早苗9



新ろだ176


「どうしたの早苗、血相変えて」

 走ってきた恋人の姿に目を留めた○○は、境内の掃除をしていた手を止めて尋ねた。
 口をぎゅっと真一文字に引き結んだ早苗の表情は、何か異常が起こったことを感じさせる。

「―霊夢さんが、途中にいる妖怪を撃ち落としながらこちらに向かってきているようなんです。
 おそらく、またこの神社に弾幕ごっこを仕掛けようとしているんでしょう」

 その答えを聞いて、○○にも緊張が走る。
 弾幕ごっことなれば、自分は何もできない。早苗や二柱の神に任せて、見守るしかないのだ。

「守矢神社の風祝として、迎え撃たなければなりません」

 真剣な表情で参道の方を見据えている早苗。その視線が、ふと沈む。

「○○さん……私、八坂様や諏訪子様のお役に立てているんでしょうか」
「……いきなり、何を」

 不安に満ちた顔の早苗は、呟くように続けた。

「初めてスペルカードルールで霊夢さんと戦った時、私はあっさりと負けてしまいました。
 現人神として守矢神社に信仰を集めるんだって、胸を張って幻想郷に来たのに。
 八坂様のところへ向かおうとするのに追いすがることもできませんでした」

 言葉を重ねるたびに、早苗は肩を落としていく。
 その真面目な性格故に、かつての敗北は重い鎖のように早苗の心に絡みついていた。

「早苗……」
「今日これから霊夢さんと戦っても、勝つことはできないような気がします。
 私は……私は、風祝として、ここにいても許されるんでしょうか?」

 今にも泣きそうな早苗の姿を見て、○○は胸が締め付けられるような気持ちだった。
 何とか励ましてやりたい、そう思っていた。

「大丈夫だよ、早苗が守矢神社のためにがんばってるのはちゃんと皆わかってくれてるさ。
 それに早苗がここにいてくれたから、外から幻想郷に来た俺もこうして幸せに暮らせてるんだよ」
「でも、私みたいな外の世界の常識に浸った人間じゃ、幻想郷の象徴みたいな博麗神社にはかなわないんです。
 いつか、いつか私の居場所なんてなくなってしまうんじゃないか、って……」
「―心配するな、早苗」

 ○○の腕が、早苗を抱きすくめた。

「いつかきっと、早苗の努力が実を結ぶ時が来るよ。
 それにもし失敗することがあったって、俺は必ず早苗を傍で支えるから」
「○○さん…………えっ!?」

 ○○の両手が、早苗の肩に置かれる。お互いの目の中に映った自分の顔が、ゆっくりと大きくなっていく。

「……元気が出るように、おまじないだ」
「んっ…………!」

 唇と唇が重なる。一つに融けあおうとするように、深く、しっかりと。

(こんなところで誰かに見られてしまうかもしれないのに)
(八坂様や諏訪子様が来てもおかしくない場所なのに)
(なのにこんなにも幸せでこんなにも○○さんが温かくて)
「…………っはあ」

 息が苦しくなるまで触れ合っていた唇を離した時には、紅潮した早苗の顔から憂いの影が消えていた。

「……ありがとうございます、○○さん。もう、大丈夫です」
「ああ。よかった、元気になってくれたみたいで」
「…………あの。帰ってきたら、またしてくれますか?」
「もちろん」
「……よかった。もし勝てたら、ごほうびにいっぱいキスしてくださいね」

 まだ頬を真っ赤に染めながら、少し熱に浮かされたように早苗は言った。
 早苗の心からは、重いプレッシャーの枷がいくつかはずれたようだ。

「じゃあ、行ってきますね」
「気をつけてな」
「さあ、○○さんのキスを目指してガンガンやっちゃいますよ!
 常識なんか捨ててでも、勝利をもぎとってきます!」

 ……箍とか、螺子とかもいくつかはずれてしまったかもしれない。
 勢いよく早苗は飛び立っていった。

「―ちょっと元気すぎるような。まあ、いいことだよな」

 もし負けて帰ってきても、しっかり抱きしめてあげよう。
 そんなことを考えながら、○○は安全圏に避難することにした。

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新ろだ275



作品あげたかごくつぶし。 ドォォン

はりゃぁぁぁ~ッ!!

何があったか知らんが作品あがるまでは堪忍しておくれぇぇ~!!

駄目じゃ。コイツ、ワシらの娘をぐろうしたんじゃ!

はい、スイマセン。

謝るの早ッ!!

