白蓮1
新ろだ729
ポストから新聞を取り出していると妙に派手なチラシが目に入る。
チラシには八雲紫主催の外界ツアーと書いてあった……あのスキマは本当に何でもやってるな。
しかし、たまに里帰りもいいかもしれないな。
「相談してみるか」
チラシに書いてある詳細を見ながら、彼女を想いはせる。
そうときめたらテンション上がって来た。
大急ぎで朝食を済ませ、限界なんぞ天元突破して目的地まで駆け抜ける!
「それがこの有様なのね」
「……い、いえすまむ……」
たどり着いた目的地で、呼吸困難で地面に横たわる俺に呆れた声をかけてくる白蓮姉さん。
やばい、指一本動かすのがつらい。
「しょうがないわねぇ、この子は」
そういうと白蓮姉さんは横たわる俺の横に座り、俺の頭を抱えて、膝の上に置いてくれた。
ペロッ……やわらかい、これは正にHIZAMAKURA!
「きゃっ、こら大人しくしてなさい」
「毘沙門天様にやれって言われた気がして、つい!」
「自信満々に嘘を言わない」
ぺちんと額を叩かれた、反省。
しばらく、柔らかさを堪能して、本題を切り出すために懐からチラシを取り出す。
「姉さん、これ一緒にいかねー?」
「外界ツアー? あら、紫さん主催なのね」
白蓮姉さんは少し不思議そうな顔でチラシを眺めている。
「姉さんも千年以上たってる世界だし、新鮮だと思うし、俺もちょっと里帰りしてみたいし、どうだろう?」
「そうね、一緒に行きましょうか……お墓参りにも行ってあげたいしね」
「そうと決まれば早速準備しよーぜー」
そう言って、体を起こそうとすると頭を抑えられた。
そして、白蓮姉さんが俺の顔を覗きこんでくる。
「もっとこうしていたいのだけど……だめ?」
なに、この可愛いの、俺をミンチよりひでえや状態にする気か!?
「姉さんが望むならいくらでもしていいよ! むしろこちらからお願いします」
しばらくして、星ちゃんが呼びに来るまで白蓮姉さんの膝枕を堪能したのは言うまでもない。
──チラシの裏──
白蓮姉さんが好きすぎて生きているのがつらい。
──チラシの裏──
新ろだ814
~とある山の中で~
「聖様~!聖様~!どちらにいらっしゃられるのですか~!」
まるで姿の見えない探し人を探して○○という名の一人の僧兵が山の中を探しまわっていた。
少し目を離すとふらっと寺から抜け出してしまう彼女を探してもう三刻ほどにもなる。
「まったくあの方は、探すこちらの身にもなってほしいものだ。まあ寺の者以外に見られないだけましなのだが。」
などと愚痴をこぼしつつ彼は山の中をさがしつづけた。
「この前見つけたときの滝の傍にはいなかったし、その前の大檜のところにもいなかったし、ほんとに今度は
どこにいってしまわれたのやら……おや」
いままで歩いてきた場所とは少し雰囲気の違う場所に出るとなにやら話し声がする。
「――――それでね!おとうさんとおかあさんがわたしのためにいっぱいのごちそうを
もってきてくれたんだぁ!」
「ふふふっそんなことがあったのですか。あなたのご両親は本当にあなたのことを
大切にしてくれてるんですね。」
そこには周りを妖怪の子供達や動物達に囲まれて話に花をさかせている自分の探し人がいた。
「それじゃあ次はあなたのお話を―――あら?」
「聖様!ようやく見つけましたよ。また寺を抜け出してこんなとこに来て皆が心配
しておりますよ。」
「あらあら?もうそんなに時間がたってしまいましたか?」
「ええ、僧兵長はかんかんになって回りに当り散らすわ尼殿達はおろおろしてるわ、
和尚様は大笑いするわで大変です。ほらすぐに寺に帰りますよ。」
その様子が目に浮かぶのか聖は苦笑をうかべる。
「それは皆にもうしわけないことをしましたね。わかりました戻りましょう。」
そういって立ち上がると周りの子供達が、
「え~聖ねえちゃんもうかえるの~?もっとおはなししたいよ!」
と、だだをこねて聖をひきとめようとする。まわりの動物達も怒っているようにみえた。
「ふふっごめんなさいね。また今度お話しましょう。」
彼女は少し困った様子で周りをなだめていく。
「こんどっていつ?」
子供の一人がそう問いかけると、
「そうねぇ……じゃあ明「しばらくはぜぇったいに寺から逃がしませんからね!」あらあら」
○○はもういい加減にしてほしいといった声色で彼女の言葉をさえぎりそういった。
