妖忌1



>>509


「お久しぶりです――」
 そこは、桜咲く並木道。
 辺りには、薄く小さく浮かぶ光球達。
 それらは、閻魔の裁きを終え、それぞれの死の先を逝く物達なのだ。
 そんな中で、彼女は佇んでいた。
 色の薄いその着物は、さながら彼女の肌の様で、風に揺れる黒髪を一層引き立たせる。
「……覚えておるのか?」
「忘れるわけには、参りません」
 尋ねる声は、歳月を感じさせるものの、未だ力強い響きを持っていた。
「幽々子様も、おっしゃられていました。
 強い想いは、幾度生まれ変わろうとも、決して忘れえぬものだと」
 彼女は遠い昔を懐かしむように、その言葉を一言ずつ、大切に声にする。
「やはり、見えぬのか……」
「ええ、こればかりは……致し方ないことです」
 肩を落とす彼女の手に、ふわりと白い霊が触れる。
 それに気付くと、彼女は微笑んで顔を上げた。
「それでも、私には感じられますから。
 咲き乱れる桜の木々も。
 先を逝く他の皆様も。
 こうして気遣って頂ける、優しさも----」
 彼女の目は、ずっと伏せられている。
 それは、目を開く必要がないからだ。
「……相変わらず、お主の言葉はむず痒いな」
「ふふ。安心なさいましたか?」
「むぅ……やはり、お主はお主なのだな。昔から、何も変わっておらぬ。
 変わってしまったのは、儂だけではないか」
 彼の言葉に、彼女は首を振る。
「いいえ。幾度も転生し、多くのことを学んで、私も変わっていくのです」
「儂には変わらぬように見えるのだが、見た目で判断するのは早計か」
「また共に過ごすうちに、きっと解るようになるでしょう。
 映姫様から頂いた判決では、相当長い時間過ごせそうですから」
 彼女はコホンと咳ばらいし、先程会って来た閻魔の口調を真似て、判決の内容を話した。

『そう、貴女は少し人を待たせ過ぎる。
 貴女に出来る善行は、貴女の想い人と添い遂げること。
 それまでは、転生することも叶わないくらい、貴女の背負う罪は重いと知りなさい』

「……全く。粋な判決を下す閻魔もおるものだな」
「ふふ。映姫様とは、何度もお会いしておりましたから。
 私の想い人は、後にも先にもただ一人だと、知ってらっしゃったようですし」

 春風が流れていく。
 春の陽気を含んだ風は、さながら魂を冥界へ運ぶよう。
 風に誘われ、桜の花びらもまた、魂と一緒に流れていく。

 かつて春を集めた、冥界の姫の下へと。

「また、手を引いて頂けますか?」
「共に歩む身なれば、当然のことであろう」
 二人は、手を握りあって春風に乗る。
 始めて出会った、その時のように。

「帰ろうか、○○。幽々子様の下へと」

「――はい、妖忌様」


――――困ったら、後書きついでに、喰らいボム――――
 まとめページを見る限り、誰も書かなかったようなので、妖忌書いてみました。
 某所で、妖忌は厳しく見えて実は愛妻家、という予想があったので、ちょっと便乗。
 設定、背景は二百由旬の彼方に飛ばしておいてください。突っ込まれるとキリないのでw


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3スレ目 >>285-286


285 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/01/18(水) 21:59:31 [ FFYnXflw ]

××「貴方には、私のような者が必要と存じ上げます」
妖忌「・・・ふん、好きにせい」

妖忌は実は押しの強い女性に押し切られたとか思った


286 名前: 名前が無い程度の能力 投稿日: 2006/01/18(水) 22:13:58 [ mmoHOV2o ]

その妖忌すごい好き。
いったん妻を娶ったら、口には出さないけれどすごい大切にする日本男児だと思う。


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3スレ目 >>293


妖忌「儂のような老いぼれを好くとは、お前も変わった奴だな……。
まあよい。老い先短い命ゆえ添い遂げよとは言わぬ。だが、しばし共に生を歩もうぞ」


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8スレ目 >>540・541


  ――ここは暗くて、なぜか暖かい。
  沈んだ意識が徐々に覚醒し、付近を見渡すとここは洞窟のようです。
  確か、山菜を取りに来て足を……そうだ、私は谷に落ちて…

  身を起こすと、焚き火で洞窟が温められていました。
  誰かが暮らしている洞窟、恐らく私はその住人に助けてもらったようです。
  助けてもらった、そう思わないと不安で仕方ありません。もし、ここに連れ込んだのが妖怪だったら…

