前記のようなアピールを出しました。

 私たちが願っていることは、わが国に精神の自由と人間の尊厳を確立することにより、この国の民主主義をたしかなものにすることであります。そのためには、現に行われている学校での「日の丸」「君が代」の強制をやめさせることが必要不可欠だと考えています。

 「日の丸」「君が代」については国民の中に様々な意見や考えがあります。たとえば、「日の丸」「君が代」を国旗・国家とすることや、それを法律で定めること自体許せないと考える人、「日の丸」はよいが、「君が代」は許せないと考える人、有事法制や教育基本法改正と一体にして反対の意思表示をすべきだと考える人、逆に「日の丸」「君が代」はかまわないが、学校で強制することはやめるべきだと考える人など様々な考えや立場の方々がおられると思います。私たち呼びかけ人・賛同者の中でもその点では同様の意見の相違があることも事実です。

しかし「日の丸」「君が代」を強制する力はきわめて強大ですので、他の点での考えや立場の違いを乗り越えて、未来の日本を担う子どもたちの教育の場での「日の丸」「君が代」の強制に反対するという一点で協力しあえる人を幅広く結集する必要がありますので、きわめて広範囲な人々に呼びかけ賛同を得ました(教育基本法について言えば、「日の丸」「君が代」の強制に反対することが、同法を擁護しあるいは学校で活かしていくうえで、不可欠な柱になると考えます。)

 この「市民アピール」で目指していることは、

・卒業式などでの学校における「日の丸」「君が代」の強制をやめさせる(例えば自分の思想・信条・信教上の理由から、卒業式で「君が代」を斉唱することに反対の子どもや教師、あるいは参会者に対して、起立・斉唱やピアノ伴奏を要求したりなどをしないこと、とくに教師に対して職務命令で強制しないことを要請する)、別言すれば子どもと教師の精神の自由と人間の尊厳を尊重して、「君が代」の起立・斉唱を拒否するなどの自由を認めさせる。

・学校における「日の丸」「君が代」の扱いは、子どもの権利条約12条に従い、生徒代表の参加を保障し、生徒代表と校長・教員との協議を通じて決めるようにさせる(同条は、子どもの意見表明権を保障していますが、これは学校運営への生徒参加を保障したものと解されています)。

・この目的のために、毎年の卒業式のある程度前に、上記の趣旨の市民アピールを出す。

・ 市民アピールは、記者会見で発表する。

・アピールの文書を文部科学省に提出し、責任者に面談して要請する。

・アピールの文書を各都道府県教育委員会に送付する。

・ 有力誌に掲載してもらう。

・各市民団体、教職員組合、教育研究団体、法律家団体などの機関紙・誌に掲載してもらう。

・以上により、一般市民に、このアピールを地元の学校長に提出するなどの形で利用してもらうようにする。

・年に一回、2、3人の方に有力誌に個人としての意見を書いて戴く。

・教師に対する懲戒処分事件(各都道府県の人事委員会審理や裁判)の弁護団や原告から証人の要請があった時には、呼びかけ人・賛同者が証人を引き受ける。

・各地の講演会やシンポジウムの講師ないしパネラーの要請があった時には、その要請に積極的に応えていく。
等のことを考えております。

 また全国各地でも、同じようにその地方の学者・文化人・市民代表を結集して、同じような行動をとってもらうように働きかけることも考えています。

最終更新:2005年12月07日 16:31
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