ルナチャイルド1
6スレ目 >>719
熱い湯気を上げる、適量の砂糖とミルクを加えたそれを窓辺へ置く。
それが最近の日課になっていた。
更に、少し奮発して買った蓄音機で音楽を掛ける。
それは、ある種のサイン。
僕から彼女への「どうぞこちらへ」、彼女から僕へ「それではお邪魔します」という言葉の代わりになる物だ。
極力明かりを消し、薄暗くなった部屋の中にレコードの音楽だけがこだまする。
彼女へのサインに使うのはいつも決まってこの曲だった。
本当は音楽なら何でも良いのだけれど、この曲が彼女に一番相応しいと思う。
部屋の中にこだましていた音楽が、瞬間、穏やかになった……
どうやら彼女がやって来た様だ。
奥の部屋からその部屋の出窓の方を覗き見ると。
月の光を帯びた彼女が、出窓の縁にちょこんと座り先程用意しておいたそれを、コクリコクリと飲み始めた。
珍しいと思う。
砂糖とミルクが入っているとはいえ、多少は苦いだろう珈琲を飲む妖精というのは。
数日前、僕がうっかり手を付けずに放っておいた珈琲を、どこからか忍び込んできた彼女が一心不乱に飲み干している姿を見つけてから、こんな関係が続いている。
その妖精の悪戯を最初は叱り付けてやろうかとも思ったが、入って来た時は音を消して注意深くしているくせに、目の前の物に夢中になると周りに目が行かなくなる。
そんな仕草が妙に愛らしく、懲らしめる気も失せてしまった。
「ねぇ」
……。
驚いた。
彼女が話し掛けてきたのだ。
そんなのはこれが初めてだった。
「なんでいつも私の事を見てるの? 他の人間は怒ってすぐ追いかけて来るのに」
更に驚いた。
僕はいつも薄暗い部屋の中でこっそりと彼女の事を眺める事にしている。
だから今まで、僕の存在は気付かれていないものだとばかり思っていたからだ。
「なんでいつもここに珈琲を置いてるの? 私に飲まれるだけじゃない」
彼女は僕の方を見ず、窓に映った自分の顔を指でなぞりながらそう尋ねてきた。
彼女の疑問は尤もだと思う。反対の立場なら僕でもそう考える。
だから僕は答えた。
「いつも君を眺めてたのは、僕が居る事に気付いたら君が落ち着けないんじゃないかと思ったから。
いつも珈琲を置いているのは、もしいつもの所に無かったら、君がガッカリするんじゃないか?と思ったから、かな」
しかし答えたは良いが、本当にそれが理由なのか自分にも良く分からない。
まあ、もう彼女がコチラに気付いているのならコソコソする必要も無いだろう。
台所から自分の分の珈琲と、彼女へビスケットでも振舞おう。
そう考え僕は席を立った。
「何処に行くの?」
「台所。ちょっと待ってて」
「うん」
こちらへ振り向いた彼女へ言葉を残し。台所へと赴く。
ビスケットその他の入ったお菓子入れと自分の珈琲カップ、そしてお替り用のポットを持って彼女の居る部屋のテーブルへ置いた。
「はいどうぞ」
「良いの?」
「良いよ。こっちおいで」
「言われなくても頂くわよ。妖精だもの」
子供扱いの語感に少しムッとした様子の彼女だったが、カップを持ったままテーブルの上まで辿り着くとその場にペタンと座り込んだ。
すぐに逃げられるようにか、僕からは多少距離を置いているが……
妖精には大きい一枚を、パキパキッと4分の1にしてコリコリほおばり始める彼女。
いつも何処と無く難しい表情をしている彼女だが、お菓子の甘さに誘われて、うっとりとした笑顔を綻ばせる。
その姿についつい見惚れてしまった。
「な、なによ。ジロジロ見て」
「いや、美味しそうに食べるなぁ。と思ってね」
「……だって、甘い物好きなんだもん……」
彼女は照れくさそうに僕から目を逸らす、ロールされた金色の髪がフワリと揺れた。
どうやら人に子ども扱いされるのが嫌いらしい。
「喜んでもらえて良かったよ」
「どういたしましてっ」
そう言って彼女は乱暴にガジガジと手に持ったビスケットの残りをほおばり、口の中のそれを珈琲で流し込んだ。
トンッ、とカップを置いた彼女の顔は少し赤くなっていた……
「君に聞きたい事があるんだけど。いいかな?」
「聞く事によるけど?」
「君は僕が見ている事に気付いてたんだよね。それなのに何で毎日ここに来てたの?」
「それは……」
悪戯しに来ているのに、人間が注目していても逃げない妖精というのは珍しいのだ。
その問いに答えようとして、彼女の顔が疑問の表情を浮かべる。
少し間を置いて考えついたのだろう、やっと彼女が口を開いた。
「……それは、あなたがいつもこっちを見ていたから、突然来なくなったらガッカリするかもって思ったから、かなぁ」
そう答えた彼女だったが「いまいち腑に落ちない」といった表情をしている。
さっきの僕と同じ様に自分でも良く分からない事なんだろう。
「ま、良いか」と彼女は気を取り直して再びビスケットを齧り始める、それから二人だけのお茶会がゆったりと流れていった。