なんだと~とか聖ねえちゃんひとりじめにするきだな!とわめかれるが気にするわけにはいかない。
なにせあまりに何度も聖が抜け出すものだから僧兵長の怒りはかなりのものになってきており、
警備についている○○達僧兵はその怒りを受ける羽目になるのだから。正直、身がもたない。
「しかたがありませんねぇ。でも皆、必ずまた近いうちにまたきますね。」
きっとだよ~と、子供達は手をふって去っていく。聖はそれに笑顔で答えてから○○の方をむいた。
「それじゃあ行きましょうか?」
まったく悪びれていない聖に対して○○はつい愚痴をこぼしてしまう。
「まったくこれで何度目ですか聖様。ただでさえ都で噂になってるんですよ!命連寺の
聖尼公が妖怪とつるんで何かしてるらしいって」
「あら、つるんでるなんてひどい言い方ですわ。ただみんなとお話してるだけなのに。」
「どっちにしろまずいです。陰陽師どもに目をつけられてるんですから見つかったらどうなることやら。」
「でも一度も見られたことないですし。大丈夫ですよ。」
そういう問題でもないだろうにとため息をついて○○は反論する。
「でももしものことがあったらどうされるおつもりですか!」
「だって○○が誰よりも早く見つけてくれるのでしょう?」
「へっ?」
思いもよらない言葉に○○は唖然とする。
「○○が見つけてくれればほかの誰かに見られることなんてないでしょう?
ならなんの心配もいりませんよ。」
満面の笑みを浮かべながらそういってくるこの方の笑顔に思わず顔を赤らめてしまい
○○は視線をそらした。
「?」
小首をかしげて彼女はどうかしましたか?とこちらを見てくる。自覚なくやっている分性質がわるい
「///な、なんでもありません。ごほん…さぁほら帰りますよ。」
「ええ、行きましょう。」
そうして顔の赤いままの僧兵とそれを不思議そうに見つめる聖尼公はその場を後にし、
命連寺へと帰っていったのだった。
~~おまけ~~
あれから二日後がたったある日のこと、命連寺の尼僧が聖の部屋まできて静かに障子をひらいた。
「失礼いたします。聖様、北野よりの文が届いているのでお目通りを……って聖様?」
部屋の中にはそこに居るべき主の姿はなく、机の上に一枚の紙があるだけだった
尼僧がその紙をとって書いてある文章を読んでみると
「しばらく山に行ってくるので留守にします。心配なさらないでください 聖……って
えええええぇぇぇ!!!またですかあああぁぁぁ!!!」
今日もまた命連寺は平和なのであった
新ろだ815
「あああ……疲れましたあ……」
「ふふふっ、お疲れ様でした○○さん」
人里からの帰り道、ウ~ッと伸びをする私に、横を歩いている聖さんが声をかけてくれる。
「しかし大盛況で良かったですね、持って行った和菓子も全部無くなってしまいました」
「はい、子供達が喜んでくれて何よりですわ」
ニコニコとほほ笑んでいる聖さん、そんな彼女を見ていると私の心もポカポカと暖かくなってくる。
子供が好き……と言うよりは、誰かが喜んでくれるのが嬉しいのだろう。苦労して和菓子を作った甲斐があるというものだ。
「○○さんも、子供達に大人気でしたね」
「あれはからかわれているだけですよ、引っ張り合いっこして……全く」
あれは地獄だった、四方八方から子供達の手が伸びてきて奈落へと引きずり落とそうとするのだ。
『とりっくおあとりーとー、とりっくおあとりーとー』
この呪文を連呼しながら、体重を全力掛けして姿勢を崩させ、やれおんぶしてだの、肩車してだの……
「でも、好かれているようで皆楽しそうでしたよ?」
「まあ……嫌ではないですけどね」
ごそごそとポケットを漁ると、そんな子供達の中で良心を持つ子がくれた飴玉が見つかった。
疲れた体に栄養補給、早速口の中に放り込むと、レモンの心地よい酸っぱさが広がった。
「……そういえば○○さん」
「ん? なんですか聖さん」
レモン味の心地よさを堪能していた私に、聖さんが声をかける。
良く分からないが、何となく嬉しそうとだけは分かった。
「Trick or Treat」
「……へっ?」
いや、貴方お寺に所属しているんだから仏教徒でしょ? というかそんな私の前で両手を後ろで持って上目遣いに言ったって可愛いとか綺麗をかそんな感想しか出てきませんって。
「えっと…」
がさごそ……中はゴミばかり!
