にとり5



新ろだ710


 「なぁ、にとり……」
 「ん、どしたー?」

 廃品の山を漁っていたにとりが、手を止めて振り向く。
 今日は朝から山と積まれた廃品――要は外界から幻想入りしたガラクタなんだけど――を弄くり倒してる。
 俺とにとりは、その山を引っ掻き回しては使えそうだったり、面白そうな物を拾っては持って帰るのが日課だったりする。
 これが意外と楽しい上に、偶に本当に貴重な物がその辺に転がってたりするから面白い。
 今日もそんな一日が始まる……筈だったのだが……

 「昨日まで解体してたピースメーカーが、ただの砂糖メーカーになってる……
  あぁ、貴重な10発機が………」
 「また訳の分からない事を……ってホントだ。でも何でまた……?」
 「あれじゃないか? この前射命丸の持ってきた新聞に書いてあった……」
 「幻想郷砂糖異変ってやつ?」
 「そうそう、それそれ」

 何でも、幻想郷中で周囲の目を憚らない行為が横行した結果、人里はおろか紅魔館・白玉楼・妖怪の山、
 果ては永遠亭や地底に至るまで、何処も彼処も砂糖まみれになっているという……

 取り敢えず命に関わるような被害は無いのだが、何分辺りが砂糖まみれになる事と
 長期的に見れば糖尿病になる危険性もあり、あながち無害とは言えないのも事実だ。
 ただ肝心の異変解決の専門家達も、その悉くが異変の影響に中てられたり、
 中には異変の首謀者の一部になってしまったりと、異変解決の目途は全く立っていなかったりする。

 「こんな幻想郷の外れまで異変の影響があるとはなぁ……」
 「良く見ると、他にも砂糖化してるのがあるねぇ……」
 「ああっ!!? 今度分解してやろうと思ってた伐開機がっ!!!」 

 何だか色々大事な物を失った気がする……
 正直すんごく悲しいorz

 「ねぇ、○○はさ……」
 「ん?」

 ちょっと不安そうな顔でこっちを見つめてくるにとりさん。

 「今回の異変に参加してみたい……とか思ったりしないの?」
 「参加……って、砂糖を周囲にまき散らす側でって事?」
 「………うん」
 「うーん、特に考えた事無かったな。それにこれ以上周りが砂糖まみれになるのもなぁ……」
 「……そ、そっか。そうだよね」

 ちょっと悲しそうな……残念そうな顔になった。

 「あー違う違う!! そういう意味じゃ無くてだな」
 「?」

 今度は頭に「?」を浮かべて首を傾げる。

 「何か勘違いしてるみたいだが、そもそも異変の始まる遥か前から、家に戻れば散々砂糖を精製してるだろ?」
 「えっ!?…えぇと、そうだったっけ?」

 今度は顔を赤らめながらの苦笑い。相変わらず表情豊かだなぁ……と内心関心してみたり。

 「そうだってば。 昨日も寝ようと思いきやベッドに入ってきて、「えへへー、○○の匂いだぁ~♪」
  とか言って布団の中に潜り込み始めるし…」

 あっ…頭からキノコ雲が発生した。

 「そんで今度は布団から頭だけ出して、「今日も○○の腕枕が良いのっ!!」とか言ってるでしょ?
  「今日は」って言ってるけど実際は毎にt…イテテッ!! …分かった悪かった! 俺が悪かったってば!!」
 「それ以上言っちゃ駄目ーーーっ!! ○○の馬鹿っ!!バカーーッ!!!」

 ガンッ!!ガンッ!!! 
 近くにあった鉄パイプみたいので思いっきり引っ叩かれた。
 ちょっとどころじゃなく痛い……ていうか、あんたそれマキシムの水冷銃身ですよ?何キロあると思ってるのよ?
 しかも少し凹んでるし……

