にとり2



うpろだ594(うpろだ532続き)


 家から出ようと思ったものの、既に姿も見えない彼にそのことを伝えに行っても、
                        どうせ戻ってきた彼と鉢合わせになるだけだ。
 一瞬だけ、戻ってこなかったらどうしようと思ったのだが、

「そ、そこまでは馬鹿じゃないよ、ね?」

 そもそも、帽子の形を聞かずに飛び出して行く程の人間だ。
 ――ありえるかも、なぁ。

 だが、幸いなことに近くにある川なんて一つしかない。
 そこで探してくれれば、私の服と同じ色の帽子ということで見つかるかもしれない。


「ごちそうさまッス」
 食べかけの朝食を全て食べ終えて、家を見回してみたのだが、
 あるのは観葉植物や、本棚、ベッドなどの最低限度の家具。

「電化製品の類が無い……」
 何か機械を分解して時間を潰そうと思っていたのに、第一候補が潰れてしまった。

「……そう言えば、本棚がなんとかって」
 やや大きめの本棚に近づいてタイトルを確認すると、


『⑨とは一体なんなのか?』、『てゐの誰でも分かる心理学』、『阿求の楽しく学べる現代知識』、
『ヤゴコロ先生の正しい使い方』、『文々。新聞の徹底解明』……etc


「うわぁ――」
 どれもこれも、分厚くてあまり読む気がしない。
 四つ目なんて、辞典ほどの大きさであり、そこまで大きい理由も解らない。

 まぁ、しかし、だ。
 数時間の間を何もせずに過ごすと言うのも嫌なので、とある本を手に取り――気付いた。

「……?」
 後ろの方に何冊も、漫画本のような本がギッシリ詰まっていることに。
 大きな本を表に出して、なんだか後ろの本を隠しているかのように、だ。

「なんで、漫画本を後ろに置くんだろ?」
 そんなことをしたら、読み辛いんじゃないのだろうか? と、適当な一冊を手にとってみた。


『風邪気味うどんげと、おっきな座薬』


「…………えと?」
 絵柄と名前からして、怪しい香りをプンプンさせている。
 ようやく、後ろに置いている理由を理解し、私が見ちゃいけないものであることも解った。


 ――――だが、今現在の状況を振り返ってみよう。
 (精神的に)年頃の女性が、誰もいない部屋で、こういう本を発見してしまったのだ。
 やることなど、一つしかあるまい――――


「えと、えと、ごめんね……〇〇さん」
 目を閉じながらも、一枚目を開いてみた。
 ゆっくりと、目を開き――何も言わずに本を閉じた。

「ちょっ、これは……うぅ」
 顔が赤くなっていくのを感じながら、閉じた本を開き、また閉じる。
 段々と、閉じてから開くまでの間がなくなって行き――

 そんな事をしながら、本を読むのを一向に止められなかった。






 ――読んだ本が山のようになってきた時に気付いた。

「うわっ、もうこんな時間っ!?」
 腕時計で見てみたら、六時前だった――が、〇〇さんが帰ってくる様子は無い。

「本当は何を探してるか忘れてるんだけど、とにかく何かを見つけるために張り切ってるとか」
 ……ありえる。
 もぅ、こんな時に何も出来ない自分が、一番もどかしい――!!

 いや、その事は置いといて。
「読んだ本を片付けないと」
 本棚の後ろにある本を勝手に読んでいたなんてバレたら、洒落にならない。
 何をされるだろうか? この本に書かれていたことを、実際にやらされたり――なんて、ね。

「……うぅ」
 違うんだ、〇〇さんは男性だから、ああ言うものを買わざるをえなかったんだ。
 あんなことを私にしたりなんかするはずがない。
 そうに違いない、そうに違いないんだ。
 だって男の子だもん。


 そして、本を片付け終わって、七時ちょうど。

「お昼ごはん、どうしよう」
 サランラップに包まれたチャーハンと、きゅうり。
 今食べてしまったら〇〇さんが作る夕食を食べられなくなり、
 食べなければ、作ってくれた人に失礼である。

 選択肢は二つ。

「……」
 帰ってくる前に食べるしかないと意気込み、すっかり冷えたチャーハンにスプーンを

「ただいま」
「ひゃっ!? お、おかへりなさい!!」
 ドアを開けて、笑顔の〇〇さんが立っていた。
 鍵は閉めておいたが、合鍵で開けたのか――って、その手に持っているのは!?

「私の帽子!? 見つかったんですか!!」
「まぁな、ちょっとした天狗の知り合いに手伝ってもらっt……」

 帽子を取ろうとした手が、空を切った。
 〇〇さんが、帽子を上にあげたのだ。

「……あの、〇〇、さん?」
「いや、どういうわけか、にとりを苛めたくなったのでな」
「じょ、冗談はやめてくださいよ。お願いします、帽子を返してください!!」
「ならば、何故俺が帽子を返したくなくなったか、考えてみそ」
 どう言う経緯で苛めたくなったのか?
 ――考え付くものでもないので、交渉材料を得ることにした。

「……天狗の知り合い、とは誰ですか?」
「犬走 椛って言う、いかにも犬っぽい天狗。見た目的にも性格的にも。
 お前さんと知り合いってことで、帽子の形を教えてもらうとか、千里眼の能力とかで探してもらったりで、助けてもらった」

