早苗6
12スレ目>>921 うpろだ906
昨日の事だ。
俺は、いつものように守矢神社に来ていた。
「ねぇ○○」
「なんですか諏訪子様」
胡坐をかいた俺の脚の上にすっぽり収まるように座っている諏訪子様。
どうしてこう可愛いんだろうかこの神様は。
「明日はバレンタインだよね」
「ああ…そういやそうですね」
俺の記憶に間違いがなければ明日はバレンタインで間違いない。
「○○もチョコ欲しいの?」
「欲しいですね(1秒」
「即答だね」
「即答ですとも」
健全で素直な男性諸君なら皆美少女からチョコを貰いたい筈だ。
若妻とかお姉さんとか幼女派の方もおられるかもしれないが、異性からチョコを貰って嬉しくない男がいようか?…いるかもしれないけど。
兎に角、俺は欲しい。
だが…非情にも、外の世界のバレンタインでは…いや、やめておこう。過ぎ去りし過去を悔やんでも何も前進はしない…。
それよりも今は、この世界で東風谷早苗というこの世で最も素晴らしい人生の伴侶に出会えたことを喜んでいるべきだ。
東風谷早苗。
俺と同じく外の世界から来たという、守矢の巫女。
初めて守矢神社に訪れ、その姿を見た瞬間に。俺の体が、いや、存在そのものが見惚れた―――
閑話休題。
「よーし、じゃあ私が作ってあげるよ」
「そいつは嬉しいですね…期待してますよ」
「うんうん。期待しててねー」
これが昨日のやり取り。
なんか柱の影でゴゴゴゴゴという効果音と共に緑色の髪の毛が見えていたが気にしないでおこう。
・・・
ということで今日。
やっぱり俺は守矢神社に来ていた。いや他に行くところもあんまりないし。何より早苗がいるし。
「来たね○○。ま、あがりな」
「はい、お邪魔します」
そして中に入ると同時に感じる違和感。
「甘いですね」
「ああ…甘い。神社中こんなんさ。ちょっと張り切りすぎじゃあないのかねあの二人は…」
溜息をつく神奈子様。
二人のその張り切りの原因である俺は苦笑するしかなかった。
「取り合えずここで待ってな。それと、ほれ」
「え?」
神奈子様がこっちに何かを放る。
受け取ってみるとそれは腕の長さぐらいはある黒光りする太い…。
「随分と太いポッキーですね…」
「義理になるがな。本命は諏訪子にやった」
義理でこのサイズ。じゃあ本命はどんなサイズなんだ…?
「それより小さいに決ってるだろう。諏訪子が食べられないじゃないか」
「とか言って諏訪子様の口と同じぐらいのサイズなんじゃあないですか?」
「ほぅ、流石…よくわかってるじゃあないか」
お互いニヤリとした笑みを浮かべ、早苗たちが来るまで談笑した。
・・・
「お…お待たせしました…」
しばらくするとエプロン姿の早苗と諏訪子様が居間にやってきた。
「○○さん…あの、ど…どうぞ!」
早苗は俺の隣に座り、俯きながらそっと後ろに回していた手を突き出してくる。
その手には、両手サイズのハート型の、チョコ。
よく見ると。小さく文字が彫ってあ―――
『あいしてます。 ○○さんへ』
早苗…俺は…
「あ…」
無言で早苗を抱きしめた。
「有難う、早苗…」
「○○、さん…」
しばしの抱擁。
すぅ、と早苗から甘い、甘い。チョコレートだけではない、甘い匂いが―――
「若いねぇ。まっすぐだねぇ」
そこへ入る神奈子様の声。
「ふぇっ!?か、神奈子様!い…いつから…!」
「最初から居ただろうが。まぁ○○は分かってやってるみたいだが」
慌てふためく早苗。いやぁ可愛いなぁ。
「は…恥ずかしい、です…あぅぅ…」
「今更恥ずかしがることもないだろ。早苗はやっぱりウブだねぇ」
ニヤニヤ笑う神奈子様。なんでこうこの笑い方が似合うんだろうかこのお方は。
「まぁそれは兎も角、だ。○○。折角早苗が作ったチョコが溶けちまうよ」
「…それもそうですね」
俺はすっと抱擁を解く。
当然、離す際に早苗が切なげにこぼした「ぁ…」という残念そうな声を俺は聞き逃さない。
「じゃあ改めて。有難う。全部食べて…いいかな…?早苗…」
「は…はい。どうぞ…私の…隅々まで…残さず…味わってください…」
「………」
「…○○さん、どうしました…?」
俺は無言で神奈子様の方を向く。
神奈子様も俺の方を向いていた。
数瞬見つめあって。
ビシッとお互い親指を立ててサムズアップ。
「な、なにを讃えてるんですか…?」
「いやなに、早苗はやっぱり可愛いな、と言う事さね」
「そうそう。んじゃ、頂きます」
チョコを齧る。
とっても、美味しかった。
・・・
「ふぅ、ご馳走様」
「お、お粗末さまでした…」
「いや、本当に美味かった。早苗の愛が感じられた。有難う、早苗」
「そ、そんな…私は…」
照れまくりの早苗。みなさーん、かわいいですよーーッ!
