阿求2
うpろだ404
「すごい音だな」
「台風ですから」
「固定してるのに、雨戸もやたら揺れてる」
「台風ですから」
「向こうが騒がしいけど、雨漏りでもしたのかね」
「台風ですから」
先刻から同じ答えしか返ってこない。
「阿求、何でそんな奥のほうにいるの?」
「台風ですから」
「……」
暗がりの奥に阿求はいて、顔は良く見えない。
しかしこれは……。
「あきゅんたいふうこわい?」
「台風dいえ、怖くはありませんよ」
何度も経験しましたし、と声を小さくしながら続けるもそれにまったく説得力は無い。
これは明らかに怖がっている。
「怖いなら怖いって言っていいのよ」
「はい怖いです」
心地良いまでの即答痛み入る。そこまでか。
「別に強い台風って言っても、家が壊れるほどじゃないでしょ」
せいぜい屋根瓦が吹き飛ぶ程度、と付け加えると阿求から笑みがこぼれた。
「そ……そうですね。ここまで怖がることはありませんよね」
「そうそう、伊勢湾やマエミーに比べれば何のことも無い」
比べるものが間違ってる? まあ多少大きいものと比べた方がいいだろう。
「それでは落ち着いたところで、少し書き物などしてきますね」
そう言いながら立ち上がり、書斎へ行こうとする阿求。
外の廊下を使った方が早いだろうに、内の部屋伝いに行くのはやはりまだ怖いからか。
「それじゃ俺は夜に備えて横になってこよう」
夜に何をする気なんですか、と突っ込まれたが何のことは無い、ただの昼寝である。
各々やることをしに動こうとした時に、不意にそれは来た。
ガオンという轟音とともに屋敷が揺れ、遅れて風の吹き込む音が聞こえ始める。
「お。どっかの屋根瓦でもぶつかったか?」
見に行こうとした瞬間、腰をつかまれる。
「いやー。やー」
見れば阿求が泣きながらしがみついている。
「遠くでぶつかっただけで、ここにゃ被害は出んよ」
そう言いながら頭を軽く撫でてやると、幾らか落ち着いたようで泣きはしなくなった。
「じゃ見に行ってみようか」
「うにゃー」
抱きつく力をさらに強める阿求。からかいすぎたろうか。
「っていっても一応俺も少ない男手だし、見に行かんわけにも行くるまいよ」
言うとしがみつく手が少し緩まる。
「じゃあ、書斎に送ってから見に行くから」
もう少し力が弱まる。
「じゃほれ、行くよ」
言うが動かない。膝立ちのまま、じっとこちらの腿に顔を埋めている
「どうしたの。たっちは?」
「子ども扱いしないでください」
顔を上げ、やっとといった風情で阿求が声を出す。
「ん。で、どしたの」
「今ので腰が抜けました……」
「あ、あらら」
さて、どうしたものか。
手の塞がっているだろうから、女中さんらを呼ぶわけには行かない。
なら、ここで休ませておくのが上等だろうか。
「休む? 畳の上でいい? 布団引く?」
といってもこの部屋に布団はないので、持って来る必要があるが。
「いえ、とりあえず書斎に運んでください」
「でも、休んでいた方が良くないか?」
「書斎に行きたいんですっ」
強く言い切られてしまった。
書斎に何かあるのか……そういえばあそこは奥のほうにあったっけ。
「さて立てないんじゃどうするかねえ」
肩を貸すわけにも行かないし、背負っていこうか。
さてそれでは背負い紐を調達してこなければいけない。
「抱っこ」
「そうさね。背負ってえなに?」
「抱っこしてください」
抱っこ。こっちの腰が死ねる。よって却下したい。
だが、両腕広げて待っているのを見捨てるわけにも行かない。
……覚悟を決めるより他あるまいか。
阿求を横座りにさせ、左腋より腕を入れて背側に通し、右腋をつかむようにする。
同時に膝の下にも他方の腕を差し込み持ち上げ、俗に言うお姫様抱っこの状態にする。
「重い。落としそう」
「女の子に重いなんて言っちゃいけません」
そう言って阿求は肩に顎を押し付けてくる。
肩のツボが押されて地味に痛い。
「痛いでしょ。そんなことやってると落とすよ」
「きゃーおとさないでー」
そう言って阿求は腕に力を込め、顔を首筋に寄せてきた。
阿求の吐息が首にかかリ、大分くすぐったい。
「じゃ行くかね」
ふらふらと歩き始める。
普段なら1分、40歩かからない程度の場所に、
途中何度か落としそうになりながら、じっくり5分以上かけて進んでいく。
「はい、着いたよ」
言いながら、座布団の上に降ろす。
「ありがとうございました」
言うと阿求は座りなおし、背筋を伸ばして筆記机に向かう。
「それじゃ見てくるか」
「気をつけてくださいね」
外回りの廊下をのそのそ歩き、破損箇所を探す。
が、特に見つからない。
二週目に突入するがやはり見つからない。
「戸袋にでも当たったのか……?」
