ナズーリン1
新ろだ627
ネズミが出やがった。
「ちょっと失礼するよ」
そいつは人語を話しずけずけと我が家に入り込もうとする。
「ちょっと待ちな」
「うん?」
「お前、ここがどんな家か知っているのか」
「知ってるよ、チーズ作ってるんだろう?」
作ってるだけじゃない、これでもしっかりと生計を立てている。
「知ってるんならネズミを入れる気が無いって言うのもわかるよな?」
一年目にどれだけネズミの被害を受けたことか。
それ以来若干のトラウマである。
しかも今現在目の前にでっかいネズミ(妖怪)がいる。
「……ん、ああ、そうだね。確かに」
わかってくれたようだ。思った以上に理解力があるらしい。
多少の満足を覚え、そのまま帰ってもらおうと口を開こうとした。
「だが残念だね、もうすでに入っているようだよ」
「は?」
突然の言葉に開いた口がふさがらない。
そんなことはないはず、しっかりと対策をしているのだ。
「ただのネズミじゃないからね。私が使わしてたんだけど」
「お前なのか入れたのは」
「いや、それとこれは別件だよ。今回は私の子ネズミの独断のようだ」
「ちゃんと統率しろよ……」
「どうやら匂いにつられたらしい、困ったものだね」
肩をすくめる妖怪ネズミに若干の怒りを覚えるが、戦って勝てる相手でもないので抑えるしかない。
ともかく一刻も早くこいつを帰さなければ。
「そうか、じゃあこっちで処理しておくから帰ってくれ。一匹減るくらいは我慢しろよ」
「別に帰ってもかまわないけど、私の子ネズミは凶暴でね、ただの人間程度なら食べてしまうかもしれないなぁ」
そういうと妖怪ネズミは目を細め、口の端を釣り上げて笑った。
「私に任せてくれれば安全にネズミを外に追い出してあげるけど、どうだい?」
如何にも絶対了承する だろうと読んでいる、そんな顔だった。
っていうかそれは脅しじゃなかろうか。
「……わかったよ」
「じゃあお邪魔しても?」
「変なところ行くなよ」
「変なところ、というと?」
「台所」
少なくとも食べ物が食べられるのは絶対阻止しなければいけない。
妖怪ネズミは
ナズーリンと名乗った。
ナズーリンをチーズが積まれている倉へと案内する。
「終わったよ」
「はやっ」
まだ何もしていないじゃないか。
「そりゃ一匹だけだしね」
なんかだまされたような気がするのは気のせいだろうか。
……まぁ今回のことは二度とは起こらないだろうし気にしないようにしよう。
子ネズミの独断、といってたし。
だがしかしネズミに入られたというのは問題だ。
そのうち別のネズミが入り込む可能性もあるかも知れない。
もう一度セキュリティを見直したほうが―――
「何をしているんだい?」
「は?」
気づいたら居間だった。
考え事をしてたらいつの間にか居間まで来てしまったようだ。
「っていうかお前なんでここまで来てるんだ。さっさと帰ってくれ」
しかも何気に座ってくつろいでいやがるし。
「少しくらいはいいじゃないか」
「かーえーれー! さっさと夢の国にでも帰ってパレードでもしてろ!」
「君は何かとても口に出してはいけないものと勘違いしてるね」
ところで、とナズーリンは口を開いた。
「ここの家は客人にお茶も出さないほど困窮しているのかな?」
「誰が客だ。用事すましたんならさっさと帰ってくれ」
「帰ってもいいけど、今帰ったら偶然、一匹くらいネズミ置いていきそうだなぁ」
「くそっ! なんて野郎だ!」
「どうしたんだい? 私は可能性の話をしているんだけどな」
たいそう意地悪そうにいうこいつの顔は先ほどの笑みと同じだった。
絶対楽しんでやがる。
「おまえ、性格悪いって言われないか」
「自覚はしているつもりだよ」
「直す気は無いんだな……」
肩を落として台所へと向かう俺の背中に、
「お茶請けはチーズでかまわないよ」
という声が聞こえた。
「ほらよ」
「ありがとう」
「自分でたかったくせに」
「さて、なんのことやら」
表情も変えないで言うこいつの姿にはため息しかつけない。
対照的にナズーリンはチーズに手を伸ばしていた。
「おや、このチーズ、おいしいね」
「気のせいじゃないのか」
「いやいや、これは独断でしのびこむに値する味だよ。誇っていい」
……そこまで言われるとなんか悪い気はしないが、なんていうか一度言ってしまった手前そう簡単に覆せないっていうか。
「……そりゃどうも」
そのせいでそっぽ向いて答える形になってしまった。
「……君はもう少し素直になったほうがいいかもね」
「余計なお世話だっ」
なんか初対面の相手にばればれだった。見たらニヤニヤしてやがったし。
チーズも食べ終え、さっさと帰らないかなオーラを出しているが、どうやら相手はさして気にしていないらしく、
むしろ相手からのチーズ催促オーラを受け流すのに躍起になっていた。
「さて」
「お、帰るのか」
「いや、帰らないけど?」
「あっそう……」
わかっているが落胆してしまう。
ていうかこいつ何時まで居座る気だ。