「眼福眼福。幸せそうな早苗を見ているとこっちも幸せな気分になってくるねぇ」
「か、神奈子様まで…」
ニヤニヤしながら早苗の様子を見ていると、不意に服の裾を引っ張られた。
「ん?諏訪子様。どうしました?」
「………」
そこにはちょっと頬を膨らませた諏訪子様が。
今まで放っておかれたことに怒ってるのだろうか?
ふるふる。
無言で首を振る。
「違う?じゃあ…ああ、チョコを作ってきてくれたんですか?」
こくこく。
今度は無言で頷く。
「有難うございます。それでチョコは…」
次の瞬間。
ズキュウウウン。
「むぐっ……!?」
「なッ…!?」
「ほほう」
三者三様の反応。
賢明な読者はお分かりであろう。
諏訪子様がいきなり接吻ぶちかましてきました。
「ん…?」
「~♪」
口の中に何か…何か甘いものが…こ…これは、まさかッ!
「ん…ふぅ…うん…あ…ん…」
諏訪子様の口から漏れる甘い吐息。
そして俺の口の中から体内に侵入してきた甘い匂いは、俺の全身に広がっていく―――。
「ちゅる……んむ……ぷはっ」
「ん…んく……んく………はぁ…はぁ…」
やがて、俺がその甘いものを飲み込んだのを確認すると、諏訪子様はゆっくりと口を離す。
つつ―――と、二人の舌から色の着いたそれが、糸を引く。
「ん…もったいない…」
それを指ですくい、しゃぶる諏訪子様。
はぁ、はぁ、と息を整えながら、ほんのり上気した肌で、上目遣いでにっこり笑う。
「おいしかった?○○…」
頭に甘い痺れが走り、まともな思考が出来ない。が、なんとか言葉を搾り出す。
「………はい、美味しかった、です…」
「そう?良かった♪」
ぼふっ、と諏訪子様が胸に飛び込んでくる。
「私も……美味しかったよ。……流石に、恥ずかしかったけど」
「俺も流石に、恥ずかしいですよ、これは……」
恥ずかしさのあまり、ぎゅーっ、と諏訪子様を抱きしめる。
「えへへー」
笑う諏訪子様。
「よし、二人とも覚悟完了してるな…?」
そこへ、神奈子様の緊迫した声が入る。
「ええ、できてますよ」
「あーうー。これはいつもよりも激しいかもね」
そぅっと、諏訪子様を放し、臨戦態勢、というか逃走準備を取る。
「ここじゃあ神社に被害が出る。外に逃げるぞ」
「わかってます…すみません。いつもいつもご迷惑をおかけして…」
「何を言っているんだい。アンタと会ってから、早苗はあんなに明るく可愛くなったんだ。礼を言いたいぐらいだよ」
「そうそう。私達だって毎日が楽しいから全然おっけーなんだよ」
「諏訪子、アンタにはもうちょっと自重して貰いたいんだがね。いくら苛められる早苗が可愛いからって、やりすぎはよくないよ」
「あーうー。でも神奈子も楽しんでたでしょ?」
「それはそれ。これはこれだよ」
「神奈子、ずるーい」
「……くるよ!諏訪子、○○!」
そぅら、嵐がくるぞ。
3、2、1、
「ななななな、何をやってるんですかぁーッ!!!諏訪子様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーッ!!!」
爆音。
悲鳴。
大爆音。
絶叫。
粉砕。
玉砕。
大喝采。
以下略。
・・・
「今回も激しかったね」
「それだけ俺を愛してるってことなんですよ」
「言うねぇ」
俺の膝枕で早苗は眠っていた。
早苗は自我がどうのこうので暴走してしまった。
力技で落ち着かせようとしても無駄だった。
そして色々あって今の状態なのだ。
「ん…」
頭を撫でてやると、早苗はくすぐったそうに言葉を洩らす。
可愛いなぁ。
「可愛いねぇ」
「そりゃそうだよ。だって早苗だもん」
神奈子様と諏訪子様がその様子を見て笑みを浮かべる。
「…さて、それじゃ諏訪子」
「そうだね」
立ち上がる二人。
「あれ、どこへ行くんですか?」
「いやなに、後は若い二人でごゆっくり、とね」
「ふふふ、そういうこと。それに、早苗も早く二人っきりになりたそうだしねー」
びくっ、と早苗が反応する。
起きてたのか…。
「まだまだ経験が足りないよ、○○」