 納得した。彼女の能力を持ってすれば、私の帽子を探すことなど簡単だろう。
 だが、それの他にキーポイントなどと思いつくものもなく、ひたすら答えを考えて――








「無論、エロがっぱ少女が一日中、勝手にエロ本を読んでいるなんて情報も、な。
                    お好みは『八意 永琳とドキドキ♪保健室』だったとかも、詳細になぁ?」
「………えと、あの、ですね?
 あはは、それが今の行動の理由ですか……」

 今気付いたが、〇〇さんの笑顔はさきほどから、ずっとそのままだ。
 笑顔とは顔の形がそうであるというだけで、目だけが修羅のように禍々しく光っているのだが――!!
 そのまま、〇〇さんは話を続ける。

「お前が『射命丸 文とイケナイ事情徴集』を読み始めた時には生きた心地がしなかったのデスが?」
「そ、そっか。ごめんなさい……」

 ――と、頭の中で閃くものがあった。

「ふ、ふふふふ、〇〇さん。貴方は一つだけ、間違いを犯しました」
「? はて、何をしたんだ? 何か特別なことをした記憶もないが」




 自信満々に微笑むにとり。
 うわ、何を言おうとしているか、解るのがいやだ――!!

「〇〇さんは、昨日の夜、何をしようとしたんですか?」
「……なんのことだ?」
「ベ、ベッドの上に私を押し倒したときです!!」
「はっ、はは、ははは」
 やっぱり気付いてるよねぇ、忘れてたらいいと思ったのだが。
 しかし、にとりも恥ずかしいらしく、顔を真っ赤に染めている。
 俺のエロ本読んでなかったら、こんな事にはならなかったのにな。いや、後悔しても遅いが。

「えっと、だな? 俺のしようとしたことは、」
「はい、なんでしょうか?」
「ウデタテフセ、だ。たまにベッドに手を付いてやりたくなる、からな。
 いつもの癖で手を突いたら、にとりがいただk」
「あの時、私のむ……む、胸に触れてたのに!?」
 や、止めろ、それ以上言うな!!
 帽子を探すことで、その事を忘れようとしていたと言うのに……。
 それに、にとりよ。俯くほど恥ずかしいんだったら、話題として出すなよ。


「あー、…………なんだ? 俺もイヤらしくて、にとりもイヤらしかった。
 それで、チャラにしないか?」
「……了解ッス」
 埒が明かないと、あちらも思ったのだろう。結局は、そう言う形で落ち着いた。

「だったら、ほれ」
「……あ」
 ポスと、にとりの頭に帽子を載せる。
 見た目的な変化が現れるとかはないが、これはこれで納得。


「まぁ、今日は夜遅いし、泊まってけ。
 チャーハンは明日、俺の昼食にするから、そのままにしといてくれ」
「あの、〇〇さん!」
 あ゛ぁー、帽子を探し疲れたぁ。
 今日は爆睡できそう――って、今、呼ばれたか?

「? にとり、呼んだか?」
「なんで、帽子を私に返したの?」
 言ってる意味が、よく解らないのですが。
 帽子を探して欲しくて俺に頼んで、帽子を渡して困られる。
 俺の理解力では、理解できん。

「だから、えと、返さなきゃなんでも、できるんだよ?」
「……お前さんは、あの漫画に書かれていたようなことをされたいのか?
 して欲しければ、いつでもベッドの中でお待ちしてるぞ。よし、ご飯の準備準備」

 心配(?)してくれるのは嬉しいが、相手が嫌がることはしたくないと言うのが、俺の固定論だ。
 まぁ、そんなことを言っても意味ないし、パッパとご飯を食べて、風呂入って、寝よう。





 と、出てきた料理は親子丼と味噌汁だった。
「いただきます」
「まぁ、簡単なものですまないがな」
 はは、と苦笑をする〇〇さん。

 いや、私の帽子を探して東奔西走してきたのだから、料理は私の役目だと思ったのだが、何故か全力で断られた。
 ……女性的な能力が欠けていると思われているのだろう、かなりショックである。
 かっぱであると言う偏見が、ここまで影響を及ぼすなんて――差別です!!

「この親子丼美味しいッスねぇ!!」
「絶対に別のこと考えてたろ!? 俺の飯を食ってる時の表情と、食べ終わったときの表情が違うぞ!!」
 ゴホン、顔に出ていたようです。
 前にも、表情が出やすいから気をつけろと言われたばかりなのに……修行が必要なようッス。

「だけど、〇〇さん。よく天狗様とコンタクト取れましたね」
「? そんなに意外だったか?」
 それはそうだ。天狗様と知り合うどころか頼みごとを聞いてもらえた人間なんて、見たこともない。
 実は、〇〇さんは人として身分が高い人間?