序終

















さなえキッス





















 私、キスしたいです。

 そういう彼女の瞳は、眼を逸らすことができないほどに真剣で。

 だからこそ、彼女から逃げずにその想いに応えよう。



拝啓 上白沢 慧音様

 今日は早苗と接吻…外界で言うキス、ベーゼでしたっけ?
とにかく、それを初めて交わした日でした。



 ぼくが住み慣れた人里を去り、妖怪の山にある守矢神社へと
住居を移してからそんなに月日は経っていない。

 どうしてここにいるのか、何があってここへ移ってきたのか、
そんな理由は簡単。ぼくと早苗の交際が、守矢神社の主にして
外界で信仰を失った神様の神奈子さんと諏訪子さんに認められた。



 それだけ。



 こちらに住むようになってからやることは変わっても、量自体が
大きく変化することはなかったと思う。と言っても、できることは
早苗の負担を減らすための手伝いがほとんどだった。

 共同作業でやることで結果としてかかる時間も半分になるわけで。
やること、できることをやり終えてしまうとすぐ空き時間ができて
しまうわけで。早い話、そのぶん暇になってしまう。

 そしてぼくと早苗は縁側で日向ぼっこしながらお茶を啜っていた
その時に、彼女は言ってきたんだ。



 私、キスしたいです。



 その言葉に僅かな間、頭の中がきれいさっぱり真っ白になって
しまったかのような、いや実際なった。

 固まりかけた頭脳を無理やり動かし、早苗が何を言っているのか
再考察する。キス、接吻のことだ。それを彼女はしたい、と言って
いる、よしここまでは大丈夫。

 問題はどうしてか、ということ。欲求不満、というわけでもない。
不安になったとかそんな感じでもない。

 聞いてみるのが一番だろうが、慎重に聞く必要はある。

 どうしたの、何かあったの?と聞くと彼女の答えはこうだった。

「私達、お付き合いしてから今の今までキスしたことなかったなって
思って。言おうかな、言おうかなって思っていたんですけどなかなか
言い出せなくって…」

 そう言えば確かにそうだなと思わされる。

 ここに来るまでの早苗とぼくの関係はほぼ遠距離恋愛に等しい
ものだった。彼女は彼女で守矢神社の信仰を集めるために、ぼくは
慧音様の助手と言う仕事があり、会う機会を作るのも難しくて。

 お互いの時間を割いて会うのは思った以上に大変だったけれど、
それでも確かにぼく達は会うことが出来るだけで単純に嬉しかった。

 こうして今こちらに住居を移してからはいつも一緒にいるのが
当たり前になりすぎて、そのことに甘えてしまったようにも思う。

 なかなか手に入らなかった本や品物を手に入れて、いつでも
読める、使えるからと安心しきってしまって埃を被った状態に
してしまったような感じにも似ている。

 それではよくないだろう。早苗に失礼だし、ぼくを送り出して
くれた慧音様にも、ここに住むことを認めてくれた家主の二柱の
神奈子さんと諏訪子さんにも悪い。

 そして何よりあの頃はよかったなぁ、で終わってしまいそうな
思考に陥りかけた自分を戒める意味でも、ここはちゃんと彼女の
言葉に応えるべきだろう。

 あの頃は良かったから今も良い、と言えるようになるためにも。

「うん、ぼくもしたいよ。早苗とキス」

 笑顔で答える。そして言葉に嘘もないように。目の前の愛しい
少女の表情が、ぱぁっと明るくなった。

 早苗の肩に手を添えると、彼女の双眸が静かに閉じられる。それは
その時が訪れることを待っているようにも見えて。

 ぼくは一呼吸置いて彼女の唇に自分のそれを重ねる。んっ、と
早苗の吐息が短く漏れた。

 重なった瞬間に感じたことは彼女の唇の柔らかさと、ぬくもり。
こんなにも柔らかくて、温かいものだったのかと軽い感動を覚えて
しまう。

 同時に、この東風谷早苗と言う一人の少女に対する愛おしさが
もっと大きくなったようにも感じられて。そのさらりとした長い
髪に手を伸ばした。

 指を通して梳くのではなく、そっと右手を添えて撫ぜる。すると
今度は早苗がぼくの背中に手を回し、形を確かめようとするように
手を動かしてきた。

 それは、今ここで起こっていることが夢幻(ゆめまぼろし)では
なく、現実なのだと言うことを確かめているようにも見えて。

 大丈夫、大丈夫だよ。夢でも幻でもない、ここにぼくはいるし、
早苗のことだってこうやって感じられているんだから。

 口が塞がっていて使えないので、空いた左手を使って彼女の頬を
撫でることでそれを伝えようとする。聞こえただろうか。感じて
くれているだろうか。

 どうか、聞こえていて欲しい。感じていて欲しい。



 このままずっと続きそうな時間も、互いに呼吸がし辛くなって
きたところで終わってしまいどちらからともなく唇を離す。

 早苗の瞳が潤みを帯び、頬は紅く染まっている。自分の唇を
何回も指で撫でて、溜息をついて。

 早苗、と彼女の名前を呼んでぼくは続けた。

 すごくよかった。早苗が相手で、本当に嬉しいよ。

 そうしたら彼女がこれ以上ないくらい素敵な笑顔で私は貴方が
相手という最高の奇跡に感謝します、と返してきたことでもっと
嬉しくなって。

 こんな奇跡だったら何度でも大歓迎だよ。

 ぼくと早苗の唇がまた重なる。



 この幻想郷で起きたささやかな、でも素敵な奇跡に感謝して。


新ろだ550


 農業は日が昇る頃に始まり、沈む頃に終える。
 一日中土を弄った指先は洗い終わった後も微かに大地の匂いを香らせて、乾きかけた汗は風を受けて火照った身体を冷ましていく。
 心地よさに目を閉じれば、風に木々が揺れ、遠く空の彼方で鳥がその音に声を合わせる。
 見渡す限りに続く畑を見下ろしながら、歩む道は既に朱色に染め上げられていた。
 そんな、夕暮れの畦道の途中。不意に、俺はお地蔵様の立つ社の前に立ち止まる。
 お目当てのものはその屋根の裏側に隠されていた。
 それは、淡い青の表紙が懐かしいキャンパスノート。この幻想郷にはありえないもの。
 俺は慣れた手つきでそれを抜き取り、読み進める。
 それは何度目かのやりとり。


