蓮子1



1スレ目 >>722


 秘封倶楽部に入ったのに、特にたいした理由はない。
 たまたま学食で二人と相席になり、聞こえてきた面白そうな話に首を突っ込んだのが始まりだ。
 そのときは確か、町外れの廃屋に行ってみたんだっけか。
 やたら古めかしい洋館で、外国人風の子(メリーだっけか)が言うには『ここに境界が見えた』とか……
 結局、一晩中うろついてみたものの収穫はゼロ。たいした事のない初サークル活動だった。

 * * * *

 ある夜、俺は蓮子と一緒だった。場所は郊外の草原。
 蓮子の言葉だと、ここが結構クサいらしい。……なんか信憑性が薄いし、どこでンな話聞いて来るんだ。
 一応『企業秘密』って事になってるのだが。

「3時24分15秒……外れかなぁ」
「……さぁ、わからん」

 二人して地べたに寝そべり、空を見上げながら取り留めなく言葉を交わす。
 蓮子は星を見ることで本当の時間がわかる魔術師だとか。その程度で魔術師なのかと笑ったら蹴られた。心の狭いヤツめ。
 ……腕時計を見ると3時にはなっていなかった。……大雑把な本当の時間だな。

「メリー来てたら何か変わった事あったかな」
「さぁ……俺にはどうにも。そもそもそういう奇特な能力、まったくないし」

 事実そうだった。俺は蓮子の役に立たない(と俺は思ってる)眼すらも持っていない。
 それでもなんとなくだが、二人に着いて歩いて……今、夜の草原に寝っ転がっているのだ。

「……それでどうして、秘封倶楽部に来たのよ」
「さぁ? 傍から聞いてて楽しそうだなと思ったのは事実だな」
「別に、面白い事は話してなかったと思うけど……いつもの相談だし」
「それでも、面白いと思ったんだよ」

 境界、異界、結界……ライトノベルでしか聞けないような言葉を身近に使う少女たち。
 そんな二人に興味を持ったのもまた、否定できない事実。
 ただ、何よりも動かされたのは。
 俺が昔持っていて、忘れてしまった何かを持っている彼女たちが、うらやましかった。


 目の前の少女のひたむきに夢を追う姿が、眩しかった。


「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」

 少し見つめていたらしい。蓮子は不思議そうな顔で問うてくる。
 ……答える言葉がないので、そっぽを向いた。

「むぅ……」
「むくれるなうさ耳。たいした事じゃないって」
「うさ耳っていうなってのに……」

 かさかさと草の擦れる音。文句交じりにばたばたしてみたんだろうな。
 その様子が見なくても想像できたので、つい笑ってしまう。

「…………あの、さ」
「ん?」

 急に、蓮子の言葉が変わった。今までの雰囲気ではない。
 何かあったか。怒ったのか? いや、これくらいのやり取りは普段からやってる。
 大体怒ったのならジャンプキックか鳩尾に肘鉄と相場が決まっている。じゃあ、これは……?

「嘘ついてたって言ったら……怒る?」
「……嘘?」
「うん……嘘」

 がさりと身を起こし、傍で寝ている蓮子を見た。
 蓮子はさっきと変わらなかった。変わらぬ様子で、空を見つめている。
 ……ただ、表情だけが変わっていた。何か思いつめているような、表情。

「言ってみ? 聞くだけ聞くから」
「………………今日、サークル活動、ないの」
「……は?」
「メリー来ないの当たり前。だって、そもそも来る予定もないんだもん」

 チョットマテ貴様。じゃあ何か?
 明日提出の課題をブッチしてまで来た俺ってばただのアホ?
 ……怒りよりも先に、脱力感が先に来たぜ。
 あぁ、明日講師になんて説明しよう。夜の草原で寝てた? そりゃ怒られるだけだってのに。

「……なんでだ?」
「え?」
「怒ろうかと思ったけどやめとく。聞きたいのは……なんでそんな事したんだ?」
「………………」

 至極当然の問いに、蓮子は答えない。
 何かを堪えるように、顔を腕で隠してしまう。
 ……答えたくない理由だったのか。それなら、無理に聞くことも……



「好きなの」



 言われた言葉が理解できない。俺は今何を言われた。何を……蓮子から聞いた。
 いつもいつもからかって喧嘩して。お世辞にもいい仲ではなかった蓮子は、今何を言った?
 好きだと言われた。音としてならば簡単に分かる。別に難しいことじゃない。
 けれども、その意図が、想いが、どうしても理解できない。

「れんこ……?」
「うるさいな。らしくないのわかってるよ。冗談だって思いたいのもわかるよ……でも、好きなの。
 最初会った時から、一目惚れだったの。……きっと、そうは思えなかったよね」

 言われたとおりだった。俺と蓮子。だれがどう見ても喧嘩仲間としか見えない。
 俺がからかい、蓮子が激しい攻撃でお返しする。そこのどこに想いが存在するというのか。

 けれど、少し思った。
 まったく何も思わないのならば無視するのが人間。なら、攻撃という手段で返事をしてくるというなら……


 そこに、確かな『こころ』があるというのは、事実として言えるのではないか。


 ゆっくりと蓮子は身を起こし、まっすぐに俺を見つめた。
 黒水晶のようにきらきらと輝く瞳。少し涙で潤みながら、俺だけをまっすぐに見ている。
 いつも笑顔だったその表情は、まるで泣きながら笑っているようで。
 ……どれだけ彼女が本気なのか、よく分かった。

