映姫9



うpろだ1233


「○○さん。そもそも貴方が風邪を引いたのは……」


(映姫様……お見舞いに来てくれた事、とても感謝しています)


「……であるからして、自己管理というものを……」


(映姫様のありがたいお話なら、僕は何時間でも聞いていられます……でも)


「……そして貴方が体調を崩したことによって、他の……」


(今の僕には……もう、む……り…………で…………)




















「……ですから安静にして休むこと。これが今の貴方が積める善行よ」


そこまで言い終えた私は、○○さんの様子がおかしい事に気がつきました。


「……○○さん?」

「はぁ…はぁ…はぁ…うぅ……」


呼びかけてみても反応はありません。
代わりに返ってくるのは荒い呼吸音と苦しそうな呻き声だけ。


「○○さん、大丈夫ですか?」


私は○○さんに近づき、赤くなっている○○さんの顔にそっと手を触れます。
刹那、信じられないくらいの熱さが私の手に伝わってきました。


「ッ!? た、大変です!!!」


この時、私は○○さんが病気だという事を思い出しました。
長々とお説教をしている場合ではなかったのに、私はなんて愚かなのでしょう。
いえ、今は悔やんでいる暇はありません。
苦しんでいる○○を助けるために最善を尽くす。
それが今の私に出来る善行なのだから。


「で、でも、一体何をどうすればいいのでしょう?!」


正直なところ、私には病気の人の看病をした経験などありません。
もちろん一般的な対処法などは知識として知っていますが、
それでもこんな状態の○○さんにどこまで役に立つのか解りません。
やはり永遠亭の薬師に頼むのが最善……


「いえ、それはダメですね」


確かにあの薬師ならば○○さんの病気を治す薬を処方するくらい容易い事でしょう。
しかし、それを口実に○○さんに対していかがわしい事をする可能性があります。
仮に病気が治ったとしても、それより性質の悪い効果の薬を飲まされては本末転倒です。
そんな危険がある場所に○○さんを連れて行くわけにはいきません。
ええ、やはり私自身の力で○○さんを救うしかないのです。
そう決意した私は、早速○○さんの看病を始めたのでした。










「……………ん」


そして僕は目を覚ました。
未だに高熱で意識が混濁しているが、眠った事が功を奏したのか今朝ほどではない。
とりあえず視界が完全に開けたところで力を入れ、何とか上半身だけ起き上がる。


「って、映姫様?」


そこで僕が見たのは、布団にもたれ掛かるようにして眠っている映姫様だった。
そう言えば映姫様がお見舞いに来てくれてたんだっけな。
でも、どうして映姫様がここで眠っているんだろう?
そんな疑問は、室内の光景を目の当たりにした瞬間綺麗に吹き飛んだ。


「……何だ、これ」


もはやカオスなんて言葉で言い表せるレベルではない。
超局地的な台風か地震でも発生したかのような崩壊っぷりだった。
布団の敷いてある周辺が無事なのは間違いなく奇跡だろう。


「…………んぅ……○○、さん?」


我が家の豹変振りを呆然と眺めていた僕を呼ぶ声。
どうやら映姫様が目を覚ましたらしい。
眠気眼を手でこする仕草はなんとも愛らしかった。


「映姫様、おはようございます」

「おはようございます……ではありません! ○○さん、大丈夫なんですか!?」


くわっ! と目を見開き、物凄い勢いで詰め寄ってくる映姫様。
その迫力に押されつつも至近距離にまで近づいた映姫様の顔に少しドキドキ。


「あ、その……朝よりはかなり楽になりました」

「本当ですか? この状況で嘘をつくことは許しませんよ?」

「映姫様相手に僕が嘘をつくわけないじゃないですか」

「っ……そ、そうですか。それならばいいのですけど」


内心の動揺を悟られないように気をつけつつ、取り合えず笑顔で応対する。
そんな僕の言葉を信じてくれたのか、映姫様はあっさりと引き下がってくれた。
顔が赤くなっているように見えるけど、多分気のせいだろう。


「それよりも映姫様。僕の部屋、何でこんな状況になっているんでしょうか?」

「え? こんな状況って……」


周囲を見回した映姫様の表情が凍りつく。
この部屋を襲った惨劇に言葉もないといった感じだろうか。


「……ひっく……ひっく」


あれ? 映姫様?


