萃香2



うpろだ287


「たらったら~ら~♪」

意味の分からない歌を口ずさみながら、少女が歩いている。
その足取りは軽く、舞うように、跳ねて、如何にも楽しげだ。
俺はその後ろを、両手に料理を持って歩いていく。
床から伝わる、彼女の跳ねる振動がとても気持ちいい。
人は元来感受性が強いといわれるが、きっと俺の気持ちが浮ついているのも、そのせいに違いない。
両手に持つ料理。一切俺は手を加えていない。俺は料理なんて出来ない。
いや、この幻想郷に住むようになってからは、多少の家事は出来るようにはなったが……料理なんて、人に見せられたもんじゃない。
だから、俺の持つ料理は、俺が作ったものじゃない。
だからといって、目の前を歩く少女が作ったものでもない。
要するに、出来合いの物だってこと。この幻想郷でもスーパーマーケットのようなものはあるらしい。
そこから買って来たと、言っていた。

「ちゃんとお金は払ったよ!」

嘘をつけ。俺はお前が金を払っている所なんて見たことがない。
どうせ、今回もきっと、かっぱらって来たのだろう。「ツケで」とかぬかして。まあ、俺にはどうでもいいのだけど。
そして、いつかは、金を払わなければいけないのだろうけど。


足の裏で、彼女の足音を聞く。
たん、たん、たんっ。
気持ちのいい、足音だ。そしてそれに混じる、嫌な金属のような音。
それは、彼女の体に巻きついた鎖から連なっている。
形はそれぞれ違うけれど、その鎖と金属が示すのは――戒めと呪縛だ。
小柄な体躯に、何でそんなものをつけなければいけないのか、俺は知らない。
知らないけれど、俺の気持ちはそんな事を気にはしていなかった。
無慈悲なほどに、知ろうとしていなかった。



↓↓↓



「というわけで、今日は○○としっぽりお酒でも呑みましょう」
「萃香……。俺はお前が酒とお茶以外の飲み物を飲んでいるところを見たことがないんだが?」
「それは○○の目が節穴なんだよ。お酒を呑めば直るよ!」
「なんでだよ。そして字が違う」


「お酒は百薬の長だって言うじゃない」
そう言って萃香は杯に酒を注ぐ。ツン、と強い匂いが部屋の中を満たす。
それを幸せそうに嗅いでから、萃香は杯を俺に差し出した。
受け取って、軽く口をつけた。途端、口の中が酒の匂いで一杯になる。
悪くない、とてもいい味をしている。だけど…………!


「から…………」
「あははは、○○ってまだこの味に慣れないんだね。毎日のように飲んでるのにさ」
「その酒が辛すぎるんだよ……あ~、喉がひりひりする」
「軟弱者だぁ~」


俺を指差して萃香は笑う。花がほころぶような、笑顔。
その笑顔に突き動かされたのか、俺はこう言っていた。
「萃香、好きだ」と。
萃香は、その言葉に首をかしげる。意味が分からないといった風に、首をかわいらしく曲げて見せた。
ほんの少しの時間、それでも意味を理解するには十分だったらしく、やにわに彼女は顔を赤くした。


「や、やだなぁもう。冗談きついよ、○○」
「冗談なんかじゃない、お前のことが好きなんだ」


ぴたりと、萃香が動きを止める。
手の平で顔を覆ったまま、くぐもった声で俺に問いかける。
「本当に? 手の込んだ悪戯でなく?」
俺は頷いた。悪戯なんかじゃない、本気なんだ。そう答えた。
萃香俺の近くへと、ほとんど膝の触れる距離まで、つつと近寄る。
そして、そっと俺の手を握った。顔は俯いたまま、握った手と手を見つめている。

「あのね、だったら誓って」
「誓っ……?」
「うん、私と一生、ずっと、私が死ぬまで、○○が死ぬまで、一緒に居てくれる?」

俯いたまま、そう呟く。
妙に艶のある声で、撫でるように萃香は言う。
跳ねる心臓を気合で抑えつけて、俺は声を絞り出した。
当然、俺はその問いに『応』と答えた。否定などするはずない、しようもないからだ。
萃香が小さく頷いた。
その顔をあげた。ゆっくりと、俺の目にはビデオのスロー再生のように見えた。
その表情は、俺の顔を見つめるその瞳に、薄く開いた唇に、





