神奈子3



13スレ目>>308


「ん?○○、何を描いているんだ?」
「あ、神奈子様。
 守矢神社のことを里の人にもよく知ってもらえるように、
 パンフレットを作ろうかと思いまして。
 流石に写真だと威厳が損なわれそうなので、
 神奈子様の絵を描いて載せようと思ったんですが……」
「ほう、『守矢神社祭神絵姿』か……
 うん、なかなかよく描けているじゃないか」
「神奈子様にそう言ってもらえると、がんばったかいがあります」

「……あの、諏訪子様。○○さんの絵ですけど」
「……あーうー。神奈子はああ言ったけど、ちょーっと、若いというか……
 美化されてるよねー。恋は盲目っていうけど……」
「八坂様、全然気付かれませんよね。
 側で見ている私にさえ、○○さんの気持ちが手に取るように
 わかるんですが」
「神奈子もそっちの方は初心というか、鈍いからねー。
 ……気付いた時が見ものだね」

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14スレ目>>57


「○○、私はお前のことが好きよ」
「神奈子様……」
「ずっと側にいてほしい」
「あの、嬉しいですけど後ろの一際でかいオンバシラは?
 伝説の樹じゃあるまいし」
「伝説ならある。昔これで蛙を吹っ飛ばした」
「いやそうじゃなくて、下で告白すると幸せになれるとか」
「そういうのは、ない」
「ないんですか」
「だがお前は私が幸せにする。私は、○○がいてくれればそれで幸せよ」
「……神奈子様」
「私の気持ちに応えてほしい」

 黙って、神奈子様を抱きしめた。

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うpろだ1148


「おーい○○ーただいまー」
「お帰りなさい神奈子様…ってなんすかそのボロボロな格好は」
「いやー、宴会の帰りに麓の巫女と弾幕で勝負したら負けちゃってねー」
「まったく、着替え用意するからお風呂でも入っててくださいよ…」
「はいはい、じゃあ入ってくるよっと…」
「はい行ってらっしゃい…ってここで脱がないでください神奈子様!」
「えー、そのくらいいいじゃないか○○ぅー」
「こっちはそういう経験ないんすから勘弁してください!こっちが恥ずかしいですって!」
「わかったよ、ちゃんと風呂場で脱ぐから落ち着いてくれ…」
「まったく…神様なんだからもうちょっと威厳のある行動を取ってください」
「最近はこういう方が信仰が集まるのよ」
「まったく、信仰してる俺の立場が無いと言うか…」
「おや、あまり信仰してるようには見えないけど、そうなのかい?」
「最大限の信仰をしていますよ、神奈子様は鈍感と言うか…」
「そうかい、ありがたいね。ところで最大限の信仰ってどんなものなんだい?」
「愛してる、って事ですよ、神奈子様」
「え?…か、神様の前で冗談は良くないよ○○」
「冗談なんかじゃありませんって。」
「そ、それじゃあ…」
「神奈子様、俺は神ではなく一人の女性としての貴方が好きです。」
「そ、それはその…プロポーズとして…受け取っていいの?」
「…もちろんです、神奈子様。実は恋愛経験とか無いのでは?」
「あ、あはは!あるに決まってるじゃないか!」
「その反応からして無いんですよね?」
「あー・・・ぅー」
「諏訪子様みたいにごまかさないでください。それで、答えを頂けると嬉しいんですが」
「あ…その、これから…よろしくね…」
「ああ、よかった。断られたらどうしようかと。しかし、本当に威厳が無いというか」
「な、何を言うんだ…威厳の無い私は好きじゃあないか?」
「どんな神奈子様でも俺は好きですって。こちらこそ、よろしくお願いします」
「あぁ…その、神様としては非常に情けないんだが…よろしく…」
「さて、とりあえずお風呂に入ってきてください。今、早苗さんが料理作ってますから」
「あぁ、わかった。でも、その前に…その、キス していいか?」
「はいはい、わかりました。神様の仰せのとおりに」

おしまい

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うpろだ1417


守矢神社の縁側に私は酒を持って座る
あの三人組は寝ているだろうか
特に早苗は家計が苦しいだの、少しは節約だのとうるさくてかなわん
反して諏訪子も神様の癖に10時にしっかりと寝る癖をつけておるしな




