一輪1



Megalith 2011/01/02


新春。

ともすれば、誰もがめでたさを感じるであろうこの日はしかし、朝から昏々と雪が降っていた。

窓の先に広がる白に寒さを覚え、雨の日とはまた違った静謐に、少しばかりの寂しさを感じる。

だがそれは、あくまで雪の降る日の風情についてだ。正月だから、という理由ではない。


人里の片隅に一人居を構える自分にとって、正月はひとつの節目でしかない。

外の世界のあらゆるものから忘れ去られ、幻想郷に迷い込んで早一月。

里の知り合いも少しはできたが、新年を共に祝うほど親しいとは言えず、

さらに生憎の天気ともなれば、大人しく家にこもり、囲炉裏の火で身を温めるのが得策と思いそれを実行していた。


結局のところ正月なんて関係なく、やっていることはいつもと変わらないのだ。

おせち料理でもあれば、少しは実感が沸くのだろうが。

独り身であり、作るのも食べるのも自分一人。

作る手間と食べる喜びを両天秤にかけた時、得られた答えはやはり億劫だった。


そうして囲炉裏の横で、手頃な値段で手に入れた毛布に包まる。

外の世界で言う引きこもりだ。まさか、こちらに来て自分がそうなる日が来るとは思ってもみなかった。


「寒い」


壁一枚を隔てた窓の外、相も変わらず雪は降り続ける。

静寂に支配された銀世界。

そんな中、不意にザッザと雪を踏みしめる音が響く。

最初は気のせいかと思ったが、音が次第に大きくなるにつれてそうでないことがわかる。

面倒だと思いつつも、窓の隙間から外を窺う。

そして、雪景色の奥に人影を認めた自分は、その影がこちらへと向かってくるのを、半信半疑の心境で見つめていた。





                  *                  *                    *





「御免下さい」


玄関口で、透き通った女の声がした。やはり、あの人影は見間違いではなかったのだ。

しかし心当たりがさっぱりない。

里の連中は気の良い人が多かったのだが、知り合いに限ってはほぼ男である。

こんな天気の中、わざわざ里の外れとも呼べる一角に足を運ぶような相手などはいない。



「お待ちくださーい」


とは言え待たせるのも失礼なので、腰を上げて戸口へ向かう。

まさか物騒なことにもなるまいな、と一瞬だけ逡巡するも、馬鹿なことをと思い切って戸を動かした。


そして、そこにいたのは。



「新年、明けましておめでとうございます。

 今年も、命蓮寺をよろしくお願いしますね」



「…こちらこそ、よろしくお願いします」


思わぬ相手の来訪に目を丸くする。


紺色の頭巾と、そこから見える藤色の髪。

見に付けた修道服は降り積もる雪に負けないほど白く、

礼儀正しく重ねた両手には、拳より二回りほど大きな金輪が握られている。


そして何より、彼女の後ろで二人分の菅笠を持った、桃色の入道の存在――――



「寒い中お疲れ様です。雲居一輪さん、雲山殿」


雪のついた菅笠を取り、柔らかな笑みを浮かべて立っているのは、

同じく待ちの外れにある命蓮寺の尼、雲居一輪さんに他ならなかった。



「あら、覚えていて下さったんですね」


雲居さんはそう言って笑う。彼女がここへ来たのはこれで二回目だ。

最初に会ったのは、ここに居を構えたばかりの頃。

わざわざ挨拶に来てくれた彼女の、後ろに控えた大きな入道の姿。

それが、初めて見る『妖怪』らしい妖怪の姿だったから、自分としては忘れるはずもない。



「寒いでしょう、中へお入りください。温かいものをお出ししますよ」

「そんな、お気遣いなく」


それでも、そんなことを言ってしまうのは、外の世界から来たが故の警戒心の薄さなのだろう。

が、寒い中修行のために歩き回る彼女たちのことを考えると、玄関先での立ち話で済ますのはどうにも気が引けるわけで。

雲居さんは遠慮したが、正直なところを述べれば、自分も寒いのは嫌だった。

そう伝えることで、ようやく何とか引きとめることに成功する。



「すみません、お世話になってしまって………」


囲炉裏の淵に腰をおろしながら、申し訳なさそうに呟く雲居さん。

意外なところで堅物な人だ。それとも、修行中の身故か。

しかし、かじかむ手先を火に近づけて暖を取る姿を見るに、実際はかなり寒かったのだろう。

濡れた頭巾を取り、飛び火しない端で乾かす。頭巾の下の藤色の髪は、これまた意外に長かった。


そんな彼女の姿を眺めつつ、盆の上に湯飲みを三つ載せて、囲炉裏に戻る。



「まぁ、雲山の分まで………ありがとうございます」


雲居さんが礼を言うと同時に、後ろの入道――――雲山殿が頭を下げた。

顔が厳つい分、そうした仕草が妙に様になる。

そんなことを思っていると、湯呑の熱で手を温めていた雲居さんが、不意に口を開いた。


「こちらでの生活は、もう慣れましたか」

「ええ。皆さんに良くしていただいたおかげで、大分」

「何かお困りのことがありましたら、声をかけて下さいね。

 命蓮寺一同、微力ながらお力になります」

「ありがとうございます」


静けさの中に、鈴を転がしたような綺麗な声が心地良い。

きっと、半ばお決まりの会話なのだろう。だが、そんな気遣いが、新参者の時分としては素直にありがたかった。


「例えば、外の世界との文化や習慣の違いとか。

 私たちも幻想郷には来たばかりですが、ある程度のことは学んだつもりですから。

 わからないことがあったら、ぜひ聞いてください」

「あ、はい」


ん?