「いいよ……怒っても、帰っても。呆れてるよね。こんな身勝手でこんな時間まで」
「蓮子」

 びくり、と蓮子は震えた。まるで俺が普段言う『うさ耳』を生やした兎のように、小さく縮こまる体。
 きっと拒絶されると思っているのだろう。見つめて視線を下げ、俯いている。


 ……そんな事あるもんか。
 俺はこんなにも、蓮子の事が好きだってのに。
 蓮子に告白してもらったお陰で、それに気づけたってのに。



 誰が拒絶なんてするもんか。



「あ……」

 華奢な蓮子の体。その体を抱き寄せ、強く抱きしめる。
 いつも俺に攻撃してくるその腕も丸ごと、俺の胸の中へ収めてしまう。
 ほっそりとした、けれども暖かい蓮子の体。そのぬくもりに、涙が出そうになった。

「怒られそうでずっと出来なかったけど……こうしたかった」
「…………」
「俺も……好きだ」
「!!!!!!」

 胸元がじわりと濡れた。熱い雫があふれて来ている。
 ……それが蓮子の涙だと見なくても分かった。

「……っ! ……うっ!!」
「大丈夫。大丈夫だから。俺も好きだから……」
「ううううう……!!」

 とんとん、とんとんと子供をあやすように蓮子の背中を叩く。
 蓮子の嗚咽は止む事なく続き、俺の服を掴む手にはどんどんと力がこめられていく。
 ……その涙が、握り締める手が。秘めていた想いを表しているように思えて。
 不謹慎にも、俺はうれしくなった。……言ったら、怒られるかもしれないな。


 空を見上げると満天の星空。
 その空に、一筋の流れ星が駆けていった。

 俺には幻想も、結界も境界も、何も見つけられないけれど。
 たった一つ。


 たいせつなものは、見つけられたような気がした。



 *****************************************

れーんこれんこ♪ うさみみれんこ♪
という歌が脳内に駆け巡ったのは秘密。

この『男』と秘封倶楽部二人の関係は。

男と蓮子が普段どつき漫才してて
それをメリーがにこにこしながら見ている

って感じだと思った。
蓮子のキャラが違ってたらごめん。


5スレ目>>868(うpろだ0060)


「やっほ、遊びに来たよー
 ちゃんと受験勉強してるー?」

 どすどすどす……がらっ
「もう、ちゃんといるんだから返事くらいしなさいよ」
「ん……なんだ、蓮子か。どうでもいいのが来たな」
「またそういうかわいくないこと言う。はぁ、昔は頬擦りするくらいかわゆかったのにな」

「………」
 かりかりかりかり

「はぁ。
 ま、いいけど」


ぽちっ じょーん

「ちょっっっっっ、なんでいきなりプ○ステ起動してんのさ」
「?」
「や、そんな不思議そうな顔すんなよ」
「勉強してるんでしょ?」
「そーだよ」
「私暇になるじゃない」
「俺の気が散るd
    じっきょー、ぱわふるぷろやきゅーっ!!
「……もういいや」
「そう? サクセスしようかと思ったけど対戦する?」



「あーその打球セカンドじゃねぇ、ファーストが動けってー」
「やった、チャンスチャンス」

「♪だっきゅーはーライットスタンドをー」
「その応援歌もう変わってるぞ」
「えっ!? そうなの!?」

「ビハインドでも岩瀬出すのね」
「福留がサヨナラ3ラン打つからいいんだよ!」

「わーい、勝利っ」
「福原―ウィリアムス―球児なんて打てるかっっ!!」
「谷繁でホームラン打ってたじゃない。ソロだけど」
「いいもん、今年は優勝するからいいもん……」



「ふぅ。
 あぁ、で、勉強どう? はかどってる?」
「……はかどってない」
「これ前回の模試結果? ふーん、どれどれ」
「あ、こら! 勝手に見るなよ、返せよ蓮子っ」
「あっはっは、こりゃ悪いわねぇ~」
「うるさいな!! ほっとけ!」

「いいよな、蓮子は。
 全っ然勉強してなかったくせに『家から一番近いから』って理由でふらりと旧帝大受けて通るんだから」
「学校の授業ちゃんと受けてればわかるじゃない。うちの高校それなりに良い授業してたわよ?
 あ、麦茶もらうわね。
 でも、まぁその成績なら今からでも伸びるわ。
 英数国は前私が見たとき基礎はできてたみたいだから、この時期は理科科目の詰め込みね。
 受験物理なんてパターン作れば楽勝よ、あんた得意じゃない」
「弾幕以外のパターン作りは苦手だ」
「慣れなさい?」
「ハイ。ごめんなさい謝りますから顔だけ笑わないでください怖いです」


