早苗1



うpろだ428


『守矢神社』
その名を掲げる鳥居が目の前に見える。

「この時点では全部あるんだよな……」

手元の竹籠の中の荷物を再確認する。
米、野菜、肉、調味料、いずれも揃っている。
左右を見回し誰も居ないのを確認、籠が視界から外れないように持ち、
全力で駆け抜ける……

「あー、この調味料から察するに今晩は鍋だね。」

……今日もダメか。
後ろを振り向くと満面の笑みを浮かべた女の子がこちらを見上げている。
洩矢 諏訪子、この神社の本当の神様、らしい。
訪れるたびに持ち物を一つ取る。本人が言うには「お祭り」だそうだ。
すぐに返してくれるから問題は無いのだが、一度も防げないのはやっぱり悔しい。

「降参かなー? 降参なら防ぎ方を教えてあげるんだけどね。」
「ん、まだだな。とりあえず物理的な手段では無理そうなのは解ったから
 今度は別の方法を試してみるよ。」
「そうか、若者よ大いに悩め。」

神様だから年長だろうというのは想像できるのだが、やはりこの見た目で言われると
複雑な気持ちになる。

「ところで、早苗さんは? 」

普段なら境内で掃除をしているか縁側辺りに居る姿が今日はない。

「早苗なら本殿で神奈子と神事をしてる。」
「本殿か。なら、しばらく此処で待たせてもらうかな。」

ノンビリと山鳥の声に耳を傾ける。






「こんにちは、○○さん。」

何時の間にやら眠ってたらしい。太陽の位置から考えるに二時間くらいか。

「お疲れ様。」
「いえいえ、○○さんこそ毎日ありがとうございます。」

深々と頭を下げる。

「それについては私はただ運んでいるだけだし、礼ならお節介な里の人たちに
 言うべきじゃないかな。」
「そうですね。それでは宜しくお伝えください。」

そう言いつつ隣に腰掛け、湯呑みを渡してくれる。
因みに中身は御白湯。この神社の風習だそうな。
実際、下手な茶より美味しい。

「ところで、神事ってどんな事をやるんだ? 」
「え……」

いや、何故そこで赤くなって顔を背ける。
非常に気になるのですが。

「自分の神様の力を借り易くするように、神様の事をよく知る事、だよ? 」
「つまり、何を? 」

好奇心に忠実な事が人を進歩させるらしい、と自分を正当化してみたり。

「もう、なんでもいいじゃない。それとも、○○さんは禰宜か神主にでもなりたいの? 」

御幣で叩かれた。地味に痛いのですが……好奇心は猫をも殺すという諺もあったな。

「それも悪くないな。もっとも祀る神様が居ないが。」
「大体、禰宜とか神主は基本的に筋の人がやるものですよ、一子口伝の秘術とかもありますし。」

秘術の事を語る時、彼女は少し寂しそうな表情をする。
世が世なら現人神として人々の信仰の支えとなったのだろう。

「頼れる間は頼ればいいんですよ。」

信仰は儚き人間のために、と君は言うけれど、
しかし、本当に儚いのは、支えが欲しいのは君じゃないのか?

「何故君は……」
「え? 」

何故自分は頼っちゃいけないと思うのか、問えば「現人神だから」と答えるだろう。
彼女にとってはそれが当然だから。そういうものなのだから。

「いや、なんでもない。うん、やっぱり神主になることにしよう。」
「ちょっと、話聞いてなかったの? 大体誰を祀るのよ。」

失礼な。君に見とれてはいたが、話は聞いていた。

「祀るのは君でいいじゃないか。神様なんだろ? 」
「え……私? って、一子口伝の秘術はどうするのよ。」

その点も抜かりない。

「実は一つないこともない。」
「……神社で嘘をつくと祟られるわよ。」
「嘘じゃないぞ? 」
「じゃあ示してみなさいよ。」

うーん、やっぱりそうなるのか。

「……そうそう見せるものでもないのだが。」
「自分の祀る神様相手にもったいぶっても仕方ないでしょ。」

それはその通りだ。

「じゃあ、目を瞑ってくれ。」
「見せてくれるんじゃなかったの? 」
「視覚的に見せるものだけとは限らないだろ。それに、見られてるとやりにくい。」
「そういう事にしておくわ。」