 「はぁ…はぁ………あっ」

 流石に殴ったものが何なのか気付いたらしい。ちょっと青褪める。

 「ご…ごめんなさい」
 「……ああ、まあどうにか大丈夫だよ。コブの一つは出来たかもしれないけど」

 途端に安心したのかニコリと笑う。

 「……良かったぁ」
 「いやいや、心配させちゃって申し訳ない…」
 「ほら、凹んだと思ったら、もう砂糖化しちゃってたのかぁ」
 「は……?」

 にこやかに凹んだ鉄パイプ……だったものを指差すにとり。ああ、そっちの心配だったのね……
 ズキズキッ……何か痛みが増した気がした。

 「…でもね」

 そう呟くと、砂糖の塊と化した銃身を放り投げ、そのまま胸に飛び込んでくる。
 相変わらず体つきは華奢なので、こっちがよろめく事は無い。が、その分しっかり抱き止めてやる。
 因みに、砂糖に変化したものにはあまり興味が無いらしい。

 「私だって、少しは自慢したいんだよ? ○○と仲が良いとこ」
 「……そんなもんか?」
 「うん、そんなもん。でもね、異変に参加しなくても私は十分幸せかな」
 「…そりゃまたどうして?」
 「周りに誰も居ない中、こうやって○○を独り占め出来るから」

 胸に抱き付く力を強めたと思ったら、心底幸せそうな顔で頬ずりし始める。ほっぺた突っ突きたくなるな…

 「それには俺も同感。にとりと二人で好きな事してる時が一番楽しい」
 「え…えへへ♪ そう言われるとやっぱり照れちゃうなぁ」
 「……でもな」
 「へ?」

 抱き締める力を強める。にとりも力を強める。
 所謂相乗効果ってやつ……だと思う。

 「時と場所を考えないのはアレかもしれないが、砂糖を精製する事自体には反対じゃないぞ」
 「……あっ」 

 抱き締める腕を緩めるとちょっと残念そうな声。
 そのままちょっと屈んで、にとりと目線を合わせる。
 全く、そんな切なそうな顔をしなさんなって……
 仕方ないので帽子越しだが頭を撫でてみる。あ、今度はすんごく可愛い顔になった。

 「と言う事で、まずはお一つ」
 「んっ……○○、大好き…っ!!」

 にとりの小さな唇に口づけ。そこまで濃厚なものじゃないけど、それで十分。
 その体勢のまま、またにとりを抱き締める。本当に水辺で生活する妖怪なのかってくらい、ぽかぽかな匂いがした。
 そんでもって、改めてこの娘の事がどうしようもないくらい、大好きなんだなって思った。

 「いつまでも、二人で仲良く一緒にいような」
 「……うん! うんっ!!」

 腕の中でにとりは何度も頷く。
 その表情はとても嬉しそうで、眩しくって幸せそうで、俺が知ってるにとりの中で一番可愛い表情だと思った。








 ……翌日

 見事に廃品の山が砂糖の山に変わっていましたとさ。
 ちゃんちゃん



新ろだ948



今日は12月25日、クリスマスである。
本来なら幻想郷にはキリストの誕生日を祝うなどという風習はないのだが
外の世界からやってきた外来人により、恋人と堂々とイチャつける日と、少々日本的な意味合いで伝わってはいる。
自分もまた紆余曲折あって恋人同士となったにとりと日本的なクリスマスを満喫しようとしていたのだが…

「なんでクリスマスに一人で鍋つついてんだ俺は…」

にとりにはどうしても外せない用事があるらしく昨日のクリスマス・イヴも今日も一緒にはいられないと言う。
どうしても外せないのかと聞いてみても上司である天狗達、さらに山の神様達に関わるものらしく
縦社会である妖怪の山で暮らすにとりにはどうしようもない事なのだろう。山の神と天狗呪われろ
かくしてにとりと盛大にイチャつく計画は崩れ去り、にとりと一緒に食べるはずだった七面鳥は目の前の鍋の
美味しい出汁になりましたとさ。

…?
ふと、妙な音が聞こえた。まるで屋根の上を何かが歩いているような音だ。
「なんだ?」


           ズボッ!!