若干会話が飛躍したことに気付かないふりをしつつ、適当に相槌を打つ。

それを続きの促しと取ったたのか、雲居さんはさらに言う。


「こちらの世界では、お正月の時には家の前に門松を置いたり、玄関にしめ縄を飾ったりするんです。

 新年を祝う一環ですね。また、お節料理という特別な料理を作って……」


やんわりと、教えられるように言われてようやく合点がいく。

なるほど、確かに今自分の家では、正月にふさわしいしめ縄や、門松といった装飾を施していなかった。

先に述べたように、お節料理も作っていない。

だがそれは全て、面倒だからしなかっただけの話である。知らなかったわけではない。


「あー、雲居さん。恐縮ですが、そういった習慣は外の世界でもまだ残っていますね」

「……そうなんですか?」


そのことを伝えると、眼をパチクリさせる雲居さん。

彼女にしてみれば、それならば何故。といった心境なのだろう。

代弁するように、続ける。


「ただ、自分はそういうのに馴染みが薄いというか………興味がないってだけで」

「まぁ…………」


驚いたような表情を浮かべる雲居さんを見ていると、我ながら駄々草な生活を送っているものだなと思う。

まるで美人の公務員さんに、働かない理由を問い詰められるニ―トの気分だ。………そこまで惨めじゃないとは信じたいけれど。

なんてことを思っていると、


「それじゃ、今朝の食事はどうなされたんですか?」

「んー………。面倒で、作っていないといいますか………」


さすがに、起きたのがさっきだからなどと言う気にはなれず言葉を濁す。すると、


「それは駄目です」


え、と反論する余地もなく、雲居さんが勢い良く立ち上がった。


「せっかくの謹賀新年。初めからそんな調子では、この一年を良いものにすることなんてできません」

「ちょ、ちょっと雲居さん!?」

「雲山、手伝って!」


言うや否や、あっと言う間に二つの影が、釜戸の方へと駆け抜けていく。

あまりに一瞬の出来事。止める合間もなかったほどだ。


完全に虚を突かれた俺が我に返って後を追う頃には、

既に釜戸には火が付けられ、軽快なリズムで野菜を刻む雲居さんと、阿吽の呼吸で野菜を鍋に放り込む雲山殿の姿があった。




                  *                  *                    *




そして数刻の後。

こうなってしまったものは仕方ないと、所在なく囲炉裏で待っていると、次第に釜戸の方から良い匂いが漂ってきた。

何とも食欲をそそる香りに、思わず視線を向ける。

そういえば、朝を抜いたというよりは、起きてからまだなにも口にしていない、といった方が正しい。

そんな生活に慣れていないわけではない。

が、こうして目の前で料理の光景を見せられている以上、自分の腹はかつてないほどに狂おしく空腹を訴えていた。

トントントン、と刻む音。鼻孔を刺激する醤油の匂い。

最初は呆れ半分で見ていたはずが、いつしか彼女たちの料理を心待ちにしている自分。

そのことに気付いたのは、調理の音が止み、二人が囲炉裏に戻ってきた時だった。




「お待たせしました」

「………むしろ、ただ待っていたことが申し訳ない程ですが」


さりげなく本心を吐露しながら、雲山殿の持ってきた鉢の中身に注目する。

中には、色取り取りの野菜を使った煮物が数品目、小ぶりの鉢に丁寧に盛られていた。


「お煮しめとお雑煮と、それから伊達巻きです。

 本当はもっと、品数が多いんですけどね。」


いつの間に持って行っていたのか、例の頭巾を三角巾のように装備した雲居さんが、晴れやかな笑顔を向けてくる。


「お口に合うかはわかりませんけれど………食べてみて下さい!