……んくっ、はぁ……今日も酒は美味い
今日はちょうど良く満月だ
……月見酒といったところか、なかなかの趣があるな
はぁ……




……後は○○だけだな
あいつがここに住むようになってから私は変わってしまった
○○が早苗の手伝いをしているとき、諏訪子と遊んでいるとき
私は○○の姿を目で追ってしまう
目が合ったときなんてどうしようもなく恥ずかしくなってきて、すぐに目をそらしてしまう
その後あいつは、○○はこう言うのだ
「神奈子さんどうしたんですか?」
彼は彼なりに私を気遣ってくれているのがわかる
その気持ちがとても嬉しいのだ
だが、いつも私は何も答えられずにいる






……○○は私のことをどう思っているのだろうか
ただ一つの神様として、それとも……?
はぁ……どうも一人になると弱気になってしょうがない
……これじゃあ神様失格だな





「こんな夜遅くに一人で晩酌ですか?」
「……起きていたのか○○」
「ええ、こんな良い満月の日には外にでも出ようと思いまして」
「ああ、今日は良い満月だ」
「……神奈子さん」
「何だ○○」
「俺は神奈子さんのこと神様失格だと思ってませんよ?」
「……」
「人でも神様でも弱くなるときがあるんだと思います。それをどう向かっていくか。それが大切じゃないんですか?」
「……お前も弱くなるときがあるのか○○よ」
「はい」
「……そうか」
「俺も一杯貰っていいですか?」
「ああ、だが早苗に怒られるときは共にだぞ○○」
「わかってますよ。それではいただきます」

「……ぷはー。こんな美味いお酒を独り占めで飲むなんてずるいですよ神奈子さん」
「そうか?なら次からはお前を起こしてから呑むとしよう」
「それはありがたいです、こうして神奈子さんと一緒にいられる時間が増えますから」
「……一つ聞いていいか?」
「ええ、どうぞ」
「そのだな、お前は私のことをどう思っているのかと思ってな」
「神奈子さんのことですか?それはもちろん……」




あーうー……
むにゃむにゃ……





「そ、そうか。それは野暮なことを聞いたな」
「そんなことないですよ。俺もこうして気持ちを伝えることができたんですし」
「う、うむ」
「それで……神奈子さんのご返事はどうなんでしょうか?」
「むっ!……」
「……どうなんですか~?俺だけ言うなんて不公平ですよ~?」
「むぅ……お前わかってて言ってるだろ」
「さぁ~?それは神奈子さんのご返事しだいで」
「わ、私もだな……その○○のことが!」







あーうーあっ!
ごんっ!!
う~んうるさいですよすわこさまぁ……むにゃむにゃ……





「な、なんか言われると恥ずかしいですね!」
「そ、そうだな!」
「そ、そろそろ寝ませんか?お酒も尽きたことですし」
「あ、ああ」
「それじゃあ俺はこれで」
「ま、待ってくれ○○」
「?どうしたんですか?」
「その……今日は……お前の布団で一緒に寝てもいいか?」
「えっ!!そ、それは……」
「!べ、別にやましいこととか考えてないから大丈夫だ!単に寝付くまでお前と一緒にいたいんだ」
「そ、そうですか……それなら……いいですよ」
「ありがとう○○」



翌朝、抱き合って寝ていた私たちを見て早苗に弾幕の嵐を食らったのはいうまでもないな
ちなみに諏訪子は頭に大きなたんこぶができていたが……まぁ大丈夫だろうさ
まぁそのなんだ○○とは両思いになったということだ
その○○は早苗の手伝いから開放されて今は私の膝でぐっすりと寝ている

「むにゃむにゃ……神奈子……さん……好きです……」
「ふふっ、私も大好きだぞ○○」


新ろだ790



 妖怪の山の頂上にある守矢神社。
 ここには、風祝の巫女が1人と、2柱の神様が棲んでいる。
 最近、守矢の住人がもう1人増えた。
 麓の村人、○○である。
 ただいま夕食中。

「ねえ○○、今日の料理はどうだい?」

「ああ、すごくうまいよ。特にこの芋の煮っ転がしが」

「えへ・・・ありがと」

 普段からは考えられないようなデレっぷりを見せているのが、
これでもれっきとした風の神様、神奈子である。
 守矢神社の食事は、ほぼ早苗が用意していたのだが、○○が来てからというもの、
よく神奈子が作るようになっていた。
 早苗の手順をよく学んでいたようで、それなりに上手である。
 そのやり取りを、見飽きたという様に動じず、黙々と食事を続けるのが
この神社の巫女、早苗。
 そして、あからさまにひきつった顔をしながら、芋に思いっきり箸を突き立てるのが、
もう1柱の神、諏訪子。

「いやー、いつもながらお熱い事ですねーお2人さん」

 毎日のように続くラブラブ空間にたまらなくなったのか、思わず諏訪子が皮肉を漏らす。
 ○○はバツが悪そうにしどろもどろ。
 しかし、神奈子はこの程度でやり込められるような存在では無かった。