「だったら、こんな辺境の地に住んでませんよねぇ。〇〇さんって、なんですか?」
「なんですか、とはご挨拶だな。まぁ、謎は謎だから面白いんだぜ? 俺の正体なんていいじゃないか、ほら食え食え」
 やはり人間も妖怪も、変わりなく隠し事は持っているようだ。

 しかし、椛さんと繋がりがあると言ってたのならば、射命丸さんとも繋がりがあるのかなぁ。
 考えども考えども、答えが出るはずもない――謎が深まるばかりだ。

「おい、にとり。空の容器に箸を突っ込んでも何も出てこないぞ。おかわり持って来てやるから、容器かせ」
「あっ、あぁ、考え事してました。すみません」
 昼ごはんを食べて無いせいでお腹が減っていたのも確かなので、おかわりをお願いする。

「ほぃ、おかわりだ」
「ありがとうございます」
 うぅ、遠慮するのが普通だと思うのだが、お腹が減っていては戦争も出来ないのです。
 お昼ご飯抜きがこんなに堪えるだなんて――初めて知りました。

 ――はっ! まさか、お腹が減った天狗様に料理をご馳走したのでは!?
 いや、天狗様がどんなにお腹が減っていても人間の食べ物を食べるなんてことはしないだろう。

「おっ、おい!! 親子丼の中に味噌汁入れたら――!! ぶなしめじ入れてんだぞ、馬鹿ー!!」

 では、実は少し前まで天狗様のところで家事手伝いをしていたとか?
 ……だったら、それ以前に家事手伝いをさせてもらえるまでの経緯が考えることすら出来ない。

「ダメだっ!! それ以上は、マヅい!! か、かき混ぜるなーー!! アーーーッ!!」

 んー、無理矢理な案だけど、〇〇さん自体が特殊な妖怪で、天狗様との繋がりがあった、とか。
 それ自体、〇〇さんの見た目や言動から解る通り、人間そのものである。そんなことはありえない。

「た……食べるなよ? 違うの準備してやるから、お願いだから、あっ、ダメ、ダメだ!! 馬鹿ーーーー!!!」


 だったら、〇〇さんと天狗様の繋がりって、なんだろう?





「はぁ、……はぁ、ダメだったか――」
 俺には、にとりを止められなかった。
 あれ、絶対にマヅいだろ、常考。

「どうしたんですか、〇〇さん? そんなに疲れた表情をして」
 ケロッ、となんでもないように首を傾げている。
 ……あっ、そうですか。俺と味覚が違うのか、はい、了解しました。

「あー、なんだ? ご飯を食べたんだし、先にお風呂入ってきてよ」
「はい、じゃあ借りますよ」
 ご馳走様、と言ってお風呂場に走っていった。

 んー、俺の正体、言うべきかなぁ。
 いや、言わずに知らないまま、にとりを帰らせるのが正解だろう。

 あ゛ぁー、眠い。お風呂入ったら、用事済ませて寝ようか。



(えっと? そこから、お風呂から上がったにとりをベッドで寝させて、〇〇が風呂に入り終わった。
 そんな流れを書いてたら、エロくなったから、割愛。二つの意味で、すまん!!)



 着替え終わって、まだ頭の湯をタオルで拭きながら、脱衣所から出る。
 ふと、にとりを遠目に確認。

「寝てる、か」
 幸せそうな顔で、抱き枕を抱いている。
 色々と違う経験をしたせいで疲れてたんだろうな。

「あぁ……待たせちゃ、マズい、か」
 静かにドアを開けて、外に出る。
 家の天井の気配を探り――やっぱ、来てるか。
 いや、椛に会って来たんだ、あいつが来ないはずがないか。

「はぁ、跳ぶの久しぶりなんだよなぁ……」
 手に持っていたタオルを首に巻き、ふぅ、と深呼吸。
 ぐっ、と屈伸するように足を屈めて、 

                         7m近くある天井まで、一気に跳び上がった。

「っと、と。着地がいまいち不安定だな、今度から気をつけようか」
「相変わらずドジですねぇ、貴方は。久しぶりですね、〇〇」
 あー、やっぱり来てたか。考えてた通りだ。

「二年くらい会ってなかったなぁ。久しぶり、射命丸」
 そう、射命丸 文が屋根に立っていた。


「しっかし、こんな寂れた家になんのようだ? 別段、来る理由も無いだろ?」
「いえいえ、椛へご挨拶に来たというので、私が行かないわけにはいかないでしょう?」
 ふふ、と微笑む射命丸。
 うん、それはそれで微笑ましい気もするけどさ、

「なんで右手が扇を力強く握り締めてるのさ? ぶっとい血管が浮き出てるぜ?」
「椛から、にとりさんが読んでいた本の内容を聞きましたので。言いたいことは解りますよね?」
「あぁぁぁあ、ちゃんと口封じてきたのになぁ……!!」
 扇を大上段に構えて、すぐさま俺を殺す準備に掛かる。

「はは、止めろよ? 俺、死にたくないよ? 殺したら、呪っちゃうかもよ!?」
「ふふ、面白い事を言うんですね、〇〇。呪いをかけるのは、殺される前にしか出来ませんよ?」
 ヤバイです、危険です、死にそうです。

「下に、にとりいるしさ? 今日死んだら、天狗様とやらの栄光に傷がつくんじゃね?」
「……、醒めました。殺すのは後日にしましょう」
 物凄くだるそうな顔をして、扇を降ろした。
 ――聞きました、奥さん? 殺すのは先延ばしだそうですよ?
 どちらにしろ殺されるじゃん。