 せっかくのお正月なんですから」

「………いただきます」


正直言って、もう我慢の限界だった。

言われるまま、まずは一口、雑煮の餅に箸をつける。

柔らかく煮られたそれは、絶好のタイミングで食卓に運ばれたことを示していた。

具材の小松菜と合わさって、少し濃い目に付けられた汁の醤油味を良い具合に中和する。

小松菜の歯ごたえと、餅の柔らかさが絶妙に混じり合い、食感だけでも飽きが来ない。―――――そして、旨い。


思わず感心した。

雑煮の、それも汁に餅と小松菜を放り込んだだけのシンプルな一品が、ここまで味わい深いとは考えてもみなかったのだ。


次に、お煮しめの方にも目を向ける。

椎茸、里芋、筍といった比較的地味な色合いの中、花形に切り揃えられた人参はひと際映える。

そして、素材の味を充分に活かし切った薄めの味付け。

椎茸の臭みが嫌味になることなく煮物全体に浸透し、里芋や人参の風味を引き立てている。

箸を進めていくうちに、弾力性のある灰色の何かが目に留まった。

こんにゃくだ。

しかし、はて、と内心首を傾げる。

自分の覚えている限りでは、普通のこんにゃくこそ買えど、手綱こんにゃくなどという上品なものを買った記憶はない。

だが、その造形を見てすぐに思い至る。この力強いねじり具合、恐らくは雲山殿の力作だろう。

口に運ぶと、こんにゃくは歯の上で一層弾んだ。

噛めば噛むほど、お煮しめそのものを凝縮したような旨味が溢れ、口元が綻ぶ。


そして最後に、伊達巻きを頂く。

作ることが面倒とされるこの料理は、しかし手間を惜しまずに作られたのだろう。

渦状に巻かれたその表面は、見事な焼き加減で整えられていた。

だからこそ、内側の黄色がまばゆいばかりに輝いて見える。

一切れ掴むと、ふわふわとした柔らかさが箸伝いに感じられる。


そのまま一口、思い切って口に運んだ。


初めに感じたのは甘さだ。

卵本来の純粋な甘さ。それが、火を通すことによってより純度を高いものに昇華されている。

それをふわふわの食感と一緒に楽しむ。すると、不意に味わいに深みが増した。

練り物だ。きっと、買い置きしておいたはんぺんだろう。

伊達巻きを作る上で、最も手間とされる練り物を加えての混ぜ作業。

それを惜しげもなく披露してくれたことに感謝しながら、気付けば自分の目尻は満足気に垂れ下がっていた。



「………うまい」


「よかった」


目の前で、雲居さんと雲山殿が安心したように顔を見合わせる。

だが、こちらはそれを気にすることなく黙々と食い続けていた。

意識を他に向ける暇があれば、少しでも長く目の前の料理に向き合っていたかったのだ。



そして。








「………ご馳走さまでした」


「はい、お粗末さまでした」




取り憑かれたように、お節料理を平らげた後。

目の前でクスクスと笑う雲居さんに、俺は思わず頭を下げていた。


「ありがとうございました。まさか、こんなにうまいお節を頂くことができるなんて」

「どういたしまして。でも、ちゃんと食事は取らなくちゃダメですよ?」


やんわりと諭され、はい、と素直に返事をする。

雲居さんはといえば、何がおかしいのやら、そんな俺を見て相変わらず笑みを零している。


「な、なにか」

「いえ、大したことじゃないんですけれど、」


思わず聞き質してしまった自分に、雲居さんはそう前置いてから、


「ただ、半ば強引に作った料理を、あんなに美味しそうに食べてくれるなんて思ってもみませんでしたから。