 ――今日は良いこと。
   お魚屋さん、傷めていた腰が良くなったんです。
   休んだ分取り返すんだって、湖のお魚を並べて、胸を張って、大きな声を出してました。
   今日のご飯はね、それを聞いてお魚にしようって思ったんです。
   二人とも美味しいって、褒められちゃいました……明日は何にしようかな。
   っと、明日は雨みたい。傘、持って行かなきゃです。


 ちらりと内容が書き足されていることを確認して、ノートを土で汚さないように閉じてやる。
 それから俺は、屋根をお貸し頂いたお地蔵様に蜜柑をひとつ供えて帰路を急ぐ。
 空には見事ないわし雲。
 ノートに書かれていたとおり、明日はきっと雨なのだろう。
 再び歩を進め始めながら、俺はぼんやりと可愛らしい丸文字への返事を考えていた。


 昔、そういったものは見たことがある。

 交換日記――勿論、そういった可愛らしいのは女子学生ばかりが勤しむものであったのだが、大体の内容は想像できる。
 くだらないこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。偶に、人には言えないこと。
 想いの詰まったノートの交換は文通にも似ているだろうか。
 だとするならば、俺は今……名も知らない誰かと文通をしている。


 さて、何故このようなことをしているのか。
 まずは俺のことから語らなければならないだろう。
 外来人と呼ばれるようになってから一年と八ヶ月、貧弱野郎と呼ばれなくなってから二ヶ月と三週間。
 外では――この言い方からして、大分幻想郷に馴染んでしまった俺は、住む家も持たないフリーター。
 テレビの中では難民などと称された、いわゆる社会問題を構成する問題児だ。
 そんな俺に喝を入れてくれたのが、この古臭い伝統と習慣を続けてきた幻想郷の在り方だった。
 毎日に無気力な自分を忘れさせたこの場所に、俺は捕らわれ――外を捨てた。
 いや、もしくは捨てられたのだ。
 全てに優しく。全てに厳しいこの世界では、鈍りきった身体は文字どおりの役立たずで、面倒を見てくれた農家の方々には随分と迷惑をかけた。
 それでも、穀潰しと罵りながらも見捨てることなく、鍛え上げてくださった親方には感謝している。
 そんなこんなで、貧弱なこの身体を鍛えなおされつつもどうにか生活の目処が立ったその日。
 今日みたいな夕焼けの農道の隅に、懐かしいキャンパスノートを見つけたのだ。

「外の……だよな?」

 思わず呟いて、それを拾い上げる。
 題名も名前も無く、まだ新しい、赤い下敷きが挟まれた卸したてのノート。
 最初の一ページ目は裏表紙に文字が移らないように白紙で飛ばされて、三ページ目にようやく小さな文字が見える。
 そこにはなんというか、可愛らしい丸文字で乙女の秘密が――というわけも無く、幻想郷にとっての『常識』が」箇条書きになっているのだった。


 ・ 空、広い!!


 そうだ、俺も最初に、それを思ったのだ。
 電線すら存在しない空は淀みなく、どこまでも透き通って、どこまでも続いているように思えた。
 思い出すように目を閉じて、同じ事を一番最初に描いたこのノートの持ち主に、俺は何となく仲間意識を抱いてしまう。


 ・ こちらでは、巫女が空を飛ぶのは普通らしい。


 ああ、そのとおりなのだ。
 怪物よりも恐ろしいとされる巫女さんは、神社よりも空で見かけることの方が断然多い。
 俺も最初に空を見上げた感動をぶち壊された。ついでに言えば腰も抜かした。


 ・ 人間よりも、妖怪のほうが多く存在している。

 そして、幻想郷最大の特徴といえば、恐らくそれなのだ。
 この地において、御伽噺の住人である筈の妖怪は、極身近な存在である。


 ☆ 弾幕ごっこ、この世界のルールについて。


 目を引く星マークの後ろには、この世界に唯一の妖怪と人間に共通する法。
 弾幕ごっこ――命名決闘と呼ばれるルールについて書かれていた。
 このルールは先の妖怪達と人間のパワーバランスを守る為の法律である。
 この世で圧倒的な力を持つ妖怪達と隣り合いながらも、人間が今まで絶滅しなかったのは、この法によるものが大きいのだろう――と、里の偉そうな人が言っていた。
 どの道、しがない農民となった俺には関係の無い話である。
 しかし、このノートの主にとっては重要に思えたらしく、この項目だけでページは四枚分にものぼった。
 勉強熱心なのだろうか、思いながらも、俺は弾幕ごっこについて詳細に書かれたノートのページを捲っていく。
 そして、最後にそれを見つけたのだ。