「嘘つき」





何の感情もなかった。


───────────────────────────────────────────────────────────

うpろだ316



「○○~~宴会なのに酒を飲まないのかぁ~?」

「いや、萃香さん…僕はお酒は苦手なんですよ……」

「いいから、飲め飲めーーー」

「ちょ……やめ! んぐぅぅっ!! 」






数時間後――――

私の目の前には酔っぱらっている○○の姿があった。

数年前、幻想郷に迷い込んできた外の世界の人間。

性格は至って大人っぽく穏やかで優しい。

人畜無害が服を着て歩いているような男。

私は、そんな大人しくて優しい○○のことが大好きだ。


でも、私が○○を攫おうと彼に勝負を挑もうとしても――――

いつも黒白の魔法使いや紅白の巫女が邪魔をする。

だから、皆に酒を飲ませて前後不覚になったところで

○○に勝負を挑み、強引にでも攫ってやる!!


……本当はこんな卑怯な真似は大嫌いだ。

だけど……私は、どうしても○○が欲しい。

○○が、他の女のモノになる前に。


「○○……」

「んん~~~なんだ萃香ー?」

「私は、おまえが好きだ! おまえが欲しい……」

『ぶふぅぅ―――――――!!』


何人かが飲んでいた酒を噴き出す。


「ス、スクープです!! 特ダネですっ!!」


天狗が酔っぱらいながら騒ぎ、パシャパシャ写真を撮っている。


「ぉぅぃぇ~! 俺も好きだよ~~萃香ぁ~~」

「え?」

「霊夢も、魔理沙もみんな、皆、だいすきさぁ~~~」

「ち、違う……そうじゃなくて……」

「ほぇ?」

「私は、一人の女としてお前を愛しているんだ!!」


○○の動きが止まる。

そして、酒に侵食された頭で、私の言ったことを理解し――――


「う、嘘だろう~……?」

「いいや、本当だ……私は、今すぐおまえが欲しい」

「じゃあ……俺に勝てたらいいよ~~!!」


一瞬、呆気にとられた。

人間が?

鬼である私に?

酒に酔うあまりに、どれだけ無謀な発言をしたかわかっていない○○に

少しだけ罪悪感が湧いてくる。


だ…だけど……

こんなチャンス、もう2度とない!!


「言ったなぁ! なら、一対一で勝負だ!」

「おぅけぇ~ べいべぇ~~! 」


表に出ようとする○○の歩行は、完全に千鳥足になっている。


「おっとっと~! ……ってお菓子あったなァ~」


そして、私たちは表に出て対峙した。


「んじゃ、いくよん~~」


一枚のカードを取り出した。


「……スペルカード!? 使えないはずじゃ――――」

「   ド リ フ の
 約束『 突き穿つ――――

              金 ダ ラ イ
         ――――死翔の金皿 』!! 」


上空から私めがけて金ダライが降ってきた。


「ふん、こんなものすぐにかわして――――」


カ ー ン !!


!!!!????


これ以上ないほどに奇麗な乾いた音が響き渡った。

確かにかわしたはずの金ダライが私の頭に直撃する。

痛い。

ものすごく痛い。

な、なんで……?

かわしたはずなのに……!!


「ちなみに、その金ダライは『お約束』なのらから……絶対に回避できないのら~~~ウイック!」

「~~~~~~~~~ッッ!!」

「むー……大丈夫、萃香?」

「いたい~~!」

「う~ん……ごめんよう、萃香ぁ……」


なで なで なで……


「痛いの 痛いの~~飛んでけぇ~~~」

「う……(////⊿//)」


○○の手……大きいなぁ

頭を撫でられるのがすごく気持ちいい――――


――――って、そうじゃなくて!

今は勝負の最中だってば!!


「それでね~ 萃香ぁ、やっぱり将棋で勝負ら!!」

「は?」


何がやっぱりなのかわからない。


「な……なんで将棋?」

「うんとねぇ、弾幕とかスペカとかで傷つけちゃったらヤらからぁ~~~ウイック!」

「――――ッ!!」


舐められた屈辱と……『傷つけたくない』と言われたことによる喜び。

……怒っていいのか喜んでいいのか複雑な気分だった。


そして10分後……


「ははっ、全然ダメダメだな」


勝負の舞台を将棋へと移した私は、○○を完全に追い詰めていた。

○○の戦法は、私の駒をしゃむに取って 手駒を増やそうとする典型的な素人戦法。

一見、駒が少ない私のほうが不利に見えるが

○○の玉将は完全にこっちの駒に囲まれてしまっている。


――――このままいけば、間違いなく勝てる!!