「一応私の子ネズミが君の大事な倉に侵入してしまったんだ。これはお返しをしないといけないと思ってね」
「思うだけとか無しだからな」
「そんなことはしないよ。君の力になる。一度だけだけど」
「……力に?」
「そう、とはいっても私に出来るのは何か探し物を探すだけだけどね」
「それは、なんでもか?」
「この幻想郷にあるのなら」
そう豪語する妖怪ネズミ。
……しかし、なんでもか。ちょっとだけ期待が沸く。
「じゃあ、レモン」
「……レモン?」
「チーズ作るのにレモン汁がほしいんだ」
食酢でもいいんだが、違う味というのも試してみたいのだ。
飽くなき味の探求といえばかっこいいが、悪く言えば今の味に飽きがきただけなんだが。
もうちょいレパートリー増やしたいのだ。
「ふぅん。本当にそれでいいのかい?」
「かまわないよ」
その言葉を聴いたナズーリンは手に持った長い棒を上へと振り上げた――。
レモンは見つかった。
「――言い忘れたけど」
「そんなっ…! バカなっ…! なんでこんなっ…! あってはならないことがっ…!」
種だけ、だが
「探させるのってネズミだから、食べ物だと食べちゃうんだ」
「そういうことは前もって言えーっ!!」
「だから言い忘れた、って言ったじゃないか」
「それにしてもだ!」
「あ、そうそう。ちゃんとこれは一回に含まれるからね」
「てめぇの血は何色だぁー!」
「君と同じで真っ赤っか」
くそっ、この上なくいい嫌な笑みしてくれやがって!
「幸い種が残ってるんだし木でも育てたらどうだい」
「……こうなったらそうするしかないのか」
限りなく小さいプラスだった。失ったものは大きいか。
「さて、一段落したところで私はそろそろ帰ろうかな。ここに寄ったのも偶然といえば偶然だしね」
そう言ってナズーリンはさよならもいわずして飛び立った。
まぁ色々あったが奴とは二度と会うことはないだろう。
さっさと割り切ってレモンの木を育てるのに専念すべきだ。
うん、そうだそうしよう。
あー楽しみだなー。
「そうそう。また寄るかもしれないから、その時は今日と同じようにチーズを頼むよ」
「もう二度と来んなー!!」
「ふふふ、それは肯定と受け取っておくよ」
会話を断ち切るかのように今度こそ飛び去っていく妖怪ネズミ。
立ち呆ける俺。
訂正、限りなく小さいプラスは圧倒的マイナスの間違いだった。
「今なら空飛べそう」
軽く現実逃避。
あほーと鳴くカラスにレモンの種ぶつけたくなった。
実際に投げたら外れたうえに探すのに1時間かかった。ちくしょう。
新ろだ660
「ふー」
走り回った疲れで座り込んでいると、
「やあ、ご苦労だったね○○。助かったよ」
ナズーリンがやってきた。
「うちの小鼠ほどではないけれど、ただの人間の割には随分役に立ってくれた」
「……そりゃどーも」
鼠達がお盆休みだとかいうふざけた理由で、俺は彼女が探し出したものを取りに行く仕事を押し付けられたのだ。
――惚れた弱みで断れなかった、とは口が裂けても言えない。
「お礼に何か探してあげよう。そうだな……」
しばらく考え込むようなポーズをとっていたナズーリンは、ぽんと手を打ち、にやりと笑う。
「生涯の伴侶となる女性、なんてどうだい。ただでさえ君は見つけるのに手間がかかりそうだし」
「ご挨拶だな。いーよ、そんなん探してくれなくて」
「いいからいいから」
失礼な奴だと思うのが半分、ナズーリン以外の誰かを答えとして探し当てられたくないのが半分で止めたのだが、
目の前の鼠は構わずペンデュラムを取り出す。それはいつものようにくるくると回……らなかった。
「…………」
「お、おや、まあ」
ペンデュラムは迷わずナズーリンにくっつき、そのまま動かなかった。
「ま、参ったなあ……だけど私は、これでも自分の能力を信用してるんだ。しょうがない、君と一緒になってあげようじゃないか」
俺は、頭がぼーっとなって、何も言えなかった。
ペンデュラムがいつものものと違ったこと、そのペンデュラムとナズーリンの服にどう見ても磁石がくっついていたこと、
ナズーリンの口調は棒読みだったが、うまくごまかしてやったと言わんばかりのちょっと誇らしげな顔だったこと、
などについては、触れないでおこう
新ろだ698
「宝探し?」
「そう、宝探し」
突拍子も無いことをよく言うのは彼にとってよくあることだったが
今日はまた一段ととんでもないことを口にした。
「いやいや、ナズーリン。
里の知り合いの人が倉で見つけたふるーい地図みたいなものがあってだな…」
そう言うと、彼は私にその胡散臭い宝の地図を説明した。
それは里から離れたところ、
幻想郷の東の端にある神社よりやや南の位置に
赤い大きなバッテン印がつけられている地図だった。
彼が言うには、そのバッテン印のついたところには
とんでもないお宝が眠っているはずだ、と。
「…胡散臭いとは思わないのかい?」
「だからこそ、だろ。
なんかこの地図の古臭い感じとか、いかにもさぁ
すごいお宝がありそうな気がするじゃん!」
「そうか、君がそう思うなら