「おやおや、土着神ともあろうものが、いっちょまえに焼きもちかい?
悔しかったら、諏訪子も彼氏の1人くらい作ったらどうだい」

「何をおっしゃる、元・余所者の神が。早苗が私の血を引いてる事を忘れてない?」

「いーや。忘れてはいないさ。ただ、数百年男日照りなのは寂しくないのかな、と思ってねぇ」

 とたんに部屋の空気が重々しくなった。いや、神気が満ちたとでも言うべきか。
 一触即発の空気の中、やはり早苗は見飽きたコントを見るかのごとく、
全く動じずに食事を摂っていた。もちろん、食事が乗ったちゃぶ台は既に避難させてある。

「諏訪大戦やるか?あァ?」

 普段の少女らしい可愛さはどこへやら、ドスのきいた声ですごむ諏訪子。

「久々にやるかい?いいねぇ。表、出ようか?」

 対して、余裕しゃくしゃくの神奈子。
 まさに、幻想郷を破壊しかねない、2柱の戦いが勃発しようとしたその時。

「待った、神奈子さん。ケンカはよくない」

 今まで黙っていた○○が一言。

「あ、いや、○○。これは、ケンカじゃなくてね・・・神の誇りに関わる事なんだよ」

 神の威厳などすっかり吹き飛んだ神奈子。もはやそこには1人の純真な女がいるだけである。

「神奈子」
「うぅ・・・・・・分かったよ。○○には逆らえないなぁ」

 すっかり毒気を抜かれてしまった諏訪子も、しぶしぶ元の席に戻った。

「諏訪子さん、悪いね。気ぃ使わせちゃって」

「あぁ、いいよ、いいよ。貴方は大事な守矢神社の次期神主だからね。
まぁ、イチャつくのも程々にしてくれればいいよ。
風祝の巫女より、風神が先に孕んじゃったら、守矢神社の立場が無いからね、ヒヒッ」

「諏訪子様!」「諏訪子ぉ!」

 顔を真っ赤にした早苗と神奈子が同時に非難の声をあげる。
 神奈子をやり込められて、溜飲を下げる諏訪子。

 さて、食事が終わって、○○は自室に戻ってゆったり読書をしていた。

「○○、入るよ?」

「うん」

 神奈子が部屋に入ってきて、○○の隣に寄り添った。

「○○はさぁ、運命って信じるかい?」

「ん?まぁ、少しはね。でも、意外だなぁ」

「何が?」

「いや、神様も、人間みたいに運命を信じるなんて」

「神様はね、人が思うほど万能じゃないのさ。八百万の神っていうくらいだからね。
能力も力もも千差万別。海の向こうでは、唯一絶対神なんてのが信仰されてるみたいだけど、どうだかねぇ」

