小傘1



新ろだ364



「ああ?驚かす方法?」

彼女は時たま俺の家に来る

「……そうだな……この際出会い頭にキスするとか?
 まぁ、驚かせるっても別の意味だけどな
 そもそもパッと見、新鮮さっていうか禍々しさがないっていうか」

こんなやり取りもいつものことで

「見た目が女の子っていうか、かわいいからさ
 なんていうか「妖怪を見たー」って感じが……って痛いから!! 叩くな!!」

こういう風にからかうのもいつものこと

「うん、落ち着いた? OK?
 だからやっぱり行動で驚かすしかないと思うんだけどね」

でも今日は彼女は少し積極的で



ちゅっ……

「え……」



まんまと驚かされてしまったわけだ

でも、こんな経験をするのは俺一人で十分だろう?

この方法を使うのは俺以外には辞めといたほうがいいって説き伏せることにしよう

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新ろだ367


 ある日おれは夜道を歩いていた。あたりに人影は見当たらず、閑散としていた。
 怖いのはあまり得意ではないので、少々急ぎ足になっていた。だからだろう。彼女に目をつけられたのは。
「う~ら~め~し~」
「ひっ…」
 な…なんか聞こえる。思わず駆け足になる。なんだなんだ?!このあたりにはだれもいないはずだぞ。
 おい、まさか。勘弁してくれよ。おれは妖怪だとかお化けとかの類は苦手なんだ。
「やーーーーっ!!」
「うわあああああああああああ!」
 どこかからの叫び声に思わず尻もちをついてしまった。次にぞぞっと背中に冷たい感触が走った。触れてみると背中全体にべったりとおかしな粘液が付着していた。
「ひ…ひぃぃぃっ」
 思わずうずくまる。くそぅ!おれがいったい何したってんだ。
「くるなーーあっちいけーーーー」
 近くに落ちていた木の棒を無我夢中でふりまわす。
「あ、あの~」
 不意に声が聞こえた。女の子?
「もしかしてびっくりしてる?」
 当たり前だろ。こんな夜中にいきなり叫びやがって。お前が犯人か!幽霊か?妖怪か??ひょっとして俺を食べるつもりなのか!?勘弁してくれよおおおぉ!
 …いやまて、もし妖怪だったとしても今聞こえた声から察すると、相手は少女。女の子の妖怪なのかもしれない。おれなんかでもあっさり退治できるんじゃないか?
 そうだとも。おれは平均的な一般男子程度の運動能力はある。小さな女の子の妖怪程度に食べられるわけがない。妖怪退治は人間の役目だ!
 そうだ、そうだとすれば怖くないぞ!ちょっとビビったけどもうお前なんか怖くないぞ!
 勇気を振り絞ってゆっくりと顔を上げる。

「うっ…うっ…ぐす」
 やはりそこにいたのは女の子だった。…のだが
「えっと、泣いてる?」
「…うん」
 目の前にいた大きな傘をさした少女は、眼尻に涙を浮かべていた。拍子抜けだ。どういうことだ?泣きたいのはこっちだって言うのに。
「久しぶりに…驚いてくれる人がいて…うれしいの」
「驚いて…?」
 聞くところによると、彼女はからかさお化けというお化けらしく、人間を驚かせる程度の能力を持っているというのに最近の人間は驚いてくれないという。たまに驚いてくれる人はいてもおれほど盛大にずっこけたのは数年ぶりだとか…。ちなみにさっきの背中の粘液は持っている大きな傘の舌でベロリ、だそうだ。
「ほんとうにありがとう」
「尻もちついて感謝されるとは、うれしくも何ともねぇ…」
 おれは起き上がって、彼女と近くの岩の医師に座り込んだ。よく見ればかわいい女の子じゃあないか。
「あ、おれの名前は○○。あんたは?」
「私は小傘。」
 彼女はもうニコッとわらった。か、かわいい。小傘ちゃんか。妖怪にもこんなにかわいい子がいるのか。びっくりだ。
 とたんに彼女に興味が出てきた。ちょっといたずらしてやろうか。
「でもま、小傘ちゃんが人を驚かせないのは仕方ないんじゃないかな?怖くもなんともないし」
「○○さんひどい。自分はあんな驚いてたくせに」
 食いついてきたな。怒った顔もかわいいなぁ。きっと照れた顔もかわいいんだろうな。よ~し、
「だってさ、そんなにかわいかったら何されてもいいって思うもん」
「っ!!な、何言ってるんですかぁ」
 小傘ちゃんの顔が一気に赤くなる。はは、予想以上だ。すると小傘ちゃんはいきなり立ち上がった。
「もう○○さんなんて知りません!」
 そのままどこかへ飛び去って行って。ちょっとやりすぎたかな?
「残念だったな…また明日もこの道から帰ろうかな」
 妖怪も捨てたもんじゃないな。

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新ろだ369


 小傘との馴れ初め?
 ああ、あれはいつのことだったっけな……

 雨上がり、俺は神社から帰る途中でした
 そこで彼女と出会ったんです
 はじめて見た感想は、そうですね……変な妖怪だな……ですかね
 ひどいとか言わないでください、あの傘ですよ?初対面なんだからね?
 まあ、少しくらいは警戒しつつ彼女のそばを通り過ぎようとしたら、喋りかけられたんです


