神綺2



6スレ目 >>726


 しばらく顔を見てないなーなどと思っていたら、連絡もなしにやってきた身内から、いきなり結婚の報告を受けた。
 そんな時、自分は一体どんな表情をしたら良いのだろうか。

「そういうわけで、お母さんはこの人と結婚しようと思います」

「はぁ」

 どう言ったものか分からず、気の抜けたような返事をしながら、私はテーブルを挟んで、母の隣に座る若い男性を観察した。
 見れば見るほど、凡庸な人間である。顔は悪くは無いが良くも無く、背が高いわけでもなく、金持ちのようにも見えない。
 何か強大な力でも持っているのかとも思ったけど、やっぱりどう見ても普通の人間。むしろ幻想郷的ランクで言えば、最下層の力しか持たない、本当にただの冴えない人間。
 聞けばこの男性、外の世界の人間だという。外の人間がこちらに迷い込むのは、そう頻繁でもないが、さりとて珍事というほどでもない。
 だが何を間違ったか、山中をさ迷い歩くうちに魔界へと通じる穴に転がり落ち、更に何を間違ったか神と結婚するときたもんだ。
 でも母さん、仮にも神でしょ? いくらなんだって、もう少しこう……ないの?

「ええとその……あなた」

「はい」

 なぜか緊張した面持ちで、彼はのっそりと首を振った。そんな顔をされると、なんだか私まで緊張してくるじゃないの。
 と言うかよく考えたら、もし母さんとこの人が結婚したら、私この人の義理の娘になるのよね。勘弁して欲しい。

「その、母と……どうしてその……こういうことに?」

「はぁ」

 私と同じような気の抜けた返事をして、彼は頭をかいた。ひょっとしたら彼も、結婚したらこの子が娘かー、勘弁して欲しいなー、などと思っているのかもしれなかった。

「ええっと、その。魔界の神様なんていうから、一体どんな凄いのが出てくるんだろうって思ってたら、なんか154cm(ヒール込み)の女の子が出てきて。しかもコケて。涙目になった姿に、こう、キュンと」

「やだ、もう! その話は恥ずかしいからしないでって言ったじゃない!」

 聞かなきゃ良かったと思った。キャッキャウフフとじゃれる二人にそこはかとない殺意を覚えながら、次の質問に移る。

「ええと、馴れ初めについては分かったんですけども。その、なんですか。いわゆる恋人同士の関係になったのは……」

「え、その。あの。言わないと……あ、はい、言います。あの……何とか生活基盤が整う目処がついたので、アパートを借りたんですが。
 引っ越し祝いだ! とか言いながら彼女が乱入してきまして、エプロン姿で手料理をふるまってくれて。
 その、とても……何児かわかりませんけど、母とは思えぬ可愛らしい母さんに、こう、理性が、パーッと」

 だ、駄目だこいつ……早く何とかしないと……
 私は顔の引きつりを必死で抑えながら、母さんへと訴えるように目を向けた。何を訴えるつもりだったのかは自分でも分からない。
 私の視線を受けたお母さんは、ぽっと頬を赤らめ、身をくねらせた。

「やだ、もう、アリスちゃんたら……その先を言わせる気?」

 聞いてねえよ。

「ちなみに私は母であるけれど、生物学的な意味での出産はまだ未経験よ」

 それも聞いてねえよ。
 うんざりとしていると、後ろに控えていた夢子がずいと前に出、勝手に喋りだした。

「神綺様ったら、それからというもの公務も放り出して、アパートに入りびたりで。昼間は彼も仕事でいないんだから、行ってもしょうがないでしょとお諌めしてもどこ吹く風。
 それで、もうさっさと身を固めていただこうと、このたびのことになったわけよ」

「ああそう……しかしそれにしても、母さんをねぇ……」

 自分の母を貶めるようなことは言いたくないが、いったい母さんに性的な魅力があるものだろうかと思う。
そりゃ神だけども、別段全身から発するオーラとか、空前絶後のスタイルとかを所持しているわけでもないし……スタイルのことを言うならば、むしろ貧相な部類だ。
 ごく正直なところを言うならば、例えば夢子と衣装を交換したら、誰も母さんが魔界の神だなどと思うまい。まあ、彼が特殊な趣味という可能性もあるけれど……
 考えが顔に出ていたのか、夢子がいたずらっぽく笑う。