 ・ 野菜、おいしいな……うれしい。


 一年と約七ヶ月。農業に携わった者として、それはなんともいえないものだった。
 俺は少しだけ息を止めて、草の匂いが染みついた手のひらを見やる。
 洗っても落ちない汚れは日焼けの跡で、昔の俺の手とはまるで違って見えた。
 瞼を閉じて、この喜びを噛み締める。実感したのは、充実というものなのだろう。
 だから、少しだけらしくないことをしてしまった。
 ノートの八ページ目、短い一文の下に、懐から取り出した仕事用の木炭を走らせる。


 ――幻想郷へようこそ
   落し物には注意しろな?
   とてもいい所だ、気に入ってくれたら嬉しい。


 柄にもない落書きは汚い文字で。
 俺は夕焼けの中、どうにも締まらない顔をぶら下げて、屋根つきのお地蔵様の隣にそのノートを置いたのだった。
 そして、次の日にはノートは無くなっていて、そんなことも忘れかけていたある日。
 お地蔵様の隣に、再びあのノートはあった。


 ――ありがとうございます。
   私も、この幻想郷が好きになれそうです。
   あの、失礼ですが、あなたも外の方なのでしょうか……。


 気になって拾い上げたノートの中には、ジャープペンシルで何行も何度も書き直した跡と、短い文が可愛らしい丸文字で書かれているのだった。
 それが、まだ名も知らない彼女との文通のきっかけ。




  /




 信仰を得るため、里に下りるようになって十と二日。
 意を決してお地蔵様を覗き込んでみる。

「あ……ない……」

 驚いたような、安心したような。
 多分、慌てているのだと思う。
 落し物のノートに書き込まれた一文に、返事を返した日。
 同じお地蔵様に、緊張しつつノートを置いたのが昨日。
 私は、慌てながらも楽しみで仕方がなかったのだ。
 それは、この世界で最初に貰った希望だったから。


 神奈子様の意向により、現世から幻想郷へと移って一月と十三。
 生活の基盤を整えて、私――東風谷 早苗は新品のノートを卸した。
 題名は、後で恥かしくなりそうだから書かないままで、名前も、この世界に同じものが存在しないのだから割合しよう。
 表紙に何かを記入するとき、どうにも私は失敗しやすい。緊張するからかな。
 最初の一ページ目は白紙で飛ばして、最初に書いたのは空のこと。
 でも、書いてから少しだけ後悔。幻想郷のこと、もっときちんと調べなきゃ。
 これからここで、暮らしていかなければならないのだから……。


 里を行く。その度に、驚きがやってくる。
 妖怪のこと、巫女のこと。そして、とっても大事なこの世界のルール。
 弾幕ごっこ。この項目だけは四ページ分丁寧に書いた。
 お話を聞かせてくださった里の教師に礼を言って、帰路の途中に吐いた息は不安から。
 現世とはまるで違う世界の在り方は、私の足を少しだけ重くする。
 そんなときだったのだ、その出会いは――

「……ほい」
「――ひっ!?」

 肩が跳ねて、声の元へと振り返る。
 差し出された何かに向かって、伸びた手は無意識に。

「えっと……」
「やるよ、それ」

 彼はそのとき、他の方達に比べて少し細身な背を向けて、そう呟いた。
 同時に、微かな重みを感じた手のひらにあったのは、まだ微かに青を残したトマト。

「……真っ赤に熟したトマトは美味い。だが、まだ青っぽいのもまた、それはそれで美味いんだよね」
「はぁ……そうなんですか?」
「ああ、つまみ食いしててな、憶えた」

 彼は顔だけをこちらに向けて、人差し指を立てて声を潜める。
 そんな様子が可笑しくて、私は……そう、久しぶりに、自然と笑みをこぼしてしまっていたのだ。

「はっは、まだ青いのを摘むとぶっ飛ばされるんだ。食ったら匂いで分かるし、捨てたら蹴り飛ばされる」
「あらら、それは怖いですね……」
「そう、だからよかったら貰ってくれないかな。味は保障するから齧って帰りな」

 ばつが悪そうに照れた笑みをこぼした彼は、少しだけ迷った素振りをみせて、

「少しは、しけた面が美人になるぞ」

 最後に、そんなことを呟いた。
 また、私は肩を跳ねさせて、目を丸くする。

「い、いや! そのままでも充分にべっぴんさんだけどね!?」
「あ、え、あぁありがとうございます!?」

 そうして、二人して慌てたように声を張り上げて、遠くから誰かの怒鳴り声が響いてきて、彼が大声で謝って。
 あの時、彼の横顔が真っ赤になっていたのは、夕日のせいだけではないだろう。
 再び笑みをこぼした理由は、それが何だか可愛く思えたから。
 彼はきっと、それをずっと知らずに居るのだと思う。
 それが、まだ名も知らない彼との出会い。