 料理人冥利に尽きるって、雲山も言ってます」


そう言われて、思わず雲山殿の顔を見ると、厳つい顔で頷き返された。

きっと、これで良かったと言ってくれているのだろう。いつもの強面が、どこかやさしげな印象を与えられる。


「さ、さいですか………」


照れ隠しに頬を掻く。

そんな俺を見た雲居さんは、次に妙なことを言い出した。


「面白い人ですね、○○さんは」

「……からかわないでくださいよ」

「いいえ、冗談のつもりじゃなくって」


ふ、と雲居さんの顔つきが少しだけ神妙になる。

それにつられて、思わず自分の背筋も伸びる。


「……妖怪に好かれる人、なのかな」

「はい?」

「寒いだろうからって、妖怪の私たちを囲炉裏に通してくれたし。

 お茶を持ってきた時も、湯呑は雲山の分を入れてくれましたよね。

 雲山をちゃんと一人、と数えてくれたことが、私も雲山も凄くうれしくて」


それで、と雲居さんはまた小さく笑う。


「お礼の気持ちを込めて作った料理も、あれだけ美味しそうに食べてくれて。

 同じように妖怪の心を掴む人間でも、姐さんとは根本から違うし。ほんと、不思議な人」


そう言って、口元を抑えて楽しそうな表情を浮かべる雲居さんは、どうにも綺麗だ。

が、言われていることは、どうにも自分の警戒心のなさから来たことのようで、今ひとつ褒められている気がしない。


「きっと、俺は外の世界から来たから、妖怪とか人間とかの意識が薄いんでしょうね。

 意志が通じて、言葉が通じれば、それで同じものだと思ってしまう」

「それは確かに危険なことかもしれませんが、同時にある種の理想なのかも」

「雲居さん、堅く考えすぎですよ」


命蓮寺の目指す『思想』というものを、自分が理解しているかと言われれば答えはNOだ。

だからなんとなく口をはさむのが憚られて、茶化すような言葉に逃げてしまう。しかし、


「でも、現に私と雲山は、今凄く楽しいですし。それって大切なことじゃないですか?」


屈託なく笑う雲居さんにそう言われると、そんな気がしてしまうのが、現金なところだった。


「…………まぁ、俺も、楽しいんですけれどね」


なんだか照れ臭くなってそっぽを向く。

それを雲居さんと雲山殿が顔を見合わせて笑い合う。つられて、俺も笑う。


その瞬間は、なんだかとても尊くて、そして掛け替えのない大切な時間のように感じられた。


そしてほんの少しだけ、雲居さんたちの目指す『思想』が理解できたような気がして、嬉しかった――――――






                  *                  *                    *







「それでは、今日はこれで。

 本当はもっとたくさんのお節をお披露目したかったんですが………」

「とんでもない、充分ご馳走になりました」


それからひとしきり談笑した後、俺は雲居さんたちを玄関先まで見送っていた。

いつしか雪は止み、柔らかい西日が差しこんでいる。明日は雪掻きだ。


「残りの品目はぜひ、○○さん自身の手で挑戦してみてください。

 せっかくのお正月なんです、充実した時間を過ごさないと」

「はい」

「それと、ちゃんと身体には気を使ってくださいね。

 特に朝の一食は一日の源になるんですから、しっかり取らなくちゃダメですよ?」

「わ、わかってますよ雲居さん」


急に恥ずかしくなって、遮るように声を上げる。

そしてそのまま数瞬の間見つめ合うと、やがてどちらからともなく笑いだした。


「機会があったら、命蓮寺の方へもぜひ足を運んでくださいね。