「むぅ、精進します…」
「あはは、がんばってね。それじゃ、ほどほどにねー」
そういって二人は部屋から出て行った。
・・・
「………」
「………」
静寂。
「あの、○○さん…」
「何だ?」
それを破ったのは、早苗からだった。
「先ほどは、すみませんでした…」
「いやなに、こっちも悪かった」
「いいえ!○○さんは悪くないです。悪いのは全部諏訪子様なんですから」
「いやいや、俺も悪い」
「そんなことは…」
「ある」
正直すまんかった。
いやぁ、諏訪子様のが気持ちよすぎてつい…。
「じゃあ、お互い悪かったという事で」
「はい…」
「………」
「………」
そしてまた静かになる。
俺は早苗の髪を撫でながら。
早苗は俺に膝枕をされながら。
時計の音だけが部屋に響いている。
「やっぱり…」
「ん?」
「やっぱり、考えてみたら、○○さんの方が悪いですよね」
そう言って早苗は起き上がる。
「ですから、ここで私にお詫びをしてください」
「お侘びか…」
口元に意地の悪そうな笑みを浮かべる早苗。
その意図はもちろん俺に伝わっている。
「すみませんでした…これでいいか?」
「ふふ、全然ダメですよ」
「やれやれ…こいつは手厳しいね」
言って俺は早苗に手を伸ばす。
「当たり前です。いつもいつも、諏訪子様と仲良くして…恋人は私なんですよ?」
「ああ…わかってるよ」
早苗がその手に手を添える。
「だから、ちゃんと…お詫びしてくださいね♪」
「わかってる…」
そしてお互い目を閉じて―――
・・・
「○○さん」
「ん?」
隣に寝転んでいる早苗が、にっこりと笑う。
「ホワイトデーは、期待してますよ?」
「やれやれだぜ…もう十分お詫びはしたと思うがね」
「はい。でも…それはそれ、これはこれ。ですよ」
「3倍返し、ですからね…んっ…」
「……ん……わかってる。と言いたいが…3倍となると…なぁ」
「ふふふ、しっかりとおかえし、してくださいね?」
「やれやれだぜ…」
笑みを浮かべる早苗に、俺は苦笑するしかなかった。
でもまぁ、これも相手がいるからの幸せなんだろう。
「来年のバレンタインも、よろしくな」
「はい……来年と言わず…ずっと…ずっと一緒ですよ…♪」
そうして、
今年のバレンタインは過ぎていった―――。
(えんど)
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12スレ目>>895
「……早、苗?」
「は……っ」
状況を説明しよう。神社の裏手、普段目に付かないような場所で俺と早苗はばったり会ってしまった。
早苗の手には見慣れた煙を上げる白い物。
目的は同じ。
「何、やってるんだ?」
「あ、いえその……」
でも、ありえない。
「えっとですね、これは……」
あうあうと慌ててこの状況を弁護しようとする早苗。
「……健康には、気ぃ付けろよ」
隣に座っていつもの箱……煙草を一本出して口に咥えた。
「はえ?」
「俺もガキから吸ってたから人のこと言えん。ただ体を悪くすんな」
先に火をつけ、はじめの一吸い。その後に微動だにしない早苗に話しかけた。
「……どうした?」
「……嫌われたかと、思いました。
若いのにこんな物を吸ってて、ダメな女だって……」
俯いて言った早苗に、ク、ク、ク、と笑って返してやった。
「馬鹿野郎。俺としてはむしろ嬉しいくらいだ」
髪をくしゃくしゃと混ぜるように頭を撫でてやる。
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13スレ目>>175 うpろだ957
いつもの通学途中。東風谷早苗は物思いに耽った様にうつ向き加減で歩く。
「早苗さーん!」
呼び掛けられて振り向くと、そこには見知った顔が一つ。
「おはようございます、○○さん」
いつもの笑顔に、○○も笑顔を返す。
「もうすぐ最後の夏休みだね」
「そうですね」
二人並んで、高校への道を歩く。
「早苗さんと知り合って、もう二年も経つのか……」
