白蓮2
新ろだ2-159(新ろだ2-095続き)
「そういえば、〇〇はいったいなんの妖怪なんだい?」
「…なんだ、いきなり」
朝食を食べている途中、そんなことを聞いてきた
ナズーリンにそう言い返す。
そう返された
ナズーリンは、それを予想していたかのようにこちらに言い返してくる。
「いや、〇〇が妖怪で、聖と知り合いということはわかるんだが。〇〇がなんの妖怪かずっと気になっていてね」
私たちのように分かりやすい特徴があるわけでもないし、と付け足してくる。
その言葉に、賛同する声が上がる。
「それは、私も気になっていました。それぐらい、教えてくれてもいいのではないですか?」
と、言ってきたのは星だ。
…まったく。そんなことはどうでもいい部類に入ると思うんだが。
それでも、隠すほどのことでもないし、答えてもかまわないだろう。
「そうだな。俺は「あ、だめですよ」…白蓮?」
言おうとした俺の声を遮り、白蓮が告げる。
なぜそんなことをするのかが分からず、聞き返す。
「どうした?別に教えて困ることでもないだろう?」
「そうですよ、聖。何か特別な理由でも?」
俺の言葉に賛同して、星も言う。
ナズーリンも、口には出していないが、同じような視線を送っている。
だが、それに返って来たのは、
「どうしてもです!」
という白蓮の声だけだった。
結局その後も、白蓮は何も話そうとせず、白蓮がそんな調子ではその話題に戻れるはずもなく。
そのまま、会話らしい会話もなく、時間だけが過ぎていった。
朝食も終わり、白蓮が寺のほうに行った後に、先ほどのことについての話になる。
「…どうしたんだい、聖は?〇〇、何かやったのかい」
「…いや、何もやっていないが…」
ナズーリンの言葉にそう返す。
…というか、なぜ俺が何かやったというのが初めに出てくるんだ。
「だとしたら、ますます分かりませんね。〇〇も分からないんでしょう?」
「ああ、分からん」
今度は星も言ってくるが、皆目見当がつかない。
それを聞くと、
ナズーリンが諦めたように言う。
「じゃあ、私たちにも分からない、と。それより〇〇。今日は何か用事があると言っていたけど、そっちはいいのかい?」
「ん?もうこんな時間か、行ってくる。夜には戻る」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして、目的地に向けて歩いている最中、先ほどのことについて考える。
…どうしたんだ、白蓮は。
そんな言葉が俺の頭の中を回っている。
何もおかしなところは無かった。
ナズーリンはただ気になっただけだろうし、別に隠すようなことでもない。
なのになぜ、白蓮はあんなにも教えたがらないのか。
そんな答えの出ないことを考えながら歩いていると、いつの間にか目的地に着いていた。
――――――香霖堂。
そこにある家には、そう名前が書かれた看板が下げられていた。
…しかし、いつ来ても物で溢れかえっているところだ。
タヌキの置物に店の名前とは違う看板。その他にも使い道のわからないものが数多く置いてある。
もっとも、今日はそんなものを見に来たわけではないので、無視して店に入っていく。
「いるか、―――。頼んでおいたものを取りに来た」
「ああ、いるよ。それと、何度も言うけど、僕の名前は森近霖之助だ。君の知り合いに僕と似た人が居るのは分かったから、そろそろ、名前を覚えてくれないか」
「すまない、つい呼んでしまうんでな」
そう言いながら、店の中にいる霖之助のほうに向かっていく。
外も外なら、中も中だ。品物で溢れかえっている。
だが、今日の目的はそれではない。
単刀直入に用件を言う。
「それで、できているのか?」
「当然だろう?商売である以上、期限までに仕上げるのは当然だ。今、取ってくるから待っていてくれ」
そう言って店の奥に戻っていく霖之助。
数分ほど経っただろうか、手に二つの小さな箱を持って戻ってきた。
そして、箱の中身を見せて説明を始める。
「頼まれた通り、この宝石に力―――魔力や妖力、霊力だね――――を溜めて、身につけた人に危険がせまったとき、簡易の障壁を張る機能を付けておいた」
この模様がそのための魔法文字で―――と解説を始める霖之助の言葉を遮り、言葉を発する。
「いや、言われたところで分からんから別にいい。それより、いくらだ?」
「なんだ、これからが重要な所なんだけどね。ああ、別にお代はいらないよ」
「なに?だが、それでは…」
そういった知識が無い俺でもわかるほどに、その品物を作るのに手間がかかったことが分かる。
それほどの物を作ってもらったというのに、金を払わないのは失礼だと俺は思う。
…もしや、俺が金を持っていないと思っているのか?