彼女は、言われた通りに目を瞑った。
何となく勢いで言ってしまったが、いざ実践するとなると非常に恥ずかしい。
というか緊張する。

「……まだ? 」

しかし、此処まで来て引くわけにもいかないだろうし、こんな好機もおそらく二度とないだろう。
覚悟を決め、そっと肩に手を置き……


唇を重ねる。





……5秒、それが限界だった。
見ると、案の定彼女は固まっている。

「…………」
「…………」

何の反応も無いと、非常に居た堪れなくなるのだが。

「…………どこが一子口伝の秘術なのよ。」

そこの突っ込みからですか。

「めったに見せるものじゃないし、口伝えの技……だろ? 」
「一子は? 」
「他のやつにはしない。だから一娘口伝の秘術だ。」
「…………」

空気が重い。やはり、私などに想われるのは迷惑なのだろうか。

「…………いいの? 」
「ん……? 」
「私なんかでいいの? 私、現人神だし、神奈子様の祝だし、普通の人とは……」
「うん、いいんだ。そのままの君、早苗が好きだから。」
「ありがとう。」

そう言って抱きついてくる彼女を抱きしめ返す。



「ねえ、もう一度……」

そう言ってこちらを見上げてくる。

「うん。」

応えて、再び顔を近づけて……。



「早苗、ご飯まだー? 」

神奈子さん、後10秒我慢できなかったんですか。
なまじ力があるだけに狙ってやってるのではないかとすら思える。

「また後で。」

ばつが悪そうに微笑んで、本殿へと駆けていく。
せめて後10秒……我ながら未練がましい。
目の前の蛙の目のオブジェもまるで私を非難するように……?

「まったくこの人間は私の出題も解けてないのに人様の卑属に手を出して。」

えっと……ずっと見られてたのだろうか。

「今回だけは大目に見てあげるけど、次に勝手したら祟るよ? 」

それは満面の笑顔でいうセリフじゃないよ、諏訪子さん。

「ご飯の用意できましたよー。諏訪子さんも、○○さんも、早く来てください。」
「今行くよ~。」

陽気に答えて歩いく背中を眺めながら、つくづく思う。
自分で選んだ事とはいえ、えらい人に恋してしまったものだ、と。



うpろだ432


諏訪子さんの後について庫裏へ行くと夕飯の支度は既に整っていた。
まあ、鍋だから持ってきた材料を入れただけといえばそれまでだが。

「はい、どうぞ。」
「……」

まず神奈子さん。

「どうぞ。」
「うむ。」

次に諏訪子さん。

「どうぞ。」
「ありがとう。」

次に僕に。
初めて来た時からこの順番は崩さない。きっと何かしら意味のある順番なんだろう。

「いただきます。」

音頭を取るのは神奈子さん。

「いただきます。」

それを受け、全員が応えて食事が始まる。
神奈子さんは肉中心、早苗さんは野菜中心、諏訪子さんは……とりあえずごっそりって感じだろうか。

「そういえば……」

前から抱いていた疑問を問う。

「食事前の儀礼とかないの? 」
「儀礼……例えば? 」

心底不思議そうに問い返す早苗。そんなに変な事聞いてるかな。

「天にまします我らが神よ、今日この日糧を与えてくださった事を感謝します、みたいなの。」
「やりたければ○○が1人でやればいい。」

正面から神奈子さんが言う。

「この中で純粋な意味で人なのは○○だけだろう。」
「大体、今日の糧を与えてるのは○○じゃない?」

右前から諏訪子さんも加勢する。それはその通りなんだが、そういう意味じゃなくてだな。

「一神教とは考え方が違いますから……感謝する対象はこの食事となった命そのもの。
 『いただきます』という言葉にその感謝を込めて言う事、そして自分がその犠牲の上に
 生きている事を常に意識する事、それが食事に対する礼儀となります。」