 ノートを落としたことに気づいたのは、トマトを齧った帰り道を通り過ぎた頃だった。






 続


新ろだ651


幻想郷で一番大きな水たまり、霧の湖。
またの名を紅魔湖。その名前の元となった吸血鬼の住む赤い館。その紅魔館が遠くに見える湖の畔に俺の家はある。
天気は雨。しとしとと云うよりはしずしずと降る雨が、窓硝子を濡らし家を包んでいく。
カントリースタイルのログハウス、基礎に見える鼠色のコンクリートに、黒いアルミの窓サッシ。と、ここまで言えば気付くだろう。
俺は家ごとこっちに来てしまったのだ。
当初は物珍しさもあってか、結構な数の人妖が来たりもしたものだが、あれから早9年、今では週に何度か知人が顔を見せる程度である。

「もう9年になるか」

感慨深くなって、つい口をついて言葉が出た。
長いようにも思えてその実あっという間だった気もする。
実際ハプニングだらけで突っ走ってきただけにあながち間違いではないかもしれない。
その最たるものが……

「まさか結婚までするなんてなぁ」
「どうしたんです、そんなことをいきなり」

その妻がすぐ側にまで来ていた。

「ん、いや、いろいろあったなと思ってね」

差し出された珈琲を受け取りながら答える。
数年にわたる大恋愛の末に去年やっと一緒になったのだ。今では俺の何より大切なモノの一つだ。

「いろいろ……。ありましたね、私たちが出逢ってから、ほんとにいろいろ」

そういってこちらに微笑みを返す。
そんな彼女が堪らなく愛しくて、自重しない俺の腕は、ついつい彼女を抱き寄せてしまうのだ。

「ぁ…、もう、そんなにいきなりだと珈琲がこぼれちゃいます」
「ごめんごめん、今度からは気をつけるよ」

言いながら唇を彼女のそれに重ねる。
優しく軽く、触れる程度のフレンチキス。
それでも仄甘く感じられるのは、惚れた弱みか、恋は盲目か。ずっとこのままで居たくなる。
そのまま幾秒か。やっとの思いで唇を離すと、真っ赤になった彼女の顔が。
付き合い出してからだともう数年になるが、未だにこういうことには、弱い。

「も、もう……。仕様がないからこれで誤摩化されてあげます」

怒ったようにソッポを向く彼女だが、それがただの照れ隠しなのは、俺の腕から出て行かないのと、振り向く一瞬に見せた笑顔で、わかる。
そして、こちらに背を向けたまま、その背中を預けてくる。
それは、もっと抱きしめてほしいという、彼女からの暗号<サイン>。
乞われるままにかき抱く。
一度は諦めた想いだからこそ、離したくはない、否、離さない。
やっと見つけた、ようやく手に入れた俺だけのロアゾォ・ブルー(青い鳥)だから。



「そういえば、初めて逢ったのもこんな雨の日だったよね」

雨に煙る湖面を二人して見つめながらポツリと、思い出したことを言ってみた。
あの日のことはもうあまりよく覚えていないけど、それでも、こんな雨の中を駆けていく後ろ姿ははっきりと覚えている。

「そうでしたっけ? むしろ貴方が初めて告白してくれたときのことのほうが覚えてますね」
「あぁ、あの日も雨だったっけ」

確かにそうだった気がする。でも、それ以上に

「振られたことがショックでずっと泣いてたからなぁ」
「あれ、そうだったんですか? 意外だなぁ。
 そういうのはへこたれなさそうって思ってましたけど」

そう言って振った本人が声を上げて笑う。
何だよ、そんなことじゃへこたれそうに見えないって。
確かにへこたれやしなかったけど、それでも泣くときは泣くぞ。

「雨と云えば、式の日も雨でしたよね」

ひとしきり笑った後、今度は彼女から。
あぁ、あの日も確かに雨だった。

「諏訪子様が降らす降らすって言って、結局降っちゃったんだよなぁ。まったく、何の嫌がらせかと…」
「うふふ、でも、案外私たちには合ってたのかもしれませんよ?
 何せ私たちの大きなイベントって、ずっと雨でしたから」

そう言われて思い返せば確かに。ほとんどの思い出は雨と一緒に思い出せる。
今日みたいな静かな雨、滝のような豪雨に雷雨、すべてを包み隠すかのような霧雨……。

「でも、初デートに台風ぶつけて潰したのは絶対に嫌がらせだ」
「あぁ、あれはそうですね。私も楽しみだったのに」

二人で昔のことを語り合う。
雨に彩られた思い出だから、雨をみれば思い出せる。
今日は二人とも休みだから、ずっとこうしていようか。俺が言う。
雨が上がったらピクニックにでもいきません。彼女が言う。
どっちでもいい。いや、なんだっていい。
今日という雨の日はまだ始まったばかりだから。
一つずつ積み重ねていこう。
雨音で綴る二人の物語を。