「あなたがどう考えているか知らないけど、神綺様は魅力に溢れた方よ。競争率は結構高かったんじゃないかしら」

 納得が行かない私に、夢子は更に顔を寄せ、囁いてきた。

「男なんてみんなロリコンかマザコンよ。神綺様は、そのどちらの需要も満たせるでしょ?」

 最悪だが実に説得力のある説明だった。

「ねえ夢子ちゃん、いまアリスちゃんになんて言ったの?」

「神綺様は素晴らしいお方です、と言ったのですよ」

 しれっと流す夢子。いつものことながら、喰えない姉だ。私は眉間を押さえながら歎ずるが、ふと、正面の彼がこちらをまっすぐ見つめているのに気が付いた。

「ええと……な……んですか?」

 やはり敬語で喋ってしまう。彼は困ったように少し眉をひそめたが、やがて意を決したように、つっかえながらも喋りだした。

「その。なんていうか。アリス……さんが、納得のいかない気持ちになるのも、分かるんだ。僕だって、いきなり母親が、結婚するって言って男を連れてきたら、面食らうだろうし。
 それに加えて相手が、こんな頼りない人物じゃ、ね」

「頼りなくなんか無いわ」

 母さんが、むくれて反論する。彼は、ありがとう、と固い表情を少し和らげ、話を続けた。

「だから……上手く言えないけど、さ。今すぐ認めてほしい、って言うわけじゃないんだ。でも、僕は、君のお母さんのことが、本当に好きなんだ。
 どうやったらいいのかもわからないけれど、絶対に幸せにするって、お母さんを守るって、約束するから。だから、ええと……見守る。そうだ、見守っていてくれないかな」

 彼は相変わらず頼りなげで、微妙に震えてるし、脂汗もかいてるし、私の好むスマートさからは程遠い存在。幸せにするとか守るとか、口だけならなんとでも言えるわと私は思った。
 でも、それを口に出す気にはなれなかった。
 なぜならこれは、彼が、心の底から、本気で言った言葉だから。それが伝わってきたから。
 それを馬鹿にすることは、世界の誰にも許されないと思った。それこそ、神ですらも。

「私は今でも、十分幸せよ」

 母さんはそう言って、彼に寄り添う。彼が母さんの肩を抱き、それに嬉しそうに目を細める姿を見て、私は初めて、ほんの少しだけ、母さんがうらやましいと、そう思った。
 夢子は、後ろに控えてニヤニヤしていた。この姉は本当にしょうもないと思う。




 「『お母さんを僕にください』作戦成功記念祝賀会」などと称する乱痴気騒ぎも、夜半、主にメンバーが酔いつぶれることでようやく収束し、後片付けの苦労を予期してうんざりした私は、外の空気を吸おうとドアを開けた。
 いつのまにやらサラやルイズらまで居座っており、ユキはまるで母さんが今日結婚するかのように号泣、勘弁してくれといった表情で姉を見遣るマイも、こっそり何度も洟をすすっていた。
 夢子はいつの間にか消えていた。片付けが面倒で逃げたに違いない。
 夢子はともかく、みんな、祝福しているんだな、と思った。なんだか自分だけが酷く狭量な人間のように思えてくる。

「あら、アリスちゃんも外の空気を吸いにきたの?」

 ドアの向こうには、星の降り注ぐ中、手を後ろで組んだ母さんが立っていた。
 私達と同じくらい飲んでいたはずなのに、その顔には酔いのかけらすら見えない。このあたりは、さすがに神様といったところなのだろうか。

「うん。少し、顔が火照っちゃって」

「そう……少し、歩きましょうか」

 そう言って母さんは、返事も待たずに歩き出す。仕方がないので、私も小走りで後に続いた。
 そのまましばらく、無言のまま歩き続ける。思えば、こうして二人きりで散歩するなんて、一体いつ以来だったろうか。
 夜の森は、魔法使いでも危険なことが多く、私もめったなことでは外には出ないほどなのに、母さんの子供のように小さな背中を見ているだけで、心配することは何もないんだという気がしてきた。

