三月精1
(初出不明)
誰も言わないなら、一行だが俺が言ってやる!
「いくら悪戯されても構わない。キミ達が飽きるまで悪戯を受け続けてやる。
キミ達が好きだし、好きな子からのいじめは本望だから」→
三月精
あれ、二行だぜ?
12スレ目>>739 うpろだ871
ある晴れた冬の日。
幻想郷の冬は外の世界とは比べ物にならない程寒い。
それはここ紅魔館近くの湖においても例外ではない。
俺は白い息を吐きながら、木陰からある一点を見つめていた。
そこには、氷精が一人で佇んでいた。
どうやら暇を持て余しているらしく、大きく口を開けてあくびをしている。
そうやっていられるのも今のうちだ。
標的を確認した俺は、もう一度白い息を吐き、そいつへ向かって歩き出した。
「よぉ。久しぶりだな
チルノ」
「あっ、お前は○○! 今日こそ凍らせてやるんだから!」
身構え、こちらを睨むチルノ。
どうやら、以前に何度か悪戯したことを根に持っているようだ。
何にも気付かない、単純なこいつに対して、俺は口の端が上がるのを抑えられなかった。
「な、何がおかしいのさ!」
「いや、考えてもみろ。弾すら撃てない俺が、わざわざ負けるためにお前の目の前に来るとでも思ってんのか?」
「え……?」
俺の言葉に若干戸惑っているようだ。
だが、もう遅い。
俺がそう思った瞬間、チルノの頭に大きなバケツがかぶせられた。
「ひあっ!? なっ、何これ!?」
「やったっ、大成功っ!」
先ほどまで何もなかった、いや何もないように見えたチルノの後ろには、三人の少女の姿があった。
真っ先に喜びの声をあげたのは
サニーミルク、赤いスカートをはいた少女である。
「まだよ、サニー。早く逃げないと」
先程の少女と比べて、やや落ち着いた声で話すのは金髪の縦ロールがまぶしい
ルナチャイルド。
「そうね。遠足は帰るまでが遠足だと言うし……」
口調こそ穏やかだが、悪戯が半ば成功したせいか、青い服の少女、
スターサファイアの顔はとても嬉しそうだった。
「よし。じゃあ、ずらかろうぜ」
俺の言葉と共に、俺達四人は同じ方向へ駆け出した。
無論、サニーとルナの能力で姿と音を消すことを忘れない。
「……むきー! また、やられたぁ!」
ようやくバケツを取ったチルノは、両手を上げて悔しそうに叫んでいた。
いくらか逃げたところで、二人は能力を解除した。
「あはははは。むきー、だってさ。ホント最高ね!」
お腹を抱えて、心底おかしそうに笑うサニー。
その目には笑いすぎて涙が出てきている。
「そうね。それにしても、自分を囮にするなんて○○はやるわね」
サニーに同意しつつ、こちらに話しかけてくるスター。
こちらもサニー同様、嬉しそうな表情である。
「だって、その方が相手をおちょくれるだろ?」
不敵に笑いながら答える。
悪戯は相手の反応があるからこそおもしろいものだ。
「その通りね。それに○○が居た方がスムーズに事が運ぶし」
こちらの顔を見つつ、つぶやくルナ。
両腕を前で組むその姿は、どこか不遜でもあり、ルナらしいとも言えた。
「まぁな。伊達に『悪知恵を思いつく程度の能力』をやってるわけじゃねぇよ」
俺も腕を組みながら言い放った。
そう、俺の能力は悪知恵を思いつく程度の能力である。
自称ではなく、他称ではあるが……。
それにしても幻想郷縁起のこいつらの項目んとこにまさか俺が載るとはなぁ。
阿求を小一時間程問い詰めたかったところだが、代わりに悪戯させてもらうことで許してやった。
しかし、あのときのあいつの慌てようは……。
「○○、嬉しいのはわかるけどニヤケすぎ」
指をさして指摘するニヤケ顔のサニー。
「ええい、お前が言うな、お前が」