「うらめしやー」
「……」
「ちょっとちょっと、少しくらい反応してくれてもいいじゃない」
「……どんな?」
「え、そ、そりゃあ驚くとか」
「何に?」
「私?」
「へぇ」

 そこらへんあたりで急に顔を真っ赤にして飛び去ったんです
 後で聞いたら、盛大にスベったことっていうか俺が一切驚かなかったこととかに恥ずかしいやら腹が立つやらで
 逃げ出しちゃったんですって
 それがファーストコンタクトですね
 まあ、セカンドコンタクトは次の日でしたが……



 次の日も神社に行った帰りですよ
 つけられてるのに気が付いたのは、石段おりてしばらくしたらですね
 なんか足音がするんで振り返ったら木陰に隠れる何かとその木の影からでっかい赤い舌が見えてたんです
 昨日の今日ですからね、すぐに尾行者の正体に気付きました
 そこでつい悪戯心をだして茂みに隠れてみました
 そしたら小傘は道の先にさっきまでいた俺がいなくて見失ったーって焦って走って来たんですよ
 それから
「わぁ!!」
 とばかり脅かしてみたらこれがまた
 こっちが驚くくらいのオーバーアクションで驚いたんですよ
 いやぁ、かわいかった、うん

 そのあと落ち着いた小傘から事情を聞いたんですよ
 それでまぁ、少しかわいそうだなと思って
 驚かそうとして、結局こっちが驚かしちゃったし
 謝ってその日は分かれました

 んで、次の日、仕事から帰ってくると家の前に小傘がいたんですよ
 どうやってうちを調べたんだかわかりませんでしたが、家の前で立ち話もなんだしお茶でも入れると……
 いやいや、連れ込んだとか言わんでください
 それで何話したかって?人間の脅かし方とかそういう他愛のない話ですね、それである程度話したあと




「ありがとう、参考になった」
「おー、まぁ俺でよければいつでも話し相手になるよ」




 その日からですね、度々小傘が俺の家に来るようになったのは
 んで、話し相手になったり
 気が向いたら、一緒に外で通行人を驚かせようとしてみたり……

 ええ、そうです、そんな大それたことをしようってんじゃありません
 ただ、小傘と一緒にいると楽しいんですよ
 驚かそうといろいろ頑張ってる小傘を見るのがすきというか……
 ええ、それだけです








 ーーーーーーあとがきーーーーーー

 あまりにもかわいかったので書いた

 なんだろう、初めてこんな長さの書いたから変かも知れぬ
 っていうか嫁が喋るの書くの苦手っていうか

 あまりにもかわいかったので書いた

 だから少し、読みにくいかもしれなかったけど
 推敲はした一応たぶんきっと

 あ ま り に も か わ い か っ た の で 書 い た

 この先4~6+EXで話題掻っ攫っていくような娘が出てきても
 小傘LOVEを貫いていきたい所存でございます

 あ ま り に も か わ い か っ た の で 書 い た

 これ以上書くとネガティブ加速しそうなので
 これにて

 あ  ま  り  に  も  か  わ  い  か  っ  た  の  で  書  い  た

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新ろだ373,403


 ある夕立の日のことだった。
 配達の帰り、運悪く雨に降られた俺は、木の下で雨宿りを余儀なくされていた。
 三十分を過ぎても降り止む気配は未だ感じられず、木の葉の隙間から雫が零れ始め、俺の体を濡らし始めていた。
 頭に落ちる雫に辟易としていると、背後に妙な気配が現れた。
 その気配は俺の前に踊り出て、こう言った。

「うらめしや~」
「……」
「う、うらめしや~」
「……うふふふふふふふふ……」
「え?」
「うふふふふふあはははははははキャーハハハハハハハハハハハ!」
「きゃー!」
「妖怪の方が驚いてどうする!」
「はっ!しまった」
「…で、何か用?」
「うう、もういい…」
「あーちょっと待った」
「なに?」
「その傘に入れてくんない?」
「……え?」
「いや、この雨じゃ帰れないからさ。
 丁度いいことに、目の前に唐傘おばけが出てきたんだ。
 これを使わない手は無いだろう?」
「……使って、くれるんだ?」
「?傘は使ってナンボだろうに」
「……うん、いいよ。
 人里まででいい?」
「ああ、助かるよ」

 これが俺と小傘の出会いだった。








 俺は里の薬局で薬売りをしている。
 前任者が結婚して、竹林の永遠亭に住むことになった為、その後を引き継いだ形だ。
 基本的には只の店番、月に何度かは遠方の御得意様に薬を届ける。
 まあ、そんな生活だ。

 今日は店番の日。
 とはいっても薬なんてそうそう売れるわけじゃない。
 ならば暇かというとそうでもない。
 何しろ入浴剤や化粧品、カレー粉など薬品や漢方を用いた物全般を扱う為、むしろ毎日忙しいぐらいだ。
 アロマオイルや香なども置いてあり、客は女性が多い。

「こんにちは、○○さん!」
「いらっしゃい、早苗ちゃん。
 今日はカレー粉かい?」
「はい、神奈子様が金曜日はカレーじゃないと調子が出ないと言うので…」
「まるで自衛隊だなぁ。
 はい、スペシャルブレンドでいいんだよね?」
「ありがとうございます。
 と、ところで○○さん、こ、今度の日曜なんですけど…」