常にムスッとした表情の彼女が、時折見せる朗らかな笑顔。
「ねえねえ、いつも流れてるあの曲は何ていうの?」
空に浮かぶ雲の様に、フワリフワリと揺れる柔らかい髪。
「あれ? 『ムーンライト・セレナーデ』って言うんだよ。気に入った?」
表情は変えない努力をしているみたいだけど、嬉しい事があるとせわしなく動くカゲロウの様な羽。
「ええ。今、名前を聞いたら、もっと好きになったわ。ムーンライト、ね……」
凛々しい表情で音楽を聴きながらも、口の周りにビスケットの食べカスをいっぱいくっつけている、ちょっとおマヌケな所。
嗚呼、今やっと解った。僕が彼女を受け入れていたその訳が……
「付いてるよ?」
そう言って彼女の口元に付いた食べカスを拭ってあげる。
顔に指が触れ、離れ、彼女はぼぉっとした表情で僕を見上げていた。
「あ、ありがとう」
バツが悪そうに赤い顔をして、それでも彼女は僕に言ってくれた。
囁く様な小さな声ではあったけれど、僕にはちゃんと聞き取れた。
お替りの珈琲を空になった彼女のカップに注ぎ、フーフーしてそれを冷ましている彼女に僕は語りかける。
「さっき君が『訊きたい』って言ってた事。本当の理由が解ったよ」
カップの中身を少し啜り、どうやらフーフーが足りなかった様で、舌をヒリヒリさせた彼女が涙目でこちらを向いた。
本当は直前まで言おうか言うまいか悩んでいたけれど、そんな彼女の仕草を見ていたら小さな悩みなんかどうでも良くなってしまった。
ちゃんと彼女に伝えたい。この気持ちを……
「なに? 私何か訊いたっけ?」
「いつも珈琲を置いてる理由」
「ああ、あれね」
「うん。さっきは君のためっていう風に答えたけど、本当は違った。君を見ててやっと解った」
「もったいぶらないで、早く言いなさいよ」
「はいはい。あれは君のためじゃなくて、僕のためだったんだ。僕はどうやら君の事を好きになったらしい。
だから君に僕の近くに居て欲しかったんだ」
「……」
人形の様な大きさの彼女に告白するのは、ものすごく恥ずかしかった。
一応、ニッコリと微笑んでいるつもりだけど赤面してるんだろうなぁ自分。
彼女はしばし考える素振りを見せ、適度に冷めた珈琲を一口飲むと切り出してきた。
たった一言。
「そう」
と、
断るにしても、正直もうちょっとリアクションして欲しかった。
だけれど、
「今考えてみたけど、多分……私も同じだと思う。あなたが私を見てたみたいに、私もあなたの事見てた……」
続く彼女の言葉に「えっ?」と一瞬時が止まる。
どこか遠くを見る様にして、彼女は話を続けた。
「最初は『妙な人間だな』て思ってたの。でもそれであなたに興味が出てきて、
何日か通ってるうちに何かあなたの顔見ないと落ち着かなくて……、本当は私があなたの事を見ていたかったのね」
照れくさそうにしながらも彼女は笑顔になった。
花が咲き誇るかのような満点の笑顔。
頬の赤さと、切れ長の睫毛が乗った緩んだ瞳と、笑みの形を作られた赤い小さな唇から覗く白い歯と、
今まで見てきた物の中でこれほど『可愛い』という言葉の似合う物には出会ってなかったと思う。
それから二人で取り留めの無い話をしたが、正直言ってあまり覚えていない。
舞い上がってしまって、ちゃんと話が出来ていたのかどうかすら危うい。
時間はいよいよ丑三つ時というやつになり、そろそろ宴も酣となる。
来た時と同じ様に出窓から飛び立とうとする彼女、その彼女の背に向かって僕は慌てて言葉を投げかけた。
「あのさ、また明日……いや、今日の夜も来てくれるかな?」
「
ルナチャイルドよ」
「え?」
良く分からない単語に拍子抜けした僕に彼女は続ける。
「私は月の光の妖精ルナチャイルド。だから、『ルナ』って……呼んで……?」
「そっか。……それではルナ、また今夜も御一緒して頂けますか?」
胸に手を当て、軽く会釈をして訪ねる僕。
ルナはこちらへ振り返ると、スカートの両端の裾を両手でつまみ上げ右足を一歩後へ下げる、そして瞳を閉じてお辞儀する。
「喜んでお受け致しますわ。でも……」
ルナはクスッと微笑み、お辞儀の格好のまま片目だけを開け、こちらを見ながら続けた。
「次は、もうちょっぴりだけ多く砂糖を入れておいてくれると嬉しいわ」
金色の髪とカゲロウの様な羽と、それからルナの全身が青白い月の光を放ち、その姿はただただ美しかった。
あとは口の周りに付いたビスケットの食べカスさえ無ければ完璧なんだが……
クスリと笑みを溢し「承知しました」と恭しく再び頭を垂れる僕。
それを満足そうに眺めた後「じゃあね」と言って、ルナは満天の夜空へ飛び立って行った。
深夜に開かれる、妖精とのお茶会。
なかなかロマンチックなものだ。
(さて、今夜は彼女にどんな話をしてあげようか?)