「ダメじゃないよん~~、ゲームは家に帰るまでが遠足なのですよぅ~」


……意味がわからない。


「うい~……ヒック! んじゃ、そろそろいこうかな~~くふふふふ!」


何を思ったか、○○は 一枚のカードを取り出し

突如として、詠唱を開始した。


「I am bone of my turn. ―――― 体は我道で出来ている。――――」


「え?」


「I have created over a thousand turns. ―――― 幾たびの戦場を越えて不敗。――――

 Unknown to Death. ―――― ただ一度の敗走もなく――――

 Nor known to Life. ―――― ただ一度の 理 解 も されない。―――― 」


「な……なんだ、この詠唱!?」


「So as I pray, ――――


         ア ン リ ミ テ ッ ド タ ー ン ワ ー ク ス
 ―――― 我道『 ず っ と 俺 の タ ー ン 』!! 」


「――――!?」


周囲の空気が異質のモノに変わる。

しかし、何かが起こる気配はない。


「俺のターン!! 三4歩! アレ、四3歩だったかな~~?」

「ふふん……何か よくわからないけど、お前の負けだよ! 王――――」

「俺のターン!! 飛車ゲット~!!」

「ちょっ……何で2回も――――って、嘘!? 動けない!?」

「ご覧のとおり~、萃香が挑むのは無限のターン。我道の極地~! 恐れずしてかかってこいやぁ~!! 」

「な……」


あまりのことに声すらも上げられない。

そうして、○○は身動きがとれない私に次々と――――


「いくぞ~萃香ぁ! 駒の貯蔵は十分か~!? 俺のターン!! 角行ゲット!!

 俺のターン!! 銀将ゲッ(ry

 俺のターン!!(ry

 俺のタ(ry

 俺(ry 」





「……これでターンエンドだ!」


数十回のターンが終わった時には、すでに大勢は完全にひっくり返されていた。


↓↓のような感じで

__________________
|○○ ● ○○○
|○○   ○○○
|○○○○○○◎○
|○○○○○○○○
|

※注意
●:萃香の王将
◎:○○の玉将
○:○○の駒(なお殆ど成り金)




萃香も含め、その場にいた全ての者たちの心は――――


『鬼だ……』


――――今、完全に一つになっていた。


「あははははァ! 俺の勝ちだ――――」

「くっ……」

「んじゃ、萃香を攫うかぁ~」

「は!?」

「鬼は人間を攫う~~~」

「や、ちょっと……!!」


ち、違う 逆だよぉ!

私が鬼で、あなたが人間だって!!


「むむむぅ~~~暴れないの! いい子にしなさいってばぁ~~~」

「きゃっ!」


私の両腕が頭の上で、○○の片手に抑えつけられた。

え? ちょ、ちょっと待ってよ……!


「んんん? そういえば そういえばぁ~……鬼は地獄だから……えーと……」

「う、うそ!? 外れない!!」


力を込めて外そうとしてもビクともしない。

う、嘘でしょ……!?

なんで人間にこんな力が!?

お酒飲ませただけなのに!?


「そーだぁ……キス地獄に落としてやろう!!」

「へ? んぐぅっ!? ……ん………んんッ!!」


気付いた時には、私の唇は○○に蹂躙されていた。

否、唇だけではない。

○○の舌は、私の舌や口の中すべてを嬲り尽している。

けれど、それは脳髄がトロけるように、甘くって情熱的で激しくて――――

数十秒も経った頃には、私の身体には全く力が入らなくなってしまっていた。


「っぷはぁ……」


唐突にキスが終わる。


「あ、あの……○○?」

「んん~~~い・い・に・お・い~♪」


悪意などは全く感じられず、ただ無邪気そのものな目。

しかし、今はむしろそれが恐ろしい。

このままじゃ、私 ○○のされるがままに……

ヤ、ヤだっ……

嬉しいけど……求められるのは 嬉しいけどっ!!


「だ……ダメダメダメぇっ!!
 嬉しいけどっ! そういうのは結婚してからじゃなきゃダメなの――――!!」


○○の身体がのしかかってきて

ああ……


「……ねむ…………」


―――― 私は覚悟して目を閉じた。


「え……?」

「……すー……すー……」


目を開くと、酔いつぶれてしまった○○が私にのしかかっていた。

え……と

助かった?