俺の反論に、残りの二人は顔を見合せて笑い出した。
それにつられて俺もサニーも声を出して笑いあった。
俺が何でこいつら三人とつるんでいるかというと、まずこいつらとの出会いから話さねばなるまい。
生来の悪戯者だった俺は、幻想郷に来てもその力を遺憾なく発揮した。
そしてある日、悪戯好きの三人の妖精の噂を聞いた俺は、そいつらに悪戯することにした。
だが、それは向こうも同じだったようで、俺たちはお互いがお互いに仕掛けた罠にはまってしまった。
その時に悪戯好きな俺たちは意気投合し、今のような関係に至る、というわけ。
だが、それからの道のりは決して平坦ではなかった……。
博麗の巫女にお仕置きされたり、
紅魔館のメイド長に殺されかけたり、二刀流の女剣士に斬られそうになったり……。
そこまで考えが及んだときに、ふと前を見ると三人が青ざめた目でこっちを見ていた。
いや、見ているのは俺ではなく、俺の後ろにある何かのようだ。
俺は彼女らの視線をたどり、後ろへと振り返った。
「こんにちは。チルノが世話になったそうね」
そこにいたのは剣呑な気をまとった
レティ・ホワイトロック。
そしてその後ろにはレティの裾をつかんでいる涙目のチルノの姿があった。
まさしくその姿は母親に告げ口したガキのよう……。
って、やばいじゃん!?
「サニー! ルナ!」
俺は彼女らに能力を使ってもらうために後ろへ叫んだ。
だが、既にそこには彼女らの姿がなかった。
「あらあら、置いて行かれたみたいね。まぁ、私としては主犯格のあなたさえ懲らしめられればそれでいいわ」
「ひぃっ!」
彼女の周りに冷気が集まるのが目に見えてわかる。
ああ、俺帰ったら温かいココアを飲むんだ。
そんな死亡フラグともとれる言葉を胸中でつぶやきながら、俺はこれから訪れる不幸を予想した。
「あー、痛てーな、こんちくしょー」
自宅のベッドで包帯まみれになりながらもつぶやく。
あの後、二人は俺をボコるだけボコった後、さっさと帰りやがった。
まぁ、自力で帰れるくらいには手加減してくれたみたいだが、それでも痛いもんは痛い。
しかも自分で消毒とかの治療をしなきゃならないのもおっくうだった。
これじゃ、ゆっくりとココアも飲めないじゃないか。
「よし、これで終わりっと」
ようやく治療の終えた俺は、ココアを淹れるために台所へ行こうとした。
そこへ不意に寒気が漂ってきた。
気になった俺は玄関の方を覗いてみた。
どうやら誰かがドアを開けたようだ。
だが、そこにいるはずの誰かの『姿』も『音』もなかった。
得心のいった俺はココアを淹れるのを中断し、よたよたとベッドの方へ歩いて行った。
「ああ、やばい。このままじゃ死んじまう……」
ひどく弱々しそうにつぶやきながら、ベッドへ寝転がる。
苦しさを演出するために、わざとらしく息を吸ったり吐いたりする。
「……うっ……くっ……」
包帯を巻いた場所を押さえながら、痛そうにつぶやく。
すると、そこに居た連中は案の定引っかかってくれた。
「ま、○○! 大丈夫!?」
声をあげ、真っ先に近付いてきたのはサニー。
「だ、大丈夫……よね? ね、ねぇ、答えてよ……」
続いて不安そうに話しかけてくるルナ。
「うっ、ご、ごめんなさい……」
涙声でつぶやくスター。
俺はそこで三人の方へちらりと顔を向けた。
三人とも一様に心配そうな顔をしており、今にも大泣きしてしまいそうだ。
「……ぷっ、あっはっはっはっ!」
こらえきれなくなった俺はつい大声で笑ってしまった。
ポカン、とする三人。
俺は居住まいを正して彼女らに告げる。
「全部演技だよ。え・ん・ぎ!」