「何だか、つい最近な気分です」
席が前後だった事から始まった友人関係。
それから、事ある毎に行動を共にしてきた、親友と言える間柄の二人。
しかし、以降特に進展も無いまま今に至る。
「早苗さんは、さ」
「?」
「やっぱり高校卒業したら、巫女さんの仕事に専念するのかな?」
「あ、……うん」
少し歯切れ悪い返答に首を傾げるが、とりあえず突っ込んでは聞かない事にしたようだ。
「でもそうなると、中々会えなくなるのかな……」
自分で呟いた言葉に言い知れない寂しさを感じ、○○は空を仰ぐ。
上空には、平和に飛び行く鳥が一羽。
○○は不意に立ち止まり、早苗に告げる。
「僕は、早苗さんが好きです。
僕と、正式に付き合って下さい!」
(なーんて言えないよなぁ……)
心の中の妄想を放棄し、早苗の方を向き直る。
と、早苗は少し手前で立ち尽くしていた。
「さ、早苗さん?」
呼び掛ける○○に、慌てていつもの笑顔を浮かべる。
「ごめんなさい、ちょっと疲れてるのかも」
やはり力のない笑みに、○○は小声で聞いた。
「神奈子さんとケンカした?」
「う……」
どうやら図星のようで、視線が泳いでいる。
「あの人怒ったらおっかなさそうだしね。僕でよければ、一緒に謝ろうか?」
「い、いいよ! その……悪いのは私なんだし……」
どうやら、毎回恒例のような単なる口論ではないらしい。
「そ、か……。早く仲直りできるといいね」
「うん……ありがとうね、○○さん」
少し安心したような、気持ち落ち着いた表情で微笑む早苗であった。
その日の放課後。○○は部活動の帰りに早苗の事を考えていた。
「今日一日元気なかったけど……大丈夫かな」
やはり気になるのが人の常。○○は守矢神社を目指して歩き出した。
守矢神社は、かなり離れた位置にある。毎日この道筋を歩いてきているのだから、早苗は外見の通り忍耐強いのだろう。
○○は毎回神社に向かう度に、その忍耐強さを痛感していた。
「着いた……。さて……」
見上げる先には、百段以上あるかと思われる石段がそびえる。
「これ、きっついんだよなぁ」
愚痴りながらも、守矢神社の石段を登って境内を目指す。体力には自信はあるが、ここを毎日上下する忍耐力は無いかもしれない。
上りきった頃に見える、大きな赤い鳥居。そこに、見知った人影が立っていた。
「おや。誰かと思えば少年か」
「あ、神奈子様。こんばんは」
「はい、こんばんは」
何度か神社を訪ねた事があるので、八坂神奈子は○○の為人を良く知っていた。
それは○○とて同じく。だからこそ、相手が神様だと聞かされてからも、早苗の家族への接し方を続けていた。
その日も、自然に、気軽に声をかけるつもりだった。
「あの、早苗さ──」
「早苗は会わないよ」
「──え」
神奈子の表情が引き締まり、○○を威圧するように目が細くなる。
「早苗は会わない、と言った」
「そ、そんな。早苗さん、どこか具合でも悪いんですか? 今朝だって辛そうにしていたし」
うろたえる○○を前に、神奈子は変わらない口調で告げる。
「もう、金輪際早苗に関るな。これは、早苗自身が言っていたことだ」
「ど、どうして? 僕が何かご迷惑を?」
思い当たる節は無い、はずだ。最近の出来事を思い返して、再確認してみる。
「理由は」
神奈子の言葉が、とてつもない重みを持って押し寄せる。
「早苗が、お前の事を迷惑に思っているからだ」
「……嘘だっ!」
叫ぶ○○を見下ろし、神奈子が嗤いを浮かべる。
「なんだ。まさか早苗から特別な感情を寄せられているとでも思っていたのか? たかだか人間風情が」
「っ!?」
言い返そうと足を踏み出す○○。だが、神奈子の静かな声が響く。
「現人神の子孫たる東風谷早苗。その身は神の下にあり神と共に歩む者」
少しだけ哀しい笑みを浮かべ、告げる。
「諦めろ。お前とは生きる世界が違うのだ、少年」
もう言葉も出なかった。
○○は石段を降りて行く。悔しさと哀しさで全身が一杯だった。今はただ、それしか思い浮かばない。
「……ふー」