 きっと姐さん―――――聖も、喜ぶと思います」

「ええ。必ず」


再会の約束に、雲居さんと雲山殿、それぞれの目を見て強く頷く。

それは遠くない日、現実に起こり得ることになるだろう。


「では、また」

「お気をつけて」


最後に、一礼。

そうして踵を返した二人の姿が、次第に夕日の中へ消えていく。


妖怪に好かれる人間とは、雲居さんが俺を形容した言葉だ。

そこに含まれる真意は、結局わからず仕舞い。それで良いと思う自分がいたのだから、仕方がない。

だが、もし言い返すのであれば、彼女の方こそ人間に好かれる妖怪なのではないか。

思いがけず得られた充実した時間は、間違いなく彼女たちがくれたもの。

そこには畏怖ではなく、ただ感謝と楽しさがあった。


命蓮寺の目指す思想は尊く、故に険しい。

しかし彼女たちならば、きっと、実現できるに違いない。

そんなことを、確信しながら。

振り返ることなく歩き続ける二つの影が、完全に消えるまで見送り続けていた。



彼女たちが作ってくれた、自分のためのお節料理。

それは確かに品目こそ少なかったが、一生忘れられない味になりそうだ。



うpろだ0016



「はぁっ……」

縁側に座り、休憩中だっていうのに溜息が出てしまう。
年末だからどこも忙しいのはわかる。
命蓮寺も当たり前のように忙しい。うん、わかる。

「少しくらいは、ちゃんと休みたい……」

とはいえ私だけが忙しいわけではないので文句は言えない。(ぬえは逃げた、後で雲山にスマッシュしてもらおうと思う)
……経理担当の彼も今頃書類の山に頭を悩ませてるだろうなぁ。
大丈夫か?と雲山に尋ねられた私は大丈夫、と心配無用であることを伝える。

「……彼とまともに話もできやしない」

お互い忙しくて時間が合わない。
命蓮寺の他の皆には彼と付き合っていることは伏せているから余計に会えない。
バラすとぬえ辺りがいらぬちょっかいをかけてきそうで嫌なのよねぇ、と心の中で溜息をつく。



彼と出会ったのは本当に偶然だった。
人里にて用事を済まし、帰る途中で倒れている彼を発見。
そのまま命蓮寺に連れて行き、事情を聞くと外来人だという事がわかった。
聖の勧めもあって命蓮寺に少しの間居候して帰るのか否かを決める、ということになった。

「それじゃあ一輪、彼のお世話をしてあげてね?」

と、見つけたんだからあなたが世話をしろと聖に言われ、彼に色々と説明をしたり足りないところは助けたりした。
最初は乗り気ではなかったのだが雲山と彼が妙に仲良くなってしまった、雲山は男一人だったから嬉しかったのかしら。
そして必然的に私ともよく話をするようになり、いつの間にか彼の人柄に惹かれていた。
とにかく優しかった、それでいていじわるでもあり、そして……寂しがり屋だった。
彼は自分は天涯孤独の身になってしまった、と言っていた。その時の寂しそうな顔は今でも忘れない。
だったらここにいればいいじゃない、と私は言ってしまった。後から考えればもう既に彼の事がこの時から好きだったんだと思う。
後から聞いたけどその時彼は本当に迷っていたらしい、これ以上ここにいて、私たちと一緒にいてもいいのか、と。
そして私の言葉を受けて彼は聖にここに住ませてくれ、と頼み込んだ。
聖は笑顔でこれからもよろしくお願いしますね、と直ぐに許可した、最初からそう言うつもりだったんだと思う。
そして彼は命蓮寺の財務担当として、というか星がとにかくうっかりしすぎるので彼にお願いしてもらったのだが、彼は命蓮寺の一員となった。