そこまできてやっと何が起こったのかわかったようで、彼女らは三者三様の態度を見せた。
安心したのか顔をほころばせるサニー。
腕を組んで、不機嫌そうに明後日の方向を見るルナ。
非難のこもった目でこちらを軽くにらむスター。
「でも、体はまだ痛いけどな。まぁ、誰かさんたちが俺のことを置いて行ったからなぁ」
俺のつぶやきに、途端にシュンとなる三人。
暫しの間、沈黙が部屋を支配する。
やがて、三人を代表してサニーが口を開いた。
「その……さっきはごめんなさい。あんまりにも怖かったから、何にも考えずに逃げちゃって……」
「「ごめんなさい」」
頭を素直に下げる三人。
妖精は気まぐれな存在だ、なんてよく言われる。
なるほど、それも確かに一面だ。
俺もこいつらに何度振り回されたかわからない。
でも、それだけじゃない。
いっつもこいつらと一緒にいる俺にはわかる。
こいつらは、こんなふうに他人を思いやったり、素直に謝ったり、一緒に笑い合ったりできる奴らだってことを。
それが人として一番大事なことなんじゃないかと思う。こいつらは人じゃなくて妖精だけど。
「……ふぅ。ま、今回のことはお互い様ってことにしとこうぜ」
自然と微笑みながら話かけていた。
「……え、許して……くれるの?」
おずおずとスターが問う。
「おう。けど、次はちゃんと頼むぜ」
「当り前よ。期待して待ってなさい」
先程の不安げな顔もどこへやら。
ルナは不敵に笑みながら答えてくれた。
「よし、じゃあ、ココアでも飲もうぜ。それとついでにあいつらへのリベンジの方法を考えなきゃな」
「「「ええ!」」」
三人を促して席につかせた俺は、ココアの準備をするために一人台所の方へ向かった。
体中は痛かったけど、今の気分は最高だった。
きっと、今ならいつもよりもおいしく淹れられるな。
そんなことを考えながら、俺は四つのカップを取り出すのだった。
12スレ目>>858 うpろだ897
ざっ、ざっ、と草を踏みしめながら歩く。森の木々の間から漏れる太陽の明りを頼りに自分の家へと目指す。
今まで人里まで買い物へ行き、その帰りなのだ。両手には買いだめをした証拠としてそれなりの重量のある買い物袋を抱えている。
ある程度歩くと、愛しき我が家が見えてきた。この幻想郷に来てからたまたま見つけた木造一軒家。というか小屋である。ぼろっちぃのは愛嬌さ。
と、そこでふと立ち止まる。袋を地面に置き、代わりに小さな石ッころを拾い上げ、家に向かって投げる。
石は我が家にぶつか―――ることなく、スゥッとすり抜けた。代わりにポチャンと水音。
「ふむ」
いつもの通過儀礼とまでは行かないが、日課をこなす。
こっちで鍛えた気配読み。ずっとこっちを伺っていた気配は今逃走中。方角は―――4時方向!
「逃がすか……っ!罠符『アイズ・トラップ』!!」
カードを一枚その方向に投げると、地面を滑るように移動して気配の先回りをし、具現化した。
外の世界で田畑を荒らす鴉対策に造られた目のような円が描かれただけの風船。それが見えなくとも確かに存在する気配の前に現れた。
「「「うきゃぁ!?」」」
今まで姿も見えず、音も聞こえなかった物が突然現れた。
それは3匹の妖精。いつもの彼女らの、いつもの反応につい笑ってしまう。
そのままアイズトラップをこっちに滑るように移動させると、彼女らは姿を消すことも音を消すことも忘れてこちらに飛んでくる。表情は良く見えないが、怖がっているん
だろう。
まさに飛んで火にいる妖精さん、である。
「やほー、3人ともー」
「「「あっ!?」」」
俺が爽やかに挨拶をすると、3人は空中で急ブレーキをかけ、すぐさまUターン。だが、遅い、遅いぜ。全く持ってスロウリィ!