ポケットというポケットを探してみるが、出てくるのはゴミかメモ帳等、とてもお菓子を言えるものは出てこない。
「えっと……すみませんがこれで最後みたいでして……」
「なら、それを頂きますね」
「……は」
それからは言葉が続かなかった。
両肩に力が加わり、目の前に聖さんの顔がドアップでピントが合わせられないくらい近づいていた。
呆然としている内に、口内に何かが侵入し、飴玉をかっさらっていく。
「ふふっ……美味しいです」
脳が正常稼働した時、聖さんがしてやったり。 気味な顔でほほ笑みながら舌をぺロッ、と出していた。
「……聖さん、それ……私がやっても文句言いませんよね?」
「ええ、特に異論はありませんよ」
聖さんの頬が朱色に染まる、多分私はもっと真っ赤なんだろうが……
「Trick or Treat」
そう言いながら、私は聖さんの唇に触れた。
この後、飴玉が溶けて無くなるまで、お互いの口内で舐め合っていた為に、命蓮寺に帰るのが遅くなってしまい、星さん達に散々叱られたりからかわれたのは、また別の話。
新ろだ816
「ふわあ……」
「ふふっ……○○さん、大きな欠伸ですね」
うぐ、と欠伸を中断させ、隣に座る聖さんへと顔を向ける。
命蓮寺の縁側、もうそろそろ冬の気配が濃厚な場所でお茶をしていたところであった。
「寝不足ですか? いけませんよ夜更かししすぎてわ」
「……面目ございません」
涼しい風と、ポカポカ暖かい日光、それにお寺独特のゆっくりした時間の流れから、どうにも眠気を誘われる。
別に昨日夜更かししたとかでも無く、体を動かして疲れた訳でもない。
ただこののんびりとした、平和な時間が○○の外来人という性質から眠気を誘発しているのだ。
「特に夜更かしした訳では無いのですが……向こうではこんな時間、滅多に過ごせませんでしたからね」
向こう、と聞いた瞬間、白蓮の顔が一瞬引き攣る様に振動する。
「やはり……外の事が懐かしいですか?」
不安げに彼女の表情が曇る。
「正直言いますと、懐かしくない……というのは嘘です。懐かしいですね」
「……やはりむ「でも」え? ……」
嘘で懐かしくないと言った所で、彼女は嬉しくないだろう。
だったら私の思う所、感じている事を洗いざらい全部話してしまった方がいい。
「でも、ここにはもう誰にも渡したくない人が居ますから。 私が初めて守りたい、傍に居たいと思う人が居ますから……親不孝者と罵られるかも知れませんが、私はここに居たいです」
悲しい顔を見たくないあまり、なんちゅう事を口走ってんだ私。
不意に恥ずかしくなり、そっぽを向いてポリポリと痒くもない頬を掻いた。
「え~っと…ですからね? 聖さん」
どう言い訳しようか迷っていたが、ポフッと隣から腕に抱きついてくる感触。
「ごめんなさい、気を遣わせてしまった挙句、こんなに甘えてしまって……」
「……いえ、私で宜しければ幾らでも甘えてください。聖さん」
ギュッ、と私の腕を力強く抱きしめる聖さんの頭をゆっくりと撫でる。
全く現金なものだ、両親を思い出してちょっとした罪悪感を感じたのだが、今腕に感じている温もりにその罪悪感はなりを潜めている。
まあ、今は……
「ありがとうございます」
この優しくほほ笑む女性と共に歩もう。
いつの日か、両親やお世話になった方々に謝る時間が出来たら、その時は全力で謝る事にしよう。
「聖さん」
「あっ……」
そっと頬に手を添えると、嬉しそうに目を細める。
軽く口づけをするつもりで唇を合わせると、彼女の方から離さないように腕を回された。
「良いのですか? お昼ですし縁側ですよ」
「構いません、貴方を感じて居たいです……」
その後、日が暮れるまで彼女と縁側で口づけを交わしたり抱擁を交わし合った。
新ろだ817
「ちょっとお台所お借りしますね」
そう○○が断わり、命蓮寺の台所を占領して何かを作り始めたのが午後1時頃。
それから約一時間、甘い匂いが徐々に台所から漂ってくる為、
ナズーリンや村紗等強行偵察部隊が突入したが、体よく○○にはぐらかされ追い出されてしまった。
報告曰く、
「ほんやかと断わられてしまったよ、いやあ……残念残念」
と、行く前には持っていなかったおはぎ片手にナズーリンが報告してきた。
「んん~? 何かを作って居るってのは分かったけど、詳しくは分からなかったわ」
頬におべんと付けた村紗がそう報告するに至り
「では次は私の番ですね」
のほほん、と我らが主白蓮 聖様は仰り台所へと向かった。
「どうせまた何か貰って帰ってくるんでしょうね……」
「そんなご主人、子供の使いじゃあるまいし」
「……その子供の使いをしてきた貴方が言えた筋はありません」
そんな会話がされていた頃、当の本人達と言えば……
「○○さん、お邪魔致しますね」
「んっ? 聖さんですか……困ったなあ、まだ出来て無いですよ」
