サニーミルク1



新ろだ2-331



 ――ふと空を見上げると、夕焼け色だった。

「……う、ちと寒いな」

 夏も終わり、秋も深まり始めたころ。

 まだ昼間は昼寝出来る程暑いと思っていたら、こんな寒さになるとはね。

「……かー……」

 懐が温く、そのあたりから何か吐息が聞こえる。

 起き上がろうとすると何かが引っ張っているような感覚。

「……むにゃ、ルナぁ、だめー……」

 僕の服に引っ張り眠りこける妖精一匹。

サニーミルク……」

 はぁ、と一つため息をついて、ハンカチで口元の涎を拭ってやる。

「せめてもう少し女の子らしく寝れないものかなぁ」

 正直、だらしないと言えばだらしない。

 いや、仕方ないのかもしれないけれど。

「んんぅー……スター……もっと……」

 ふにふに、と頬をつっついて。

 マシュマロみたいな柔らかさに、瑞々しくすべすべの肌。

 頬擦りしたら気持ち良さそうだなぁ、とか思いながらそのまま頬を撫でてあげて。

「……○○……ぅ……ん……」

 僕の名前を呼んで、それでもまだ起きないサニー。

 大人しく寝ている時は可愛いんだよね、悪戯している時は怒りたくなるけれど。


「……かかった、……○○の、……ばーかー……」

 一体どんな夢を見ているんだい、君は。

 呆れて心の中で呟いて、頭をぽふっと撫でてあげる。

 そのまま黄金色のさらさらの髪に、指を通して梳くように。

 昼間に比べて相当以上に和らいだ日差しが、彼女の頬を照らしている。

 子供のような寝顔を見ながら、この一瞬が永遠のように続けばいいと願い――。

「……ん、ぅ……」

 その一瞬は、ゆっくりと終焉りを告げていく。

「……ふぁ……あ、○○……」

 ゆっくりと瞳を開いていきながら、サニーは僕の名前を呼ぶ。

「目は醒めたかい、サニーミルク?」

 頭を軽く抱いて撫でているような体制、彼女は僕の服の裾を掴んで未だ離さず。

「って、○○っ!?」

 顔を真っ赤にしてそのまま起き上がろうとするサニーミルク。

 ああ、それでも服の裾を握ったままじゃ……服が伸びちゃうって。

「何で抱かれて……って言うより、どうしてここに?」

「どうして、って。僕が日向ぼっこしている最中に空から傷だらけで落ちてきたのは君じゃないか、サニー」

 そう返すと、サニーは橙色の空を見上げて呟いた。

「そう言えば…あ。…巫女にやられて撃墜されて……」

 とは言え、彼女自身にもう怪我とか傷とかは殆ど見られない。

 妖精は自然の具現と言うけれど、だからなのかな?

「流石にもう巫女は追いかけられそうもないかなぁ……」

「追いかけて悪戯でもするつもりだったのかい? 霊夢に」

「そうしたかったんだけど、あー…ルナもスターももうこんな時間じゃ家に戻ってそうだし……」

 ちょっとだけ悔しそうに呟くサニー。

 夕陽が稜線に隠れ、少しずつ夜の帳が落ちてくる。

「そうだね、もうこんな時間だ。良い子はおうちに帰らなきゃ駄目なんじゃないのかな?」

 一度ぽふ、と頭を撫でてあげて僕は立ち上がる。

「悪戯が好きだから良い子じゃないわよっ」

 ぷぅ、と膨れるサニー。

「自分で言う事かなぁ、それは」

 苦笑して、手を引いてあげる。

 サニーも立ち上がると、随分な身長差と、手の温もりを感じる。

「そう言えば、帰る前に」

 手を離して、空に飛び立とうとする彼女に声を掛けた。

「どんな夢を見てたのか、聞いてもいいかな?」

 夕陽が沈んでいく。

 サニーが振り返ると、陽の光の所為か真っ赤になっているように見えて。

「だ、だめっ、絶対言わないからねっ、……ふんだっ」

 そう言って羽ばたき、空に駆け上がって行――。

「……ま――」

 ちゅっ。

 夕闇に去って行こうとするサニーに手を振ろうとしていた僕の唇に、柔らかな感触。

 淡く、触れるだけのような口づけ。

「……こんな夢。またねっ」

 真っ赤な顔を隠すかのように、夕闇に飛び去って行こうとするサニーミルク。

 最後に感じた、柔らかないとしい感触を抱き締めて。

「またね、サニー。……好きだよ」

 空へ飛び去って行く彼女へと、手を振った。


Megalith 2010/10/26


「ねーねー! ○○ー! 朝、朝よー! 朝ご飯食べて遊び行くよー!」
 うん、そうか、よく解った。
 日の光が目を差す。
 キミの名前そのままだな、と思うけれど。
 解ったから、キミは僕の布団の上からどいてくれないかな。