○○が石畳を降り切るのを見送って、神奈子は大きくため息をついた。
「行ったよ、○○は」
「はい」
鳥居の裏手に投げかける言葉。返す声は少し震えている。
「早苗……」
「……すみません、神奈子様。貴女のお手を借りてしまって」
鳥居の裏手から姿を現した早苗を、神奈子が抱きしめる。
「何言ってるんだい。お前さんに無理を強いたのは私の方じゃないか」
早苗の頭を優しく撫でながら、話しかける。
「済まないね。でも、こうするしかないんだよ」
「……は、い…………っく、わ、わかって……!」
言葉を保てたのは、そこまでだった。
境内に、早苗の嗚咽が響き渡る。
神奈子は静かに、早苗の髪を撫でてやっていた……。
あれから、一週間。早苗は学校に来る事もなく、ずっと無断欠席を続けていた。
「……」
今日も、彼女の席には誰も座らない。
「なあ、○○。早苗ちゃん、どうしたんだ?」
「……」
級友が話しかけてくるが、それに返す気力も無い。
「お前早苗ちゃんと付き合ってるんだろ。何かマズいことしちまって怒らせたとか?」
「……知らない」
「え? でも何か聞いてないのか?」
「……ごめん、気分悪いから保健室行って来る」
「そう、か……」
級友も訳有りな事だけは理解したのか、追いかけずその場で見送った。
「……」
昼前の授業時間。○○は廊下を歩いていた。保健室を目指すでもなく、廊下を歩く。
その先に、見知った顔が。
職員室から、校長先生と共に出てきた少女。それは見紛うはずも無く、
「早苗!」
気付いた時には、叫んで走り出していた。
「○○、さん…」
「今は授業中の筈だが。どうしてここに居るのかね?」
校長など目に入っていないのか、早苗に走り寄って手を取る。
「一週間も、どこ行ってたんだよ。心配してたんだ」
「え…しん、ぱい?」
戸惑う早苗との間に、校長の声が割って入る。
「早苗さんは、ご自宅の都合で急遽引越しされる事になったのだ」
「…………え?」
校長先生は、いま、何と言ったのか。
「ひ……っこし?」
「……うん」
凍て付いた脳が、少しずつ溶けて来る。
「どこへ?」
「……場所は、言えないの。ごめんなさい」
「…………そう、なんだ」
そこまで来て、○○は漸く思い出した。
(そ、っか。僕、嫌われて……たんだった、っけ)
そして、今更に握っていた手を思い出す。
「あ、ご……ごめん」
慌てて放すが、早苗は視線を合わせずに頷いただけだった。
「……さて。東風谷さん」
「あ、はい」
「転校届けは受け取りました。後は、こちらに任せてください」
「はい。宜しくお願いします」
校長に向けて礼をする早苗。校長はそれを見遣ってから○○に顔を向ける。
「君は、東風谷さんのクラスメートだね?」
「はい」
「担任の先生には黙っていてあげるから、東風谷さんを家まで送ってあげなさい」
「は、え、は??」
反射で頷きかけて、○○は素っ頓狂な声をあげる。
「東風谷さんも急な引越しで、友人との挨拶もろくに出来ていないでしょう」
「ええ。まあ……」
突然の言葉に、早苗も戸惑ったように曖昧に返す。
「では、新しい学校でも良い友達が出来る事を祈っていますよ」
有無を言わせぬ物言いで、校長は二人の背を押して校門へと向ける。
「あ、ちょ、校長先生??」
「○○君。君は私の部屋で説教中という事にしておきます。後で口裏合わせてくださいね」
「え、あ、はい」
そのまま、二人で神社への道を歩く。
二人とも黙り込み、どう切り出すべきか思いあぐねている様だ。
「……でも、驚いたな。一週間姿が見えないと思ったら、引越しの準備をしてたんだね」
「うん……急、だったからね」
また、黙り込む。今度は、早苗から口を開いた。
「○○さん。私の事怒ってる?」
「どうして?」
「だって……。私、貴方に酷い事言ったし」
暫く考えていた○○だったが、やがてこう返した。
「正直、つらかった。身が引き裂かれるほどに、痛かった。
僕の事を、早苗さんが何とも思ってないって考えたら、とてつもなく哀しかった」
「そう……」