かりかりかりかり。
「レンコレンコ、ここワカンネ」
「なにその変な声。
 えっとね、ここは(中略)が(中略)で(中略)になるの。それ結局力学とパターン一緒よ」
「う~ん、う~ん……あぁ、なるほど。ちょっとわかった」
「おっけー」
かりかりかりかり。



「じゃ、私そろそろ大学に戻るわね」
「んー。またな、蓮子姉ちゃん」

「なに? まだなにか?」
「ううん。やっと昔みたいに蓮子姉ちゃんって呼んでくれたなって」
「……幻聴だろ、きっと」
「ふふ、それでもいいよ」

「ねぇ○○。ちゃんとうちの大学受かりなさいね。
 私、待ってるから」
「え、それってどういう……」
「うちのサークル、院生二人でやっててねぇ。このままだと潰れるの。
 だから来年あんたに期待してるわ、あっはっは」
「へっ、そんなの知らねーや。早く帰れよバカ蓮根」
「あはは、ごめんごめん。じゃあねっ」
「ああ、じゃあまたなー」




「……ちぇっ」




6スレ目>>704


「ん」「あら」
「蓮子姉じゃん」
「偶然ね」
「久しぶり? かな?」
「そうね、前回遊びに行ったのが3週間くらい前だっけね。
 コンビニから出てきたってことは夜食か買い食い?」
「ん、まぁそんなとこ」
「あー肉まんみっけっもらうわねっ」
「ちょ、それ……っ!」
もきゅもきゅ
「ほいふぃい」
「……そうか」
はぐはぐ
「んぐ、んぐ。はー。
 冷えてた身体が暖まったわ、ありがとう!」
「俺、食いかけだったんだけど」
「気にしない気にしない」
「……気にしないのか。そうか……」
「えっと?
 あれ? なんか落ち込んでる?」
「いや、いい。なんでもない。
 えっと、蓮子はこの道通ってきたってことは大学の帰り? いや、手ぶらってことはサークルか?」
「あ、えっと、うん。
 サークルだったらこの時間から出かけるわ」
「ふーん……なにやってるかサークルかよく知らないけど、不良サークルだろうということだけはひしひしと伝わってくるな」
「へっへー、ご明察ね!」
「いや、そこ威張るところじゃないから。っていうか何でそこで胸はるのさ」



ぽてぽてぽてぽて

「ぅー寒ぃ。今日も冷えるなー」
「そうねぇ。今年は暖冬って言うけど、やっぱり寒いものは寒いわよねぇ。
 あぁ、そういえば統一模試、明日だっけ?」
「統一ちげぇ! センターだよセンター!
 統一模試って、いつの時代だよ……」
「あれもくっっっっっだらない制度よねぇ。智力の欠片も必要としない問題ばっか」
「ゑ゛」
「足切りなんて各個別でやればいいのに。どうせ上はそんなに変わらないわよ。
 あれ、ほとんど暗記と単純計算ばっかりじゃない。しかも解答はベタ塗り?
 あんなの野球選手が鉛筆転がしたって満点とれるに違いないわ」
「いやその野球選手、センスの固まりだから」



ぽてぽてぽてぽて

「あー……。その」
「ん?」
「星が、綺麗だな」
「うん。冬は夜空が綺麗だから好き」
「そか。
 蓮子、そういえば星よく見上げてたっけか」
「うん。星空はね……私の存在証明なの。
 星を観ることで私自身を観て、星の位置を確認することで私の位置を確認するの」
「ふぅん……?」

「あー、あの星何だっけ。リ、リー……リグル?」
「リゲル」
「あの蒼いのがオルフェウスだっけ?」
「シリウスよ」
「……五角形のってカプラで合ってる」
「あれはカペラ」
「……」
「もぅ、全然ダメじゃない。アンタそんなんじゃ明日地学全滅よ?」
「やや、そんな問題出ないし。っていうか地学明後日だし。っていうかそもそも地学選択じゃないし」
「うん知ってる」
「……」



ぽてぽてぽて、ぽて。

「それじゃ、明日からとりあえず二日、楽しんできなさいね」
「楽しんで、か……。はは、らしいや。
 うん、そうするよ」
「じゃ、バイバイお休みー。今日は早く寝るのよ」
「わぁってるよ。母親じゃあるまいし……
 おやすみ、蓮子姉ちゃん。またな」
「はい、おやすみ。楽しい散歩になったわ、ありがとうね」


キィ…………がちゃん



6スレ目>>831


てくてくてくてく ぴたっ
すたすたすたすたすた ぴたっ
「…………」
「ん? どしたの?
 合格発表場所もうちょっと先よ?」
「いや、えと……その……蓮子、俺どう思う? 大丈夫かなぁ?」
「やっぱり不安?」
「んー、そりゃ、まぁ、ね。
 なんで?」
「足震えてるから」
「え!? うそ!?」
「嘘。」
「…………」
「あっはっは、睨まない睨まない。
 それにしても、二週間前に
 『春からやっと一緒の大学だぜ!』
 って自信に満ちた顔して帰ってきた人間と同一人物には見えないわねぇ」
「う、いや、あの時は確かにそんな気持ちだったんだけど……
 ほら、今日ペ○ちゃん見てたらなんか落ちてそうな気もしてきて」
「あれポ○ちゃんよ」
「……ごめん、誰だって?」
「ちょっと、舌を出さない身長1メートルジャストの永遠の7歳児を知らないのっ!?」
「知らんがな」



「ま、手応えはあったんでしょ?」
「うん。
 や、でもほら、なんかみんな出来てたかもしれないしさ、出来なかったトコもあるし他にも」
「受かってる」
「蓮子……」
「大丈夫よ。誰がアンタに勉強教えたと思ってるの!?」
「んー。予備校の先生?」

 すぱーん!