エプロンを着用し、形を整えた型に餡を盛る作業を続けながら○○は答えた。
「何を作っているのですか?」
「饅頭ですよ、平凡な和菓子ですけどね」
甘い匂いは、どうやら煮詰めていた小豆の匂いであったようだ。
「蒸し器の用意は……よし、大丈夫だな」
テキパキと料理を進めていく○○、その手際はまあまあ及第点と言った所であり、速くもなく遅くもない。
「○○さん、出来れば何か味見させて頂けませんか?」
「味見……まあ体の良いつまみ食いの表現方法ですね」
「もう、ナズーリンや村紗にはあげたのに、私には何も無しなのですか? 平等ではありませんよ?」
「んん……しかし蒸して居ない饅頭は食べれませんし、餡子もほとんど無いですし……」
「あら、まだ残っているじゃないですか」
ニコニコとほほ笑みながら私の手を取ると、指先について居た餡子を舐めとっていく。
……いや、柔らかいというかくすぐったいというか……
「うん、美味しい」
「……突然は止めてもらえませんか? 流石に驚きます」
「分かりました」
聖さんのニコニコが二割増。
「じゃあ言えばやってくれるのですよね?」
「へっ?」
「ボールに残っている餡子が食べたいので、食べさせて下さい」
ちょ、そう来ますか? 言えば良いとかそういう意味では無くてただもう少し饅頭が出来上がるのを待って欲しいなあ……と思っただけなんですが。
「駄目……ですか?」
上目遣いにお願いされてはどうしようもありません。
「分かりました分かりました……だからちょっと待って下さいね」
人差し指でボールに残った餡子を掬い、聖さんに差し出す。
ゆっくりと口中に含み、舌で低調に舐めまわされる感触。
「んっ……」
つっ……と透明な橋が唇と指を一瞬繋げ、脆くも崩れ落ちた。
「あ~ごめんなさい聖さん、我慢できません」
一言断わりを入れ、聖さんの唇を奪う。
甘い餡子の味と、聖さんの柔らかい感触がとても心地よかった。
「ふふっ……我慢できなかったのは私もなんですけれどもね」
頬を朱色に染めながら彼女は笑った。
「……さて、料理の続きをしますから待っていて下さいね」
「はい、美味しい物も頂きましたので退散いたしますね」
やれやれ……ようやく退散して頂けましたか。
さて料理の続きを……いかん、蒸し器の底が焦げた……
「おや、聖様お帰りなさい……ん? 何か良い事でもありましたか?」
「美味しい物を貰ってきたわ」
「そりゃ結構……いえ、それ以上の何かも貰ってきたように見えましたので」
「ん~……そこまでは秘密よ」
「……まあそこまで聞きはしませんけどね」
(ここまで幸せそうにほほ笑んでいたら、○○と何かあったに決まっている……やれやれ、胃がもたれる事だ)
新ろだ855(修正版856)
「聖さん」
「何ですか? ○○さん」
「私達って付き合い初めてどれくらい経ちましたっけ?」
「まぁ、○○さんは覚えていらっしゃらないのですか?」
フッ、と彼女の表情が曇る。
そんな訳無い、大切な彼女に告白して、OK貰った時を忘れてたまるものか。
「私の記憶ですと○ヶ月△□日△×時間くらいかと」
「ふふっ、大体合っています」
パッ、と彼女に微笑みが戻る。
そりゃ物覚えが悪い私だが、彼女の事だけは忘れる事が無い様に心掛けている……
まぁ、拗ねた彼女も可愛いと言えば可愛いのだが、
悲しそうにこちらを見つめられるのは正直応える。
「忘れる訳がありません」
「なのに、何故私に付き合い初めてどのくらい? とお聞きしたのですか?」
不思議そうに人差し指を口に宛て、小首を傾げる。
「いえ……何時まで経っても○○さん、ですから」
「それはそうですわ」
「何故?」
私の質問ににっこりと微笑む彼女。
「○○さんも、私の事を聖さん、とずっと御呼びしてますよ?」
「あ~……私の場合は聖さんがさん付けですから、さんを付けているだけです」
思い付いた言い訳を咄嗟に口にする。
流石に苦しい言い訳かな……
「でしたら、私も○○さんがさん付けで御呼び致しますからそうしているだけですよ」
「……それじゃ、私は聖さんが呼び捨てにしてくれたらそうしますよ」
「○○さんが私の名前を呼び捨てにして頂けたらそう致します」
……子供みたいな会話になったなぁ……
ニコニコ私を見つめる聖さん。
「聖さんからどうぞ」
「いえ、○○さんから」
おお、こりゃ不毛な譲り合いが始まってしまった。
仕方ない、もっと建設的な提案をしよう。
「ん~……ではお互い一緒に、私は名前で呼び捨てにして、聖さんは私を呼び捨てにする。
でいいでしょうか?」
「はい、分かりましたわ」
あっさり提案に乗ってくる聖さん。 罠か……って罠ってなんだ罠って。
「じゃあせーので行きますよ」
「はい、承知しました」
ニコニコが当社比二割増し、嬉しそうに私を見つめてくる。
「じゃあ、せーの」
「白蓮」
「あなた」
……はい? 今聖さんあなたと御呼びになりましたか??