「で、今日は何処へ行くのかな、サニーミルク」
 朝食を食べながら軽く額を抑えながら、サニーに問う。
「…むしろ何時もの他の二人はどうしたんだい、今日は?」
「ルナもスターも、何だか用事があるとか行って飛んでっちゃった」
 なるほど、二人とも忙しいらしいね。
「それで僕か。別に良いんだけど、遊びって何をするのかな?」
「それは勿論!」
 サニーはにぱって笑って言い切る。
 その笑顔が時たま凄く憎く見える時があるのはなんでだろうね。
「悪戯っ! 紅魔館で。私一人でもきちんと出来る事、見せたげるよっ!」
 心底、僕は見せなくても良いと思った。
 相手が悪すぎると思う。
「ねぇ、サニー」
「どうしたの、○○? まさか怖気づいたりしないよね?」
 ちゃぶ台に手をついて首を傾げて覗き込んで来るサニー。
 ため息をつきながら頭をぽふぽふやってあげて、問い返す。
「この前も同じような事やってなかった?」
「違うわよっ、この前は博麗神社っ!」
 少女は胸を張る。
 無い胸を張っても仕方ない気がするんだけどなぁ…。
「巫女に見つかって、追いまわされてそのまま弾幕ごっこで撃墜されてなかったっけ」
「あれは夕方だったから油断しただけよ! だから、今回は吸血鬼をターゲットに…」
 むしろ、昼間でも多分撃墜されてたと思う。
 あの時の霊夢さん、凄いいい笑顔で僕にサニーを投げつけてったしなぁ。
 アレは怖かった。
 どうして僕が協力…と言うか、一緒にいたって解ったんだろう。
 大方、白黒の魔法使いの所為だと思うけど…。
 その時より前の事を思い出して、もう一度ため息をつく。
「その前は確か…あれ。地霊殿、に行こうとしてた、だっけ」
「あれはほら! 暗い所は私は苦手だから、行かなくて正解よっ」
 妖怪の山にあると言う、地底へ続く洞穴。
 流石に一緒に行けないので入口で大人しく待ってたら、怨霊を見た三妖精全員が全力で外に飛び出してきて抱きつかれた。
 後ろから出て来た土蜘蛛の少女に思いっきり笑われながら、「大変だね?」と肩を竦められた事はよく覚えている。
「確か怨霊が出て来て…」
「言ーうーなーっ!? あーもう! 今日は吸血鬼の館だから大丈夫! 一度潜り込んだ事もあるし!」
 一度僕も用事があったから行った事がある。
 メイド長の咲夜さん、だっけ…妖精が紛れ込んでいて叩き潰した、って聞いた。
 メイド服に着替えてたらしいけど、代わりにあった元の服が赤と白と青って…この子たちだよねぇ。
「仕方ないなぁ」
 三度目のため息をついて、ご飯を食べ終わったので立ちあがる。
「準備出来るまでちょっと待っててね」

 外に出ると、さっきまでの日照りは何処へやら。
 どんよりと空が曇り始めて、日差しを遮っていた。
「ねぇ、サニー。一雨来そうだよ?」
「雨が降っても私は見えなく出来るから大丈夫っ」
 そう言う事じゃない。
 それにそれ、実は間違ってる。
 確かに見えなくなるけれど、しずくが跳ねるのは君の体を取り巻くように跳ねるからね。
 口にはしないけどね、何時か君を雨の日に驚かせるために。
「……まあ、良いかなぁ」
「うん。大丈夫だって、それに館に入っちゃえば濡れないわよ。それに…」
「それに?」
「私は、太陽の光の妖精だから。私が行く所、全部晴れになるわよ」
 その数分後、その大丈夫を信じた事を心底後悔した。

「わぁーっ!? 降って来たーっ!? 急ごうよ、○○!」
「いや、このままじゃ前に進めないって! 僕の家まで戻ろうよっ!?」
 強く降ってきた雨空へ飛び立とうとするサニーの手をぎゅっと引いて走る。
「って、○○っ……解った、解ったからっ!?」
 紅魔館に行くまでの距離と、自宅までの距離。
 比べるまでもなく、自分の家の方が近い訳で。
 ぎゅっと手を握ると、暖かい。
 黄金色の濡れた髪が空に揺れる。
 風も強くなってきた雨の中、少女の手を引いて走り続ける。
 運が悪いのか、それとも天が彼女の悪戯を許さないのかは解らないけれど。
 この瞬間、ちょっとだけ役得だと思った僕も居るからね。
 細い指先、彼女の陽の温もり。
 振り返ると、顔を真っ赤にしていたサニーミルク。
 視線を逸らして、明後日の方を向いて手を引かれている。
 全力で飛んでしまえば、きっと僕が走るよりもずっと早く飛んで行けるだろうけれど。
 僕の手に引かれている事が何処か嬉しかった。