「愛してるよ、早苗」
「私もですよ、○○さん」



あぁ、今日も善い日になりそうだ。


新ろだ805



外の世界に比べると、幻想郷の夜は暗い。
外では見ることの出来なそうな小さな星までよく見える。
同様にして流れ星もちらちらと幾つも散見出来た。
「……」
隣にいる早苗はその度に手を組み、何か願掛けをしている。
また一つ二つの流れ星。早苗の願いはさっきから同じもの。
「……いつ、帰るんですか?」
「……星、綺麗だね。外の世界と同じだ。 あれがカシオペアで、あっちのが白鳥座」
すがるような目をまともに見ていられず、視線を夜空にあげ話題を反らそうとした。
「……答えてくれないんですね」
「……ごめん」
悲しげな声にそれ以上のことが言えない。
いつ外の世界に帰るのかは、俺も分からない。
いつかは必ず帰らなければいけない。その時になれば分かる。
すきま妖怪はそう言っていたが、具体的にいつかは知らされていない。
俺自身もいつかは分からないのだ。
重い沈黙の中、蛍が一匹迷い込んできた。
何気無しに蛍に向け伸ばした腕を、早苗の手が掴む。
「帰らないでください。もう貴方も神社の一員じゃないですか。
貴方がいなくなってしまったら、私……」
目に涙を溜めて消え入りそうな声で言う早苗に、何も言えずに俯いた。
夏の終わりを告げる風が吹く。
蛍は風に煽られながら、闇に消えていった。

抜けるような秋晴れの空の下、幻想郷でも有名な人妖が一同に介する大きなイベント。
その名も「外の世界観光ツアー」
カップル限定のこのイベントの存在を知ったのが昨日のこと。
昨晩訪ねてきたすきま妖怪は、いよいよかと覚悟を決めた俺と、
俺を連れていかないでと懇願する早苗にこのイベントを説明。
幻想郷に住む前に外に別れの挨拶をしてこいとのこと。
安堵の涙を流す早苗を見やりながらすきま妖怪曰く
「私は帰らなくてはいけないとは言ったけど、戻ってくるなとは言ってないわよ」とのこと。
全くもって意地が悪い。
「○○さん、何処に行きましょうか?」
いつかの夜とは対称的に喜びに満ちた早苗の声。
現金なことこの上ないが、当然と言えば当然か。
晴れて恋人として守矢神社で暮らせるのだから。
「さて、お二人はどちらに行かれるのかしら?」
いつも通りの胡散臭い笑みを湛えるすきま妖怪に行き先を告げ、俺たちはすきまをくぐった。



新ろだ838




早苗嬢と縁側で茶を飲んでいたある昼下がり。
日差しの強さに頭をやられたのか気がつくと呟いていた。


『なあ、早苗嬢』
「なんでしょう?」

『ポッキーゲームって知ってるか?』
「……ぶふッ!? げほっ、ごほごほっ!」


見事に茶を吹かれた。


『おお、綺麗な虹が見えたな』
「と、突然何を言い出すんですか!?」
『そういえば11月11日だったと思ってな』
「だ、だからってそんないきなり……」
『嫌か?』
「い、嫌なんてことないです! ありえません!」


何やら力いっぱい否定された。そこはかとなく嬉しいものだ。
……などと思っていたら顔に出ていたのかはたまた叫んだ内容に照れたのか真っ赤になってしまった。
うちの恋人はこういうところが本当に可愛いと思う。
無論こういうところだけではないのだが。


「で、でもポッキーなんて幻想郷には……」
『ああ、そういうと思って用意してきた』


懐から取り出して彼女の目の前に置いてみる。


「……はい?」
『だから、きちんと用意してあるぞ』
「ど、どこにあったんですかあんなもの!?」
『あんなものとか言うんじゃない。香霖堂に本日限定で置いてあったんだ、これが』


どうもスキマの姐さんが輸入してきたらしいな。
やはりというかなんというか、あの姐さんは能力の無駄遣いが激しい気がする。
個人的には助かるのでこういう場合はもっとやれ。
本当はおやつ用に買いこんできたのだが、日付に気付いてしまったのが運の尽きだった。


「え、ええと……でも、ですね」
『どうしても嫌だと言うなら無理強いするつもりはないが』
「いえ、その……」

「あーもーじれったーい!」


なにやら目の前の茂みから諏訪子嬢が飛び出してきた。やせいのなんたらのようだ。
というかずっと覗いていたのか。


「す、諏訪子様!?」
『おお諏訪子嬢、居たのか』

「いたのかーじゃないよ! さっきから縁側でイチャイチャイチャイチャしてもう!」

「い、いちゃいちゃなんて……」
『否定はしないが、ずっと覗いていたのはそっちだろうに』

「そんなことはどうでもいいの! 早苗は恥ずかしがってないでやりたいならやっちゃえばいいじゃない!」
「そ、そんな……」


おお、早苗嬢の顔がさらに赤くなった。
もはや林檎もかくやというレベルだな。


「○○はヘタレすぎ! 早苗が本気で嫌がってるわけないんだからさっさと咥えさせてむちゅーってしちゃえばいいのよ!」
『いや、それは色々と問題じゃないか? というか提案しておいてなんだが自分の娘にそんなことさせていいのか』

「良いも悪いも恋人なんだからもうちょっとらぶらぶちゅっちゅしてもいいと思うよ!」


神様がらぶらぶちゅっちゅとか言んじゃない。というかさっきイチャイチャしていることに怒っていなかったか?
などと考えつつ茶を啜ると、黙り込んだ俺たちに業を煮やしたのか諏訪子嬢がとんでもないことを言い出した。