僕はこれから起こるだろう嬉しい予感に胸を膨らませつつベッドへと潜り込んだ。
……出来れば今日ぐらいは、夢の中でも彼女に会えますようにと願いながら……
6スレ目 >>729
彼女がここに通いだしてから夢の様な時間が過ぎていった。
コーヒーサイフォンの、下から上へと登って行く不自然なお湯の挙動に目を見張る彼女。
その珈琲を彼女のカップへ注いだ時の、大切なプレゼントを受け取ったかの様な笑顔をする彼女。
珈琲の香りに誘われて弾む会話、その時々に鈴を転がした様な笑い声を上げる彼女。
その全てがまるで夢の様で……
「あの……入っても、いい?」
「もちろん。こんばんわルナ」
その全てが夢では無かった。
陽気さは妖精の専売特許だと思っていたが『静かなる月の光』という二つ名の通り、ルナはあまり騒がしい方ではなかった。
だからこうして夜毎開かれるお茶会でも、どちらかというと僕が話をする事の方が多い。
とは言え僕もあまり話好きな方ではなく、いいかげん夜の静寂に気まずくなった時に、最近あった出来事を話すくらいの物だった。
それでも、ルナはそれを微笑んで聞いていてくれる。
僕の傍らに彼女が在る、僕はそれで満足だった。
「……という訳でさ、そうなっちゃったんだよ」
「そう……」
しかし、最近ルナの様子がおかしい。
今もそうだ。
僕の話をきちんと聞いてくれてるんだけど何と言うか、その……
「あの……ルナ?」
「何……?」
「その、怒って……る?」
そう、今もそうだ。
「そうだルナ」と話し掛けると、期待に満ちたキラキラとした瞳で振り向いてくれるのに、実際に話をし始めると不満気な表情をし、
遂には不機嫌になってしまう。
最近はそんな事の繰り返しになってしまっている。
「そんなこと、ないっ」
口をへの字に曲げたままルナは答えた。
そんなこと、あるじゃないか……
ああ……、不機嫌な顔も可愛いなぁ……
「僕が何か悪い事したんなら謝るよ。だから……」
「怒ってないって言ってるじゃない!」
遂にルナは眉根まで吊り上げて、こちらを見据え始めた。
「怒ってない」と言ってるその声は明らかに怒っている。
正直、彼女が怒る様な事をした覚えが僕には無い。
だけれど、もし知らず知らずのうちにそういう事をしてしまったのなら申し訳無いし、彼女のためにも直したいと思う。
しかし、その原因も分からないとなると……
それにしても、怒った顔も可愛いなぁ……
「いや、でも……」
「怒ってない!」
「いや……」
「怒ってない!」
「い……」
「怒ってない!」
取り付く島も無いとは正にこの事だね。などと思いながら、僕はある一つの答えに行き着いた。
そうか、彼女が不機嫌なのはおそらく。
「そうか、今日はあの日か!」
「っっ!!」
スコーンっ!
コーヒーカップを投げられた。
「私帰るわっ! さよならっ!!」
それだけ怒鳴るとルナは文字通り飛んで帰ってしまい、結局僕に謎だけが残った。
その日を境にルナの姿を見ていない。
最初は「明日になればひょっこり現れるだろう」と高を括っていたけれど、2日3日と過ぎるにつれて、
彼女はもう僕の前に現れないんじゃないか?という不安感が押し寄せてくるようになった。
(彼女に逢いたい……)
後一目だけでも良い。彼女に会いたい。
突然の別離に心はモヤモヤとした空虚感を纏って、……これは振り解けそうに無い。
只一目、彼女に会いたい。
(彼女に側に居て欲しい……)
後一目会いたい。
でもきっと、それが叶った後も「後一目、後一目」と僕は言い続けるだろう。
だから、やっぱり彼女に僕の側に居て欲しい。
僕の傍らで可愛い笑顔を見せて欲しい。
(彼女に……、触れたい……)
やっぱり彼女に頭を下げるべきかとも考えたけれど、良く考えてみれば僕は、
彼女が何処に住んでいるのか。
いつも何処で遊んでいるのか。
どんな物が好きなのか。
彼女について何一つ知らない事を知る事になった。
彼女が傍らに居てくれれば満足だと思ってた。
でも、僕は聖人君主じゃない……
今はもう、それだけでは満足出来なくなっていて、彼女に会えない事がそれに拍車を掛けていた。
もっと彼女の心に、体に……触れたい。
空虚感が胸に満ちて、何もまともに手に付かなくなった頃。
彼女はフラッと僕の部屋に姿を現した。
……やっと、会えた……
彼女の姿は何処と無く儚げで、体から発せられる月の光も弱々しい物になっていた。
瞳も出会った頃の強い輝きを失い、雲の様なボリュームを誇っていた金色の髪はパサパサになって潤いを失っている。
僕は無言で彼女に歩み寄り、手で髪を梳いてあげた。
彼女はその手の動きに身を任す様に、瞼を閉じて僕の指の感触だけを確かな物としていた。