「……っ、はぁっ」
 息を切らせながら、扉を開ける。
「……だい、じょう、ぶ?」
 びしょ濡れのサニーが覗き込んでくる。
 運動不足を実感しながら、頭をぽふぽふとやってあげて。
「うん。なんとか、大丈夫……だよ」
「寒くないの?」
 むしろ、僕としては濡れているサニーの服を何とかしてあげたい。
「温泉、引きこんであるから、入れば温まるよ、大丈夫」
 やっぱり此処はレディファースト、だよね。
「だからサニー、先に早く入っておいで? 覗いたりしないから」
「ばっ…○○の方が人間だし風邪引いちゃうわよっ、先に入ってっ!?」
 目を白黒させ顔を真っ赤にしたサニーを見てて思う。
 ああ、心底この子は可愛いなぁ、と。
 でもここは譲る訳には――。
「僕は大丈夫だからっ……って」
「……だったら」
 真っ赤なままサニーがとんでもない事を呟いた。
「だったら、一緒に入ろ。…服、干すから、先、入って」
「いやそれもっと問題あるからね!?」
 流石に叫び返さざるを得ない。
「あーもー!? 私だって恥ずかしいんだからさっさと入るのっ!?」
 言うが早いが、サニーが僕を引きずり始め。
「解ったから、解ったからっ!? 一緒に入るから引きずらないでくれっ!?」
 雨の中、森の近くの家からどたばたと騒ぐ声。
 外を上機嫌でふらふらと飛んでいた傘妖怪がその近くを通り掛かったらしく、顔を顰めて行ったようだ。
 曰く、甘過ぎたらしい。
 後日、うんざりするような顔で「あの近くはもう飛ばないようにするわ」と言ったとか何とか。

「……どうして」
 問い返しても答えは出ない。
 確かに服を脱いだけど。
 と言うか…風呂場に服を着たまま放りこむとか、サニー、誰から教わったんだい。
「こうなったんだろうなぁ」
 諦めながら湯船に浸かる。
 大人一人しか入れないあまり広くない湯船だから、サニーが入ってきたら出ないとね。
「○○。入る、よ」
 がら、と音を立てて開かれる扉。
 湯気の先に見える黄金色の髪と青の瞳。
 真っ赤になっているのが良く解るけど、カチューシャもリボンもないので何時ものサニーのようには見えない。
 うっすらと羽根が見えて、サニーだと良く解る。
 こちらにぺたん、と足音を立てて歩いてくる彼女は、まるで幼い女神のよう。 
「……○、○?」
 だが、だからこそ彼女の今の姿が何処までも侵さざるべきもののように見える。
 体の前だけをタオルで隠し、恥じらう様子。
 ああ、それはミロのヴィーナスもきっと超えて――。
「○○っ? …は、反応無いなら、入っちゃうよ?」
 ってサニーの姿に酔ってたぁーーーーーーーーーーーーっ!?
「ちょっ、待っ」
 言うが早いが、僕の身体の上に軽めの重みが乗っかってくる。
 浴槽に腰掛けている僕の上に、そのまま同じような格好で乗っかってきたような体勢だ。
 滑らかな肌の感触が脳を焼く。
「あ。暖かい」
 ぽす。
 そのまま背中を、僕の胸のあたりに預けて来る。
「……サニー?」
「……前、覗きこんじゃ、ダメだからね」
 じと、と真っ赤な顔で睨んで来る。
 しっかりとタオルを抑えてて、それが何処か子供っぽくも見えて。
「うん。解ってる」
 金色の髪がゆらゆらと目の前で揺れる。
「なら、しっかり温まろうねっ」
 にぱ、と笑い、前を向く少女の体を、そーっとお腹に手を回すように抱き締める。
「……後ろからぎゅってするなら、先に言ってよ」
「ごめんごめん」
 陽の光の匂い。
 黄金色に染まった麦畑のような髪の絹のような柔らかさが、鼻をくすぐる。
「心の底から謝ってな…ひゃんっ」
 そのまま、口づけるように顔を寄せる。
 軽く頬擦るように、天の羽衣のような心地を楽しむ。
「……○、○?」
 サニーが何処か途惑ったような、上ずった声を出す。
 柔らかなこの黄金の絹糸に、埋もれて居たい。
「ひゃ、っ……」
 濡れた色合い、水が滴ろうとすると。
「……っあ、ぇっ」
 その滴を食み、耳元に口づける。
「…っ…」
 少女の体が微かに震えた。
 ふっ。
「ひゃあっ!?」
 耳元に強く息を吹いてあげる。
 じたばたと抵抗するように腕の中でサニーが暴れるが、ぎゅっと抱きしめていると精々水を飛び散らす事しかできない。
 もう少しだけ強く抱きしめると、大人しくなった。
「……っ、ぅー……っ」
 真っ赤なまま涙目でこちらを睨むサニーがこれまた反則的な表情。
 ああ、なんだろう。
 この顔、僕以外の前では見せて欲しくないなぁ。
「ちゅ、っ」
 涙を人差し指で拭い、そっと頬に口づける。
「……ぁ」
 力が抜けたサニーを、ぎゅっと抱きしめたまま――。