一人で行けばいい」
「そんな冷たいこと言わないでくれよー、ナズーリン」
――やけに食い下がってくるな。
こんなやり取りを2,3回した後、私もついに心が折れた。
「わかったよ、行こう、その宝探しとやらに」
そのセリフを聞いた○○はガッツポーズを取って
「宝探しのための荷造り」と称して、奥の部屋へ行ってしまった。
――やれやれ、こんなことに付き合うことになってしまうとはな…。
「チクショー! なんでもう少しマシな嘘がつけないんだよ、俺は!」
奥の部屋へ荷造りと称して行った彼は、頭を抱えて一人悶えていた。
本当は彼女と二人っきりになる時間を作るため、
自分のひそかな計画を実行するためとはいえ、
もう少し捻った嘘をつきたいものである。
「……とにかく、スコップとかでも持っていけばいいのかな?」
里から離れた嘘の地図の位置に、道なき道を行く。
○○が宝探しのための道具といって持ってきた
スコップやら、つるはしやら、鉈やらを入れたリュックサックが揺れるたびに
ガチャガチャと音をたてる。
「ずいぶん遠くまで来たな」
「君がそんな荷物を抱えてこなければ、もっと早く目的地につくんだがな」
彼女は不機嫌そうに言う。
宝探しなど、彼女一人であれば、彼と行くよりはるかに早い時間で終わるし
何より○○自身、空を飛ぶことなどできないので
時間のかかる陸路を行かなければならないことも、彼女の機嫌を悪くしているのだろう。
「第一、君は何を掘りに行くつもりだ?
埋蔵金でも埋まってるとでも言うんじゃないだろうな」
「うーん、埋蔵金ねぇ、いい響き!
一攫千金のチャンス到来ッ!」
そんな不機嫌そうな彼女の横で、彼は非常にウキウキとした様子で
重たそうなリュックサックを揺らしながら、目的地を目指していた。
「あれ、ナズーリン? 部下の子ネズミたちは?」
「ああ、置いてきた。
変なものを食べて、あいつらが腹を下すのは面倒だからね」
「……二人っきりか、好都合だ」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
――成る程、やはり彼は最初から宝物など眼中にない。
私と二人っきりになる時間を作ろうとしていたわけだ。
まぁ、もう少し彼の宝探しに付き合うのも悪くないだろう、と彼女は心中呟いた。
「うーんと、ここら辺かな、印のあったところは」
しばらく歩き続けると、少し開けた場所についた。
背負っていたリュックサックを降ろす。
ガチャンと音を立てて、○○はあたりを見回す。
「うんうん、いかにも何か埋まってそうな場所だな、ここは」
「わざとらしいセリフだな」
「さて、と。
それじゃあこの辺りから探してみようか」
彼女と手分けして、ぼうぼうに生えた草だらけの一帯の中を探し続けた。
場所が外の世界と近いためか、外の世界の道具がいくつか見つかるが
壊れているか、あるいは実用性の無いものばかりで
使い道がないものしか見つからなかった。
「壊れたレコードプレイヤーに、割れた蛍光灯…。
なんだこれ、カセットテープ?」
「初めて見るものばかりだが、値打ちのあるものには見えないな」
「壊れてなければ、多少の値段で買い取ってくれる好事家が
いたかもしれないけどなぁ…。
ああぁぁ、疲れたぁ」
たまらず○○は座り込む。
それに続けて彼女も腰を下ろす。
「私がダウジングをすれば、一発で全部わかるんだがな」
「いやいや待て待てナズーリン。
それじゃあ醍醐味って物がないだろう。
苦労して探してこその宝物だよ」
「……理解しがたいな」
○○は人里のある方角を見る。
結構大きな里も、ここから見るとかなり小さく見える。
遠くまで歩いてきたことを今更ながら実感した。
一息入れて、彼はすっと立ち上がる。
「あんまり休んでもいられないし、俺はもう少し探してみるよ。
ナズーリンはもう少しここで休んでていいからさ」
「じゃあ、お言葉に甘えるとしよう」
彼は今まで探した場所と反対の方向へ歩いていった。
「……最も、ここに宝物なんて無いんだろうけどな」
一人、ナズーリンは呟く。
――彼も今ここにはいないようだし、辺り一帯の反応でも探してみよう。
そう思った彼女は、ダウジングの準備をする。
簡易的なものではあるが、彼女の持つ能力もあるため、その精度は非常に高い。
反応のあった物は、ほとんどがさっき見つけたガラクタだった。
いくつか別の反応もあったが、全てがガラクタと同じ反応を見せていた。
だが奇妙なことに、彼女のすぐ横にある彼のリュックサックの中から
これまでのガラクタとは違う反応が出ていた。
スコップやつるはしの金属に反応しているのではなく、
明らかに貴金属の類のものだった。
初めは自分のミスだと思って何度か同じことを試したが、
そうではなく、本当にこのリュックサックの中に「レアな」物が入っているようだった。
もう少し探してみる、と言った○○は
出発前に彼女に嘘をついたときと同じように頭を抱えていた。
「ああぁぁぁ、なんてこった!