「だけど、貴方の読んでいた本を回収して、発売元を言ってもらいますからね?」
「いや、回収するのは構わんが、発売元を言うのはちょっと……困る」
 なんたって、俺の家だなんて言えるわけ無いよなー。
 椛とかにバレないように隠れた場所に地下を作って作業室にしてるだなんて、絶対に言えないよな。死にたくないし。

「……まぁ、いいですか。何処かから情報を取り入れれば、探りを入れて潰しますから。
 その代わりに、さきほどの話に出てきた、にとりさんの件ですが」
「あ、あぁ、なんだ?」
 うわぁ、俺の家が跡形もなく潰されそうです。俺の人生、終わりそうです。

「あの娘は、人間を信用しすぎてます。人間がどういうものか、教えてくださいませんか?」
「あー俺じゃなくても良いだろ? お前がやればいいじゃないか」
 いきなり、そっちの話題かよぉ……。
 射命丸が言いたいことは解る。
 しかし、だからと言って、それを認めていいわけじゃない。


「昔、人間に翼をもがれた天狗の言う言葉なら、あの娘も信用するしかないでしょう?」
「……だな」


 十年以上前の話だ。
 人間を信用してついて行ったら、投網で雁字搦めにされて翼を鉈で――――。


「天狗が人間にやられるなんて、本当に馬鹿な話だよな」
「そうですね。しかし、その後に人間を殺さずに逃げた、と言うのが一番の恥さらしですよ、貴方は」
「だな。俺もそう思う」
 人間を信じていたら痛い目に逢う、と言う内容を伝えるに際し俺以上の適役はいないだろう。

「だからと言って、新人の天狗を連れてきて俺にその内容を語らせる、ってのはなんだ!?
 二年前も、そのために来たんだろ!!」
「いやぁ、退職金貰ってここに家建ててるんですから、いいじゃないですか」
 俺は、沖縄県とかにいる語り部か、馬鹿野郎。
 いつも新人天狗が俺に眼付けしてくるから、本当にやり辛いよ。

「……多分、ショック受けるだろうからなぁ。言いたくねぇなぁ」
「そうですね。しかし、ショックは小さい方が良いですよ。
 今回は貴方の家だから良かったものの、他の人間の家だったら……寒気がします」

 こいつは本当に人間嫌いだなぁ。

「だけどよ、最近は人間と話をしてるらしいじゃないか?
 博麗 霊夢さんだっけ? それと、聞いた話では男との繋がりも懸念されて――」
「噂です!! そんなことはありません!!」
 ぷぃ、と顔を背ける射命丸。うわぁ、聞いた話は本当だったのか。

 しっかし、このお転婆娘と恋人関係になった人間って、本当に凄いな。
 ――いや、もしや、猫を被ってるのか?

「いつから私の話題になったんですか!? それで、了解しましたね!!」
「あ゛ー、はいはい、解った解った。話はそれだけか?」
「……私が書かれているらしい本を明日にでも、持ってきてください」
 ちっ、覚えてたか。

「では、これで」
「おぅ」
 そう言って、飛び立つ射命丸。

 ……白、か。
 と、いきなりこちらに振り返り、

「今、邪な考えをしませんでした?」
「いやいや、むしろ純粋な考えをしていただけだ。気にすることではない」
 疑わしげな顔を向けてきたが、次の瞬間、目に見えない速さで去っていった。


「……はぁ、帰ったか」
 今日は、寝るかぁ。
 いい加減、今日は走りに走って、疲れてるからな。既に目がショボショボしてきた。

 と、頭の中で考えながら、地面に降り立つ。
 ドアを開けて中に入り、


 大きめの集音機を耳に付けたにとりが、こちらを見ていた。
 ――うわぁ、最悪です。目の前が真っ白になってきました。

「天狗、様?」
「そうだよ。『様』は余計だが、な」
 今じゃ飛ぶことも出来ない、出来損ないの天狗だから。

「あっ、えと、ごめんなさい!! 私としたことが、天狗様だと知らずに数々の悪逆を……えと、その」
「天狗様禁止。俺は出来損ないだし、〇〇さん、っていつも通り呼んでくれ」
 俺がこんなのだと知ったら、あんまり尊敬とかしないと思ったのだが、計算違いだったようだ。

「はい、〇〇様。にとりは、貴方に対して何をしたらいいでしょうk」
「だぁぁぁぁっぁああああ!!! 体が痒くてしょうがない! よし、命令だ!! 俺を〇〇と呼び捨てにするんだ!!」
 こんなことになるなんて、思いも寄らなかったぞ……。

「あ、ぁあ、ま、〇……えと、ま、ま――」
「〇ー〇ー、だと言ってるだろう!?
 あー、解った。〇〇さんでいいから、せめて今まで通りにしてくれ。俺がやり難い」
 と、茶の準備をするためにキッチンに向かった。


