衣玖2



うpろだ1274


夕食を一足先に終わらせて蚊取り線香たきながら縁側で涼んでると後ろから子供がかけてきて隣にちょこんと座るんだ。
いつもは食器の片づけを手伝うはずだから。
「お片づけはもう終わったの?」
と訊くと、
「おかーさんが『おとーさんといっしょにまってなさい』だって。」
とか返ってくるんだ。
何のことか首を傾げてるとラフな格好の衣玖さんが台所から切れた西瓜とよく冷えたサイダーとコップを二つ、盆に載せてやってくるんだよ。
コップが足りないよ、と訊く前に盆を置いて台所に戻ろうとする衣玖さん。
その手を逃すまいとつかむ俺。
「まだ片づけが残ってますから。」
困った顔をするんだけど俺が頑なに離そうとしないのを見て、
「……片付けは手伝ってくださいね?」
と子供を挟んで反対側に座って、コップにサイダーを注いでくれる。
そこでコップが足りないことに気づいてまた困った顔をする衣玖さん。
飲みたくなったら俺の分を使えばいいよ、というとほんの少しだけ顔を赤らめながら「お言葉に甘えますね」と返してくれるんだ。

西瓜を食べながら子供と二人で種飛ばしやってるのを見て、
「あなたまでそんな子供みたいに……」
と苦笑する衣玖さん。
「いいじゃないか、たまには。」
「おかーさんもやろーよー」
「そうだな、どうだい、衣玖さんも?」
とか言うと今度ははっきりわかる程度に顔を赤らめるんだけど、空気を読んで一緒に種飛ばししてくれる。
そして三人で西瓜を食べ終わって、のんびり月を眺めるんだ。
子供を間に挟んで、子供の後ろで指を絡めて、のんびり空を見上げるんだ。
「きれーだねー」
「「そうだね……」」
不意に重なった言葉に二人で見詰め合って、顔を赤くしながら軽く笑いあって、子供から不思議がる目線を向けられる。

そのまま四半刻くらい月を眺めて、子供が夜風を寒がり出した頃合に、
「そろそろ片付けしないといけないかな?」
と唐突に口を開く。
そのまま空のコップとサイダーのビン、それから西瓜の皮が重なった皿を載せた盆を、今度は俺が持って、三人で台所に向かうんだ。
三人で台所に立って片づけをしてると衣玖さんが子供には聞こえないくらいの声で俺に、
「今日は私のほうが空気を読まれちゃいましたね。」
と囁いてくる。それに俺は
「衣玖さんの旦那やってるんだ、多少は空気読めるようにならないとな。」
と返すんだよ。
そんな言葉に衣玖さんはまた頬を軽く染めながら微笑んで、ちょっとだけこっちに体を寄せて、また洗い物を再開するんだ。

洗い物も片付いて、子供が寝静まって、風呂も済ませてまた縁側でのんびりしてると、今度は盆にお酒を載せて、さっきよりも上機嫌に衣玖さんが現れる。
間にはさむものが無くなって、ぴったり寄り添って座る俺と衣玖さん。
ふと盆を見るとお猪口がひとつしかないんだ。
今度こそ、と思い「お猪口、ひとつしかないよ?」と訊くと「あなたのを、使わせてくださいな」とか言ってくるの。
仕方ないなぁとか言い返すんだけど、内心では正直どきどきで。
で、衣玖さんが注いでくれたお酒を一口飲む。
それからもう一口、今度は口に含むだけ。
そしておもむろに衣玖さんに口付ける。
衣玖さんはいきなりのことに驚くんだけど、こっちは眼をつぶってるからそんな表情なんてわからないんだ。
衣玖さんの口が緩んだ一瞬に、口内の酒を流し込む。
そうして口を離し、目をあけると、目を見開いて、顔を真っ赤にしたままこっちを見てる衣玖さんが目に入る。
「あれ、一応空気を読んでやったつもりだったんだけど……ま、間違えたかな?」
衣玖さんの表情に焦って尋ねる俺。そんな俺に衣玖さんは、
「確かに読みは間違いですよ。でも、行動としては120点です。」
と微笑む。微笑みながら俺の手からお猪口を掠め取る。
今度は俺の口がふさがれる。
若干前の一口より温度の上がったお酒に喉を鳴らすと衣玖さんが口を離す。
「ふふ、今度は私の番ですよ。」