だが、そんな俺の考えを読んだかのように、霖之助が言う。
「君が獣を狩り、それを売ってお金を得ていることは知ってる。お金が無いとかいう風に思っているんじゃないから安心してくれ」
「…ならば、何故だ?それを作るのに時間も手間もかかったはずだぞ?」
「まあ、契約ということかな。君と初めて会った時、僕は君に命を救われた。それを覚えているかい?」
「ああ、覚えている。半妖ということで襲われていたんだったか」
「そうだ。その時に交わした約束があった。命を救われた代わりに、君が望む、世界を渡る道具を見つけたとき、君に渡す、と」
「…そうだったな」
「だが、僕はそれを見つけられず、君は彼女と共にある。なら、これはその代わりだ。お代を受け取るわけにはいかない」
「だが、それではお前に何の得もないぞ?」
「何、君たちがそれを付けていてくれればいい。他にもそれを欲しがる人はいるだろうしね」
特に最近は、外来人が多くなっているようだし、と付け足す。
霖之助がそう言うということは、あくまで金を受け取るつもりはないということだろう。
ならば、素直にもらっておいたほうがいい、か。
「わかった、厚意に甘えることにしよう」
「ああ、そうしてくれ。そうしなければ、いつまでたっても君に、借りを返せないからね」
「そうだな。なら、今度はあいつと一緒に来るとしよう」
「楽しみにしているよ」
その言葉を聞きながら、店を出る。
…さて、どうやってこれを渡そうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その夜。
白蓮は、朝のことなど無かったかのように振る舞い、他の奴らも気にしないことにしたようだ。
そうやって、いつも通りにぎやかに食事がすんだところで、白蓮に呼び掛ける。
「白蓮、…その、なんだ。星でも見ないか」
「星ですか、いいですね。今行きます」
そして、今。
俺と白蓮は縁側に座り、星を見上げている。
とりあえず会話の糸口をつかもうと、言葉を発する。
「…外とはだいぶ違うな。よく見える」
「外でもこんな感じでしたよ?」
「お前が封印されて、何年たったと思っている?外はもうこんなふうには星は見えんぞ」
人間が科学とやらを使いだし、空気は汚れ、自然は破壊された。
さて、今は外はどうなっているのだろうか。
「そうなんですか…」
「そうだ。…そういえば、朝のことだが」
「…な、何のことでしょうか」
そう言った途端、眼があらぬ方向を向いた。わかりやすいやつだ。
だが、そんな反応をするということは、自分でも悪いと思っているのだろう。
それを疑問に思い、聞いてみる。
「なぜそこまで隠そうとする?俺の種族など知られてもかまわんだろう。お前が苦しむだけだぞ?」
「え~っと、ですね…。言わなきゃだめ、ですか?」
「他の奴らも不思議そうにしていた。理由があるならいったらどうだ?真っ当なものなら全員納得するだろう」
「えっと、〇〇さんは自分の種族を言ったことが無いんですよね」
「…?ああ、言う必要が無いからな」
そもそも、外で自分は妖怪だなどと言えば、退治されるのがオチだ。
だからこそ、気配を隠す術は真っ先に身に付けた。
「だから、今〇〇さんがなんの妖怪か知ってるのは私だけ、なんですよね?」
「…そういうことだな」
「だから、です」
「は?」
「だから、えっと、二人だけの秘密にしておきたいなって思うんです」
「…それだけか?」
それが、俺が初めに思ったことだった。
二人だけの秘密、というのがそんなに魅力的なのだろうか。
だが、白蓮はそんな感覚ではなかったらしい。
「だって、それが、今私と〇〇さんを繋ぐ唯一のものなんです!それが無くなったら、また離れ離れになっちゃうんじゃないかって、不安で…!」
「…何を言っているんだ、お前は。そんなことあるわけがない。俺は永遠にお前と共にいる」
「心からそう思ってくれているってことは分かってるんです!でも、またあの時みたいに別れてしまうんじゃないかって、考えてしまうんです…」
…全く、そんなことを思っていたのか。
だが、これはあれを渡すいい機会かもしれない。
少なくとも俺は、こんな顔をさせるために、何百年も探し続けたわけではないのだから。
「…おい、白蓮。左手を出せ」
「え?…えっと、これでいいんでしょうか」