所々でパサついた髪に指が引っ掛かり、その度に彼女は少し痛そうに眉を歪める。
僕はたまらず、ルナを抱き寄せた。
キュッと適度な強さで、けれども抱きしめる。
ルナも驚いた表情はしていたけれど、身じろぎ一つせず、僕の背中に手を回してくれた。
「ずっと、こうしたかった」
「……私も」
体全体でルナを感じる。
ルナの鼓動、温もり、香り、感触。
今までの分を取り戻す様にゆっくりと、ゆっくりと……
ルナも確かめる様に目を瞑って、僕の胸元に額を擦り付けている。
ルナの耳元で囁く様に僕は告げた。
「ゴメン、ルナ。結局君が何で怒ったのか僕には分からなかったよ。だけど、もっと大事な事が分かった」
「……どんな事?」
「僕が君の事を何も知らないってこと。そして今は君の事をもっと知りたいと思っていること。そう、……もっと君に触れたい。
君の心に、君の体に……触れたいっ。僕はルナが好きだから」
「……なんで……」
顔を伏したまま、か細く弱々しく、それでも僕に届くように震えた声で綴られる。
「……っと……早く……う言って……欲しかった……」
「ルナ……」
「いつも貴方は自分の事話してばっかりで……もっと……私を知って欲しかった。もっと……私の近くに来て欲しかった……!
もっと……私に踏み込んで欲しかったの……っ!」
堰を切った様に、ルナの瞼から真珠の様な涙がポロポロと零れ落ちた。
頬同士を擦りつけ、僕はルナを抱く手の力を少し強める。
「だからあの時怒鳴って飛び出して……でも落ち着いたら、私何してんだろうって思って。貴方に謝りたくて。
でも、私、会わせる顔が無くて……貴方に会いたくて……それで、それで……!」
「もういいよ。ありがとうルナ」
震えるルナの声に罪悪感を感じる。
だから僕はルナを包み込む様にして、頭を優しく撫でてあげた。
「ごめんな、寂しい思いさせて。もうそんな事しないから、約束するよ。だから君の事もっともっと教えて欲しい。
もっと君の近くに、居たいよ……」
「うくっ、ひっく……ぐすっ…うう……う、うええぇぇぇ~~~んっっ!!」
ルナは大声を上げて泣き出した。
本当に子供みたいな、自分の存在を周りに訴える泣き方だ。「私に気付いて」という……
それにつられて僕まで目元が潤んできてしまった。
決して悲しいからじゃない、彼女が僕の腕の中に居る事が、彼女が僕を必要としてくれている事が、それはもう嬉しくて嬉しくて、
その想いが零れ出してきたんだろう。
泣き止んだルナは少しバツが悪そうな顔でソファーに座っている。
その様子を真正面に見据え、僕は数日ぶりに珈琲を注いだ彼女愛用のカップを目の前に差し出した。
「落ち着いた?」
「……言っておくけど。今日は特別だからね。さっきのがいつもの私だとか思わないでよね」
「分かってるって」
少し頬を赤らめて僕から目線を逸らしたルナは、目の前のカップを受け取りゆっくりと口を付けた。
「でも、特別なルナを見れてラッキーだったよ」
「なっ」
「ここ何日も会いたいのを我慢してた甲斐は有った、かな」
「……」
どうやらまたルナを怒らせてしまったらしい。今度は顔も合わせてくれなくなった。
でも、今度の怒りっぷりは僕も微笑みでその様子を見ていられる。
何故なら、確かにルナは怒った様にそっぽを向いているけれど、背中に生えたカゲロウの様な薄い羽が忙しなく動いているからだ。
相変わらず気持ちを隠すのがヘタだなぁ、ルナは。
僕は、「ふんっ」とむくれながらピロピロ~と羽を動かせているルナの背中へ語りかけた。
「ところでルナ。今日は何の話をしようか?」
『チラリ』、と背中越しにルナの目線だけがこちらを向く。
「出来れば。ルナのこと、もっと色々教えて欲しいんだけど……」
『タ・ト・エ・バ?』
ルナの目線が何かを訴えていて、それが何となく読み取れた。
「例えば君は何が好きなのか、とか」
それでもルナはまだ不満気な顔をしている。目線で更に訴えかけてくる。
『ソ・レ・ダ・ケ?』
「好きな物が分かれば、君へのプレゼントも出来るんだけど。
折角渡しても喜ばれなかったらって思うと、残念だけど怖くて渡せないなぁ」
「……ふぅ、そういう事なら仕方ないわね。付き合ってあげる」
「ありがとうございます」
言いながらルナの頭をナデナデしてあげたら睨まれた。やはり子ども扱いすると凄く怒る。
目は睨んでたけど、「まんざらでも無い」って表情だったくせに。
「でも、覚悟してね?」
「何を?」
彼女はいつもの笑顔をその顔に綻ばせた。
うん……そうだ……やっぱり、
「話したかった事、何日分も溜まってるんだから。今日はたっぷり相手して貰うわよ」
やっぱりルナは、その笑顔が一番可愛いなっ!!