「び……びっくりしたぁ……」


こ、ここまで大胆な性格になるなんて――――

生まれてからひどく長い時間生きてはいるが、ここまで強く迫られたことはない。

ものすごく、ドキドキして

自分が自分でないような昂揚感がして

クセになりそう……


「ん?」


そして

いくつも生温かい視線が 襖の向こうからこちらに向けられていることに気づき――――


「み……みみみ見るな―――ヽ(//Д////)ノ―――!!」






「あ~ぁ、失敗だったなぁ……」


―――― ○○さんの能力発覚!『妄想ネタを武装とする程度の能力』+『怪力』!!(酔いどれ時のみ) ――――


天狗の新聞を見ながら、私は呟いた。

当然、私のセリフも全部記載されてあった。

恥ずかしい。

しかし、それ以上に厄介なのは――――

○○のことが……もっと好きになっているってこと。

平常時の大人っぽくて優しい○○と、酔いどれモードのちょっと子供っぽいけれど強引に迫ってくる○○。

そのギャップがたまらなく愛おしい。

け、結婚するまではああいうのはダメだと思っていたけれど

昨日、あんなに強引に唇を奪われて、押し倒されて――――

今までにないくらいドキドキしたというか……


「べ、別にあのまま ○○に襲われたかったとか……そ、そんなこと……」


などと我ながらベタなセリフを言っていることに気づく。


「うぅぅ~~~~(////_//)」


たぶん、私の顔は相当に赤くなっている。

気を紛らわす意味も含め、私はボソッと一言呟いた。


「こ、今度……二人っきりの時に酒飲ませようっと」

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10スレ目>>422


山の中を走る、木を足場に飛ぶ、跳ぶ
「待てっ!逃げるなぁぁぁ!!」
「いい加減諦めろよぉ!」
「だが断る!この○○の最も好きなことのひとつは嫌がる幼女を無理やり追い回す事だ!」
「犯罪!?」
俺が追っかけまわしているのは見かけ幼女の強力夢想
「告白ぐらいさせろぉぉぉ!返事しろー!」
既に山を二つぐらい越えている、いったいいつまで逃げるつもりなのか
そう思っていると、彼女が急に止まり、此方を向いた


「お、やっと諦めt うをっ!?」
逃げ切れないので俺を行動不能にして逃げようという魂胆か
萃香の鎖は俺の脇腹横を掠めていった
「ちっ」
「ちっておまえ!?殺す気か!!?」
「○○がしつこいからだ、よっ!」
勢い良く打ち出された拳は、先ほどまで俺がいた場所へ打ち込まれる
山そのものにヒビが入った気がした
「ちょ、しゃれにならん」
「大丈夫!○○丈夫だから、これぐらいじゃ怪我にもなんないでしょ」
「いやいや!?俺も一応死ぬから!不死身じゃ無いから!」
「・・・隙あり!」
次は何が来るかと身構えた、しかし萃香は体をくるりと回すと物凄いスピードで逃げ出した
「にゃろう、逃がすと思うかっ!」
しかし回り込まれた
細い手首を掴む、もう離す気はない
「あぅ・・・痛いよ○○」
「あ、す、スマン!・・・その手には乗らないぞ」
危なく手を離す所だった、この鬼め・・・
「おい萃香、俺はお前が好「わーわーわー!!!」
「・・・聞けっ!俺はなぁお前の事がすk「るーるーるーるー!」
「・・・俺もそろそろ怒るぞ」
「○○が怒っても怖くないもんねー」
「・・・口の減らない奴だ」
あいにくコッチも向こうも両腕使えない状態だ
片手でこいつを拘束できるとは思えんし
「萃香・・・」
「え?○○!?じょ、冗談でs」
もう何だか面倒だった、こいつを追いかけるのも、返事を待つのも
萃香は抵抗しなかった、だから俺も易く唇を重ねる事が出来た
「んっぁ、ちゅ・・・んっ」
静かな山の中で、いやらしい水音だけが聞こえる
鳥のさえずりも、風が葉を揺らす音も、聞こえない
お互いの息遣いとだけが聞こえる、舌と舌が絡み合う感触だけがある
「んっ、ちゅ・・・ぷぁっ」
「はぁっ、はぁ・・・ふぅ・・・何で逃げてたんだよ」
「ふぅ・・・ふぅ・・・だって、鬼は嘘をつけないもん」
「はぁ?意味が解らん」
「だって・・・私○○のこと・・・好きだもん」
「萃香・・・意味が解らん、俺もお前が大好きだって言ってんだろうが」
片手を離して萃香にチョップを喰らわせた
すると萃香は拗ねた、頬を膨らませて、可愛らしく拗ねて見せやがった
「だって・・・恥ずかしかった・・・○○が大好きで仕方なくて・・・恥ずかしかったんだもん」
「萃香・・・」
俺はまた萃香の頭にチョップを喰らわせた、威力8割り増しぐらいで
「い、いたっ!?な、なにするんだよぅ」
「恥ずかしいってなんじゃー!もっと誇りに思えッ!お前は俺という最高の男に惚れたんだからな・・・」
「ぷっ、あはははっ!なんだよそれ」
「そして俺は・・・お前に惚れた事を誇りに思ってるぜ」
「○、○○・・・は、恥ずかしい」
「さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたのに?」
ボンッ、ぶすぶす
音を立ててショートした見かけ幼女の強力無双
「さて・・・めちゃくちゃに走ったからな、どうやって帰ろうか」
「え?あ・・・そういえばここは・・・何処?」
「まぁ・・・ゆっくり帰ろうか」
「あ・・・うん・・・そうだね」
きつく手首を握っていた手をずらして、萃香と手を握った、指をからませて、お互いを逃がさないかのように
「・・・はぁ帰ったら紫に笑われるんだろうな」
「それは間違いないな・・・酒の席のたびに今日の話を蒸し返されるんだろうな」
もうこのまま二人で外に行ってしまおうかと一瞬、ほんの一瞬だけ、思ってしまった
それでも、恐らくは、結果がどちらであれど酒を用意して待ってくれているであろう友人達
あいつらにこの幸せを自慢してやりたいという思いのほうが、強いのだ・・・何より紫のとっておきの酒というのがとても気になる
さぁ帰ろう、なるべく早く、酒と友人と、幸せが俺らを待っている

