雛3
新ろだ04
カチャカチャ、グリグリ、トントン、カチャカチャ
「……何やってるの?」
俺が庭で友人に頼まれた組立作業をしていると、雛が寄ってきた。
雛は今まさに組み立てられている真っ最中のそれを不思議そうに眺めている。
「ああこれ?そっか、それ、こうすれば分かるかな?」
言いながら俺がそれに緋色の布を被せると、雛は可愛らしく胸に手を当てて目を見張る。
「これ、もしかして……」
「そう、雛飾りの雛壇だよ。友達の家のだけど、そいつ腕を痛めちゃってて頼まれたんだ」
「これが雛壇……。私、見るの初めて……」
雛の言葉を俺は意外に感じた。彼女は人形神であり、何しろ名前からして『雛』だ。
雛飾りくらい、並の人間以上に知っていそうに思っていたが。
「雛、もしかして雛飾りを見るの初めてだったりする?」
「……えっとね……私、いつもは山にいるから……あんまりこういうの、見たこと無くて……」
雛壇を見つめたまま寂しそうに答える雛の言葉を聴き、俺は後悔した。
我ながらなんてデリカシーの無いことを聞いてしまったのだろう……自己嫌悪だ。
何とか雛を元気付けたい俺はいいものがあることを思い出した。
「そうだ! ちょっと待っててくれ。いいもん取ってくるから」
言い置いて家にそれを取りに入る。
目的のものを見つけ、雛の元に急いで戻るとそこには意外な光景があった。
「……雛、何してるの?」
「……。 」
そこでは、雛が雛壇の下のほうの段にちょこんと腰掛けていた。
五段飾りで座るにそれなりの大きさがあるとはいえ、強度的にちょっと危なっかしい。
そしてこれは友人の……友人の家の娘さんの為の雛飾りだ……もし壊れたら正直困る。
「雛、それは座るものじゃないよ?それとも何とかと煙は……ってやつ?」
苦笑しながら冗談めかして言うと、雛はこくんと頷いて素直に降りてきた。
そしてぽつりと言葉を紡ぐ。
「私……一度でいいから、本物のお雛様になりたかったの」
「……え?」
「ありがとう。ほんの少しだったけど……お陰で夢がかなったわ」
微笑んで顔を上げたその表情に胸を衝かれる。
こんなささやかな願いも叶えられず、それでも厄神としてあくまで人間の為にいつも――。
そしてそれを俺は……。
俺はふと思いつくと、庭に出されていた古い本棚を横にし、それに雛壇から外して緋色の布をかけた。
ちょうど腰掛くらいの大きさの、緋色の棚が出来上がる。
「雛、ここに座ってみて」
雛は不思議そうにしながらもその緋色の布の上に静かに腰を下ろす。
緋色の箱にお行儀良く座っている少女。それはとても暖かで、雛らしいと俺は思った。
「ごめんな……きちんとしたのじゃないけど、でもこれを雛壇だと思って欲しくて……」
雛の不思議そうな表情が驚きへ、そして嬉しそうな表情になってくれる。
雛は愛しそうに緋色の布を撫でると、前を向き姿勢を正してから問いかけてきた。
「……私、お雛様に見えるかな?」
「うん。世界で一番可愛いお雛様だ」
「本当に……?」
「ああ、本当だ」
嬉しそうに雛が微笑んでくれる。
俺はその優しい笑顔は本当に世界の誰よりも一番だと感じた。
「そうそう、これ取ってきたんだ。せっかくだからどうぞ、お雛様」
言いながら俺はさっき家から取ってきた甘酒を手渡す。
雛はびっくりした表情で甘酒を受け取ると、花のような笑顔を向けてくれる。
その表情を見て俺は、心の底から良かったと思った。
こくんこくんと可愛らしく甘酒を飲む雛を微笑ましく見つめ、
自分の分の甘酒の栓を開け飲もうとすると、くいと手が引っ張られる。
見ると、雛が俯いたまま俺の袖を引いていた。
「あの、あのね……もし、その良かったら……嫌じゃなかったら……、わ、私の隣に……」
耳まで赤くしながら、雛は即席の雛壇の片側を開けてくれていた。
雛壇に並んで座るってことは、つまり――俺もいい年して思わず赤くなってしまう。
思わず身動きが取れなくなっていると、雛はつと手を離し俯いて呟いた。
「ご、ごめんね。やっぱり、私の……厄の隣なんて嫌だよね。わがまま言って、ごめ……え?」
俺は雛の言葉を最後まで聞かず、その隣に腰掛けるとそのまま甘酒を飲んだ。
びっくりしたような、泣きそうな笑顔の雛がすぐ横にいる。俺は甘酒を飲み終えると雛に語りかけた。
「今、俺の隣にいるのは世界で一番可愛いお雛様。だろ?
