萃香6
12スレ目>>653
俺がその鬼に出会ったのは節分の日だった
ところどころ小さな傷があり、鬼には豆が効くのか、何て納得してしまった
それでも鬼は嬉しそうに笑っている
俺は何故嬉しそうなのかと問うて見た
すると鬼は
私がここに居る証拠だからだ、とまた笑った
忘れられていない事がうれしいと、楽しそうに話す鬼が、なぜか寂しそうに思えた
鬼が居ないと豆まきも出来ないだろう?
鬼が居ないのに鬼は外なんていえないだろう?だから私はいるんだよ
鬼の言う事は全然解らない、ただ促されるがままに、俺も豆をまいた
ただ、鬼は外というのは気に食わなかったので、鬼は内といいながら、撒いた
鬼は可笑しそうに笑う
自分でも可笑しな真似をしてると思う、それでもこれでいいのだ
鬼は内、と言ったのだ、家に来てくれるかい?
少し戸惑って、でも笑顔で、ありがとう、と、鬼は言った
その日から、我が家には鬼が住まうようになった
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12スレ目>>661
「萃香、何をやってるんだ?」
「○、○○!?い、居たんだ・・・」
勝手に我が家に入ってくるのはコイツと白黒ぐらいだ
一仕事終えて帰ったと思ったら、挙動不審の鬼がいるのだ、もう慣れたが
「それで、今日はなに用だ?」
「よ、良かったらかくまって欲しいなぁ」
「匿う?・・・・・・ああ、今日は節分か」
朝起きたら霊夢に豆を投げられて、逃げ出したら魔理沙に追われ、逃げた先で紫に迎え撃たれて
角友の慧音は子どもを引き連れて豆を絨毯爆撃で・・・
そのために挙動不審なのか
「今日さえ過ぎてしまえば・・・」
「ふぅん・・・毎年大変だな」
幻想郷に一人の鬼だ、しかし皆して追い掛け回さなくても・・・
イベント好きの連中があれだけ居ればしょうがないと諦めるしかないか
「それで・・・いいかな?」
「好きにしろ、まだ日付が変わるまで時間があるからな」
「ありがとう!お礼にお酒でも」
酒はいらないが・・・そうだな
「酒よりは・・・お前の方が美味しそうだ」
萃香はその一言で真っ赤になってしまう、何度言われても、慣れないものは慣れないらしい
「い、いつもそんなことばっか言って」
「どうせ一日出ないんだろ?」
「それはそうだけど・・・まだお昼前だし・・・」
「布団引いたぞー」
「聞く耳持たずっ!?」
「come here~」
萃香はやれやれと諦め気味に、唇を重ねてきた
そしてしゅるりと服を脱ぎ、その未発達な(ry
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12スレ目>>972
日課となっている日記を書き、そろそろ寝ようかと思い、俺は雨戸を閉めに縁側に出た。
「○○ー、飲むぞー!」
「うおっ、萃香!って、こんな時間からかよ!あと玄関から来い!」
普段は夕刻あたりに瓢箪ぶらさげて来るってのに、ずいぶん遅くに来たもんだ。
「まーまー気にしない気にしない、ほれ、飲め~!」
「ったく。まあいい、ちょっとつまみでも持ってくるわ」
「お~気が利くね~」
適当に乾き物を出して、ちょいちょいと飲み始める。
「なんだ○○、ぜんぜん飲んでないじゃないか?」
「今からいつもどおり飲んだら、仕事になりゃしないっての…」
「んー、そっか。それじゃ、これでお開きにしよっか。もうすぐ時間だし。」
普段なら『私の酒が飲めないのか~!』ってばたばたするんだが。
もうすぐ時間、ってのもよくわからん…時間なんぞ気にする柄じゃないだろうに。
そう思っていると、なにやら洋風な瓶を取り出した。
「洋酒か?珍しいな。」
「まあね…」
卓袱台の向かいに座っていた萃香は、立ち上がって、俺の横にちょこんと座った。
「どうした、萃香?飲まないのか?」
「飲むのは○○だよ。」
萃香はその洋酒を小さな口に含み、そのまま俺の口にそれを流し込んできた。
「~~~~~~!ぷはっ!す、萃香!?」
「えへへ、バレンタインのチョコ、もちろん本命のね。
日付が変わる前に飲ませなきゃ、意味無いからね…」
俺は果実酒みたいな甘ったるい酒は大嫌いだ。
辛口の日本酒こそが至上だと思っていた。
だが、そのチョコレートリキュールは、そんな俺の考えを一掃してしまったようだ。
「…萃香、もう一口。」
「いいよ、何口でもあげる…」
俺は一瓶丸々、そうやって堪能した。
途中で日付は変わっていたが、そんなことはどうでもいい瑣末なことだった。
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13スレ目>>33 うpろだ936
私の名前は
アリス・マーガトロイド。
