萃香3
8スレ目 >>77・78
いつも酔っ払っているあの子に、たまには素面のところも見てみたいと言ってみる。
「なんでそんなもの見せないといけないのさ」
「桜も毎日見てると、たまには紅葉を見たくなるだろ。それと同じで、いかに萃香が愛らしいといっても、毎日見てるとたまには変化が」
「私がそれを見せると、なんかいいことあるの?」
「無視かよ……まあ、いいんじゃないのか? ほら……肝臓とかさ」
「人間と一緒にするな」
「だってさー、あれじゃん? 素面だったら実は超奥手の可愛い子だったりするかもしれないじゃん?」
「『じゃん?』じゃないわよ。ないない、私はいつでもこんな感じ」
「またまたあ、そんなこと言って、本当は素面になるのが怖くて嘘ついてるんじゃないの?」
「ぐっ……安い挑発と分かっていつつも、嘘という単語に敏感に反応せざるを得ない自分の種族が今ばかりは憎い……!」
「あれじゃね? 愛する女の子の色んな側面を見たいと思うのは男として当然じゃね?」
「『じゃね?』じゃないわよ。私、あんた嫌いだし。あんたに愛してるとか言われてもぜんぜん嬉しくないし」
「がっかりだ」
にべも無く断られたが、この程度で萃香への俺の愛が揺らぐことはないのだ。
いつも酔っ払っているあの子が、今日は珍しく酒を仰いでいない。
「珍しいな、なにか悪いものでも食べたのか?」
「あんたが言い出したんでしょ……」
「ん……ああ、あれ? 本当にやってくれたんだ。萃香は律儀で可愛いなあ」
「やったの。昨日あれから一滴も飲んでないわよ。ほら、何も変わってないでしょ?」
「可愛いなあは無視かよ……でもさー、何十年もずっと飲んでるわけっしょ? 一日くらいじゃアルコール抜けないっしょ?」
「『しょ?』じゃないわよ。あと何十年じゃなくて何百年ね」
「何百年も生きててその幼女臭は犯罪だろ……」
「あぁ? 今なんつったオメー」
「萃香さんは今日も愛らしいなあと申しましてございます」
「調子のいい奴……やっぱあんたのこと嫌い」
「がっかりだ」
ちょっとやそっと嫌いと言われた程度で、萃香への俺の愛が揺らぐことはないのだ。
いつも酔っ払っているあの子の、目がなんだかうつろだ。
「なにか悪いものでも食べたのだろうか……」
「あんたはそれしかないのか。馬鹿か」
「俺がこんなに萃香のことを心配しているというのに馬鹿扱いとは一体どういうことだ」
「馬鹿は馬鹿に決まってるじゃない。もう三日目なんだからそろそろいいでしょ」
「あ、まだ続いてたんだそれ」
「あんたが認めるまでは続けるからね」
「そうは言うけどさあ、萃香ってば一向に奥手で初心な感じにならねえし? 俺としてはそんな萃香を素面と認めるわけにはいかねえし?」
「『ねえし?』じゃないわよ。だから素でもこんな感じだって何回言えば伝わるのかなあ」
「俺も、愛してるって一体何回言えば伝わるのかなあって常々思うね」
「あー、じゃあほらあれよ、私があんたに息を吹きかけるから、それで酒臭いかどうか判断すればいいじゃない」
「無視かよ……まあ原始的だけど分かりやすい手段ではあるな」
「ほら、じゃあちょっとこっち来て……あー」
「無防備に過ぎる。ディープキスしていいか?」
「死ね」
「がっかりだ」
死ねと言いながらもなんだかんだで断酒を続けてくれる、そんな萃香への俺の愛が揺らぐことはないのだ。
いつも酔っ払っているあの子は、小刻みに震えているように見える。
「あの……大丈夫、です……か?」
「フゥー……フゥー……あ? あんたか……今なんか言った?」
「や、その、大丈夫かなー、と……目ぇ血走ってるし」
「フゥー……フゥー……さ、酒…………はっ! いやいや駄目だ!」
「あの、手ぇとかブルブルしてて怖いんですけどマジで」
「……認める?」
「はい、あの、認めますんでほんと、マジですいませんでした早く酒飲んでください」
「うぉっしゃぁぁぁぁぁぁ! んぐんぐんぐんぐ」
「うっわすっげえ飲みっぷり」
「んぐんぐんぐ……っぷはぁっ! 久しぶりの酒は効くなあっ!」
「久しぶりって四日しか経ってなかろうに」
「効くなあ……効く……ってあれ? なんかぐるぐる……」
「……そりゃあしゃあねえべ? アルコールが抜けたところにあれだけ一気に飲めばそうなるべ?」
「『べ?』じゃないわよ……おぅ、なんか、ふわふわする……」
「うーん、こんな可愛い酔い方もできるんだなあ」
「にゃに……言ってるにょよ」
「萃香が愛らしすぎて昇天しそうだっていう話さね」
「……すぅ」
「無視かよ」
「……すぅ」
「がっかりだ」
残念ながら今日はもう話はできそうにないけれど、萃香への俺の愛が揺らぐことはないのだ。
いつも酔っ払っているあの子から、きつい視線を向けられた。
「やあおはよう萃香、怒った顔も可愛いな」
「変なことしなかったでしょうね」