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11スレ目>>20


 とんでもない悪夢を見ていた。
 詳しい内容なんてのははっきりとは思い出せないのだが、なんだが息をしても息が出来ないような感覚で、まるでそれは溺れてしまっているかのようなイメージだった。とてつもなく胸が、苦しい。
 こんな悪夢から早く逃れたくて、必死にもがき続けた。きっと起きている人が見たら相当うなされているに違いない。
 誰でもいい、早くこの俺を助けてくれ――――

「……ていや!」
「うごぼばぁ!?」

 突然、額にとてつもない痛みが走り、思わず目を開く。
 まだはっきりと覚醒しきっていない頭では、中々周りの状況を把握することが出来ない。おーけー、おちつけ、俺。まずは事態を良く理解してみようぜ。
 とりあえず、目の前に見えるのはいつもの見慣れた天井だ。築何年なのか予想もつかないようなオンボロな小屋に住んで早数年。ここまで住み込むつもりは無かったのだが、これは長い付き合いであるといわざるを得ない。
 そして、その視界の隅に見慣れたアイツが入り込んでいるのに気がついた。というか、何故天井を確認するよりも先に見つけることが出来なかったのか。とりあえずは悪夢のせいにする事にしておいて。

「……お前、何してんだ」

 布団の上から俺の胸の辺りに腰掛けていやがる、少女……もとい、幼女の萃香に話し掛ける。もちろん、嫌味たっぷりに問い掛けてやるのを忘れない。安眠の邪魔をするやつは、たとえスキマ妖怪でも許すことは出来ないのである。
 そんな嫌味たっぷりの問を、華麗にスルーして無邪気な笑みを浮かべる萃香はご機嫌な様子だった。

「やーっと起きたね、なんだかんだでかれこれ一時間は乗ってたよ?」
「通りで、とんでもない悪夢を見るわけだ……」

 深く、溜め息。毎度毎度の事ながら、こいつには俺を素直に起こすとかいう発想は無いのだろうか。無いんだろうなぁ……
 何がそこまで楽しいのか、萃香はご機嫌そうに頭を振りながら鼻歌を歌っている。頭にでっかく生えている二本の角がチャーミングポイントらしい。個人的には、いつも頭をふらふらさせているイメージが強い為、どうにもウィークポイントとしか思えないのだが。
 とりあえず、さっきの悪夢はこいつが上に乗っていたのが原因らしい。ニコニコとまぁ笑顔で頭を振っているのを見ていると、毒気を抜かれてしまう……というのも初めのうちだけで、これが何度、いや、何度なんて生易しいものではない。コイツと知り合ってからほぼ毎日こんなことが繰り返されているのだ。いくらのんびりしていると噂の幽霊でも、いい加減にしろっと言いたくなってしまうだろう。もちろん、俺も例外ではない。

「……重いんだが。しかもお前のせいでかなり酷い悪夢を見たぞ」
「悪夢?」
「お子様が見たら、トラウマになりそうな凄いやつをな」
「ふーん」

 嫌味ったらしく言ってやったつもりなのだが、どうやらあまり効果はない様子だった。畜生。
 落胆すると共に、まぁ当然だよな、という考えも起こる。こんな見た目の萃香だが、いっちょまえにも年齢では俺よりも断然上なのだから。そんなに長生きをしていて、まさか水が怖いなんてことは無いだろうし。