まあいい。目に見える被害がないなら、今はそれで上等だ。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでした?」
「何も壊れてないね。添え木なりにでも当たったんじゃなかろうか」
阿求の傍に胡坐をかき、言う。
「見た感じ被害がないようなんで、安心して寝れるわ」
足を伸ばし、敷いていた座布団を除け横になる。
「寝るのは構わないんですが……」
服の上のボタンをはずし、ベルトを少し緩め寝やすくする。
「何でここで寝ようとしているんですか?」
「阿求がいるから」
言いながら阿求の座っている座布団を机の影から、阿求ごと引き摺り出す。
「えっ……それはどういう」
「ん、いい高さ」
問いかけは無視して、膝の上に頭を乗せ幾らか揺り動かす。
「じゃ、おやすみ」
「膝で寝ないでください。重いでしょ」
「じゃあ、膝枕はやめよう」
座りながら言い、座布団を頭を置く方向に放り投げ、阿求を引き倒しながらまた寝転がる。
「何するんですか」
「……添い寝?」
「される方ですか?」
阿求が言っている間にこちらは座布団を二つに折り、頭をのせる。
引き倒した阿求を抱き寄せ、頭の下に左手を差し入れて座布団の上に乗せさせて、
また右手を後頭に当てる。
「まあ、いいじゃないの。台風なんだし」
と、阿求の頭を撫でてやりながら言う。
そのまま阿求の頭頂に顎を乗せる形に、あるいは頭を胸に抱きかかえるように体の位置を変える。
幾らか抜け出そうと阿求はもがいていたが、やがて観念したか、離そうと突っ張っていた左腕をこちらの脇腹にのせると、
「台風ですし、まあいいかもしれませんね」
と言って体を引き付け、やがて双方静かに寝息を立てていった。
<<その後>>
時間経てども台風未だ過ぎず、風雨未だ強し。
さすがに何時間も雨戸が揺れ続けていれば不安になってくるし、
何よりうるさくて眠れやしない。
「寝れん」
そもそも昼間に2時間寝たのが悪かった。
「というか何でこんなに風が強いままなんだ」
台風なんて6時間程度で過ぎるものじゃないのか。
もうそのくらいは経ったはずだ。
「まあ、寝て起きれば晴れてるはずだな」
言いながら毛布をかぶり、寝ようとする。
「やはり寝れん」
人間は寝溜出来ない生き物なので、あまり寝すぎることも出来ない。
本でも読んでいようかと思ったが、そういえば燈油が足りないという話なので、
おいそれとそれも出来ない。
風が幾らか止んでいれば外に出て散歩でもしていればいいのだろうが、
こう風が強くてはそれも出来ない。
(あきゅんの寝顔見物にでも行こうかしらん)
うむ、そうしよう。見つかったらその時だ。
早速足音を消すための厚手の靴下を探そうとした時、外の障子の闇が濃くなった。
かたり、と小さな音を立て障子が開く。現れたのは阿求だった。
「やはり起きてましたか」
近寄ってきた阿求が小声で言う。
「どうしたの? そっちも眠れない?」
こちらも小声で返すと、阿求は小さく頷いた。
本でも読んでいればいいのに、と言うと阿求は燈油が切れたと答えてきた。
「ですから、何か向こうにいた時の話でもしてもらおうかな、と」
さてやこれもなにかのネタにでもするつもりなのか、阿求が言ってくる。
しかし、狭く深くの交友関係だった自分には人に話すような話はさしてない。
とはいえ昔話なんぞやろうものならこっぴどく叱られそうだ。
いっそグリム童話あたり話してしまおうかとも思ったが、そも俺が覚えていない。
あたりは真っ暗。秋口とはいえ、台風の最中で未だ蒸し暑い。
「では覚えているのを幾らか。信じようと、信じまいと―」
翌日、毛布に包まり眠る阿求と、敷布団の下にいる俺がいた。
うpろだ457
この家の主が息を引き取ろうとしていた。
本当に短い間の命を、ただただ書く事のみに捧げ死んでいく。
それを何代も何代も続けているのだという。
「お世話になりました」
「いえ、このくらいなんでもありません」
「それでもです。お礼を言わせてください」
弱弱しく言う。
あぁ、やはり死ぬのだと再確認する。
もしかしたらちょっと風邪を引いただけなのかも、と望んでいたけれど。
ならば、言わなければいけないことが……
「私は……」
「言わないで下さい」
「…………」
「命短い私に、その言葉は重過ぎます」
「…………」
「泣かないで下さいよ。死にそうで泣きたいのは私なんですから」
「はい」
それでもあふれる涙をとめることは出来なかった。
それから無言でどれほどの時間いたのだろう。
ようやく涙が枯れたときには、沈みかけていた太陽はすでになく月が南の空にかかっていた。
「そろそろ……逝きますね」
「はい」
「これから息災ですごしてください」
死んでしまう。
最愛の人が。
勇気を振り絞る。
「必ずまた会います。そのときは先程の言葉を必ず聞いていただきます」
「急になんですか?