「無視かよ……まあ、せいぜい愛らしい萃香の寝顔を堪能させてもらったくらいだが?」
「最悪」
「勝手に寝たのはそっちだろうに、ひどい言い草なんでないかい? むしろちゃんと布団まで運んであげたんだから褒められてもいいくらいなんでないかい?」
「その語尾はちょっと苦しくないかなあ」
「うむ、俺も、さすがにネタが尽きてきてな……それはそうと、やんないの?」
「なにを?」
「俺をさらう」
「やるかボケ」
「ちぇっ」
「がっかりするなよ……それはそうと、特に面白い一面も見れなかったでしょ?」
「いやあ見れたよ? すっげえ可愛い酔っ払いぶり。萃香のちょっと変わった一面だった」
「あんたも……変わってるわね」
「そりゃもう、俺は萃香を愛してるからね」
「私は嫌いだけどね。飲む?」
「いただくよ」
朝っぱらから二人で酔っ払う、そんなひと時がとても嬉しいから、萃香への俺の愛が揺らぐことはないのだ。
たぶんずっと。
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8スレ目 >>348
「○○は人間で私は鬼でしょ?鬼は吸血鬼みたいに任意で仲間を増やせないから」
「本気で俺を食うつもりか」
「うん、ずっと一緒にいられないなら、私の血肉になってもらおうかなって」
「二人で一緒にいろんなところに行ったよな、霊夢たちと協力して妖怪退治もしたよな」
「・・・楽しかったね、でも私は貴方が老いて死に逝く位ならこの場で・・・」
萃香の殺気を感じ身構える、萃香を倒せるわけも無いが、逃げる事ぐらいは―
ドゴッ
一蹴り、声すら出ない、蹴られた事すら解からなかった
「がっ、は、あぐ」
何m飛んだだろうか、飛んだ衝撃より蹴られた方が深刻なダメージとなった
「○○は十何年も鍛えて、人間中では頑丈な方だと思うよ、でも」
人間と鬼、種族という名の壁に、俺の十数年の努力は無意味だと知った
「俺は・・・此処で死ぬのか」
「安心して、骨まで、魂まで、食べつくしてあげる」
覚悟を決めた、と言うより、圧倒的な力、恐怖の前では抵抗や逃走を考える事すら無意味だと知ったからだ
「最後に・・・俺はお前を愛してるよ、怖くないって事は無い、死にたくない、でもそれを口にするだけ無駄って解かったからさ、喰えよ」
「じゃあね○○、私も貴方の事を愛してたよ」
首筋からは赤い滝、瞳は何も映さず、鼓動は無く、死を覚悟した○○は亡骸も同然だった
「あれ・・・俺は、生きてるのか」
萃香の気が変わったか、俺は生きていた
「あら、眼が覚めた?」
布団の横から声がする、まだ上手く動かない身体で横を見るために身体を捻った
「紫さま・・・な、んで?」
「何度か異変の時に借りがあったから、それだけよ」
「俺は・・・生きてるんだ」
紫様と話しているうちに生きているという実感がわいてきた
自然と涙が零れ落ちた、死んだと思ったあの瞬間から、久しぶりに生を感じた
それから一時泣いた、あわてる紫様と慰めてくれた藍さんと、回復するまで話し相手になってくれた橙
俺は生きていることに感謝して、彼女の事を想った
それから5年程経っただろうか、あの時の傷も癒えて、昔と変わらない生活を送っている
萃香とはあの時以来会っていない、殺されそうになったにも拘らず俺はまだ彼女のことが好きだった
いつか近いうちに彼女と会わねばならないだろう、そのとき俺は何も出来ない
ただ喰われるか、みっともなく命乞いをするか、それぐらいしか出来ないのだから
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8スレ目 360
――やほーい、○○ー! 宴会しよー!
……ふぇ? この前やったばっか?
それがどうかした? ……何でもない?
変な○○……。
――ぷはーっ! いやー、やっぱお酒はいいねー!
…ん? どしたの、○○?
……折角の七夕なのに雨で残念? あー、そういや今日七夕だっけ?
別にいーじゃん。一年の一度の逢瀬を覗き見るのは野暮ってもんさぁ。
……別にそいつらはどうでもいい? じゃあ何さ。
……折角の宴会なんだから? 星見ながら酒が飲みたい?
うーん、なるほど……確かにそうだねー。
……よし、ちょっと待ってて! すぐ戻るから!
――お待たせー。え? 何してきたか、って?
ふふーん、それに答える前に、ほら、立った立った!
え? どこに連れて行く気だ? いーからいーから、早く外に出る!
――……どう? 満点の星空!
え? どうやったのかって? ○○ー、私の力忘れてない?
雲の密と疎をぱぱーっと操ったのさ!! えっへん!
…無い胸を張るな? うっさーい! ミッシングパープルパワーでぶっ飛ばすぞ!!
……分かればいいよ。……ふん! 私だって、気にしてるんだから……。
……何さ。……え? そんな事関係無い? 萃香は萃香だ、って……?