「ああもう、だったら○○!」
『む?』
「わたしとポッキーゲームしよう!」
『ごふぁッ!?』
「すすす諏訪子様!?」


いかん、器官に入った。突然何を言い出すのかこの神様は。


「だって早苗は嫌なんでしょう? だったらわたしがやってもいいじゃない」
「で、でも! ○○さんの意思を無視して……」


早苗嬢の科白を無視するように、諏訪子嬢が俺と早苗嬢の間を割って俺にもたれ掛かってくる。


「ねえ○○、○○はわたしのこと嫌い?」
『いや、そんなことは断じてないが……』


などと答えつつ諏訪子嬢に少々顔を近づけて囁く。


(というか諏訪子嬢、わかっていて早苗嬢をからかっているな?)
(あ、やっぱりわかる?)
(顔が相当あくどい笑い方になっているからな。そんなにわたわたする早苗嬢の顔が好きか)
(大好き。○○は?)
(俺も割と好きだ。)


同好の士同士、せっかくなので諏訪子嬢のいたずらに乗ってみることにする。


『では、やってみるか? 諏訪子嬢』
「おっけー♪」
「ま、○○さん!?」
「(がさごそ)○○ー、ふぁい」


慌てる早苗嬢を尻目に、諏訪子嬢がさっさとポッキーを取り出して咥える。
目まで瞑ってノリノリだな、諏訪子嬢。
ということで、俺も少々悪乗りしてポッキーの反対側を咥えつつ肩など抱いてみると、見た目とは違う落ち着いた香りがした。
間髪入れずに諏訪子嬢がポッキーを齧りだす。早苗嬢のわたわた度が増した。


「んー♪」
『む……』


ぽりぽりぽりぽり。二人で齧るのであっという間に短くなっていく。
……というか諏訪子嬢、そろそろやばいぞ?
むしろこの体勢、諏訪子嬢からだと早苗嬢の顔が見えないだろうに。
などとぼーっとしていたのがいけなかったのか――――


「んふふー……えいっ」
『ッ!?』

またしてもあくどい笑いを浮かべた諏訪子嬢の突然の加速に、反応が遅れ……
俺と諏訪子嬢の、唇が―――


「むちゅー♪」
『むぐぅ!?』
「あぁーっ!」


三者三様の叫びが上がった。早苗嬢とは違う柔らかさを持った唇が脳髄を灼かれる。
さすがにこれはまずいと、諏訪子嬢から離れようとするが、いつの間にやらがっちり掴まれていて身動きすら取れない。
その上……


「んちゅ……んむ、ちゅ……」
『むぅ!? はぐ……ちゅ……』
「あ、ああ、あああ」


舌まで入れられた。反応が遅れたとはいえ、即座に舌を引っ込めたはずなんだがあっさり絡めとられてしまった。蛙の神様恐るべし……
などと言っている場合ではない。いくらなんでもまずいというレベルを通り越しているぞ諏訪子嬢!?
その絡め取られ弄ばれる感覚に、さすがに頭に靄がかかってきた、というところで―――


「ちゅう、ぷはぁ……ふう、ごちそうさまでしたー♪」
『ふ、はぁ……ご、ごちそうさまでしたーじゃないぞ諏訪子嬢……』
「あうあうあうあうあう」


いかん、早苗嬢が錯乱している。当然と言えば当然だ。
いくらなんだって目の前で自分の恋人が(自分の仕えている相手とはいえ)他の女性とキスをしたのだ。それも舌まで。
同じことを他の男に早苗嬢にやろうものなら俺はやった男を埋める。間違いなく埋める。
これはさすがに平謝りしかないだろうと決め込み、息を整えたところで……


「―――○○さん」


いつの間にか落ち着いた早苗嬢に声をかけられた。相当にドスが聞いている。


「さ……早苗?」
『……な、なんだ? 早苗嬢』


いかん、声が震えている。我ながら情けない。
しかし相当なドスの利き方だったのだろう、隣の諏訪子嬢も震えている。


「○○さんは、私の恋人ですよね?」
『ああ……』


かなり怒っているのだろう、表情が消えている。
だが浮気まがいのことをしたのは自分なのだから、どんな言葉も甘んじて受けなければならないだろう。
この際、キスをしてきたのは諏訪子嬢だということは関係ないのだ。


「○○さんは……私のこと、好きですか?」
『当然だ』


それは胸を張って言える。この状況で胸を張っても滑稽かもしれないが。


「なら……私とも」
『……?』
「私とも出来ますよね?」


そう言うと諏訪子嬢が持っていた袋から一本取り出し、咥える。
無論、断る理由などない。そもそも俺が彼女に提案したのが発端なのだから。
応じて反対側を咥えると、俺の顔を掴むやいなや―――


「もぐ、むぐ……ふ、ん……むぅ……!」
『むぐ……!?』
「お、おぉー!?」


またしても三者三様の叫びが上がる。何度重ねても飽きない彼女の唇が、あっという間に重なっていた。
いつもと違うのは、彼女がいつもより積極的かつ情熱的に重ねてきているということだ。


