神奈子1
9スレ目 >>970
「良いな、祝いの宴というものは 神代の頃から希望に満ちたこの雰囲気が好きで仕方ない」
花嫁と花婿が古式に則り、婚姻の義を進めてゆく
早苗さんも手慣れた様子で淡々とこなしてゆく
「幻想郷で行う婚姻第一号だ。 何かスペシャルなおまけでもつけるべきかな?スポットライトとか」
「八坂様、早苗さんに怒られますよ」
あ、ちょっと残念そうだ。
「アレはいいものなのに…」
「神様なのですから、我儘言わないでください」
「心外だな、神ほど我儘な奴はいないぞ。 人のように怒りや悲しみ、恋だってする。 昔、諏訪子は結婚したこともあるしな」
「ははっ、八坂様も白無垢が着てみたいですか?」
「それはいいな。 〇〇、私をもらってくれ」
ぶっ! ちょ 嬉しいけどちょっとまてっ!
「…………ひょっとして、私では不満か……?」
「満足ですっ! これ以上ないほど満足ですから潤んだ目で見上げないでっ」
「そうか、おーい早苗ー! 今日はもう一件結婚式やるから用意してくれー」
決断も日取りも早っ!
「さて、子供の名前はどうしようか……」
気も早っ!!!
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11スレ目>>333
妖怪の山の頂上にありし湖。
佇まいし守矢神社におわすは、八坂の神。
八坂、神奈子。
その力の源たる信仰を集め、神としての再起するがために幻想郷にやってきた。
しかし、幻想郷なりともやすやすと信仰心が戻らず。
苦労の耐えぬ日々は依然として継続中である。
「そもそも、なにを信仰すればいいんだよ?」
「山、そして私。恐れは敬いを生み無知は夢を生む。全てを知った気になって手に入れた気になっては危うい事になる。だから信仰が必要なの」
「確かな道しるべが必要だってことか。しっかし、その道しるべに立候補するのはいいけど、あんまり威厳が足りないんじゃないのか?」
「厳かにしていればいいというものじゃない。時節の気風もある。友達感覚の方が信仰を集めやすいのよ」
「なるほど、だからまた、こんなシュールな状況に陥ってるわけだな」
かつて大勢を極めた神なれど、信仰なくしては存在し得ない。
最後の賭けにやってきた幻想郷で辛苦を強いられる状況なればこそ、その神様当人が先に言うようにフランクな態度を取るに至っているわけである。
「かと言って、何で俺に言う? 何度か断ってると思うんだけどな」
神奈子が彼に信仰を勧めたのは、何も初めての事ではなかった。
「信仰を否定していた者が信仰するようになれば、その心の頑健さは一転して頼もしいものになるでしょう」
「頑固者を口説き落とそうとしてるわけか。難儀な話だな」
「そういうことよ。それに、知ってもらう事こそが信仰への一歩。信じる信じないを口約束だけで行うのは無為な事。けれど、あなたの信仰が零だとしても、知っている分だけ、窮地に祈る信仰は私に有利になる」
「選挙活動かよ。知らないやつよりかは知っているやつに投票するからな」
いい加減な事だが、窮地に立ったときに思い出せる神が一人しかいないなら、否応もなしにその神に祈る事だろう。
「けど、結果が伴わなかったら神様とやらを信じなくなるぞ」
今わの際に願った言葉が届かなかったら、それは背信につながる。
人間は利己的なものだ。何もしてくれないものに期待できるほど都合よくは無い。
「順番が違うわね。あなたの信仰がなければ私としても神徳を与える事が出来ない。祈りたければ強く信仰する事ね」
「なるほど。そういうことなら納得できる」
「じゃあ、信仰してくれるかしら?」
「それとこれとは話は別だね」
宗教ではあるまい。
入門せよ改宗せよとせがむような声では、素直に頷けるものではない。
「信じれば救われる。って言葉の意味は分かったけどな」
「それを拒絶するっていうことは、救いが欲しくないということかしら?」
「甘えだろうよ。信じてれば救われて、何もしないじゃダメだろうが」
信仰するが故に己の怠惰への免罪とするなら、神は悪魔ともいえるだろう。
誘惑と欲望に忠実であればこそ、人は魔が刺すものなのだ。
「それは違うわね。普段に精進を怠らぬ者にこそ、神徳は与えられるもの。精進する事が信仰する事も同義なのよ。なぜなら、努力が報われると思うことこそ信仰の一つだから。報われなかったときにこそ、その者は神を信じなくなるでしょう」