「へぇ」

「神様はね、人に信仰されないと消えてしまう。不安定な存在でもあるんだよ」

「神奈子は消えない。いや、消えさせない。世界中の人間が忘れてしまっても、俺は絶対に覚えてる」

「・・・・・・全く、○○にはかなわないよ。そういう恥ずかしい言葉を、さらっと言うんだから」

「俺は本気だよ」

「うん、うん。ありがと」

 ちょっと照れながら、○○の言葉をかみしめる神奈子。

「話がそれちゃったけど、私が言いたいのはね、○○に出会えた運命に感謝したいってことさ。
まぁ、運命の神様なんかいないかもしれないけど」

「おいおい、神様が別の神様を批判していいのかい?」

「おおっと。まぁ、幻想郷の運命を担っているのは、神じゃなくて、どこぞの巫女さんかもしれないけどね…」

「じゃあその巫女さんに感謝するのか?」

「いいや、あいつは感謝されてもうれしがらないよ。『気持ちより賽銭寄越せ』って言うに決まってるからね。
何より、神様が人間に感謝するなんて本末転倒だよ」

「なるほど」

 2人でケラケラと笑いあった。

「俺は、神奈子に出会えてよかった。人間だとか神だとか関係ない。
1人の女として、神奈子を愛してる」

 えっと目を丸くして、顔を赤くする神奈子。

「や、やだねぇ。また○○はさらっとそういう事を言うんだから」

「もちろん、いつでも俺は本気だよ」

「あーあ、風神ともあろう私が、人間の男に骨抜きにされちまうなんて、他の神様達が聞いたら何ていうかね」

「神奈子の為なら、誰が敵にまわっても命を賭ける。絶対君を守る」

「もう、本当におばか…」


======

 同時刻、別室。早苗の部屋に諏訪子が入ってきた。

「どうでした?お二方は」

「ああ、いつも通りラブラブしてたよ。愛してるだの、君を守るだの、
よくもまぁ、あそこまで歯の浮くようなセリフを言えるよ」

「うふふ、でも、これ以上は」

「まぁ、そろそろ愛の営みに入る頃じゃないかな。私もそこまでヤボじゃないよ」

「本当に仲がいいですね」

「早苗は気にならない?」

「ええ。私も子供じゃないですし、それくらいはわきまえているつもりです。
それに、最近妖怪退治が楽しくて、恋だの何だの言ってられませんし」

「は、はぁ。早苗がそう言うなら。私は守矢神社が絶えてくれさえしなきゃ、それでいいけどね」

 守矢神社の夜は、いつもこんな感じでふけていく…。



新ろだ903


これは風の神、八坂神奈子がまだ神になって間もない頃の話。

山で崖から転落し、動けなくなっていた○○を神奈子は助け、自分の神社に運んだ。
その頃の守矢神社は、神主や巫女のなり手がいなかったので、ほぼ無人だった。
○○は、神奈子の看病のかいもあり、徐々に良くなっていった。

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「あの…○○さん、大事な話があるんだけど」

「何だい?」

「私、本当は人間じゃないの…」

「ああ、何となく分かってたよ」

「え?何故分かったの?」

「何となく雰囲気がね…。それに、この神社は昔から人がいないって言われてたのに、
君が住んでたのがちょっと疑問に思ってね。それに」

「それに?」

「崖から落ちて、動けなかったあの日さ。
夕方になって日が落ちてきて、身体が寒さで震えてさ、ああ…俺はここで死ぬんだなって思った時、
君が空から降りてくるのを見て、お迎えの仏様か、天女様かと思ったんだ」

「覚えてたんだ…あの日の事」

「きっと、一生忘れないよ」

「……」

神奈子は、嬉しさで胸がつまりそうになるのを抑えて、話を続ける。

「本当言うとね、貴方はあそこで死ぬ運命にあったのよ。
それを私は自然の摂理に反して、神力を使い、助けてしまった」

「じゃあ、俺を殺すのかい」

神奈子は驚いた。どんな人間だって自分の命は惜しいはずだ。
それを、あっさりと死を覚悟している者がここにいる。

「い、いいえ!そんな事はしないわ。その代わり、山に入ってから、今までの記憶を消す事になるわ。
つまり、山で遭難して私が助けたこと自体を無かった事にする」

「君は…神奈子はどうなるの」

「私は、今回の件で、上の方々から処罰を頂く事になると思う。
しばらく神力を行使する事が出来なくなる。つまり、人前にこうして出れなくなるという事」

「そうか…」

達観したようにつぶやく○○。
なるべく感情を抑えて、右手を○○の前に添える神奈子。

「これで、お別れね」

「最後に1つ言わせてくれ」

「ええ」

「助けてくれて、本当に感謝してる。人間だとか神だとか関係ない。
神奈子、君を愛しているよ」

「私も!私もよ○○さん!」

神社の部屋が強く、光り輝いた。
そこには、男が1人倒れているだけだった。
その後、○○は山の麓で発見される事となる。
○○の消息は、数ヶ月間行方不明となっていたので、村では大騒ぎとなり、
「神隠し」かともてはやされた。
しかし、○○の山に入ってからの記憶は一切無くなっていたという。