幻想郷の一角、『魔法の森』に住んでいるごく普通の――何処かの黒白では無いが――種族魔法使いである。
別に魔法使いといっても、日がな一日大鍋を掻き回したり、妖しげな薬品の煙が立ち上る部屋に籠もっているというワケではない。
そんな非効率な手段に頼らなければ魔法を扱えない程魔力が低いわけではないし――そもそも私は人形遣いだ。
鍋よりも糸、薬よりも布を相手にとって人形を作り、操るのが私の魔法である。
話が逸れたが――つまり私は世間一般が想像する様な、
子どもを攫って生け贄に捧げたり、生き血を啜ったりする様な所行に及ぶ魔法使いとは全く違うのである。
街で人形劇をしたり、森に迷った迷い人を無償で一泊させる事も度々あり
――もっとも、大抵の人は人形達を気味悪がってしまっている様だが――人間からの評価はそれ程悪いというわけでは無い。
(求聞史紀によれば、人間友好度は『高』だった)
だから、黒白以外にも稀に人里からの、人間の来客はあるのだが――
真逆、鬼が来客として現れるとは予想もしていなかった。
「…………」
「…………」
魔法の森、その一角、通称『人形館』と呼ばれる私の洋館、その応接間。
人里にて購入した上等な作りのテーブルを挟んで、私と鬼は向かい合っていた。
視界に映る、テーブルの上に置かれた二組のティーカップと紅茶、お茶請けのクッキー、
そして大きな日本酒の瓶――その向こうで、椅子に沈み込む様にして鬼が俯いて座っていた。
確か、名前は伊吹萃香と言った筈だ。以前、博麗神社で起こった連続宴会異変、その首謀者にして原因。
その異変の時初めて出会ったのだが――正直、その事はあまり思い出したくない。
訳も分からず三日おきに宴会に呼び出され、挙げ句に考えない様にしていた思考、心の一部を無理矢理に思い出させられ、
その上弾幕ごっこでボロボロにされたのだ。
これが悪い思い出で無くて何だというのか。
だからこそ、最初訪問客が鬼だと分かった時は、無駄ではあるが居留守を使うか、無理ではあるが追い返そうかとも考えたのだが……
その思考は、玄関入り口で酒瓶を手に佇んでいるその姿を見た時に霧散してしまった。
何というか――以前遭った時に感じられた圧倒的な暴力、妖力、威圧圧迫感などと言った様なそれらは一切感じられず……
まるで、迷子の子どもが迷いに迷った挙げ句に、
やっと出口への道筋を知る人の所に辿り着いたという様な――そんな弱った、儚げな空気をその身に纏わせていたのである。
あまり良い思い出のある相手では無いが――流石に、こんな様子の見た目幼女を追い返すほど、私は非情では無い。
取り敢えず萃香を応接間に上げ、(どうやら、日本酒は土産らしい。紅白や黒白に爪の垢でも煎じて飲んで欲しい所だ)
一応紅茶を出してみたのだが……そのまま黙りこくってしまい、今に至るというわけである。
別に、来訪したからには何か喋れと言う気は無いが……流石に、この妙な緊張感のある空気は辛いものがある。
一体どうしたものかと、途方に暮れかけた時――
「ねぇ」
ぽつりと、萃香が呟いた。
「アリスは、手先が器用だよね」
「…………? まあ、それなりにはね」
「キヨウキヨウー」
「アリスキヨウー」
質問の意味は測りかねるが、仮にも人形遣いを自称する身である。手先の器用さには多少の自信がある。
「料理は……お菓子は作れるよね」
「因みに、今あなたの目の前にあるクッキーは私が作ったものよ」
「キノウハパイー」
「オトツイハミルフィーユー」
そう言うと、萃香は今気付いたかの様に目の前にあるクッキーを見つめ……そっと、一つ手に取った。
そのままそれを口に入れ、もぐもぐと咀嚼していたが……どうやら気に入った様で、二個、三個と手が伸びていく。
その様子が何ともかわいらしく、思わず微笑んでしまったのだが……視線に気付いたらしく、顔を赤くしてまた俯いてしまった。
惜しいことをしたかもしれない。
「……えっと、洋菓子には詳しいよね」
「一応ね」
「クワシイヨー」
「ヨウガシハクワシイヨー」
詳しいというよりは、和菓子は作ったことが無いので洋菓子『しか』作れないのだが……そんな些細なことは別に構わないだろう。
「あぅあぅ……えっと、その……あの、あの……」
そこまで聞いた所で、急に萃香の様子が変わった。
何か、どもる様な、躊躇う様な……何かを言い出そうとして、言い出せない様な、そんな様子である。
「…………」
多少もどかしくはあるが、正直この様な話題は本人が言い出せなければ意味は無い。
まして、周囲が無理矢理言わせるなどということは論外。
だから、こちらは相手が何を言い出しても落ち着いてそれを受け止められる様、黙って心の準備を整えておくべきなのである。
「あ、あのね、アリス……」