俺のリュックにアレを置いていくなんて…。
もし見つかったら俺の計画が破綻しちまう!」
彼を悩ませる原因はそれだけではなかった。
さほど奥まで探索していないのに、戻る道がわからなくなっていた。
光を屈折させたり、音を消したりして道に迷わせる妖精がいると
聞いたことがあった○○は、今こうして戻れないことを
その妖精のせいにしていた。
「……とにかく、自然な様子で戻ればいいか、うん、ナチュラルに!」
そう思って踵を返した彼だが、
4歩目で地面の感覚が無くなった。
叫び声をあげることもできず、何が起きているのかわからない内に
彼は崖から落ちてしまっていた。
「妙だな、なかなか戻ってこない」
休憩していたナズーリンが、○○がなかなか戻ってこないことを不審に思う。
「おーい、○○、どこにいるー?」
返事が返ってこない。
――さほど遠くまで行っていないはずだが。
変に胸騒ぎがする。
一度しまったダウジングの道具を再度準備して、彼の反応を探してみる。
見つかるのに時間はかからなかったが、おかしなことが一つあった。
反応のあった場所が、今自分がいる場所よりも遥かに「低い」位置にあった。
――ここに来るまで、結構崖があったが…まさか。
直感的に嫌な予感がして、彼女は反応があったところを目指して飛び出した。
嫌な予感は的中していた。
崖から落ちた○○は、その下にあった岩に足をぶつけたらしく、
その岩やそこの辺り一帯に血の跡ができていた。
○○はぶつけた足に上着を巻きつけて包帯代わりにしていたが、
上着の色は彼の血の色で真っ赤になっている。
「ナズーリン…すまん…落っこちた…」
「わかった、もういい! 何も喋るな!
私が医者のところまで連れて行くから、しっかり捕まっていろ!
いいな!」
普段の彼女からは想像できないほど取り乱した様子で
ナズーリンは○○をおぶる。
彼女にとって、彼の足から流れる血の色は
その人間にとっての「死」を直感させるに十分だった。
それが彼女を急かしていた。
――死なせるものか、○○を。
気がつくと、彼は自分の家の布団で横になっていた。
その横からいつも聞きなれた声がする。
「やっと気がついたか」
その声に反応して起き上がると同時に、額の上の濡れタオルが落ちる。
彼女がしてくれたことか、と気づく。
「あの後、竹林にいる医者のところまで君を運んでな」
「……俺ってどれくらい寝てたかな?」
「さぁな、忘れた。 ああ、そうだ。
何ヶ月かは歩けないだろうけど、処方した薬を飲んで、安静にしていれば
すぐに元通りになれるとあの医者は言っていたね。
まぁ、大丈夫そうだし、安心したよ」
そこで自分の左足に包帯がぐるぐると巻かれていたことに気づく。
――徐々に思い出していく。
あるはずの地面が無くて、自分が崖から落ちたこと。
彼女に永遠亭まで運ばれたこと。
そうやって一つ一つの記憶を辿っていくうちに、
この場の空気がだんだん重くなっているようなことに気づく。
「やれやれ、一攫千金のチャンスがパァだな、ハハハ…」
無理して冗談を言ったつもりだが、
○○だけが苦しい笑い声をあげていた。
「……君はどこまで馬鹿なんだ。
死んだらどうする? 私がもしあの場に来なかったらどうなっていた!?
一攫千金だって? 馬鹿馬鹿しい!