ああ、僕の気持ちを解ってくれるのは君だけだよ、早苗さん。
それにしても使えない純正神様達だ。

「あっ。」

骨付き鳥腿肉(推定70㌘)が箸から零れ落ちて卓上を滑り……

「はむっ。」

って、なんで食べてるんですか、諏訪子さん。しかも骨付きなのに丸ごと。

「うむ、祟りじゃ。」
「え……祟りって。」
「ごちそうさま。」

1人で鍋の半分くらい抱えてたのに、もう食べ終わっていたらしい……。






食事が終われば当然、洗うべき食器が残る。
洗うべき食器は洗う必要があるわけで、要点だけ述べるならば
現状は薄暗く狭い部屋の中で早苗さんと二人っきりだ。
狭さの程度を表すなら、そう普段は神奈子さんと早苗さんで食器を洗ってるから、
僕が入れ無いくらい。
端的に言えば人が二人入ると体が触れずには居られない位の狭さ。

「あ、○○さん。役割分担どうします? 」

うーん、早苗さんは全然意識して無いらしい。

「皿洗いは母さんに雑だって言われたからな。皿拭いたり仕舞ったりする方を。」
「はい。」

しまった。女の子に水仕事をさせるのは……しかし、洗い方が雑なのは事実だし、
みんな汚れた皿は嫌だろうからな。

「このお鍋は上の棚にしまってください。」
「ん……」

そういえばこの棚多分早苗さんの背丈じゃ届かないよな。
普段は神奈子さんがやってるんだろうか。

「そういえば、○○さんはどうやってこっちに来たんですか? 」
「ん、普通に神隠しだよ。」

どうやってと言われてもな、紫さんに聞いてくれ。

「あれ、でも前に自分で来た様なものだって言ってませんでした? 」
「ああ……」

うん、確かに自爆同然だよな。

「趣味で民俗学勉強してたって話はしたっけ? 」
「そうなんですか? 」

話してなかったか。

「うん、それで神隠しの伝説に統計処理かけてみたら次に高確率で神隠しが起きそうな場所
 が解ったから、神隠しを見に行ったんだ。」
「まさか……」
「そこで神隠しにあった。」

馬鹿だね、間違いなく。

「一応親には神隠しを見に行ってくると言って家を出たし、博麗さんに頼んで
 手紙も届けてもらったから心配は……とりあえず無事なのは伝わってるはず。」
「そっか……ご両親も安心してると思うよ。」
「そういえば、早苗さんの親の話聞いた事無いけど……やっぱりもう亡くなってるのかな? 」

さっと、早苗さんの表情が曇る。まずい事を聞いてしまったか。

「私……親のことは覚えていないんです。秘術は親から教わったはずだから十歳頃までは
 一緒に暮らしていたはずなんですけれど。」
「十歳……それなら普通は覚えてるはずだね。」

こくりと肯き、続ける。

「八坂様に聞いても答えて下さらないし……氏子の皆さんは覚えてるのに変ですよね。」

限定的記憶喪失というやつだろうか。

「○○さん、そんな顔をしないでください。」
「ん……」

そんなに表情に出てるのだろうか。

「○○さんに会って、○○さんを好きになって、私は今、幸せですから。」

慰められてしまった。

「ね。」






「早苗~、宴会やるわよ。」

神奈子さんの呼ぶ声。もうそんな時間か。

「それでは、僕は此処で失礼しますね。」

そろそろ帰らないと里に着くのが本格的に深夜になってしまう。

「あら、今日の宴会は出席してもらうわよ。」
「え、何故です? 」
「解らないとは言わせないわよ、山の皆にあなたを紹介しなきゃ。」

うーん、やっぱり早苗さんのことを言ってるんだろうな。
さて、逃げるわけにも行かないか……。

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10スレ目>>18


俺が幻想郷に来てからすでに1年が経った。里の人間とは仲良くなれたし、ちゃんと畑仕事を手伝って生きている。
 だが、俺だって、息抜きはしたい。ということで、つい最近魔法の森付近の小さな店に行ったところ、店主と俺が意気投合、そのまま義兄弟状態になっている。霖之助とか言う店主だが、俺は香霖と呼ばせて頂いている。さて、今日も時間が空いたし、香霖の所へと向かうとするか。勿論、下着は褌で。