  嫌な想像が脳裏を過ったとき、急に火の勢いが弱まりました。
  そして、ゾクリとした感覚。この冷え方はまるで幽霊のような…

  音もなく、ゆらゆらと揺れる影に照らされた姿が現われました。
  ですがその姿は幽霊のような曖昧な姿ではなく人の姿そのものでした。

  「目覚めたか、娘。気分はどうだ?」

  重低音の、迫力のある声。何者だろうか?

  「ふむ…?声を潰したか。頭の怪我も喉の怪我は見当たらなかったが…」

  「あ、い、いいえ、ちょっと驚いてしまって。わ、私は○○と申します」
  男はさらに距離を縮めると「ふむ、健啖そうで何よりだ」と呟いていた。

  「ワシの名は魂魄妖忌、暫らくゆっくりとしてゆくといい。その脚ではどうせ帰れんだろう。」

  脚?・・・よく見ると添え木がされていた。これはどう見ても・・・

  「あの、実はさっきからジンジン痛いんですけど…これって折れてます?」

  魂魄、と名乗った老人はそれを無言で肯定し「治るまではここにいるといい」とだけ仰いました。

  魂魄殿は、多くを語りません。
  ですが、こまめな布の交換や添え木の調整、作ってくれる暖かな食事。それらが私を安らがせてくれました。
  魂魄殿は、表情をほとんど変えません。
  だから、その表情をしっかり見なければ内容を掴む事が出来ません。
  あぁ、1つだけ表情を隠しきれないときがありました。
  それはご家族の話題のときです。「孫が一人」だけしか仰いませんでしたが、その時だけは柔和な表情を浮かべておりました。


  今思えば、私がこの老人に恋をしてしまったのはこの時だったのでしょう。

  暫らくして、私は杖をついて歩けるようになりました。
  もちろん、山道は出歩けないので狭い洞窟の中だけです。それでも、ずっと多くの事が出来るようになりました。
  洞窟の中には都合よく湧き水もあったので、洗濯・食器洗い・料理と外に出ずにも家事が出来たのです。

  魂魄殿は、私の家事を咎める事もなく、強制する事もありません。
  ただ、お味噌汁を作ったときだけ頬が緩むのが印象に残っています。

  私は、順調に回復していきました。
  歩いて里に帰れるまで、あと少し。それは喜ばしいことのはずなのに、それを悲しむ私がいました。
  私も子供ではありません。この気持ちの正体に、気付いていました。
  魂魄殿と暮らす日々は、里で育った日々より輝いて見えたのですから。

  「魂魄殿…」

  私の呼びかけに、ちらりと視線のみで答えてくれました。

  「私は、魂魄殿の事が好きですよ」

  魂魄殿は「そうか」とだけ呟き、その後何も答えてはくれませんでした。

  ――私は、そのまま回復しました。
  以前のように、山を下り始めました。私が解るところまで、魂魄殿が送ってくださるそうです。
  そして、お別れの場所。私は、改めて魂魄殿に思いを伝えました。

  「○○よ。それは気の迷いだ。里に下れば、里の幸せがおぬしを待つだろう。」

  魂魄殿は、踵を返し山の中へ――
  ――私は、それを後ろから抱きしめました。
  あなたといたい、それだけが望みだと。

  「○○。よく聞け。ワシは――」
  虚空に現われる、巨大な幽霊
  「――ただの人間ではない。半霊半人の男、魂魄妖忌
  普通の人間と同じ時は歩めぬ。
  ○○、お主にはワシよりもっと幸せになれる男が…」

  「だから、何ですか!魂魄殿が語るのは私のため私のためと!!
  私の望みは、魂魄殿と一緒にいることなのに!!
  魂魄殿は、どうなんですか!お孫さんの話をするとき、嬉しそうでした!
  私がお味噌汁を用意したとき、嬉しそうでした!
  ……それとも、私は邪魔でしたか…?」

  「邪魔だなどとは言うておらぬ!
  ……まったく、お主がここまで馬鹿者とはの…」

  魂魄殿は私から身を離し、里の方に向かって歩き出しました。

  「……何をぼーっとしておる。ワシのところに来るなら来るで家財道具くらい整理してけじめをつけんか」

  ――はい!魂魄殿!!