「そうだ、動くなよ」
そう言って、薬指に今日霖之助のところでもらってきた指輪を通す。
少しの間それを見つめていた白蓮だが、気になったのだろう」、指輪について聞いてくる。
「あの、〇〇さん、これは…」
「外の世界の風習だ。これから先の生を、永遠にともに生きようという誓いらしい」
そう言って、俺の左手―――正確にはその薬指―――を見せる。
…そういえば、大きさが丁度いいな、これは。
まあ、あいつのことだ。そういう魔法金属でも使ったか、術式でもかけてあるのだろう。
そんなことを考えていると、俺の指にあるものに気づいたのだろう、白蓮が呟いた。
「あ…、同じものが…」
「まあ、分かりやすい言葉で言うのなら、こういうことだ。…俺と、結婚してくれ」
「……はいっ、〇〇さん!」
そう言って笑った白蓮の顔は、今まで見たどの顔よりも美しく。
そして、守るべきものをもう一度確認し、俺は白蓮を抱きしめた。
避難所>>175-176
白蓮さんは距離感がバグっている。
誰にでもというわけではないらしいのだが、そういう問題ではない。
まず話す時の距離が物理的に近過ぎる。
人にはパーソナルスペースというものがあり、本当に親しい友人や恋人でもなければ50cmから1m程は離れていないと人は不快に思うと聞いたことがある。
だが白蓮さんはそんなもの関係あるかと密着してくる。零距離、なんなら手とか握ってくる。
一度それとなく距離が近いことを指摘したことがあるが、『お嫌ですか?』と上目遣いのコンボに俺はあえなく撃沈した。あれに耐えられる男は多分男色だ。
次にスキンシップが過剰ということも挙げられる。
先述したように話すだけで手を握ってきたりするのだが、それはまだマシな方である。
ボディタッチなんて生易しいものではなく当然のように抱きついてくる。胸部にあるふくよかという言葉から二段階くらい上に位置する双丘が押し付けられることは男として嬉しいが、こうも日常的にされれば理性やら気力が削れていくのでわりと辛い。
他にもお茶を勧めてくるテンションで膝枕からの耳掃除を提案してきたり、隣に座っていると太ももを摩ってきたりする。この人が組織のトップとかうせやろ。
あとは別れる時にやたらと寂しがったり、次会う約束を取り付けようとしてきたり、なんならたまに家に押しかけてきて料理作ってくれたりする。
白蓮さんが帰った後に俺の秘蔵本が無くなっていたが因果関係は無いと思いたい。
と、まあ、そんなわけで白蓮さんの距離感のおかしさについてはわかってもらえたと思うが、彼女が俺に対してこうなる理由が今日わかった。
わかったというか正確には寅丸さんに教えてもらったのだが、白蓮さんには弟がいたらしい。そして彼女と弟さんが仲がよかったらしい事も。
つまり、そこから導き出される答えはこうだ。
白蓮さんは俺を弟の代わりのように思っている。
考えてみれば単純なことである。
初めて白蓮さんと会った時、彼女はとても驚いた顔をしていた。これはおそらく俺が弟さんに似ていたか、或いはどこかに面影を見たのだろう。
パーソナルスペースをガン無視していたことも、家族相手と考えればそう不思議でもない。
ただただ、弟への愛情が変換されて俺に向いただけということだ。
惹かれていた女性がそういう目で俺を見ていたことは少し残念だが、なに、怒る程のことでもない。
元々俺はイケメンでもなんでもないのだから、白蓮さん程の美女にガチ恋距離でいさせてもらえるのなら代替品がなんだ。お釣りがくるレベルの幸運だろう。
実際問題、この事に気づかなければ勘違いをして告白をしてしまっていたと思う。そうなればお互いにとても気まずい思いをすることになっていたわけで、それを未然に防げたのだから良しとしようじゃないか。
さて、今日は命蓮寺に遊びに行く日だ。
安心してくれ白蓮さん。俺はきっと立派に弟を演じきってみせるから。
*
〇〇さんはとても鈍い。
私がたくさん好意をアピールしているのに全然気づいてくれないのだ。
例えば、話す時に体が触れるくらいに、いやガッツリ触れているのに平然としている。
友人でもそんなに近づいて話さないだろうという距離なのに、笑って会話を続けられてしまう。それはそれで拒絶されていないようで嬉しいけど、そうじゃない。