 自分が寝床に使わせて頂いている小屋から抜け出すと、鞄を肩から掛けて歩き出す。そんな時だった。
「ん?」
 緑髪で、そこそこ長髪をした少女。博麗の所の巫女は赤い脇巫女だが、どっちかと言うと青い脇巫女姿をした子。その子が、なにやらおろおろしている。見かけない子だな。
「どうかしたか?」
 とりあえず、その子に歩み寄って声を掛けておく。すると、その子は向き直った。
「あの、香霖堂と言う所をご存じですか?」
「え?香霖堂なら今から行くところですが?」
 俺がそう応えると、その子は安堵したため息をついた。
「よかったぁ。出来れば、一緒についていってもいいですか?」
「ああ、かまわんよ。」
 勿論、断る理由も無い。
 という事で、いつもと違って今日は二人で、香霖堂に向かっている。
「あの、お名前を聞いてよろしいでしょうか?」
 少女の方が、声を掛けてきた。人混みの中を俺の服を握って歩いている。
「ああ、俺は○○。そちらは?」
「東風谷早苗と申します。」
 礼儀正しく、人混みの中、一礼してくれた。ん?その名前、聞き覚えがあるが・・・
「あ、もしかして、この前神社ごとこちらにやってきたとか言う?」
「あ、はいそうです。」
 にこりと微笑んで、そう応えてくれる。すまん。この笑顔。たまらん。
 とかいってる間に、香霖堂にたどり着いた。そして俺は扉を開ける。
「うぃーっす。香霖、今日もお邪魔するぞ?」
「おお、○○か。よく来てくれた。あ、そちらのお嬢ちゃんは?」
 香霖がいつもの様に迎えてくれ、そして早苗さんは俺の後ろで香霖の方をのぞきながら会釈している。
「ああ、こっちは東風谷早苗さん。この前神社ごと幻想郷に引っ越してきたとか言う。」
「ああ、あの人か。どうぞ、ゆっくり見ていってくれ。」
 ということで、俺たちは各自で物の物色を開始した。

と言う事で、時はあっという間に流れた。香霖と談笑したりいろいろと漁ったりする俺と、いろいろと興味深そうに眺めている早苗さん。だが、時計をみるとそろそろ暗くなる時間だ。里までの道中はあまり妖怪が出ないと言っても、流石に夜は危険だ。
「おっと、もう夜になっちまった。今日はこれで帰るよ。またな。」
「ああ、また来てくれ。」
 その様子を見ると、早苗さんがあわててこちらに向かってくる。そして、俺の肩の辺をぽんと叩いて、俺に話しかけた。
「あ、その、今日はありがとうございました。」
 なにを言うと思ったらそれか。
「ああ、別に良いんだよ。ちょうど俺もここに来る所だったし。さ、早苗さんも遅くならないうちに帰りなよ?」
「はい。 あ、あと、それと・・・・・」
「ん?」
 何だがもじもじと両手の指を弄くっている。この恥じらいの様子もまた。たまらん。
「また今度一緒に連れて行って頂けますか?」
 恥じらいながら、早苗さんは、俺にそういってくれた。
「おうよ。また会えたら、一緒に来ようか。」
「はい。」
 早苗さんは、にっこりと微笑んで、俺を見送ってくれた。 
 「んじゃまた。」
 早苗さんが見送る中、俺は手をふって里の方へと歩き出した。

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10スレ目>>81


妖怪山の大宴会。
不定期だが、およそ一月に一回開かれる妖怪の山のイベント。
夕暮れから始まり、酒に強い者は朝まで飲み明かすという。
私は今まで参加した事は無いのだが、こうして親交を深める事が信仰を深める事に繋がり、
そして、失われた徳を取り戻す事になるらしい。



「○○さんはお酒大丈夫なんですか? 確か未成年ですよね。」
「ん……法律的には飲んじゃダメな事になっていたけれどね。未経験なわけではないよ。
 外では普通の人よりは強いと思うんだけど、幻想郷基準ではどうかな。」