……ふふふっ…さっきは無い胸がどうのとか言ってなかった~?
…冗談だよ。さっ、仕切りなおし! 今日は呑むぞー!!
萃香と七夕で宴会してみた。
星見酒と洒落込むか…。
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8スレ目 >>422
○○「お…恐ろしいッ おれは恐ろしい!」
萃香「○○!」
○○「なにが恐ろしいかって萃香!お前に食べられた傷口が痛くないんだ 快感に変わっているんだぜーーーーーッ!!」
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9スレ目 >>448
洞穴にて、鬼が一人、酒を呑む。
白い杯にとくとくと酒を流し呑む。
呑む。
呑む。
呑む。
幾十杯を呷り、吐息をつくと白い杯はそのままに口元を拭い立ち上がる。
そのままふらふらと洞穴の奥まで歩く。
そこには変わったしゃれこうべがあった。
眉から上がすっぱりと切り取られているのだ。
鬼はその風変わりなしゃれこうべを胸に抱くと、そのまま岩肌の上で眠ってしまった。
そして幸せそうに微笑みながら寝言を呟いた。
「うーん、むにゃむにゃ、○○、あんたで飲む酒は格別だよ……」
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9スレ目 >>702
蒸し暑い残暑の風の吹く荒野。
鬼……此処に居るのだろうか。
直接会った事は無いが、伝え聞くその姿には憧憬を覚えずに入られなかった。
しかし、この身が負った宿命は鬼を狩る事を強要する。
会いたいという思いと、闘いたくないという思いに揺れながら、
それでも歩みは止まらない。
「来たよ、人間が」
「卑怯な人間の代表」
「人間の卑怯の代表」
左右に揺れる音源を追って周囲を見渡すが、姿は見えない。
「それでも、今回は楽しめそうだ。」
大気が渦巻き、そして収束する。
「あれー、あんまり驚いてくれないなぁ。」
心底残念そうに言う萃香。なんだか罪悪感を感じる。
「そりゃ、戦う相手の事は事前に調べてくる物だろ。」
そう言いながら、ふと思う鬼はその圧倒的な力ゆえ
大半の情報は無価値なのかもしれない、と。
「ところで、さっき言ってた卑怯とはどういう意味だ?先祖は三体の仲間は居たが
正々堂々と闘ったと聞くぞ?」
「戦いそのものは、ね。」
萃香が答える。
「一人に鬼との対決を押し付け、そこに人類の存亡を賭ける事で人の幻想を集める。
鬼に勝てると信じる、勝てないなら誰一人勝てないと定義する、
その幻想がその一人に鬼に打ち勝つ力を与える。」
フッと息を吐き、続ける。
「でもね、私が卑怯だと思うのはそこじゃないんだ。その運命を背負わされた人間は
逃げられない。傷つくのは自分なのにもし逃げれば安全な所から見ていた人が
石を投げる。そう、私は同情してるんだよ、君にも君の先祖にも。」
手にした瓢箪から酒を一口のみ、更に続ける。
「ただ、悪いけど私は正直ワクワクしてる。鬼を倒せる人間なんて
早々お目にかかれるものではないからね。さぁ、勝負を始めようか。」
勝手に盛り上がられてしまった。さて、どう言ったものか。
「僕の背負ってる幻想は、鬼を退治し、追い払う為の力なんだろう?」
「それはそうだろうね。」
何を言いたいのかと訝しがるようにこちらを見ている。
「それなら、僕はこの力を使いたくない。君が居なくなるのは……その、嫌だから。」
「勝手なことを言う人間だ。」
「そう思う。でも、勝負はする。ただ、勝負の取り決めは『負けた側は勝った側の
命令をなんでも一つ聞く』にして欲しい。」
「ふーん、そっちが本気を出せるならそれでも別に構わないよ。」
「それじゃあ、勝負のルールは……」
「ダメだ。僕の負けか。」
「人間にしては良い線いってたね。正直、驚いた。」
「それでも負けは負けだ。何でも受け入れるよ。」
鬼に負けた人間は喰われるという。あやふやな気持ちのまま挑戦した報いか。
「そうだねぇ、最初は勝ったら取って喰ってやろうかと思ったんだけど……」
にやりと心底楽しそうに笑って続ける。
「気が変わった。修行してまた挑戦しな。それが私の命令だよ。」
「え……」
「私が負けたらお嫁さんにでもなってやろうか。」
「……それって。」
「冗談だよ。そんな顔するなって。じゃあ、待ってるから……」
そういうと萃香は大気に溶けた。