「でも、さ。こう思う事にしたんだ。
何も、面と向かって言われた訳じゃない。それまでは、早苗さんの事を信じていよう、って」
「そ、か……」
小さく、良かった、と聞こえた気がして早苗を見る。
「あの、ね」
「うん」
「幻想郷、って判る?」
「げん、そう……きょう??」
聞いた事が無い名前だった。強いて言うならば、ゲームに出て来そうな。
「うん、幻想郷。私たちは、そこに移り住む事になったの」
「そう、なんだ……」
名前の響きからして日本っぽいが、どこかの山奥だろうかと勝手に想像する。
「妖怪、妖精、悪魔、魔法使い……。
幻想郷は、そんな『忘れられた存在』が集まる場所なんだって、神奈子様が言ってた」
「忘れられた……」
呟く○○、頷く早苗。
「神奈子様も、諏訪子様も。今の世界ではもう忘れられかけた存在。神様は、信仰がなければ存在し得ない。
だから、この世界に見切りをつけて、幻想郷に移ることを決めたの」
「ちょ、ちょっと待って」
慌てて、○○が口を挟む。
「それって、ここに居たままじゃ神奈子様たちが消えてしまう、って事?」
「うん。実際、既に結構つらいらしいの。だから、ここ一週間で術式を完成させて、移動する準備を済ませてたの」
「そう、なんだ……」
正直、突拍子も無さ過ぎて良く判らない。
だけど、早苗の家族に危険が迫っていて、そのために引っ越さなければいけないという認識だけは持てた。
「それじゃ、早苗さんも着いて行かなきゃ……ね」
「うん……」
寂しそうに頷く。
暫くそのままだっが、再度早苗から話しかけられる。
「○○さん」
「どうしたの?」
立ち止まる○○に近付く早苗。
不意に、早苗が○○に抱きついた。
「さっ、早苗さ──」
「私、行きたくない! ○○さんの居るここに残りたい! だけど……神奈子様も諏訪子様も大切な家族だもん!
ねえ、私、どうしたら良いの! どうしたら良かったの!?」
それは、もう抑えきったはずの感情だった。現世への未練など、あの時神奈子に全て断ち切ってもらったはずだった。
「なのに、貴方は今までと変わらない! 私の前に、笑顔で立ってくれてる!」
「早苗さん……」
○○は躊躇いがちに腕を回し、早苗を抱きしめる。
「早苗さん。 僕は、君が大好きだ。 この気持ちは、ずっと変わらないよ。
だから、僕の出来る最大限の事をしてみる」
「……え?」
顔を上げた早苗に、微笑んでみせる。
「さあ、神社にいこう!」
「……はぁ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、神奈子が声をあげる。
「ですから、僕も一緒に幻想郷に行きます!」
「簡単に言ってくれるけどねぇ。そうそう単純な事じゃないんだよ?」
「判ってる、つもりです」
頭を掻く神奈子を真っ直ぐ見つめ、○○は再度言った。
「僕を、幻想郷へ連れて行ってください」
○○が神奈子に直談判している時。早苗は、少し離れて心配そうに見ていた。
「あの少年。まさかそんな事言い出すとはねぇ」
「あ、諏訪子様!」
神社の奥から現れた洩矢諏訪子が、早苗の横に並ぶ。
「それだけ、早苗の事を愛してるって事なのかね」
「……え、あ、その!」
まっすぐ過ぎるその言葉に、早苗は耳まで真っ赤になってうろたえる。
「まあ、様子を見ようじゃない」
諏訪子の声には、何処か冷たさが混じっていた。
「その心意気が、本当に本物なのかどうか」
「○○さん……」
「よーし判った。そこまで言うなら試してやろうじゃないか。諏訪子!」
「はいはい。結界ね?」
神奈子の意を全て理解しているのか、諏訪子が二人を包む結界を張る。
「か、神奈子様何を……」
慌てて駆け寄る早苗を無視し、○○を睨む神奈子。
「少年よ。人の身に在りながら神に具申する者よ。その覚悟を、我が前に見せてもらおうか」
「……宜しくお願いします!」
○○は、震える足で言い切った。正直、何を試されるのか判らない。怖い。逃げ出したい。
(だけど、僕は早苗さんの為にここに居るんだから!)