生きるための金であって、逆ではないはずだろう!?」
笑い声が尽きるのと同時に、ナズーリンが捲し立てる。
その声が半分を過ぎたあたりで、彼女の声は涙声にも近くなっていた。
「……悪い、冗談が過ぎた」
「あ、いや、なんだ、こっちも、その…すまなかった」
お互い口を開かなくなる。
窓の外から涼しい風が吹く。
しばらくの間、外で騒いでる虫の音だけが部屋に響いていた。
――おかしいな、確か大事なものを…。
「そうだ、俺のリュックサックは?」
「ああ、君をここへ運んだ後に取りに行ったよ」
「すまんな、重かっただろ」
「まさか、あんなものまで入ってるとは思わなかったさ」
彼女は小さくて綺麗な青い小箱を彼に渡した。
それは彼自身が一番よく知っているものだった。
「あー、中身は見た?」
「見てない。
見てないから早く中身を見せろ」
箱の外見からして、中身はどんなものかは
誰しもが想像しやすかった。
ナズーリンは○○を急かす。
「ブローチか?」
「人里で見つけたんだ。
ナズーリンにさ、似合うと思って、本当はあの場で渡すつもりだったけど…」
「私の…ために…」
彼女は渡されたブローチをじっと見ている。
「もしかして…気に入らなかった?」
「…馬鹿、私のためのものなら、君が私につけるべきだろう。
ほら、早くつけろ、今すぐに」
「仕方ないな、わかったよ、ほら」
ナズーリンにブローチをつけさせる。
翡翠色のブローチは、彼女によく似合っていた。
つけ終わって、彼女の顔を見ようとすると、
彼女の息がかかるくらいに、自分の顔が近づいていたことに気づいた。
そして彼女の顔が、赤くなっていることにも。
「あの時言うつもりだったけど、今言うよ。
俺は素晴らしい宝物を見つけたよ。
ナズーリン、お前は俺の宝物だ」
――自分でも顔から火が出そうなくらい、恥ずかしいセリフだ。
言い終えてからそう思う。
聞き終えた彼女は、困惑した様子で、嬉しそうに答える。
「だから君は馬鹿なんだ。
……もっと簡単な言葉で言えないのか?」
「あーもう、俺だってこんなセリフ言うの恥ずかしかったんだぜ?
わかったよ、わかった。 じゃあご希望に応じて…。
大好きだよ、ナズーリン」
その言葉を聴き終えた途端に、ナズーリンは○○に飛びついた。
「ちょ、ナズーリン」
「君の宝探しなんていう訳のわからない我が侭に付き合わされたんだ。
私の我が侭も聞くべきだろう?」
○○は言葉を発せず、ナズーリンを抱きしめる。
女性特有の香りが鼻孔の奥をひくひくとつくような気がする。
「…もう少し、私の我が侭に付き合ってもらうか。
○○、ちょっと目を瞑ってくれ」
「……ん」
唇に何か柔らかいものが、触れたような気がした。
「なぁナズーリン。 今度の宝探しは絶対成功させる。
その為に早くこの足を治すぜ」
「ちょっとその言葉は違うな。
『二人で』治すんだろう?
リハビリは一人ではやりにくいだろう
……お前がいいと言うなら、いっしょにやっていこう、○○」
「もちろんだ、ナズーリン」
新ろだ750
初日 駅前の広場
「着いた~!」
「遠い~!デンシャ速い~!スゴイ~!」
「…つ、つかれた…」
「…おつかれさん。顔色が凄いことになってるけど大丈夫かい?」
「子供のバイタリティは侮れねぇ。ちっと甘く見すぎたか…」
「面白いものを見つける探索能力は私に似て、それを実行する行動力は君譲りだからね。ふふ。」
「…とんでもねぇハイブリットだな、我ながら。」
「「ぱぱ~!まま~!はやく~!!」」パタパタパタ「「わ~い!!」」
「走るな!よそ見するな!こけるから!車危ないから!!あ~もう!」ドタドタドタ「こら待て~!」
「まま今走れないから、ふたりともちょっと待っててね~。」
「「は~い!」」ピタ。
「…お前らなぁ。」
回想~2週間前 寺子屋
「というわけです慧音さん。はんこください。」
「何がいきなりというわけなのかわからないが却下だ。第一君も私も既婚者だぞ?」
「ばっ、ちがいますよっ!有給届ですってば!」
「冗談だよ。まぁいい、どれどrって!一月の休暇申請など認められるか!」
「えー。」
「えー。じゃない!君は教師としての自覚はないのか!」
「でも農繁期ですよね。この時期。来ませんよ生徒。」
「っ、しかし!」
「それに慧音さんも誘われてるんですよね?神無月外界旅行。旦那さんに。今朝のチラシ見ましたよね?」
「……」
「夫婦水入らずで温泉でもどうです?周りに気兼ねせず存分に甘えてみては?」
「…いいだろう。今回ばかりは貴様の甘言に乗ってやろう。」ポン。
「ありあとやんした~。生徒たちには秋休みってことで通達しておきますね。」
「そのかわり休み明けにはテストということもな。ふふふ…。」
回想~1週間前 某寺
「だ・め・で・す!ゼッタイダメ~!」
「書類の形式に何か問題でもありますか?」
「それは問題ありません。ナズーリン字きれいですしね。」
「でははんこをいただきたい。」
「うnってちが~う!なんで来月一月の休暇申請なんですか!一月も!」