「闇雲に信じてもダメだってことか。それも難儀だね」
「ええ、そうね。その点、あなたは怠惰な人間ではないようね。実にけっこう」
「そりゃどうも」
神奈子の言葉からすれば、彼に対していくらかの信用があるようだ。
また、これ以上話さずとも、結論は出ているも同然だ。
「だったら普段どおりに努力してればいいってことだろ。それで、俺はあんたを知ってる。信じるとか細かい事は知らないけど、もしかしたら最後に祈る神はあんたになるかもな」
「それが信仰よ。でも、あんた呼ばわりはいただけないわね。私は八坂神奈子。何度も名乗ったはずだけど」
「それはこっちも同じことだっての。代名詞で呼ばれてるんだ。あんたと呼ぼうが神様と呼ぼうが、それと変わらないだろ」
「それはえらく違うね。信仰の対象が名も知れぬ誰かと言うんじゃ、顔と名前が一致してるのとはぜんぜん違う。いつでもどこでも思い出せるようにしてもらいたいのよ」
「なんだかぞっとしないね」
「失礼だよ」
いつ何時であろうとも思い出せるような対称になるなら、心を奪われているのも同然だろう。
それを正しく信仰と言えるかは、違うかもしれない。
「それで、今日はここらでメシ食いに行くんだけど、あんたもくるかい?」
「あんたはやめてほしいわね。八坂神奈子よ」
「じゃあ、あんたも名前を呼びな」
「じゃあ、○○。食事でもいかがかしら?」
「誘ったのは俺なんだけどな。ホントに馴れ馴れしい神様だな」
「親しみやすいって言いなさい。それと代名詞も」
「そいつは悪い。んじゃ行くか、神奈子」
「ええ、そうしましょう」
神と人とが並び歩く。その親しみやすさは客観的にも好意的に映る事だろう。信仰には欠かせない事なのかもしれない。
しかし、好意的に映るためにも、並び歩く者は本当の意味で好意的でなくてはいけない。
「それで、信仰してくれる気になったかしら?」
言の葉を悪戯に変えれば、告白を待つ言葉にも思えるかもしれない。しかし、邪推である。
「さあね。少なくとも、悪い気はしてないってことで勘弁してくれ」
悪しからず。それが今。
急いてもことは無し。故に、日々の積み重ね。信仰もまた、時と想いの積み重ね。
「まあいいわ。ちゃんと信仰してくれるようにしてあげるわ」
さらに想いの積み重ね。
「まあ、神様は信じないけど、神奈子は信じてもいいけどな」
着実に前へ、
まずは一人の信仰を。
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11スレ目>>391
●●:なぁ神奈子
神奈子:なにかしら?
●●:諏訪子のように好きな人がいたらいいなとおもってる?
神奈子;それは……まぁ、私も一応女だし、思ってないわけでもないわ。 けど、私なんて。
●●:好きな人なんて出来ない、とでもおもったか?
神奈子:そりゃそうよ。 諏訪子以外と比べてもおばさんに見えるし、背中のしめ縄がごついし、某所じゃガンキャノンなんてよばれて……。
●●:そう自分を過小評価するんじゃない。 だって……
神奈子:……何が言いたいの?
●●:神奈子、お前が好きだからさ。
神奈子:……!! ど、どうして私なのよ。 他にもかわいい子がいるじゃない。
●●:神様言えども、ばかだなぁ~。 確かにかわいい子がたくさんいるし、俺は熟女好きでもない。 けど、『姉さん』っぽいとこがすきなんだよ。
神奈子:……●●。
●●:まったく……、初めて会ったときの厳格なところはどこにいったんだよ。
神奈子:馬鹿、私だって女らしくなりたい時だってあるのよ。
●●:そうですかい。 ……まぁ、これからもよろしくな。
神奈子:え、えぇ……。
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10スレ目>>662
「神奈子様。俺は、好きですよ?」
「え、……ええ!?」
「皆敬遠してるけど、俺は好きだなぁ」
(えぇそんな私この年になってやっと二人目の夫がぐへへおっといかんいかん心の涎が)
「かっこいいじゃないですか、ガンキャノン」
「……え?」
「え? そういう話じゃなかったんですか?」
「……○○の」
「ちょ、スペカは、やめ」
「馬鹿ー! 神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」!」
アッー