「……○○の馬鹿ー……」
 お風呂を出た後にじとっと僕を見たままのサニー。
 一見、日の光どころか雨の妖精のようにも見えなく無い表情だ。
 いや、変な事はしてないんだけどね。
 そのまま髪を愛でたりしていたら、何時の間にかにサニーがぐったりしかけて慌てて風呂から飛び出した。
 僕も立ちくらみした。
 どうも、二人してのぼせていたみたいだ。
「ごめんごめん、つい、可愛くて」
「ついやっちゃったみたいな顔しないでよーっ!? 恥ずかしいしお風呂だから頭はぼーっとするしっ!?」
 対する僕は反省顔。
 これでも反省しているんだよ?
「いや、可愛かったから……」
「それだけ言って謝れば、許されると思ってるの?」
 じとー。
 見上げるように小さな子に睨まれてると、何とも僕が悪い気分になってくる。
 いや、確かに僕が悪いんだけど。
「じゃあ、どうすれば許してくれるのかな」
 そう言ってサニーの顔を覗き込む。
 ちなみに彼女の今の服装は、僕が外の世界から持ってきたワイシャツ一枚。
 適当なサイズの服が無くて、手元の予備の服がこれしか無かった。
「……自分で考えてみてよ」
 ぷい、と視線を逸らすサニーミルクの顔を、僕の方に向けさせる。
「うん、考えたよ」
 目を白黒させてるサニーが、愛しいのなんの。
「って、ちょっ」
「――」
 そ、と触れるように唇を奪う。
「……これで、許して、くれるかな?」
「……昼寝の場所、提供してくれたら、許したげる」
 真っ赤なままのサニーミルクが、ぎゅう、と抱きついて来て。
 頭をぽふぽふやりながら、僕は何時しか眠りに導かれていくのを感じていた。
 その頃にはサニーミルクも寝息を立て始めて居て。

――The last of sunny day, we're in the same dream――
晴れた日は、終わったけれど。
――Tommorow will be sunny day,because we have love in the cottage――
明日もきっと、晴れだろう。




○○が変態?
大丈夫だ、問題無い。

あ。最後の英語。
適当なので見なかった事にして欲しい、マジで。
文法合ってるか解らんし。


陽の光のはじまりと(前)(Megalith 2010/11/14)



 色づいて来た秋の色、寒くなるのが少し憂鬱だけれども何処か心は温かい。
「~♪」
 その中を何処か嬉しそうに、足取り軽く歩く妖精。
 飛ばずにてぽてぽと音を立てるような様子が何処か愛らしい。
「どーしたの? さっきからずっとこっち見てて笑ってるの」
 気付いたらしく、こちらに問いかける妖精は。
「いや、何でもないよ」
「そっか。何かあるのかと思って不安になっただけ」
 にぱっと笑って、また前を向いて歩きだす。
「今日は何処へ行くんだい、サニーミルク?」
 問いかけながら、僕は彼女と出会った時の事を思い出していた。

 あのときは、確か失意のどん底にあったのを覚えている。
 もう生きて行く事を諦めたような程度の事だった気がするがもう覚えてすらいない。
 ただ一つ覚えている事は、もといた場所から消え去ってしまいたいという欲求。
 それと、果てしない絶望感だった。
 道を歩く中、何処までも暗闇が続く。
 山の中を夜歩いていた筈だった。
 確か、何処かの崖に落ちて死んでしまおうとすら思えていた筈だ。
 棒のようになりながらも、まだ歩き続ける足が鬱陶しい。
 何故歩き続けてるのか、死にたいと思った筈なのに。
 瞬間、崖から落ちるような感覚。
 闇に飲まれていく僕の意識、これで死ぬ事が出来ると言う安堵感。
 そんなものを持っていたんだと思う。

 生きていた時は不思議に思ったものだ。
 てっきり生きている訳が無いと思っていたのだから。
 梟の声が微かに聞こえる宵闇の中、身体を起こして歩き始める。
 何故生きているかは知らないけど、何処か元居た場所と違う感覚。
 歩きながら見回し、開けた場所のあたりに出る。
 こんな真っ暗闇の中、月明りの下に見える服を着た人影が転がってる姿。
 同じように生きるのをやめようとした人にしては、どう考えても小さい。
 むしろ何か薄いのが生えている。
 それが背中から生えた羽根だと気付くのにあまり時間は掛からなかった。
 物語で聞いたような妖精?
 白い服を着たのと、青い服を着た幼い女の子が転がってる。
 近寄ろうと足を一歩進めると。
 ぶみ、と何か柔らかいものを踏んだ感覚。
「ふぎゃ、っ!?」
 何やら一人足元にも居たらしく、思いっきり寝ている所を踏んでしまったらしく変な悲鳴が聞こえてきた。
「う、わ!?」
 酒の匂い。
 彼女たちは此処で飲んでいてそのまま眠ってしまったらしい。
「ご、ごめんっ、大丈夫かい!?」
 慌てて足をどけて土を払うためにしゃがみこむ。
「大丈夫な訳無いわよ!? ……って、なんでこんな所に人間が居るのさ」
 身体をがばっと起こす彼女。
 目をぱちぱちとやる姿が何処か愛らしい。
「しかも何か変な格好? ……それと凄い酷い顔。はー……仕方ないなぁ」
 一つため息をついた、変な格好をした赤い服の少女は酒瓶を僕に差し出した。
「せめて辛気臭い顔はお酒で忘れなさいって」
 言って、けらけらと笑いながら彼女は自分の杯を煽る。
 酒に酔った赤い顔は子供の姿でしかない筈なのに何処か大人びて見えて。
「飲んでいいわよ? 解ってるよねー? むしろ私の酒が飲めないって?」
 そして凄い絡んできた。
 酒瓶を持ってがっしりと抱きつくように身体を寄せて来て。
「わ、ちょっ」
 断る間もなく、口に瓶の口を押し込まれて――。