こんなんが隣じゃ不足かもしれないけど……ありがとうな、雛」
俺がそう言うと、俯いていた雛はふるふると首を振り、不意にそっと顔を近づけてきた。
――そして唇に触れたぬくもりは、甘酒よりも甘く、そして優しく暖かで。
俺たちはいつまでも、その雛壇で肩を寄せ合っていた。
~fin~
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うpろだ1202、1204
外から見えることのない 不思議な不思議な世界です
御伽噺に現れる 妖精 妖怪 棲んでいる
僅かなのではありますが 人間たちも住んでいる
それはどこかと尋ねたら もちろんお答え致しましょう
僅かな人と妖怪が 色とりどりの弾幕を
ごっこ遊びと言いながら 明るく楽しくぶつけあう
不思議で儚い楽園を 幻想郷といいました
幻想郷にそびえ立つ 大きな山がありました
そこには実にたくさんの 妖怪たちが棲んでいる
発明大好き人見知り 流されちゃった河童さん
噂話が大好きな 鴉天狗に気をつけて
白狼天狗の千里眼 見えないものなどありゃしない
他にも色々いるらしい 稗田のお嬢さん知っている
知りたきゃ彼女に聞いてごらん
ところがここに棲むモノは 妖怪だけじゃあございません
秋を司る秋姉妹 穣子様と静葉様
穣子様は豊穣神 皆に豊穣届けます
穣子様のお姉さん 綺麗な紅葉の静葉様
守矢神社の八坂様 信仰途絶えた外を去り
幻想郷にやって来た 信仰求めてやって来た
ミシャグジ様は祟り神 そんな雰囲気どこへやら
ケロちゃん風雨に負けません 土着神の頂点 漏矢様
二柱に仕える風祝(かぜはふり) 海を割るなどお手の物
人の身にして祀られる 奇跡を起こす東風谷さん
そしてここにももう一人 素敵な神様おられます
厄を司る厄神様 鍵山 雛といいました
そんな雛様のお役目は 人を厄から護ること
厄が人に憑かぬよう 集めて溜め込み管理する
そのため彼女は人を避け 独りぼっちになりました
厄が憑いたら一大事 仕方が無いと言い聞かせ
必死に寂しさ押し隠し 彼女は独りになりました
今日も彼女は一人だけ 今日も彼女は独りだけ
そんなある日に雛様へ 若者一人近づいた
厄を何とか押し留め 彼の話を聞くことにゃ
外の世界から流れ着き 道に迷ってしまったと
雛様だって神様です 困った人を見捨てるは
神様の名を穢すこと やってはならないことだから
若者の手を引っ張って 無事に人里着きました
彼は喜び微笑んで お礼を言います ありがとう
若者の笑顔に雛様も どういたしましてと応えます
彼の笑顔は値千金 送り届けた甲斐もある
彼女は今日も一人きり 彼女は今日も独りきり
人の気配を感じ取り 立ち去ろうかと思ったが
放っておく事出来ないと 止む無くそこへ行きました
そこにいたのはいつぞやの 迷い子だった若者で
どうしてここへ来たのかと 雛様 尋ねてみたならば
雛さん探しに来たんです ここで逢えると思ったから
神社の巫女から受け取った 御守りあるから大丈夫
お土産持ってきたんです お口に合うといいですが
言わせてくださいもう一度 あの時どうもありがとう
雛様 彼の行動に 呆れましたがそれよりも
まっすぐな気持ちが嬉しくて こんな気持ちは初めてで
どう応えればいいのやら 返す言葉が浮かびません
一生懸命考えて 雛様 笑顔で応えます
ぼくは雛さん大好きです また逢いに来てもいいですか
これまた何ともまっすぐな 恥ずかしくなることを言う
雛様 少し考えて 微笑みながら言いました
貴方がよければ 喜んで
ある日彼女に素晴らしい ボーイフレンドできました
ニブイところもあるけれど とっても優しい素敵な人
それから毎日若者は 雛様の元を訪れます
嬉しい日々が続くけど ある日雛様 考えます
こんなに幸せでいいのかな 何だか不安になってきた
ある日彼は雛様に 自分の想いを伝えます
そうだ私は厄神だと ある日突然気づかされる