===========

「それで?それでどうなったんですか?神奈子様!」

時は流れ、現代の守矢神社。
鼻息荒く神につめ寄る守矢神社の巫女、早苗。

「いんや。どうもしないよ。その男は普通に結婚して、子供をもうけ、普通に亡くなったのさ」

あっけらかんと答える風の神、神奈子。

「神奈子様はそれで良かったんですか?初恋だったんでしょ?」

「いいも悪いも、神と人間は、絶対に結ばれない決まりなんだよ。
それに私も若かったしね、若気の至りって奴さ」

「ふふーん、早苗、これを見てごらんよ」

そう言って、古い巻物を早苗に渡したのは、幼き少女の姿の祟り神、諏訪子。

「あら、これは守矢の家計図じゃないですか、一体…?」

「そこの23代目の神主の名前を見てみなよ」

「えーっと、守矢○○…って、えええ!?」

「ま、そういう事さ。人の記憶なんて、そんなあっさり消去できるもんじゃない。
うっすらと私の事を覚えていた○○は、永らく絶えていた守矢の家系を復活させたのさ」

思わず呆然とする早苗。諏訪子が更に付け足す。

「人間だって妖精だって、誰かの信仰の対象になれば、神となる。
それは早苗が身をもって体験した事だよね。つまり…」

「じゃあ、ご先祖様である○○様も、神になったんですね?」

「そゆこと。○○は、天寿を全うした後、神奈子の所にまっ先に会いに来たよ。
あの時の乙女モードになった神奈子は、傑作だったなぁ。ウヒヒ」

「コラ!余計な事言わない!」

神奈子は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

早苗も思わず笑いを抑えきれないでいた。

守矢神社はおおむね平和である。



新ろだ2-088


 その日は、朝から風が強かった───。

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 その方がやってきたのは早朝でした。
 いつものように朝の参拝かしらと思っていたのですが、妙に顔が硬いのです。

『神奈子様は、いらっしゃいますか?』

 いつもそんな判りきった事なんて訊かないんですが…
「ええ、いらっしゃいますよ」
 なるべくいつもと変わらないように案内してさしあげると、どことなくぎくしゃくしながら進んで行かれました。

 …なんなんでしょうねぇ?

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 俺は緊張していた。

 いや、緊張なんてもんじゃあない。
 今、『緊張してる』ってぇ奴を連れてこられたら、怒鳴りつけてやろうかってくらいだ。

 やらないけどね。

 とにかく、俺はそれくらいガッチガチになっている。

 出かける前に気合いを入れてきたつもりだったのに、ここへ来るまでの足が異様に重かった。
 一歩一歩進むたびに息切れを起こしそうな。

 そして気が付けば鳥居の前。

 ポケットに手を入れる。
 よし、落としてないな。
 それでこそ、勢いがつけられるってもんだ。

 もしここまで来て無くしてようもんなら、そのまま森へ入って吊っていたかもしれない。

 吊らないけどね。

 本殿の前でいつものように早苗さんが掃除をしている。

「神奈子様は、いらっしゃいますか?」

 …あれっ?
 俺は今何を言った?

 いや、わかってるんだよ。
 何を言ったかなんて。
 うん、そうだ。
 やっぱ緊張してんなぁ、俺。

 ああ、早苗さんに変に思われ…てるみたいだなぁ、さすがに。

 ともあれ見知った顔でもあるし、案内された通りに上がらせてもらう事に。

 床の間を前を過ぎようかとした時に、そこの襖がガラリと開いた。

『待ちかねておったぞ。入るがよい』

 と、床の間へ引っ張り込まれた。

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 ん?

 朝ご飯を終えて部屋に戻ろうとしていると、見知った姿があった。
 ありゃ神奈子のイイ人じゃない。
 アイツは必死になって色々言うんだけど、私らから見るとバレバレなんだけどねぇ。

 ちょっとイジってやろうかなー、と声をかけようとすると、いきなり彼の横の襖が開いて───姿が消えた。

 …こりゃあ、面白くなりそうだ♪

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 俺がいる。

 俺の前にはテーブルがあって、湯気を立てている湯飲みが両端に1つづつあって、そして。

 彼女が、いる。

 その顔は妙に険しい。

『今日は───何用じゃ?』

 少し前からこんな感じで、言葉の端々にいちいち重みを乗せている。
 正直に言おう。
 かなり怖い。

 いや、怖いと言ってもその雰囲気とかが怖いんであって。
 しかし引っ張り込んでおいて『何用じゃ』と訊くのも変じゃないのか…?

「あー、うん。その…ですね」

 雰囲気に飲まれまくっている俺。
 なかなか言葉が出てこない。

 ふと、湯飲みを見つめる。
 ほこほこと湯気を立てているところを見ると、つい今し方淹れられたようだ。
 そういや早苗さんは掃除をしていたし…

 という事は

『まずは一息つかぬか』

 反射的に湯飲みに腕を伸ばし、一口。
 あ、うまい。

『どうじゃ、私が直々に淹れた茶は』
「うん、うまい」
『そうか』

 少しだけ、彼女の目が笑ったように見えた。

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 洗い物を終えたのか、歩いてきた早苗を黙って呼び寄せる。
 やっぱり証人は多い方がいいしね。
 共犯になってもらいましょ♪