私は数百年単位で転生を繰り返しています。それに私はそのとき男か女かわかりませんよ」
「存じています。でも、必ず会います」
そう、これは強い意思。
「あなたが生まれ変わるとき私は必ずそこにいます。
あなたが女性なら男として、男性なら女として」
「閻魔様が許すとも思えませんけど」
「いいえ、誓って生まれ変わります」
「それは楽しみです」
そういって瞳を閉じ、二度と開かなかった。
その後最愛の人に遅れること数十年、十分に長生きをして死ぬことになる。
「お初お目にかかります。私は○○と申します。
幻想郷の外の出身ではありますが、この度稗田家の使用人頭としてお世話させていただくこととなりました」
「はい、よろしくお願いいたします」
そういって目の前の少女はクスリと笑った。
何か変なこといったかな?
「それにしても、本当に生まれ変わった上にきちんと男性なんですね。○○は」
「はい?」
「いいえ、なんでもありません。
ところで何か言いたいことはありませんか?」
「? いえ、特にはございませんが」
不思議そうな顔をしている俺を見てまたクスクス笑う。
なんだ?
「ちなみに私にはあります。お久しぶりです○○」
「?」
「あのときの言葉を今度こそ聞きたい。必ず言ってくださいね」
「は、はぁ、何のことか良くわかりませんが」
「はい、でもきっと思い出してください」
「? と、とにかくこれからよろしくお願いいたします、阿求さま」
と、これが俺と阿求の出会い。
ちなみに俺がこの時の会話の意味を知るのは、もうしばらく後のことだった。
10スレ目>>652
夜の蚊帳が下りた薄暗い林の中を一人進む。
終わらない迷路のように続く林。
聳え立つ暗い木々は寂しく朽ち果て、多いというのにどこか空虚な印象を与える。
そんな冷たい場所の明かりはただ一つ、頭上の満月のみ。
ただ、月が仄かに照らし出そうとも、この場所の陰鬱な雰囲気は変わらない。
まるで死を暗示させるかのようだと、阿求は思った。
黒の木々を掻き分け、足音だけを響かせなお進む。
そして前方に初めて黒以外の色を見つけ、ふと足を止めた。
―――・・・血、だ。
木や地面に飛び散るようにこびりついた血はまだ赤く、
その血が流れてからまだあまり時間が経っていないことを示す。
そしてその更に奥に、自分が探している人物がいるということも。
「・・・○○、」
おびただしい程の赤の中心、闇に紛れるように佇む彼に声をかける。
手には赤く濡れそぼった斧。
辺りにはばらばらになった妖怪の死体。
どちらも、彼には似合わないものだと、無意識に考える。
と、その時、○○はゆっくりとした動作でこちらを振り返った。
「・・・阿求か」
彼はこの場には到底似合わない、明るい笑顔を向けてくる。
それには流石の阿求も小さく息をのみ、目を見張った。
「阿求、どうかしたのか?いつもは家で待っててくれるじゃないか」
「いえ・・・あまりに遅いので迎えに来ました。今日も妖怪退治、ご苦労様です」
帰りましょうか、と手を差し出し、○○に問いかける。
しかし○○はその手を取る事無く、小さくかぶりをふって悲しそうに笑った。
「○○・・・?」
「・・・悪いな。もう少しだけ、ここにいたい」
それは黙とうのためだろうか。
○○が殺してしまった妖怪に対しての。
罪滅ぼしにもならないのはわかっている。
殺してしまった内臓を直視したところで、罪が消えるわけではない。
ただ、自分はこれを仕事に選び、里の人間に感謝され、
そして阿求がそばにいてくれるだけだ。
阿求はそれに何も言わず、どこかに視線を彷徨わせていた。
二人の間に自然と沈黙が訪れる。
いつもは心地良い沈黙も、今は酷く気を乱される気がして、
○○は無意識のうちに眉根を寄せていた。
そう、この時はまだ分からなかったのだ。
自分の胸に巣食う、この言いようのない不安の正体を。
「○○」