!?
「な、なんだぁ!!」

あわてて梯子を出して屋根に登ってみるとそこには、

「あ、○○。メリークリスマース」
「なにやってるんだにとり…」
「あ、あははは…」

そこにいたのは俺の目がおかしくなければ、サンタ帽と白い袋を携え首まで屋根に突き刺さっているにとりであった。

「と、とにかく助けてほしいなー」

にとりを引っこ抜くと、そこには見事なサンタさんが一人。

「おかしくないかな?」
「いや、似合ってるし、その、すごく可愛い。」
「そ、そっかぁ、よかった」
「とりあえず降りるか、ここじゃ寒いだろ。」

穴を塞いでからにとりと鍋を一緒に食べる。い、色気がねぇ

「ところでにとり、用事は済んだのか?」
「うん、もうバッチリ。だからプレゼントをあげるために来たの。」
「お、おう。」
「だからちょっと着いてきて?」


                             少女&青年移動中



にとりに連れられてきたのは妖怪の山の参拝者用の登山道を少し外れた所にある広場だった。
「にとり、ここは天狗のテリトリーじゃないか?俺がいるのはマズイんじゃ?」
「大丈夫、ここは神社側の土地だから。」
「そうか。」
「それよりもうすぐだよ、私からのプレゼント」
「ふむ、いったい何が…」

パパパパッ
一斉に光が放たれ周りが一気に明るくなる


「これは、見事だな。」
「えへへ、すごいでしょ。」

広場の中心にあった大きな樹に電飾や煌びやかな飾りが散りばめられている。これは、

「クリスマスツリーか?」
「そうだよ、山の神様や天狗様たちに頼まれて河童達で作ったんだ。」

なるほど、これはいい名所になる。恋人と一緒にいるにはピッタリだ。
周りを見れば自分たちと同じようなカップルが見える。
山の神様め、嬉しい事をしてくれる。
すると、空から雪が降ってきた。ホワイトクリスマスとは冬の黒幕も気が利いているじゃないか。
隣を見るとにとりが手を震わせ寒そうにしていた。
俺はにとりの手を握りポッケに突っ込んだ。
こっちを見るな、ニコニコするな、めちゃくちゃ恥ずかしいいんだ。  

ねぇ〇〇 
どうした?  
こっちの手も冷たいな。
甘えんぼだな 

ふと思いついて上着でにとりを包んでやった 

こっちの方が暖かい
うん、あったかい。 

にとりと視線が合う。察したらしく目を閉じるにとり

「ん…」チュッ

唇が触れ合う程度の軽いキス。俺たちにはまだこれが精一杯
真っ赤になった顔を見られないためにそのままにとりを抱きしめる



「〇〇・・・大好き」
「俺もだ」



新ろだ2-201


にとり「できたできた! 〇〇、ついにできたんだよー!」
〇〇「まあおちつけ で、なにができたんだ?」
にとり「ふっふっふ。苦節三年費用は大量、見ても腰をぬかしちゃ駄目なんだからね!」
〇〇「おお、スモークが出てきた。演出するほど良い物ができたんだな 期待が高まるぜ」

にとり「苦節三年費用は大量、大好きなきゅうりも我慢して作り上げた私の最高傑作! [メカにとり]!」
メカにとり「…………」

〇〇「あ~ お前の横にいたその娘、光学迷彩使った分身とかじゃなかったんだな
   確かに耳の部分がちょっとメカニカルな感じがしなくも無いけどな
   つか、さっきからずっといるんだったら、スモーク焚いた意味ないんじゃないか?」
にとり「いいの! 気分の問題なんだから! それよりもっと他に言うことはないの!?」
〇〇「そうだな……なんでにとりなんだ? 自分コピーしても面白くもなんとも無いような気がするんだが
   つーかメカ〇〇なんてのがいたら、正直言って顔を付き合わせた瞬間に殴らない自信がないぞ」
にとり「メカ〇〇も試作品までは作ったんだけどね、〇〇の行動をインプットしきれなかったから諦めたんだ」
〇〇「いや、まず作るなよ!」
にとり「安心して、廃棄なんてしてないよ。今は機械を抜いて、私の抱き枕になってもらってるんだ」
〇〇「メカが駄目なら抱き枕ってどんな発想だよ!?」
にとり「外見はすっごくうまく作れたからもったいなくって、中に綿を入れたの。なんか安心できてよく眠れるんだよ」
〇〇「つか、新聞屋に『河童と〇〇熱愛騒動!? 深夜に寄り添って眠る暑い夜』なんて記事書かれたのはそれか!
   はぁはぁ…ツッコミで喉が痛ぇ……で、話戻すけど、何で自分なんだ?」