私の耳ついに腐り果ててなんてものに聞き間違えてますか?
「……えーとひz「白蓮、ですよ」……白蓮、今なんておっしゃりましたか?」
「何か問題がありましたか? あ・な・た」
わぁわざわざ聴きやすい様に強調してクレター。
そんな私に白蓮は後ろに回り込み、混乱する私を抱きしめる。
「だって○○、呼び方が他人行儀で嫌って事はそういう事なのでしょう?」
「あー……いえ、まぁ結果的にはそうなるかも知れませんが……」
「なら、問題ないじゃありませんか、あなた」
視線を上げると、頬を朱色に染めた彼女が嬉しそうとゆうか、幸せそうに微笑んでいた。
ここまで彼女にさせといて、立場をしっかりしないのは男として情けないよな。
「えっと……あのさ、白蓮」
「はい、何でしょうか?」
後ろに居る白蓮に身体ごと向き直る。
抱きしめていた白蓮も、私から少し離れて畳の上に正座する。
「いつかまたちゃんと言わせて貰うし、ちゃんとした形で告白させて貰いますが……」
「はい」
ああ畜生、顔が熱いし心臓が煩く鼓動し始める。
上手く動かない口を何とか動かし白蓮に言葉を紡ぐ。
そんな私を、白蓮はゆっくりと待っててくれている。
「私と、結婚して下さい」
「はい、ふつつか者ではございますが、末永くお供させて下さい」
丁重に頭を下げる白蓮に釣られて私も頭を下げる。
顔をあげた白蓮を見てぎょっとした。
それはそうだ、何時もニコニコしていた白蓮が涙を浮かべているのだから
「えっと…白蓮?」
次の瞬間には白蓮が胸元に飛び込んで来ていた。
驚いたものの、咄嗟に彼女を受け止める。
「ごめんなさい、嬉しくて自分が抑えられなくて……」
「……いえ、私も嬉しいですし、こうして行為で示して頂けるのは幸せです」
「○○……」
胸元から潤んだ瞳で見上げる白蓮に、そっと手を添えて口付けを交わす。
軽く唇を合わせるだけのつもりが、白蓮が頭に手を回して来て離そうとしない。
更に、結婚を申し込んだ為か大胆にも舌を侵入させ、口内を蹂躙し始める。
まぁ、ハロウィンの時にあんな事をしておいて何を今更……と言えばそうだが。
彼女の舌に自分の舌を絡ませ、蹂躙しようとする舌に反撃を加え押し返し、
彼女の口内に侵入を果たす。
水音が室内に響き、しばらく彼女と舌を絡め合わせる事に夢中になっついた。
そっ、と彼女から顔を離すとお互いの唾液で透明な橋が出来上がり、
二人の中間辺りで崩れ落ちる。
「んっ……○○、その……今日は泊まっていかれませんか?」
「えっ……あ、それって」
「み、みなまで言わないで下さい!!」
真っ赤になりながら私の口を押さえる白蓮。
可愛いなぁ……
「じゃあお言葉に甘えまして、お世話になります」
「は、はい……その、優しくして下さいね……?」
(ちなみに今夜の事は不可視の魔法がかけられております。
簡単に言うならば翌日二人は寝不足気味だったそうでございます)
新ろだ2-095
「ちっ、しくじった」
まったく近頃の人間は余計な知恵ばかり付けてきて困る。
人間なんて俺たち妖怪の餌になるためにいる奴らだっていうのに。
だが、一匹一匹の力は弱くても大勢で襲ってくるからうざったい。
数をそろえれば勝てるなどということを学習すると馬鹿の一つ覚えのように襲ってくる。
何とか追い払い、逆に数人殺してやったが次はもっと多く引き連れてくるだろう。
それまでに傷を治しておかなければ。
「あら?貴方は…」
そんなことを考えていると、一人の女が近づいてきた。
ちょうどいい、こいつを食って傷を治そうと思って立ち上がった時だった。
「っ!?そんな傷だらけの体で動いてはだめです!安静にしていてください!」
「…なに?」
「今傷を治しますから!」
そう言って俺の体に手をかざす女。
その手からは暖かい光が出ていて、手をかざした部分から傷が治っていくのがわかる。
その自分の餌でしかないはずの人間に助けられるということが許せず、やめさせようとする。
「待て!俺は人間の施しなど受けん!俺はお前たちより上の存在なんだぞ!」
「そんなこと関係ありません!人間だろうと妖怪だろうと命の価値は等しいはずです!」
「違う!お前たち人間は俺たち妖怪の餌であり、それ以下はあれど、それ以上は無い!ましてや価値が等しいなどあるはずがない!」