 勝手の方から誰かが入ってきた。
 どうやら帰ったみたいだな。

「ただいま○○ー。
 紅魔館への配達終わり~」
「ご苦労様、小傘」
「あっ、いつぞやのナスビ傘!」
「あっ、いつぞやの口の悪い巫女!」
「なんだ、知り合いだったのか、二人とも」
「○○さん、何でこの子がここに!?」
「ああ、ちょっと縁があって、今はここを手伝ってもらってるんだ、住み込みで」
「す、住み込み!?
 一つ屋根の下で!?
 若い男と女が!?」
「いや別にそんな関係じゃ…」
「……!
 ふふふ、驚いた?
 私と○○はらぶらぶちゅっちゅな関係なの」

 小傘が俺の背中を抱きしめて、そう言った。
 ……やわらかい……って何考えてる俺。

「おい小傘……って、早苗ちゃん?
 何か蛇と蛙のオーラが見えるんですけど?」
「……ある先輩は言っていました。
 妖怪は、退治する物だと!」
「ひっ!」
「待ちなさいナスビ!」
「いやー!本気で殺されるー!」
「おーい……行っちゃったよ二人とも……」

 結局、ボロボロになった小傘が帰ってきたのは二時間ほどしてからだった。


「あんまり無茶すんなよ?
 傘まで涙目になってるぞ」
「うう、驚かせた代償は大きかったわ…」
「ほら、傘は俺が修理しとくから、お前は風呂入って来い。
 体中泥まみれになってるぞ」
「うん……○○は……」
「ん?」
「○○は、捨てないよね?」
「言うことちゃんと聞く、良い子ならな」
「……えいっ」

 ちゅっ

「!ば、な、何すんだよ!」
「ふふふ、驚いた驚いた!」
「あーもうとっとと風呂行け!」
「はーい!」

 とてとてと小傘は風呂場に走って行った。

「……なまじ可愛いんだから、そういう驚かせ方は勘弁だぜ……」

 唇に残る感触を忘れる為に、俺は夕食の支度に取り掛かることにした。
 だが、夕食の支度が終わった頃、バスタオル一枚で出てくる小傘に再び驚かされることになるとは、この時は思いもしなかったのである。

―――

 今は三月だ。
 それは間違いない。

 目の前は何色だ?
 白だ。

 空から降り続くこれは何だ?
 雪だ。


「ほんとに三月なのか、今は…」
「よく降るねぇ。
 今日は博麗神社と地霊殿だったよね?」
「ああ…まあ、地霊殿はお燐ちゃんが薬を取りに来るから直接は行かないけどな。
 しかし寒い……ついでに温泉、入ってくるか」
「温泉かぁ。
 ……椅子にこんにゃく……髪を洗ってるところで背中に雪……」
「いきなり驚かせる算段を始めるな」
「それが私の存在意義!」
「そりゃ迷惑なこって…」


 今日は薬の配達の日だったのだが、あまりにも雪が酷い。
 とはいえ、仕事は仕事。
 行かないという選択肢はないわけで。


「よし、今日は神社に泊まるぞ。
 明日は晴れらしいし、今日この雪の中帰るはのめんどくさい」 
「新婚旅行ね、あなた♪」
「ば、な、何言ってる!」
「ふふっ、○○はこの手の話で一番驚くねぇ」
「うぐぐぐ…。
 とりあえず、泊まりの準備な。
 風呂道具と着替え、あ、あと適当に食材持っていくか。
 確か先輩がこないだ持ってきた豚肉の塩漬けが…」
「あとゴムと精力剤と…」
「な、何考えてんだお前はっ!」
「あはは、驚いてる驚いてる。
 冗談冗談、若いからゴムだけでいいよね?」
「全部いらんっ!」
「でも、まだ子供は早くない?」
「……」
「あら、驚かなくなっちゃった」
「なんかもう、どうでもよくなったわ」
「やりすぎちゃったかぁ、失敗失敗」


 最近、小傘はこっち方面で驚かせてくる。
 妖怪としてそれでいいのか?と聞いたら、別に驚いてもらえれば良いらしい。
 割りと慣れたとはいえ、正直な話、結構ドキドキするので勘弁して欲しい……。


「よし行くか。
 小傘、頼むぞ」
「はいはい、おまかせー」

 小傘の持つ傘が、二人入っても余裕のあるサイズに広がり、ふよふよと浮かぶ。
 さすがに俺と一緒だと捕まって飛ぶのは少し無理だそうだが、手を使わずに歩けるのは便利だ。

「やっぱ便利だな、これ。
 最初っからこんだけ高性能なら、誰も捨てないのにな」
「……色で捨てられてた気がするなぁ……」
「むう、結構面白いけどなぁ、ナスビ傘」
「ナスビって言うなー!」
「はは、ごめんごめん」