どうやら、決心がついたらしい。
「……その、私にね」
こちらも心の準備は出来た。後は落ち着いて、相手の話を聞くだけである。
そう思い、紅茶のカップに口をつけ(本日はダージリン。中々良い茶葉である)、
「……ば、バレンタインチョコの作りかたを、お、教えてくれない?」
盛大に中身を吹き出した。(因みにバレンタインは明日)
「……さて、それじゃ始めましょうか」
「う、うん」
人形達に汚れてしまったテーブルと室内の片付け、そして紅茶を被ってしまった萃香の服の洗濯をさせながら、
私と萃香は洋館の片隅にある台所に立っていた。
因みに、萃香は裸では無い。かと言って、流石に私の服を着るのは無理であるから、勿論私の服を着ているわけでもない。
では一体どうしているかと言うと……
「それじゃ、萃香二番はお湯を沸かしておいて、その間に萃香三番はチョコを砕く。
あと、萃香四、五、六、七、八番は棚の中から器具を取り出してね」
「はい」「うん」「はーい」「わかった」「りょうかい」「おっけ」「はいよ」
私の声に従って、小さな萃香達が一斉に台所に散っていく。そして、身に着けているのは私が作った人形様の衣装だ。
つまり、着る物が無かった萃香を分裂、縮小させ、試作の人形服を着せたのである。
これなら萃香の洋服問題を解決出来るし、本人がチョコを作れる。
そして人形達が居ない分の人手もカバー出来、私は試作服の出来具合をチェックすることが出来る。
まさに一石四鳥の解決策であった。
因みに萃香一番(本体としての度合いが強く、統率役らしい)は私の肩の上に座っていて、
何やら落ち着かない様子でキョロキョロしている。
「コンニチハースイカチャン」
「ハジメマシテースイカチャン」
「こ、こんにちは」
と、そんな萃香一番(面倒なので、以降は萃香に統一)に上海と蓬莱が興味を示した。
チビ萃香達へと指示を出しつつ、私は何とは無しにその会話に耳を傾ける。
「カワイイヨースイカチャン」
「ニアッテルニアッテルー」
「そ、そうかな?」
萃香が今着ている服は、試作していた服の中でも一番最初に作られたものであった。
全体を黒系の色で統一し、要所要所を白いフリルで飾ったものだ。角が邪魔になったので頭には白いリボンを着けているが、
少し見れば、それが所謂メイド服(紅魔のメイドとは違うタイプのもの)ということが分かるだろう。
「……うん、凄くかわいい服」
改めて自分の格好を確認した萃香が、そう応えた。
別に、デザインについての感想を期待していたわけでは無かったのだが――『かわいい服』と言われたら、
苦労して作った方として悪い気はしない。
上海と蓬莱のさりげない質問に心の中で少し感謝し、
「スイカチャン、ダレニチョコヲアゲルノー?」
「ラブラブナノー?」
「!!!!!!」
前言撤回。直球ストレートにも程がある。
ちらりと視線を横向ければ、肩の萃香はあぅあぅ唸りながら赤ら顔をさらに赤くし、耳までも真っ赤にして湯気を吹いている。
……人形の教育について、もう少し考えなければいけないかもしれない。
「え、えと……あぅぅぅぅ…………………そ、そのぉ……」
もごもごと何かを呟いていたが、どうやら話す気になりつつある様だ。
勿論、無理に話させるつもりは無い。
が、
せっかくの機会なので、チビ萃香達に指示を出して忙しいフリをしつつ、こっそり聞いてみよう。
(もっとも、チビ萃香達も皆顔を赤くして、あわあわとしているので指示が忙しいというのは幾分かは本当である)
「えっと、その、最近、好きなひとに、その人の本当の気持ちを教えて貰えて、それで、『好き』って教えてくれて……」
「それで、今までよりずっと一緒に居てくれて、
もっとぎゅってしてくれて……ゴニョゴニョも、してくれて、凄く嬉しくって、暖かくて……」
今、口移しがどうのと言っていたが……人(鬼?)は見掛けによらないモノの様だ……耳年増な気もするけれど。
「でも、いつも私ばっかり嬉しくって、何もしてあげられないから……だから、私からも何かしたくって」
「それで、紫に聞いたら、バレンタインって日に、チョコレートってお菓子を貰ったら、男の子は凄く喜ぶって、それで……」
「でも、私はお菓子なんて作れないし、紫も霊夢も知らないし、だから……」
成る程。何故急に私を訪ねて来たのかのかについての事情がハッキリした。
洋菓子、洋風ということならまず真っ先に紅魔館を連想しそうなものだが……
あそこの館主である紅い吸血鬼と萃香との間の関係は、ハッキリ言って良く無い。所謂同族嫌悪というものがはたらくらしい。
だからこそ、その次に洋風で、かつ、お菓子などに詳しそうな私に白羽の矢が立ったのだろう。
それ以外の内容については……御馳走様でした。
