椛1
10スレ目>>66
人と付き合うのは苦手だ。
それでも、この幻想郷という世界で生き残るには人の力が必要不可欠である。
もしも、僕が常日頃からサバイバルな生活を送っていたのなら、そんなこともなかったのだろうが。
残念なことに、僕は世間様で罵られている“引きこもりさん”だったのである。
そんな僕ができることは、炊事洗濯等の家事くらいなものだ。
正直に言えば、自分でも男として情けないと思っている。
「椛さん、今日の戻りは何時頃になりますか?」
「ん……異常が無ければ日が沈む頃には戻る」
犬走 椛さんは、そんな僕を囲ってくれている女性だ。
短く切り揃えた白髪はしなやかで、整った顔立ちは凛々しく、性格は協調性も高くて仕事に忠実な人だ。
「遅くなったら、先に寝ていてくれ」
そして何より、優しい人なのだ。
この山に迷い込んでいた僕を、こうして傍に置いてくれている。
天狗様が僕を食材として椛さんに放ったとき、僕は全てを諦めて笑っていた。
それなのに、彼女は僕を殺さずに住まわすと言ってくれた。
天狗様は可笑しそうに笑っていたけれど、椛さんは終始硬い表情をしていた。
後に聞いた話だと、位が上の天狗様に進言することは、殺されてもおかしくない事なのだという。
元の世界でもあまり必要とされていなかった僕を助けてくれた命の恩人。
僕は、彼女の為に何ができるのだろうか。
「行ってらっしゃい、椛さん」
とりあえず僕は、美味い飯を作れるように修行を積もうと思う。
きっとそれが、僕が椛さんにできる数少ない恩返しなのだから。
椛さんが仕事へ出てからは住処の掃除、仕事着の洗濯などで時間を費やす。
そして、昼になると、僕は待機中の椛さんの所へ昼食を届けに行く。
大抵の場合、椛さんは暇をしているので一緒に昼食を食べる。
時折、侵入者が出て居ないときがあるので、そんなときは職場の人に弁当を預けて一人帰っていく。
今日は侵入者がいたようだったので、僕は少しだけ肩を落としつつ、早々に帰宅した。
そして、家に戻ってからは夕食の仕込みを始めて、それが終わるとすることがなくなってしまう。
「そういえば、山の上に神社が出来たって椛さんが言っていたなぁ」
思い出してみても、僕はそこへは行けない。
天狗様から、人間は山の頂上付近へ近づいてはいけないと厳命されているのだ。
もしも神社に足を運ぼうとすれば、哨戒中の椛さんに殺されるだろう。
天狗様の命令は絶対で、仕事に忠実な椛さんは逆らうことができないのだ。
同じように、僕は一人で里に下りることも許されていない。
自由に生き長らえているようだが、実際、僕はこの山の中途半端な住人というわけなのである。
「別に、辛くはないけどね」
そう、元居た世界に比べて、することは何も変わらないのだ。
寧ろ、この山の方が何もかも魅力的で、逆に幸福さえ感じている。
椛さんには迷惑をかけているかもしれないけれど、僕は此処に居たいのだ。
僕は、幻想郷に溶け込みつつあるのかもしれない。
それは、とても幸福なことなのだと思えた。
夕日が地平線に消えて、半刻が経った。
椛さんは、まだ帰ってこない。
恐らく、昼から現れていた侵入者が関係しているのだろう。
冷めかけた米を、暖めなおせるように粥にして、戸を開く。
見上げた秋空には、白い月が浮かんでいた。
遠く聞こえる弾幕の音に、思わず拳を握る。
山の頂上から聞こえてくるそれに、僕は走り出すことができない。
できたとしても、椛さんの足を引っ張るだけだっただろう。
それが何より悔しくて、何もできない僕は顔を伏せたまま、部屋へと引き返していった。
僕にできることは、椛さんを待ち続けること。
■
人と付き合うのは苦手だ。
気を許した友人と将棋を打つときにも、無言であることが多いらしい。
そんな私は、射命丸様のように機転が利かず、忠実であることしかできない。
ついでに言うなら、ユーモアや女性らしさというのも欠けていたりもする。
洗濯や掃除等は大の苦手で、炊事ときたら、まともに出来た試しがない。
正直に言えば、自分でも女として情けないと思っている。