 そんな話をしながら、博麗神社へと向かう。
 里の外に出て少ししたあたりで、後ろからサクッという、雪を踏む音が聞こえた。
 誰か着陸したみたいだ。

「やっぱり○○さんだ。
 こんにちは」
「や、早苗ちゃん。
 こんな雪の日に用事かい?」
「え、あっと、その、ふうき味噌作ったので○○さんに差し入れに……。
 ○○さんは?」
「ああ、これから博麗神社と地霊殿に薬の配達だよ」
「ついでに新婚旅行!」
「それはもういいから」
「し、新婚!?」
「あー、いつもの冗談だ、無視しといて」
「そ、そうですよね!
 妖怪と結婚なんてないですよね!」
「でも今日は御泊りだけどねぇ」
「お、御泊り!?
 二人で!?」
「というか、流石にこの雪で帰りはめんどくさいしね。
 温泉に入って、今日はのんびりする予定。
 明日は休みだしね」
「そうですか…温泉……」
「温泉……○○と混浴……」

 いつの間にか早苗ちゃんの横で、何やら小傘が囁いている。
 何やってんだか。

「や、そ、それはまだ早いです……ってこのナスビ~!」
「ふふふ、そんな貴方に心のモヤモヤ解決法!」
「な、何ですか?」
「一緒に泊まれば万事解決!」
「なるほど!」




「というわけで今日は泊めてくれ」
「うちは温泉旅館じゃないんだけど」
「そりゃ残念だ、先輩から貰った塩漬け豚肉他ポトフの材料一式は持ち帰るか」
「手土産があるんならいいわよ。
 ま、サービスは期待しないでね。
 ところで…早苗も?」
「ええ、御世話になります。
 はい、ふうきみそ」
「いやまぁ、そういうのはもう別にいいんだけど。
 あんた着替えとか持ってなさそうだけど?」
「後で分社使って持って来てもらいます」
「神を何に使ってんのよ、あんたは」
「今回は特別です。
 神奈子様、諏訪子様もきっと喜んで持ってきてくれますよ」
「あー…そういうこと。
 で、部屋だけど…」
「三人一部屋、布団は一つでよろしく~」
「小傘、それは狭い」
「そういう問題じゃないでしょ。
 うちは連れ込み宿でもないわよ」
「ま、適当に頼むわ」
「はいはい。
 そうそう、黒猫なら炬燵で丸くなってるわよ」
「あ、もう来てたのか」


 食材の入った籠を霊夢に渡し、炬燵のある部屋に向かう。
 小傘には着替えなどを部屋に運んでおいてもらうことにした。
 早苗ちゃんは、分社で連絡を取りに行った。


 炬燵部屋のふすまを開けると、赤毛の黒猫が丸まっていた。

「お待たせ、お燐ちゃん」
「おお、待ってたよ、お兄さん…」
「あらら、すっかり丸まっちゃってるな」
「よりにもよって、お使いの日にこんな大雪なんてねぇ…」
「いつもは暖かい所に住んでるから尚更だね。
 まあ、後で霊夢がポトフ作るだろうから、それ食って暖まっていきなよ」
「それは楽しみだね、と言いたいところだけど…あたいは猫舌なのよね、当然ながら」
「そういや猫だったな…」
「うー、人型だと背中が寒い…。
 お兄さんの膝の上、いいかい?」
「ああ、どうぞ」

 そう言うと、お燐ちゃんは猫型に戻り、俺の膝の上に乗っかってきた。
 黒猫の背中を優しく撫でてやると、目を細めて寝息を立て始めた。
 うん、猫はいいものだ。

 それから少しして、小傘が荷物を片付けて戻ってきた。

「荷物置いてきたよ、温泉温泉!」
「テンション高いな…まあ少し待て。
 今寝たところなんだ」
「猫…じゃなくて猫又?
 でもないな…火車?」
「良く判ったな、やっぱ妖怪同士だからか」
「まあね~」

 部屋の襖が開いた。
 早苗ちゃんもお泊り道具一式を持ってきて貰ったようだ。
 ……にしては妙に早い?

「早苗ちゃん、随分早かったね?」
「ええ、分社で荷物を受け取りましたので」
「……滅茶苦茶便利だね」
「ふふふ、今日は特別なんですけどね」
「○○と一緒にお泊りだから?」
「ええ、押し倒してでも○○さんをうちに連れて来いと神奈子様と諏訪子様が」
「え、ちょ!?」
「いや、冗談ですよ?」
「ううっ、私のどんないたずらよりも驚いてる……」
「……早苗ちゃん、そんなキャラだっけ?」
「たまにはいいじゃないですか。
 あら、猫…じゃないですね。
 もしかして地霊殿からのお使いって、この子ですか?」

 寝ているお燐ちゃんを見つけて、早苗ちゃんが聞いてきた。

「うん、今は寝ちゃってるけどね」
「ほんと、気持ちよさそうに…って、この姿で薬を持って帰るんですか?」
「いや、当然違うけど…」

 その時、丁度お燐ちゃんが目を覚ました。
 と、同時に人型になっている。
 俺の膝の上で。

「にゅ…おにーさん…」
「おはよう、お燐ちゃん」
「みゅ…」
「ってまた寝るな!しかも人型で!」

 人の膝の上で人型になった上に、寝ぼけて抱きついて、そのまま二度寝しようとしている。
 やれやれ、橙ちゃんといい、猫系の子はいつもこうだ。
 ……何やら殺気のようなものが、肌に突き刺さる。
 横には顔を真っ赤にした早苗ちゃんが居た。
 しかもなんか怒りが有頂天っぽいんですが!?