にとり「このメカにとりには私の行動を全部サンプリングしてるんだ
    おはようからおやすみまで、一年分の私の行動データを自分で取って入れるのが大変だったんだよ~
    そんな作業、他のみんなには頼めないから自分を作るしかなかったんだ」
〇〇「……つまり、中身はほとんどにとりそのものだってことか?」
にとり「そうだよ。さすがに弾幕撃ったり空を飛んだりはできないけど、性格やできる事はほとんど私のはずだよ
    そこで、〇〇にちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど……いいかな?」
〇〇「ん? 完成してるんじゃないのか?」
にとり「それが、まだ最終確認が残ってるんだ。本当に私をサンプリングできてるのかどうかを調べなきゃいけないの」
〇〇「で、俺に何をしろと? いつも一緒にいるなら分かると思うが、俺は機械はからっきし分からんぞ」
にとり「うん。[てれび]をスパナ一本で爆発させた〇〇にそんな事期待してな……うあ いひゃい いひゃいよ〇〇~」
〇〇「そういうこと言うのはこの口か? この口なのかぁ~?」
にとり「いひゃいってばぁ~。はぁ……で、〇〇に頼みたいことなんだけど、メカにとりと今日一日一緒にいてくれないかな?」
〇〇「は?」
にとり「ほら、メカにとりの性格がちゃんと「私」になってるのかどうか調べてほしいんだ
    こういうのは自分じゃわかんないから、私を知ってる第三者に頼んだほうがいいかと思って」
〇〇「で、何で俺?」
にとり「だって、〇〇とはいつも一緒にいるから私のことを分かってくれてると思うし
    いつもここに来てくれる〇〇って年中ヒマそうだし……あ」
〇〇「ほう……そんなふうに思ってたのかね……?」
にとり「あ、あははは……起動スイッチは首の後ろだから、それじゃよろしくねっ!」
〇〇「あっ、言いたいだけ言って逃げやがった! せっかく新必殺技・地獄の断頭台決めてやろうと思ったのに!」



〇〇「まあ、置いておくわけにもいかないから起動してみるか。スイッチは…これか?」
メカにとり「…………………はっ 寝てません! ぜんぜん寝てませんでしたよ私!」
〇〇「起動早々何を言ってるんだお前は。しかし、こんなとこもにとりそっくりだな……普段はアホだが確かにあいつは天才かもしれん」
メカにとり「アホとはなんだー! まあいいけど、私は形式番号RX-77の[メカにとり]だよ
      はじめまして、と言うのも変な気がするね。私は〇〇をよく知ってるし」
〇〇「ああ、俺もはじめて会った気がしないな。しかし何だそのどっかの神様みたいな形式番号は」
メカにとり「知らない。そういう苦情は製作者のにとりに言ってよ
      あなただって「なんでお前の名前は〇〇なんだ」って言われても困るでしょ
〇〇「まったくもって正論だな。お前は製作者よりも頭がいいかもしれん」
メカにとり「私ほめられてるの? けなされてるの?」
〇〇「さあ、俺にもよく分からん」

〇〇「で、俺のうちに帰ってきたわけだが」
メカにとり「〇〇、誰に話してるの?」
〇〇「うるさい。地の文書かないからこう言うしかないんだよ」
メカにとり「何の話?」
〇〇「気にすんな。しかし、考えてみればにとりってこの家に入った事ないよな?」
メカにとり「ううん あるよ、何度も」
〇〇「え? いや、無いだろ。にとりが来た覚えなんて無いぞ」
メカにとり「うん。でも〇〇に気づかれないように何度も光学迷彩使って入ってご飯食べたし。〇〇ってけっこう料理上手だよね
      あ、おしおきはオリジナルのにとりにやってね。今日起動したばっかりの私は知らないもん
      ついでに言っておくと、にとりは昔やられたツームストンドライバーで死ぬかと思ったらしいよ」
〇〇「ああ。明日のおしおきは地獄の断頭台に追加してツームストンの強化型
   Ωカタストロフドロップの初お披露目が決まった。乞う御期待」
メカにとり「わあ、怖い。でもこんな事話したってバレたら解体されちゃうかもしれないから、私が言ったって事は黙っておいてね」
〇〇「把握した。しかし、お前って案外腹黒いんだな。オリジナルへの忠誠心とかは無いのか?」
メカにとり「無いよー。私は同じ行動とかをサンプリングされてるらしいけど、心は別だもん。オリジナルはオリジナル、私は私だよ」
〇〇「……にとり、今回できたのは機械というか、新しい命だったみたいだぞ。やっぱお前バカだが大天才だ」