 茶と菓子を準備して、にとりと話すことにしたわけだが。

「まぁ、それで話すことはいっぱいあるわけだが」
「はい」
 うわぁ、前までと様子が違いますよ。固まってますよ。

「俺は過去に天狗だったわけだが。
 まぁ、お前さんが聞いたとおりに鉈で翼を切られたわけですよ。
 で、今現在、その翼が――――」

 今では、とある神社の神に対する捧げモノとして、納められてる。

「で、では、〇〇……さ、んは、何故、人間を殺さなかったのですか?」
「あー……それは、な?」

 仕事をサボってまで会っていた友人。
 裏切られたからといって、俺にとってはあいつは親友だった。

「気まぐれ、さ」

 翼が斬られて俺の仕事が出来ないということで、退職しここに家を建てた。
 そして、その友人のところに行った俺が見たモノは、

               『ごめん』と書かれた一枚の紙と、宙に浮いていた一人の人間。

「大丈夫、ですか?」
「ん? 大丈夫大丈夫。眠くてクラクラするんだ。
 それよりも、射命丸が言ってた通り、人間は危険だからあまり近づくなよ?」

 ……そんな事するくらいなら、天狗の翼を手に入れて喜んでる姿を見た方が、いくぶんかマシだった。
 今、俺はあいつのことを恨んでいる。この手でバラバラにしてやりたいほど、恨んでいる。


 俺の翼を斬ったからと言って、その自責の念で死ぬなよ……!!
 一言、謝ってくれれば、俺は許してやれたのに。


「……まぁ、だけど人間は一種類だけじゃないからな。
 お前さんが本気で信じられる人間が出来たら、距離を考えながらも関係を持つのも良いんだとは思う」
「? 〇〇さん、言ってることが目茶苦茶ですよ?」


 ぁ、俺、なんで変なこと言ってんだろう。


「あのだな、にとり。最後に言った言葉は忘れてくれ」
「あ、えと、解り、ました」
 理解したらしく、頷くにとり。
 それで良い、人間と関係を持って痛い目を見られるよりは良い。

「じゃあ、これで終わり。寝るぞ」
 言うが早く、ソファに寝転がった。
 一日の疲れが激しかったのか、考える間もなく、眠りに付いた。





「……ぉ」
 久しぶりの香りを嗅いだ気がする。
 寝ている時に感じる朝餉の匂いと、自分の作っている時の匂いはまったく違うものだ。

 ――そこまで感じて、全てを理解した。

「にぃぃぃぃぃとぉぉぉぉぉぉぉりぃぃぃぃぃぃl!!!!!」
 止めろ、俺はお前の作ったものは食べれな――あれ?

「おはようございます、〇〇さん」
「ん? あ、あぁ、おはよう。にとり、それは?」
 綺麗に作られた朝食。昨日の夕食時の行動が嘘のようだ。

「やっぱり、私が料理できないと思ってたんですね」
 そう言って、おたまを俺に向ける。

 美味しそうである、実に美味しそうである。

「ほらほら、作り終えたら持って行きますから、待ってて待ってて」
 と、押しやられた。

 意外も意外。こいつ、料理出来たんだ……。


「……」
「……」
「……あぁ、解ったよ!! 美味いよ、美味しいですよ!!」
「ふふ、料理スキルは、女性には必須なんですよ? 〇〇さん」
 くそぅ、勝ち誇られた……。
 だけどしょうがないじゃないか、美味しいんだもん。

「今日、午前の内の私の家に帰ろうと思います」
「そっか」
 魚の焼き加減に感動しながら、応える。
 ……しかし、絶対に負けただなんて言わない。いや、ただの負け惜しみだが。

「そして、家の状況にもよりますが、二日くらいしたら、ここに戻ってこようと思います」
「そっか――――ぁ、ん? 今、なんて言った」
 魚とご飯のコラボレーションを口で感じていたせいで、聞き逃した。
 だけど、かなり俺にとっては不都合きわまりない内容だった気がする。

「お邪魔でなければ、また、ここに来ます」
「……何故に?」
 別段、ここに来る理由があるわけでもないだろうに。

「いえ、人間のことを少々、聞きたいな。と思ったので」
「話すことは、全て話したが?」
「本当に、ですか?」

 ……こいつ、いらないことも理解しやがった。

「――もう、めんどくさいなぁ」
「スミマセン。ですが、私は人間について理解が足りないので、教えて欲しいんです」
 うわぁ、完璧に俺を頼ってますよ、この娘。

「……」
「……」
「……はいはい、解ったよ!!いつでもいいから、来いよ!!」
「ふふ、では、いつかまたお邪魔させていただきます」
 射命丸に謝らないとなぁ、困った困った。
 とか考えつつ、ご飯をのりで巻いてパクリ。ん、美味い。



「それでは、お邪魔になりました」
「はいはい、お世話様でした」
 とか言いつつ、別れる事になったわけだが、

「きゅうり、好きなんだな」
「……えっと、お世話になってます」
 恥ずかしがるにとり。
 彼女のリュックサックの中には、きゅうりが五~六本入ってる。
 やはりかなり好きらしい。

「……一言だけ、言っておくが」
「? なんですか?」
 家に寄る事になるんだったら、いつか言うことになるんだ。
 今の内に言っておこう。

「人間だって言うだけで全てを決め付けるな、ってことだけ。
 今現在の人間たちは、妖怪に対する考え方も変わってきてるらしいからな」
「……うん、解った」
 と、笑顔でにとりは去っていた。