「・・・っ、何だ?」
阿求の姿を見つめながらも、意識は思考の奥深くまで潜っていた○○は、
彼女の呼びかけにはっと意識を取り戻すと、平然と返事を返した。
「・・・こんな所にも、花は咲くんですね」
その言葉に不思議そうに阿求の見る先を覗き込む。
するとそこには、名も知らぬような小さな白い花があった。
「私は、この花のように生きてみたかった」
独り言のような阿求の言葉。
しかし○○は、それを黙って聞いていた。
慈しむような優しい手つきで、白い花に触れる。
ふわりと揺れた花は、何故か阿求自身のような気がした。
「誰のためでもなくただ花を咲かせて、誰に知られる事もなく、
でも最期まで自分を誇って散るんです。
・・・そして、今にも枯れてしまいそうな瞬間にも、こうして美しいと思ってもらえる」
ここには何もないかもしれないけれど。
ただ、静かに美しく咲き誇れるでしょう?
首をかしげてみせた阿求の表情は、何かを諦めたように潔いものだった。
だから、なのかもしれない。
彼女の言葉が、こんな場所で死ねたらいいのにと、そう聞こえたのは。
「素敵だと思いませんか?」
「・・・そう、だな。でも」
そんな事を、自分の前で言わないでほしい。
口にさえ出さなかったものの、○○の困ったような笑みに、阿求もふっと、笑った。
気付いているのだろうか、彼は。
自分がひどく泣きそうな顔をしているという事に。
そんなことを頭の片隅で思いつつ、阿求はぐっと拳を握り締めた。
「わかってますよ?・・・わかってます。けれど、○○、」
わかるでしょう?と笑う阿求を○○は、どうにもできず抱き寄せる。
情けない事に、自分の体が、言葉が震えている。
この先は言わせてはならないと、本能が告げているから。
「・・・私は、もう」
「阿求、それ以上言うな」
「もう、これ以上」
「阿求・・・っ」
「生きては、んっ・・・」
「阿求・・・!」
○○が言葉を紡がせないように、阿求の唇を塞ぐ。
息苦しいほどの口付けに、阿求は視界がぼやけ、意識が浮く気がして瞳を閉じた。
…これで私が死んでしまったら、彼はどんな顔をするのだろう。
そう考えたら、さっきまで何ともなかったのに、無性に泣きたくなった。
「・・・○○、聞いてください」
「聞きたくない」
「我儘言わないでください」
「どっちが、だよ」
ああ、泣きそうだ。
私も、○○も。
「ええ、すみません」
本当にごめんなさい、○○。
最後の、最期まで弱い私で。
でも、愛しいから貴方の手で、迎えたい。
「・・・我儘、聞いてくれますか・・・?」
その言葉に、○○はすっと目を閉じて、今にも泣き出しそうな空を仰いだ。
月はいつの間にか雲に隠れてしまっている。
涙が、頬を伝った。
「―――・・・○○」
ああ、これはきっと、喪失感だ。
俺はこうして、この世界で全てを失くすだろう。
今は鮮やかな色も、ゆったりと流れる刻も、大切な君でさえも。
「私を、殺して?」
それでも俺は、それに抗う術を知らないから。
(せめて最期くらいは貴方に手折られたいと、そう思っ た の)
「たとえお前がどんな姿になっていようとも、俺は必ず、見つけ出してやる」
「―――・・・ええ、また来世で逢いましょう、私の愛しき人」
そして俺は、動かなくなった君を抱いて、帰路につく。
8スレ目 >>357
「わぁ…」
「どしたい、阿求」
「いえ、ちょっと圧倒されてました」
目の前に広がる屋台と人の波を呆然と見つめて、隣の少女が呟く。
年に一度の祭事、ということがそうさせるのか、まるで昼間のような明るさだ。
「さすがは引き篭もり」
「失敬な! これでも少しは出歩いてます!」
少しは、ねぇ。
「まぁいいや。 今夜は楽しまないとな」
「費用は○○さん持ちで、ですね」
「そうそ…何ィ!?」
「『でぇと』では男性の方が負担すると聞きましたよ?」