「でも、人聞きの悪いことを言わないでほしいね。私はあんたを守ってあげてたんだよ?」
「大した冗談だな。どうせいつものように人を枕にしてたんだろ」
「えへへ、やっぱりばれたか」
「ったく」

 どうやらこのオンボロ小屋に入り込んでは、人の体を枕代わりに使っているらしい。それが果たして何時頃から行われているのかは不明だ。何が目的なんだか。
 この前なんかは勝手に人の布団にまで入り込んできやがって、しかもあろうことに、この俺を抱き枕の代わりとして利用していたのである。あの日、一瞬でもこいつにトキメキかけたのは最高なまでに俺の汚点として刻まれている。残念ながら、そんな性癖は持ち合わせていない。どこぞの道具屋とは一緒に無いで頂きたい。大は小を兼ねる。否、超えるのである。
 外からは、雀の鳴き声が聞こえてきている。流石にいつまでもこのままの格好でいるわけにもいかないので、萃香をどかすことにする。

「とりあえずいい加減にどいてくれ、いいアングルだけどお前じゃ圧倒的に色気が足りない」
「色気が足りないとか、よくそんな酷い事いえるよね」
「ふん、せめてそうだな……博麗の巫女の嬢ちゃんとかだったら、もう少しはマシなんだがな」
「……へぇ、そんなこと言うんだ。私が上に乗ってて、あんたは私の下にいる。この圧倒的な力の差を理解しているうえで、そんなことを言うんだ?」

 無邪気な笑顔から、その表情を一転させる萃香。やばい、これは非常にまずい。某メイド長の禁句に触れたくらいヤバイ。
 そう、眼前にいる子供体型でどこからどう見ても普通の幼女は、それでもれっきとした鬼なのである。そんなツルペタ幼鬼に、馬乗りされている、ただの人間。その結末なんて、火を見るよりも明らかで、氷の妖精ですら予測できるだろう。

「まっ、待て、スペルカードは出すな、どうせミッシングパワーとかだろ!?」
「そうそう正解、大正解~。正解者には、もれなく私からスペルカードのご褒美が与えられまーす」
「それの何処がご褒美なんだよ!」

 目がかなり本気だった。あれか、まるで蛇に睨まれた蛙のような状態なんだろうか。どう考えても抗う方法が思いつかない。このまま何時ものように押し潰されるのか。それこそ蛙みたいに、ぷちっと。上手く言ってやった。なんて場合じゃない。
 必死にもがき足掻く俺を見て、それはもう満足そうに、楽しそうにふっふっふとか笑い出す萃香。
 えぇい、くそ、やるならやるで一思いにやってもらいたいものだ。焦らせば焦らすほど、恐怖が募って仕方がない。それが目的なんだろうけどさ。

「どーしよっかなぁー、使っちゃおうかな~?」
「だぁぁぁ、焦らすな、やるならささっとやれっての!」
「あはは、そんなに怖がっちゃって、楽しいなぁ」
「それはお前だけだ!」

 あぁもう本当に、勘弁していただきたい。この小悪魔……いや、小鬼はいつまでこんな状況を続ける気なのか。いい加減に精神が磨り減ってしまって、もはや疲労困憊な勢いだ。

「そうだ、じゃあ私の言うことを聞いたら許してあげるよ」
「マジかっ」

 きっととんでもないことを言わされるのは萃香の性格からしてほぼ間違いないのだが、それでも見えた一瞬の光明である。ある程度の恥は忍んででも、助かる道を逃すわけにはいかない。
 どんなことを言わされるのか覚悟しつつ、萃香の言葉を待った。

 そして、このツルペタ幼女が要求してきた言葉を――――

「セクシー萃香さん、もの凄く魅力的ですって言ってみて」
「すまん、それは無理だ」

 ――――間髪いれず、断った。

「えぇ、なんでー!?」
「俺は自分に正直なんだよ。冗談はいえても、嘘はつけない」

 昔から親の教育で、嘘だけはつくなといわれてきた。そのお陰で、今じゃこんなひねくれた性格になるわ、変なツルペタ幼女にまとわりつかれるわで、良かったことなんてほとんど無かったわけなんだが。
 予想外の断りに、萃香はショックを受けたような顔になる。が、それも一瞬だった。一転し、鬼のような……まぁ鬼なんだけど、恐ろしい形相と共にスペルカードを手にする。やばい、自分で退路を断っといてなんだが、これは非常にまずい。
 と、とにかくなんでもいいからフォローしないと死が見える。