 少し不思議そうな表情で寄ってきたところに、面白いものが見られるよー?と言ってやった。
 もちろん、小声だ。

 それから指を口に当てて、再び襖の隙間から中を覗く。

 おーおー、二人ともガッチガチだよ。
 初心だねぇ。
 初心すぎて時々尻を蹴っ飛ばしてやりたくなるんだけど、蹴り返されるのは嫌だしなぁ。

 私の頭の上で、早苗も中を覗いている。
 ま、この際だしどうでもいいか。

 さ、続き続きっと。

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 少し後の事、お洗濯をしましょうかと廊下を進んでいますと、諏訪子様が閉じられている襖にお顔をくっつけておりました。
 私に気づくとそぉっと手招きされましたので、私もそぉっと近づきますと
『ちょっと面白いものが見られるよ?』
と小声で囁かれるのです。
 何だろうかと諏訪子様の帽子の上から(お行儀が悪いと思いつつも)襖の隙間から中を覗きますと、テーブルの上に湯飲みが二つ、そしてその両側に神奈子様と彼が座っておりました。

 お二人はじっと座ったまま、身動きひとつ取りません。
 表情もどことなく険しく感じられます。

 しばらく時間が経ちましたでしょうか、彼の手が上着のポケットへ入ったのが見えました。
 ですが、それっきり。
 神奈子様はじぃ、っと彼を見つめられたまま。
 気のせいかもしれませんが、少し不安の色があるような気がします。

『あの…』

 彼の声。

 “あ”の声量が妙に大きく感じたのは、そこまでの沈黙が長すぎたからでしょうか。
 そして“の”で急に勢いが落ちたのは…

 再び沈黙が場にのしかかります。
 彼の手はポケットの中を動くばかりで、それ以外は何も、何も動いていません。

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 そんなに経ってないのか、それとももう数時間は経っているのか。
 空気が重い。
 いや、まぁこれは俺のせいなのだが。

 ああ、まったく。
 男ってぇのはなんでこういう時に縮こまるんだろうね。
 覚悟を決めてきたはずなのに。

「えー…」
「あっと…」

 たまに口から出るのはこんな事ばかり。

 正面にはじぃっと俺を見つめる瞳。
 何も言わず、ただ俺を見ている。

 しかしその顔は、時間が経つにつれて少しづつ曇って行く。

 俺は。
 俺は何してんだろう。
 そんな顔を見るためにここに来たんじゃないのに。

 ふと、無意識にポケットに突っ込んだ手に気づく。
 向こうからは見えない位置だ。

 手に伝わるのは堅い感触。

 そうだ。
 俺はこのためにここへ来たのに。

 なのにどうだ。

「あの…」

 ああ、またこれだよ。
 いい加減嫌になる。
 どうした、いつもの俺はどうしたよ。

 ええい、くそ。

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 じれったい。
 いや、じれったいとかそういうレベルを遙かに越えている。

 なんだこの二人は。
 いや、神奈子もそうなんだけど、こいつは何だ。

 まぁ、気持ちはわかるよ、気持ちは。
 今、腹に一物持ってるってのは十分すぎるほど伝わって来るよ。
 けどさぁ、あまりに待たせすぎだよ。
 アンタじゃなけりゃ、とっくに尻蹴っ飛ばされて放り出されてるよ?

 ホント、長すぎ。

 んー…、───ん?