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>>うpろだ1051


 冥界、白玉楼。言わずと知れた、西行寺家の屋敷である。
 時刻も丑三つ時を過ぎようかという頃、一人の男が屋敷の門を抜けようとしていた。

「よう、爺さん。こんな時間に、こんなとこで会うなんて奇遇だな」
「……○○か……」

 白い口髭を生やした男の名は、魂魄妖忌。
 西行寺家お抱えの庭師兼警護役である。

 そんな彼の前に立つのは、○○という名の男。
 数年程前から、白玉楼に居候している亡霊である。

「……何の用だ?」
「つれないねぇ。せっかく見送りに来たってのに」

 肩をすくめ、やれやれといった風に、溜息を吐く。
 彼の言葉に妖忌は目を少し見開く。

「……知っていたのか?」
「まぁな。最近の爺さんを見てれば、ここを出たがってることぐらいは分かる。知らないのは妖夢ちゃんぐらいだ」
「……そうか」

 二人の間に沈黙が降りる。
 先に口を開いたのは、妖忌の方だった。

「止めないのだな」
「言ったら止まるのか?」
「いや」
「なら、言う必要ないだろう」

 呆れながらも、にやりとした笑顔で告げる。
 妖忌はそんな彼の前を黙って通り抜けようとする。

「おいおい、せっかちだな……。それにどうせ爺さんのことだから、誰にも別れの挨拶してないんだろう? 本当にいいのか?」
「……ああ」

 足を止め、厳めしい表情を変えずにつぶやく。

「妖夢ちゃんはきっと寂しがるぜ。幽々子さんだって、仕方がないとは思っていても悲しむだろうよ」
「……教えられることは、教えておいた。後はあの子次第だ……。幽々子様には本当に申し訳ないと思っている。だが、それでも……」

 妖忌の言葉に対し、青年はもう一度肩をすくめた。

「わかったよ。あんたがいいんなら、それでいい。じゃ、行くんなら途中まで送ってくぜ」
「……好きにしろ」

 再び、歩き始める妖忌。
 その横を同じ速さで○○が歩いていく。

 無言のまま、二人はその歩を進める。
 やがて、門から少し歩いたところで○○が口を開く。 

「そういや、いつだったかな。俺があんたの大事にしてた皿をうっかり割ったのは」
「ちょうど半年前だ」
「そうそう、あのときは本当に生きた心地がしなかったぜ」
「そうか」

 両者の間で交わされるのは、それこそ他愛のない話。
 花見で青年が酔いつぶれたこととか、幼い妖夢の話とか。
 青年がそういった話題をふり、爺がそれに答える。
 親子以上に年の離れた二人。
 けれど、二人ともどこか楽しそうであった。

 ふと、青年が足を止める。

「じゃ、ここらでお別れだ。あんまり未練がましいのもあれだしな」
「ああ」

 二人の視線が交錯する。
 妖忌は、大きく息を吐き、言葉を紡ぐ。

「お前には本当に世話になった」
「おいおい、それを言うのはこっちだっての」

 老人は穏やかな笑みを浮かべながら続けた。

「いや、事実だ。それに、お前は軽薄でいいかげんでお調子者ではあったが、嫌いではなかった」
「そうかい。俺も頑固で怒りっぽくて頭の固いあんたのことが嫌いじゃなかったぜ」

 老人の笑みに合わせ、青年もまた嬉しそうな笑みを浮かべる。

「では、達者でな。幽々子様にも宜しくと伝えておいてくれ」
「はいはい。あんたもそう簡単にくたばるんじゃねぇぞ」

 青年の答えに、不敵に笑いながら、妖忌は振り返り、歩き始める。
 その姿が見えなくなるまで、青年は彼の背中を見つめ続けた。
 そして、彼の姿が完全に見えなくなったところで、青年を口を開く。

「やっぱ、不器用だよ。あんたも俺も」

 呆れたようにつぶやく。
 ただ、その頬には一筋の涙があった。

 青年は涙を拭い、元来た道を戻って行った。


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最終更新:2010年05月06日 02:16