「……グスン、えっぐ……ふえぇ……○○さん、ゴメン、なさい」

「え、映姫様? 一体どうしたんですか?」


何故かは知らないが、映姫様がいきなり泣き出しまったのだ。
僕は自分が風邪を引いているという事実も忘れて狼狽する。
そして何とか映姫様を慰めようと口を開くが、その声は映姫様によってかき消されてしまう。


「……ひっく……この部屋を、こんなにしてしまったのは……私、なんです」

「えっ?」


その言葉を皮切りに映姫様の独白が始まった。


『看病しようとやった事が全て裏目に出て、結果的に家を無茶苦茶にしてしまった』


半分泣きながらだったためイマイチ要領を得ない話だったが、要約するとこうだ。
一体何をどうすればこれだけボロボロに出来るのだろう。
驚きを通り越してしまった僕は、逆に凄いなと変に感心までしていた。
もちろん怒りとかそういった感情は全く湧いてこない。
僕なんかのために甲斐甲斐しく尽くしてくれた映姫様がたまらなく愛しくて……


「こうなっては仕方ありません。せめて貴方の風邪だけでも治さなければ……」

「………え?」


気付けば僕は、僅かな息遣いさえ感じ取れるほど近い位置で映姫様の顔を見ていた。
映姫様、顔が真っ赤になってる。
いや、そうじゃなくてこの状況は何なんだろう?


「え、映姫様?」

「動かないでください」


突然の事に混乱した僕だったが、映姫様に両肩を掴まれているので身動きが取れない。
全力で抵抗すれば引き剥がせるかもしれないけど、映姫様相手にそんな事は出来ない。
そうこうしている間に徐々に映姫様の顔が迫って、き……た?


「えっ、ちょっと、映姫様?! 何を考えてるんですか?!」

「風邪を治すには他の人にうつしてしまえばいいんです。
 ですから貴方の風邪を私にうつして貰おうと思ったんです」

「それでなんで顔を近づけてくるんですか?!」

「それは……き、キスしたら、風邪がうつると言うではないですか」


目線を逸らし、ポッ、と頬をさらに赤くする映姫様。
今日はいつもと違う映姫様をたくさん見れて得した気分だな。
なんて事を言っている場合ではもちろんなく、僕は混乱の極地に達していた。
だってそうだろう?
映姫様の行動と言動から判断するに、いやしなくても映姫様は僕とキスしようとしてるんだから!!!


「だ、ダメですよ映姫様! 僕なんかのためにそこまでしないでください!!!
 それに他人に風邪をうつしたら治るとかキスしたらうつるとかは俗説です!!!
 本当にしたところで風邪が絶対にうつるなんて保障はありませんから!!!」

「知っていると思いますが私の能力は『白黒はっきりつける程度の能力』です。
 例え俗説であっても、私がそうだと言えばそれが真実になるんですよ」

「そ、そんな事のために能力使わないでください!!!
 それにもしそれが真実になったとしても、償いでキスまでして貰うのは……」

「それに関しては余計な気遣いというものです、○○さん。だって……」

























『私が貴方とキスしたいんですから』

























翌日、○○さんの風邪は見事に治っていました。
しかしその代償と言うべきか、当然の事ながら私は風邪を引いてしまいました。
でも、私に後悔はありません。


「映姫様、お粥が出来ましたよ」


だって、こうして○○さんが私の看病をしてくれているんですから。


「ありがとうございます、○○さん」

「気にしないでください。元々は僕の風邪がうつったせい…で………」


自分の言った台詞で昨日の事を思い出したのでしょうか。
○○さんの顔がどんどんと赤くなっていきます。
いつもの○○さんは格好良くて素敵ですが、こんな○○さんは何だかとても可愛く思えます。