「ハハハ、どこへいこうというのかね」
グラサンがないのが残念だが、某目が~なお方の台詞と共に3人の襟首を掴む。
ぐぇっ、とか聞こえたがこの際無視。
「もう、やっぱり見つかったじゃない」
「見つかってはないわよ! 察知されただけで!」
「それを見つかったって言うのよ」
俺に捕まってる状態なのに話す3人。全くこの3人らしい。
日の光・サニーミルク。月の光・ルナチャイルド。星の光・スターサファイア。これが彼女たちの名前だ。長ったらしいから俺はサニー、ルナ、スターって呼んでるけど。
彼女たちは悪戯好きな妖精らしく、ほぼ毎日3人一組になって誰かに悪戯している。
サニーは光の角度を操り、ルナは音を消したりし、スターは気配を探って見張り役。こんな感じだ。
その程度で何が出来る、と思ったら大間違いだ。
何も知らずに最初に悪戯を食らったときのことだ。目の前にある家の扉を開けようとしたら手がノブをすり抜け、勢いあまって前のめりに倒れ、そのまま家があったはずの
場所に流れてる川にドボン。
サニーの力で俺に家の錯覚を見せ、ルナの力で川の音を消して気づかせないようにしたのだ。
能力も使いよう。組み合わせればこういったことができるようになる。
「さーて。悪戯ばっかりしてる妖精たちにはおしおきが必要だねぇ~……くけけけけけ」
「「「ひっ!?」」」
今できる一番の怖い顔で目の前に迫り舌なめずり。俺なんて悪役。夏じゃないのでひぐらしが泣かないのがひじょーにもったいない。
必死に逃げようとする非力な妖精をずるずると引きずりながら、俺はすぐ隣に姿を現した本当の我が家へと入った。
「はぁ……はぁ……」
「ひど、ぃ……ぁぁ……」
「んっ……はぁっ……」
息も絶え絶えで頬を紅潮させた彼女らを放って俺は台所へ向かう。言っておくが俺は別にイチャロダに違反するようなことはしていない。
ちょっと椅子に縛り付けてくすぐりまくっただけだ。典型的な罰だよね。その時に何やら性感帯に触れてしまったのかもしれないが知りません事故です。
今はもう戒めを解いている。恐らく3人とも机に突っ伏していることだろう。
「お前ら紅茶でよかったかー?」
「ミルクー」
「コーヒー。砂糖多めで」
「紅茶でいいよー」
息が整ったのか、各々からリクエストが帰ってくる。というか全員バラバラかよ、スターだけじゃねぇか紅茶。
心の中で文句をいいつつ全部用意する俺。なんていい奴。ていうかいつも同じだから既に準備済みなだけだがな。
「ほい、お待ちどうさんっと」
トレイに既に彼女たち専用となってしまったカップを持ち、それぞれの前に置く。
ありがと、とそれぞれが言ってから飲み始める。俺も自分に用意した紅茶を手に持ち、椅子に座り彼女らの観察に入った。
「ねぇ」
「ん?」
と、いつもと違い真っ先に話が俺に振られた。カップを傾けていた手を止め、呼びかけたサニーの方を向く。
「何でいつも、私たちによくしてくれるの?」
「他の人間は、私たちを捕まえたら仕返ししてくるわ」
「主にルナが捕まるけど」
サニー、ルナ、と続きとどめのスターでオチ。ルナがスターをキッと睨むが、スターは紅茶を飲みながら笑って流している。息が合ってるんだかないんだかよく分からない
彼女たちの空気が俺は好きだ。
「仕返しならしてるだろ?」
「でもその後、こうやってお茶をふるまってくれる。私たちの悪戯話を聞いて怒るどころか、一緒になって笑ってる。おかしな人間よね、あなた」
俺の反論をルナが一刀両断。
「……俺って変なのか?」
「変だね」
「変ね」
「変」
「がっびーん……」
3人から即答されて俺は心に多大なダメージを受けてしまった。
おれは こころに 999の ダメージを うけた!
おれは しんでしまった!