 その後、やっぱり数分もせず酔った僕は妖精達の宴に紛れ込んでしまう事になったのだが。
 次の日頭は痛いし青いのと白いのは何時の間にか帰ってるし赤いのは寝転がったままだしと散々だった。
 もう、そんな事があってから一年も経つのか、と思い直す。
「このあたりだったっけ、君たちの寝ている所に出会ったのは」
 山を歩きながら、僕が辿りついたあたりに差し掛かる。
 途端、サニーが口を尖らせる。
「踏まれたのは痛かったわよ、一度踏まれてみたい?」
 じと、と見上げてくる事が多くなった気がする、ここ最近。
 可愛いからいいのだけれど、そんな酷い事してるかなぁ?
「サニーに踏まれるなら歓迎だね、一度踏んでみるかい?」
 しれっと言い放つと彼女は想定してなかった答えなのか、ぶっ、と噴き出した。
「な、何言ってるのっ!? する訳無いでしょっ!?」
「それはそれで嬉しかったんだけどなぁ、残念」
 しれっと返すと、呟くサニーミルク。
「……別に踏んでほしいのなら……。……だめだめ、絶対ダメなんだから」
 ぼそぼそと呟いてるのを見ながら、彼女の手を引く。
 あそこで出会えたのは奇跡的としか言いようがなかったらしい、僕の命的に。
 後で聞いた話では、妖怪に出会ってたら食べられておしまいだったとか。
「まあ、でも」
「ひゃ!?」
 サニーミルクの体をひょい、とお姫様のように抱える。
「こうしてる方が僕としては好きなんだけれどね。どうだろ?」
 言いながら、顔を真っ赤にしているサニーの頬に軽く頬で触れて。
 滑らかな頬が色づいた林檎のように染まっている。
 いっそそのまま食べてしまいたいと思える程に。
「嫌じゃない、けど」
 ぽそぽそ、と抗議するように呟くサニー。
「良かった良かった。じゃあ、このまま歩いてこっか?」
「このままだとキノコも見えやしないんだけど…キノコ狩りなのに」
「それもそっか。じゃあ」
 降ろしてあげて、手を引いて。
「うん」
 何処か照れたように、笑いながら頷く姿が愛らしい。
「あ、あったよっ」
 ぱたぱた、と髪を揺らしながら僕の手を引っ張って行く彼女を見て。
「……あ、そうか」
 はたと気付いた。
 この子は、まるで小さな犬のようだと。
 外の世界でも居たなぁ、こんなぱたぱたと走り回る小型犬。
「どったの? また何か変な事考えてそうだけど」
 どうもサニーミルクの中では、僕は変な事を考えているのがデフォらしい。
 あんまり自分では認識してないんだけど、やっぱりそうなのかな。
「いや、犬に似てるなーって」
 隠しても仕方ないので素直に答える事にした。
「……へー」
 とても笑顔でサニーミルクが僕を見る。
 何だか何時もと対応が違うような。
「横で跳ねるおさげが耳みたいに見えるなーって」
 仕方がないので思ったままに言ってみた。
 何でか解らないけどサニーが平べったいものを取り出してるんだけど。
「へー」
「ところでサニー、こんなところでスペルカードを取り出してどうするんだい?」
 怖い様子だったので聞いてみた。
「人間だから手加減してあげようと思って」
 しれっと言ってのけるサニーは、やっぱり怒ってるみたいだね。
 うん、怒ってるサニーもやっぱり可愛いなぁ。
 何処か納得して頷く、うん、やっぱりこの子の事を僕は大好きなんだなぁって。
「日符『アグレッシブライト』っ!」