10スレ目>>124
「蛍光灯を光らせたい?」
「そうなの。 香霖堂の主人は、薀蓄ばっかりで役に立たないし……」
何で俺に聞く? と思ったがあながち間違いでもない。 俺は元々外の世界に住んでいた。
かといって、つける方法は思い当たらない。 確かスターターが必要なはずなんだけど、スターターの原理がわからない。
そもそも、コンセントのないこの状況でどうやって点けろというのか?
「うーん、確かに俺は外から来た人間だけど……」
――無理だ、という答えを全く想定していない目で見られた。
こ、断りづらい……
「なんとかしてよ、このままじゃまたバカにされちゃうわ」
「必要な道具が足りないんだ。 道具が足りれば…」
「え? でもこの前光ったのを見た気がするんだけどなぁ」
あれ? 発電所やスーターターなしでも光るものなのだろうか?
まぁ、見たのなら自然現象で光らなくもないんだろう。
どうせ暇なのだし、妖精の悪戯に付き合うのも悪くない。
「OK、色々別の道具で代わりが出来ないか調べてみるよ」
彼女は、毎晩俺のところにやってきた。
下らない話、どうでもいい話、天狗の噂、霊夢や魔理沙が酒の席で語った与太話――
毎晩、そんな話を語って聞かせた。
彼女は、様々な悪戯の話を聞かせてくれた。
妖精にしては斜に構えているし、珈琲を飲みたがるし変わった奴だ。
妖精にしては頭がいいのかと思えば、存外間抜けでおっちょこちょい。
そこを突っ込むと、頬をぷくりと膨らませた。 くるくると巻いたドリルが揺れて可愛らしい。
そんな日々が、1ヶ月ほど続いた。
「○○、部屋ぐらいきれいに片付けたら?」
「おわっ! 家に入る時は呼び鈴鳴らせって言ったろ?!」
「ちゃんと紐は引いたわよ。 音は消したけど。 あれうるさくってキライなの」
「まったく、蛍光灯を光らせる方法をみつけたってのに……」
「えっ……」
いや、そこで複雑な顔をされても、困る
喜んでもらえると思ったのに
「と、とにかく! 今から実演するぞ!」
方法は、凄く単純だった。
蛍光灯は送電線の下でも光ることがある……と、パチュリーの図書館の本にあった。
周囲に電気が飛び交っていれば光るわけで、その電気は静電気でも問題はない。
俺は蛍光灯を布で必死にこすり続けた。
帯電するにつれ、文字通り蛍のようにうっすらと光る蛍光灯。
だけど、ルナチャイルドはその光から顔をそらしていた。
「なぁ、やっと光ったんだ。 嬉しくないのか?」
「う、嬉し……嬉し…う、嬉しくなんてないわよっ!だって――」
彼女の目から、一筋の涙が零れた
「――光ってしまったら、もう来る理由がなくなっちゃうじゃない」
嗚咽を漏らす彼女を見て、俺は彼女を抱きしめた。
「いいんだよ。いつだって、来ても。 それに――」
目を閉じれば、味気ないコンクリートで出来た人間の巣箱を思い出す。
働き蟻のように、夢も希望もなくただ生きていただけの世界。
そこを常に、不気味に照らし出していたのは蛍光灯だった。
「本当の蛍光灯は、もっと綺麗に力強く輝くんだ。 まだまだだよ」
俺は今日も、蛍光灯を調べ続ける。
毎晩の逢瀬を楽しみにしながら
「この家の珈琲は美味しいわ」
君がお昼に盗んでいたお店の珈琲と変わらないよ、ルナチャイルド。
12スレ目>>313 うpろだ813(810の修正)
「妖精って、もっとちょこまか動いてすばしっこいイメージがあったんだが、
なんというか、その、案外……」
「悪かったなぁ、鈍くさくて……」
* * *
今日の昼下がりのこと。
食後の散歩にと里中を歩いていた俺は、なんだか騒がしい一角に辿り着いた。
「ちょっと、早くしないとバレちゃうわよ!?」
「大丈夫大丈夫。ここの店主ったら、ボケが酷くてどんなに騒いでも気付かないんだから」
「だからって能力も使わずに……」
そこには、小さな駄菓子屋の前でピョコピョコと動くカラフルな妖精たちがいた。
里中にこんなに堂々と妖精が跋扈しているとは珍しい。
春になれば春告精が飛び回ったりもするのだが、それでも遭遇するのは稀なことだ。
ふむ……。
どうやら、あの三匹の妖精は盗むためのお菓子を物色している最中のようだった。
あいにく人通りも少なく、妖精たちは堂々とガサ入れを続ける。
こういう場面に遭遇する事もなかなか無い事だし、と、俺はしばらく動向を観察することにした。
よく見ると、三匹は三匹とも別々の行動をとっている。
赤いのは両脇に大量にお菓子を抱え、さらにチーズあられの箱に目をつけている。
青いのはその場でゼリービーンズの袋を開けて優雅に舌鼓を打っていた。
白いのは、どことなく不安そうにしながらキョロキョロと辺りを見回している。
なんだか、妖精にもいろんな奴がいるんだな……。
いつの間にか俺は彼女たちと幼少の頃の自分を重ねて、若干わくわくした気持ちでそれを眺めていた。
と、気が緩んでしまった俺は、つい近くに立て掛けてあった自転車にぶつかってしまった。
ガシャン!!