「痛い」
「アンタって人はっ! 感謝の気持ちって大事なのよ?
 あたしアンタをお礼も言えないような子に育てた記憶はないわっ
 胸に手を当ててあたしの努力を顧みなさいっ」
「蓮子。お前こそ胸に手を当ててじっくり考えてみろ。お前俺の部屋に来て何してた?」
「んーと……よく花映塚対戦してた気がするわ」
「そうだな。こっちが誰使っても平気で2分半はノーミスとかおかしいぜ」
「青い子相手なら10分はいけるわ。
 そうそう、お腹減ったら晩ご飯ごちそうになったわ」
「かーさんが作ってくるしな。『蓮子ちゃんも一緒に食べてって』とか言うし。いらんのに」
「そのまま眠くなって寝ちゃったことも何度か」
「うん」
「……あれ!? なんか私勉強教えてないかも!?」
「気付くの遅いよ!」
「ん、でもほら、姉貴分の背中を見て学び取ることもたくさんあったんじゃないかしら?」
「ねーよ」
「うーん。
 うーんうーん。
 でもまっ、きっと受かってるわよ」
「(ダメだ、説得力 皆 無 !!)」


「ま。じゃ、見てくるよ」
「うん、いってらっしゃい。
 落ちてたらおねーちゃんの胸の中で泣かせてあげるわ」
「いっ、いらねーよっ!」


「(でも、俺、もし受かってたら……。
 もし受かってたら、蓮子姉ちゃんに、好きだ、って伝えよう。

 ……伝えられますように)」









「ふぅ、やっと行ったか。
 ……うん。ちゃんと受かってますように」
「大丈夫よぉ、蓮子の彼氏だもん」
「ふぇっ?
 え!?!?
 げぇっ、メリー!?」
「じゃーんじゃーん。はぁい、メリーさんよ。
 蓮子、ご機嫌いかが?
 今のコ蓮子の彼氏? 見たのは初めてだけどなかなか可愛いじゃない」
「いやっ、そのっ、まだそんな段階じゃ、じゃなくてっ、誰が彼氏よっ! 弟分よ弟分!
 そ、そんなことよりっ。何故ここに!?」
「はぁ~あ、蓮子ちゃんは自分のオトコに夢中で他の新入部員の勧誘をしてくれません」
「いや、だからそんなんじゃ……へ? 勧誘?」
「教授にちゃんと新人勧誘するよう言われてたじゃない」
「あれ? 夢美ちゃんそんなこと言ってたっけ?」
「あんたって子は……」


「ところで蓮子、不安?」
「んー、そりゃ、まぁ、ね。かわいい弟分だし。
 なんで?」
「足、震えてるから」
「え!? うそ!?」
「嘘。」
「…………」
「やだぁ、そっくり。
 仲良いのねぇ」
「め り い ち ゃ ん ?」
「帰ってきたらちゃんと紹介してよね、アンタの彼氏」
「どうやら話し合いが必要みたいね?」
「弾幕で?」
「注目……」
「決闘……「開始!」」





まぁ、なんだ。
今から告白しようと思ってる女性の元へ気合い充分で行ったら、往来で見知らぬ女性と仲良さそうに取っ組み合いしてる姿を見る羽目になった、なんて男を想像して欲しい。
ちょっと同情したくならないか? いやちょっとでいいんだ。

そんなわけで俺の想い人への告白はタイミングを逸し、それどころかうやむやのままに謎のサークルに入れられていたのだった。
ホント、ちょっとで良いんだ。同情してもらって良いよね?




12スレ目>>490 うpろだ837



というわけでそれから三日ほど経って、夢に○○が出てきた。
どうして私が「あれから三日」という表現をしなかったかというと、あれからだと何かあの人は今!
って感じで陳腐なうえ低俗な雰囲気になる気がしたし、本当に、本当に自分がまるで未亡人になってしまったんじゃないかと錯覚してしまいそうだったからだ。
私はあいつの妻でもない。恋人でもない。かといって友達でもなかった。
同僚といったら一番近いのかな。
でも、なんとなく、ずっと傍にいたから、まるで利き手を損じてしまったかのようなアンバランスな喪失感。
なんて、軽いタッチで表している私が「未亡人のような」とか重たい比喩表現を背負っていいのかと心配になるけれど、実際未亡人気分になっているのだから仕様がない。
妻でも恋人でも友達でもない。
だけど気持ちだけはそれっぽくて、私の手はあってないような物の気がした。
そういえば○○、大分前に手に大怪我してたよね。
あれ、事故にあったんだっけ?それとも、大学時代にメリーと三人ではしゃぎすぎて、その時かな。危ないことも沢山したし。
まぁ、どっちでもいい。
その手を怪我したときの○○自体はこれは若さゆえの名誉の負傷とか言って未来への希望やら野望やらに燃えていたみたいだから、
現在私が味わっている喪失感だの途方も無い孤立感だのなんてものとは、全くの無縁だっただろうし。
今のあいつがどうかは知らないけれど。
だってもう気安く話しかけられる場所に彼は居ないわけだからさ。