そう言って笑いかけると、早苗さんも釣られて笑う。
こういうのって、なんかいいよね。

「幻想郷の皆さんはお強いですからね。」
「早苗さんはどうなの? 」
「え……私ですか? 」

うーん、時々早苗さんの驚くタイミングが解らない。

「えっと、お酒はちょっといただけばそれで……」
「すぐ真っ赤になっちゃう人? 」
「いえ……あ、八坂様が待ってますよ。早く行きましょう。」

ん、露骨にはぐらかしてる?
まあ、ここで追求しないのも優しさなんだろうな。






山の妖怪(一部神様含む)が全員集合しての宴会……なかなか壮観な眺めだ。
普段広すぎるように感じる境内も少々手狭に感じる。
あっちで派手にやっているのが天狗の集団で、こっちの静かに淡々と杯を空けているのが河童達。
いろんな人に囲まれてるあの姉妹は収穫祭で見たな、秋姉妹だっけ。
神様と親交をというか、各自勝手に騒いでるだけだな。
騒ぐ場所が神社なのに意味があるのかもしれないけれど。



あれ、なんであの子だけ木陰に一人で居るんだろうか? 特に具合が悪そうには見えないが……。

「こんばんは。」
「っ!」

いや、そこまで露骨に引かなくてもいいと思うんだけどな。少し傷つく。

「あんまり近づかない方がいいですよ。」

この靄みたいな物がいけないのだろうか。

「ここなら平気? もう少し離れた方がいい? 」
「そこなら大丈夫……多分。」

多分か。まあ大抵の事なら神奈子さんか諏訪子さんに何とかしてもらえるだろう。

「なんでそんな所で一人で居るの? 」
「厄神だから。」
「厄神? 」

疫病神だろうか?
……後でお払いしてもらおうかな。

「ん、何から説明しよう。……流し雛って知ってる? 」
「ああ、知ってる。」

これでも神隠しに自爆するくらいには民俗学を……自慢にならんな。

「そう……その雛に移した厄を集めて見張っているのが私。」
「ああ、なるほど。」

疫病神とは違いそうだな。オシラサマみたいなものか。

「厄ってのは……見ての通りね。」
「それで一人で離れてたのか。」

なんか可哀想だな。

「厄は切れた縁の外、ってね。一人は慣れてるから。」

慣れてるから、ってのも寂しいよな。

「ほら、早く離れた方がいいわ。厄が移るって皆に嫌われるわよ? 」

ああ、必死で厄を押さえてくれているんだ。長居したら負担かけちゃうな。

「あ……」

数歩、歩いて振り返る。

「今度また話聞かせてよ。厄とかそういうのも、ある程度は何とかしてもらえると思うから。」
「あ、はい。」

綻ぶような笑顔。やっぱり女の子は笑顔が一番だよな。
満足げに肯いて皆の所へ……
「げっ。」
「『げっ』とはなんですか。失礼な。」

いや、いきなり目の前に真紅は衝撃が強すぎる。

「げ……『げんじんしん』と言おうとしたんですよ。」
「……現人神は早苗だし、第一、読みは『あらひとがみ』よ。」
「いや、知ってますよ。それくらい。」

背後から押し殺した笑い声が聞こえる気がする……。

「裁判長、被告の発言に矛盾があります。」「よし、有罪。」

一人で何やってるんですか、神奈子さん。あの子も笑ってるし。
……そういえば名前聞いてもないし名乗っても居ないな。
確かに「失礼な奴」かもしれない。

「さて、お遊びはこの位にしておいて。鍵山雛さん。」
「はい。」

雛、っていうのか。

「貴女の纏っている厄の事なんだけどね…」
「あ、ごめんなさい。これでも注意してるんですけれど…」
「それは大丈夫。そうじゃなくてね、今日は特別な日だから……」
「はい? 」

首を傾げる雛。いや、私の理解も超えてるよ、その発言は。

「ちょっとじっとしててね。」

そう言うと、纏っている注連縄をさらりと撫でて、歩み寄る。

「わっ。」

雛が感嘆の声を上げる。私自身もこれには驚いた。

「こんなもんでいいかしら。」

神奈子さんの歩みに従って雛の周囲を覆っていた靄が天へと登っていく。

「さあ、これでみんなと一緒に居られるわね。」
「はい! 」

足取り軽く宴の輪へ向け走り、思い出したように振り返る。

「ありがとうございます。八坂様。それと……」

ああ、名乗ってなかったんだった。

「○○です。」
「○○さん! 」

うん、なんかいい事した気分だね。何もしてないけれど。
さて、私も宴会に参加しようか、と思って歩き出したら腕を掴まれた。

「○○はこっち。そろそろメインイベントよ。」

痛い……痛いから引っ張らないでください。
メインイベントって何の事ですか!