数ヵ月後
「なぁ、最近やけに強くなってないか?」
「そりゃ、修行してるからね。」
「修行する鬼なんて聞いたことないぞ。」
「だって……負けたら君の命令を聞かなきゃいけない。
そしたら、もう、こうして会う事も出来なくなるかもしれない。」
「……何を言うつもりか言ってなかったっけ?」
「ん、聞いてないよ?」
「もし勝てたら、僕は君に――――――。」
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11スレ目>>186
私は猫に懐かれている。
毎晩毎晩エサを与えて、美味しかったなんて言って私の右頬にキスをして帰る猫。
毎日毎日、屋根の上から何かが落ちた音がしたかと思えば
月光を遮って、カーテンに猫の形を映し窓をノックする。
返事をしなければそのまま帰るし、窓の鍵を開けてやると入ってちゃっかりと椅子に座ってエサを待つ。
そんな猫との生活、私は好きだった。
部屋の中から満月を見上げ、一人酒を飲む。
最初はお猪口にわざわざ注いで飲んでいたけど、夜も深くなってくると段々面倒くさくなって瓢箪ごと右手に抱えていた。
左手ではつまみのスルメを弄び、何ともなしにゆらゆらと漂っている。
今の住処は狭い家だ。
そのうちまた引っ越すのだろうと思う。
いや、引っ越す前に集めて積み上げている酒瓶が崩れて大惨事になるか。
ここに火でもついたら、大火事になるなぁなんて呑気に思った。
今まで飲み明かしていたのを中断して、机に伏せる。
目を瞑ると、強烈な眠気が襲ってきた。
だめ、ねてしまう。
コンコン、と窓をノックする音が聞こえた気がした。
目を覚ますと、夜は一層深くなっていた。
何の後片付けもせず、布団も用意しないで寝てしまった。
皺になってしまった服を脱ごうとして、横に手をやったときに異変に気付いた。
いつも側に置いてあるはずの瓢箪が、ない。
拙いな、と思った。
「何を探してるんだ?」
誰もいないはずの部屋に、声が聞こえた。
驚いて周りを見渡すと、見慣れた猫の姿。
ああなんだと思うと、猫は右手にひょいと瓢箪を掴んで持ち上げてみせた。
「ちょっと○○・・・、私の瓢箪勝手に取らないでよ」
「はは、警戒しないで寝てるからだ」
まあ、そうなんだけど。
「と、言うかなんで入ってきたのさ!
私入れた記憶ないよ?」
「窓が開いてたから、ご飯食べさせてくれるものだと思った」
私としたことが、瓢箪を盗まれてしまっただけでなく
窓を開けたまま寝てしまったのか・・・!
一応女の子の部屋なのに、○○だからいいとしても。
「ご飯・・・できてないよ」
「大丈夫、目の保養にはなったから」
「・・・・・・・・・・・・あ、見ないでよ」
そうだ、着替えてる途中だった。
箪笥から着替えを持って風呂場にため息を吐いて向かう。
くくくと笑う音が耳に響いた。
今更だけど、すごく恥ずかしいことな気がする。
というか○○も最初に言ってくれればいいのに。
ああそうだ、紫が言ってた。
○○はヘンタイだから部屋に上げちゃ駄目だって。
…でもご飯美味しいって言ってくれるから、止められない。
他の人は私の作るご飯はお酒のあてみたいって言って食べてくれないし。
つまんない。
お風呂に入りたかったけど、それは○○が帰ってからにしよう。
とりあえず着替えて、あの大きな猫にエサをあげよう。
ほっといたらうるさく鳴いて、どこか噛まれそうだし。
(猫はお腹空くと噛むって言うし、あいつもそうな気がする)
欠伸をして服を脱ぐ。
冬の夜はまだまだ長い。
床の冷たさが素足に伝わった。
髪を結んで、箪笥から適当に取っただぼだぼの部屋着を着る。
もこもこしてて暖かい。紫がこの前くれた。
…○○の前で着るのは、なんだか釈然としないけど。
まぁいいか、と諦めを含んだようなため息が出て
上から更にどてらを羽織った。
台所へ向かうと、すでに○○は椅子に座ってエサを待っていた。
何もしないで、ただじっとこちらを見て笑って。
視線がいつもくすぐったい。
思わずこっちも笑ってしまうぐらい。
「今日は何がいい?」
尋ねると、少し考えて
「今日こそ萃香がいいな」
なんて言ったから呆れた。
いつもこんな冗談を言う。
そんな時いつも紫の言葉を思い出す。
○○はヘンタイだ、って。
「じゃあ今日は焼き魚にする」
「わかった」
魚あったっけなぁ、なんて言った瞬間思った。
「よし、出来た!