 ピチューン。

「……いたたた」
「ふん、だっ。変な事言うから痛い目見るの」
 思いっきり一発目から直撃した。
 幾ら身体が幻想郷に一年もあったとはいえ弾幕ごっこだなんてやった事無かったため、当たると痛いのは良く解った。
 僕の目の前には唇を尖らせてそっぽを向いているサニー。
 完全に機嫌を損ねてしまったらしい。
「そんなに怒ると思わなかったよ、ごめんごめん」
「普通は犬と同じとか言われたら怒るわよっ!?」
 それはそうか。
「いや、まあそれはそうなんだけど、そう言う意味じゃなくて」
「何っ!?」
 肩をいからせてがるるるるー、と低く唸っているようにも見える。
「猫みたいに気ままじゃなくて…ええと、後はなんだろう」
 思ったままに言うのはやはり宜しく無いみたいだね、うん。
「こっちおいで、サニー?」
「嫌」
 ぷい。
 即答っぷりにちょっと後悔。
「うーん……」
 どうやってご機嫌取ろうかと考えて。
「可愛い事に変わりはないから、ほら」
「犬みたいな意味の可愛さって何っ!?」
 あー、頭に血が完全に上っちゃってるかなぁ。
「もう怒ったんだからっ! ○○なんて知らないっ、妖怪に食われちゃえっ!」
 ひゅん、と彼女の姿が掻き消える。
「待っ――」
 手が空を切り、何処かへ走り去って行く足音だけが聞こえていた。



しまった。
前後編にする予定なんて全く無かったのに気付いたら前後編になっていた、だと…。

たまにはケンカもいいよね!


陽の光のはじまりと(後)(Megalith 2010/11/22)



「どうしたもの、かなぁ」
 考えても答えが出ない、と言うか、糸口すら見えない。
「……うーん」
 考え続けて数時間、もう夜も良い所だ。
 考えても考えても答えが出ないのは、そろそろ気が滅入ってくる。
 けれど、サニーの事だし真面目に考えてあげないと。
 食事を作る気にもなれず、明かりをつけるのも億劫で闇の中に意識を漂わせながら考える。
 ……何でこんなに悩んでるんだろうな、僕。
 こんなに一つの事に意識を傾ける事なんてあったっけ。
 サニーの事が幾ら好きだとは言え。
「……何してるの? こんな真っ暗な中で」
 白っぽい少女が闇の中、僕の方に視線を向けている。
 何時の間に入りこんだんだろう、音はしなかったけれど。
「……ルナチャイルド?」
 やれやれ、とでも言うように彼女は首を横に振った。
「今の今まで気付かなかったの? 私も居たのに」
 今度は僕の後ろから声が飛んでくる。
 軽く石を打って、油に灯を灯すと青い服の妖精の少女が見えた。
スターサファイア、何時の間に、あ、そう言えばサニーは」
「場所は知らないのよね、私も。…ここの近くには居ないんじゃない?」
 軽く首を横に振って答えるスターに、僕は肩を落とした。
「やっぱりかぁ……うーん」
 一つため息をついて、天井を見上げる。 
「ねぇ、○○。サニー、何だか凄い怒ってたけど何か言ったの?」
 ルナがじと目で睨んで来たが、その様子は何処か怒ってるようにも見える。
「そうね、何かそのまま一人でベッドに横になって不貞寝してたわね、あなたのことなんてもう知らない、とか言いながら」
 どうも家に戻ってもまだ怒ったままだったらしい。
「うーん、思いあたりって訳じゃないんだけど……」
 出会った場所がこのあたりだ、とか、犬っぽいとか言った事とか。
 踏まれてるのも良いとか云々も一応言ったけれど、あまりそっちは気にしなかったらしい。
 むしろ流したいようにも見えたのは気のせいかな、そこのところ。
「……まぁ、サニーも大分過剰反応な気はするわね」
 話終わるとスターが大きく一つため息。
 そこにルナが続けて、僕を指差した。
「でも、スター。やっぱり悪いのは○○よ、だって」
「そうね、サニーが額面通り受け取って過剰反応したって所はあっても、引き金を引いてるのは○○だし」
 それに頷いてもう一度ため息をつくスター。
「そう、なのかな?」
 自分でもぴんと来ない所があるけれど。
「……ねぇ、○○。外の世界の話、教えてくれる? 他の人と一緒に居る時とかのこと……」
 スターが僕の方に近づいてじ、と見上げて来る。
「あ」
 ルナが口元に手を当てているが、スターはお構いなしらしい。
 何と言うか、マイペースな子だ。
「……そうだなぁ、確かに人に怒られてるのがピンとこない事は多かったなぁ」
「……他には?」
 スターがじ、と僕の膝に手をついて見上げて来る。
「例えば、こうやって女の人に近寄られた時とか」
「……んー」
 思い出す、昔の事を。
「えーと…うーん」
 ぽん、と手を打って答えた。
「僕、香水の匂いが苦手なんだ、大分強い香水だね、とか言った覚えあるなぁ、そう言えば」
 そして直後に思いっきり頬を引っ叩かれたような気がする。
「……他にもない? そう言う事」
 スターに問われ、もう一度考え込んで。
「……あぁ」
 ぽん、と手を打って思い出した。
「一緒に飲んでた女の子が帰れないって言うからホテルに連れてってあげた事があるんだ。つまり、こっちで言う宿かなぁ」
「……それで?」
「連れてった後、僕は時間的に帰れそうだから帰ったら、次の日から口もきいてくれなくなったね」
 あれは大分辛かったなぁ、前日まで話してた友達がいきなり話も出来なくなるんだもの。
「……うわぁ」
「……うわぁ」
 見れば、スターもルナも唖然とした様子で僕を見ていた。
 同情される所、なのかなぁ。
「はあ……何でこんなのに。でも、気にし過ぎても仕方ないわね。……で、ここからが本題。サニーは、どうなの?」
 ルナがじ、と僕の方に視線を向けて居た。
 見れば膝のあたりに居るスターも、凄い真剣な目を向けている。
「どう、って?」
 一瞬では質問の意味が取れず、間抜けな答えを返したらルナが凄いきつい目つきで睨んできた。
「好きなの? サニーのこと」
 本題は、それだったのかなぁと納得した。
 見ればスターもうんうん、と頷いてる。
「好きだよ、それは勿論」
 それは絶対に変わらない。
 変な事を言ったりしてるように見えるけど、それは絶対に。
「じゃあ、あなたにとってのサニーは、何?」
 スターが僕を見上げて来る。
 何、と聞かれたら、僕はこう答えるしかない。
「太陽だよ」
 あの笑顔。
 明るい声。
 跳ねるような黄金の髪。
 一言で表現するとなれば、そうなるだろう。
「…女の子としては?」
 女の子として?
 スターが言って、僕の目の前で身体を離して正座する。
「サニーの事を、女の子として好きか? うーん……」
 腕を組んで考え込む。
「……」
 ぽそぽそ、とルナが呟くようにスターに囁いているのが聞こえた。
「……」
 ふるふる、と首を横に振るスター。
 一人の女の子としての、サニーミルク、か。
 ……ああ、これなのかもしれない、さっき僕が闇の中で一人で考え込んでいたのは。
 日の光の妖精と言う、何時も明るくて元気なサニー。
 妖精であるお陰で時たま頭の悪い事もすれば、表情がころころ変わって前の事をすぐ忘れて笑顔を浮かべる。
 雨の日は何処か膨れて外に出たがらない様子でも、僕と居ると何処か嬉しそうにしていて。
 晴れの日に出掛ける時は僕が付いてくと、嬉しそうに手を握り返してくれる。
 でも、今僕が言っている事はあくまで「何かされている」でしかない。
 では、僕が彼女にしてあげていることは?
 軽く口づけてあげることもあったし、好きって言ってあげた事もあった。
 けれど。
「……あ、そうか」
 そう。
 これも一方通行でしかない。
 一方通行で、僕がやりたい事をしていただけでしかない。
 つまり、ペットのようにしか扱ってなかったんだ。
 一方通行ですれ違いながら、好きって言うフリをしてただけ。