「カワイイー!!」
「スイカチャンカワイイー!!」
「え、ちょっと、わぷっ!?」
と、同じく(というより寧ろ二体に話していたのだろうが)話を聞いていた上海と蓬莱が、萃香をぎゅうっと抱きしめていた。
まあ、話の内容はかなり初々しいものであるし……二体がそうしてしまうのが良く分かる程に、今の萃香は可愛らしいと思う。
と、萃香がもみくちゃにされている丁度その時に、部屋の片付けが終了したとの連絡が人形達から入った。
「そうね……」
チラリ、と上海蓬莱、萃香を見て、
「じゃあ…………」
人形達に、追加の仕事を頼んだ。
せっかくのバレンタインなのだ。これ位のお節介は許されるだろう。
さてさてそれから半日ばかり。
朝には始まった作業も、チビ萃香達の力(密疎を操って直ぐに水を沸かしたり、材料を集めたり、細かく砕いたり、実に便利だ)
で効率良く進み――日が暮れ、夜の帳が降りる頃には、
「出来たー!!」
チョコレートが完成していた。
因みにオーソドックスなハート型のチョコである。
もっと時間があれば色々出来たのだが……流石にバレンタインが明日では、そうも言っていられないだろう。
もっとも、
「この方が、この子らしいしね」
完成したチョコを、上海蓬莱に手伝って貰いながら(服が乾いたので合体、通常サイズに戻っていいつもの萃香の服を着ている)
ラッピングしている萃香、その満面の笑みを見ながらそう呟いた。
「萃香」
「?」
ラッピングし終わった所で、二つの袋を手渡した。
一つには、先程まで萃香が着ていた人形服を基にして作った、萃香様の大きいサイズの服。
急ぎで人形達に作らせたものではあるが――完成度は中々の物だ。
そして、もう一つには、
「ビターチョコが入ってるわ」
「びたー?」
「甘くない……どちらかと言えば、苦いチョコよ」
「アマクナイー?」
「アマクナイノー?」
「え? でも、チョコレートって甘いんじゃないの?」
確かに、一般で作られ、販売される(幻想郷では分からないが……)チョコには砂糖が入っており、その味は甘い。
しかし、カカオの分量、砂糖の量などを調節すれば、殆ど甘みの無い、苦みのあるチョコが出来るのである。
「ふぅん……でも、これってどうするの?」
「それは…………」
そこで私は萃香の耳元に口を寄せ、服とビターチョコ、その『使い方』を教えた。
「…………っ!!」
瞬間、一気に萃香の顔が赤くなり、頭が湯気を吹き上げる。
……ここまでからかいがいがあると、中々に面白い。
「まあ、使うかどうかはあなた次第よ……ああ、心配しなくても、それはチビ萃香達が作ったものだから」
「ぅぅぅ…………」
と、萃香の様子が急に変わった。
今さっきまで赤かった顔に陰がさし、その表情が暗いものになる。
俯き、僅かに震えるその姿に、妙な違和感を感じた。
「萃香……?」
「スイカチャンー?」
「ドウシタノー?」
「あ、あの……」
まるで、何かに怯える様に……ぽつりぽつりと言葉を落とす。
「そのね、前の宴会の時……あの時、アリスに酷いこと言って……それで、その後、弾幕勝負で怪我させて……その……」
「…………」
成る程。
どうやら、萃香の方もあの時の事を覚えていたようだ。
だからこそ、訪問して来た最初は黙ったままだったのだろう。
「その……それなにのに、いきなりこんな頼み事して……それに服も貰って……その」
ごめんなさい、と続こうとした唇を、そっと指で押さえた。
「別に、あの時の事はもう気になんかしてないわ」
随分前の事だしね、と付け加える。
「それに……」
萃香の手の中、今日一日を費やして作り上げたチョコレートに視線を向ける。
自分に頭を下げ、慣れない作業に頑張り、上海蓬莱にからかわれていた萃香の姿を思い浮かべながら、
「恋する女の子を応援しない程、私の心は狭くないわ」
ウインクして、そう言った。
その言葉に安心したのか、萃香の表情がぱっと明るいものになる。
――うん、女の子が好きな人に会いに行く時は、やっぱり笑顔でないと。
「それに、こういう時は『ありがとう』よ?」
「ソウダヨー」
「ワラッテワラッテー」
手元にあるその頭を撫でながら、ゆっくりと言う。
「――うん!!」
そして、萃香は大事そうにチョコを、二つの紙袋を抱えて、
「アリスー!! ありがとー!!」
そう大きな声で叫んで、森の中へと入っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ふぅっと息を吐く。
「やれやれ……私も、誰か相手を見つけたいものね」
「アイテアイテー」
「ラブラブニナルノー?」
流石に、あそこまで熱々になりたいとは思わないが……
「いや……」
相手が見つかれば、私も、自然とああなるのだろうか?