「だから書いてあるじゃないですか。産休。」
「かこつけて外界旅行いくつもりですね!わかります!」
「夫の実家に帰らせていただきます。子供連れて。」
「出雲の会議があるでしょう!」
「星様は出席なさるでしょうが私は呼ばれてません。先代もお一人でしたし。」
「うっ…。」
「期限付きの仕事は納品しました。書類も問題ないはず。私がいない間の対応も子ねずみに伝えてあります。」
「…う~。」
「他に何か?」
「…万が一私がうっかり落し物したら誰がみつけてくれるのよぅ…。」
「彼氏と一緒に行ったらいいじゃないですか。100%起こることがわかっていれば対処してくれますよ彼なら。」
回想~昨晩
「いよいよ明日、か。」
「…なんだか微妙な表情だね。」
「二度と戻れないと思ってたからな。実感がわかなくてね。」
「帰りたくないのかい?」
「いつでも行き来できるなら話は違うがね。どちらかしか選べないならこっちを選ぶぞ。」
「……。」
「ナズーリン、俺の大事な嫁さんとかわいい子供達がいるからな。」ぎゅう。
「…うん。」ぎゅう。
「絶対に、はなさない。はなしてなんかやるもんか。」ぎゅぎゅう。
「…ありがとう。」ぎゅぎゅう。
そして時間は戻る 実家前
「着いた。ここが俺の実家だ。」
「随分古い家だね。」
「ボロい~。」「ボロいね~。」
「…まぁその通りなんだが。結構胸にズキッとくるな。」
「ぱぱおむねいたいの?」「いたいのいたいのとんでけ~!」ちょいちょい。
「うんありがとうぱぱげんきになったようれしいなぁあはははは。」
「お取り込み中悪いけどそろそろいいかい?チャイム押すよ?」ピンポ~ン。
パタパタパタ「は~い?どなた~?」
「…母さん、俺だよ。」
「!!!」バタバタバタ…
…バタバタバタ、ガチャ!
「っ!親父…。」
「……。」ドガッ!!
「「「!!!!」」」
言い訳
ナズーリンと一緒に初孫見せに行きたくて書いてる。が、文才も時間もない。
いつものように会話形式だけで書いてみたが正直ビミョー。
続きはもう少しうまく書けるといいなぁ。
あと星さんがわからないので某藤村タ●ガーになった。反省はしていない。
新ろだ843
「なぁ、○○」
「んー? なんだいナズーリン?」
「外では、今日をぽっきーの日と言うそうだね?」
「そうなのか? 初めて知ったよ」
膝上に座っていたナズーリンがそう尋ねてくる。
確かに俺は外来人だが、世間に疎かった事もあり
今日がポッキーの日と言うのは初めて知った。
「本当かい? じゃあ、ぽっきーげぇむと言うのは? 知ってるかい?」
「…………し、知ってる事は知ってるけど」
「それは良かった。外では恋人同士がよくやるらしいね」
「……いやぁ、よくはやらないかな」
ポッキーゲーム。それは恋人同士で一本のポッキーを食べると言うもの
ぶっちゃけ、都市伝説の類いなんじゃないかと思っていたりもする。
「○○」
「あ……あの、ナズーリンさん?」
名前を呼ばれたので、視線を落とすと其処には
頬を赤らめたナズーリンが、その口にポッキーをくわえながら
俺の事をじっと見つめていた。
「……みなまで言わせる気かい?」
「……」
そんなこと言われたら、もうやる事は一つしかなく
俺はナズーリンより突き出された、ポッキーの端っこをくわえる。
途端、ナズーリンがもの凄いスピードでポッキーを咀嚼し始め
あっという間に、彼女の顔が目と鼻の先にまで迫ってきた。
「……」
「……」
しかし、そこで終わり
残り一口にも満たないポッキーを、ナズーリンは食べようとせず
ただじっと、俺のことを見つめている。……つまりは、そういう事なのだろう
ナズーリンが考えている事に気が付いた俺は、残っていたポッキーを口に入れる。
すると当然、俺とナズーリンの唇が重なった。
「……」
「……ふふ、よく分かってくれたね。
求めるのは嫌いじゃないが、時には求めて貰いたいからね」
唇を離したナズーリンは、笑みを浮かべながらそう言うと
俺の胸へともたれかかってくる。……そう言う事なら
「なら、もう少しだけ……、君のことを求めてもいいかい?」
「○○……、君は実にバカだな。私が○○を拒む訳ないじゃないか」
こうして俺達は、また一本のポッキーをくわえあうのであった。
新ろだ960
いつもの貧相な風体から一変、目につくのは正月特有の見事な装飾。
新年を迎えたその日、博麗神社はいっそうの喧騒に包まれていた。
境内に集まった人妖は軽く三十以上。いずれも魅力的な少女たちである。
そんな彼女たちが、まだ日も暮れる内から集まって酒盛りをするという習慣。
それは、幻想郷に迷い込み、ようやくこの世界の風習にも馴染んできた○○に立ちはだかった、受け入れるべき最後の――――
――――そして、最大の難関でもあった。
「なんというか、本当に凄いな」
博麗神社、裏庭。縁側にて。
表の喧騒をどこか遠くのことのように感じながら、今日も○○は一人、静かに杯を傾ける。
半年前から博麗神社に世話になっているものの、こうして度々行われる宴会のノリには正直ついていける気がしない。