そんなふうにひとつのお猪口と二つの口でお酒を空けて、それからこんどは二人で月を見る。
さっきよりも幾分月は高くなってて、しっかり見上げる形になるから、二人の視界からお互いが消えて、存在を感じられるのは寄り添って触れ合ってる互いの体温だけで。
でも、それだけで十分で。
そのまま眠くなるまで二人で夜空を眺めてた。




――――――こんな時間がずっと続くといいな……
――――――衣玖さんは俺が嫌い?
――――――そんなまさか
――――――じゃあ続くさ、ずっとね

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うpろだ1284


「うぎゃあああああああ!! 俺のシングルアクションアーミー(以下SAA)がぁぁぁぁ!!」

 俺、○○の目の前にはグリップの割れた銃器が机の上に置いてある。

「SAAでジャグリングなんかするんじゃなかった…」

 一丁だけでチャレンジしたが、手から滑り落ちてみごとに失敗。
 このSAAは2年ほど前、幻想郷に住み始めてから香霖堂で買ったものである。
 こいつを買って考えた仕事が探偵という仕事だ。
 え? なんで探偵になるのか?
 だって銃といえば探偵がはじめに思いつくし……
 そう言えば、こいつを使って『私の愛馬は強暴です』とか言って空き缶打ちまくって遊んだっけなぁ。(よい子は真似しちゃダメだよ お兄さんとの約束だ)
 近所迷惑で怒られたが。
 まぁ それは置いといて。
 里で探偵事務所を開業したものの、仕事の内容は駄菓子屋の店番や稗田家の庭の草抜き程度。
 多分俺が「何でも仕事を受け付けます」と宣伝したせいだと思う。
 それどころかあまり儲からないのでたいやき屋を副業として始めたら大盛況。
 今では○○探偵事務所という名のたいやき屋となってしまった。
 はい、説明終了っと。

「まぁ いいや。 香霖堂で新しい護身用武器買うか……」

 アーミーナイフも余分に2本持っているが、やっぱり心細い。
 妖怪相手に接近戦は怖しな。
 さて、どうやって香霖堂へ行こうか。
 途中で理性の無い妖怪に会わないことを祈って乗り込むか。

 コンコン

 椅子から立ち上がろうとすると玄関の方からノック音が聞こえてきた。
 どうせ駄菓子屋のおばちゃんかと思い、トボトボと玄関に向かう。

 ガチャ

「誠に申し訳ありませんが、今日は休業に……って、どなたです?」

 思っていた人物と違っていたのでついつい「どなたです?」って言ってしまった。
 扉を開けるとそこには美しい衣と黒いロングスカートを着た美しい女性が立っていた。

「お休みのところ申し訳ありません。 私は竜宮の使いの永江 衣玖と申します」

 と言い、彼女は頭をペコリと下げた。

「え……あ、自分は○○と言います」

 俺も頭をペコリと下げる。
 ついつい見惚れてしまったので反応が遅れる。
 幻想郷縁起は読破しているのだが、ひとつ聞きなれないキーワードがあるため聞いてみることにした。

「ん~ 竜宮の使いとは何です?」
「竜宮の使いとは龍神様のお言葉を聞き、その重要な内容の場合は地上に降りて人間や妖怪に伝えることが役目の妖怪です」
「一応妖怪なんだ…… で、あなたの言う龍神様のお言葉を伝えに来たわけですか」
「ええ、そうです。 近いうちに地震が起こることをお伝えに来ました」
「地震? うちの家は河童に建ててもらってるから耐震はあると思います。 そう河童が言ってましたので」

 実はこの事務所というか家は河童の『河城 にとり』に建ててもらった家だ。
 元々ボロ家に事務所を開いていたが、山を散策中に足をつって溺れているにとりを助けてあげて、その恩返しに改築してもらった。
 屋根にソーラーパネルが設置してあったりとあの頃のボロ家の面影はない。