 じゃあ、その事に気付いた今、サニーをどう思う?

 女の子として、あの子を好きだと言う気持ち。
『辛気臭い顔はお酒出忘れなさいって』
 あの笑顔は、僕を救ってくれた。
『朝ー、朝よーっ、○○っ』
 あの瞳は、僕にここでの輝きを見せてくれた。
『ぎゅっとしてくれたら、許したげる』
 あの心は、僕に暖かさを教えてくれた。
 好き、と言う言葉じゃ表しきれない、かな。
 何だ、じゃあ、一つしかないじゃないか。
「……間違ってたんだなぁ、僕」
 呟いて、近くに転がっていた上着を羽織る。
「え、あ、ちょっ」
「ま、待ってっ、何?」
 ルナとスターが目を白黒させている。
 けど、サニーの所に行かなきゃならない。
「探し行って来るよ。質問の答えだよね。愛し合いたい、が答え、かな」
 目をぱちくりとさせる二匹。
「これじゃダメかな。……可愛いとか、好きとかじゃ足りないや」
 くす、くすくす、と静かなルナの笑い声。
「ねぇ、私たちに言っても仕方ない気がするわよ」
 はーぁ、と深くため息をついたスターが、近くに転がっていた木の端材を手に取る。
「……本当に、サニーが羨ましいわね。」
 言って、その端材を扉の方へ放り投げた。
「わきゃっ!?」
 すこーん、と良い音がして扉の前のあたりで跳ね返る。
 聞き違える筈もない。
 光の屈折を利用して自分の姿を隠して居たのか。
「サニーミルク?」
 姿を現した彼女の頬が真っ赤なのは、気のせいではないと思う。
 何時もの服を着て、じ、と僕の方に視線を向けたまま。
「……こん、ばん、は」
「こん、ばんは」
 普段通りの挨拶をしている筈なのに、何処かぎこちなく感じる。
 何でだろう、よく解らないけど…。
 さっき言えた言葉が、上手く言えそうにない。
「さ、スター、帰りましょ? あてられちゃいそうだし」
「そうね。ルナ、今日は一人分ご飯少なくなるわね」
 ルナとスターが扉を開けて、空に飛び立って行く。
「ちょ、ちょっと二人ともっ!?」
 サニーが声を掛け後を追おうとするのを。
 後ろからぎゅ、と抱き締めた。
「……ちょ、っと……ぉ」
「……待って、サニー、話したいことが、あるんだ」
 彼女はこくん、と真っ赤な顔のまま頷いた。