酒の絡んだ無茶ぶりや、飲み比べなど到底御免だ。
だからいつも、宴会の準備だけは手伝って、本番が始まる頃には、こうして早々に裏方へ引っこんでいる。
元々、酒に対してそこまでの価値を見出せていたわけでもないのだ。
それが例え、新年の迎えを祝う席であったとしても。
「けど、それ以上に人ごみが嫌いってのもあるんだよなぁ」
少しだけ飲んだアルコールが早速回ってきているのか、思わず一人ごちる。
○○は人ごみが嫌いだ。
多くの者が集まれば、それだけ自分の存在は小さく、希薄なものになる。
五人集まれば五分の一、十人集まれば十分の一。
三十人集まれば、三十分の一――――――それだけ小さくなった集団の中の自分という存在に、価値を見出すことができないため。
多くの人間が集まれば集まるほど、自分の長所は塗り潰される。
常に周囲に対し劣等感を感じながら生きてきた○○にとって、その思考は宿命と言えた。
尤も、それこそが○○と周囲の関係を希薄にし、幻想郷に迷い込む羽目になった原因でもあったのだが。
ザッ ザッ ザッ
少しだけ物思いにふけっていると、不意に、表の方から足音が聞こえてきた。
初めは小さかったそれが、だんだんと、大きくなってくる。
こちらに近づいていることを○○が理解したのと、足音の主が姿を現したのはほぼ同時。
「おや、どうやら先客がいたようだ」
暗がりから現れたその姿に、○○は微かに眼を丸くした。
背丈は自分よりはるかに小さく、頭についた耳は丸い。そして両手には、見覚えのあるダウザーでは無く、杯と酒ビンが。
「君は………ナズーリン」
「ふむ。確かにここなら、連中に見つかりそうにもないな」
軽く息を吐いて、酒ビンを置く。
現れたのは、命蓮寺の小さな小さな賢将。ナズーリンだった。
「どうしたのさ。向こうでは、まだ盛り上がっているみたいだけど」
「いつまでも鬼たちのペースで盛り上がってはいられない。少し、休憩だ」
そう答えた彼女の顔は、確かに少し赤い。
眼元もとろりとして、僅かに焦点が定まっていないようにも見える。
ナズーリンはそのまま○○の横に腰を下ろすと、縁側の奥へ仰向けに寝転がった。
「普通、男の前で無防備に寝るような真似は避けるべきだと思うけど」
「あいにく君にそんな勇気があるようには見えないんでね」
「キツイなー……。
そこは嘘でも『信頼してる』とか言っとけば、男の方も簡単にノっかってお互いのためになるのに」
「起こりもしないことに対して保険をかける必要もない。それこそ杞憂というものだよ」
パタン、と音がして、ナズーリンの左手が床に投げ出される。
右手は眼元を隠すように額に乗せたまま。酔った人間の、お馴染みの体勢だ。
「ということで、悪いが場所を借りるよ………」
そう言ったっきり、ナズーリンは静かに口を閉ざした。
○○とナズーリンの会話は、半ば一方的に、そこで途絶えた。
再び静寂が訪れた闇の中。
だが、先程までと違い、○○の心中は穏やかではなかった。
隣で規則正しい呼吸を繰り返す少女。
その存在が、鮮烈に頭に焼きついたまま、離れない。
「(何考えてるんだか)」
ぼやくこともできず、自然と溜め息に変わる。
だが、一人で飲んでいたところを邪魔された割には、不思議と悪い気がしない。
むしろ心地良い。
恐らくその気持ちは、真実なのだろう。
人ごみを避けて皆から距離を取ったが、その裏腹に、誰かがやって来ることを○○は密かに期待していた。
例え誰であっても。
その目的が自分でなかったとしても。
今、こうして誰かが隣にいるということ。
外の世界で異性との交流が乏しかった○○にとっては、それだけで充分満足してしまうものといえたのだ。
そうしてちっぽけな期待が叶った今、今度はそれ以上何をしたら良いのか分からず持て余し気味。
ある意味、ナズーリンが寝入ってしまったのは幸運だった。
「(これは………勇気がない以前の問題だな)」
先程のナズーリンに言われた言葉を反芻する。
どことなくアウトローな気分で裏手に下がっていたが、その動機が酷く不純なものであったことに今更ながら気づく。
きっかけは何ということもない。
不意に現れたネズミの少女の、眠る姿を眺めていただけ。
「(何より、こんなじゃこの娘に失礼だよな………)」
自分の隣に横たわったナズーリン。
彼女が来たのは全くの偶然で、こんな状況になったところでようやく冷めた視点が浮かぶ。
思い返して、再び小さく溜め息を吐いた。
と、そんな折。
「………なぁ○○」
一人悩んでいると、横で寝ていたはずのナズーリンが急に声を掛けてきた。
「さっきからこちらをチラチラ見た挙句に、何度も溜め息を吐かれては、居辛いことこの上ないんだが」
「……悪い」
考えていたことの気まずさも相まって、思わず謝る。
ナズーリンはその様子を静かに見据えていたが、ふと上体を起こして○○に向き直った。
「全く、手は出さなくとも視姦とは………」
「なにを!?」
縁側に倒れていた時とは一変。どこか悪戯っぽい表情になって、ナズーリンが言う。
「違うのかい?