「(゚Д゚ ≡ ゚Д゚)!!!!」
「(゚Д゚)!!!!!!!!!」
あ、三匹がこっち見た……。
……彼女たちは酷く吃驚した顔のまま俺の目の前から消えた。
文字通り、急にパッと消えてしまった。
狐につままれたような気持ちでゆっくりと駄菓子屋の方へ近付いてみると、
そこには、散乱した駄菓子と…………盛大にズッこけている白いのがいた。
「…………何やってんだ?」
白いのはこちらの姿を確認すると、あわあわとした表情で震えながら、口をパクパクとしていた。
ん?何か言ってるのか?と、聞こうとしたら、俺の声が出なくなっていた。
……何がなんだかわからない。
すると、店の奥から物音と共に人の来る気配を感じた。
ぎょっとした俺は、自分が何をしたわけでもないのに、白いのを小脇に抱えて脱兎のように逃げ出してしまった。
* * *
「……と、いうわけだったんだが」
「何が、と、いうわけなのよ……」
「まぁ、見つからなくてよかったじゃないか」
彼女を抱えたまま、俺は自分の家まで走ってきてしまっていた。
俺が里で誘拐してきた白い妖精は、
今こうして目の前の椅子に腰掛けてほうじ茶を飲んでいる。
それとなく名前を聞いたところ、彼女はルナチャイルドというらしい。
里で妖精を見つける事自体もかなり珍しいが、
自宅に抱え込んで名前を問い質した奴もそういないと思う。
「それで、私はどうすればいいの?」
「どうするって…………どうする?」
「私が聞いてるのっ!!」
始めは弱々しく敬語なんか使っていた彼女も、
ものの数分で馴れ馴れしくなった。
まぁ、いいんだけど。
「じゃあ、せっかくだから今からお茶会なんてどうだい?」
「んー……」
「駄目かな?」
「……それもいいかな。こんな事めったに無いし」
「俺も、妖精とお茶するのなんて初めてだ」
「ふふっ、私も初めて。宴会に忍び込むことならよくあるけど……」
俺たちはしばらくの間、人と妖精の不思議な歓談を楽しんだ。
お互いの種族の間では視点も価値観も違い、日常生活のことを取り留めなく話しているだけでおおいに盛り上がった。
とにかく驚いたのが、この妖精がそれなりの知性を持っている事だった。
妖精なんて後先考えずに悪戯して回るがきんちょみたいなもんだとばかり思っていたが、
こうまで普通の会話が成立するとは思わなかった。
ただ、他の妖精の事なんて知らないが、この子は人(妖精)一倍大人びているような印象を受けた。
それにしても、こいつの趣向は想像以上に渋いみたいだ。
日本茶に漬物なんて出したら怒られるかとも思ったが、
物凄く好評だったうえに「このお茶のほうじ方はとても上手だ」なんて言う始末だ。
ほうじ方なんて知らねぇよ。
里で売ってるものを買ってきてるだけだし。
そうやって話していると、
次第に二人の座る距離が縮まっていった。
ふと、隣で楽しそうに笑う彼女を見て、頬をこね回してやりたい衝動に駆られた。
これも話していて気付いたのだが、彼女は非常にからかい甲斐がある。
ハプニング体質で薄幸だというイメージがそうさせるのかもしれないが、
普段つんと澄ましているその顔を、つい崩してやりたくなる。
新ジャンル「クールヘタレ」誕生の瞬間だろうか。
俺は彼女に向けて、そっと指を伸ばした。
そのぷにぷにした頬目指して……。
「それでね、サニーってばわtうぶっ!!!!」
……不時着。
頬を目指した指は、ちょうど振り向いたルナチャイルドの咥内に吸い込まれた。
「……あにひてぅのぉー」
「何言ってるのかわからないが、とりあえずすまん」
ルナチャイルドは、俺の指を咥えたまま、器用に頬を膨らませて抗議の言葉(?)を発した。
上目でこっちを睨んできているが、その仕草からして全然怖くない。
むしろ顔を真っ赤にして可愛いくらいだ。
「ごめんごめん」
そう言って俺はルナチャイルドから指を抜き取ると、
彼女の頭をゆっくりと撫でた。
「……子ども扱いしてるでしょ」
「してない。レディに対する親愛表現だって」
「ん」
そうしてしばらく撫でていると、ルナチャイルドがそっと俺の方に体をもたれてかけてきた。
「あ、ルナチャ……」
「ルナって呼んで」
「…………ルナ」
「……もっと撫でて」
「わかったよ、ルナ」
「……もっと」
夕暮れ時、斜光が部屋の中を染める中
俺はルナを抱くように体を寄せ、そっと頭を撫で続けた。
* * *
「じゃあ、もう帰るね」