「うわ、くらっ!」
「隅っこで体育座りって典型的よね」
「やらないから知らないわ」
ずーんとキノコが生えそうな勢いで落ち込む俺を見ての3人の反応は冷たかった。泣くぞ、ぐすん。
「話を戻すわよ。何でか理由を教えて」
「……言います、言います。だから木の枝でつっつかないで、余計にみじめになっちゃう」
ルナが俺の体をつんつんつついてくるのを辞めさせて俺も椅子に座り自分用の紅茶を口に入れる。
ふぅ、と息を吐くと、そら話せやれ話せすぐ話せと語る妖精3匹の視線。
「んー、そうだなぁ、いうなればお前達といれば楽しいからかなぁ」
ぼりぼりと頭をかきながら言葉を捜す。
「そりゃ俺に悪戯されんのは腹立つけど、それは仕返しをすれば充分。お前達の話は楽しいし、俺も向こうにいたころは似たようなバカばっかりやってたからな。なんつーか
、みんなといると居心地がいいっつーか」
うーむ、やっぱこういうのを言葉にして説明するのは非常に難しい。他にいい言葉は浮かばずいくら頭を捻ってもそれ以上の言葉は出なかった。
興味深そうに俺の言葉を訊いていた3人は何処となくふーん、と軽く納得した様子。
と。突然、サニーに頭を殴られた。
「いでぇ!? な、何しやがる!?」
「似たようなバカばっかりって、私達のやってることはバカみたいって言ってるのかお前はー!」
むきー!と奇声を上げながら更に殴りかかろうとしてくるサニーから逃げる。てかそういう方向で捉えられたか!
ルナとスターもサニーの意見に同意なのか、お互いのカップを傾けながらサニーに「もっとやれ」みたいな視線送ってるし!
「ち、ちげー! そういう意味じゃねー! いや、そう違わなくはないけどっ」
「やっぱりそうじゃないのよー!!」
更に激化するサニーのパンチ。妖精という非力な種族の彼女のパンチはそこまで言うほど痛くないのだが、元々チキンな俺は反射的に逃げてしまうのである。
「サニー、遠慮せず10発は殴っていいわよ」
「むしろ蹴っちゃって」
「あんたら結構ひどいなっ!?」
俺に味方はいないようだ!!
「でぇい、調子に乗るなぁ!」
「のぅっ!?」
いきなりサニーの方に振り向き、サニーの額を抑える。それだけでサニーの突進は止まり、互いに対峙する形になる。
だが、
「ぬぅー! この、このー!!」
「フゥーハハハァ、とどくまいとどくまい」
彼女が拳を振り回すが、どれも俺には届かない。元々背が小さい妖精だ。成人男子の俺との身長差を考えればリーチ的にもこうやってやれば彼女の攻撃が俺に当たることは
ない。
「あーらら、止められた」
「惜しかったわねー」
ルナとスターは完全に傍観者気分。恐らく紅茶とコーヒーがなくなったのだろう、カップは机に放置しルナは頬杖をついて、スターは足をぶらぶらさせながらこちらを愉快
そうに見ていた。
うん、やはりこの空気がいい。太陽と月と星。騒がしくも落ち着き静かな彼女らの見事な調和空間。
「やっぱ、好きだなぁ、みんなのこと。俺は」
「「「ッ!!!?」」」
突如3人の顔が同時に、同じくらいに真っ赤になる。
ん? あれ? 考え口に出ちまったかな。
「あ、ああああああああんた、す、すすす、す、好きって……!」
おおぅ、珍しいことにルナが非常に口ごもっておられる。スターもなんか何処か上の空っぽい表情だし、サニーまで今までの勢いは何処へやら、いきなり静まり返ってしま
った。
「おいおい、みんなどうしたよ? 俺、そんな変なこと言ったか?」
「い、いいいいきなりっ……その、好き、とか……」
そして僅かだった静けさを打ち払うようにまた慌しく手を振り回しながらサニーが言うが、最後はやけに言葉が小さくなった。充分聞き取れるくらいの声色だったので俺の
耳はちゃんと捉えたが。
って、あー、なるほど。そこを口に出しましたか、俺。
……ちょいまて。俺なんて所を暴露ってますか。
「……えー、そのー、今のは、ですねー」
途端急激に恥ずかしくなり、何か取り繕うとはするのだが、全く言葉が浮かばない。いかん、いかんよ、なんかこの家の中が微妙な空気で満たされていますよ!?