「行ってくるよ、○○」
○○は、そんな私を支えてくれる人間だ。
そこそこに整った顔立ちで、とても優しい瞳をした男。
性格は穏やかで、従順である。
「はい。因みに夕餉は何がいいですか?」
そして何より、優しい男なのだ。
山に迷い込んだ彼を捉え、大天狗様の下へ突き出した私を恨むことなく慕ってくれている。
大天狗様の気紛れで食材扱いされたというのに、彼は終始恨み言を漏らそうとはしなかった。
今まで見てきた人間は、私に向かって呪詛を吐いていったというのに、彼は笑顔さえ向けて言ったのだ。
――あなたになら、食べられてもいいです。
馬鹿な奴だと思った。
それなのに、私は気付くと彼を庇っていた。
大天狗様はそんな無礼を寛大な御心で許してくださったのだが、正直、私は震えが止まらずにいた。
何故自分がそんなことをしたのか、その理由は今でも分からない。
それでも、庇って良かったと私は思っている。
それから、山で暮らすようになった彼には、様々な制限が課せられた。
一人では山から下りることも叶わず、山の中でさえ行動を制限されて、それでも彼は笑っていた。
こんなことになったのは私が捕らえたせいなのに、彼は私を恨むことなく笑顔を向けてくれる。
私には、彼が理解できない。
「任せるよ。行ってきます」
理解できないのだが、一緒に居たいのだ。
日々の仕事は山へ進入してくる輩を見張ることである。
侵入者の発見と同時に牽制、手に余るようなら大天狗様へ報告するのが私の任務だ。
しかし、妖怪の山に好き好んで侵入してくる者は滅多に居らず、大抵は暇を持て余すことになる。
その間は、仲間と共に滝の裏で待機しつつ、将棋等で暇を潰していた。
最近は、昼に食事を持ってくる○○を引き止めて長話をすることが多い。
仲間内で冷やかされたりするのだが、楽しいのだから仕方がないと思うのだ。
「――侵入者発見」
不意に、千里眼に二つの影が映る。
同時に舌打ちを小さく溢して、愛用の剣と盾を手に滝を突き抜けていく。
どうやら、今日は○○との談笑はお預けのようだ。
結局、侵入者の二人は私の手に余るものだった。
人間のくせにやたらと強い侵入者は、射命丸さんが上手く言い含めたようで神社へと向かったらしい。
その後、私は大天狗様に命じられて、二人の尾行、観察を行った。
そして、戻った頃にはとっくに月が昇り、空は夜に染められていた。
「○○はもう寝たか」
日が沈む頃、帰らなければ寝ろと言っておいた筈だった。
だから、一人呟いた言葉は期待も何もない、愚痴のようなものである。
それなのに、見慣れた住処からは、ぼんやりと灯かりが漏れていた。
「……ただいま」
少しだけ期待を込めて、小さく声を漏らす。
お帰りなさいの声は、ない。
当然の筈なのに、少しの期待の分だけ落胆してしまう。
「――あ」
しかし、それもすぐに無くなってしまった。
薄暗い部屋の中、卓袱台には伏せられた食器が二人分。
その影に、彼が居眠りをしている姿が見えた。
「寝ていろと言ったのに……こんなに冷たくなって」
眠り続ける彼の頬に指を添えると、ひんやりと冷たかった。
その姿に、私は申し訳なく思いながらも、唇が笑みに歪むのを抑えられなかった。
長く一人過ごしてきた私は、待っていてくれる人がいる幸せに慣れていないのだ。
恐らくは、これから先も慣れることはできないだろう。
「冷たいけど……でも、温かいな」
呟いて、冷え切った彼の身体を強く抱きしめる。
冷たいはずなのに、胸の辺りが妙に温められていくのを感じる。
私は今、彼にも見せられないくらいだらしない顔をしているのだろう。
それでも、今はまだこのままでいようと思う。
今日は少しばかり、疲れたのだ。
思えば、彼と出会ってから私は精神的に弱くなった。
それに比例するように、彼が傍に居るときはとても強くなれる気がした。
簡単に言えば、依存しているのだと思う。
そんな、受け取るばかりの私が、彼にできることは何なのだろうか。
■
身を切るような寒さの中、穏やかな温もりを感じた。