とにかく、私には、多少文脈がおかしくても「それから三日ほど経って」と切り出すしか方法はなかった。
それしか表現の方法がなかったし、黙っていると目から水ばかり流れてうざったかったので、だから、とにかく。
それから三日。
○○が夢に出てきた。
たぶん夜の中。ひとりきりのベットの上で見た夢。



「よう」
「ああ、しばらく」
「相変わらずだっさい前髪だなぁ」



お前がいなくなって少し伸びたんだけどね、と言いかけて、黙った。
別に、いなくなった本人に直接告げることを躊躇ったわけじゃない。
自分で前髪を摘んでみて、まだそんなに長いほうでもないだろう、と判断したからだ。
「失敗したんだって」呟く。「前にも言ったけど」
○○は私の弁解を聞いていたのかいないのか、いつもよりぼんやりした顔で、いつの間にか目前に現れていた海を眺めていた。
三秒位して、思い出したように「女なんだから、ちゃんと美容室くらい行け」って言った。
まぁ、その通りだよね。
私は黙って頷いた。
海は、昼間だというのに真夜中のように黒く濁っていて、寄せる波が立てる泡だけが白く浮かんで見えた。
月の光がよく似合いそうな光景なのに、降り注ぐ光はからりとした太陽のものなんだから、とても奇妙に見える。
空は明るく、海は暗く、砂浜の代わりに白い紙くずが降り積もっていた。
私たちは沈黙したままその上に座り込んだ。ふわふわしていた。



「不思議な場所だね、ここ」
「夢の中だからだ」
「ああ、夢の中なの?」
「そうだ、だから俺が居る」



それは結果的に、とてもとても遠まわしにだけれど、私がここ数日打ちひしがれていた事実を彼本人が私に告げたような形になった。
夢の中だから彼は居る。
つまり現実には、ということだ。
恐怖とかでなくて、背筋が冷たくなった。
身震いして自分の肩に手を回してみたけれど、体温は感じなくて、暖かくならなかった。



「寒いか?」
「少しね」
「こっちこいよ」



○○が手招きしたので、大人しく彼の右半身に寄り添った。
○○の右腕が私の肩を抱いて、あたたかい脇の下に私は頭をくっつけて、横腹と横腹が密接に触れ合って太腿が寄り添いあった。
その時私は真っ黒いスカートに白いタイツを履いていて、○○は黒のパンツ姿だったので、併せて見てみると白と黒のコントラストが美しかった。
もっとも彼の足のほうがずっと長くて、それから太くてたくましかったけれど。
一度くらいならこれと、裸で絡み合ってみればよかったのかもしれない。
だって私は、まだまだ時間があると思っていたので。
手を繋ぐのにぎゃーぎゃー言って、キスをするのにぎゃーぎゃー言って、それ以上をするのにぎゃーぎゃー言っておきたいと、夢を見ていたのだ。
今とは違う意味で。



首を傾けて、顔を○○に押し付けた。
心臓の音が聞こえないのは、ここが右側だからか。それとも、ただ単に夢の中だからか。もしくは、他の理由だろうか。
オーデコロンは以前嗅いだのと同じ種類で、霞のように仄かだった。
とても心地がよくて、私はこの匂いが世界で一番好きかもしれないなぁ、と思った。
目が覚めたら店に問い合わせてみようか?



「蓮子、錯覚だ」
「なにが?」
「お前は別にこの匂いが好きなんじゃないぞ」



じゃあ何が好きなんだろう。
考える前から答えは出ているのに、私はわざと気付いていないような表情を作った。
○○は少しだけ困った顔をして、鋭い目を細めて、口をへの字に曲げた。
ここは私の夢の中で、とても奇妙な場所のようだから、私の考えていることは彼に筒抜けらしい。
面白い。
彼の思っていることが私に筒抜けでないのは、とても親切な設計に思えた。
だって、もし逆だったら、私、きっと泣いてしまう。



「泣くなよ、蓮子」
「泣いてないよ」
「今泣くこと考えただろうが」
「考えてないよ、朝ごはんのこと考えてた」
「そりゃあ結構なことだ」



○○の右手は、大怪我で痕が残っていたはずなのに、綺麗な元の手に戻っていた。
丁寧な作りの白いシャツを着ていて、そういう姿だと、○○はどこか有能で美しい御曹司か何かのように見えた。
元々見た目だけは綺麗だったからなぁ。
どうやら彼の身に起こった出来事は、その存在を永遠に損なわせてしまう分、色々なものを元に戻してくれるみたいだった。
それも、絶妙なバランスで。
彼が少し伸ばし始めた髪の毛はそのままに、右手を治して、ラフな服装の代わりに繊細なシャツを寄越した。
そういうことを○○が望んでいるかは解らなかったけれど、それはこの場所、もしくは彼の居る場所には、とても相応しいもののような気がした。
ああでも、たぶん○○はこれを望んでいないんだろうな。