「はぁ そうですか。 それなら大丈夫そうですね。 では次の人間に伝えなければいけませんので」

 彼女はそう言い、振り返りつつ飛ぼうとする。
 その際に俺は彼女の右腕から血が滴り落ちるのが見えた。

「あっ! ちょっと待って!」

 俺は無我夢中で彼女の左手をガシッとをつかんだ。

「なんですか?! もしかしてあなたも弾幕勝負をしたいというのですか?!」
「いやいやいや、弾幕うてませんから! そうじゃなくて、右腕怪我しているじゃないですか! 手当をしてあげますからとりあえず家に上がって」
「これくらいは大丈夫です。 妖怪は治癒能力高いですし、ほっといてもすぐ治りますよ」
「右腕から血がダラダラ流れているのにほっておけれない。 いいから応急手当させろよ」

 俺は彼女の腕をこちら側にやさしく引っ張る。

「わかりました…… ここはおとなしく治療を受けることにします。 あと……」
「はい?」
「○○さんって優しいですね」

 彼女は笑顔でそう言った。
 卑怯だ。
 笑顔でそんなこと言われると惚れてしまうじゃないか。
 彼女の笑顔は100億ルクスで目がぁーー! 目がぁぁーー!

「と、とりあえず中に入ってください」
「それでは、お邪魔させていただきますね。 って顔紅いですね。風邪ひいてます?」
「ゆ、ゆっくりしていってくれ」

 顔が赤いことについては華麗に(?)スルーした。




 とりあえず高校の保健体育で習った通りにやって応急手当てをした。
 こういう包帯を巻くタイプの応急手当は初めてなので少し雑になってしまったが。

「これでよし」
「ありがとうございます」

 接客ソファーに座っている永江さんが頭を下げた。
 とりあえず喜んでもらえたようだ。

「人助けをするのは人として当然です」
「私、人じゃありませんけどね」

 永江さんはクスクスと笑う。
 彼女の笑顔を見るたびに胸が締まるような感覚がする。
 重症だと自覚はしている。

「そうだ。 少しそこで待っててもらえるかな」
「ええ……なにをするかはわかりませんができれば早くしてくださいね」
「了解」

 そう言い、俺は玄関の隣の小売窓に移動した。
 もちろん永江さんにたい焼きを食べてもらうためである。
 小売窓の傍にはたい焼きを作るための鉄板が置いてあるが、幻想郷にはガスが無いので火を焚いて作ることになる。

「妹紅みたいな能力があればな…… まあいい作業開始」

 俺はそうボソッと言い新聞をマッチで燃やし、鉄板の下の木炭が入っている暖炉に放り投げた。
 文々。新聞が発火元になっているためよく燃える。
 まったく便利な新聞だ。
 別に紙ならなんでもいいのだがな。
 文がこのこと知ったら店が吹っ飛ばされるかもな。

「何かが燃える音がしましたけれども何をしているのですか?」
「それはできてからのお楽しみで」

 ソファーから俺の姿が見え見えだが何をしているまではわからないらしい。
 とりあえずお楽しみとして取っておいてあげた。





「はい お茶と当店自慢の手作りお菓子」

 トレイに乗せた茶とたいやきを接客ソファーに座っている永江さんの目の前の机に置いた後、俺は彼女の向い側のソファーに座る。
 ちなみにたいやきは10個ほど作ったので載せている皿はでかい。

「手当までしてもらったのに本当にいただいてよろしいのでしょうか?」
「いいのいいの。 人の厚意は素直に受け取れって」
「わかりました お言葉に甘えていただきます」

 彼女はまずたいやきを手に取る。

「この魚型はなんですか?」
「あぁ それはたいやきといってね、中にカスタードや餡子が入ってるんだ」
「へぇ~ なんかおいしそうですね」

 そう言い彼女はたいやきの頭の部分から口にする。

「あ……おいしいですね…… これ……」
「お気に召したようでなによりです」

 どうやら中身はカスタードだったようだ。
 どうでもいいが俺はカスタード大好き人間だ。

「○○さんもいただいてください。 私はこんなに食べれないので」
「さすがに作りすぎたかな? まぁ いただこうか」

 俺もたいやきを一つ手に取り、頭の部分をガブッとかぶりつく。
 永江さんと違って豪快な食べ方だ。

「そう言えば、先ほどまで誰と弾幕勝負してたのです?」

 それを聞いた永江さんは考え込む。
 思い出そうとしているのだろう。

「ん~ まず、なぜか天界にいた鬼ですね。 その後に山の烏天狗、そして屋敷の吸血鬼ですね」
「うはっ 全部強敵じゃないですか。 で、勝てたのですか?」
「ええ、何とか……」
「……結構強いのですね」