萃香スペシャル・ザ・焼き魚だよ」
「要は萃香が作った普通の焼き魚ってことか」
「大正解」
箸を渡して笑った。
普通の焼き魚でも美味しいって言ってくれるなら、私は喜んで明日も作ろう。
いつもいつも、きっと猫が飽きるまで。
私が寝ているときには起こしてくれればいいし、機嫌が悪いときには一声かけてくれればいい。
そうすれば料理くらいしてあげるから。
「萃香、美味いよ」
いつものように腕を引っ張って右頬に猫の唇が触れる。
キスは帰りの合図。
だけど、今日はいつもみたいに腕を放さなかった。
「・・・○○?」
笑顔のくせに、どこかいつもと違うような雰囲気に戸惑いを感じた。
薄く笑ってどこか「大丈夫」って言い聞かせてるような、そんな不安に。
「しばらく、来れなくなる」
「・・・ここに?」
「ああ」
ぽつりと言葉を紡いだ○○。
「ちょっと仕事でな、ここから離れた場所に行く」
「・・・危なくない?」
「妖怪か?確かにここより出るらしいが、まあそれも仕方ないだろう」
私は○○が何の仕事をしているか知らない。
…○○のことだから大丈夫だとは思うけれど。
帰ってきたとき、もしかしたらもう私のところに来てくれないかもしれないって不安だった。
「・・・・・気をつけてね」
「萃香こそ」
「私は心配されるようなタマじゃないよ」
「違う、他の男に言い寄られたりするなってこと」
「言い寄られるって・・・私そんなこと今までなかったし男もいないよ」
何言ってるんだ、と笑ったら○○が少し驚いた顔をした。
だけどすぐに今まで見たことないくらいににんまりと笑って、
「知らなかったか?俺、萃香のことが好きなんだよ」
「・・・ホント?」
「本当だよ」
「・・・ひょっとしたら、私も好きかも」
腕を掴む力が少しだけ強くなった。
引っ張られた、と思うと○○の顔がすごく近くにあって驚く。
近づいてきたな、と頭が認識した瞬間に事の重大さに気付かされた。
今日の帰りの合図は、唇らしい。
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10スレ目>>134
「○○~♪」
「うぉ!?」
森の中を歩いていると突然背後から勢いよく抱きつかれた
「誰かと思ったら萃香か」
「えへへへへ~」
俺に抱きついて笑っているのは伊吹萃香、幻想郷で只一人の鬼である
彼女とはとある切欠で仲良くなりそれ以来懐かれている
「で、どうしたんだ?いきなり抱きついて」
「ん~?空飛んでたら○○が歩いてるのが見えてさ
抱きつきたくなったの」
「ったく、お前にあんな勢いで抱きつかれたら普通の人間なら骨が折れるぞ」
「○○は普通の人間じゃないから問題ないよ」
「まあ、そうなんだけどさ
ってそういう問題じゃない!」
俺が萃香と仲良くなって懐かれた一番の理由
それは俺が鬼だということだ
と、いっても萃香と違い俺は純粋な角のある鬼じゃない
人から鬼になった鬼人という鬼種だ
「それにさ、幻想郷には私と○○以外鬼いないし」
「いやいやいや、レミリアちゃんとかフランちゃんとかいるじゃん」
「吸血鬼なんて半端な者、同族だと思ってないよ」
(本人達が聞いたらまた激怒しそうなことを言う・・・)
「○○がいるからそれで十分
それに、こうやって抱きしめても怪我しないし」
そう言い、さらに抱きしめる力を強める萃香
常人なら胴体がおさらばするほどの力だ
「・・・まあいいか、なら今から家に来て酒でも飲むか?」
「飲む!!!」
俺がそう言うと萃香は満面で笑みで答えた
さあ、二人だけの酒宴だ
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10スレ目>>988
「なぁ萃香。
皆で宴会して酒飲むのもいいけど……。
冬の静かな夜に、二人でゆっくり飲むのも、いいと思わないか?」
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12スレ目>>327>>343 うpろだ817
初めて萃香に会った時に
「悪いけど俺は下戸なんで飲めません」てはっきり言ったのに
それからほぼ毎日俺の家に押しかけて酒を飲んだり飲ませようとしてくる。
しかも勝手に泊まる。
○○「どうして毎日来るんですか?酒の相手なら文ちゃんとしたほうがいいですよ?」
と言っても顔真っ赤(元々赤いが)にして俯いて答えないし困った。
不覚にもすごく可愛いと思ったorz
誤解しないでほしいが俺はロリコンではない。
下手に怒らせると何されるかわからないから強く言えないしな。
そうだ!俺が密かに恋してる霊夢に言って何とかしてもらおうっと。
会う口実もできるし上手くいけば
霊夢「それは大変ね。ならしばらく私の神社に泊まりなさいよ?」
○○「まじっすか!?」
てなことに・・・・そうと決まればさっそく神社へレッツゴー!
入れ違いで○○の家に来た萃香
萃香「今日も遊びに来たよ~。あれ?いないの?
む~○○の好きなすき焼きにしようと材料持ってきたのにどこ行ってるのよ・・・・
まあそのうち帰ってくるだろうから作っておこうっと。」
○○「ふぃ~やっとついた!相変わらずここの石段はきつすぎる」
息を整えつつ辺りを見回すと境内で焼き芋を食べてる霊夢と魔理沙と目が合った。
魔「よう~○○、久しぶりだな!」
霊「○○あんたも焼き芋食べるでしょ?」
○「ああ。ありがたく頂くよ」
外で食べる熱々の焼き芋はやっぱ格別だね。そこへ
?「ブゥ~~~~~~~~~~」
と盛大な音が鳴り響いた。
霊「ちょっと○○~やめてよね!」
魔「・・・そ、そうだぜ○○、レディの前でオナラなんて下品だぜ」
○「いや、俺じゃないんだが・・・ひょっとして魔」
魔「そ、それはそうと○○、こんな所まで来てなんか用があるんだろ?」
霊「こんな所とは失礼ね~」
○「ああ。実は霊夢に相談があって来たんだよ。」
霊「まあ聞くだけなら聞いてあげるから言ってごらんなさいよ?」
○「実は・・・・・かくかくしかじか」
俺は霊夢たちに萃香の件を詳しく話して聞かせた。
魔「やれやれだぜ」
霊「はあ~萃香が可哀想だわ。」
○「それってどういう事なんだ?」
霊「あんたそれ本気で言ってるの?コホン。・・・・萃香はあんたの事が好きなのよ~!」
ビシっと人差し指を俺に突きつける霊夢
○「な、なんだって~!?」
霊「あのね好きでもない男の家に毎日来る?しかも泊まることもあるんでしょ?