「最悪だ、これ。動きづらい」



だそうだ。襟についた金ぴかのボタンは、すでに糸が伸びきって千切れそうになっている。



「手、治ってよかったね」
「まぁな。でもあれはお前を助けたときの名誉の負傷だったのに」
「そうだっけ。あと、その格好さ、案外似合ってるよ」
「嬉しくねぇぞ。こんなの、ガキじゃあるまいし」
「でも、ちょっとかっこいいって。惚れそう」
「バカだろ、お前」



惚れんなよ。って冗談めかせた意味じゃなくて、真剣な声で言うところが、本当に変わらず馬鹿なので、私はただ笑った。
声も出さないで、目だけ細めて笑った。
もう寒くないけれど、暖かいのだけれど、この人は最後の最後で私の恋心とやらに熱い燃料を注ぎ込むので、このままでは私、永遠に独りで走ってしまいそうだと思った。
だけどそんなことはきっと無理なので、我侭を言いたいと思った。
私にとってそれは我侭でもなんでもなく、正当な理由に思えていたけれど。



「○○」
「おう」
「我侭をひとつ」
「なんだ」
「死んでいいかな」
「だめだ」
「どーして」
「だめだって」
「やだしぬ」
「死ぬな」
「なんで」
「ほんと死ぬな」



○○の右手がぎゅうと私の肩を掴んだ。
痛くない、のは、そうだ夢だからだ。
でもとても暖かいから、夢じゃないみたいだ。
でも夢だから、私はお前の傍に居る。



「しにたいよ」
「だめだ」
「○○といっしょにいたいよ」
「お前はバカだから」
「ばかは○○だよ、ばかやろう、しね」
「お前はしぬな」
「しぬよ」
「しぬな」
「しぬの」
「だめだよ」
「どうして」
「約束しろ。そのために俺わざわざ出てきたんだぜ?」
「○○、」
「頼むから、生きてろよ。蓮子、なぁ、お前の事、     」








だからお前ってなんで最後にそういうこと言っちゃうの。もう会えないのに。重要なこといっつも最後に言うんだから。ねぇ。
目を開けたらそこにはもう海も無く、空も無く、君も無く。
私は一人でベットの上に蹲って、汗か涙かでぐっしょり濡れた枕に顔を押し付けていた。
そのために出てきたんだ。なんて、あのやろう。
結局一度も私の我侭聞いてくれなかった。
だから女の子にもてないんだ。
だから私と一回も寝ないまま死んじゃったんだ。
せっかく体があるならさぁ、私の寒さを癒すために抱きしめたりしないで、死ぬなよなんて下手なカウンセラーみたいなことしないで、キスのひとつくらいしてくれればよかったのに。
ばかだ、ばかだ、世界一好きだ。
夢の中で私の気持ちは筒ぬけだから、あえて言わなかったけれど、私が好きなのはあの男っぽい香水の匂いじゃなくて、お前そのものだったんだよ。
私は睫毛の上に指を滑らせて、ごしごし擦った。
立ち上がって窓の外を見たら、空は明るく、海は透明だった。
ここは正しい世界のようだ。少なくとも奇妙じゃない。



ふらふら歩いて、洗面台の鏡を覗き込んだ。
ひび割れた唇で、荒れた肌で、ぱさぱさの髪の毛を持った、目だけがぎょろぎょろした可哀想な女の顔を覗き込んでみた。
手元には、歯磨き粉があって、ハブラシがあって、洗顔フォームがあって、コロンがあって、ボディーミルクがあって、買ったばかりの剃刀があった。
浴槽にはたっぷりとお湯が注がれていた。
ドアには厳重に鍵がかかっていて、私には私を心配して家に訪れてくれるような友人も無かった。
いや、とてもとても大切な友人なら一人いたけれど、彼女はもうこの世界の何処にも無い。
もう大学時代の思い出は戻ってこないし、繋ぎとめておくことも出来なかった。
今の私が生きているのはそういう世界だ。



「しにたい?」



鏡に問いかけてみた。
女は、睫毛だけが長くて、首が細くて骨ばっていた。
私、だった。
前髪はまだ伸びそうにない。
涙が零れて、これが最後なのだと思った。
私は、もう死ねないし、生きていくしか道は無い。
彼とは恐らく永遠にさようならで、その後はともかく生きているうちは必ず逢えない。
故に、最後だったと。
そうっと自分の肩を抱いてみたけれど、自分の体温で十分に事足りて暖かかった。
あるいは、まだ、彼の不器用だった暖かさが残っているのかもしれない。
だとしたら、少なくとも今の私はこれからの私より幸せだろう。