心の中で自らを叱咤し、覚悟を決める。
「では、今から放つ弾幕を全て凌いで見せよ」
「ちょ、神奈子さまっ!」
「早苗」
慌てて結界に駆け寄ろうとした早苗を、諏訪子が止める。
「最後まで見てやりな。それが、あの子を巻き込んだ貴女の役目でしょう?」
「は、はい……!」
結界に近寄る足を地面に踏みしめ、○○を見る。
目が合った。その覚悟の片鱗が見える。
頷く早苗に、頷きが返される。
○○は視線を神奈子に向け、身構える。
「行くぞ」
「はい!」
「……結構容赦ないね神奈子」
「○○さん、頑張って!」
何度か掠りながら、幾重にも重なる弾幕を抜ける。
ボムなんかもちろん無い。霊撃ってなに美味しいの? そこにあるのは、ただ根性だけだった。
「危ない!」
真横から迫った弾に、早苗の声で気付いて回避する。掠ったのか、状態がぐらついた所に第二波が。
「うぁっ!」
数発連続して直撃を浴び、地面に倒れる。
「○○!!」
「……くっ!」
早苗の叫びに、○○は立ち上がる。
「まだやるかい?」
「もちろんです!」
荒い息を無理に抑え付け、構える。
「なら、その威勢の良さをもっと見せてもらおうか!」
神奈子の周囲に光が収束する。
「おいおい、神奈子!」
慌てたように諏訪子が呼ぶが、聞こえていない。
「贄符『御射山御狩神事』」
先程とは圧倒的に違うその弾幕量に、○○は身を硬くした。
「っ!」
「○○さん!」
次に目が覚めると、上から覗き込むように早苗の顔があった。
「あれ、僕は……あ」
記憶を辿り、額に手を当てる。
自然と、涙が浮かんできた。
「ごめん、早苗さん。僕、僕は……」
言葉の途中で、唇に指が宛がわれる。
「神奈子様からの伝言です。
神社の些事は全て任せるからね、だそうです」
「え、そ、それじゃあ!」
○○の顔が明るくなる。早苗は頷き、左方を指差した。
「ここが幻想郷、だそうですよ」
指差す方向に首を向ければ、そこには見たことも無いような広大な自然が広がっていた。
「ここが……」
想像以上の絶景に、唖然とする○○。
「これから、ここで暮らしていくんだね」
見上げて確認すると、早苗が嬉しそうに頷く。
「はい。神奈子様と、諏訪子様と。
そして、○○さんも一緒に」
「ああ。頑張ろう、早苗さん!」
寝転んだまま手を伸ばす○○。その手を握り、最高の笑みをくれる。
こうして、幻想郷に一つの家族が引っ越してきた。
神様二柱、現人神一名、人間一名の、何とも珍妙な一家が。
彼らにこれからどんなトラブルが待っているかは、それこそ幻想の彼方へ……。
「ところで、○○さん。いい加減起きてくれませんか?」
「いやぁ、早苗さんの膝枕が気持ちよくって……」
「もう。○○さんったら!」
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13スレ目>>313 うpろだ970
何故か俺は今、逃げる神奈子様を追っている。
事の発端は早苗さんの、そういえばもうそろそろ雛祭りですね発言だ。
何故これで逃げるのかは分からないが、とりあえず逃げる者は追わねばならない。
……飯時には帰ってくるからほっといてもいいのか。疲れたし。
「何で誰も追ってきてくれないのよ!」
襖を勢い良く開け、開口一番神奈子が言う。
しかしそこには猫が一匹いるだけである。
みんな何処行ったの、という声を俺は社殿の裏手で聞いた。
果たしていつからそうしていたのだろうか、居間に戻った時、神奈子様は拗ねて座布団を枕に丸まっていた。
先に戻っていた諏訪子様が慰めていたようだが、あまり効果がない。
とりあえず毛布をかけて絵本の読み聞かせをして慰めることにした。
「なんで諏訪子が膝に座ってるの!」
7分後無事復活。
「それで何で逃げたりしたんです?」
「あー、雛人形のことでねえ」
早苗さんが戻ってから、早速さっきの行動についての追求が始まる。
「雛人形……がどうしたんです?」
「こっちに移動する時に納戸が一個壊れたけど、その中に入ってたのよ雛人形」
「全損ですか」
「うん。そこに雛まちゅりの」
「まちゅり」
「まちゅり」
おおっと! たたみがえし
ゆかのなかにいる
「そこに雛祭りの用具一式が入ってたから、全部駄目」