にんまり、と形容するのがぴったりな笑みで俺を見上げる阿求。
「仕方ないな」
「やった! じゃあまず…アンズ飴をお願いします」
「って…俺がか?」
「当然でしょう。 それとも」
出店に群がる人の波を指差し、
「あの中にか弱い女の子を放り込むおつもりですか?」
「…承知致しました」
俺はほんの少しだけ、彼女を祭りに誘ったことを後悔した。
「ほいよ」
「ありがとうございます~」
手渡した飴をすぐさま頬張る阿求。 幸せそうな表情の彼女と並んで、
俺は里の中心部へと足を進める。 何でもデカイ竹にまとめて短冊を吊るすそうな。
手の中には先ほど渡された短冊が一枚。 俺はそれを眺めながら阿求に訊いてみる。
「そう言えば…阿求は何を書くつもりなんだ?」
「願い事ですか? …帰り道に話しますよ」
「今言っても変わらんだろ」
「ダメです。 ○○さんの願い事なら聞きますが?」
「誰が言うか!」
「じゃあお互いに帰り道に、と言うことで」
しっかり公開の義務を取り付けられてしまった。 俺は反駁する暇もなく、
「○○さん、次は冷やし飴をお願いします」
「へいへい…」
飴を食べ終えた『主』の新たな命令に奔走するのだった。 あぁ、俺って弱いなぁ…。
祭は終わり、打って変わって静かな帰り道。
「さて…聞かせて貰うぞ、阿求」
「はい?」
「願い事だよ、願い事!」
「ああ、そう言えばそうでしたね」
聞かなかったらずっと黙ってるつもりだったんだろうか…。
顔を顰める俺を余所に彼女はにこやかな笑顔で一言、
「『無病息災』です」
「意外に地味っつーか…普通だな」
「あはは…そう言う○○さんは?」
「ん~…」
「ほらほら、私も言ったんですから」
「笑わないか?」
「笑いませんよお」
そう言いつつも口端が上がってるのは何故かな阿求さん。
俺は軽く息を吐きながらも、
「『阿求が少しでも長く生きられるように』だ」
出来る限り真面目な顔をして言ってみたが、言われた本人はと言うと、
「………え?」
数秒間固まった後にそれだけ呟いた。 目が点になっている。
「あの、普通自分のコトをお願いするのでは?」
「じゃあ俺は普通じゃねぇんだろうな」
なんつったって外界人だ、イレギュラーと言ってもいい。
「御阿礼の子のコトは色々と聞いたよ」
「う…それは」
「それに、コレは俺の願いでもあるわけだ」
そう続けた言葉に、俯いていた阿求の瞳が俺を捉える。
「お前と少しでも長く居たい、ってのが本音なんだからな」
ダメだ、照れる。 顔が紅くなってやしないか。
堪らず視線を宙に投げる俺に、隣の少女が淡々とした声で、
「…キザですねぇ」
「やかましい」
「でも、ありがとうございます」
不意に伸ばされた阿求の手が、俺の手をしっかりと握る。
思った以上に小さく、暖かな感触に驚きながらも俺はそれを握り返す。
俺達は互いに視線を合わせないまま、だが握った手は
離さずに、澄んだ夜空の下をゆっくりと、ゆっくりと歩いた。
8スレ目 >>616
「暑い、ですねぇ…」
「夏だからな」
「…麦茶も温いですね」
「夏だからな」
「どうにかなりません?」
「ほれ」っ団扇
「…これでどうしろと」
「扇いで涼を取れ」
「………」
(パタパタパタパタ…)
「…疲れただけです」
「体力ねぇなぁ…」
「しかも動いた分暑くなりました」
「…それはお気の毒」
「と、言うか!」
「???」
「どうしてそんなに普通なんです!?」
「あ~…俺の住んでた周りって高い建物ばっかでさ。
ろくに風とか届かない上に熱だけは篭るんだよ」
「…それで?」
「それに比べりゃ、此処は随分と過ごし易いぞ?」
「むー…私には暑いんですよぅ…。
それに私よりも気持ちよさそうに見える…。
どちらかと言うと、後者のほうが気に入らない!」(がばっ
「うお、ナニしやがんだ阿求!?」
「貴方だけに快適な思いはさせません~! うりうり」
「別に快適とは言って…コラ!