「鬼符、ミッシング……」
「だぁ待て、確かにお前は全くもってセクシーとは程遠い。その幼女体型ゆえに幼く見えるが、それでも俺はお前が可愛さを持ち合わせているのは知ってる。だから安心しろ!」
「へ……?」

 とっさに出たセリフを繋ぎ合わせた為に、なんだか色々と禁句も混じってしまった気がしないでもないが、今更後悔しても、もう遅い。
 萃香は動きを止めている。なんだか鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

「…………」
「……おい、萃香さん?」
「……あれ、いや、もう一回言ってみて?」

 予想外の反応である。
 てっきり、怒りに任せたスペルカードで押し潰されると思っていたのだが。

「全くもってセクシーとは程遠い?」
「そこじゃない!」
「げふぉっ」

 バシっと額を叩かれた。結構痛い。

「幼児体型ゆえに幼く見える?」
「…………」
「待て、無言で拳を振り上げるなっ」

 萃香の体が小刻みに震えている辺り、次に冗談を言ったら間違いなく殴られそうだった。

「それでも、お前が可愛いってのを知っているって所か」
「……よくそんな恥ずかしいこといえるよね」
「……うっさい」

 気恥ずかしさから目をそらす。つい出てしまった言葉とはいえ、よくよく考えてみればとんでもないことを口走ってしまっているのである。こいつのことなんて、面倒としか思っていないはずだったのに。
 萃香はぼーっとこちらを見ているようだった。気のせいか、頬が少し紅くなっているような気がする。気がするだけで、実際どうなのかは確認できなかったが。今のコイツを直視するのは、なんだか気恥ずかし過ぎる。

「あはは、可愛いだって。この私が、可愛いだって。あははははは!」
「なんだよ、今のは笑うところなのかよ!」
「だって、鬼のこの私を可愛いなんていったのあんたくらいなものだよ。大丈夫、正気なの?」
「だーっ、うっさい、忘れろ、今すぐ忘れろこのツルペタ幼女!」

 あぁ、あまりの失態に顔が蒸発してしまいそうなくらいに熱い。最悪だ、今日は人生で一番の厄日に違いない。
 それもこれもすべてはこのツルペタ幼女のせいだ。流石にやられっぱなしというのも男が廃る。なんだか少しでもやり返してやらないと気が治まるものか。少しだけでも後悔させてやる。
 そう心に決め、ありったけの憎しみを込めて睨みを利かせるも、そこには心底楽しそうに笑っている萃香がいて。あぁくそ、なんという憎らしい笑顔なんだ。一瞬でもこいつを可愛いなんて口にした自分を呪いたくなる。
 その笑いに対する抗議として、無言で頬を抓ってやった。

「いひゃいいひゃい!!」
「うるさい、人の失態を笑うような鬼なんてこうしてやる!」
「ひゃ~ひぇ~ひょぉ~!!!!」
「うわはは、やめるものかこんちくしょー!」

 予想外に柔らかかった萃香の頬をこれでもかとぐにぐにこね回してやる。流石の萃香もこれは効いたのか、俺の手を外そうと必死にもがく。しかし渾身の力でその力に抵抗する。簡単に負けるものか。
 だがしかし。そこは人と鬼の差、あっさりと外されてしまう。そのまま俺の上から飛びのくと、頬を擦りながら立ち上がった。

「ぅー、酷いなぁ」
「酷いのはどっちだよ……」
「勝手に自爆したのはあんただよ?」
「ぐ……」

 簡単に言い負かされてしまう自分が情けない。思わず深い溜め息が出てしまう。
 意気消沈している俺を見て満足したのか、そのまま萃香は居間のほうへと歩いて行く。

「今日はまだ何にも食べてないからお腹空いてるんだよね。何か食べれるものはあるかな~」
「……博麗の神社でなんか食べてきたんじゃないのか」
「なんか霊夢が、今月はピンチだわ……とか深刻な顔で家計簿と睨めっこしてるの見ちゃってね。それならここで食べたほうが負担も少なくなるかなって」
「そこに俺の意思は」
「あるわけないよね、もちろん」
「はぁ……」

 もう嫌だ。なんだか全てがどうでもよくなってくる。
 なんだか向こうで萃香が「早く起きてなんか作ってよー」とか言っているが、そんなのは知らない。この心の傷を癒す為に、俺はもう一度深い眠りにつくんだ……