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『あのっ!』

 どれくらい経ちましたか、湯飲みから立ち上っていた湯気はすっかりと消えています。
 今度の彼の声ははっきりとしていました。

『何だい?』

 低い、低い神奈子様のお声。
 短い言葉ですが、そこには重い何かが詰まっているような気がして。

 彼はぎぃいっ、と俯いていた顔を上げますと、残っていたお茶を一気に飲み干して神奈子様を見つめ、


『これ…をっ!』

 と、ポケットから出されたその手には、深い深い青色の箱が。
 神奈子様の髪と同じ色です。

『よしっ』
 下からの声に目だけ動かしてみますと、どうやら諏訪子様は握りこぶしを作ってガッツポーズをされたようです。

 ああ、そうか───。

 そういう事だったんですね。

 今になってこの場で何が行われているのかをようやく悟った私は少しだけ目を細め、再び襖の隙間へ目を向けました。

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「あのっ!」

 もう嫌だ。
 こんな気持ちでいるのは。

 いや、違う。
 目の前にいる、大切な、大切なひとにこんな顔をさせるのは。

 もう、嫌だ。
 嫌だ。

 手に力を込め、握りしめる。
 腕を動かせと筋肉を絞る。
 そうだ、いいぞ。
 間接を動かせ。
 絶対に取り落とすんじゃないぞ。

『何だい?』

 ああ。
 これからそれに答えるから。
 これが最後の、問答だ。

 ずい、っと、その手を突き出した。

 目の前の湯飲みを握りしめ、

 ぐびり。

 一息で飲み干し、静かに置き直す。

 さぁ、次だ。
 もう片方。

 ポケットの中の手を強く強く。
 そうだ。
 それは確かに俺の手の中にある。
 そしてそれを出すんだ。
 もっと素晴らしいものを手に入れるために。

 動け、動け、俺。

 ふと、前を見る。
 俺を見ているその瞳は、まるで今にも泣き出しそうで。

 そうだ。
 俺はこれからこのひとをおそらくは、泣かせる。
 でも、きっとそれは全く逆の意味だ。

 俺はこれからこのひとをおそらくは、縛る。
 けど、きっとそれは全く違う意味だ。

 そうだ。
 だから俺は。

 俺は───。

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 正直に言おう。

 私は目の前の人間に腹を立てていた。
 顔見知りじゃなければとっくにその尻を蹴っ飛ばしていたくらいには。

 待ちくたびれていた。
 どうしようもなく待ちくたびれていた。
 おそらくは、これまで“生きてきた”以上に、この人間の前で“私”を続ける事に疲れ果てていた。

 違う。
 私にも責任はある、だろう。
 こいつがいつまで経っても言い出さない事に甘えて、まだ大丈夫、まだ大丈夫とやってる間に私の気持ちはどんどん膨らんで、どうしようもないくらいに大きくなってしまった。

 でも、こいつの前ではそんな事も言えず、つい厳しく当たってしまう時がしょっちゅうだった。
 でも、こいつは───この人間はそんな私に。

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「これ…をっ!」

 歯を食いしばり、上ずった声を出し。
 なんだよそりゃ。
 もうちょっとスマートにやれねぇのかね、俺は。

 内心、自分に対して呆れ返っていた。

 突き出した手を開く。
 指を一本一本、剥がすように。
 今まで過ごしてしまった時間を取り戻すように。

 そして、大切なひとの笑顔を取り戻すために。

 震えそうなもう片方の手で、最後の“封印”を取り去る。
 箱を開くだけなのに、こんなにも心が震えた事なんて今までなかった。

 いや、やめよう。
 ここまで来て往生際の悪い。
 いい加減にしろよ。

 スッキリ、しちまえ。

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「よしっ!」

 自分の声に少しビックリしつつ、無意識にガッツポーズ。
 やれやれ、やっとかぁ…。

 まったく、どうなる事かと思ったけど、ともあれ最終シナリオ第一幕突破、ってところかな?

 なんか早苗はやっとわかったみたいだねぇ…
 そんなんで自分の時はどーすんのさ。

 さ、続き続き、っと。

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「手を」

 言ったか言わないかのうちに、すぅ、っと左手が差し出される。

 俺はゆっくりと“それ”をつまみ上げ、彼女の手を取った。

 おいおい、なんでそんな顔してんのさ。
 もうちょっと嬉しそうな顔してくれよ。
 なんで泣きそうになってんのさ。

 いや待て。
 違うな。
 よーく見ろ。

 周りもなんだかぼやけて見えるんだけど。

 おいおい、勘弁してくれ。

 まったく。

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 ひとつひとつ、まるで今までの事を噛みしめているかのように、お二人の間で淡々と“それ”は進んでいました。

 にしても… あの人すごい表情してますね…
 緊張しすぎて倒れないか、ちょっと心配になってきます。

 諏訪子様も黙ってお二人の様子を見守っているようですね。

 さて、続きがどうなるのやら…

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 “それ”を見たとたんだった。
 今まで私の中にあったものが、すぅ、っと消えて行くような気がした。

 ああ、そうだ。
 待った。
 どうしようもないほど待った。

 そして、それは今、為されるのだ。
 この左手を差し出した時、私は“縛られる”のだ。

 私は、神だ。
 私は、神だ。
 私は、神だ。

 しかし、今、この時、私は───女なのだ。

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 見立てよりもほんの少しだけ、彼女の指は細かった。

 何の飾りもない、本当にシンプルな指輪。

 ここへ行き着くまでにいろんな事があった。
 それこそちょっとやそっとじゃ語り尽くせないくらい。

 でも。
 終わった今、それらは全て思い出になった。

 そう。
 思い出だ。

 俺は、指の主をじぃ、っと見る。

 愛しくて、愛しくて。
 時々ケンカもしたけれど、でも世界で一番愛しいひと。

「ありがとう」

 俺は、一切の迷いなく言った。

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 くいっ、と早苗の袖を引っ張り目配せする。
 神奈子の事だし、この後は想像がつくなぁ。

 ま、後は若い二人に任せて、ってね。

 おお熱い熱い。

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 不意に袖を引っ張られた私は思わず声を出しそうになってしまったのですが、なんとかそれを飲み込むと、諏訪子様がアイコンタクトしてきました。