「……○○さんから離れなさいこの泥棒猫ーーーーーーーーーーーーー!」
「にゃにゃー!?」
「ちょ落ち着いて早苗ちゃん!
 やめて破裂するカエルショットやめて!」


 満身創痍!
 ……までには至らなかったものの、体が痛い。
 お燐ちゃんは慌てて薬を抱えて帰ってしまった。

「ごめんなさいっ!」
「…まあもういいけど」
「○○の好感度が3下がった!」
「ううっ、選択肢を間違えました…」
「まぁまぁ、ここは一つ温泉で全部水に流そうよ?」
「そうしよう…ここのは打ち身にも効くしな」
「…!ま、○○さん、お詫びにお背中流します!」
「全裸で」
「「言うと思った」いました」
「(´・ω・`)カサーン」


 その後、早苗ちゃんの申し出を丁重にお断りし、温泉へと向かった。

「ふー、いい湯だ…」

 こっそり持ち込んだふうきみそを舐め、日本酒を飲みながら、舞い落ちる雪を眺める。
 これぞ温泉だな。

 隣から話し声がする。
 二人も温泉に来たようだ。

「温泉に入るのは初めてなのよねぇ…」
「そういえば、他には温泉が無いみたいですね、幻想郷には」
「うんうん、日本なんて、どこを掘っても温泉だらけだろうにねぇ」
「うちの神社にも欲しいですね…そうすれば一泊二日参拝ツアーで信仰も…」
「ところで早苗、おっきぃねぇ~」
「きゃっ!
 い、いきなりどこ触ってるんですか!」
「よいではないかよいではないか~」
「あ、ちょ、やめ…」
「○○~早苗はCだよ~」
「なっ!何言ってるんですか!」

「バカなことやってんじゃないぞー」

 …Cか、ふむ…なかなか…。

「もうっ!やめなさいっ!」
「ふっふっふ、だがしかし、○○は興味を持ったみたいよ?」
「……!○○さんっ!私はDですからねっ!」

「ぶはっ!」

 不意打ちを喰らって、含んでいた酒を盛大に噴出してしまった。
 ……でかいのね。

「ううっ、またしても私の時よりも驚いてる…妬ましい…」
「それは二ボス違いです。
 …にしても、あなたは無いですね」
「え?」
「ぎりぎりAですかね、これは」
「でも、○○はぺったん胸の方が好きなんだよね」
「えっ!?」

「おーい、適当なこと言うな~」

 ぺったんの方が好きなんじゃない、ぺったんも好きなだけだ。

「ほ、ほら嘘じゃないですか!」
「ふっふっふ、あなたが驚くと、私はうれしい」
「~~!」
「まぁまぁ、のんびりと温泉を楽しみましょうよ」
「くっ…」
「あ、この温泉、奥でつながってない?」
「またそんな嘘を…って、あら?」

「え…?」

 奥のほうに目をやると、確かに仕切りが無い。
 とはいえ、流石に合流する気は無いが。

「○○~、そっち行くよ~」
「ちょ、何考えてるんですか!」
「いい機会だし、たゆんとぺったん、どっちが良いか確認してもらうのはどうかしら?」
「な、何を言ってるんですか!」

「お先~」

 小傘なら本気でやりかねないので逃げることにした。
 前かがみで。



 温泉から上がると、丁度食事の用意が出来ていた。
 炬燵の上には、小型のコンロとポトフの入った鍋がある。
 美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
 と、同時にお腹も鳴った。

「おお、いい匂い…」
「美味しく出来てるわよ。
 …あの二人、喧嘩してなかった?」
「んー、戯れてたみたいだが」
「へぇ…」

 二人も戻ってきて、炬燵に入ってポトフとワイン。
 しかも神社で。
 ある意味日本らしいと言えば日本らしいが。

「んー、美味い」
「美味しいですねぇ」
「これは美味しいねぇ」
「素材が良いからね」
「いや、煮え加減も丁度良いよ、まさに食べごろで」
「はいはい、誉めても何にも出ないわよ」

 口ではそういいつつも、霊夢の顔は少しほころんでいた。



「旦那様、ワインはいかがですか?」

 小傘がワインを勧めてくる。
 なかなか美味しい白ワインだ。
 大方、レミリアちゃんあたりが置いていったんだろうな。

「うむ、貰おうか」
「だ、旦那様!?
 しかも平然と受け入れてる?」
「ああ、いつものことすぎて慣れただけ」
「うーん…旦那様もマスターもお兄様もあなたもダーリンも通用しなくなったのよねぇ…」
「はぁ。
 ……それじゃあご主人様、あーん」
「ぶほっ!」

 早苗ちゃんにいきなり『あーん』を要求されて、また酒を吹いてしまった。
 ほんとこの子は油断ならないな…。

「ううっ、またしても負けた…」
「ごほっ…変な勝負すんな…ごほごほっ…」
「ご、ごめんなさい、つい…」
「あんたら、イチャつくのも大概にしてよね…ほら布巾」

 霊夢から布巾を受け取り、吹いたワインを拭う。
 直前に手で抑えたので被害は最小限で済んでいた。



 そんなこんなで食事も終り、寝るまで適当にグダグダする。

「ロン!」
「ぎゃー!」
「えーと、リーチ、トイトイ、三暗刻、翻牌二、ドラ六…三倍満、三万六千点ねぇ」
「これで○○のトビ…流石は奇跡を起こす程度の能力ね」
「ごめんなさい、○○さん。
 まあ、それはそれとして、お茶とお菓子お願いしますね」
「くっ…三万二千点あったのに一発で飛ぶとは…」