 だけど、あいつとの話をにとりにしなきゃいけないのは、本当に嫌だなぁ。
 天狗の役職をサボって、人間と遊んでるなんて……面目丸つぶれだしなぁ。

 ――でも、人間に対する見解が深まるんだったら、別段、いいかもしれないな。

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8スレ目 >>778


「にとり、俺と一緒に子供を開発してくれ」

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8スレ目 >>825


ニトリ!!俺と一緒に相撲しないか?もちろんまわしつけて

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11スレ目>>955>>969


「・・・不気味な山だ、芋くさい娘や黒いオーラのフリフリ娘に遭遇しなきゃもっと印象良かったやもしれんのに」
ここは・・・山だな・・・それ以上の説明が出来ない
天狗がいると聞いたのにちっとも遭遇しないで変なのばかり出てくる
「・・・おい、さっきから後ろをちょろちょろしてる奴、いい加減出て来い」
姿は見えないがさっきから・・・10分ぐらい前からか、後をついてくる奴がいるのだ
監視されてる・・・観察・・・いい気分ではない
「・・・盟友よ、よくぞ見破った!」
「あ?」
木の陰から出てきたのはちっさい子供
レインコートにマ○オ見たいな帽子と長靴・・・がまの穂?
「盟友って・・・すまんが何処かで会ったか?」
「人間は盟友だ」
「・・・ああ、種族間でってこと・・・つまりお前さんは妖怪か何かか?」
「ん?私は河童だよ」
ああなるほど、完全防水と言う訳か
目の前の少女、もとい河童
敵意は無いらしく、見たままに無害らしい
「それよりも人間、この先は天狗の山、危険だから引き返したほうが身のためだぞ」
「・・・行くなと言われれば行きたくなるのが人の性ではなかろうか?」
「他人の言う事を素直に聞くのも人としては大切だと思うが?」
「・・・」

「・・・解った、そこまで行きたいなら私を倒していくんだね」
そう言い放つと、河童は地面に大きな円を書き始めた
拾った枝でがりがりと地面に円を書いていく・・・河童と言えばそう
「弾幕ごっこじゃいくらなんでも可哀想だからね、相撲で勝負だ!」
背負っていたリュックやポケットの工具類を置いて、長靴を脱いだ
向こうはやる気満々、だがコッチは
「俺が負けたら素直に帰るが・・・お前が負けたらなんかしてくれるのか?」
「お好きにどうぞ、勝てるわけ無いでしょ?」
「・・・」

体重なんか俺の3分の一ぐらいしかなさそうなこんな少女と相撲、普通ならば手加減するべきだろうが・・・
「おい河童、本気で行くぞ」
「・・・はっけよーい ・ ・ ・ のこった!」 

先手必勝、何かされる前に投げ飛ばすなり地面に叩きつけるなりしてしまえば
低空のタックル、河童の腹ぐらいの高さに何の遠慮もなしに突っ込んだ

「な―」
コッチは妖怪だから様子を見てくるかと予想した、しかし思い切りのいいタックル
彼の右肩が鳩尾に綺麗に入る、息が出来ない
しかしそう思った瞬間、私の体はふわりと、浮いた
抱えられたと思ったら土俵の外に投げ出されたのだ
「お、おい・・・だいじょうぶか?」
「ぅ・・・はぁ、はぁ」
瞬殺、あっさり負けた、一面のボスが四面のボスのかませ犬にされたぐらいあっさり
「げほっ、げほ・・・酷いじゃ無いか盟友、コッチは可愛い女の子だよ?」
「いや、妖怪だと思うとつい・・・と言うか弱いのに何で相撲で勝負しようとか言い出したんだ?」
「いや、勝てるつもりだったんだけどね・・・あんたが速過ぎるよ」
何かをする前に、行動に起こす前に、負けた
まぁただの人間がこんなところまでこれるわけないか


「・・・もう大丈夫か?」
「ん、まだ背中は痛いけど・・・それ以外は大丈夫」
「そうか・・・」
「なぁ・・・負けておいてなんだが・・・どうしても行くのか?」
「・・・河童がそこまで言うなら、止めておくかな」
俺を心配してくれているんだし、そこまで言われちゃ・・・ねぇ?
それにただ天狗とやらを見てみたかっただけだし
「そうだ河童、お前っていつもここらへんにいるのか?」
「うん、たいていここらへんをブラブラしてるか天狗と遊んでる」
「そうか・・・じゃあまた来るよ、見つけたら今日みたいに止めてくれ」
「え?あ・・・うん、いいともー!」
「それじゃあ・・・お前、名前は?」
「ん?あ、そっか、互いに名前も知らなかったね」
「まったくだ・・・俺は○○、人間の○○」
「私はにとり、河童のにとり」
にとりと名乗った河童は、妖怪らしからぬ友好さで、俺にとって初めての妖怪の友になってくれた
「あー・・・じゃあな盟友にとり」
「うん、またね盟友○○」
木の葉の上をゆっくり歩いていく、途中何度か振り返ったが、その姿が見えなくなるまで、にとりは手を振っていてくれた