外は既に夕闇が包み、星が見え隠れしていた。
「こんなに暗くなって、大丈夫?」
「月の妖精ルナチャイルドを舐めないでほしいわ」
「月の妖精……だったのか」
「まだ言ってなかったっけ。
…………もっと、話したいな。
まだ、あなたの事も、そんなに知らないし」
「あぁ。またいつ来てもいいから」
「……ぁ…………た」
「ん?何か言った?」
「……あした。
また、明日来るからっ!」
……ちゅ。
ルナが突然飛びついてきて、俺の頬にキスをした。
「あ……」
気付いた時には、ルナは俺の前から飛び去って…………いなかった。
盛大にズッこけて尻を突き出しているルナに、聞いた。
「……何やってんだ?」
「な、なんでもないわよっ!」
(おわり)
新ろだ620(新ろだ612続き)
私の前に現れた運命の人、○○さん。
サニーやスターがいないこの一週間の間に、
どれだけ私の想いを伝えられる事が出来るのか…。
いざ、勝負!
~~~~~ ルナチャイルドの手記より ~~~~~
魔法の森で迷った○○を助けた
三月精。
あっという間に○○に惚れてしまった3人は、
あの手この手でアタックを開始した。
三月精が○○が教師として勤める寺子屋に通うようになって3ヶ月。
○○は三月精からの好意に気づくが、同時に困惑もしていた。
そこにひょっこり現れたスキマ妖怪・八雲紫。
彼女は言った。種族の違う愛は悲劇になりやすいと。
もし、貴方の愛が本物ならば、三月精を分け隔てなく愛する事が出来るはず。
3人全てに、満足な愛を与えればあるいは……、と。
○○も、その言葉で自分の三月精への好意に気づき、何とか努力をしようとするのだった。
==========================
いつものように○○の家にやってきた三月精。
でも、今回はルナ1人だけである。
サニーとスターはどこにいったかというと、紅魔館である。
3人は寺子屋に通うようになってからほぼ同時期に、紅魔館で妖精メイドのバイトを始めた。
いつぞやのように忍び込んだのではなく、ちゃんと正式に雇用されたのだ。
それはもちろんお金の為ではなく、○○の為。メイドの礼儀作法を学んで、
少しでも○○に見てもらいたいといういじらしい恋心からだった。
今回は紅魔館に泊り込みで1週間合宿の為、ルナは○○と2人きりの時間を作ることが出来た。
もちろん、サニーとスターの2人にも同様のチャンスが与えられており、
次の週はサニーが、その次の週はスターが○○と過ごす事になっていた。
これを提案したのは紫。紅魔館の面々も特別に協力してくれた。
その条件は、三月精と○○のノロケ話を、レミリアや咲夜以下、メイド妖精達に報告する事。
もちろんパパラッチ天狗・射命丸文も取材しようとしたが、さすがに記事にするのは
プライバシーの侵害すぎる、という事でご辞退願ってもらった(半ば強引に)。
ぱくっ。
「……あの、ふうきみそ、どうかな……」
「うん、まぁまぁだ」
食卓ではルナがふうきみそを○○にふるまっていた。
それも、お皿に2~3人前くらいの量をこんもりと盛ってあった。
「良かった…私が得意なのって、これくらいしか無いから」
男としては、愛の込もった手料理を完食せざるを得ない。
なんとか大量のふうきみそを、○○はたいらげたのだった。
「お風呂、沸いた…」
「ああ、ありがとう」
食事を済ませた○○は、風呂に入ることにした。
ルナも一緒に入ると言ったが、
○○は恥ずかしいなら無理しなくてもいいからねと、やんわりと断った。
○○が風呂場に入って、体を洗っている最中に風呂場の木戸が叩かれた。
こんこん。
言うまでもなくルナだ。
「は、入ってもいいですか?」
「どうぞ」
ルナがしずしずと風呂場に入ってきた。
過剰なまでにバスタオルを巻いている。
もちろん顔は真っ赤だ。
「参ったなぁ。そんなに緊張してると、こっちがリラックスできないよ」
「あ、ごめんなさ…ひゃっ!」
何もないところでルナは足を滑らせた。
床がつるつるしていた訳でも、石鹸に足を滑らせた訳でもない。
ルナの天然能力・「何もない所で転ぶ」が発動したのだ。
素早く○○が、ルナの体を抱きかかえた。
恐る恐るルナが目を開くと、数センチの距離に○○の顔があった。
「大丈夫か?まったくルナはどこででも転ぶんだな」
「あ、その、あわわわわ!ごめんなさーい!」
バネで弾かれたように○○から離れるルナ。