そんな事を考えながら萃香の通った後を眺めて――
「…………!」
急いで、その後を追いかけた。
「くぅ……」
アリスにお礼を言って、魔法の森に入ったその直ぐ後。
そのまま○○の居候している慧音の家まで行こうとしたのだが……そこで、思わぬ妨害を受けることになった。
「ウマソウナニオイダ……」
「アマイニオイダ……」
「アマイ」「ウマイ」「アマアマ」「アマ」「ウマ」「ウママ」「アマーイ」……………
目の前に居るのは、まるで蜘蛛の様な形態をした、赤い眼球を全身に備えた妖怪。
恐らく、そこまで妖怪としての位は高くないのだろう。
私が鬼だということにも気付かず、ただ手に持ったチョコレート――その甘い匂いに引き寄せられている。
勿論、たった一体ならば気にすることも無い相手なのだが――
辺り一帯を、その蜘蛛の分体――若しくは、子どもと思しき、小さな蜘蛛の妖怪に取り囲まれてしまっていた。
この状況から脱出するには、荷物やチョコレートを『疎』にして、一緒に霧になってしまうのが早いのだろうが……
(それは、したくない……)
今、手に持っているこれは、そういう物では無いのだ。
しかし、一人でこの数を相手にしていれば、確実にチョコか荷物、そのどちらかに被害が出てしまう。
ならば、どうすれば良いか。
その糸口が見つからない内に……段々と、蜘蛛の群れがその包囲を狭めてくる。
このままでは、不味い。そう感じた時、
「アマー!!」「ウマー!!」
「!!!!」
周囲の子蜘蛛が、一斉に飛びかかって来た。
やるしかないのか。そう覚悟を決めかけ
「遠足は、家に帰るまでが遠足よ」
子蜘蛛が、一斉に吹き飛ばされた。
「え……!?」
「ふぅ、間に合ったみたいね」
呆けた様な声を出す萃香。その直ぐ後ろに、上海と蓬莱を連れたアリスが降り立った。
「言わなかった私も悪かったけど……夜の森は、色々と危険が多いから気を付けないと駄目よ」
萃香を見送ったあの時……アリスは、萃香の後を追う様にして森を伝う蜘蛛の糸を見つけたのだ。
勿論、それだけなら気に留める様なことではないが……それが微かながら妖気を帯びていたとあっては、話は別である。
慌ててその後を追いかけて――そして、その現場に間に合ったのだ。
「さて……」
先程何体か吹き飛ばしたとはいえ――数が多いのだろう。未だに、周囲に漂う妖気は減った様子を見せない。
「ここは私が何とかするわ。だから、早く行きなさい」
「え、でも……」
「もうすぐバレンタインの当日よ。折角作ったチョコレート、早く渡したいでしょう?」
「だけど……」
まだ抵抗を感じている萃香。その頭を、アリスは軽く撫でてやる。
「大丈夫。この程度なら全然問題は無いから――だから早く、貴女の想いを伝えなさい?」
その言葉に萃香は僅かに沈黙し、
「…………うん!!」
直ぐに駆けだした。
その後ろ姿に向けて、子蜘蛛達が飛びかかろうとして、
「上海、蓬莱!!」
「オッケー!!」
「マカセテー!!」
小粒な影達を、上海と蓬莱が残さずレーザーで叩き落とした。
ここまで来て、ようやくアリスを危険であると判断したのだろう。
蜘蛛達の包囲が、アリスを中心としたものに組み直される。
夜の森を覆い尽くす、黒い影と蠢くざわめき。
だが、それに包囲し尽くされてもなお――アリスは余裕の表情を崩さない。
「所詮、蜘蛛は黒一色――」
その手に掲げるのは、虹色の光を放つスペルカード。
「数だけに頼ったその力は、私の六厘にも満たない」
そして、七色の光に照らされながら、アリスは高らかに宣言した。
――戦操『ドールズウォー』
瞬間、隊列を成した人形達、優に百を越えるその軍団がアリスの周囲に顕現した。
一体一体が槍を持ち、鎧を纏い、馬に跨ったその姿は――まさに、軍隊と呼ぶに相応しい様相であった。
「ヒトノコイジヲ、ジャマスルヤツハ―」
鎧を纏った上海が、槍の切っ先を蜘蛛達に向ける。
「ウマニケラレテ―」
蓬莱の言葉に続き、他の人形達が一斉に槍を掲げる。
「閻魔に裁かれて来なさい――」
アリスの言葉で、一斉に人形達が声を上げる。
その軍隊の威容に、蜘蛛達が気圧され、そして気付く。
『格が違う』という事実に。
だが、もう遅い――。
「突撃」
決着が着くまでには、僅か一分も掛からなかった。
その日、○○はいつもの様に屋敷の縁側に座り込み、ぼんやりと月を眺めていた。