それって萃香は・・・その・・・あれの・・・」
顔を真っ赤にしながら口ごもる霊夢。
魔「要するにな萃香はネチョの覚悟完了してんだぜ?」
○「まじっすか!?」
霊「まじよ。ああ見えて萃香は一途な女の子なのよ?
きっと好きな男にはとことん尽くすタイプね」
魔「今がお買い得なんだぜ?今の萃香を色に例えると恋色だなw」
おいおい恋色ってどんな色だよ?しかし萃香がそこまで俺の事を・・・・
なんだか胸の奥がジーンと熱くなった。なんだろうこの感覚?
霊「結局あんたはどうしたいわけ?」
○「お、俺は・・・・その・・・」
霊「はっきりしない男ね。まあいいわ。
…本当に家に来られて迷惑してるってんなら私の方からも言っておくけど?」
魔「おう。魔法という名の言葉で派手に言っておくぜ?」
まったくさっきからウザイわね白黒。頼むから空気読んでよね。
○「いや遠慮しておくよ。それにそろそろ日が暮れるし俺は帰るよ。
相談に乗ってくれてありがとうな霊夢・・・・・と魔理沙」
霊「どういたしまして。それに萃香は今頃○○の家で
帰りを待ってるわよ。」
○「だなw」
霊「ふふっ。萃香の事だけど家に帰る道中で真剣に考えなさいよ?」
○「ああ!」
別れ際もう一度2人に頭を下げてから俺は帰り始め・・・
魔「おい萃香が待ってるんだろ?乗っていけよ○○。家まで送っていくぜ!
魔女タクシーこと魔女タクは今日は無料だぜ?」
○「いやあのね魔理沙さん?さっきの話聞いてました?」
霊「ちょっと魔理沙こっちに来なさいよ!」
ずるずると引きずられて行く魔理沙。はあ~疲れる。
よ~し帰るか!
一方その頃 ○○の家
台所でエプロン着て鼻歌歌いながら野菜を切ってる萃香ちゃん
萃「すきやき~すきやき~○○の大好きな~すきやき~
…はあしかし○○遅いな~どこ行ってるのよ?
ま、まさか妖怪にでも襲われたりしてるんじゃ?
む~心配だよ~。はやく帰ってきてよ○○・・・」
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11スレ目>>378
「なあ萃香」
「だめ」
「なんでさ」
「女の子にはその・・・色々と心の準備とかあるのよ」
「・・・よし、萃香に嘘を言わせたら俺の勝ちね、一個言う事きいて」
「鬼に挑む勝負じゃ無いね・・・受けて立とう、私が勝ったら言う事聞いてね」
「・・・萃香、俺の事好き?愛してる?」
「うん・・・あ、愛してる」
「俺と(ピー)したいと思ったことある?」
「ななななななそ、そんなこと」
「無いんだ?」
「あ・・・ぁるよぅ」
「じゃあしよう」
「ちょ、勝負は!?」
「互いに気持ちは同じだ、さぁしよう」
「だ、だから心の準備とかいろいろと・・・」
「じゃあいいや」
「え?ずいぶん簡単に引き下がるね」
「萃香のほうから「○○!私を(報道規制)してっ」って言うのを待っとく」
「・・・何であんたに惚れてるか解らなくなるよ」
「試しに言ってみ」
「・・・」
「頼むよ萃香(声術:パーフェクトヴォイス」
「え、ええと ( 報道規制 )・・・これでいい?」
「ごはん5杯はいける」
「近いうちに押し負けしそうだよorz」
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12スレ目>>564 うpろだ851
どこの昔話だったろうか。
あるところに貧乏なおじいさんが独りで暮らしていました。
ある年の節分。
「ずっと『鬼は外、福は内』と豆を撒いてきたが福なんざ来たためしがねぇ!」
ついにキレたおじいさんはアナーキーな行動に出ました。
「鬼は内!福は外!」と言って豆を撒いたのです。
するとあちこちから追われてきた鬼がおじいさんの家に逃げ込んできました。
おじいさんと鬼はどんちゃん騒ぎをして過ごしました、まる。
さすがにこの通り聞いたわけではないが、
大筋ではだいたいこんな話だ。
小さい頃、俺はこの話が好きだった。
自棄を起こした爺さんのふっとんだ感じが楽しかったし、
人間味のある鬼達がどことなく微笑ましかった。
この話を聞いてから、初めての節分。
爺さんにならって「鬼は内!福は外」と豆を撒こうとして、
親に止められたのも今となっては良い思い出だ。
曰く、
「節分の鬼っていうのは、病気とかケガとか、そういう悪いもののことなんだよ」
ということで、それからは普通の豆撒きをするようになった。
そして現在。
ひょんなことから迷い込んだ幻想郷で暮らしている今でも、あの昔話は好きだ。
ついでに言えば、豆も撒かなくなった。
しかし、毎晩のように自分の家で鬼とどんちゃん騒ぎ
……違うな。鬼「が」どんちゃん騒ぎをしていくことになるとは、
しかもそいつが一応自分の恋人であるとは。
我ながら何とも妙なことになったものだ。
もうすっかり夜も更けた。
今日は節分の当日だが、来るだろうか?