「ねえ、母さん」

「なあに?」

「どうして、あの人のことを好きになったの?」

 知らず、口から言葉が漏れ出た。母さんは、背中を見せたまま、くすくすと笑う。

「そういえば、私のほうは言ってなかったわね。どう、アリスちゃん、私の選んだ人は?」

「ええっと……最初は固い人かと思ったけど、お酒が入ると随分はっちゃけてたわね」

 まさか「普通」なんて言えるわけも無く、私は、わざとずれた返答をした。それに気付いているのか、母さんは肩を震わせる。

「そうね。でもあっちが地よ。上がり症なの、あの人」

 そう言うと母さんは、大きく息を吐いた。冬の澄んだ空気に、母さんの白い吐息が混ざり合い、そして消える。「あの人」という音に含まれる幸福の色に、私は何とも表現しがたい気分になった。

「最初にね。私が転んで、目が合ったとき。一瞬で分かったわ。『あ、この人、私に一目ぼれしたな』って」

「そりゃまた……」

 母さんは昔から、そういうことにはやたらと目端が利いた。まあ、人の感情の機微に疎いようじゃ、神様なんてやってられないんだろけど……

「最初は、どうってこと無かったわ。でも、あの人は、いつもまっすぐに、私を見つめてくれた。魔界の神じゃなくって、神綺という私個人を。
 綺麗だとか可愛いとか、会うたびに言われたわ。本気なのか冗談なのか、分からなかったけど……気付いたら、私のほうが夢中になっていた」

 一気に語って、母さんは一旦唇を閉じた。瞳に浮かぶ複雑な感情は、私ごときが読み取るのは百年早いような気がした。
 神様の気持ちなんて、私には分からないけれど。きっと孤独なのだろうと思う。もちろん私は、夢子もルイズたちも、母さんを慕っている。でもそれはきっと、対等な気持ちじゃないんだ。

「母さんは、畏れずに、衒わずに、初めて対等に好意を向けてくれるひとに出会ったの」

 歌うようにつむがれた、その言葉が胸に染みた。

「つまり、刷り込み現象ね」

「言ってくれるじゃない」

 母さんはようやく振り向いて、笑った。私も釣られて笑みをこぼす。

「今だから言うけど、夢子ちゃんだって最初は猛反対したのよ。さっきは最初から推進してたような口ぶりだったけど。他にもみーんな反対したけど、全部愛の力でねじ伏せてやったわ」

 母さんはそう言って、右腕に力こぶを作る。悲しいほどに細かったが、まあおそらく、神綺様の魔界細腕繁盛記は、この様子を見る限り上手く行っているのだろうと思った。

「大丈夫よ、母さん……」

 その言葉が、自然と口をつく。

「私も、多分、祝福できると……思うから」

 母さんは少し目を見開くと、すぐに柔和な表情を浮かべ、手を伸ばして私の頭を撫でた。今日はヒールが無いのでその丈は更に低く、腕と一緒につま先まで伸ばし、少しぷるぷる震えている。

「ちょっと母さん、もう子供じゃないんだから」

「誰も見てやしないわよ。まったくまあ、いつの間にかニョキニョキと伸びちゃって」

「タケノコじゃないんだから」

 そう言いながらも私は、久しぶりの心地よい感触に身を任せ、ゆっくりと息を吐いた。

「さ、もう酔いも冷めたでしょ。帰りましょうか」

 腕を戻して母さんは、またスタスタと歩き始める。私は肩をすくめて、その後に続いた。
 彼と母さんがどうなるのかなんて私には分からないし、また私が決めていいことでもない。
 でも、彼は母さんを幸せにすると言い、母さんはそれを信じたのだから、娘の私は、それを精一杯応援してあげることが務めというものだ。
 星に包まれた母さんはとても魅力的で、何の根拠も無いのに私は、きっと大丈夫だ、と、そんな風に、思った。
 まずはそうだ、とっても素敵な結婚式を演出しよう――私の母さんを、世界で一番の花嫁にしよう。
 私の決心をよそに、母さんは鼻歌など歌いながら、夜道を進む。
 そう、母さんと彼なら――きっと、大丈夫。








「ところでアリスちゃん。その……帰り道、教えてくれない?」

 ……不安だ。


9スレ目 >>416


若干スレ違いだが書いてしまえ


なんかね、夢に神綺様出てきたさ
んで、何故か知らんがすげぇちっちゃいさ
座った俺と同じぐらいの背丈
で、トコトコ歩いてきて俺の前でえへへ~とか顔を赤らめて笑うさ
なんか理性が吹っ飛びそうになりながらもぎゅっと抱きしめ


















たところで目が覚めた俺涙目

ああそうさ、俺はロリコンだよっ


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最終更新:2010年06月04日 02:44