 台所にお茶と茶菓子を取りに行く為に立ち上がる。

「あれ?早苗は一緒に行かないの?」
「えっ……そうですね。
 ○○さん、私も一緒に行きます」
「いや、負けた奴の仕事だからゆっくり待っててよ」
「好きで付いていくだけですから、気にしないで下さい」
「…じゃあ、行こうか」
「はい!」

 早苗ちゃんと一緒に台所に向かう。
 気のせいでなければ、早苗ちゃんは少し嬉しそうにも見えた。
 ……やっぱり、そうなんだろうな。





「あんた、早苗をけしかけてどうするのよ?」
「戻ってきたところをからかうけど?」
「妖怪退治を仕事にしてる私が言うのも何だけど…あの二人がくっついたら、あんた捨てられるわよ?」
「え…?」
「そりゃそうでしょう?
 あんたはただの傘じゃなくて妖怪、しかも女の子じゃない。
 あの二人が一緒になったら、一緒に居られるはずないでしょ」
「……捨てられる……また……?」
「てっきり、あんたは○○が好きなんだと思ってたんだけど」
「好き……私を進んで使ってくれる、優しい人。
 でもそれは……私が便利だから……」
「私だったら、それだけで悪戯娘を手元に置かないわね。
 ○○も悪からず思ってるんじゃないかしら?」
「……はっ、何で私をけしかけてるの!?」
「何でかしらね。
 まあ多分、気まぐれよ、気まぐれ」
「……」





 真冬並に寒い廊下を歩き、台所へ向かう。
 吐く息も白く、今が三月であることを忘れそうだ。

「う~寒い…早苗ちゃん、大丈夫」
「大丈夫です…って言いたいけれど、やっぱり寒いですね」
「早いところ済ませようか」
「はい…あ…あの…○○さん…腕を組んでもいいですか…?」
「え、あ、う、うん、寒いし、そうしようか」

 早苗ちゃんから腕を絡めてくる。
 柔らかな感触と人の温もりが伝わってくる。
 身体を寄せ合い歩く廊下は、思いのほか短く感じた。



 炬燵のある部屋の前まで戻ってきた。
 さすがにここで腕は離した。
 早苗ちゃんの方を見ると、優しい笑顔で俺を見ていた。
 何やら気恥ずかしくなって、部屋の襖を開ける時に少し力が入ってしまった。

「お待たせしました」
「ご苦労様。
 でも、襖はもうちょっと静かに開けてよね」
「悪い悪い、寒くて加減が効かなかったんだ」
「……」

 小傘が俯いたまま、全く反応していない。
 何かあったのだろうか……。

「ん?どうした小傘?」
「……○○……」
「なんだ、もう眠くなったか?
 霊夢、そろそろ布団を…」
「○○!好きですっ!」
「ええええっ!」
「いやもう通用しないって、そういうの…」
「違うわ、本気なの。
 私は○○が好き。
 これからも、ずっと私と一緒に居て欲しいの!
 私のこと、使って欲しいの!」
「小傘…」
「待って!
 ○○さん、私も○○さんが好きです!
 でなきゃ私から腕なんて組みません!
 初めて会った日からずっと、○○さんが好きなんです!」
「さ、早苗ちゃん…」
「それで、あんたはどっちを選ぶの?」
「……すぐには返事できないよ、流石に……」
「それじゃあ、こういうのはどうでしょう。
 私と小傘、二人としばらく付き合って、それで決めてください」
「私もそれでいいよ。
 ……絶対に、私を選ばせて見せる。
 早苗には特別驚いてもらうから」
「えーと…」
「諦めなさい○○。
 この二人は本気よ?」

 真剣な眼差しで見つめてくる二人。
 既に他に道は無い……。

「わかった、そうしよう。
 でも、どっちを選んでも恨みっこ無しで頼むよ」
「駄目だったときはすっぱり諦めます」
「うん、恨めしく思ったりしないわ。
 …それじゃあ、第一ラウンドね」
「え?」
「夜伽勝負!」
「「「いきなりクライマックスかよ!!」」」
「ふふ、流石に冗談よ。
 それじゃあ、今日はおやすみ、○○」
「あ、ああ、お休み」
「……私も今日はこれで……おやすみなさい、○○さん」
「お休み、早苗ちゃん」

 部屋を出た二人の足音が遠ざかる。
 二人は特に喧嘩することもなく、寝室へ向かったようだ。

「……で、霊夢」
「何?」
「小傘を焚き付けたな?」
「遅かれ早かれ、同じ状況になってるわよ。
 後はあんた次第よ」
「はぁ…まさかこんなことになるとはな……」
「いいじゃない、モテモテで。
 大体、どっちでも不満無いでしょ、あんた」
「う、ま、まぁ、な…」
「大変かもしれないけど、きっちり見極めなさい。
 こう言っちゃなんだけど、どっちも普通ではないんだから」
「ああ、分かってる…」
「ならいいわ。
 さてと、お茶飲んで寝ましょうか」
「そうだな、折角持ってきたのに飲まないのも何だしな」