 もしかしたら俺はとんでもない妖怪を招き入れたのではないのか……
 美人だからそんなことは別にいいか。
 それに悪そうな妖怪じゃないし。
 その後、俺は永江さんと他愛無い話をいくつかした。
 外界にいたときの話や幻想郷に初めてきたときの話や……
 しかし楽しいひとときはすぐに過ぎるものである。

「では、そろそろ他の里の人間とかに伝えなければなりませんので」

 たいやきを二人で完食して、永江さんが口を開く。
 窓の方に目をやるともう日が暮れていた。

「わかった。 長居させてしまったな。 まぁ、ついでだからお土産も持って帰りな」

 俺はたいやきが5個ぐらい入った紙箱を渡す。
 永江さんは「ありがとうございます」と言い、素直に受け取った。

「ところで○○さん。 ひとつ御聞きしたいことがあります」
「なんでしょうかな」

 家から出たところで永江さんが質問する。

「私、妖怪の種族ですのに何で○○さんはこんなにも優しくしてくれるのですか」
「なんだ そんなことか」

 俺は外国のテレビ通販の男みたいにHAHAHAと笑う。

「優しくしてあげるのに人間も妖怪もない。 もちろん亡霊や死神、吸血鬼でも同じだ。 同じ感情を持つ生物だし、俺は差別はしない主義でな」

 亡霊は生物かどうかは置いておく。
 親父から女には優しくしろと言われているが、それも置いておく。

「変わった人ですね。 ○○さんは……」
「よく言われるよ」

 特に幼い妖怪あたりから言われる。

「そうだ 里の人間には俺が伝えておくよ」
「わざわざ、そんなことまでしなくれもいいですのに」
「いや、里には根っから妖怪が嫌いなやつがいますから。 あまり永江さんには会わせたくありませんので」

 例えば、いつぞやかの文々。新聞に載っていた秘密結社という組織。
 やつらは妖怪を幻想郷から追い出すと言ってる集団だ。
 強そうな人間ではないらしいが、永江さんには会わせない方がいい。
 何しでかすかわからん。

「どうしてもだめですか?」
「どうしてでもです」
「わかりました。 それでは里の方は頼みました」
「了解」

 俺はイキイキと敬礼する。

「あと、最後に聞いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

 永江さんは夕陽のせいなのか顔を少し紅潮させて再び質問する。

「竜宮の使いは滅多に地上に顔を出しませんが、もし地上に来たときは……また、たいやきを御馳走してもいいですか?」
「もちろんだ。 1年後だろうが10年後だろうが50年後だろうが君が来るのを待ってるよ」

 我ながら照れくさいセリフだ。
 永江さんはますます顔を紅潮させる。

「あ、ありがとうございます。 そ、それではまた会いましょう」

 永江さんは土産を片手にピューと飛んで行った。
 俺は永江さんに向かって手を振る。
 永江さんも俺が手を振っているのに気付いて、手を振り返す。

「また会いましょう……か。 何年後になるだろうかな……」

 彼女がいなくなって急に寂しくなった感が残る。
 俺もまた会いたい……
 俺が胸に少し締め付けられる気持ちになったのは生まれて初めてだ。
 いや、小学校の初恋以来だろうかな。
 今度会った時には自分の思いを伝えてみようかな。
 今はそれよりも永江さんからもらった仕事を達成することにしよう。