「おや、随分機嫌がいいじゃないか」
彼が見えなくなって少しすると、山の上の方から見知った天狗が降りてきた
「うん・・・友達が出来たんだ」
「へぇ・・・人間の?」
「うん・・・」
「人見知りのにとりに人間の友達が出来るなんて・・・おめでとう?と言うべきか」
周りから見て解るぐらいに機嫌がいい、頬も緩みっぱなしで
「私も会ってみたいな、その人間と」
「近いうちにまた来るって言ってたよ、天狗に会ってみたいとか言ってたからきっと喜ぶよ」
「そうか・・・友達になれるといいな」
「すぐになれるさ、彼は優しくて乱暴者の紳士だから」
ああ、彼が来るのはいつだろう?
明日か、明後日か、それとも一月先か
お茶でも飲みながら話がしたい
早く椛に会わせて、その反応を見て見たい
退屈な日々で、先を楽しみにすると言うのはとても久しい感情だった




「おーい、ご在宅ー?」
天気が良いので縁側で茶を飲んでいた、そのところに聞きなれない声
勝手に上がってこない客は面倒ごとを抱えてる「客」だが・・・
「あ、居るんなら返事して欲しいな」
「・・・この前の河童・・・だっけ?」
何処かで見覚えのある河童、そうたしかこの間・・・
「それで・・・何か用かしら?」
「うん、ある人間の家を教えてもらいたいんだけど・・・」
人見知りで臆病者の河童が人間に何の用かと少し考えたが、私にはあまり関係ないことだと思い、詮索はやめた
「・・・そいつの名前は?」
「○○って言ってた」
「・・・どっかで聞いたような・・・なんか特徴ない?」
「えっとね・・・体がでかくて・・・うん、体が大きい」
まったく参考にならない、体が大きいだけで人がわかれば苦労しない
「・・・他には?」
「んー・・・相撲が強い?」
うん、知ったこっちゃないわ
「お、このあいだ私がボコした河童じゃ無いか」
「あー!このあいだ私を一方的にボコボコにした魔法使い!」
突然の来客、どうせ茶でも飲みに来たのだろう白黒の魔法使い
「あら魔理沙、茶なら出さないわよ」
「・・・邪魔したな」
くるりと体を返して帰ろうとした魔理沙を、一応引き止めた
「ねぇ、○○って知らない?でかくて相撲が強いんだってさ」
「あ?ああ、それなら・・・・茶+煎餅4枚」
「ノン、1枚」
「・・・2枚」
「オーケー、茶+煎餅2枚・・・それじゃあ案内頼むわね」
「任せとけ、よし、行くぞ河童」
「・・・巫女さん、ありがとね」
「感謝の気持ちがあるなら表の賽銭箱によろしくね」
そういうと河童も魔理沙も苦笑いしていた、何か変なことを言ったかしら?
魔理沙は「まぁ霊夢だし」と言っていたが・・・?



魔法使いの箒に乗せてもらい、彼の家まで運んでもらった
「とーちゃく・・・帰りはどうする?」
「んー・・・大丈夫、歩いて帰るよ」
「そっか、じゃあ気を付けて」
「うん、色々ありがとね」
こうやって話せば悪い人間ではないとよく解る、むしろいい人だ
わざわざ送ってくれて、帰りの心配まで・・・第一印象だけじゃ解らないもんだね
こうして知り合いが増えると言うのは、とても喜ばしい事であると、最近になって気づいた

「・・・おじゃましまーす」
「いらっしゃーい・・・おお、にとりじゃないか」
…一瞬我が目を疑った
彼の店には所狭しと「菓子」が陳列してある
「・・・○○ってお菓子屋さん?」
「YES!珍しいと言うか変なお菓子を扱ってる」
青や赤の透明な飴玉、杖の様な容をした・・・これも飴?
チョコレートやよく解らないお菓子が・・・いっぱい
「よく家が解ったな」
「うん、魔法使いに連れてきてもらったんだ」
そうだ、巫女と魔法使いにお菓子を買っていこうか、きっと喜んでくれる
「それで・・・何か用が有ったのか?」
「あ、うん・・・これ○○のじゃない?」


にとりはがさごそとリュックの中をあさって小さな鍵を取り出した
「これ、○○が落としたのかなと思って・・・」
その鍵は間違いなく俺の忘れ物だ、しかもとても大切なもの
「おお!お前が拾ってくれたのか」
「はい・・・それって何の鍵?」
にとりは俺に鍵を渡すと、興味深そうに聞いてきた
「ああ、金庫の鍵だ、俺の全財産が常に入れてある」
あの時落としてから今日までお金が出せないでひもじい思いをしていたのだ
これで一件落着と
「・・・ありがとな、礼と言っちゃなんだが珍菓子をぷれぜんとふぉーゆー」
紙袋を広げて菓子をつめていく
虹色の丸いキャンディー、ゼリービーンズ、サソリの入った飴など、変り種から美味しいものまで
「い、いいよそんなに」
「遠慮すんなよ」
「お、御礼が欲しくて届けたわけじゃないよ・・・友達だから・・・これぐらい当たり前だと思ったから・・・」
きっと彼女にはこういう機会がなかったんだな、と思った
彼女にとって友達とはきっと彼女の言う盟友とは違うものなんだ
盟友より近く、親しみを込めて「友達」と
とりあえず帽子を取って頭を撫でておいた、何となくそうしたかったから
彼女は撫でられると嬉しそうに目を細めて、笑っていてくれた
「にとり・・・友達でもいい事をしたら誉められるし感謝もされる・・・それに俺はお前がそういう気持ちで届けてくれたのが嬉しいんだ、だから遠慮するな」
彼女が俺を友達と思ってそうしてくれたのがたまらなく嬉しかった
だからこそ俺はちゃんと礼がしたかった、でも言葉にするのは少し恥ずかしくて、俺はにとり顔を見ないように菓子をつめていった