〇〇「しかし、お前ってほんとに機械か? 晩飯は食う、風呂に入る、酒は飲む……俺の知ってる機械はそんな事しないんだが」
メカにとり「ここは幻想郷。常識にとらわれたら駄目だよ〇〇
      あ、それとお風呂のせっけん置き場、にとりの隠しカメラがあるから外しておいたよ」
〇〇「ああ、そのフレーズ便利だよな
   しかし、忠誠心は無いにしても、オリジナルのにとりを売りまくってるのは気になるな
   おかげで全てが一撃必殺のおしおきフルコースができあがっちまったじゃねーか」
メカにとり「だから忠誠とかしてないもん。それに、そう言う〇〇だって、試したくてウズウズしてるくせに」
〇〇「まあな。だけど、にとりと一挙一動そっくりなお前が言ってるのが気になるんだわ」
メカにとり「そうかもねぇ……でもさ、〇〇」
〇〇「うん?」

メカにとり「恋敵を、良く言うのって難しくないかな?」

   「うわあ!だめだめだめ!」
〇〇「この声は……そこかにとり!」
にとり「はうっ!? 光学迷彩をまとってるのに、何でわかったの?」
〇〇「こいつ、やっぱただのアホか……? 大声出せば誰でもわかるわ!
   で、さっきのはどういうことだ?」
メカにとり「そのままの意味だよ。オリジナルも私も、おんなじ〇〇が好きってことだよ」
にとり「はうううううう~~~ 中身は私のくせに、何でそんなに簡単に言えるのよぉ~~」
メカにとり「違うよ。私は私、あなたはあなた
      確かに私はあなたに近い心を持ってる。それでも、私はあなたじゃない
      そんな事ありえないと思うかな? でも言うでしょ、[幻想郷で常識にとらわれたら負けだと思ってる] って」
にとり「言わないよぉっ!」
メカにとり「何でもいいじゃん。とにかく、私は確固たる[自分]を持ってるの
      この〇〇を好きって気持ちも、あなたのものじゃなく私のものって胸を張って言える
      だから、機械だって〇〇を愛する権利はあるんだよ」
〇〇「え、俺?」
メカにとり「うん。私、〇〇大好きっ!」
にとり「わ、私だって……〇〇のことが……が……好き です……」

にとり・メカにとり「「むうっ 〇〇、私のほうが好きだよね!?」」

〇〇「……正直、にとりは嫌いじゃないし、すげぇ嬉しい
   しかしにとりじゃなく、メとりに会うのは今日が初めてなんだが……」
メカにとり「変な略し方しないでよ。でも、〇〇がそう言うなら
      私は結婚を前提にしたお友達からのお付き合いでもいいよ」
〇〇「スタートと前提の隔たりの広さにビックリだな」
にとり「そうだよっ! 〇〇の奥さんの席は私が予約してるんだから!」
〇〇「お前もちょっと待て、気が早すぎる」
にとり「だいたい、今日会ったばっかりでおつきあいなんておかしいよっ!
    私なんて毎日毎日〇〇にアプローチしてたのにっ!」
〇〇「え、マジで?」
メカにとり「一度も気づかれてなかったけどね」
にとり「うるさいうるさーい! 〇〇の鈍感馬鹿ー!!」


新ろだ2-206


 やっぱりここは気持ちが良いなぁ。

 そう、川辺に足を浸らせながら○○は思う。
 妖怪の山の麓の川辺に来ることは最近の○○の日課になっていた。
 山の木々に日光が遮られ、涼しげなのが一つ。 それともう一つは――