「違います!妖怪も人間も死んだら生き返れないということでは同じです!命は等しく一つなんです!」
「同じ一つであっても価値は違う!等しくは無く常に妖怪が上、人間が下だ!」
そんなことを言い合っている間も、女は治療を続けていたのだろう、終わりましたという声とともに手が離れていく。
俺にとっては人間ごときに助けられるなど恥であり、許されることではなかった。
だが、女はそんなことを気にすることもなく、こちらに声をかけてきた。
「あの、貴方の名前は何というのですか?」
「名前だと?人間に教えるものなど一つもない」
「あ、私のほうがまだでしたね。私は聖 白蓮といいます。今は命蓮寺というところで僧をしています」
…この女は人の話を聞いているのか?
いや、待て。今この女は僧をしていると言った。
そんな人間が妖怪を助ける意味など無い。
ならば、その狙いは…
「ふん、なるほどな。傷を治し、油断させた所で殺すということか。僧といってもしょせん人間。結局はその程度ということだ」
「!?ち、違います!私は本当にあなたを助けたくて…」
「ふん。人間の言葉など聞く価値もない。人間など所詮餌にすぎぬのだから」
そう言い残してその場を去る。
女は暫くそこに留まっていたようだが、何かを唱えると、すぐに去っていった」
明けて翌日。俺は昨日のことを思い返しながら森の中を歩いていた。
人間に助けられるなど癪に障るが、今日からまた人間を襲うことができると思えばそれも気にならなくなった。
今日はどこの狩場に行こうかと考えていた時だった。
「あ、見つけました!待ってください!」
なぜあの女がここにいるのかというのはどうでもいい。
だが、女が持っているあれは何だ?
異様に膨らんでおり、どうやったらあの細い腕で持てるのかが全く分からない。
「ふう…。今日はこれを持ってきました」
「…何だこれは?」
「食べ物です。人が作った料理ですよ」
「捨てろ」
「駄目ですよ。ちゃんと食べなきゃ作ってくれた人に失礼です」
「妖怪に人の食べ物を持ってくるな。俺が食うのは人間だけだ」
今思えば、この時から俺はおかしかったのだろう。
いつもなら、問答無用で襲いかかり、そのまま食べていたはずだ。
だが、こいつに関してはなぜかそれをしなかった。
この時は気づかなかったが、この時から、いや、初めて会ったときから俺はきっと―――――――
「どうしても食べてくれないんですか?」
「しつこい。食わんと言っているだろう」
「…わかりました。ここに置いておくので食べたくなったら食べてくださいね」
…本当に人の話を聞かない奴だ。
食べないと言っているのに置いていくとは。
ただ、俺はまだ知らなかったのだ。
あいつがこの時何をしようとしていたのかを。
「おはようございます。今日も美味しいですよ」
「…昨日食わんといった筈だが?」
「人以外食べないといっても食べられないわけではないですよね?だから他のものでおなかを満たせば人は食べないで済むんじゃないかと思って」
「人間が作った物は人間以外食わん。とっとと捨てろ」
「今日も駄目ですか。わかりました。今日はあきらめます」
「…待て。ずっと来るつもりか?」
「…?はい。貴方が食べてくれるまで毎日来ます」
どうせ嘘だろうと思っていた。
一週間もすれば来なくなるだろうと。
だが、こいつは本気だったのだ。
次の日も、そのまた次の日も、一週間がたち、一か月がたち、半年が過ぎ、一年がたっても、毎日毎日来た。
だからだろう。
一年程度がたったその日に、気まぐれにそれを食べてみようと思ったのは。
「おはようございます。今日も美味しいですよ」
この言葉も一年変わることが無かった。
この日、気まぐれにそれを食べようと思って返事を返した。
「そこに置いておけ。腹が減ったら食べてやる」
「…本当ですか!やっと食べてくださるんですね」
「…気が向いたらな」
「それでもいいです。食べてみてください。ここに置いておきますから」
そう言って去っていった。
…おそらく、自分がいることで気が変わるかもしれないと思ったのだろう。
まったく、食べないと言っていた時はしつこかったんだが。
とりあえず、食べると言って食べないのも何なので食べてみることにする。
…これはおにぎりというものだろうか?