普段ならば、家主である慧音さんから身体を冷やすと注意される所であるが――先程、森の方から派手な光、音が響いて来たので、
何か力の強い妖怪が暴れているかもしれないとのことで、藤原さんと一緒に見回りに行っているのだ。
明け方までは帰れない――その言葉を思い出しながら、○○は夜の風を感じていた。
今までなら、不安や、恐れしか感じなかった月夜と夜風。
その恐怖を、快い感情へと変えてくれたくれた彼女のことを考えて――
「ま、○○?」
その彼女の声が、背後から聞こえてきた。
驚き、慌てて後ろに振り向いて――
「に、似合う、かな?」
その姿に、言葉を失った。
いつもは、袖が破れたシャツの様な服を纏い、全身に鎖を巻き付けた格好であるが……
今、○○の目の前に居る萃香の姿は、今までの彼女の姿とは、全く異なるものであった。
それは、一見してメイド服の様にも見えた。
だが、使われている布地は月光を反射してキラキラと光る上等な物であり、また、全体に使われている白いふかふかのフリルの割合や、
頭に付けられたリ大きな、花びらを模した形のリボン等――細かく見ていけば、それが実用性と言うよりも、
それを纏う者を、より美しく、可愛らしく見せるものだということが理解出来る。
そして、何より――その服は、まるでオーダーメイドされたかの様に、萃香に似合っていた。
「あの、○○?」
困惑する様な萃香の声に、○○ははっと我に返った。
「に、似合う……凄く」
「……」
その言葉に、萃香は僅かに沈黙し――
「良かった……」
そう言って、花がほころぶ様な笑顔を浮かべた。
(うわ…………)
その姿に、その笑顔に……自然と○○の鼓動が跳ね上がり、顔が赤くなる。
その事実に気付いているのかいないのか。
萃香は顔を赤らめながら懐を探ると、中からハート型の包みを取りだした。
「あ、あの……あのね、その……バレンタインの、チョコ、レート、なんだけど……」
「え……」
萃香から差し出された包み。その中身に、○○は驚きの声を上げる。
「その、俺に?」
「うん……」
見る見るうちに萃香の顔が赤くなる。
それに釣られて自分の顔が熱くなっていくのを感じながらも、○○はそっとチョコレートを受け取った。
「え、と……食べても、良いか……?」
「…………」
もはや話すことも出来ないという様に、萃香は赤い顔を俯けながら、がくがくと頭を縦に振った。
その様子に、より一層愛おしさを感じつつも、渡された包みをゆっくりと開いた。
「うわ…………」
そこから現れた、ハート型のチョコレート。
彼女らしい、一直線に感情を伝えてくるその形に、思わず感嘆の声を上げてしまう。
「そ、その……食べて、みて……」
言われるまでもなく、○○はそのチョコを口へと運んだ。
カキっ、という軽めの音を立ててチョコが砕け、○○の口内へと運ばれていく。
萃香が怖々とその様子を見つめるなか、○○はぽつりと呟いた。
「甘くて」
ゆっくりと、しかしはっきりと。
「良い香りがして」
萃香の顔を見つめながら。
「すごく」
満面の笑みを、その顔に浮かべて。
「――美味しい」
そう、告げた。
「……ホン、ト?」
「うん……嘘じゃない」
その言葉に、萃香は顔をくしゃっと歪め、大きな瞳に涙を浮かべ、
「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁん!!!!」
そのまま、○○に抱きついた。
それから、少しして。
「その、ごめんね? ちょっとだけ不安だったから、嬉しくって、つい……」
○○の膝の上で、萃香はそう呟いた。
あの後、チョコを美味しいと言われたことにほっとした萃香は、思わず泣きだしてしまい
――そのまま、○○に抱きついてわんわんと泣き続けたのであった。
その間、○○は泣き続ける萃香の頭を優しく撫で続け――気付けば、夜はより深いものになってしまっていた。
「良いよ……それに、頑張って作ってくれたんだろう?」
「う、うん……」
その言葉に萃香はまたまた赤くなり――そして、懐の『もう一つ』の紙袋の感触に気が付いた。
因みに、最初のチョコレートは○○が既に食べきっており……出すタイミングとしては、十分だと考えられた。
「ね、ねぇ、○○?」
「うん?」