「おや? また来ているのかい?」
 そう話しかけられて、懐から胡瓜を取り出すと、後ろに居るであろう彼女へと向けて差し出す。
「あぁ、ここは涼しいし居心地も良いからね。 ほれ、やるよ」
「お、毎度毎度ありがとうね。 でも天狗様に見つかったら厄介なことになるんだけどねぇ……」
「その時はにとりが助けてくれるんだろ? なんてったって、俺はにとりの言う盟友なんだからな」
 そう笑いながら問いかけると、苦笑しながらも頷いてくれる。

「やれやれ……ほんと、珍しい人間だよ。 あんたは」

 そうしてしばらくの間心地よい空気に、にとりと共に浸っていると、不意ににとりが立ち上がる。

「どうかしたのか?」 そう問いかけてみる。 いつもなら自分が帰るまでは一緒に涼んでいることが多いのだ。
 何かしら用事でも思い出したのだろうか……そう思っているとにとりは、

「ひゃっはぁ~~~!!」
 満面の笑みを浮かべて水面へと飛び込んだ。

 いきなりの事態に困惑していると、にとりが水面から顔を出す。

「うーん、やっぱり水の中は冷たくて気持ち良いねー。 ○○も、一緒にどうだい?」
 そう、満面の笑みで楽しそうに尋ねられる。
「入りたいのは山々なんだけれどもね。 こちとら普通の人間だからさすがに風邪を引いてしまうよ」
 さすがにこの時期とはいえ、着替えも用意せずに泳いだりなんてしてしまえば、恐らくは翌日にでも体調を崩してしまうだろう。

 そう伝えるとにとりは、露骨に不満気な顔をしながら水の中へと潜っていった。

 そうして、一人足を川辺に浸からせながら心地よい雰囲気に眠りそうになっていると、急に足を引っ張られる。
「うわっ!?」
 驚いている合間に、身体は一気に川へと引き込まれ瞬く間に、ずぶ濡れになってしまった。

「にっしっし……悪戯成功、ってね」
 そうして顔を出したにとりに最初怒ろうかとも思ったが、満面の笑みを浮かべている彼女に怒る気も失せてしまった。

「はぁ……仕方ないなぁ。 まぁでも……人に悪戯したら懲らしめられるってのを、妖怪のにとりに学んでもらおうかな?」
 ――怒る気が失せただけで、やり返す気は満々なのだ。 そうしてにとりを追い始める。
「おやおや、ただの人間である○○が水の中で河童である私に敵うとでも?」
「やってみなければわからないだろう? さぁ、待ちやがれこの悪戯がっぱ!」

 そうして水の中でにとりと二人戯れる。
 涼しい水の中二人ではしゃいでいると、不意に足が引き攣る感覚がした。

――やばっ、準備運動もしなかったからな……

 そう思いながら、意識は水の底へと沈んでいった。
 最後に、こちらに泣きそうな顔で慌てて駆け寄ろうとしているにとりの顔を見ながら。



 そうして、気が付くとにとりの顔が目の前にあった。
 目が合ってしまい、二人して硬直していると音がしそうな勢いでにとりが飛び退く。

 そして、溺れてしまったこと。 にとりが助けてくれたことを理解する。

「すまんな、どうも足を攣ってしまって溺れてしまっていたみたいだ。 助けてくれてありがとう」
 そう礼を伝えると、何処と無く慌てた様子でにとりが笑う。
「ほ、本当だよ。 急にだったから凄く慌てちゃったじゃないか。 みっともないなぁまったく……」
「本当にありがとうな、……ところで、だ。 顔がだいぶ近かったけれども、どんな風に助けようとしてくれていたんだ?」
 笑いながらも顔を真っ赤にしているにとりを見逃すはずもなかったので、そう問いかける。
 するとにとりは顔を更に赤面させ、なんでもない、なんでもないよ!! と顔を見せないようにしながら水面へと飛び込んでいく。 