「……」
 後ろからサニーを抱き締めたまま、さっきまで騒がしく話してた部屋へ戻る。
 その間、ずっと無言。
 僕もサニーも、話さずにじ、としている。
 お互いの顔を合わせずに、いや、合わせようとせずに。
 ……なんだろう。
 こんなの、好きとかそういうのじゃなくて。
 鼓動の音が妙なビートのドラムを刻み、呼吸の音が不協和音のハーモニーを奏でる。
 気恥ずかしくて目を合わせられない。
 何でだろう、後ろから抱き締めている方が恥ずかしい気がするのに。
「……話」
 それ以外の音がしない静かな夜が、終わりを告げる。
 ぽつ、とサニーが掠れた声で呟いた。
「あるって、言ったの、○○よ」
「……そう、だっけ」
 暖かい身体をぎゅ、としたまま、呟き返す。
「もう、忘れたの? 本当に、馬鹿なんだから」
 馬鹿、と言う声は非難するでもなく、拒絶するでもなく、ただ今を離さないで欲しいと言う願い。
「……そうだね、僕は、馬鹿だから」
 馬鹿だから、気付けなかったんだろう。
 馬鹿だから、自分の想いを勘違いしていたんだろう。
 馬鹿だから。
「……だから」
 後ろから抱いたままの背中を包むようにしたまま、囁く。
「好きな子を泣かせたりしてたんだろうね」
 そのまま髪に頭を埋めると、明るい陽の匂いが胸一杯に広がる。
「……○○に、なんか、泣かされたり、しない、わよっ」
 サニーの声は何時からか解らないけれど、涙声。
 それでも、気丈にか、笑顔を浮かべてか、聞こえるのは決して暗い声ではない。
「うん。……ごめんね」
 ぽそ、と耳元で呟くと。
「……私、も。……ごめん、なさい」
 掠れた涙声だけれど、心地良い。
 謝罪の言葉を交わし合うだけなのに。
「うん……」
 それでも、他の言葉が出てこないのが本当に恨めしい。
 軽く手を離すと、頭を包むようにしてあげて。
 サニーが少しくすぐったそうに身動ぎして、身体を軽く僕の方に傾ける。
 刹那、――ふ、と灯りが途絶えた。
 びくっ、と微かに震えるサニー。
「……油、切れたかな」
 一瞬で視界が黒に染まり、温もりだけが彼女の存在を感じる道しるべ。
「真っ暗に、なっちゃった……」
 身体を僕の方に持たせかかってくるサニーは、何処か安堵したような緊張したような声音で。
 暗闇の中、言葉が途絶えて何もかもが黒に溶けて行く。
 鼓動の音は、落ちついた調子で奏でられる二重奏。
 さっきまでのような何処か張りつめた吐息のハーモニーは、何時しか柔らかく溶け合っていた。
「……」
 何時もは僕もサニーも、どちらかと言えば静かに何かをする事は無いタイプだ。
 だけれども、今日は。
「……サニー」
 耳元で囁くと、シルエットが微かに僕の方に顔を向いた。
「……んー……?」
 何処か蕩けたような声のサニーを、覗き込む。
 ぼう…と青い瞳が映ると、目が慣れてきたのか彼女の姿が宵闇に見えてきた。
 暗闇の中の、ふたりぼっち。
 何時もの強気な瞳ではなくて、とろんとした瞳が僕をじっと見つめている。 
「……愛し、てる」
 もう一度耳元で囁くと、そっと唇を奪った。
「……ちゅ、っ」
 サニーが僕の頬に手を軽く添えるようにして、唇を押しつけ返して来る。
 真っ暗闇で、ただそれだけの口づけをしながら。
「……は、ふ。……ん、ちゅむっ」
 一度途切れるキスが繋がれる。
 今度はサニーから、身体を正面から向きあうように位置を変えて、僕の頬にしっかりと手を添えて。
 唇から唇へ、伝わる想い。
「……ん、んっ、……っ」
 その想いで、身体が暖められていく。
 サニーが居るから、僕は救われて、此処に居るんだ。
 彼女は、僕にとっての太陽の光。

 私は、此処に、居るよ。
 あなたの、傍に、居るよ。

 唇を一度離して、サニーが囁いた。
 微かに頷いては、また柔らかな身体を抱き締めてキスを落とす。 
「……んっ」
 ぴくん、とサニーが微かに身動ぎをした。
「……苦しい?」
 宵闇の中映える赤い顔は、笑顔でいて。
「……ううん、嬉しい」
 柔らかな声は、僕の心を蕩けさせるように、甘く、淡い。
 身体の芯まで浸透していくような少女の感触を、この手に包みながら――。
 サニーの蕩けたような声が、僕を包み込みながら。
「……愛して、る……○、○」
 とさ、と彼女の体をその場に横たえて。
 唇を、再度、奪った。



スレ的には後半最後の1/4だけでいい気がする。


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最終更新:2011年01月15日 12:21