と、小さく戸を叩く音がした。
近づくとささやくような声がする。
「…こちらスイーカ。目標地点への潜入に成功した。
周辺に敵は見当たらないが発見されれば集中砲火は免れない。
ゲートの開放を頼む」
いったいどこでこんなネタを仕入れたのだろう。
永遠亭か守矢神社か、さもなくばマヨヒガだろうか?
「……了解した。すぐにゲートを開く。
完全に進入するまで油断するなよスイーカ」
……まあそれに乗る俺も俺なのだが。
「ふいー、緊張したー」
しっかりと戸を閉める。
「別にこっそり入ってくる必要はなかったんじゃないのか?」
猪口と湯呑みを一つずつ出しながら俺は尋ねた。
人里の中でもあまり家の建っていない辺りに住んでいるので、
見つかって豆をぶつけられることもないだろう。
「んー?でも○○の家に入ってくところ見つかったら、
○○村八分になっちゃうよー?」
普段ならまだしもなんてったって節分だからね、と笑いながら
萃香は座布団に腰を下ろした。
「……悪いな、気使わせたみたいで」
「気にしない気にしない。ささ、まずは一献」
腰の瓢箪から注いでくれる酒を猪口で受ける。
「おっとっ、と」
こぼれそうになるところに口を付け、ギリギリで止める。
瓢箪を受け取り、萃香の湯呑みにたっぷりと注いだ。
「それじゃあ……節分なのに家に来た鬼に」
「節分なのに豆を撒かない奇特な人間に」
「「かんぱいっ!」」
猪口よりも早く、湯呑みが空になった。
毎度ながら凄い飲みっぷりだ。
「…ぷはーっ、生き返るなー。ところで○○」
「ん?」
「なんかおつまみになるものないのー?」
「あー、つまみは…………」
実のところないでもないので、ないと言えば嘘になる。
萃香は嘘が嫌いだ。
故に、正直に言う他あるまい。
「あるけどお前には出せない」
「えー!何それー!?」
案の定不機嫌そうな声が上がる。
だがそうとしか言い様がないのだ。
そこで諦めてくれれば御の字だったが、
筋金入りの酔っ払いがその程度で諦めるはずもなく、
萃香は立ち上がって部屋のあちこちを漁り始めた。
「こら」
「いーよ、出さないって言うんなら勝手に探させてもらうから」
意地悪をしているわけではないのだが……あ、その戸棚は
「まったく、こんなかわいい彼女に向かって取る態度じゃないよー
……お、これかな?」
萃香が取り出した袋はまさしく俺が隠そうとしていたものだった。
口を開くと、弓なりの形に丸い膨らみをいくつか包んだ緑色の鞘がたくさん入っている。
「えーと、これは……枝豆?」
「すまん、決して悪気があったわけじゃないんだ、
ただ、里の八百屋で節分大特売をやってて、
これは家計が助かるなと思ったから萃香がいない時に食べるために……」
「なーんだ、いいおつまみあるんじゃない」
「……え?お前平気なの?」
だって枝豆と大豆は同じものだっていうし、節分に撒くのは大豆で、
萃香は鬼で、それで……
と、あれこれ考えた俺の心配はいったいなんだったのか。
「枝豆食べたぐらいでどうかなったりしないって。
さ、茹でて茹でて。あ、塩は多めにしてね」
まったく、心配して損した。
「ほい、茹で上がったぞ」
程よく茹だった枝豆を器に盛り、塩を振って出す。
「おー、待ってましたー」
美味しそうに食べているところを見ると、本当になんともないらしい。
「んー、今日は日本酒だけどやっぱり枝豆にはビールが良かったかな?」
「……お前ビールなんか飲むことあるのか?」
アルコール度数が低すぎるんじゃないのか、という意味だ。
「ビールも結構好きだよ。
それに博麗神社の言い伝えには
『世界の造り主を祀る際は、樽単位でビールを供えるべし』
っていうのがあるくらいだからね。
おろそかにはできないよ」
「なんだそりゃ。嘘くさいなー」
あぐらをかいて萃香と差し向かいで座り、ちびちびと酒を飲む。
こうやってどうでもいい話をしながら二人で飲むのが日課のようになっている。
身体にいいとは言えないだろうが、楽しそうな萃香を見ていると、
俺も楽しい。
「○○?」
「ん?なんだ萃香」
「……えいっ」
程よくまわり始めた酔いにぼんやりしていたら、萃香が懐にもぐりこんで来た。
あぐらをかいているところに座り込み、もたれかかってくる。
「えへへー」
サイズの差からすれば、晩酌をしている父親に子どもがじゃれついているようにも見える。
まあ、俺達は親子ではないし、膝の中にいるちみっこい奴の方が大酒飲みなのだが。
ふと気がついたが、萃香は豆を鞘から押し出し、口に向けて飛ばすという
オーソドックスな食べ方をしている。
あれをやっていると、時々豆が思いもよらない方へ飛んでいくのだが、
「いたっ」
これがぶつかった場合、鬼に豆をぶつけたことにならないだろうか?