一方的な約束でも、お前が言うなら守るしかないのです。だって、ほら、言った?とても、すきだよって。



目を閉じて、暗い海を思い出してみた。
そして、さっき見た透明な海を思い出してみた。
暗い海が私の今流した涙で、透明な海が君が人知れず流した涙だとするのなら、私はそれを全部飲み干しながら生きていこう。
君は空を水面に映す。
私の涙の映せなかったきれいな空と太陽を映す。
君が、とても綺麗なままだからだ。



「いきる」




新ろだ189


「私、あなたのことが好きよ」


卯酉新幹線ヒロシゲ。
その車窓に移る雲の傘の掛かった富士山を眺めながら、何でもないことかのように宇佐美蓮子は言い放った。


「――は?」


告白された。
いや、ちょっと待て落ち着け俺、状況を冷静に確認しよう。
まず俺らは、大学の長い休みを利用して蓮子の東京の実家へ行くことになって。
そしてその交通の便に卯酉新幹線『ヒロシゲ』を使うことになって。
映されたヴァーチャルの景色にメリーがかなり不満気で、それを紛らわす為に他愛も無い会話をしていたら。
宇佐美蓮子に、告白された。
――――あぁ、さっぱりだよちくしょい。
メリーも目を丸くして驚いているし。
告白した当の本人は、窮屈そうに背伸びをしながら「あーあ、言っちゃった」なんて言ってるし。


「なに、聞こえなかったの?
だったらもう一度言うけど」
「いや、まて、いい」
「どうしたの蓮子?」


可愛らしく小首を傾げながら俺の代わりにメリーが訪ねる。
正直、突然のことで舌が上手く回らないので助かる。
蓮子は車窓から視線を外し、此方をじっと見つめてきた。。
さして日焼けの無い白い頬は、ほんのりと赤みが差しており。
黒い瞳は照れくさく、不安定に揺れていた。


「それがね、私にもよく分からないのよ。
ただ、何となく言わないといけないような気がして」
「何となく、で告白しちゃうの?」
「しょうがないでしょう、しちゃったんだから」


帽子を深く被り、憮然と頬を膨らませ腕を組む。
いつもの調子に戻った彼女にほっとするものの、まだ落ち着かない。
無駄に鼓動の速くなった胸を押さえ、溜息を吐く。


「で」
「○○の返事は?」
「どうなのよ」
「え゛」


まさしく阿吽の呼吸。
蓮子とメリーは互いに顔を見合わせたかと思えば、すぐさま此方に振り向いた。
逃げるには狭すぎるこの空間に隙間は無く、彼女たちの静かな侵攻にただ圧倒される。


「え、いやその、あの」
「言っておくけど、考えさせて欲しい、なんて台詞は無しよ」
「諦めてさっさと言っちゃえば?」


正面の席から身を乗り出して迫ってくる蓮子と、隣の席でさり気なく手を繋いで俺を拘束するメリー。
――あぁ、これはどうしようもない止めとなった。


「さぁ」
「答えを」


更に加速した鼓動を押さえる為に目を瞑り、過去を回想する。
2人と出会い、初めて活動を共にした日から、今日までの日々を。
まだ一年も経っておらず、鮮明に蘇る記憶。
それらを数秒で読み返し、自らに問い掛ける。
その回答に悩むことなく、答えを告げる為に口を開いた。


「……俺も、蓮子のことが好きだな」
「…えーっと、こういう時は有難うでいいのかしら?」
「まぁ、おめでたいことよね」


こうして、俺は晴れて蓮子と恋人になり。
ヒロシゲに運ばれて、目的地である東京に辿り着いた。


新ろだ226


「めりーくりすまーすっ!」
アパートの狭い一部屋にそんな声がする。
ちなみにこれで大体23回目だ。
「蓮子、クリスマスはそろそろ終わるぞ?」
「うっさいわねぇ、別にいいじゃない。」
俺の目の前で炬燵に入りながら既に酔っぱらった顔で酒を飲むこの女は宇佐見蓮子。
信じがたい事だがこれでも成績的には上位で、顔も美人。
そんな女が聖夜に何故俺の部屋で酒を飲んでいるのか、答えは簡単だった。
「蓮子、いくら何でもメリーが今日の予定に付き合わなかったからと言って、イヴから酒を飲んでるのは体に悪いぞ?」
「へーん、どうせ私は一生独身の独り身女ですよーだ」
…こいつは性格が悪いのだ。
と、言っても、そんなに性格は悪くはない。
しかし、いつも一緒に居るメリーは性格はいいし、スタイルもルックスもいい。
そのおかげでいつもいつも比べられてこいつの性格の悪さが多少上増しされているのだ。
そのせいか、いつもいつも俺の部屋に上がり込んでは酒を飲むのがクリスマスの定番となっている。
「一応言っておくが、酒はもう無いぞ。」
「えー、買ってきなさいよぅ。」
「冗談言うな、誰が雪降る寒い外を一人で外出しなきゃならん。」
「むぅ、けちー」
こんな事を言ってる内は可愛いのだが、基本的に人使いが荒いので俺とメリー以外は誰も近寄らない。
今年も、一体何人の新入生がこいつに幻滅していったのやら。
「ところでさ、○○」
「なんだよ」
「あんたって彼女いるの?」
「居たら、お前に付き合って酒盛りしてると思うか?」
「なら、私がなってあげようか?」
「は?」
「だから……その……私が彼女になってあげてもいいかなー?って」
「お前、そろそろ寝た方がいいんじゃないか?」
「な、なによぅ、私が本気で言ってるのにそーいう反応する!?普通。」
「はいはい、布団でおねんねちまちょうねー」
「ぅあー、はなせー!きちんと返事をしろー!」
「ほら、一緒に寝てやるから」
「うー、コレで勝ったと思わないことね……zzz」
「やっと寝たか、明日が休みじゃなきゃどうなってたことやら……」