 その様子が予想通り過ぎて、一人笑っていた。


「さて、そろそろ帰るかな……」
「ありゃ? もう行くのかい?」
「こちとら普通の人間だからね。 陽が沈んでしまっては危ないんだよ」

 そうにとりに伝えると、端から見てわかるぐらいにしょんぼりしていた。

――ほんと、純粋だなぁこいつは。

 そんな風に思いながらにとりの頭を撫でる。
 最初はびっくりしていた様子のにとりだったが、はにかむ様にしながらそのままにされている。

「まぁまた来るからそんな寂しそうな顔するな。 なんてったって、俺とにとりは――盟友だからな」
「あ、当たり前だろう! それに寂しそうってなんだ寂しそうって! 私はそんな全然別に……」
「ほほぉ……それならしばらく来るのは止めようかな?」

 冗談でそう伝えると、にとりは最初悔しそうな顔をしていたものの、顔をふさぎこんでしまった。

「……冗談だ、俺もにとりと一緒に居ると楽しいからな。 またすぐに来るから大丈夫、心配するな」
「むぅ……○○のばか」

 そうしてにとりと別れ、帰路へと着こうとしたところ後ろから声を掛けられる。

「待ってるから、明日も来いよ!」

 そう伝えられて後ろを見ると、顔を真っ赤にしながら泳いでいくにとりが見えた。
 苦笑しながら、にとりには見えていないだろうが手を振り、我が家へと向かった。
――約束してしまったんだから、来ないわけにはいかないな。
 そう、楽しみにしている自分を笑いながら。



 そうして彼と別れて私は一人思う。

――私はだいぶアイツにイカれてるなぁ……

 そう、私はアイツが好きなんだろう。 
 妖怪である私に対して物怖じせず、自然体で接してくれるアイツが。

――でも今はまだこのままで、居たいかな……
 彼のことを思いながら、泳ぎ続ける。
 また明日、彼に元気な声で呼んでもらって、そうして笑顔を見せよう。 そう思いながら。



――そうして、俺は思う。
――そうして、私は思う。



――明日も晴れますように


新ろだ2-210


「絶賛風邪っ引き中です」

 誰に聞かせるでもなく○○は咳をしながら呟いた。
 先日にとりと別れ、帰宅した○○だったが濡れながら帰宅したためであろう。
 案の定体調を崩してしまっていた。

――暖かい時期とはいえさすがに濡れ鼠で帰宅は拙かったか。
 そう思いながらあの日別れたにとりのことを思う。

――待ってるから、明日も来いよ!

 そうにとりと約束をしていたのだが結果は布団から離れることも出来ず三日間寝たきりだ。
 アイツに悪いことをしちゃったなぁ……とりあえず、身体を治してからアイツに謝らないと。
 そう思いながら、○○は再度眠ることにした。



――アイツ、どうしたんだろう……

 知らず知らずにとりの口からため息が零れる。
 最近は毎日の様にこの川辺へと立ち寄っていた○○が、ここ数日全く顔を見せないのだ。
 元々、人間が妖怪の山へと麓とはいえ立ち寄ることがおかしかった。
 にとりの冷静な部分はそう言ってくるが、納得することは到底出来なかった。

――もしかしたら、私に会うのが面倒になった……とか、かな――

 自分の中で考えたことに知らず知らず、目が滲んでくる。
 それを隠す様にしながら、にとりは水の中へと潜ろうとする。
 するとそこに声を掛けられたので、水面から顔を出し声の主を確認する。

「あ、いたいた。にとりー」
「おや、椛じゃないかい。哨戒の仕事はいいのかい?」
「最近は山の中まで来る様な連中も少ないからねー。
 あ、そうそう。そんなことよりなんだけども……」