彼に厄が憑いたなら きっと不幸になってしまう
そうなったなら私のせい 私の我侭のせいなんだ
取り返しがつく今の内 彼を離してしまおうと
雛様 泣く泣く決めました
私なんかに近づくと 溜め込んでいる厄が憑く
貴方を不幸にしたくない だからここには来ちゃ駄目よ
何度も警告したけれど 彼は決して離れません
できたら使いたくないが これも彼のためだから
実力行使に踏み切ろう 雛様 唇噛み締めて
スペルカードの宣言を 涙を流して行います
ところが彼は雛様の 両手をしっかと掴み取り
いつも以上に真剣な 瞳を向けて言いました
どんなに厄が憑こうとも 雛さんならば構いません
ぼくの事なら大丈夫 おそばにいさせてくれますか
寂しい顔する雛さんを 放っておいたりできません
至近距離から不意打ちを もらってしまった雛様は
一瞬きょとんとしたけれど すぐにも表情硬くして
振り解こうと試みる ところがどっこいどうでしょう
掴み取られた両の手は ぜんぜん離れてくれません
最後の抵抗するように 自分に言い聞かせるように
想いを必死で押し殺し あえて冷たく吐き捨てる
寂しくなんて思わない 私は独りだったから
それでも若者 離れません 何を言われても動じない
彼女の想いを酌むように いたわるように語ります
雛さん嘘は言わないで ほんとに寂しくないのなら
泣いたりなんかしませんよ 涙が流れるそのわけは
あなたが一番知っている 離れたくなどないんです
ぼくもあなたと一緒です 離れたいとは思いません
雛様を優しく抱きしめて あの時のように微笑んで
若者そっと囁いた
雛さん独りで泣かないで いつでもぼくが一緒です
愛するあなたのそばにいたい ぼくの望みはそれだけです
雛様 彼の告白に 涙浮かべて微笑んで
ありがとうと言いながら 優しさに包まれ泣きました
嬉しさが溢れ泣きました 愛しさが溢れ泣きました
厄神様の通り道 雛様 今日も厄集め
彼女のそばに人一人 厄神様の想い人
想いは人を強くする 想いが神を強くする
百万人の信仰も この想いには敵うまい
厄神様の通り道 雛様 今日も笑ってる
寂しさ消えた雛様の 表情いつでも蒼い空
雲ひとつ無く透き通る 宝石のような爽やかさ
幸せ溢れた生活は 飽きることなどありません
御食事終わってお茶淹れて 一息ついたその頃に
若者 雛様にこう言った
雛さん雛さんいいですか 聞きたいことがあるんです
それはいいけど 何かしら
雛さん厄を取るときは どのようにして取りますか
びっくり仰天大慌て 驚き桃の木不思議な木
それを聞かされ雛様の 頬が真っ赤に染まります
雛様だって女の子 聞かれたくないこともある
厄を集めるだけならば 難しくなどありません
ところが厄を取るならば これがとっても恥ずかしい
ああどうしよう恥ずかしい こんなことなど言い出せない
恥ずかしさのあまり雛様の 視界がくるくる廻ります
雛様よろけて倒れそう 彼女をしっかと支えます
雛さん雛さん大丈夫 どこか具合が悪いのですか
彼は雛様の身を案じ 不安そうに見つめます
雛様 彼の顔を見て いくらか落ち着き取り戻す
大丈夫だと応えても 彼の不安は拭えない
彼の不安を拭うには どうしたら良いかと考える
若者の腕に抱えられ 考えること一分半
何やら思いついたのか 微笑みながら言いました
厄を取り出す方法を 貴方に教えてあげましょう
雛様ゆっくり起き上がり ゆっくり顔を近づける
ちゅ
雛様のお顔は真っ赤っか 彼の顔も真っ赤っか
いったい何をしたのでしょう おそらく答えは文字通り
神のみぞ知ると言うのでしょう
新ろだ589
「○○、気持ちいい?」
「ああ……とても気持ちいいよ」
そう言うと彼女は幸せそうに笑った
「ありがとう。うれしいわ」
そんな幸せそうな彼女見て俺もつられて笑う
「しかし、雛の膝枕は本当に気持ちいいな、いつまでもこうしていたいよ」
「あなたが望むならいつでもしてあげるわよ」
そう、俺は今雛に膝枕されている