顔は火が出るくらい耳まで真っ赤に染まっている。
○○は背中をルナに流してもらった。
ルナは恥ずかしがって、自分で身体を洗った。
その間は○○はルナの方を見ないように要求された。
もちろん、ルナが湯船に入る直前までその状態だった。
湯船に入っても、あえて○○はルナを見ないようにしていた。
もっともルナの方はずっと○○の顔を見ていたのだが。
「いい湯だねぇ。それに静かだ。サニーはいっつも騒がしいからなぁ。
おちおち風呂ものんびり入ってられないよ」
「そう…ですよね…」
○○はちょっと失言だったと気づいた。
今はサニーやスターの話を出すべきじゃなかったかもしれない。
何となく、風呂場がさらにシーンとなった気がする。
○○は先に湯船を出た。○○がいるとルナが出られないからである。
せめてものお詫びに、アイスコーヒーを淹れてルナが上がるのを待った。
10分ほどして、ルナが上がってきた。
髪は濡れて、いつものカールはほどけ、ウェーブっぽくなっていた。
キャミソールと下着だけを着けたルナがそこにいた。
夜空には満月が光っていた。その唯一の光源に照らされたルナはとても綺麗だった。
2人でしばらく無言でアイスコーヒーを飲んだ。
ルナが口を開いた。
「さっきはごめんなさい」
「あ、いや。こっちこそちょっと無神経だった。ごめんよ」
ルナはうつむいている。
「私、いつもサニーやスターにドン臭いって言われて…。
自分でもそうだと思う。サニーみたいに元気いっぱいでもないし、
スターみたいに女らしさをアピールも出来ない」
「そんな事ない。ルナは可愛いよ」
「ううん、分かってる。私じゃ○○さんにふさわしくない」
「ルナ」
「えっ…」
○○はルナに口づけた。
それっきりルナは何もいえなくなった。
またかぁっと顔が赤くなるのが分かった。心臓もドキドキしている。
「ルナ。今の君はすごく輝いてる。あの月、いや、それ以上に綺麗だ」
今度はルナの目を見て、しっかりと答えた。
「いつものメガネをかけて新聞読んでるルナもいいけど、
今のルナはその何倍もいいよ」
「くすっ、○○さんって変。その時の私は何にもお洒落してないのに」
「妖精は、自然体が一番いいのさ」
いつもの○○からは考えられないほど、歯の浮くようなセリフがぽんぽんと飛び出した。
彼なりに三月精との付き合いに真剣になった結果だろうか?
「○○さん、好きです。初めてあなたを見た時から」
「ありがとうルナ。僕も君が好きだ」
再びキスを交わした。今度は舌を絡めあう濃厚なディープキス。
「ん……んむ……ちゅ……んちゅ……はぁ……」
ルナは自分の淫靡な音を能力で消すのも忘れて、この快感に酔っていた。
いつも一緒だったサニーとスターが隣にいないのも気にならなかった。
初めての男の人とのキスを楽しんでいた。
そのまま○○はルナのキャミソールに手をかけ……。
夜空に浮かぶ満月だけがそれを見ていた。
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某所。
開いていたスキマ空間がふっと閉じられた。
「もうよろしいのですか?紫様」
「ええ。これから飽きるほどおノロケを見せられるわけだしね。
監視といっても、程々にしておくわ」
そう言って、スキマを操る扇子を下げたのは、大妖怪・八雲紫。
主に問うたのは、紫の式神である九尾の妖獣・藍だった。
「ところであの人間と妖精達、うまくいくのでしょうか?」
「さてねぇ。私は神様じゃないし、先の事なんか分からないわ」
「それにしては、あの人間に期待をかけておられるようですが…」
「そんなに期待してるわけじゃないわ。いい退屈しのぎになるだけ」
だが、藍は主の性格を見抜いていた。
紫が気に入った人間だからこそ、わざわざ彼の前に姿を現し、助言を与えた事を。
それは、紫があの博麗の巫女に接する時と同じ、慈愛の心だった。
思わず藍はふふっと笑った。
「な、何よ。ただの退屈しのぎだって言ってるじゃない。
もう疲れたから今日は寝る。細かい情報処理はいつものように藍、あなたに任せるわ」
「はい。承知いたしました。では、お休みなさいませ紫様」
どことも知れない場所で、人間と三月精を見守る優しき大妖怪は、心地よい眠りについた。
~~~~~~~~ FIN ~~~~~~~~
最終更新:2010年06月24日 21:16