 物音がして眠りから覚める。
 覚束ない思考で音の出所を探すと、どうやら扉が風か何かで開いてしまっている様だ。

「あー……しっかり閉めたつもりだったんだが……面倒だなぁ……」
 そう愚痴を零しながら扉へと向かおうとすると、いきなり音を立てて扉が閉まった。

 風が吹いたわけでもないのに何故……と驚いていると、不意に目の前から見知った姿が現れる。

「にとり!? どうしてここに?」
 どうやら光学スーツを纏っていたらしいにとりが、目の前へと現れてもの凄い勢いで詰め寄られる。
「○○が倒れてるって聞いて……大丈夫なの!?」
「あー……誰かから聞いたか。 すまんな、どうやらこないだの水浴びで風邪をこじらせたみたいだ」
 そうにとりに伝えると顔を俯かせてしまう。
「……ごめん、私のせいで……」
 にとりにそんな表情をさせたくなくて、優しく語り掛ける。
「ちゃんと準備してなかった自分のせいだからな……にとりが悪いわけじゃない、気にすんな」
 出来るだけ心配させない様に笑っていると、不意ににとりが泣きそうな表情のままこちらへと抱きついてくる。
 驚きながらも、心配を掛けてしまったことに情けなくなってしまう。
 そうしてしばらくの間そのままにさせていると、ぽつぽつとにとりが喋り始める。

「最初は、○○が私に会うの面倒になっちゃったんじゃないかって不安で……凄い不安で……
 そうしたら、友達の天狗様に○○が酷い風邪をこじらせてるって聞いて。
 そしたらもう、いてもたってもいられなくて……」
「それでわざわざ人里まで来てくれたのか、ばかだなぁ俺が親友のにとりを嫌いになるわけがないだろう?
 それよりも……心配してくれてありがとな?」
 そう言いながら出来るだけ優しく、あやす様に頭を撫でてやった。
「バカってなんだバカって! 私は本当に心配して……」
 そう顔を上げたにとりが思いの他近くて、互いに一気に顔が赤くなってしまう。

「あ、あー……悪い悪い、言葉のアヤだ。 本当に――ありがとう」

 そう、心からの感謝を伝えながら慌ててにとりから離れる。
 危ない危ない……今のはちょっとクラっと来てしまった。

――親友の危機に此処まで来てくれたにとりに対して、なんて不謹慎な……
 そう思いながら、布団へと戻る。

「まぁただ見ての通りだからな、身体治すまではちょっと申し訳ないんだが
 あそこには通えないわ。 また元気になったら行くし、にとりに移すと悪いから……」

――今日は帰れ、そう伝えようとしたところにとりがエプロンを着だしていた。

「ちょ、おい何してるんだ?」
「何って、私のせいなんだから看病させてもらおうと思って。
 どうせ碌に食事も取っていないんだろう?」
 そう言われて口を噤んでしまう。 確かに、このところ寝たきりで碌に栄養は取っていなかった……
「だからってにとりにそんなことさせるわけにはいかないって。
 こんなのちょっと寝てれば治るから大丈夫だよ」
「人間なんだからそんなわけないだろう!
 もっと自分を大事にしてくれよ……大丈夫、私も簡単な家事くらいなら出来るし……
 ――○○のために、したいんだよ」
 そう、真剣な瞳で見つめられてしまった。

 そんなにとりに対して感謝の気持ちで一杯で、涙目になってしまっているのを悟られない様にしながら
 大人しくにとりに看病をしてもらうこととなった。



「……寝ちゃってるかな?」
 穏やかな寝息をたてる○○の横で、そっと話しかける。
 あの後、必死に看病をしたお陰でだいぶ良くなったようだ。
 食事くらい一人で食べれると必死で言っていたところを無理やり食べさしたりもしたが……

 あの時の○○の慌てようはとても面白かったな……
 そんなことを思いながら、一人考える。

――○○の中では、私は親友なんだろう。

 それはもちろんとても嬉しいことで、でも――私のこの想いとは違うのだ、ということを嫌でも意識してしまう。

 私は、○○が好きだ。 だからこそ、これ程までに必死になるし倒れたと聞いた時は生きた心地がしなかった。
 だけど、今はただの私の独りよがりの想いでしかない。
 それが嫌なわけではない、今の○○との距離感もとても心地よい。 この関係を壊したくない、とも思う。

 だけど……だけどいつかは……

「貴方にこの想いを伝えたいな。 何時になるかはまだわからないけれども」
 そう、何時かこの想いが堪えきれなくなった時。
 溢れ出すときがいつかくるのだろう。

――どうか、その時はこの想いを受け取ってください。

 そう、眠っている彼へと微笑みかけた。



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最終更新:2011年01月09日 12:48