押し倒すなのしかかるなベルトに手を掛けるなぁ!!」
「…イヤですか?」
「…イヤではないデスが、出来れば夜n」
「アハハハハー! 最高にハイってヤツだー!! ハァハァハァ」
「ノォおおお!? オタスケー!!」
ガラッ。
「阿求、課題の方h…」
「…………」のしかかって荒い息
「…………」押し倒されて涙目
「○○と言い阿求と言い…私の周りはこんなんばかりか…」(目頭押さえ
「……WRYYYYY!!」
「ぎゃあ! そして時は動き出す!?
慧音センセ!! 嘆くより先に助けては下さりませんかー!?」
「…まぁコレも経験だな、サラバ」
「見捨てやがった! 普通助けるだろ、普通!」
「んふふふふ~…普通じゃないって言ってましたよね」
「確かに言ったがこういう意味じゃ…ってオイ! どこ触t」
「ごゆるりと…」
ぴしゃん。
9スレ目 >>499
俺は今までに8回の失恋を経験している
失恋と言うよりは別れというのが正しいが
「やぁ阿求、勉強は捗ってるかい?」
「○○さん!遅かったじゃ無いですか」
「いやぁこれを買ってたらね」
○○は可愛らしい巾着袋を差し出した
中には掌に乗る程度の瓶、中は琥珀色の、液体?
「水あめだよ、食べたがってただろ?」
「わぁ!ありがとうございます!」
俺は今まで8回、別れを経験している
何回別れても慣れない、こればっかりは
だから俺は、彼女がいない間に思い出せるように、思い出を作る
「○○さん?」
「阿求・・・転生の準備は進んでいるのか?」
「は、はい・・・問題なく」
「そうか・・・さて、お茶でも入れてもらおうかな」
「あ、は、はい!すぐに!」
台所へ小走りに阿求がかけていく
その場に腰を下ろし、お茶が来るのを待った
「お待たせしました!」
「ああ、ありがt・・・紅茶、そうか、阿求は紅茶が好きだったね」
そうかそうか、今度はクッキーを持ってこよう
色々な事を話した、勉強の事とか、転生の準備とか、妖怪の話とか
話した内容全てを覚えていよう、彼女がいない間に、浸れるほどの思い出を憶えていよう
「おや、もうこんな時間か・・・」
「あの・・・○○さん・・・」
「じゃあな阿求・・・また明日」
「あっ、はい!また明日!」
八回も恋をした、その全てが阿礼の子だった、それだけ
そして、今
俺は、九回目の恋をしている
9スレ目 >>519
阿「○○さんって変態ですね」
○「……はぁ!?」
阿「だって私みたいな子供を恋人にするなんて」
○「中身は大人だからいいじゃん、それに妖怪の俺と違って人間の阿求は成長するんだし」
阿「それに私男の人になった時もあるんですよ」
○「俺が愛したのはお前という存在だから男でも女でも別にどっちでも良いんだよ
男の時は親愛で女の時は普通に愛って感じで」
阿「節操無しですね」
○「俺はお前一筋だぜ」
阿「里の人たちから○○さんなんて言われてるか知ってます?」
○「さあ?なんて言われてんだ」
阿「ペド妖怪です」
○「…………お前と居るために妖怪になったのにその仕打ちはないだろう!!」
阿「私が言ってるわけじゃないですよ!!」
○「ああ、そうだな、そーか、俺そんな風に思われてたんだ」
阿「それでその……○○さんは妖怪になったことに後悔してないですか」
○「ないな、最初に言ったけど俺はおまえとずっと一緒に居たいんだよ」
阿「ありがとう、ございます」
10スレ目>>211
〇〇が恨めしい。
私は、あまり人には深入りしない第三者をになる事に務めてきた。
それが歴史の編纂者には必要だと前世から思っていたし、私もそう思っていた。
だが、〇〇のせいでその視点は打ち砕かれた。
私は〇〇を毎日意識してしまうようになってしまった。
特定の個人を取り上げる視点は、幻想郷縁紀の性質すら根本からねじ曲げてしまった――私の生まれた意味、死ぬ意味、存在そのものを〇〇に書き替えられてしまったのだ。
〇〇に幻想郷を知ってほしい。そして文章を通じて〇〇に私を解ってほしいと望むようになってしまった。
妖怪個人にスポットを当てたのは、本当は私個人の個性をアピールする隠れ蓑であったし、私の心の内を注約文に示すためでもあった。
〇〇に読んでほしいから、一般公開に踏み切った。
〇〇が、好きだった。
でも、〇〇に気持ちは伝えなかったし〇〇に気持ちの見返りも求めなかった。