「気を付けて帰るんだぞ」
「うん、大丈夫・・・ねぇ、また遊びに来てもいい?」
「もちろん、次はゆっくりお茶でも飲もうな」
「うん・・・それじゃ」
「ああ、またな」
彼女は帰っていった、手に持った蝦蟇の穂を振り回しながら
リュックに詰まった甘いお菓子を、彼女がどうするのか
誰かと一緒に食べるならいいな、何て思ったりもしなかったり






「・・・魔理沙」
「なんだ霊夢」
「賽銭箱の上にお菓子が置いてあった」
霊夢の手には変わった・・・弾幕のようにカラフルなお菓子が
何処かで見たような・・・ああ、たしか○○の店の
「河童のお礼だろ・・・お金が良かったか?」
「いや、貰える物は何でもありがたく頂くわ」
霊夢はクリアブルーの飴を一つ、口に放り込んだ
私も一つ、食べてみた
「・・・甘い・・・美味い」
「こりゃいいな・・・うんうん」
二人してもごもごと口の中味わって、一つの結論に行き着いた
「ねぇ魔理沙、今度あったらあの河童をお茶に誘ってみようと思うの」
霊夢は、この貢物を気に入ったらしく、珍しい発言をしてくれた
だから私も、この素敵な贈り物に、便乗させてもらおう
「そいつは奇遇だな、私もそう思ってたところだ」

end

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12スレ目>>21


「にとりー」
にとりのいる山に遊びに来たのだが・・・留守のようである
「ここらへんにくれば判ると言っていたのに・・・やっぱり留守か」
しょうがないので辺りをふらついてみる事にした

そういえば以前にとりに止められてこの先に入らなかったんだったな
「ちょっと入ってみるか」
深く考えず、好奇心のまま山に入ることにした

木の葉は厚く積み重なっている
もう秋も終わりこの山も寂しくなる、そう思うとこの光景がとても珍しいもののように思えた
冬が来れば葉は落ちて、雪が積もり、滝だって凍ってしまうのではないだろうか
ああ、寒いのは苦手だ
蛇や熊みたいに冬眠できればいいのに
「そこの人間、ここより先は天狗の山、なに用に来られた」
「あ?」
剣と盾と・・・犬?
頭にへんな帽子をかぶってるので恐らくは・・・天狗か?というか今天狗の山がどうこう言ってたしな
「あー・・・別に用は無い、ただ友人を待つ間の暇つぶしに散歩していただけだ」
「そうか、敵意が無いのならこちらからは手を出さない、早急に立ち去られるが良かろう」
俺は特に用があったわけではないので、すんなり引き返そうとしたのだが
「ちょ、ちょっと待って!」
なぜか引き止められたのだ
帰れといったり待てといったり、忙しい天狗だ
「その友人とはもしかして・・・河童か?」
「へ?あ、ああ・・・その通りだが・・・?」
「ああ、なるほど・・・にとりの御友人でしたか」
「・・・ああ、にとりのいってた天狗の友人は君の事か?」
「はい、申し遅れました私 犬走椛、ここらの見回りをやってます」
「これはご丁寧にどうも、俺は○○、里で自営業を少々」
椛と名乗った天狗はにとりと親しいらしく、よく一緒に暇つぶしをしているらしい
そして友達の友達だから、今日から私たちも友達だと、言ってくれた
幻想郷に来て数年、何処か馴染めないでいた俺には、そんな一言だけでこの場所になじめたような気がした
しかし・・・親しい知り合いが河童に天狗に魔法使いか・・・まぁ幻想郷らしいといえばそうなのだが




「あ、○―!?」
思わず身を隠してしまった
ただ椛と○○が話していただけなのに、なぜか
いつも難しそうな顔をしている椛が、楽しそうにしている、本来喜ぶべき事だ、○○と椛が仲良くしてくれているんだ
それなのに、なんでだろう?なんだか、もやもやする
ああそうか、これはきっと嫉妬なんだ
私、○○の事が・・・
「ははは・・・私は」
こんなに嫌な奴だったんだ、大事な友達なのに、今までずっと一緒にいてくれたのに
どうすればいいんだろう


「・・・いつまで隠れてるつもり?」
「・・・そうだよね、椛は鼻がいいんだったね」
既に○○は帰った後だった、椛は私が出てきてくれるのを待っていてくれたんだ、待ちきれなかったみたいだけど
「・・・何か会いたくない事情でもあったの?」
「ううん・・・なんでもない」
「・・・彼、会いたがってたよ」
「うん、私も会いたかった」
椛は凄く、困惑している・・・というより心配してくれてるんだ
「もうちょっと・・・気持ちに整理がついたら・・・だから、今は会えないんだ」
だってこのままじゃ、○○とは友達でいられないし、もしかしたら椛とも
「・・・椛、私たちずっと友達だよね?」
「当たり前じゃ無いか・・・にとりは大事な友達だよ」
図々しいかもしれないし甘えているだけかもしれない、でも今は友達の優しさに身をゆだねていたかった


end

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最終更新:2011年02月26日 12:24