応えつつ、優しく頭を撫でてくれる感触。その暖かさを嬉しく感じながら、ゆっくりと切り出した。
「あのね、もう一つチョコが有るんだけど……た、食べる?」
「……うん」
どくん、と鼓動が一つ強く打つ。その感覚を感じながらも、萃香は懐から、小さな袋を取り出した。
中に入っているのは、一つまみ程のサイズの――これまた、ハート型のチョコ。それが大量に入っていた。
ぼんっ、と湯気を吹いてしまうが、何とか平静を保ちつつ、一つ摘み上げる。
「えっとね、これは、そんなに甘くなくて……どっちかっていうと、苦い? チョコで……」
「……? ビターってこと?」
「……うん、だから……」
そして、そのチョコを口に咥えて……瞳を閉じて○○に向き直った。
「え……」
「…………」
あの時――洋館から帰る時、アリスに、
『口移しで食べさせると、甘くなるわよ?』
そう教えられたのだが――
(は、恥ずかしぃぃぃぃ…………)
酒を口移しで飲ませ合いしたことは何度かあるのだが……酔いの勢いが借りられない分、
その恥ずかしさは比べものにならなかった。
(○○は、どう思ってるのかな……)
恥ずかしさで目を開けることが出来ない為、その表情を伺うことは出来ない。だから、
(変に、思ってないかな……)
その気持ちが、むくむくと大きくなってくる。
どうだろうか。不味くないか。分からない。怖い。
ぐるぐると気持ちが回り、耐えきれなくなったまさにその時、
「んっ……!?」
「…………」
唇に、柔らかな感触が伝わって来た。
暖かくて、気持ちが良くて……そして、とても、甘かった。
それは、咥えていたチョコにも伝わり……最初は苦く感じていたそれが、いつしか蕩ける様な甘さになっていた。
「んぅ…………」
「ぷはっ…………」
そして、ゆっくりと口を離した。
二人して軽く息を吐き、真っ赤になった顔を見合わせる。
「……え、と」
「うん……」
互いに、何を言って良いか分からない。そして、
「甘かった、ね…………」
「うん、凄く、甘かった……」
結局、そんな言葉になってしまった。
「えっと……まだ、一杯あるんだけど……食べる?」
「……うん、食べようか」
全部食べ終えるのに、それ程の時間は掛からなかった。
「御礼?」
「うん、そう」
結局、チョコレートを全て口移しで食べ合ったその後……○○の膝の上で、萃香はそう言った。
「あのね、今回、チョコやこの服の事でアリスには色々と世話になったから……だから、何か御礼がしたいんだけど」
「う~ん」
アリス・マーガトロイド。彼女の事は、○○も慧音から話を聞いているので知ってはいるが……
何分、本人と会ったこと等無いので、何をもって御礼にするべきか、すぐには思いつかないでいた。
「確か、珍しい物を収集してるらしいけど……」
結局、○○の口からはそんな言葉しか出なかった。
しかし、
「珍しい……」
その言葉に、萃香は何か思いついた様で――じっと、夜空に浮かぶ月を見つめていた。
「萃香?」
「ね、○○」
萃香はゆっくりと、その手を空に掲げる。
「月のものって、珍しいよね」
「? ……まあ、珍しいな」
外の世界でもそうだが、幻想郷においても、月の物は殆ど――永遠亭には少なからず有るらしいが――無い筈だ。
「うん、だったら――」
萃香は、掲げた手をぎゅっと握りしめ、
「これも、御礼になるよね」
虚空に向かって突き出した。
そして、
夜空に、純白の花が咲き誇った。
そして、翌日。
「……ん?」
自分の洋館の前を掃除していたアリスは、玄関先に置かれた『それ』に気が付いた。
一つは、以前にも見たことがある日本酒の大瓶。
もう一つは、
「これって……」
小瓶に入ったそれは、一見してただの白い砂に見えた。
ただ、普通の砂と違う所は――それが日の光を反射して、青白く輝いているという所だろうか。
「…………」
その小瓶の下に挟まれた紙を見て、書かれた内容を確認して――
「ふふっ」
アリスは、静かに微笑んだ。
「『天蓋の月は、紛いモノの月。しかし、それは天蓋の一部――即ち、幻想の空の欠片なり』……か」
そして、その紙をゆっくりと畳むと、小瓶と酒瓶を大事そうに抱えた。
「アリスーソレナニー」
「ナニナニー」
「ん? これはね……」
優しく、こう言った。
「小さな鬼がくれた、夜空の月の砂よ」