「とりあえず、まずはあっきゅんと慧音さんに伝えておくか。 そのあと里の掲示板に――」

 ちなみにこの時、永江さんに再会するのは2,3週間後ぐらいになるのは俺は知る由もなかった。

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うpろだ1348


 夏にある異変が起こった。
 その異変とは博麗神社に大地震が発生して神社が倒壊したり、各地で異常気象が発生した異変である。
 いろんな奴が異変解決に(一部遊び半分で)乗り出したが、結局解決したのは霊夢らしい。
 そんでもって異変の元凶に立て直してもらったのだが、今度は紫さんが暴れてまた神社が倒壊。
 俺が神主だったら泣くな。確実に。
 今回に限り霊夢に同情するぞ。
 で、その後に霊夢の仲間たちに立て直してもらい、天界で起工記念祭を行った。
 ちなみに俺はこの異変に全く気付かなかった。


「というわけなの。 って聞いてる?○○」
「聞いてたよ」

 今は夏の終わりごろ。
 俺、○○は今回の異変について霊夢から聞くため博麗神社に来たわけだが…
 いつの間にか俺は霊夢の武勇伝を聞いていた様な気がする。
 竜宮の使いをフルボッコにしたとか~ 天人をフルボッコにしたとか~。
 あんなに優しい永江さんをボコすとは、この脳みそスプリングめ。

「それで萃香のわがままで開かれる今日の第二回起工記念祭に出席しろと」
「そうよ。あなた探偵事務所とかたいやき屋とか開いてるけど、どうせ仕事なくて暇なんでしょ」

 今日はたいやき屋は定休日です。
 探偵も仕事がありません。

「お前よりは暇でないわ」
「じゃあなぜここに来たのかしら」
「新しい博麗神社を見に来た。以上」
「結局は暇してるじゃない」

 霊夢は呆れた顔でお茶を啜った。
 俺もつられてお茶を啜る。
 うむ、縁側で茶を飲むのも悪くない。

「前からでもそうだが、何で俺を宴会に誘ってくれるのだ?」
「○○がここに度々来てくれるからでしょ。 で、宴会に出席するの?」

 あの宴会に参加すると無理矢理酒を飲まされるんだよなぁ。
 かといって不参加だと魔理沙が俺の家に突っ込んでくるし。

「OKOK 参加するよ。お前らの付き合いは長いからな」
「ありがと。それじゃ私は買い出しに行くからいつもの準備よろしくね」
「はいはい」

 霊夢は茶を飲み干したあと俺に向かって手を振って里のほうへ飛んで行った。
 いつも思うが宴会の食費はどうなっているのだろうか?
 気にしてしまったら負けだと思った俺は、さっさと茶を飲み干して準備に取り掛かることにした。
 まだ太陽が真上に昇っているからゆっくりでいいかな。
 ちなみにいつもの準備とはたいやき100個作ることだ。
 ……出費がつらいよ。
 大体、酒にたいやきは合うのか?
 そう思いながら家に戻った。






「え~と…今宵は博麗神社起工の祝いにご出席ありがとうございます。 
   つきましてこの不肖○○が乾杯「「「「かんぱーーーい」」」」の音頭…って気短っっ」

 いつも俺が乾杯の音頭を取ろうとするとこれだ。
 しかもみんな息ぴったし。
 一升瓶で乾杯してる奴もいるし。
 あ~あ、一気飲みまでしてる……
 それにしても今回の宴会は出席者が多い。
 氷の妖精もいれば閻魔様もいるし……
 閻魔の仕事大丈夫なのか?
 そんなことより永江さんを探してみるか。 


「あのー…」
「一升瓶で一気飲みは無理ですよって、あなたは…」

 声の元の方を向くとそこには二本の触覚らしきものがついた黒い帽子と美しい羽衣を纏った女性がいた。

「永江 衣玖さんですよね?」
「ええ、そうです。 この前はお茶を御馳走させていただきありがとうございました」

 と言い、永江さんはおじぎする。

「こちらこそ話し相手になってくれてありがとな。 あ、そうだ 一緒に酒を飲みませんか?」

 永江さんなら無理矢理飲ましてこないだろう。 
 それに今は彼女と飲みたい気分だ。
 俺はそう思い、永江さんを誘った。

「ええ、構いませんよ。 私もあなたと一緒に……」
「ん? 今なんと?」

 後半部分が聞き取れなかった。
 俺と一緒にどうたらこうたら…… 

「あ! いや! 忘れてください!」

 永江さん……真っ赤な顔ですよ。

「何何? 何のお話をしてるの~?」

 俺と永江さんの会話の中で誰かが割り込んできた。

「わっ! 総領娘様!」
「何そんなにびっくりしてるのよ」

 その人物は俺の見たことのない人物だった。
 水色のロングヘアー、帽子に桃が飾ってある。
 もしかしたら霊夢が言っていた天人だろうか?
 なんかもう飲んでいるせいか顔が赤い。
 俺がその天人を見ていると目が合ってしまった。