次の日

「あー、頭がガンガンする……」
「起きたか、朝飯できてるぞ、とっとと食え」
「ありがと……」
「ああ、そうだ、蓮子、こっちを向け」
「? 何y…」



「ああああああんた、なななな何を突然…!!」
「昨日、言ってただろ?『私が彼女になってあげようか?』って」
「い、言ったけどあれは…!」
「あのときは泥酔してたから返事をしても意味がないと思ってな」
「お前の返事はどうなんだよ?」
「……こちらこそ、よろしく……」
「ん、じゃあ冷めない内に食っちまえ、この後はデートの予定だからな」
「…意外と、強引なのね」
「そりゃ、お前の彼氏だからな」


新ろだ244


「蓮子、年越し蕎麦が出来たぞ」
「ありがと、○○」
「流石○○、私の好きな蕎麦が分かってるじゃない」
「そりゃー、お前の彼氏だからな」


「でもさ、蓮子」
「ん?何よ」
「いきなり家に上がり込んできて『年越し蕎麦を作って!』は無いと思うぞ?」
「恋人なんだし別にいいじゃない、それに、一緒に新年を迎えることができていいと思うけど?」
「いや、まぁ、確かにそうなんだが……」
「あ、そうだ」
「今度は何の思いつきだ?」
「○○は初詣どこに行きたい?」
「そんなに考えてないな……精々、近所の神社じゃないか?」
「そうなの、それじゃ、私ともっと素敵な神社に行ってみない?」
「?どこだよ、そこ」
「確か長野に諏訪の神を祀った神社があるのよ」
「それで、そこの神社の巫女が去年の秋に神隠しに遭ったらしいからメリーと一緒に行こうと言ってたんだけど日程が決まってなかったのよ」
「あんたも一緒に行かない?メリーとなら直ぐに会えるし」
「元旦から長野か…」
「しかも美少女二人とよ?」
「一人は彼女だけどな」
「別にいいじゃない、それで、行くの?行かないの?」
「行かせて貰うよ、どうせ三が日は暇だしな」
「よろしい、んじゃ、メリーを連れてくるから留守番よろしく」
「留守番と言っても俺の家だけどな」

「あ、そうだ」
「忘れ物か?」
「うん、ほら、アレアレ」
「アレ……? ああ、アレか」
「そそ、早く早く」
「あー、行ってらっしゃい、蓮子」
「行ってくるわ、○○」


新ろだ414



ドタドタドタドタッ

バタンッ!!


「やっほ!生きてるか!」

チャイムは愚かノックすらせずにドアを開けたのは、

「まぁた、お前か。蓮子」

それが無礼な客人の名前。
黒い帽子を被ってる、ショートカットの女の子だ。

「そう、嫌そうな顔をするんじゃないよ!
 折角、可愛い可愛い幼馴染が訪ねてきてあげたんだからさっ!」

そう、俺と蓮子は幼馴染。
幼稚園から始まり、大学生まで。
つまり、今までずっと一緒にいる腐れ縁。
なんで、ここまで偶然がつづくのかね。

「俺は締め切り前で忙しいんだよ。
 静かにしてるか、帰ってくれ」

俺は今、第六回霊大祭に出す同人誌の追い込みをやっている。
締め切りが来週だってのに、まだ半分しかできてない。

というわけで、今は寝る間も惜しんでの執筆中なわけだ。

はやい話が徹夜作業。
そして、徹夜作業には莫大な集中力と、エネルギーを要する。
よって、余計な体力を使ってる余裕なんてないのだ。

だが、蓮子が来ると・・・

「そんなのいいよぉ。どうせ売れないんでしょ?
 そんなことより、萃夢想やりましょ萃夢想」
「ふざけんなよ。
 後、お前の言い分を訂正しておくと同人は売るんじゃないんだよ。
 加えて、今の時代は萃夢想よりも緋想天だ。
 そして、俺は緋想天よりも、花映塚の方が好きだ」
「最後のは聞いてないわ。
 それに、どれも一緒よ。どうせ私は負けないもーん」
「はっ、言ってろこの蓮根野郎。
 今日こそは俺の必勝パターンが炸裂するぜ?」

ということになるわけだ。

締め切り前、徹夜明け、翌日も徹夜。
騒ぐ体力なんてあるはずがない。

けれど、それでも、

この時間は愛しい。

好きな人と一緒にいられる時間は何よりも大切にしたい。



「さぁ、始めるわよ!」



そんな締め切り一週間前の一日。


最終更新:2010年06月04日 02:25