「んちゅ……ふ、んむ……ちゅ、ちゅる……」
『んむぅ、ちゅ……ふ、ちゅ……』
「うわ、うわー……」


舌の絡む様子を、諏訪子嬢がかぶりつきで見ている。これはさすがに恥ずかしいものがある。
しかし早苗嬢は気にした様子もない。ひたすらこちらに攻勢をかけ続け、もはや何分経過したのかすらわからなくなったところで解放された。


「ん、ふぁ……」
『ぷは、ふー……』
「わー、はー、ふぅ……」


解放されるも、数分ごしのキスで、息を整えるのに必死になる。
見ていただけの諏訪子嬢まで息を整えていた。
しかし、早苗嬢は―――


「ねえ、○○さん」
『ふぅ……なんだ、早苗嬢』
「私、とても傷付いたんです」
『む、すまん……』


こればかりはどう非難されても仕方あるまい。


「だから……」
『だから?』



「一回じゃ、足りないんです。もっともっとしても……いいですか?」
『断る理由は……まったくないな』


言うが早いか、そもそもどちらが咥えたのかすら定かでないまま唇を重ねた。
何度やることになるかはわからない。
先ほど言った通り、おやつにするために大量に買い込んできたのだから――――












「わー、いつまでやるんだろう二人とも……」
「まったく、アンタが変な風に火をつけるからでしょうに……昼食の用意どうするのよ、まったく……」
「わたしがつくってあげようか?」
「蛇焼き以外にしなさいよ」


などと居間で茶をすする神様の会話があったことは、その時の俺たちには知る由もない話。















あとがけ


何書いてるんだ俺はー!?
あたまがおかしくなったようです。真冬なのに頭は春ですよ!
文章がgdgdなのは突っ込まないであげてください。切実に。


新ろだ949



幻想郷。雪の降る、寒い夜。
早苗さんから、手編みのマフラーを貰った。
とっても暖かい。
理由を聞けば、今日は「クリスマス」だから、らしい。
ああ、確かにあったな、と、言われてから気づく。
そして、マフラー意外にも貰ったものがあった。


ここは守矢神社。二柱の神と一人の巫女さんがいる。
神にしては、二柱ともだらだら。
巫女さんの早苗さんは、テキパキと仕事をしているのに。
まあ、自分はただの人間ですから、神になんてなにも言えないけど。
自分はこの神社の二柱とも、巫女さんとも親しい。

「あーうー、みかんハズレた」

「ハズレなんてあるのか?」

「甘くないのがハズレだよー」

「じゃあ私はアタリだなっ」

二柱の会話は、ささいなことで喧嘩になる。
しかし今は、こたつでだらだらしていて、怒りも静められる。
「……でっていう」
諏訪子様、それどこから覚えたし。
神奈子様、みかん食べすぎです。
三人でぬくぬくしていると、早苗さんがお茶を持ってきた。

「皆さん、みかんばっか食べていないで、お茶でも飲みましょう」

「おーぅ」

神奈子様が気力のない返事をする。
皆一斉に、お茶を飲み始めた。


飲み終わった後、早苗さんが自分を縁側へ連れていった。
早苗さんが座り、自分も座ると、早苗さんからいきなり何か渡された。

「メリークリスマス、○○さん
 私からのささやかなプレゼント、ということで……」

マフラー。手編みのマフラーだった。
久しぶりにプレゼント、とやらを貰った気がする。

「あ、ありがとうございます
 大切にしますねっ!」

お礼を言うと、自然と笑顔になる。
早苗さん、頬が赤い。

「……○○さん」

「はい」

「これからも、ずっと一緒にいてくれますか」

「……ゑ?」

「わ、私の側に、です」

「……それって?
 ゑ? え? ぇ?」

「……すいません、忘れてください」

そういうと、早苗さんは部屋へ戻ろうとした。
ここでやっと、自分はわかった。
確かに、「これからも、私の側に、ずっと一緒に……」と言っていた。
私の側に、というのは、つまり……。


「待ってください」

「……」

ピタ、と、早苗さんがその場で止まる。

「あなたの側にずっといます」

「……だからそれは――」

早苗さんが言いかける。


ぐいっと、早苗さんの手を引っ張る。
早苗さんがびっくりして、こちらを振り向く。
そこに、さっき貰ったマフラーを――。

「ちょ、ちょちょっ
 ちょっと、ま、○○さんッ!?」

顔を真っ赤にする早苗さん。
自分も頬が熱い気がする。

「早苗さん、これであなたの側にずっといれます」

「……な、何を言いますか」

「あなたが側にいて欲しいと言うのなら
 自分もそれを望みます」

「……○○さん」

「はい」

「…………すす、好きでs……
 ……め、メリークリスマス」

早苗さんの赤面かわいいと思ってしまった瞬間。

「自分も好きです早苗さん」

マフラーをはなし、早苗さんの肩に手を乗せ、瞳を閉じて――



 ----------二柱の様子----------

神奈子「クリスマスにいいねェ、二人して……」

諏訪子「うふふ、これで○○も守矢神社の一員ね~」

神奈子「あれ? 前からそうじゃなかったのかい」

諏訪子「まあ、そういえるけどね」





 ----------チラウラ----------

ごめんなさい。
駄文でごめんなさい。
ここまで読んでくれたあなたに感謝。
ありがとう。


最終更新:2011年03月30日 22:05