山に入ってきた人間がそう言って食べているのを見たことがある。
それをとりあえず一つ口の中に突っ込んでみる。
「…うまいな」
想像以上に美味かった。
人間はいつもこんなものを食べているのだろうか?
ほかにもいろいろなものがあることをこの一年で知っていた俺は、他のものも食べるために荷物に手を伸ばした。
そんなことであいつが持ってくる料理(というらしい)を食べるようになって一週間程度たったころ、朝に来たあいつがいきなりこう言った。
「桜を見に行きましょう」
「…は?」
「桜です。知らないんですか?」
「いや、知ってはいるが。ただの花だろう?なぜわざわざ見に行かなければならないんだ」
「桜を見たこと無いんですよね?じゃあ見に行きましょう。こっちです!」
「まて、腕を引っ張るな!妖怪の力でも引きずられるなんてどんな馬鹿力何だお前は!?」
「魔法で身体能力を強化してるんです。ほら、こっちですよ!」
「わかった!わかったから引っ張るな!」
「離すと逃げちゃいそうなんで駄目です」
くそっ。こいつと会ってから調子が狂いっぱなしだ。
人間も思ったように食えないし、こんな風に引っ張られるし。
そんなことを思いながら付いていき、数分たったころだろうか。
手を離されて、ここですなどと言われ、前を見た俺の眼に映ったのは、
――――――数十本はあろうかという満開の桜たちだった。
「何だ、これは…」
こんなもの、見たこともない。
桜とは、花とはこれほど美しいものだったのか…。
そんな俺の気持ちにこたえるかのように、あいつが言う。
「これが、私たちの自慢の桜です。綺麗でしょう?」
「ああ、そうだな…」
それは心からの言葉だった。
嘘偽りなき、本心からの言葉。
それを聞き、あいつはこう続けた。
「この桜は、私たちの代表が手入れをして、大事に育てることでこの時期に、満開の花を咲かせるんです。だから…」
「わかっている。そいつを食うな、というんだろう?これほどの景色を見せるのが人間だというのが癪だがこれが見れなくなるのは俺も嫌なんでな。そいつだけは食わないでやる」
「ありがとうございます。それと、見せるのは人間じゃありません。あくまで咲くのは桜ですから。私たちはその手助けをしているだけです。
さて、それじゃあご飯を食べましょうか。少し遠いですけど、ちゃんと桜は見えますよね?」
「ああ、見えている。これがお前が言っていた花見、というやつか」
「はい、そうです。こういうときのご飯はとてもおいしいんですよ」
「ほう、それは楽しみだ」
そう言っている時にはもう、俺は以前の俺ではなくなっていた。
人間を格下とみていたのは同じだが、これほどの景色を見せることができるものなら、まあ同じ程度に見てやってもいいと。
そう、思っていた。
時は過ぎ、夏になり。
今度は夏祭りと花火を見に行こうと、あいつはそう言った。
祭りは屋台でにぎわい、いつもは食べられない食べ物が並び、あいつは笑顔で楽しそうに食べていた。
屋台めぐりも終わり、花火の時間だというのでいい場所をとり、二人で花火を見た。
その美しさに見とれ、感動した。
また、食べられない人間が増えた。
秋。
収穫祭だというので、またあいつに引っ張られて見に行った。
いつもとは違う豪華な料理。
そのすべてが今まで食べたものより美味しく、この祭りの時にしか食べられないものであり、収穫が無くなれば食べられないことを知った。
また、食べられない人間が増えた。
冬。
田畑も、草原も、人間が住む村も、すべてに雪が降り積もり、見渡す限りの銀世界。
そこでは大人はたき火に当たり、穏やかに笑い、喋りながら、寒い中雪で遊ぶ子供たちを見ていた。
その光景を見ながら、本当にうれしそうに笑うあいつの顔を見て、自分に芽生えた感情を知った。
その顔が悲しみに変わるのを見たくないと思い、その結果、また、食べられない人間が増えた。
春。
今年もまた桜が咲くころになればあいつが腕を引っ張り俺を連れていくんだろうと思っていた。
…あんなことがあるまでは。
「すいません…。私が来れるのは多分今日までです」
「なに?何故だ?」
「貴方はもう人を襲うことは無くなりました。だから、私はまた別のところへ行って他の人を救おうと…」
「嘘だな。何があった?話せ」
「ごめんなさい…。さようなら」
「お、おい!くそっ!」
走り去っていったあいつを追い、俺も走る。
だが、魔法とやらで身体能力を強化しているあいつに追いつけるはずもなく、すぐに見失ってしまう。
仕方が無いので、あいつが住んでいるという村へ行き、姿を隠しながら情報を集める。
すると、とんでもないことが分かった。
「なあ、知ってるか?あの尼さんの話し。妖怪を助けてたんだってよ」
「ああ、それで今度封印されることになったってやつだろ?まあ当然のことだよな」
「ああ、そうだな。妖怪なんて助けたって何の意味もないってのに」
「むしろ俺たちの被害が増えるだけってな。ほら、そろそろ畑に行くぞ」
「おお、そうだな」
…あいつが、封印される?