……その夜にまさか告白までされるとは思ってなかったが。


「あら、御苦労様」

過去を振り返っていると声をかけられ、振り向くとそこには聖がいた。
どうやら向こうの仕事も一段落したみたいね。

「お疲れ様です聖。他の皆も?」
「えぇ、○○さん以外は皆終わったみたいよ」

……彼のところ多かったもんね。
しかしこれで彼が終わればやっとこの忙しさからも解放されるかしら。









「これが終われば一輪も○○さんといられるわねー」











「はは、そうで…………………………………え?」















私の隣に座った聖を見る。
とても笑顔だった、いや、そういう問題じゃない。
え、いま、ひじりは、なんて、いった?
雲山を見る。あ、何その諦めた目は?

「あ、あの……白蓮さん?」
「あら、どうかした?」
「え、えーと、私の聞き間違いじゃなければ「付き合っているのは知ってますよ?」……な、なんで……?」

どこから漏れたのか……雲山?もしかして?と見るが雲山は首を振った。ではなんで……

「目線というか仕草というか雰囲気でわかりますよ。ちょっと友人というには熱すぎます」

はぁぁぁぁ、と溜息をつくと余計に虚脱感に襲われた、私たちの努力とはいったい何だったのだろうか。
ばれないようにあれ程陰で陰でと抑えていたのに……

「まぁ星は気づいてないと思いますけど」
「一番鈍いのに知られてないのは参考になりません!」

しかしちょっかいをかけてこないところをみるとぬえにも気付かれてはいない、と思う。
マミゾウもそういうタイプだし、村紗も割とわかりやすい、ナズーリンと響子……ここは下手につつくと墓穴を掘りかねない。
今のところは聖だけ、と見ていいのかもしれない。

「ひ、聖、この事は……」
「内緒に、ですか?いずれ皆には言うのでしょう?」
「そ、そうですけど……」
「まぁいいでしょう、でもちゃんと自分から皆に言いなさいよ?」

そろそろ彼も終わる頃かしら、と暗に行けと言われる。
雲山に顔を向けるとやはり行け、と言われる。
……わかりましたよ、行きますよ。
私は立ち上がり彼のいる仕事部屋へと行くことにした。



















「と、いうわけでぬえ、今は手出し無用よ?」
「……ちっ、盗み聞きしてたのがバレてたか。いいネタだと思ったのに」
「雲山、構えちゃ駄目ですよ」
「冗談だって、たぶん、きっと、おそらくは」





















「っあー、終わった終わったー」

これでしばらくは問題ない、というか問題あられても困る。
今までの帳簿も全部確認する羽目になるとは思わなかったなぁ……
ていうか星さんのうっかりミスが多すぎて全部見直さないといけなかったのはきつかった。
不図、こちらに誰かが近づいてくるのがわかった。

「失礼するよ……おや、丁度終わった感じか」
「んーナズーリンか」

お盆を持ったナズーリンが開けっ放しだった部屋に入ってきた。
お盆を俺の仕事机に置いた後、襖を閉める。

「お疲れ。君が最後だ」
「ありがとう……まぁ量あったからな」

お盆の上にあったお茶を貰い、苦笑する。
喉の渇きを癒していると急に彼女は意地の悪そうな顔をしだした。

「まぁこれで思う存分一輪とイチャつけるわけだね」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」

飲んでいたお茶を思わず噴き出してしまった。
咽るおれの姿を見てしてやったり、な顔をするナズーリン。
お前、なんで……?

「いやなに、鼠達がキスしているところを見つけてしまったらしくてねぇ。
 かなりのラブラブっぷりだったと聞いているよ?」
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

最悪だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
人の目は気にしていたがよもや鼠に見られてバレるとは。
つーことは……