「……って、言ってる側から!おい萃香、大丈夫か?」
「…………きゅ~」
膝の中の萃香に声をかける。どうやら飛ばした枝豆が額にぶつかったらしい。
なんだかふらふらしているように見える。
……大変だ。このままでは萃香が!
「萃香、萃香!ああ、俺が一袋150円だったからって
特売の枝豆買ったりしなければ……
冗談じゃない、
お前とはまだ一緒に酒飲んだり騒いだり花見したり月見したり
抱き合ったりキスしたりし足りないんだ!
待ってろ、今永遠亭に、いや、博麗神社の方がいいか!?」
急いで運べばまだ間に合うかもしれない。
抱えたまま立ち上がり、駆け出そうとする俺の服を萃香の小さい手がひっぱった。
「……○○」
「萃香、気をしっかり持てよ!医者と神社とどっちに行けば良い?」
「医者も神社もいいから、さ。キス、してほしいな」
「キスって、ちょ、お前そんなこと言ってる場合かよ!」
「いいから。ね?キス、して」
「……わかったよ。でもな、俺はまだ諦めないぞ。
最後のキスになんか絶対しないからな!」
唇と唇が、近づく。もう少しで触れ合う、
その時。
「厄払いの豆撒きをしていないのはこの家ね」
ガラリと戸が開いて誰かが入ってきた。
白い歯がまぶしい。
「……何をやってるの?」
突然の来客は、厄神の雛さんだった。
「萃香が鬼で豆で瀕死で節分で」
「落ち着きなさいね。豆ってこれ?」
雛さんは枝豆の器を指差した。
俺は勢い良くうなずく。
ああ、こうしている間にも、早く萃香を助ける方法を探さなくては。
「……あのね。鬼にぶつけて厄を払うのは、炒った大豆。
茹でた枝豆で厄払いなんて
そんなしまらない話聞いたことないわ」
「…………………はぃ?」
結局のところ、雛さんの言うとおりだった。
萃香がふらふらして見えたのは、ちょうど酒が回って気分が良くなってきたところに
豆があらぬ方向へ飛んでびっくりしただけだったそうな。
「……おい」
「何かな青年」
「お前嘘は嫌いなんじゃなかったのか」
「嘘なんか一言も言ってないよー。○○が一人で勘違いしてたんじゃない」
言われてみれば確かにそのとおりだ。
酔いが回っていたとはいえ、ついヒートアップしてしまったらしい。
「それにね」
「何だよ」
「キスして欲しかったのだって、嘘じゃないよ?
何だったら今からでもしてほしいくらい」
「……むぅ」
なんだか悔しかったので、萃香にキスをした。
しばらく唇を重ねる。
「心配してくれて、嬉しかったよ。
普段聞けない本音も聞けたしね」
唇を離した後、萃香は心底嬉しそうにそう言った。
顔から火が出るほど照れくさかったが、取り消すつもりは俺もない。
「……こほん」
「「うわっ!?」」
雛さんが来ていたのを忘れていた。
「ちなみに雛さん何か御用で?」
「何か事情があって豆を撒けないのなら
代わりに厄を持っていこうと思ったんだけど、
必要ないわね。既に鬼がいるなら私がいても問題なさそうだし、
お相伴させてもらえないかしら?」
節分で居場所がないのは雛さんも一緒らしい。
いや、雛さんの場合は普段から、か。
俺と萃香は喜んで雛さんを迎え入れることにした。
「はいこれ、お土産ね」
「助かります。―恵方巻きですか?」
「それは塞(ふさがり)巻きね。恵方の逆だから
今年は西北西を向いて食べてちょうだい。
あ、別に黙らなくても良いわ」
聞いたことのない習慣だが、雛さんのオリジナルだろうか。
どちらにしても美味しそうだ。
「ほらほら、音頭は家主が取りなよー」
「……では、改めて」
「「「かんぱいっ!」」」
「鬼は外、福は内」なんて願い下げだ。
「福は内、鬼も内」も、ちょっと違う。
いっそ「鬼は内」だけでも良いが、まだ少し違う。
毎日やってくるこの鬼が俺にとって福そのものだから。
これからも俺はあの昔話が好きだし、
豆を撒くこともないだろう。
「あはははははははっはははは」
「いいぞー雛ちゃんー、もっとまわれー」
今夜も鬼がどんちゃん騒ぎをしている。
俺もその中に加わることにした。
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最終更新:2010年05月11日 21:27