「萃香は可愛い~、萃香は可愛い~♪」
「だぁぁぁぁぁ、うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 誰か、助けて。今日という日を無かったことにしてくれと、心より願う。
 しかしそんな都合の良い出来事なんて起こるはずも無く。
 今日も今日とて、幻想郷は平和な朝を迎えるのだった。

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>>11スレ目>>26


それはある日の夜のこと
たしか下弦の月が奇麗な夜だった
屋根の上で小さな莫迦が月見をしているらしく、上機嫌に鼻歌なども聞こえてきた
気付かれないように、ゆっくりと、こそこそと
背後にいるのにまったく気付かれない、それぐらいに油断してやがる
「・・・一口貰うぞ」
「え?あっ!」
瓢箪を奪って、一口だけ酒を貰った
「あー!勝手に飲むなよぅ」
一口ぐらいでギャーギャー言うな、あんまり暴れると落っこちるぞ
「ぷはっ!う~ん、美味い!」
「そりゃそうだ、私のとっておきの」
「萃香の唇の味がする」
「へ、あ、ななななななに言ってっててて」
月明かりではっきり見える、紅潮した萃香の可愛らしい表情
もう一口呷る、喉が、焼ける
「うん、やはり美味い」
「ば、ばかっ、恥ずかしいじゃ・・・そ、そうだよ!アンタ私の唇の味なんて知らないくせに!!」
「ツッコミ遅いって・・・まぁたしかに、それもそうだしな」

肩に手を回された、そのまま引っ張られる
足場の悪い屋根の上では抵抗も出来ず、そのまま抱きしめられてしまった
「○、○・・・?」
「今から知るのも遅くは無い」
「え?んっ!?ちゅ・・・んんぁっ・・・ぅぁっ・・・ぷぁっ」
強引に割り込んできた舌、抵抗も出来ずに流されるままに
何もかもわからなくなるぐらい、ちゃんぽんしたみたいに
「・・・ほい、これでお前の唇の味がよく解ったぜ・・・コイツは酒以上の中毒性だな」
「~ッ!馬鹿ぁっ!初めてだったんだぞっ!!」
「え?ま、まじ?・・・ははは、そいつは・・・」
怒ったつもりなのに、こいつはうれしそうに笑っている
「・・・責任とれよぅ」
「責任?喜んで・・・せっかくここは神社だ、式はただで出来るだろうし」
「い、いや、それはちょっと、その・・・まだ、ごにょごにょ」
結婚かぁ、考えたこともなかったなぁ、他人の式で酒飲めるとかは考えたけど
コイツが相手なら・・・それも、いいかもしれない
「・・・萃香、お前可愛いな」
「わ、若造がなに言って・・・」
いつもは伊達に歳食ってないとか思ってたが
そういうところでは、実に初心なのだ、歳をとってるが故に

からかわれているのか、本気なのか
全然読めない、こんな若造にいいように遊ばれているのが気に食わない
それでも、もしコイツが本気で私を、そういう気持ちで唇重ねたと言うのなら
私は抵抗しなかった、出来なかったのではない
アイツなら、アイツだから
アイツは?私だから、してくれたの?
「ねぇ・・・アンタはどういうつもりで・・・キスしたの?」
「・・・悪ふざけでそういうことをする奴に見えるか?」
「見える、そんな奴に見えちゃうよ・・・」
「まぁ・・・しょうがないか、猫は人を惑わす、気まぐれなイキモノだ」
きっぱりと否定はしないんだね、軽そう、と言うかいい加減そうにみえるもの
「まぁそれでも、真面目なときは・・・真面目に、真剣に」
また、抱きしめられた
大きな腕、広い胸
おかしいなあ、こんなことで・・・涙腺がゆるくなっちゃったのかな
「うー、おかしい、ねこんなことで」
「鬼の目にも涙ってか・・・よしよし」
やめろよ、そんなに優しくされたら
「うぉ!?もっと泣くなよ!ちょ、俺が悪いのか!!?」
「ぐすっ・・ねぇ○○、もっかいキスして」
「お、おう」
「んっ、え?ちょ、くすぐった」
ぺろぺろと、頬を舐めて、涙を
「あはは、くすぐったいって」
まるで猫だ、いや、猫だったね
なんだか嬉しくて、何かが悲しくて、涙を流した
でも、もういいや、こいつがそばにいてくれれば、そんな事はきっと、些細なことになってしまうだろう
「・・・明るくなってきちまったな」
月は沈んで、それでも朝日が辺りを明るく照らしてくれていた

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最終更新:2011年02月26日 22:48