だって、私はすぐに死ぬから
悲恋の物語は、人の不幸と同じ。
この恋が実ったところで、その実は決して二人にとって蜜の味にはならない。
渋柿は、齧っても吐き出してしまうのがオチ。 それが美味しそうに熟していても、決して口にしてはいけないのだ。
だから、私は死ぬまで〇〇に気持ちを伝えなかった。
〇〇からは死ぬまでその手の言葉を聞かなかった。
私の片思いで、いいのだ。
私の片思いでよかったのに、〇〇は私の亡骸に何度も何度も愛の告白をした
空気を読んでほしい。
〇〇は、声を上げて泣いた
私は、死人に口なし
〇〇は、私の亡骸にそっと唇を寄せた
私は、〇〇の泣き顔をすりぬけた
――なんだ、結局私は臆病なだけだったんじゃないか。
四季様からは、この件でこっぴどく怒られた。
反省文を半年に渡って書けと命じられてしまったほどだ
その刑期も終え、やっと地獄の仕事手伝いを始めてしばらくすると小野塚さんが手紙を持ってきました。
それは〇〇からの手紙でした。
あのとき書かされた反省文は、そのまま〇〇に届けられていたのです。
それを穴が開くほどじっくりと読み、短い返事を書きました
『早死にして地獄に来ようとしてもダメよ。とびっきりの責め苦を頼んだ上で絶対に顔出さないから
それより善行を積んで転生して。その時は私も添い遂げるから』
ああ、死後も私の気持ちを乱し続けるなんて
〇〇はなんて恨めしくて愛しいのだろう
「小町、勝手に裁判資料を持ち出しましたね?具体的にはあの反省文」
「えーっと!これには海より深い事情がー!」
「幻想郷に海はありません(ラストジャッジメント)」
10スレ目>>323
それは春の日のこと。
暖かくなるといつも、あなたは欠伸ばかりしていますね。
そんなときはいつも、うたた寝をするあなたの頭を膝に置いて、花の香りを楽しみました。
でも、あまり調子に乗って変なことをしたときは、問答無用でぶん殴りましたね。
あなたのそういうところは、少し嫌でした。
それは夏の日のこと。
暑い中、あなたは底抜けに元気でしたね。
私が仕事に熱中していても、いつの間にか手を引いて外へと連れ出していて。
あの時は文句を言いましたが、本当は嬉しくて、沢山甘えてしまいました。
それでも、私は暑いのが苦手なのですから、もう少し配慮してください。
それは秋の日のこと。
夜長ということもあって、月が沈むまで筆を握る私を、あなたは窘めていましたね。
そのくせ、月が綺麗な夜は無理やり月見に付き合わせて、本当に我侭です。
それでも、あなたに抱かれて見上げた月は美しくて、その腕の中は本当に温かかった。
でも、半笑いで鼻の下を伸ばすのは本当に止めてください。
それは冬の日のこと。
寒くなると、時々あなたは機嫌が悪くなりましたね。
二人で雪の中を歩くとき、長く沈黙が続くと私は不安になりました。
でも、いつの間にかあなたは私の肩を引き寄せて、そっと温めてくれましたね。
冷たいくせに優しいところは、ちょっとずるいです。
それは雨の日のこと。
雷が鳴る夜、震えを隠そうとする私を高らかに笑い飛ばしました。
それが不服で抗議の声を上げようとも、あなたは私を馬鹿にするのを止めませんでした。
それでも、しっかり手だけは握って放さないでいてくれましたね。
風呂まで付いて来ようとしたときには、愛想が尽きそうでした。
それは晴れた日のこと。
恥ずかしがる私の手を強引に繋いで、里を歩きましたね。
上白沢ですら何かを察したのか、嫌な笑みを浮かべていました。
大好きな甘味でさえ、そのときは味がしなかったように思います。
帰り道でお返しに口付けをした時、照れたあなたは可愛かったです。
それは曇りの日のこと。
あなたは時々、私を抱いて涙しましたね。
そんな時、私は酷い罪悪感と共に、尽きることのない幸福を感じていました。
だからこそ、私はあなたの背に手を回して、笑みを浮かべることができたのです。
それは、風の強い日、雪の降る日、寒い日、暑い日、記念日、誕生日。
一年の初めから終わりまで、あなたはずっと私の傍にいてくれましたね。
いつしか時が過ぎて、私が床に伏せるまで。
いえ、きっと今の私が死した後も、あなたはここに居てくれるのでしょう。
それは間違っていることなのだと分かっています。
それでも、私はそれが嬉しくてたまりませんでした。