「隙あり!!」
「のわっ!?」
この危機的状況をどうしようかと脳がフルパウァーで回転しているとき、いきなりサニーの突進を食らった。
全く反応できなかった俺は全体重をかけたであろうそれをふんばって止めたりすることができず、無様にも押し倒される形で思いっきり背中を地面にぶつけた。
「いってぇ……っ、な、なんだ、よ……」
反射的に瞑った眼を開けると、そこには俺を覗き込む3人の顔。ここ幻想郷に来てしばらくして出会ってから、ほぼ毎日見てきて顔。
「ねぇ、何で私達が貴方に何度も悪戯するか。教えてあげようか?」
スターが若干頬に紅潮を残したまま言う。ここで首を横に振るなどできるはずもなかった。
「それはね」
「私達も」
「あんたが」
「「「好きだからよ」」」
…………正直、俺の顔は茹蛸並みに真っ赤なのではなかろうか。
初めての出会いは悪戯から。それからの出会いも全ては悪戯から始まり、たまにだったそれも気づけば毎日の恒例に。里で彼女達専用のカップを買い、いつもリクエストさ
れる飲み物を常に補充しておき、今度はどんな話が聞けるのかワクワクし、俺のことを話して笑われたり。そんな毎日だった。
いつからだろうか。そんな毎日が何よりも大切だと感じ始めたのは。その理由は自分が知らぬところで、自分自身で気づいていたのだろうに。
「……ちょっと、何かいいなさいよ」
いや、そういわれてもですねルナチャイルドさん。こちとらちょっとばかし走馬灯なんてものを見ていてですね。
「ていうか何か体勢変わってません!?」
いつの間にやら俺の右腕にはルナが、後ろから首を回してスターが、今までの体勢のまま体にサニーが俺に抱きついていた。あれ、俺いつ座ったんですか!?
「ほらほら。女の子にここまで言わせといて、気の利いた言葉も出ないの?」
スターが若干前に回している腕に力を込めながら言ってくる。それは全く苦しくなく、むしろ心地よい。
じっと他の2人からの視線も集まる。下から、右から、上から。3者6個の目が俺の言葉を待つ。
「……いや、俺さっき言ったじゃ」
「あんな不意打ちはノーカンよ」
「もっと心を込めて」
「大声で言いなさい!」
こういうときにここぞと、いつもの悪戯好きな顔で言ってくる3人。くっ、そんな期待を込めた目で見るな……!
「―――だぁー! くそ、耳かっぽじってよく聞けよ!!」
スゥ――と大きく息を吸う。そして――
「あ、待った。やっぱり恥ずかしいから大声はやめて」
「おっ! おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…………」
いきなりかかる待ったに俺は溜め込んだ息を思いっきり吐き出すだけで終わった。
「……あのー、そういう決意が鈍ることはやめてもらえませんか?」
「だってー……ねぇ?」
首をグリンと回るだけ回してスターを見ると、苦笑を浮かべて二人を見る。
「そうねぇ。さすがに大声はちょっと」
「えぇー、いいじゃんいいじゃん。幻想郷中に聞こえるくらいに言っちゃえってば」
サニーのみ待ったに不服の様子。いや、そんなことになれば俺は一生家から出なくなるぞ。
「とにかく。大声に回す余力を、全部真心に込めて言って」
サニーの意見を一刀両断してスターが指示。ルナは同意らしくうんうん頷き、サニーは不服そうながらも、一応は納得したのか何も言わない。ただ俺の体に回している腕の
力が増したようだが。
「さ、早く。貴方の声は絶対に消さないわ」
「……わーったよ」
ルナに急かされ空いた左手で頬をかき、さっきよりも少ない量の息を吸う。
「俺は、サニー・ミルク、ルナ・チャイルド、スター・サファイアの3人が……大好きだよチクショー!!」
結局最後は大声になってしまったが、3人には好評の様子。やっぱ、こういうのは勢いが必要だと痛感。
満足げに微笑んだ後、ぎゅっと腕に力を込められた。
「それじゃ、今度からこの家が私達の家ね!」
「そうね」
「そうしましょ」
「って、えっ!?」
俺の一生に一度あるかないかの一世告白の後の第一声がそれだった。
「ちょっ、な、何でさ!?」
「○○は私達と一緒に暮らすの、嫌?」
サニーが抱きついた体勢のまま言ってくる。ぐっ、お前、いつの間にそんな見上げ+うるうる目なんて奥義を身に付けた!?