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東方喜恋譚 ~You are my オンバシラ編~ 第1話『出会い』(12スレ目>>109)
「もう大丈……あとは2~3日安静に……問題は無……」
「……ありがとうござい……八意先……」
少年の耳にうっすらと声が聞こえる。
一人は年端もいかない少女の声。
もう一人は艶やかな大人の女の声。
そして、障子が開く音が聞こえ、それっきり、何も聞こえなくなる。
けれど、そんな彼女たちの声をきっかけに少年の意識は浮上していった。
「ん……」
「あら、目が覚めたかしら?」
落ち着いた女性の声が聞こえ、少年は目を開く。
ゆっくりと焦点が定まってくると、少年の目に注連縄を背負った女の姿が目に映った。
「ここは……」
「身体の調子はどう? 痛いところは無い?」
少年は、ぎこちなく身体を起こす。
少し気だるさは残るものの、動けないというほどのことはなく、苦痛を感じる個所も無い。
「あ……大丈夫です……あ、その…こ、こんにちは……」
少年は女にぺこりと頭を下げた。
いきなり挨拶をされて女は一瞬呆気に取られる。
「……ふふ、もう夜だけど?」
「あ……ご、ごめんなさい……こんばんは」
女は僅かな驚きを隠しなが らからかうように少年の揚げ足を取り、少年は恥ずかしそうに頭を下げた。
そして、そのまま沈黙してしまう。
落ち着かないのか、少年は周囲をきょろきょろと見回していた。
「ふふふ、そんなに怯えなくてもいいわ」
「は、はい……」
少年は、ちらちらと上目遣いに女を見つめる。
その姿は、少年の可愛らしさも相まって、さながらリスかネズミのような小動物そのものだ。
「あ、あの……」
「?」
「そ、その……ここは、どこですか?」
「ここは守矢の神社よ」
聞き覚えの無い場所だったのか、少年は不安そうな表情を強める。
「僕……どうしてここに?」
「……覚えていないの? ぼうやは森の中で倒れていたのよ?」
「え、あの……じゃあ、お姉さんが……助けてくれたんですか?」
「いいえ、ぼうやを助けたのは私の身内よ。私はついさっきまで ぼうやの可愛い寝顔を眺めていただけ」
「えっ……ぁ…ぅぅ……」
とたん、少年は頬を赤く染めて俯いてしまう。
寝顔を見られるのが恥ずかしかったのか、そのまま押し黙ってしまった。
女も、少年の反応が意外だったのか少し面喰ってしまい、苦笑しながら呟いた。
「おかしな子ねぇ、貴方」
トントン
「神奈子ー! その子の具合はどう……って、もう目が覚めたみたいね」
障子を叩く音が聞こえ、目玉のついた帽子をかぶった少女が入ってきた。
少女は、少年が目を覚ましていることに気づき、その顔に優しげな頬笑みを浮かべる。
そして、トコトコ歩いてくるなり、どっか! と、勢いよく少年の目の前に座った。
そのまま、彼をまじまじと見つめる。
「ふーん……」
「あ、あの……何か……?」
少女は、まるで品定めをするかのようにジロジロと少年を見つめる。
そのまま、しばらく眺めていたが、突然 目を輝かせながら少年に詰め寄った。
「ねえねえ、君の名前は? 年は幾つ? どこから来たの? 」
「え? ええ?」
マシンガンのように尋ねられ、少年は驚き慌ててしまう。
あまり女の子と喋るのは慣れていないのか、それとも少女に怯えているのか
どちらかは定かではないが、少年の身体は少しずつ後ずさりはじめていた。
けれど、帽子の少女は、少年の服を掴んで逃がさない。
「やーん! オドオドしちゃって! 可愛いわー!!」
そう叫ぶや否や、少女は少年に両腕を回してしがみ付いた。
「わ、わあああっ! はっ、はなしてくださいぃっ!」
「ん~~~!! 可愛い可愛い可愛い~~♪」
そのまま、少年の頭を胸に抱き抱え、その頭に頬を擦り寄せる。
少年は 恥ずかしさから少女から逃れようともがくが、少女の力には敵わなかった。
「……諏訪子様、少し落ち着いてください」
少年の耳に少女の声が聞こえる。
諏訪子に抱擁されながら、声の方向に目をやると緑色の髪の少女が立っていた。
緑髪の少女の顔には呆れ気味な表情が浮かびあがっている。
「こ、この声……ふぁ! や、やめて! くすぐったいですよぉ!!」
「やめてあげないわよ~ふふっ♪」
先程 夢心地の中で聞いた若い少女の声。
それが、早苗と呼ばれた少女のものだったことに少年は気づいた。