雛と一緒にいるとき、失礼だが眠たそうにあくびをしたら雛が「眠たそうね」と言ってきたので
「最近、里の仕事が多くてね」と答えたら、少し考える素振りを見せた後に「膝枕してあげる」と言われたので甘んじて受けた
ちょっと前のことを思い出していると頭に手が添えられる
もちろん雛の手だ
そんな彼女の手からは、とても暖かい気持ちが伝わってくる
俺は、雛の手から感じる暖かさを与えられ続けてどんどん眠気が強くなり、目蓋が落ちてくる
「少し眠ったらどう?」
そんな俺の表情を見て頭を撫でながら雛が言う
正直、雛と話ができないのは辛いがここはそうさせともらうとする
雛の膝枕から離れるのも嫌だしね
「そうさせてもらうよ」
そう言ってから目を閉じる
目を閉じる前に見えたものは、雛の笑顔だった
「おやすみなさい、○○」
――ふと、目が覚める
目の前にあるのは、家の扉。手はちょうどその家の扉を開けようとしている最中だった
なんとなく、これは夢だと感じた
「ただいま」
無意識にそんな言葉がでてくる
開けた扉の中から見える景色は、俺と雛のそう遠くない未来があった
「お帰りなさい。あなた」
そう言う彼女はいつもの笑顔
そして、手の中には生まれたばかりの俺と雛の赤ん坊
「眠っているのかい?」
「ええ、今寝たばかりだから静かにね」
自分の唇の前に人差し指を立てる。とても可愛らしい仕草だった
そんな彼女を見て俺は、微笑む。彼女も微笑む
胸の内から熱い何かがこみ上げてくる
きっと、これが幸せということなんだろうなと思っていると段々と周りが暗くなってきている
雛は、抱いていた赤ん坊そっと置いてこちらに近づいてくる
目の前にまで来ると、首に手を回しキスをしてきた
俺も彼女に答えるため体を抱きしめる
そして、俺は目を閉じた
こんどこそ、本当に目が覚めると周りは暗かった
相当の時間を眠っていたらしい
上半身だけ起き上げ雛のほうを見ると、彼女も眠っていた
ずっと、俺に膝枕するのも疲れたのだろうかと考える。「まぁ、そりゃそうだろうな」と笑う
しかし、こんな地面に座った状態のまま寝かせるわけにもいかないので、彼女を起こすことにする
「雛」
優しく彼女の名前を呼びながら小さく肩をゆするが、起きない
仕方ないので両頬に手を添えて彼女の顔を上げる
そうすると彼女は顎を少し上げこちらを見上げるような行動を取る。まだ、目は開いていない
少し考えると彼女のして欲しいことがわかった
心の中で困ったお姫様だと思いながら、彼女にキスをする
…数秒経った後に唇を離すと、彼女の目はまだ開いていない。どうやらまだキスを望んでいるようだ
こうして彼女の仕草を見ていると餌を欲しがる雛鳥のようだ。そう考えるとこれはちゃんと口の中までやらないとなと考えてから彼女にまたキスをする
唇がふれあい、舌を彼女の口の中に入れる。それを待っていましたといわんばかりに、彼女の舌がこちらに絡んできた
――それから何分が過ぎただろうか
彼女はようやく舌を解放してくれた。離れる唇からは銀の糸がひいていた
銀の糸はすぐに切れて、いつものように挨拶をする
「おはよう雛」
「おはよう○○」
そう言いあって俺たちは笑いあう。そして、抱きしめあう
「なぁ、雛」
「何?」
「俺、とても幸せな夢を見たよ」
「どんな夢?」
「俺たちの間に子供ができるんだ」
「……」
「それで、俺がただいまって言うと雛がお帰りって返してくれるんだ」
「……とても幸せな夢ね」
彼女の表情はとても幸せそうだった
「ねぇ、○○」
「何だい?」
「いつか……子供作ろうね」
「そうだな」
彼女は抱きしめる力を強める
「それで、幸せいっぱいな家族になろうね」
「ああ」
今度は俺が抱きしめる力を強める
雛の方に顔を向け、雛との間では当たり前の言葉を彼女に伝える
「雛……愛してるよ」
「私も……愛してるわ、○○」
俺たちは夜が明けるまで抱きしめあい続けた
最終更新:2011年05月08日 14:31