いつの間にか眠っていたのか、まだ半分眠ったままの意識でその温もりを強く求める。
それは優しくて、柔らかくて、少しだけ良い匂いがした。
「すみません、少し眠っていました」
薄く目を開けると、すぐ傍に椛さんの顔があった。
僕は少しだけ恥ずかしくなって、顔を伏せる。
「待っていてくれたのだな……寒かったろう」
「いえ、温かかったですよ。それに……」
「それに?」
「椛さんの匂いがしました」
言って、抱きしめられたまま椛さんの肩口に鼻を押し付ける。
椛さんは僕よりも背が低いので、まるで僕が襲っているように見えたかもしれない。
「……馬鹿者」
こういうときの椛さんは、顔を赤らめたりしてとても可愛い。
にやけそうになる表情を必死に固めて、微笑んでみる。
少しだけ、だらしない笑顔になったかもしれない。
「○○……この山は、辛くないか?」
「辛いことなんてありませんよ」
「本当に、本当か?」
「本当の本当です」
唐突な質問に、当然の答えを返す。
椛さんの唇は、少しだけ震えていた。
「それじゃあ、ずっとこのまま、山で暮らしていてくれるのか?」
「んー、僕は椛さんの傍で暮らしたいですね」
椛さんは驚いたように、目を見開いていた。
正直、自分でもこんな言葉が出てくるとは思わなかったのだが、少しだけ心外である。
「それは、私を嫁に貰ってくれる……ということか?」
「どちらかといえば、僕が婿に貰われるという感じではないでしょうか」
冗談を交えて、照れ笑いを溢す。
しかし、椛さんは驚いた表情のままで、質問に質問を重ねた。
「それは、私のことを……す、好いていると受け取って良いのか?」
「はい、好きですよ」
「……初めて聞いた」
呆然と、椛さんが呟く。
思えば、普段の僕の態度を見れば一目瞭然のような気がするのだが。
確かに、言葉にしたのはこれが初めてかもしれない。
「椛さんこそ、僕のことどう思っているんですか?」
「な……私が貴方を好いていること、気付いていなかったのか?」
「え、あ、そうなんですか? 僕はてっきり、椛さんにはぐらかされているのかと」
「私だって、○○は気付かないふりをしているのだとばかり」
言い合って、見詰め合うこと数十秒程。
気が付けば、示し合わせたように二人して笑い出していた。
「そうか、うん。好いておるぞ○○」
「はい、僕も椛さんのこと好きです」
言い終わって、僕達は口付けを交わした。
先ほどから感じていた温もりは、身体を溶かしそうなくらいに熱くなっている。
やがて、椛さんは誘うように、その身ごと僕を引き倒した。
近くで見る椛さんの顔は繊細で、驚くほどに白い肌には僅かに朱色が浮かんでいる。
それが、どうしようもなく可愛くて、僕は椛さんに覆いかぶさるような体勢になり、もう一度唇を奪った。
「ん……ふぅ、こういうときは積極的なのだな」
「一応、男ですので」
今度は椛さんの方から唇を寄せてきて、少しだけ長く口付けをする。
唇が離れる間際、小さな舌が僕の唇を舐めていった。
柔らかい舌の感触が、脳天まで電気のように走っていった。
その快感が合図となって、僕は小さな欲望に油を注ぎ、
――きゅぅぅぅぅぅぅん
――ぐぎゅるるるるん
お腹のあたりから、壮大な腹の音を鳴らした。
同時に、先ほどまでの絡みつくような熱気は一瞬にして冷め切って、僕達は互いに見つめ合う。
「お腹、空きましたね」
「そ、そうだな」
結局、色っぽい雰囲気は何処かへ霧散してしまって、僕は作っておいた粥の鍋を火にかけた。
部屋の隅では、白い肌を朱に染めた椛さんが小さくなって座っている。
よほど恥ずかしかったのか、あれから椛さんは一言も喋ろうとはしなかった。
「僕は、ずっと此処に居ますよ」
湯気を昇らせた粥を一つ掻き混ぜて、囁くように呟く。
横目に見た椛さんは、小さく頷いていた。
それは、ずっと椛さんの傍に居ても良いという意味なのだろう。
僕はそれだけで、不満も不安も何もかもが無くなってしまった。
幻想郷は残酷でありながらも優しくて、賑やかでありながらも穏やかで。
何より、僕の隣には椛さんが居てくれるのだ。