スターとルナも何処か不安げな顔で見てくる。くっそー……
「あーもう、好きにしてくれ……」
「あはっ、やった!」
イェイッ、とハイタッチを交わす少女達。それに、俺は知らず笑みを浮かべていた。
『文々。新聞号外「人間と妖精の恋! 一夫多妻はOKか!?」
先日外より来られた○○さん宅の近くを飛行中、突如「大好きだチクショー!!」という叫び声が響いた。何事かと窓から中を覗いてみると、○○さんに抱きついた三妖精
(サニー・ミルク、ルナ・チャイルド、スター・サファイアの悪戯好きで困った三人組)を目撃。それ以降の会話は聞き取れなかったものの、顔つきや雰囲気から記者の予想
は外れていないものと思われる。
この組み合わせの接点は分からないが、恐らくそこそこの交流がありこういった事態にまで発展したのだろう。これからも我が文々。新聞は、彼らの行方を見守っていく方
針である』
「だって」
「……うわぁ……」
「気配読むの忘れてたわねぇー……」
数日後、拾った文々。新聞の内容を聞いて、3人は僅か頬を赤らめていた。
俺はというと、そりゃもうべらぼーに恥ずかしすぎて悶絶中。
「くっそー……あの天狗、次あったらただじゃおかねぇ……!」
「そうねぇ。それじゃ、次の標的は、決定?」
「天狗かぁ……少しきつそうだけど」
「私らにやってやれないことはないー!!」
「うっしゃー! やったるぞーー!!」
『おー!!』
それから。三妖精の中に混じって人間が一人、悪戯に参加しているのを目撃されるようになったとか。
うpろだ1082
窓から暖かな春の日差しが差し込む。
その向こうに目をやれば、多くの草花が生を謳歌し、鳥たちが合唱を始めている。
風に乗ったその音色を聴きつつ、視線を前へと戻す。
机の上の紅茶に口をつけ、本のページを一枚めくる。
たまには、こんな穏やかな一時を満喫しても罰は当たらないだろう。
そう思った矢先、俺にとっての至福の時間はあっという間に壊された。
唐突に、玄関のドアが勢いよく開けられ、そして同じように閉められる。
だが、それに際し物音一つしなかった。
それどころか、何の人影すら見えない。
普通の人が見れば驚くようなことも、今の俺には慣れたものである。
「くっそー! どこへ行ったのよー!?」
もう一度、窓の外を見てみれば、かの有名な氷精が地団駄を踏みながら叫んでいるではないか。
俺は内心で、ご愁傷様、などと祈りつつ、彼女が去っていくのを見届けた。
「もう、出てきても大丈夫だぞ」
彼女が完全に去ったのを見計らって、目の前の空間に呼びかける。
その瞬間、三人の少女たちは姿を現した。
「やった、今日も大成功ね」
「まぁでも、今日はあいつにしてはずいぶん勘が鋭かったわね」
「終わり良ければ全て良しよ。それじゃあ○○、砂糖たっぷりの紅茶を入れて頂戴」
上から順番に、サニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルドが喋る。
「あのなお前ら、ここは喫茶店じゃないんだが」
「あ、私も。ミルクも入れてね」
「ルナ、サニー。お茶だけじゃなくて、お茶受けもないと締まらないわ」
全く聞く耳を持とうとしない三人。
いつものことだと自身を何とか納得させながら、勝手に席に着く三人を尻目に、三人分のカップを取りにキッチンへと向かう。
そのとき、大きな溜め息をついたのはここだけの内緒だ。
「たまには別のところにたかりに行けよ」
三つのカップを机に置きながら言う。
それに全く悪びれることなく、三人は答える。
「ここが一休みするのに丁度良い場所なんだもの。恨むならこんな場所に家を構えたあなたを恨みなさいよ」
「サニーの言うとおり。それにここならおいしいお菓子も食べられることだし」