どうか、こんな私を許してください。
転生までの間、罪はいくらでも償いますから――。
「○○……決して、私の手を放さないで」
「当然だ」
命が消えていく、彼の笑顔も消えていく。
最後に感じたのは、何度も交わした口付けとあなたの涙の温かさだった。
ねぇ○○。私は、幸せでしたよ。
夏が来て、あなたが現れて。
秋が来て、あなたが一緒に居て。
冬が来て、あなたが笑って。
春が来て、私も笑って。
こんなにも幸せで、こんなにも辛い死は初めてです。
だから、だから私は――。
――あなたのことなんか、大っ嫌いでした。
■
「……奇遇だね、俺もお前が大好きだったよ」
阿求の最後の言葉にそう答えて、俺は重い腰を上げた。
亡骸はもう、何も語りはしない。
一度も、彼女の口から愛しているとは聞けなかった。
だから――。
「蓬莱山、輝夜様ですね?」
「はい」
「訳あって、貴女の生き胆を頂戴しに来ました」
「それは、何故?」
「とある女性を、愛し足りないもので」
「……そう」
「――参ります」
「粋を極めた五種難題。果たして普通の人間であるあなたに解けるかしら」
今度こそは、その口からはっきりと聞かせてもらおう。
永遠の時間を、この手に入れて。
10スレ目>>489
稗田家縁側、一人の妖怪が茶をすすっている
湯飲みの数は二つ、茶菓子は・・・ドラ焼き
「お待たせしました」
「阿求・・・湯飲みで紅茶はどうかと思うぞ」
阿求、と呼ばれた少女は青年の横に腰を下ろした
そして砂糖を2杯入れるとふぅふぅと紅茶を冷ましている
「・・・君はほんとに紅茶が好きだな」
「ええ・・・来世でも好きだといいなぁ」
少女は笑う、先の不安を感じさせぬ微笑だ
反対に男の表情は曇った、自らを呪うが如き表情
それを見た少女は、笑顔から一転、暗い表情になってしまう
「・・・後十年弱は・・・貴方と共に居られると思います」
「ッ!君は・・・転生するとはいえ記憶はほとんど残らない、それが怖くないのか?短命で終わる自らの人生を呪ったりしないのか?」
「貴方がそばにいてくれれば、怖いものなんてありません」
「あ、阿求・・・」
「貴方に会えたこと、私は自らの運命に、とても・・・とても感謝しています」
「・・・おいおい、そんな事言われちまったら・・・もう弱音も吐けねぇよ」
男は驚き、少女の強さに驚いた、そして笑った、彼女がそう望んでいたから
少女も笑っていた、だが二人の頬には少しばかりの涙が流れた
「・・・あと十年か、俺は君に何を残そう」
「・・・残すのは私のほうだと思うのですが・・・」
「俺はそうだな・・・愛をあげよう、全てをかけて君を愛そうじゃないか」
「も、もう・・・恥ずかしいじゃないですか」
顔を真っ赤にして少女は講義した、しかし笑いがこぼれる
がんばって真面目な顔を作ろうとして、失敗する
それを見て男は笑っていた
「あと十年あればその・・・五人位はその・・・」
「シて欲しいのか?」
「え、いや、そういうわけじゃ、あの・・・あぅぅ」
「はっはっは、まぁ・・・焦る必要は無い、そのうちな?」
男はその大きな手を少女の頭に置いて優しく撫でた
「じゃあな・・・また明日」
「あ、あのっ・・・えと・・・」
「どうした?」
「その・・・お、おやすみの、ちゅーを」
もじもじと、おずおずと、なんともいじらしい阿求に、俺は少し意地悪したくなった
「・・・え?あ、あの、頬じゃなくて・・・あ、んちゅ・・・ぷぁ」
膝を着くぐらいに身を屈め、少女と接吻を交わした
ゆっくりと、互いを惜しむように離れた
「それじゃ阿求・・・おやすみ、また明日」
「は、はい・・・またあした」
彼が闇に溶けるまで、手を振っていた
明日、十数時間後には会えるというのに、とても離れがたかった
いずれ来る別れ、忘れようとも拭い去れぬこの想い
「私は、あなたに忘れられる事が・・・たまらなく怖い―」
彼の時間の前では、30年足らずの私の命はどれほど記憶に残れるのだろうか?
いずれ彼も忘れてしまうだろう、そうしたら「私」を知っているものは誰もいなくなる、それが怖かった
「それでも、それでも私は」
願わくば、貴方の記憶の片隅に――
11スレ目>>994
愛してる
言葉にすると陳腐なものだけど
言葉にしたい時だってあるんだよ阿求
最終更新:2010年06月04日 01:02