……が、少年にとってはそんなことよりも 擦りよってくる諏訪子を何とかする方が先だった。
「早苗! 今日からこの子は私の弟よ!」
「え、ええっ?」
「な、何言ってるんですか諏訪子様! そんなこと――――」
「ああ、可愛すぎる……この可愛さは正義よ……」
「諏訪子様、ちょっと落ち着いてくださいってば!」
ムチャクチャなことを口走りながら、うっとりと頬を緩ませて、ますますヒートアップする諏訪子。
早苗は、少年から諏訪子を引きはがそうとやっきになっている。
そして、渦中の少年は、嵐のように迫る刺激に放心状態になってしまっていた。
「落ち着きなさい二人とも。ぼうやが困っているでしょう」
「神奈子様……」
落ち着き払った声がその場に響く。
今まで黙っていた 注連縄の女――――神奈子が動いたのだ。
神奈子は、立ち上がると いきなり、むんず! と諏訪子の襟を掴み上げる。
「あ~~ぅ~~~」
そして、恨みがましい声を上げる諏訪子を 少年からあっさりと引きはがしてしまった。
そのまま、神奈子は自身の目線を少年のそれに合わせる。
「ぼうや、私の名前は八坂神奈子……そっちの子は諏訪子、こっちの子は早苗よ」
「は、はじめまして……」
「はじめまして……それで、ぼうやの名前は?」
「あ……○○…です」
「○○は、どこから来たのかしら?」
「え…と、日本の――――」
少年は自分が住んでいた所の名を告げる。
すると、神奈子は納得がいったというふうにゆっくりと頷いた。
「……なるほど、やはり外の世界から来たみたいね」
「え……?」
外の世界と聞き、怪訝な顔をする少年に、神奈子は話し始める。
この世界が“幻想郷”と呼ばれる異世界であること。
そして、森の中で倒れていた○○を通りがかった諏訪子が拾ったことも。
「幻想…郷…? …で、でも、どうして僕が……?」
訳が分からないと言った表情を浮かべ、少年は3人に尋ねる。
何故、幻想郷に連れ込まれたのかと聞かれてもわからない。
ただ、少年を幻想郷に連れ込んだ主犯については、3人には大体予想がついていた。
「大方、冬眠中のスキマ妖怪が寝ぼけて攫ったんでしょうね。
……ああ、気にしないで。貴方が幻想郷に連れ去られたのは、別にあなたが悪いわけでは無いから」
「?? は、はい……」
「早苗、明日にでも博麗の巫女のところに連れていって、元の世界へ帰してあげなさい」
「え――――!! 弟ができたと思ったのにー……」
諏訪子は落胆……というよりも絶望の叫び声をあげる。
3人の中で一番幼い(ように見える)諏訪子が弟を欲しがっても無理はないのかもしれない。
「安心しなさい、ぼうや。明日には帰れるわ」
神奈子は、そんな諏訪子の落胆など完全に無視して少年に語りかけた。
「あの……神奈子様、それが無理なんです」
「え、どうして?」
「博麗の巫女は今 病で床に臥せっています」
「は?」
そして早苗は、里に買い出しに出たときに仕入れた情報を話し始めた。
なんでも、今里の方では流行り病が蔓延しているらしく、博麗の巫女もその病に倒れたこと。
その流行り病は、命に別条はないが一ヶ月は寝たきりになる程に厄介な病らしいことを。
「とすると参ったわね……この子、しばらく帰れないのかしら」
「じ、じゃあ、○○君! 博麗の巫女が治るまで、ここで暮らしたら!?」
さっきまで落胆して部屋の隅でうずくまっていた諏訪子が 水を得た魚の如く喰いついてきた。
はっきり言って下心が丸見えである。
「事此処に至っては仕方ないわね……こんな幼い子を放り出すわけにもいかないし、諏訪子もこんなだし
どうかしら、○○。あなたさえ良ければ、此処でしばらく暮らしてもらってもいいんだけれど。」
「暮らすわよね、ね、ね!?」
「落ち着きなさい諏訪子、目が怖いわよ」
諏訪子の期待の視線に気圧されながらも、照れながら少年は頬を赤く染める。
「は、はい……よろしくお願いします」
「やったぁ!!」
「ふふ、では○○君の部屋を用意してきますね」
早苗も、この幼い少年が同居することは嬉しく思っていたようだ。
その証拠に、彼女の表情には笑みが浮かんでおり、新しい同居人の為に嬉々として部屋を用意しようとしている。
「あ、あの……!」
「どうかした?」
少年が、部屋から出ていこうとする早苗を呼びとめる。
けれど、その後が続かない。
少年は俯いたまま、しばらく黙ってしまった。
そんな少年を、神奈子は窘める。
「○○、言いたいことがあるのならはっきりと言いなさい」