「ふ~ん…… そこの男! 名前を言いなさい」

 天人らしき人物は俺に向かってビシィと指をさしてきた。
 てか、名前はさっき言ったはずだ。
 こいつも聞いてなかったな。 絶対

「お、俺は○○だ。 というか名乗るなら自分から名乗りな」

 俺も天人に向かって指をさす。

「私は比那名居 天子。 よく覚えておきなさい」
「わかった。 死なない天使」

 ごめんわざとw

「ひ・な・な・い・て・ん・し よ! 間違わないで頂戴!」
「総領娘様、もしかしてもう酔っているのですか?」
「うるさい! 私は酔っていない! ヒック」

 酔っている奴がよく言うセリフだ。
 というかヒックって言ったし。
 絶対酔ってる。

「総領娘様、飲みすぎはよくないですよ」
「バーロー! そこに酒があるに飲まずにいられるかってんだ! それより○○! あんた衣玖を泣かせたら承知しないからね!」

 天子の指先が再び俺に向けられる。

「まだ私たちはそんな関係じゃありません!」

 永江さんが強く否定する。
 いや……そこまで否定しなくてもさ……

「あらあら何やっているのかしら?」
「あっ 何するのよこのっ!」

 スキマから紫さんが出てきて天子の襟部分を掴む。

「は~~~な~~~せ~~~」
「おほほほ それじゃお邪魔なしでお二人共仲良く……」

 そう言い紫さんは天子とともにスキマの中に消えた。
 といってもここから見える範囲で別の場所に移動しただけだ。

「えと…… 飲もうか」
「……そうですね」

 そう言いお互いに敷物の上に座った。
 俺はとりあえず永江さんのグラスに傍に置いてあった紅魔館産のワインを注ぐ。
 その次に自分のグラスにワインを注いだ。
 ちなみにこのワインのラベルには咲夜印のヴィンテージワインと書かれている。
 無論、紅魔館組が持ってきた酒である。

「それでは乾杯」
「ええ、乾杯」

 カチン

 乾杯した後、俺はワインを一口程度飲む。
 永江さんも俺に合せるように一口飲んだ。

「○○さんは神社の中心に要石が刺さっているのを知っていますか?」
「あぁ 霊夢から聞いたよ。 あれが抜けると壊滅的な地震が起こると言いたいのでしょう」
「知っていましたか…… すいません 総領娘様のせいでこんなことになってしまって……」

 永江さんは申し訳なさそうな顔で謝る。

「永江さんのせいじゃないですから謝らなくていいですよ。 
   それに抜けなかったらいいわけですし、そこは霊夢の奴にまかせておけば大丈夫でしょう」
「彼女を信用していらっしゃるのですね……」
「まあな あいつとは付き合い長いですし」
「もしかして……好きなのですか?」
「ブッッ!!」