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10スレ目>>277


私、東風谷 早苗が幻想郷に来て暫らくの日数が経ちました
最初は今までとは違う世界に行くことへの不安、八坂様の消滅の危機への不安
そして恋人の○○君と離れ離れになることへの不安
それでも今ではそんな不安もなく○○君とは一緒で
八坂様のことも妖怪の山を基盤に着々と信仰を集めて来ています
うまくいってる様に見えるが今私には一番の悩みがあります


それは…………○○君がもてるということです
とは言ってもほかの女性に言い寄られているのなら私がちゃんと対処すればいいんです
でも問題はそのもてる意味ということが違うということで、その意味とは……


「○○ー!あそぼー!」

「わはー!」

「こんにちわ○○さん」


子供にもてるということです


「何だよ、また来たのか?」

「なによ!あたいが来たんだからもっと喜びなさいよ!」

「はいはい、うれしいですよー」

「ムキー!!何よその言い草は!」

「チ、チルノちゃん落ち着いて」

「大変だねー大ちゃんも
 あ、お菓子食べる?」

「食べるー」

「良いんですか?ありがとうございます」

「あー!ずるいわよー!あたいにも食べさせなさいよ!」

「分かったからしがみ付くな」


今日来たのは妖怪のルーミアちゃんに湖から来たチルノちゃんに大妖精ちゃんの三人
○○君が言うには麓で知り合ってそのまま懐かれたとか


「ほら、どら焼きだ一人二個までな」

「わはー、おいしー♪」

「むしゃむしゃむしゃ」

「ほら、チルノちゃんあんまり頬張るとのどに詰まるよ」

「んぐ!?むぐぐぐ!!??」

「あーあ、ほら言わんこっちゃ無い
 ほら、水」

パシッ!

「ごくごくごく!!」

「大丈夫?チルノちゃん」

「ハアハアハアハア、あ、あたいはさいきょーだから大丈夫よ!!」

「ったく、もう少し落ち着け、誰もとりゃしないから、な?」

なでなで

「……わかったわよー」


そんな感じでほぼ毎日○○君の所に妖怪の子供が遊びに来ている
昨日は天狗と河童の子供が遊びに来て相撲をとっていた
その所為か最近私は○○君と二人きりになれてない


「恋人同士なのに…………寂しいよ○○君」


○○君達の遊ぶ声を聞きながら私は一人縁側で独り言を呟いていた


「駄目だな私、あんな子供に嫉妬するなんて……」

「よっ早苗!」

「きゃぁ!○○君!?どうしたの?」

「ん、早苗がどこにも見当たらなかったからちょっと探しに」

「そう、なんだ……あ、チルノちゃん達は?」

「チルノ達なら遊びつかれたのか縁側で寝てるよ」

「本当だ、可愛いねー」


○○君に言われて縁側に視線を向けるとチルノちゃんたちが仲良く川の字で寝ていた


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

(か、会話が続かない……な、なにか言わないt)

ギュッ

「ま、まままま○○君!?」


なんとか話題を出そうと考えてた私に突然○○君が抱きついてきた


「なんか早苗が寂しそうにしてたからな、迷惑だった?」

「そんなことないよ!すっごい!嬉しい!」


嗚呼、本当に○○君には敵わない、私が望んでることをいつだって察してしてくれる
外の世界から幻想郷に行く事を告げ○○君を置いていくことで悩んでいる私にこう言ってくれた
「俺は早苗と一緒に居たい、だから俺もそこに連れて行ってくれ、早苗となら地獄だって構わない」
そして彼は私と一緒に幻想郷に来てくれた
彼が居てくれたおかげでどれだけ私は救われただろう、感謝してもしきれない
だから私は彼を強く抱きしめ


ギュゥ
「○○君」

「なんだ?早苗」

「大好きです、これからもよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」


彼と共にこれからも歩んで行こうと決意を新たにした

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最終更新:2010年05月10日 21:10