「確かに。そういえば、ルナはあのチーズケーキがお気に入りだったわね。○○、今日はないの?」
「今日はない。クリームチーズはあんまり手に入らんしな。作り置きのクッキーで我慢してくれ」
机の上のバスケットを三人に手渡す。
その瞬間、彼女らは目の色を変え、それに手を伸ばした。
ホント、女の子は甘いものに弱いというか、少しは遠慮しろよというか……。
「うーん、おいしい。家だと、こうも上手くいかないのよね」
「うんうん。ちょっと目を離した隙に焦がしちゃったし……」
「おいおい、根気無さすぎだろ……」
「妖精は得てしてそういうものよ。ま、ルナやサニーと違って私は違うけど」
「「スター!」」
楽しそうにじゃれあう三人。
それを見ながら、ポットに入った紅茶をカップに注いでいく。
薄紅色が陽光に映え、品の良い甘い香りが辺りに立ち込める。
一仕事終えた俺は、再び椅子に腰かけ、読書を再開する。
そこにサニーが話かけてくる。
「また、お菓子作りの本を読んでるの?」
「ああ。今度はアップルパイでも作ろうと思ってな。時季外れだけど、酸味の強い林檎が手に入ったんだ」
「へぇ、それは楽しみね」
スターも会話に参加する。
「出来上がったら、お前らにもやるよ。一人じゃ食べきれないだろうしな」
「ホント、とんだ主夫根性ね。私のところにぜひお嫁に来て欲しいぐらいだわ」
「独り占めは良くないわよ、ルナ。来るなら私のところへ来なさい」
「サニーは黙ってて。○○と○○の作るお菓子は私にこそふさわしいわ」
ついにはルナも加わり、やいのやいのと好き放題言い合う。
騒がしくもあり、好ましくもある、いつもの光景だ。
なんだかんだで、こいつらのこういうところが好きだった。
「三食と清潔なベッドとおいしい紅茶があれば喜んで付いて行くよ。ま、お嫁じゃなくてお婿にだけど」
ボソッと呟いた瞬間、一瞬の内に三人の顔が真っ赤に染まる。
それこそ、ボン、という音が聞こえてきそうなぐらいだった。
一拍置いた後、三人を代表してサニーが問う。
「えっと、今のはさすがに冗談……だよね……?」
「割と本心だよ。それくらいに好意は持ってる」
気づけば、そんなことを口にしていた。
いつのまにか彼女らがここに入り浸るようになって、いつのまにかそれが日常だと思えるようになった。
そこから彼女らのことを好きになったのは、ごく自然なことだったろう。
俺は好きだ。悪戯好きなサニーも、ドジっ娘なルナも、それを一歩引いてにこにこ微笑んでいるスターも。
「急にこんなこと言うのもどうかと思うけど、俺は三人のことが好きだよ」
俺の言葉に、三人は顔を見合わせる。恥ずかしさと嬉しさが入り混じった表情で。
やがて、三人は顔を上げ、意を決した表情で喋り始める。
「私も○○のことが好き」
「私も」
「私もよ」
サニー、ルナ、スターが順々に話す。
「もし良かったら、私と、私たちと一緒に暮らそうよ」
「そ、その、これからもお菓子を作ってくれない?」
「こんな三人だけど、よろしくね」
サニーはちょっと不安そうに提案する。
ルナは顔を赤らめ、明後日の方を向きながら呟く。
スターは、はにかみながらとびきりの笑顔で話す。
当然、俺の答えは決まっている。
「もちろん」
それを聞いた三人は椅子から立ち上がり、一斉に飛び込んでくる。
左にスター、真ん中にサニー、右にルナを抱える。
「改めてよろしくな、サニー、ルナ、スター」
「うん、よろしく!」
「ええ、よろしくね」
「よろしくお願いね」
三人の小さな体を抱きしめる。そこには温かな鼓動があった。
俺はその温もりと共に在りたい。それを見守り続けたい。
三人の満足そうな顔をのぞき見ながら、そんなことを思う。
こうして、一人の人間と三人の妖精との奇妙で幸せな生活が始まった。
最終更新:2011年03月27日 21:50