 思わぬ返答をしてきたのでワインを吹いてしまった。
 一応永江さんにぶっかかっていない。

「別にそういうわけじゃないですよ! あぁ~ びっくりした……」
「そうですか。 よかった……」
「何がです?」
「あ! いや……なんでもないです……」

 俺は首をかしげる。


 ………


 ……


 …


「そうしたらリグルの奴が俺を蹴りやがってね……」
「大丈夫だったのですか?」
「一応大丈夫だったのだがな。 たかがGを銃殺したぐらいで…… ん?」

 俺と永江さんで仲良く会話していると後ろから何者かがこちらに向かって走ってくる気配を感じた。
 気配を感じ取った俺は振り向くといきなり萃香が飛び込んできた。

「○○~!!」
「グベッ!!」

 俺は吹っ飛ばされ、萃香に馬乗りされる形になった。

「○○~ 紫がね王様ゲームしようだって! ね! そこの竜宮の使いも~ ホラ!」

 おそらく紫さんのことだ。
 何か企んでいるに違いない。

「おもしろそうですね。 私は構いませんよ」
「俺はやだ」

 即決。

「じゃあ私と弾幕ゴッコする~?」

 そう言うと萃香は両手を上に挙げ、エネルギーを萃める。

「すいませんでした。 王様ゲームに参加します」

 幻想郷の女には逆らわない。
 それが今日の教訓さ……




「王様ゲームはじめるよー!」

 と、萃香が無邪気な声で言うと約15名の参加者が「イェーイ」やら「まってましたっ」と声をあげる。
 ちなみに酔いつぶれてる輩以外は強制参加である。
 参加者は霊夢や紫をはじめ、酒豪妖怪とあまり飲んでない人間。 つまり俺。
 永江さんも俺に合わせて飲んでくれたのであまり酔ってない。

「それじゃビンの中の割り箸を1本とって~」


第一回戦 ○○の番号は12番

「あ、私王様だわ」

 どうやら今回の王様は神奈子さんらしい。

「じゃあ、今から言う番号は十回戦目まで下着姿ね」

 え、MAJIDE?
 ってことは男は俺一人&人数割りと多めだから女性の白い肌を確実に拝めることができるのかっっ!
 さすが神奈子様!俺達にできないことを(ry

「12番」
「………うぇ?」

 夢は儚く散った…

「迷彩柄のトランクスね」
「紫さん…あまり…じろじろみないでください…」

カシャ カシャ

「宴会に変態誕生?! これはイケます!」
「ちょっ…文、この姿を撮らないでくれ! マジで!」


第二回戦 ○○の番号は4番

「こんどは私が王さまですね」

 次の王様は文か…

「⑨番の人が4番の肩を揉んでください」
「4番は俺だ。さ~て、誰がおれの肩を揉んでくれるのかな?」
「ふふふ、⑨番は私ですね」

 手を挙げたのは幽香… っておまっwww

「じょ…冗談じゃ…」
「あら、冗談じゃないわよ」

 そう言いながら幽香は笑顔でじりじり背中に近寄ってくる。
 俺は逃げようとするがあまりの恐怖で動けなくなった。

「や…優しくしてね…初めてd」

グキッ

 俺は死んだ。


第三回戦

 萃香が王様となり、命令で天子と紫が弾幕戦争開始。
 流れ弾が俺に当たり、死亡。


第四回戦

 霊夢が王様になり、命令で魔理沙が俺の脇腹を3分間くすぐる。
 俺は呼吸困難に陥る。
 以降、残酷な描写があったり、パチュリーストップが入るなどの理由で以下中略。

「次で最後にするね~」
「コレデ…解放…サレル…」

 約30回目で萃香がラストコールを発言。
 俺はもう頭をいじられた人みたいになっていると思う。
 精神的にも身体的にもボロボロだ。
 永林の薬を飲んだのが一番酷かった……
 あれはもう思い出したくない。

「あの……大丈夫ですか?」

 心配そうに永江さんが問いただしてくる。

「アッハァ! 大丈夫だよ アッハァ!」

 空元気で言ったが、俺もう何かに憑かれているかもしれない。

「何かとても大丈夫に見えないね~」

 常に酔っている萃香に言われたくない……


ファイナル

「結局最後まで王様になれんかった……」

 そもそも人数多すぎて王様を引き当てる確率が少ない。
 というか奇跡的だろ?
 30回程度もやって一回も王様になれないとか。
 ちくしょう… ついてねぇ… ついてねぇよ。 
 ちなみに俺の番号は2番だ。

「王様は私、ゆかりんで~~す」

 紫が少女ぶりながら手を挙げる。
 一番まともじゃないのがきた……
 しかも言動からして酔っている。
 そう思うと紫がこっちを見てニヤニヤする。

「最後だから派手なのにしましょうか」

 寒気がしてきた……
 俺をあてるんじゃねぇぞ……

「じゃあ~ 2番と7番は~ 唇と唇でキスをしてくださ~い」

 春が来た! ついに来た!