「は、はい……ごめんなさい……」
「どうしたの? どこか痛いところがあるの? それともお腹がすいたの?」
「そうじゃなくて……その…あ、ありがとうございましたって、お礼を……」
『…………』
「よ、よろしくお願いします……神奈子お姉さん、早苗お姉ちゃん、諏訪子……お姉ちゃん? かな?」
おずおずと……少年は助けてくれたことに対するお礼を告げた。
しばし、3人は硬直する。
どこかズレている この礼儀正しい少年にある意味で驚かされたのだ。
そして、最初に硬直が解けたのは諏訪子だった。
「やーん! 可愛い――――!!」
「わ、わああっ! やっ、やめ……!」
少年のいじらしい姿に、諏訪子は再び少年に抱きついて頬ずりする。
「ふふ、どういたしまして」
早苗は、そう少年に言い残して障子を開き、部屋から出て行った。
「ほらほら、病みあがりの子供に無理させないの」
「あーうー……」
そして神奈子は……少年と諏訪子を引きはがし、諏訪子から恨みの視線を投げられていた。
『いただきます』
一刻ほどの時間が流れ、守矢神社の食卓には美味しそうな匂いが漂っていた。
○○を囲っての初めての食卓。
「お、美味しいです……すごく」
「ふふ、ありがとう。いっぱい食べてね」
けれど、それっきり○○は一言も喋らなくなってしまった。
否、時折何か喋ろうと努力しているようには見える。
けれど、その内向的な性格が災いしてか喋ることができないようだった。
3人にも、○○が口下手で 喋ることが得意では無いことはわかっている。
ゆえに……誰かが、この内気な少年の緊張を解してあげなければならなかった。
「はい、あーん」
突破口を開いたのは諏訪子だった。
箸で白米を摘みあげ、手を下に添えながら少年に差し出す。
少年は、諏訪子が意図しようとしていることを一瞬で悟り、またもや赤くなってしまった。
「……あ、あの……自分で…食べれますよぉ………」
「ダメ! 幻想郷にはね、女の子から差し出された物は 残さず食べなければならない決まりがあるの!」
「そ、そうなんですか?」
「そうなのよ~♪」
「じゃあ……あ、あーん……」
真顔でなんてバカな大ウソを付いているのだろう。
しかも、○○はそれを真に受けてしまったようだ。
羞恥に頬を赤く染めながら差し出された白米を食む。
「あの……あ、ありがとうございます……」
「いいのいいの、じゃあ次ね!」
「え、ええっ?」
ヤル気だ。
彼女は自分の茶碗の中にあるご飯全部を○○に食べさせるつもりだ。
諏訪子が本気だということを悟ると、○○は困り果ててしまった。
女性に食べさせてもらうということへの羞恥に、顔を手で隠しながら照れてしまっていた。
「ふふ、今時珍しいくらい純な子ね……ねえ○○、ちょっと酒を注いでちょうだい」
「は、はい」
神奈子は神奈子で晩酌を仰っており、既にほろ酔い気分で少年に手酌を求める。
少年は神奈子の側に座り、盃に酒を注いだ。
「神奈子様……飲み過ぎですよ」
「いいじゃない、たまの客人なんだし。ねえ、貴方も飲んでみる? 注いであげるわ」
「あ…ありがとうございます……」
「神奈子様! 未成年にお酒を勧めないでくださいっ!! って、○○君も飲んじゃダメ!」
早苗が神奈子に詰め寄った一瞬の隙。
その間に、○○は神奈子の手酌で注いでもらった酒を一気に飲み尽してしまった。
「ふふ、なかなかいい飲みっぷりね」
「はぅ……ぁぅ……」
神奈子の飲んでいた酒は幻想大吟醸『神殺し』。
名前の通り、アルコール度数は非常に高い。
そんな強い酒を、一気飲みした子供がどうなったか――――
「う~……きゅぅ……」
――――敢えて、語るまでもないだろう。
「○○君、しっかりして! か、神奈子様! いくらなんでも冗談が過ぎ――――」
「安心なさい早苗、急性アル中には ならないようにしているから大丈夫よ」
客人をみすみす危険にさらすような真似を、神奈子がするはずもなかった。
既に、神通力を使い少年の身体のアルコール分解を早めている。
「本当に愉快な子ね……」
少年……というよりもまだ子供。
しかも、性格も内気でとても大人しい。
そんな○○は、神奈子もあまり見たことのないタイプの男の子だった。
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最終更新:2010年05月10日 23:08