「今から発注……は無理ですね。明日ですし」
「里で小さいのだけでも買ってくればいいじゃない。紙製とかのならあるでしょ」
「ありますねえそういうの。この間買出しに行った時、幾らか見かけましたよ」
「それじゃ今から買いに行こうか」
…
……
「買い込みましたね……」
袋の中には二つ三つの紙製雛人形が入っている。
それをめいめい一袋ずつ持ち、さらに陶器の人形も一組みある。
「こういうかわいい小物、女の子はいつまでも好きな物なのよ」
「ったく、年かんがえろや」
「ひどいわぁぁぁぁぁぁっ」
神奈子様の言に諏訪子様が茶々を入れる。
確かに酷いがオーバー2000歳だろうしなあ、と考えたところで寒気に襲われたので考えるのをやめた。
「じゃ、飾りましょう」
「そうですね。これは玄関先にしましょう」
「この素焼きのは床の間だね」
……少女陳列中
10個ほどの人形が玄関先やら自室に飾りつけられる。
でも俺の部屋にはいらないと思うんだ。一応男だし。
「あれ、早苗もうしまっちゃうの?」
特に何事もなく、強いて言えば雛あられを貪っていたら菱餅を詰められるぐらいか、
3月3日が過ぎ去り、時計が12時を回ると早速早苗さんが人形を片しにかかった。
「ええ、行き遅れると嫌ですから」
そう言いながら早苗さんがこっちを見る。
「そっかそっか」
それを聞いて全員雛人形を片付け始める。
だがとりあえずこっちみんな。
「さてと」
片付け終わった早苗さんが一息つきながらこっちをみる。
だからこっちみるな。
「早苗さん、こっち見ても特に何もでないよ」
「あらそうなんですか、私はいつでもよろしいのに」
何がいいんだろうか。さっぱり分かりませんなあ。
後ろで神奈子様が早く言ってしまえと急き立てて来るが耳をふさいでおく。
直に業を煮やしたか組み付いても来る。
「早苗があそこまで言ってるんだから早く言ってしまいなさい」
「いや、そういう風に決めるのもアレでしょうに」
「でもいつまでも待ってたらずっと機会逃がすよ」
「それはそうなんですけどねえ」
それを聞いて神奈子様と諏訪子様がにやついている。
なんだろう、微妙に嫌な予感がする。
「否定しないってことは、いつかは言うつもりだったんだね」
ああっと!
3月3日の明けた夜。
背中を叩いて後押しをしてくる神奈子様と諏訪子様。
正座して待つ早苗さん。
それに俺は意を決して言を発した。
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13スレ目>>317 うpろだ972
「さあ、雛祭り当日だ。
今日が終わると同時に早苗の雛飾りを片付ける!」
「そうだねー。可愛い早苗が嫁き遅れたら困るもんね」
「そう、早苗がちゃんとお嫁にい……いや、待って諏訪子。
やっぱりしばらく片付けずに―」
「もう、神奈子ったら過保護なんだから」
「なんかもめてるみたいだけど」
「お二人とも毎年こうなんですよ。
あ、白酒もう一杯いかがですか?」
「いただきます」
「片付けるのが遅くなってもいいんですけどね。
私にはもう○○さんがいますから、
早いも遅いもありませんよね?」
「……改めて言われると照れるね」
「………………な、何言ってるんでしょうね私!
あの、私も白酒もらいますね!
今までは甘酒で代用してたから初めてで」
「あっ、それは」
「……きゅ~」
「甘酒と違って度数が高いから早苗は少しだけにした方が、
って言おうとしたんだが。遅かったか」
「……神社が回ってます~」
「ほら、ちょっと横になって休んだ方がいいよ。
今水持ってくるから」
「あの」
「ん?どした?」
「水は結構ですから……膝を、貸してください」
「膝枕、か。……こんなんでよければ」
「ありがとうございます……あったかいですね」
「ほら、早く片付けようと片付けまいと
もう大した違いはないんじゃないの?」
「そうね、○○になら早苗を任せても……
……いや、それでもやっぱり」
「頼むから、挨拶に来た○○を
オンバシラで殴ったりしないでよ~?」
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最終更新:2011年03月30日 22:03