「椛さん、僕はこの山に居て幸せなんですよ……」
曖昧にしか思い出せなくなった、元居た世界を思い出す。
そこにはもう、未練を感じることはできなかった。
僕は、この山の中途半端な住人だ。
しかし、幻想郷には完全に溶け込んでしまったようである。
「愛しています、椛さん」
それは、とてもとても幸福なことなのだと思えた。
了
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うpろだ592
「今、何て……」
犬走椛は呆然とした表情のままに、目の前にいる青年――○○にただ一言だけ問い掛けた。
何かの聞き間違いに違いないと、そうなんでしょう、と懇願してくるような椛の瞳を正面から見返して、○○は重い口を開いた。
「……俺達、別れた方がいいのかもしれない」
生まれて初めての恋だった。
今まで生真面目に職務に邁進し、恋色沙汰には無縁だった椛が、初めて心奪われた相手が○○だった。
外の世界から迷い込んだ○○に警告を与えるべく姿を見せた椛は、○○に文字通り一目惚れしてしまった。
それは○○も同じだったらしく、二人は紆余曲折の末にめでたく付き合う事になり、今では○○は妖怪の山の麓に出来た守矢神社の分社を守るという名目で住み込んでいる。
幸福な筈だった、それなのに、何故。
「な、何で……? ボ、ボク、何か○○の気に障るような事した!?」
「……いや、何もしてない」
あくまで優しく、椛が大好きな微笑みのままで○○は否定する。何処までも優しいその笑顔とは裏腹の、悲しい瞳をしたままで。
「じ、じゃあ……ボクの事、嫌いに」
「違う、椛の事は大好きだ、今でも、これから先も」
「だったら何で……!?」
不安と困惑の入り交じった表情で、椛は○○を見上げる。自分に至らない所があったのか、それともまさか他に好きな人が……。
そんな絶望感にも似た椛の思考を断ち切ったのは○○の、苦しげな声だった。
「怖いんだ、自分が」
「……え?」
顔を上げれば、そこには苦しみで歪んだ○○の顔。椛の大好きな人の、苦しそうな笑顔。
「椛の事を好きになって……恋人って呼べる関係になって……凄い幸せなのに……」
「○○……」
何処か後ろめたい事でも吐き出すかの様な○○の独白に、椛も開きかけた口を噤んでじっと聞き入る。
「気がついたら椛の事考えてて……何してるんだろう、何処にいるんだろうって……けど、段々不安になってきて……誰といるんだろう、誰かと話してるんだろうか、何を話してるんだろうかって事まで気になってきて……」
呟きながら、○○の表情からは笑みが消えていき、苦しそうな表情だけが残っていく。
「何時の間にか……俺の椛、俺だけの椛って思う様になってきて……椛の全部を俺だけのものにしたくなって……」
「○○……」
「……俺ってこんなに独占欲強かったんだって……初めて知って……このままじゃ、椛に何するか判らなくなって……椛を、大好きな相手を……傷付けるんじゃないかって……」
懺悔にもにた響きを持ち始めた独白に、椛が呆然と呟きを漏らす。
彼は自分が嫌いになったのではない、愛し過ぎているが故に苦しんでいるのだと判ると、不安は消えていく。
だが、○○の瞳に涙が浮かんでいる事を見て取ると、不意に椛の胸が痛んだ。
「それに……何時か、俺が居なくなった後……誰か椛に近づきはしないか、椛の心を俺が縛り付けたりはしないかって……」
「…………」
「正直ね、狂いそうなんだ」
最後だけ苦しい笑顔でそう締めくくった○○の頬を、一粒の涙が伝った。
そして、我知らずの内に椛も泣いていた。
自分の事を想ってここまで苦しんでくれる事が嬉しくて。
それと同じくらい、そんな彼にそうさせてしまった自分が悔しくて。
だから、自分は、自分に出来る事は何でもすると、椛はその瞬間に心を決めた。
「○○……ボクは、ボクは○○だけのモノだよ? ボクの……その、身も心も、全部○○だけのモノ。好きだって告白した時に決めてたんだよ……ずっと、ずぅっと○○の為のボクでいようって……」