「フハハハハ 我が世の春が……はぁ~」

 思わずため息ついてしまった。
 正直に言うと嬉しい。
 でもなんか複雑な気分……
 7番が永江さんとは限らない。
 俺は永江さんのことが好きなんだ。
 それなのに他の奴とキスしろと?

「何ため息ついているんだ? 男なら喜べって」

 お隣の魔理沙は楽しそうに言っている。
 7番は誰なんだ! 早く答えろ! 俺は楽になりたい!

「7番は僕だ」

 そう言いふんどし姿の霖之助さんが手を挙げる。
 そ……そんなはず……
 いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 


















 って、あれ? いま危ない幻覚&幻聴がしたぞ。
 多分、永林の薬のせいだろう。
 そもそも霖之助さんは少女(一部少女なのか?)達に群れるのは趣味じゃないはずだからここにいないはずだ。
 俺もとうとう頭がイカレたな。

「さっきからショック受けたりホッとしたりしてなに百面相してるんだ。 右見ろ右」
「え?」

 魔理沙がちょんちょんと右の方向に指をさす。
 魔理沙に指示通りに右を向くととても美しい女性が手を挙げてるように見えた。
 目を擦って再確認すると隣にいる永江さんが手をあげていた。
 え? 永江さん?
 永江さんは今まで以上に紅い顔をしている。
 酒のせいでなくこの罰ゲームのせいだろう。

「私……覚悟を決めました」

 永江さんは悟った顔で言う。
 覚悟はできているか? 俺はできてない。 じゃなくて……
 彼女とキスするのはうれしいのだが…… こんなカタチでキスするとは……
 周りのやつは「キ~スしろ キ~スしろ」と囃し立てる。

「私とキスするのは嫌ですか……?」
「う…ぐっ……」

 そのつぶらな瞳でそんなこと言われたらキスしたくなるじゃないか!
 むしろキスしない男はいない! いないはずだ!
 こうなったらヤケだ!

「どうせキスするなら言ってやる! 永江さん好きだぁぁぁぁぁ!! 愛してるぜぇぇぇぇぇ!! 君がほしいぃぃぃぃぃ!!」
「え?! ん~~~~~!」

 俺は手を彼女の頬に当て彼女の唇を俺の唇で塞ぐ。
 唇がぷにぷにでやわらかい……
 このまま吸いつきたい気分だ。
 周りの輩は「おぉ~」と声を上げる。
 文は「これはスクープです! スクープです!」と言いつつ写真を撮りまくる。

「ん…… ぷはぁ   いきなり何ですか?!」

 恐らく告白のことを聞いてるのだろう。

「そのままの意味だ。 俺は永江さんのことが好きだ。 君の笑顔を見たときから……」
「……ふふふ。 よくそんな恥ずかしいこと言えますね……」

 永江さんはそう言いながら微笑んだ。
 俺もすげぇ恥ずかしい。

「私も…… 私もあなたのことが好きです。 あなたの優しさに惹かれてしまいました」
「ありがとう…… これからもよろしくな」
「ええ…… よろしくお願いします」

 俺は永江さんを優しく抱きしめた……

「あの……お願いしてもいいですか?」
「何だい?」

 永江さんは抱きしめられた状態でお願いする。

「永江さんとは言わずに…… その…… 衣玖と呼んでくれませんか?」
「いいですとも。 衣玖……」
「○○さん…… んっ……」

 俺たちは再びキスを交わした。
 今度は先ほどより深いキスを……
 最早周りのことは気にしない。
 俺は衣玖という存在だけに集中した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「○○~ 私のおかげということを忘れないでね」
「もしかして紫が仕組んだの?」

 霊夢は不満そうに言う。
 人前であの二人がイチャイチャしているのが気に入らないのであろう。
 紫はまた杯に入った酒を飲み始める。

「ええ、二人の好きと嫌いの境界を探れば、こんなこと容易よ」
「紫もおせっかいね……」
「うわぁ…… 舌入れてるよアレ」
「あいつも人前ってことを考えなさいよ。 全く…」




ちなみにこの『宴会で告白事件』は翌日に号外としてばら撒かれたのは言うまでもない。

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最終更新:2011年02月27日 00:31