てっきり、酒に火照った少女の体を見て欲情しているのかと」
「違うって!ただ………」
「ただ?何だい、言い訳があるなら聞こうじゃないか」
唐突に、ナズーリンの声の調子が変わる。
先刻浮かんだ考えを払拭できる言葉を探していると、それより先に、ナズーリンが再び口を開いた。
「全く、馬鹿だよ君は。
人恋しいなら表に来れば良い。煩わしいならここにいれば良い。
君は宴会の輪に入るべきなんだ。変な意地を張ってるから、ややこしいことになる」
ナズーリンの一言に、○○は小さく息を呑んだ。
彼女の言葉が、まさしく核心を突いた鋭さを持っていたからだ。
「今回来たのはたまたま私だったが、君にとっては私である必要はなかった。
そう受け止められても、反論の余地はないだろう」
「……悪かったよ」
「ん?自覚していたのかい。ならば予想以上にヘタレだな、君は。
頭でっかちで、見栄っ張りだ。覚えておくと良い、きっと間違いない」
またナズーリンの声音が変わる。
最後の方は何だかひどい言われようだったが、どこか的を得ているため言い返せない。
○○の中に否定しきる要素が見当たらないのが、そのまま答えだ。
「ともかく、だ」
コホンと小さな咳払いが聞こえ、○○の視線がそちらに向く。
「君がいるべきはここじゃない。人気のない場所に二人でいたいなら、自分で連れてくることさ」
「わかったよ。ほんと、よくわかった」
○○の反応にナズーリンはまだ何か言いたそうだったが、黙って頷くことにしたらしい。
「さて。ここでの会話はこれで終わりにしよう。
次は、『神社の裏手で偶然居合わせた誰か』としてでなく、私と君………『ナズーリン』と『○○』として話をしようじゃないか。
その機会が訪れること、期待しても良いんだろう?」
「あぁ、是非。ありがとう、ナズーリン」
ナズーリンは一瞬だけキョトンとした顔を浮かべたが、すぐにまた不敵な笑みを張り直す。
「では、また」
そう言って立ち上がる。手には、再びビンと杯を携えて。
そしてそのまま、来た時と同じように静かな足音を立てて帰っていった。
「……敵わないな」
博麗神社、裏庭。縁側にて。
表から聞こえてくる喧噪に、その呟きは吸い込まれて消えていった。
だが今は、そんなざわめきも耳に入らないほど鮮明だ。
振り返ってみると、終始彼女のペースだった気がする。
彼女にしてみれば、あそこで怒って帰ることだってできたのだ。
「大分、気をつかわせたかな」
やはり小さなナリをしていても、自分よりはるかに長生きしているのだと思う。
しかし。
「にしても、ヘタレは無いわ………」
コロコロ変わる彼女の口調を思い出す。
彼女に応えること、そして見返すこと。
いずれにしてもこのままでは終われない。
そう感じて、○○は誓いと共に拳を固く握ったのだった。
「ナズーリン、お帰りなさい。どこへ行っていたのですか」
「なに、少し酔いを醒ましてきただけだよ」
「そうですか。……それにしては、随分楽しそうに見えますが」
「そうかい? いや、ご主人もなかなか鋭いじゃないか」
「貴方がそんな顔をする時は――――何か、良いものでも見つけてきましたね」
「良いかどうかは、まだわからないけれどね。そうなるよう、働きかけたつもりさ。
そんなことよりご主人、今年は貴方が主役の年だろう? さあ、挨拶巡りに行こうじゃないか」
「あ、待って下さいナズーリン。ちょっとテンション高いですよ―――――」
多くのドラマが織りなされる、元旦の夜の一節。
それは後に、○○が大きな転機を迎えるきっかけとなる、賑やかな神社の裏で起きた、静かで小さな出来事だった。
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人が変わるきっかけなんて、得てしてそんな些細なこと。
最終更新:2010年08月14日 22:25