「○○さん」

「は、はい?! な、なんですか映姫様?!」


気付けば私は○○さんの首に手を回して抱きつき、耳元でそっと囁いていました。


「明日は私が○○さんの看病をしたいです………いいですか?」

「………………」

○○さんは言葉ではなく、行動で応えてくれました。
2人の風邪はまだまだ治りそうにありません。

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うpろだ1301


○○「映姫、お帰り。遅かったじゃないか。」
映姫「ただいま、お兄様……」肩を叩く。堅苦しい上着を外して、その下地の白いシャツのまま帰ってきたようだ。
○○「また、小町か?」
映姫「あの子にも困ったものです。サボりさえしなければよいのですが……」
畳に座る映姫、荷物を脇に置き、ため息をつく。
○○「まぁ、あんまり肩肘張りすぎるのもアレだしな」俺は映姫の背後に回りこむ。
○○「肩、揉んでやろうか?」
映姫「お兄様? 次の閻魔の仕事はすぐですよ?」
冷静に返す映姫。他の男にそんなことされようものならすぐにジャッジメントされるところだが、そうはならない。
俺は映姫と2交代制で幻想郷の閻魔をやっている。変り種の多い幻想郷の閻魔は激務で、こうしている間にも霊魂が裁判所に来ているかも知れない。
○○「お前に倒れられたら、俺が24時間閻魔をやらなきゃならなくなる。『同僚』のコンディションに気を使うのは当然だと思うけどな」
映姫「……もう。」
口答えしなくなる。理屈でねじ伏せられると、この妹は口数が減るのだ。
そんな妹の肩に手をかける。その小ささとは正反対に、肩は相当凝っていた。
力を込める。
映姫「……んっ……」
○○「ずいぶん凝っているなぁ……無理してない?」
映姫「してませんよ。この程度、苦労のうちに入りません」
○○「そう。ならいいけどさ」
会話している間にも肩をもみ続ける。映姫の肩の筋肉が弛緩していく。
その間も、背筋はぴんと伸ばしている。
――すこし彼女に体重を乗せるように寄りかかり、耳元でささやく。
○○「だけどあんまり無理するなよ? お前は俺の『自慢の妹』なんだからな。」
ばっ、と振り向く。その顔は真っ赤だ。
映姫「な、何を言ってるんですか! 貴方は実の妹にも手を出そうと……!」
○○「ははっ、もう大丈夫みたいだな。じゃぁ俺は行ってくるから、ゆっくり休んでな」
映姫「お兄様のバカ、そんなんだから閻魔一の女たらしって言われるんです!」
○○「説教は後で聞くよ。じゃぁな」
俺は身支度を整え、家を出る。
俺の最後の台詞は、しばらくかなわない状況がつづいている。
どちらかが家に帰って数分。二人暮らしの閻魔の兄妹に許されている邂逅の時間はその程度。
もう少し優しくしてやらないとだめかな……帰ってくるときは、お土産でも買っていこうか。



明かりの完全に消えた部屋に差し込む、カーテン越しの光。
夜勤明けの四季映姫の、いつもの就寝風景。
しかし、彼女の目は冴えていた。
頬は赤く、息は上気している。それでいて、表情には辛さが伺える。
「どうしよう……」
胸をつかむ。心臓の辺りが苦しい。
「お兄様……」
揉まれた肩と、寄りかかられたときの体重を思い出す。
そのたびに、心臓の苦しみが増す。
この苦しみの原因は、白黒つける能力を自身に使うことで知っている。
恋。自分は恋をしている。
――実の、兄に。
それは許されない行為。
重々承知していることであった。
仕事中、そのような人間を地獄に落としたことは何度もある。
そんな自分が、許されるはずのない感情を抱いている。
閻魔であるならば、あきらめてしまうべきだ。
でも。
兄に優しくされるたび、胸が苦しくなる。
兄はいつでも私に優しくしてくれる。

○○『閻魔初仕事だよな、気をつけろよ?』
○○『部下に辛く当たりすぎてないか? 叱るのも大事だが、ほめるのも大事だぞ』
○○『あんまり気を張るな。疲れちまうぞ。』

○○『だけどあんまり無理するなよ? お前は俺の『自慢の妹』なんだからな』

胸を押さえる手が強くなる。
そうだ、思いを打ち明けても、きっと兄は受け入れてくれない。
兄にはたくさん女がいる。小町もその一人なのかもしれない。
でも、私は妹。ただの妹なのだ。
きっと私のことは眼中に写っていないのだ。女としてみてくれることは、ない。

目頭が熱くなり、鼻頭に水が一滴流れる感触を覚える。


「……っく、ひっく……ぐすっ……」

寝ることも忘れて、四季映姫は泣いていた。


○○「ただいま映姫ー、まだ寝てるのか?」
映姫「……!!」
布団がもぞもぞと動く。
彼女らしくない。おきていたとしても、この時間まで布団をかぶったまま。
いつも俺が帰ってくる時には出勤の準備をし終えているというのに。
様子がおかしいのは明らかなので、買ってきた甘味を置いて妹のところに向かう。
○○「どうした映姫、大丈夫k」
映姫「近づかないでください!!」
いきなりの、明らかな拒否。初めての反応だ。
○○「……映姫?」
映姫「……今の私に、触れないで……」
○○「わかった、じゃあ離れているよ」
テーブルに戻る○○。
○○「(どうすればいいんだ……)」

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最終更新:2010年05月11日 15:16