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うpろだ1037
○○「こんばんわ萃香さん」
誰もいないはずの壁の向こうに向かって話しかける
○○「こないだのことは怒っていませんから顔を見せてください」
萃香「……本当に怒ってない?」
実はこの間の宴会で萃香さんが酔っ払ってしまったときにうっかり胸を触ってしまったのだ
それで怒った萃香さんはスペルカードを発動して、今ではこの自分の家でこの有様である
○○「怒ってないですよ。それよりも謝らなきゃいけないのは俺のほうです。……ごめんなさい」
萃香「……次やったら承知しないんだから。……うふふふふ」
○○「ふふふ、それで今日はどんな用ですか?」
萃香「いや~病室で一杯やろうと思ってきたんだけど……どう?」
○○「いいですね。せっかくだから屋根の上で飲みません?」
萃香「動ける○○?」
○○「っ……大丈夫ですよ、少し痛みますが」
萃香「じゃあ運んであげるよ……えいっ」
ひょいと持ち上げられたと思った瞬間、すでに僕たちは屋根の上にいた
○○「う~んやっぱり月見酒は格別だな~」
萃香「やっと言葉遣いがいつもどおりになってきたね」
○○「うん、さっきは本当にすまないと思っていたから……」
萃香「そんな事言ってないで、ほら飲んだ飲んだ!!」
萃香に進められるまま杯を口へと運ぶ
○○「それにしても……今日はいいお酒を持ってきたじゃないか萃香」
萃香「へへーん。天狗に頼み込んだだけのものはあるでしょ」
○○「そうか……えらいぞ萃香♪」
わっしゃわっしゃと萃香の頭をなでる
萃香「くすぐったいよ○○……」
○○「どうした萃香」
萃香「ほ、本当はねあのときイヤじゃなかったんだよ……で、でも物事には順序ってものがあるでしょ?」(上目遣いです)
○○「うっ……す、萃香……」
萃香「い、今ならね、私……」(もちろん上目遣いです)
○○(ごくっ……)
萃香「た、食べられても、いいからね?」(完璧に上目遣いですありがとうございました)
○○「ぶはぁっ!!ってあっ」
視界が揺らぐ、一面に闇が広がる
萃香「○○ーーーーー!!!」
どうやら屋根の上から落ちているらしい
……最後にいっしょにいられたのがお前でよかったよ萃香……
○○「ってあれ?落ちてない?」
萃香「鬼符ミッシングパープルパワー」
目の前には巨大化した萃香の姿が
……泣いてる?
萃香「……もう一人にしないでよぅ○○、ひっく、私、私、もう誰かを失うのはイヤだから……」
○○「萃香……大丈夫だから、もう萃香を一人にしないから……」
萃香「ほ、ほんと○○~?」
○○「男に二言はないぜ萃香。俺がお前のことを一人にしない、ずっとそばにいる」
萃香「ありがとう○○……」
○○「ほら、泣くなよ。もう一杯飲もうぜ!」
萃香「うん!!」
~終わり~
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うpろだ1116
○○「萃香ーッ!俺だーッ!結婚してくれー!」
萃香「いいよ」
○○「うひゃほぅ!」
萃香「私と勝負して勝ったらね」
○○「フッ、望むところだ」
――5分後――
アリス「た…立ったわ」
魔理沙「○○はまだヤル気だぜ…」
○○「か、完全骨折…右小指1、右前腕2、左前腕1、右上腕1、左肋骨2、下顎骨1
不完全骨折…右上腕1、左上腕2、左右大腿部各1、裂傷8、打撲26
脳内出血及び両鼓膜破損……それがどうしたよ!」
萃香「まだやらせてくれるというのか………感謝!!!」
霊夢「○○いっちゃダメーーッ!!」
文「お、鬼が…哭いてるッッッッ」
萃香「よもやこいつを使えるとはな」
ドンッッッ!!!
ドクン……ドクン……ド……………
紫「霊夢、あれが萃香よ。鬼の力でただ思いきりブン殴る
だったそれだけの技だけどスピード・タイミング・破壊力
共に……人妖を越えている、つまり…」
霊夢「防ぎようがない!!」
○○「………………」(立ったまま)
萃香「私に求婚するに恥じぬ漢よ」
文「す、萃香さん!まだ勝負は終わって…」
萃香「死んだよ」
文「えっ!?」
霊夢「なっ!?」
紫「…………」
他「ッッ!!」
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最終更新:2010年05月11日 21:38