悔しくて手を取って両手で握ってみても、軽く驚いたように一瞥するだけでまた何事もなかったように話に戻られる。
一度だけ距離の近さに言及されたことはあるが、一度許されたこの距離を離される事が嫌で必死に頼んでみたら笑って許してくれた。好き。
近づくだけではダメかとスキンシップもたくさんしたが効果は薄かった。
手前味噌になるが私は男好きのする身体をしていると思う。なので思い切って抱きついてみたりしたのだが、他の男にこんなことをしたらどうなるかと窘められてしまった。大事にされているみたいでちょっと嬉しく思ってしまったのが悔しい。
他にも膝枕を提案してみては軽く躱されたり、はしたないとは思ったが隣に座った際に太ももを触ってはその手を握られて返り討ちにあった。〇〇さんから手を握られて舞い上がったのは内緒。好き。
ちなみに〇〇さんが遊びに来た日は絶対に次に繋げられるように頑張っている。
別れを惜しんで泊まりを勧めても全て断られているが、次に会う約束は何があっても取り付けるという鋼の意思で交渉をする。私の想いが伝わっているのか断られた事はないが、どうせ伝わっているなら告白してほしいなんて思ってしまう。好き。
あと彼の家の場所を本人から教えてもらったので、約束とは別にたまに押しかけたりもしている。
少し戸惑った顔をされたりするがそのまま帰らされたことはないし、料理を作ると美味しそうに食べてくれてそれだけで幸福感に包まれる。好き。
あ、あと〇〇さんに必要なさそうな本は処分しておいた。ああいうのはダメだと思う。
しかしこれだけしても〇〇さんは私の好意に気づいてくれない。
私は〇〇さんがこんなにも好きなのに、多分欠片も伝わっていない。
私と〇〇さんが初めて出会った時、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。
男前というわけではなかった。だがそんな事関係ないというように心臓は跳ね、顔が熱を帯び、瞬きすら出来ず目を離せなくなった。
一目惚れである。これ以上ない程の一目惚れだった。
私はすぐに声をかけた。口にする言葉にあれほど気を使ったのはこの長い人生の中で初めての事だった。
そのおかげか悪くない印象を与えられたと感じられ、そう感じた私はすぐに命蓮寺に遊びに来てもらう約束を取り付けた。この初めての感情を、恋を諦めたくなかったから。
〇〇さんはとても優しい人で、初対面にも関わらず私のお願いを聞いてくれた。わたしはもうそれだけで昇天するかと思う程嬉しかった。
命蓮寺の皆に聞いて男性が喜ぶ接し方を学んで、やってきた〇〇さんに実践した。死ぬほど恥ずかしかったけど頑張った。まあ、効果は薄かったのだけれど。
それでも、私は〇〇さんと過ごせば過ごすほど彼を好きになっていった。今もずっと〇〇さんという男性への恋心は大きくなっている。
嫌われてはいない、と思う。
〇〇さんは優しいけど嫌な事はそれとなく伝えてくれる人だ。嫌いな相手にここまでの行為を許すとは思えない。
それに。〇〇さんは時々私の胸やお尻を見ていたりする。なので少なくとも情欲の対象ではあるはず。私が求めるのはそのもっと手前の感情ではあるけど。
正直に言えば〇〇さんに問うてみたい。私をどう思っているのか、私は恋愛対象になり得るのか。
だけど、それを聞いてしまえばもう結ばれるか決別するかしかないのだ。
結ばれるなら良い、私が求めた最高の結果だから。
だが、もし、もしも否定的なことを言われたら。そんなこと、想像すらしたくない。
……なんて、絶望的な考えをしてしまったけど、まだそこまで焦らなくてもいいと思う。
まだ私達が出会ってからひと月程しか経っていない。まだまだ〇〇さんを知り、好きになる段階だ。
その間に私のことももっと知ってもらって、彼にも好きになってもらいたい。
そのためにも私は自分の持てる全てを使って頑張るしかないのである。
そして今日は〇〇さんが来てくれる日だ。私の大好きで、愛しい人が私を訪ねてくれる日だ。
いっぱいお喋りしよう。たくさん触れよう。できる限り好きを表そう。
単純なもので、それらの事を思い浮かべるだけで気分が高揚しドキドキと胸が高鳴る
あぁ、恋とはなんと素晴らしいことか。
早く、早く。心からお待ちしております、〇〇さん。
特に続かないすれ違いもの導入
最終更新:2024年07月26日 00:12