 あ、そうですよね、やっぱり。

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『よろしい。今ここに契約は為された。八坂神奈子はそなたの妻と、なろうぞ』

 そう言うと、彼女はすっくと立ち上がり───
 ジャンプ一番、テーブルを飛び越えて俺の上に。

 顔が近い。

 頬は真っ赤、涙目だ。

『莫迦者が』

 それはまるでいつも交わす軽口のように。

『ずいぶんと待たせてくれおって…』
「うん、ごめん」
『ごめんで済めば神などいらぬわ』

 答える代わりにそっと抱きしめる。
 見た目よりも随分小さい。

 ふわふわの髪の毛が心地よくて、いい香りもする。

「…ひょっとして」
『そんな事、訊くでないわ。デリカシーとやらが足りぬ』
「ごめん」
『莫迦者』

 目と目が合った。

 俺を見つめる瞳が閉じられた。

 そして───

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 空は快晴、まさに日本晴れ。
 風も穏やかに吹き、結婚式日和。

「おー、おいでなすった」

 その声に振り向けば、白無垢に角隠し。
 うっすらとした化粧に薄い紅。

 “花嫁さん”がそこに、いた。

 その姿は、俺が思い描いていたものよりもずっとずっと綺麗で。
 そして何より可愛らしかった。

『何を呆けておる。ちゃんとエスコートせぬか』

 見とれていたところに遠慮なしのその言葉。
 俺は少し苦笑いして彼女の手を取った。

 鳥居の前からすでに人だかり、妖怪だかり、神だかり。
 どこにこんなに居るのかというくらい。
 もちろん見知った顔も多く見える。

 祝福の言葉を受けながら石段を登って行く。

 正殿前。
 早苗さんが待っていた。
 ああ、そうか。
 ここの神主みたいなものだもんなぁ。

 言ったら怒りそうだから黙ってよう。

 式は滞りなく終わり、しばらく後に宴会とあいなった。

「つ、疲れた…」
『これくらいで何を言っておる。これから先、もっと大変であるぞ』
「ああ、わかってる…つもりだけど、やっぱり疲れた…」
『まったく仕方ないの。どれ、横になるがいい』

 見ると正座をして、膝のあたりをぽんぽん叩いている。

 これはあれですか。
 膝枕というやつですか。
 いいんですか。
 神様が。
 膝枕ですよ?

 思わず敬語で考えてしまうくらいだ。
 うん、やっぱ疲れてるんだな、俺。

『もう夫婦なのだぞ。何を遠慮しておる』

 そう言いつつも顔を真っかっかにしてなおも自分の膝をぽんぽん叩いている。

 うん、可愛いすぎるね。うん。

「わかった。じゃ、遠慮なく」

 頭を乗せた。
 ほどよい弾力と暖かさ。
 そして俺を見つめている“妻”の優しい、どこまでも優しい顔。

 ああ、そうか。
 こんなにシンプルな事だったのか。
 なぁんだ。

 額に手を乗せられると、俺はすぅっと眠りに落ちていった。

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『寝ちゃった?』
『あー、よく寝てますねぇ。ふふっ、まるで大きな赤ちゃんですね』

 ふたりが様子を見に来たようだ。
 さすがに小さな声。

『神奈子様?』
「なんだい?」
『すごく、いいお顔されてますよ』
「…ああ、そうだな。とても、とても幸せな気分だよ」
『すっかり“女”の顔だねぇ。やっぱり恋をすると変わるってホントだよ』

 彼の寝顔を見る。
 無防備にその姿を晒している。

「私は───もう偽らない。この人の前では絶対に自分を偽らない」
『…、そうだね、それがいいよ。それが一番だ』
「この人が自分の人生の残り全てを私に捧げてくれるんだ。だから、私は」

 本当に、嘘偽りなく、心から、笑えた。


「“私”の全てをこの人のために捧げる」


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 んあ。

 そんな間の抜けた声を出して、目が覚めた。
 あのまま寝ちまったのか。

『目は覚めたかい? お前様?』
「ああ、よく眠れたよ。俺だけごめんな」
『いいのさ。私の膝ならいつでも使っておくれ』
「うん、わかった」
『ふふっ、素直でいい子だ』
「あ、今子供扱いしたろ」
『何を言っておる。私から見れば大抵のものは赤子同然じゃ』
「…まったく、敵わねぇなぁ…」
『やはりお前様は面白いの』
「それで神奈子が笑ってくれるなら」
『…まったく、敵わぬの』

 そして俺たちは顔を見合わせ、笑った。

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最終更新:2010年10月16日 23:19