「……でもな、椛。俺は……狂ってき始めているのかもしれないぞ?椛を独占したいっていう思いだけが暴走して……いずれ椛の言葉だって信用出来なくなるかもしれない」
「それでも……それでも、ボクは○○のモノだもん……○○の椛、だから……」
瞳から大粒の涙を零しながら語りかけてくる椛に、○○の胸が痛む。
だが、それとは反対に心の中で黒く、強烈に燃え上がる感情もあった。
椛を大切にしたい、慈しみたいという感情と根を同じくするものの、決して表に出す事は許されない黒い情念。
その黒い思いに突き動かされるように、○○は椛に問いかけた。
「……誓えるか、椛」
「え?」
「一生……永遠に、俺の椛でいてくれるって……」
言いながら、○○は何かを椛の目の前に取り出した。
何故こんな物を持って来てしまったのか、今の○○の思考能力でははっきりとは思い出せない。
ただ香霖堂で見かけた時に、思わず購入してしまったのだ。
理屈なんて最初から無かった、或いは椛がこう言ってくるのを何処かで期待していたのかも知れない。
外の世界から流れ着いたそれは……
「くび……わ……」
椛の目の前に差し出されたのは人間がする首輪、所謂チョーカーの類ではない。大型犬用の正真正銘の首輪。
黒光りする皮で作られたそれは、永遠の愛の隷属を誓うには滑稽すぎる程にお似合いだった。
ふと○○を見上げれば、何処までも優しそうな瞳の中に黒い光が満ちている。今まで見たことも無い、黒くて、故に純粋な光。
しかし、それを見ても不思議と恐怖は感じなかった。何故なら――
「……誓います」
「椛……」
「ボクは……永遠に、○○の、○○だけの椛です……」
恐らくは自分自身の瞳にも、その黒い光は宿っているに違いないから。
そっと目を閉じて首を差し出す椛に、○○はほんの一瞬だけ躊躇したが、黙って首輪を着けるために手を回す。
まるでペンダントでも着けるかのような光景だったが、○○の手が離れた事を知り、目を開けた椛の首に光っているのは皮製の首輪。しかし、それでも椛は嬉しそうに笑った。
「これで……ボクは、永遠に○○だけのモノ……」
「あぁ……これで椛は永遠に俺だけのモノだ」
うっとりとした表情の椛を、○○はやや手荒に抱きしめる。涙の跡が残ったままの頬を、椛は○○の胸に擦り付ける。○○も、そんな椛を優しく撫でてやる。
○○を愛するが故に、愛の隷属を誓った椛
椛を愛するが故に、愛の隷属を誓わせた○○
狂気にも似た愛情で結ばれた二人を、ただ空と風だけが静かに祝福していた
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9スレ目 >>936
「おかえりなさい、○○」
「ただいま、椛」
玄関を開けると首に手を回して椛が抱きついてきた。
彼女は白狼天狗とかいう種族の妖怪みたいなものらしいが
何故か人間の僕に懐いて、紆余曲折の末、一緒に暮らしている。
狼、という文字が入っているので最初は人食い狼のような
人間に対して怖いイメージがあったのだが、椛に関して言えば
僕限定ではあるが、どちらかというと、わんこ、のような人懐っこさがあった。
実際、家にいるときは椛が寝ている時以外はずっとべったりだ。
首に手を回したままの椛をお姫様抱っこの形で持ち上げ、部屋に入る。
くつろいでいる時はいつも、彼女の定位置は僕の膝の上。
さわさわ。ふわふわとした綺麗な髪の毛を軽く撫でてあげる。
ふわっとした白い髪の手触りは、とても気持ちいい。
なでなで。「○○…」
「ん。」椛の声に手を止める。
「○○に撫でられるの凄い気持ちいいよ」
「そうか。それじゃもっと撫でてあげる。」
今度は顎の下を撫ぜてあげる。
なでなで。「くぅん」
眼を細めて、とてもリラックスしているようだ。
暫く撫でていたら、彼女は膝の上で寝てしまった。
起こしたり下ろすのもかわいそうだし
椛を膝の上に乗せたまま、僕も寝てしまうことにした。
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最終更新:2010年05月09日 22:55