信じたくはなかったが、どこも同じ話をしていたので、間違いではないとわかった。
日時も場所も調べ、もうすぐだと知り、急いでそこに向かう。
すると、そこには、十人以上の僧兵と、その真ん中にあいつがいた。
もう封印は始まっており、体が足から門のようなものに飲み込まれていた。
それを見て俺は、僧兵の中心にいるあいつのところへ駆ける。
「邪魔だ、どけ!」
周りにいる僧兵をなぎ倒し、あいつの下へたどり着く。
そして、これほどまでに大きな声を出しただろうか、という声で叫ぶ。
「おい、白蓮!聞こえるか!?聞こえるなら眼を開けろ!」
その声に反応してか、もう足がすべてのまれかかっている白蓮が眼をあける。
「あ…。やっと、名前で呼んでくれましたね」
「そんなことはどうでもいい!なんでお前は自分から封印なんてされるんだ!?お前はそんな奴じゃないだろう!」
「それを望まれれば、私は従います」
「じゃあ、お前はどうしたいんだ!お前は、それでいいのか!お前は本当はどうしたいんだ!」
「私は…。私も、貴方と一緒にいたい!貴方と同じ時を過ごしたい!」
「俺が、必ずお前を見つけてやる!どれだけ時が流れても、どれだけ遠い場所でもだ!だからその時にちゃんと俺の名前を呼べ!いいか、俺の名前は―――――」
その声が聞こえたかどうかは分からない。
ただ、視界が白く染まり、気付いたら白蓮は消えていた。
そのあと俺は僧兵から逃れ、白蓮を封印してある場所を探す旅に出た。
春。
前とは違う場所で桜を見た。
あの時ほどきれいとは思えなかった。
夏。
花火を見た。
綺麗だったが、何かが足りなかった。
秋。
収穫祭をやっているのを見た。
食べてみたが、それよりおいしい物は記憶の中にあった。
冬。
雪の中笑う大人と遊ぶ子供を見た。
隣にあの笑顔が無いのが辛かった。
季節の巡りを繰り返し、旅は続いた。
手掛かりは僧兵が言っていた魔界と法界という言葉。
それに関することを知るためには何だってした。
かつては見下していた人間と共に過ごし、時には頭も下げた。
知っているという人間がいれば西の果て、東の果てに赴いた。
だが、どうしようもなかった。
それどころか、ある時期を境にどんどん力が落ちていくのを感じた。
人間が、幻想の存在として妖怪を排除しようとしたからだ。
そんなとき、俺の前の一人の女が現れ、こう言った。
「幻想郷へ、来る気は無い?」
その女は八雲紫と名乗り、そう聞いてきた。
曰く、幻想となったものたちを集める場所。
妖怪、妖精、神。そういったものたちが集まる場所ならば貴方が求める情報もあるかもしれない、と。
その言葉に、俺は頷いた。
そして、幻想郷で情報を集め出したが、その当時はまだ力がすべてであり、集めるどころではなかった。
その後、博麗の巫女などが出てきて、秩序もでき、情報を集め、今、俺は、命蓮寺の前にいる。
そう、白蓮が言った寺と同じ名前だ。
間違っているとか偶然なんて信じていない。
だって、俺の前には白蓮がいて。
そして、あのとき言えなかった言葉を言おう。
「白蓮、俺はあのときの約束を守った。だから、お前も約束を守れ」
「はい、〇〇さん…」
「それと、もうひとつ言うことがある」
「え?」
「愛してる、白蓮。だから、これからはずっとお前のそばにいる」
「はい、私も、貴方のことを愛してます。〇〇…。これからは、ずっと一緒です…!」
そうして、俺は思った。
泣き顔も、嬉しいという感情で泣くのならば、美しいのだと。
そして、誓った。永遠に、俺は白蓮と一緒にいようと。
最終更新:2010年10月16日 23:44