 その後は無言で茶を啜り、そのまま寝ることになった。





 成り行きとはいえ、大変なことになってしまった。
 早苗ちゃんと小傘のどちらかを選べ……。
 小傘は悪戯も多いが、仕事は案外真面目にこなすし、明るくて元気な姿は見ていて楽しい。
 早苗ちゃんは真面目な子で、時にそれが空回りすることもあるが、それが逆に可愛い。
 ちなみに、スタイルはどっちも良い。
 胸が大きいか小さいかぐらいなものだ。
 ……そう、俺の中でも決着を付けるのはとても難しい。
 だが、決着を付けるのは男としてのけじめだ。
 結論はこれから見つけていかなくてはならない。
 二人の女の子と付き合うという、公認二股の中で……。


新ろだ515


 仕事から帰ると、家の明かりがついていた
 誰が来ているのだろうかと思いながらも家に入ると玄関には下駄と茄子のような傘があった

 この下駄はともかく傘は少なくとも最近よく来る妖怪、小傘のものだろう
 帰ってきたのが音でわかったのか奥から板間をペタペタと裸足で歩く音が聞こえ
 姿を見せたのはやはり小傘だった

「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
「えーっと、ご飯にします?それともお風呂?それとも……」

 彼女は妖怪で、人間を驚かそうと日々試行錯誤している

「わ・た・し?」

 一応人間に害を与えようとしているという方向性はあれど
 真っすぐな彼女を好いてしまったのは事実で
 驚くときはしっかり驚いてやりたいと思っている
 が、たまには返してやりたくなるのも事実

 俺は彼女を抱き寄せ耳元で
「それじゃあ、今日は小傘をフルコースでいただいちゃおうか」
 と言ってやる

 すると小傘はボンッ!!と音を立てそうなほど真っ赤になってうつむいてしまった

 いや、俺が優勢なのは第一ラウンドの最初ぐらいで
 なんかスイッチ入ったあとの小傘はスタミナとかゲフンとかでその後はずっとゲフンゲフン(経験済み)なんだから
 そこまで真っ赤にならなくともいいと思うのだがそれは間違いなのだろうか

 そんな突っ込みをしたら益々真っ赤になるんだろうなと思いながらも
「冗談だよ」
 と言ってやり、解放してやったら
 それでも小傘は益々真っ赤になってしまった

 やれやれと思いながら夕食を作るために台所へ向かう






「それじゃあ、行ってくるわ」
「気を付けて、退治されない程度に頑張れ」
「……うん」

 夕食を終えると小傘は出かけていった
 大方適当に出歩いている人間でも驚かしにいくのだろう、彼女に驚かされる人間もそうそういないだろうがこれでも一応応援している

 さて、俺は俺で何をしようか……







 夜も遅くなってきて、そろそろ寝ようかと読んでいた本を置き布団を敷くと玄関の方で音がした
 行ってみると小傘がいていきなり抱きついてきた

「どうした?大失敗でもしたか、初対面の時みたいに」
「ううん、今日は大成功。久し振りにお腹いっぱいよ、精神的な意味で」
「それはよかったな」


 さて、こんな時間までいるのだからおそらく今日は家に泊まるのであろうともう一組布団を敷こうとすると
 すでに敷いてある布団に押し倒された

「布団敷けないんだが……」
「ふふふ……今日は一組でいいじゃない、○○からももらいたいし」

 ……なんか変なスイッチ入ってないか?

「っ……お腹いっぱいなんじゃないのか」
「おいしいものは別腹よ、それに○○も私がいいって」
「……それはあれだ、その……」
「まあ、どうでもいいわ。抵抗したければどうぞ」




 無理
 あー……





(省略されました続きが読みたければ、続きを読むことを完全にあきらめてください)





ーーーーあとがきーーーー

どうしてこうなった?
なにかな、なにかなー今週は……これ!!
もう俺の頭がオブジイヤー
おれはいったいなーにをやってるんだ
自分の文章力に泣く日々、ねがてぶ
さでずむな小傘もいいと思うんだ
誤字があったら大体何行目か教えてくれたら探します
ネタバレ配慮もいまさら観をもってますがまぁそれはそれ


新ろだ765



小傘「わぁ~、ここが外の世界かぁ」
○○「ああ…久しぶりだな、もうかれこれ10ヶ月くらいになるのか」

10ヶ月、自分が幻想入りしてもうそれぐらいになる。
その間、本当に色々なことがあり、自分は幻想郷に住むことになった。
その色々はおいておくとして…自分はなぜかこの傘の妖怪、小傘に懐かれてしまった。

思えば妙な配色の傘を拾って、それが実は妖怪だとわかって思い切り驚いて以来、
何かと驚かそうとしてくるのだ。基本的に小心者の自分は、その度に驚いていて…
どうやらそれが気に入られたらしい。
何でも、彼女のような妖怪にとって、人間の恐怖や悲しみといった感情は食料なのだとか。

小傘「さてさて、外には○○みたいな人間はどのくらい居るのかしら?」
○○「怖がりって言う意味でなら、そう居ないと思う…」
小傘「何と、わちきに言ったあの言葉は嘘だったのかえ?」
○○「いや、『外は人間で一杯だから、もしかしたら怖がる人間も居るかも』って言っただけで…」