「で、何が望みだよ」
「おや、心外だねぇ。まさかそれをネタに強請るとでも?」

違うのか、と目で返すがナズーリンはやれやれ、と呆れたように両手を上げて首を振った。

「心外だなぁ、というかそういう風に見られてたのかと思うと悲しくなるね」
「状況的にそういう事しか考えられないだろうが」

シチュエーション的にばらされたくなかったら云々みたいな。

「まぁ確かに。とはいえ私から特別何かを請求するみたいな事はないよ。
 むしろ今の君のその失礼な態度に何か奢ってもらいたくなった」

笑ってない笑顔で威嚇してくるなと。
とはいえその言葉が真実なら何でそんな事をわざわざ言ってくるんだ。

「んで、いったい何なんだ」
「なに、多少の祝福とからかいでもと思ったんだが……いい加減出てきなよ」
「は?」

「ナナナナナナナナズーリン!!!」

バァン!と大きな音と共に襖が開けられた。
驚いて見ればそこには真っ赤な顔をした一輪の姿があった。
……いったい何時から聞いていたのか。

「安心してほしいな、私は口は堅い」
「ぐっ……信用してますよ?」
「ははは、それよりもだ……ちゃんと言いなよ?自分で」

わかってます!と大きな声で一輪は答えた。
何だか話から置いていかれてる気がするがまぁいいか、と再び茶を口に含める。
一輪のおかげでこっちは冷静になることができた、まぁナズーリンなら安心だろう、と。

「ところで子供はまだかい?」
「ぶふおおおおおおおおおおおお!?」
「な、なにを言ってるのよおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

再びお茶を噴き出す俺、さらに真っ赤な顔になる一輪。くっくっくっ、といやーな顔で笑うナズーリン。
あー、これしばらく続きそうだなーと咳込みながら俺は思うのであった。



















「もう……聖にもバレてたし、私たちの苦労って何だったのよ」
「ありゃ、白蓮にもか。ある意味さすがというか」

仕事を終えたであろう彼の所にいけばナズーリンがいてまさか彼女にまでバレていた、なんて……
何ということだろう、これじゃまるで道化よね本当に。

「でも一輪。そろそろ頃合いだって事じゃないかってことかもしれないな」
「そう、なのかなぁ?」

聖とナズーリンにはバレて、祝福してくれた。
二人からは自分から言えと言われた。
確かに頃合いなのかもしれない、しれないけど……

「やっぱりまだ恥ずかしい?」
「それもあるけど」

からかい倒されるのはごめんである。でもそれ以上に……

「……邪魔されるのだけは、嫌」

そんな私を苦笑しながら彼が私を抱く。

「大丈夫だって、皆祝福してくれるだけだろ?
 ……まぁ少しからかわれたり何かしらあるかもしれないけど」

「ぬえとか特にね……いつかは言わなきゃいけないことだけど、でも、今だけは」

見上げて目を閉じる。
直ぐに彼はキスをしてくれた。
今だけは、この時間を、二人だけの時間を、過ごしたい。

「○○、年が明けたら、皆に発表しましょう、二人で」
「わかった、それじゃあ今だけは二人だけの秘密、だな?」

もう一度、キスをする。
この時間が長く続けばいいな、と思いながら私は彼に強く抱きついた。


















後日、私達のこと発表すると知らなかったのは星だけだったなんて事になり、私が怒り心頭になろうとはこの時まったく思っていなかった。

35スレ目 >>357>>358


357: 名前が無い程度の能力 :2015/01/23(金) 22:38:02 ID:uA76d.Bo0
雲山「のう○○、お主好きなMSはなんじゃ?」
○○「ドムです」
雲山「好きなポケモンは?」
○○「ドサイドンです」
雲山「好きな芸能人は」
○○「脇知弘さんです」


一輪「とりあえず重量系好きなのわかったけどもっと有用な情報引き出してきてよ好きな芸能人脇知弘とか誰得情報よ」
一輪「…異性の好みのタイプとか、髪型とかさぁ」
雲山「自分で聞けばいいのに…」

同性の方がそういう情報ひきだせるからと雲山にスパイさせる一輪

358: 名前が無い程度の能力 :2015/01/24(土) 00:13:25 ID:ybArm0JY0
 >>357
「一輪さんのこと? 素敵だと思いますよ、面倒見がよくて、きっぷもいいし」
「あと、あの頭巾もかわいいですよね。ドムみたいで」

 どうやら本気で言っているらしいとわかり、複雑な表情の一輪さん


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最終更新:2021年04月26日 22:43