そんな彼女と、自分は今外の世界…つまり自分が元居たところに帰って来ていた。
10月は外界へ旅行が許される、というのだ。…ただしカップルのみという条件付で。
そして、自分はそれを利用して、里帰りをしようと思ったのだが、生憎相手が居ない。
そこで、何かとちょっかいをかけてくる小傘に相手を頼み、こうして外の世界に来ているのだった。
何かと驚かされて、食料を供給しているのだ。コレくらいしてくれても良いだろう。

小傘「それで、どこに向かってるわけ? 観光地ってわけでもなさそうだけど」
○○「自分の家。親にもずいぶん顔見せてないし」
小傘「へ~、あなたの? よし、親子揃って驚かせてやろうかしら」
○○「スキマ妖怪から、目立つ行動はするなっ言われただろうに…」

そして今、曇り空の下、都心から離れたベッドタウン…そこにある一軒家を自分は目指していた。
生まれ育った自分の家、突如消息不明になって、両親は心配しているだろう。
大学は休学だろうか? きちんと退学届けを出さなければ…
小傘のことは何と説明しよう? …いっそ傘立てにでも立っててもらおうか。
そんなことを考えて歩いていると、ついに目的の場所…自分の生まれた家にたどり着いた。

○○「やっぱり、久しぶりに帰ってくると感慨深い物があるな…」
小傘「そういうものかしらねえ、私は故郷なんて無いからわからないや。ううん、あるにはあるんだろうけど…」
○○「さて、まずはなんて言ったものかな…」
小傘「あ、ちょっと、華麗にスルー?」

小傘をスルーしつつ、ドアに手をかけるが…開かない。
出かけているのだろうかと考えたが、買い物に行く時間ではないはずだし、
心当たりもない。鍵も持っていないため、どうしたものかと考えていたところ…

「○○ちゃん!? ○○ちゃんじゃない!」

その声には聞き覚えがあった・・・向かいに住んでいたおばちゃんだ。
彼女は驚いた顔で駆け寄ってきて…

  「良かった~、生きてたんだね。皆心配してたのよ? 一体今までどこに言ってたの?」
○○「ええ、まあ…色々ありまして」
小傘「ねえ○○、この人間誰?」
○○「向かいに住んでる人、小さいころ、良くしてくれたんだ。ああそうだ、今日久々に帰ってきたのですが、
   どうも留守のようで…どこに行ったかわかりますか?」

そう聞くと、おばちゃんは顔を曇らせた。

「あのね、○○ちゃん…落ち着いて、聞いてね?」

しかし、ポツポツと語り始めたその内容は、あまりにも衝撃的だった。

「やっぱりねぇ、○○ちゃんが居なくなったのがこたえたのかな、ろくに寝てなかったみたいでね」 「○○ちゃんを探すのに、ずいぶんお金を使って…」
「そこにね…付け込む輩ってのは居るのね。変な宗教にお金取られて…家も手放してね」 
「それでも諦めないで、あなたを探すビラを配ってるところに、酔っ払い運転の車が突っ込んできてね…二人とも…」
「引き取り手も居なかったから、どうしようかってなって、結局町内会でお葬式したのよ」


その後のことは、よく覚えていない。
気づけば自分は、ふらふらと、墓地の中を歩いていた。

○○「父さん…母さん…」

目の前には、両親の名が刻まれた墓石。それが、先ほどの話が事実なのだと否応無く認めさせる。

○○「ごめん…こんなことになって…」

応える声は無く、ただ自分は墓石の前に立ったまま…
やがて空から雨が降り出しても、鉛を詰め込まれたような体を動かすには足りなかった。
どのくらいそうしていたのかわからないが、しばらくすると、体に雨が当たらなくなった。
しかし雨音はまだ続いている。

小傘「…風邪引くわよ」
○○「…放っておいてくれ」
小傘「いやよ、私は腐っても雨傘よ。雨に濡れてる人をほっとけないわ」
○○「…妖怪に何がわかる」
小傘「…!」

首が90度横を向き、次の瞬間には頬に熱さがやってきた。

小傘「…ごめん」
○○「…」
小傘「そりゃさ…私妖怪だし、親が死ぬ悲しみとか知らないよ」
○○「じゃあ、ほっとけよ…何も出来ないくせに」
小傘「隣で傘をさすことくらい出来るわ」
○○「構う必要ないだろ…」
小傘「…○○、私あなたに拾われて嬉しかった。ずっと人間に捨てられたって思ってたから。
  でも私は妖怪だからあなたを驚かさないといけない。けどあなたは何度驚かされても、
  私の退治を依頼したりはしなかった」
○○「いきなり何を…」
小傘「○○、私はあなたが好き。だから雨に打たれてたら傘になってあげたい。
  悲しんでいたら、傍に居てあげたい。これじゃ、理由にならない?」
○○「…こんなときに告白とか、やっぱり妖怪は非常識だ」
小傘「…」
○○「…もう少し近くにきてくれ。横から吹き込んできてる…」
小傘「ん…わかった」

肩が触れ合うほど近くに来た小傘と、そのまましばらく寄り添い…その後、墓地を後にした。
気持ちの整理はまだ付かない。きっとこの先、一生付いて回るのだろう。
しかし横にいる変な配色の傘妖怪が、同じく一生付いてきてくれるのだろう。
それを思うと、少し気が楽になるような気がした。



最終更新:2010年07月30日 23:48