玄爺1



8スレ目 >>520-522


  私の名は○○。かつて人里で商いをしておりました。
  玄爺と出合ったのはその頃…そう、かの有名な悪魔の館。紅魔館へ納品に行くときでした。
  私は、妖怪に襲われてしまったのです。
  もちろん、女手1つで商いをするのですからスペルカードを1枚懐に忍ばせてはいたのですが…そのような物は役に立ちませんでした。
  あっさりと負けてしまったのです。空も飛べず、実戦経験もなかったので当然の結果でしょう。
  妖怪の要求は貨物の強奪。紅魔館が買い求めるものなら面白いものがあるかも、というのが先方の主張でした。
  スペルカード・ルールで負けたのですから、私は荷物を差し出さなければなりません。
  しかし、荷物を紅魔館に届けられなかったら…私はどうなるのでしょう?あっさりと死ねればまだ幸せかもしれません…
  あぁ、でもスペルカード・ルールを破れば…目の前の妖怪が私を縊り殺し、食らった挙句荷物を持ち去ることの枷がなくなります。

  どちらにしても、約束された死。絶望と諦観が私の心を縛り、動くことも出来なくなった時に遥か上空から声がしました。

  そこに現われたのは、可愛らしさとあどけなさを残した紅白の巫女。
  その横に…玄爺がいました。

  その場で巫女は妖怪と決闘、玄爺は私を乗せて流れ弾の危険が少ないところまで連れ出してくださったのです。
  遠くで、巫女と妖怪の決闘が行なわれ…素人目にもその実力の差がはっきりと分かりました。
  玄爺も、あの程度の妖怪なら弾を撃たずとも巫女が勝つと、安心するように慰めてくださいました。

  ――私は助かった。
  そう実感すると、さきほどまで凍りつかせていた恐怖心が蘇りました。
  ガクガクと笑う膝、ガチガチと鳴り止まぬ奥歯、たまらず私は玄爺にもたれかかりました。
  狼狽する玄爺の声。私はただ、その雁首にしがみ付いている事しか出来ませんでした。

  「・・・ちょっと玄爺、なにやってるの?」
  「それが…ご主人様。ワシの方が聞きたいぐらいでして。」

  それが、私と玄爺の出会い。

  その後博麗の巫女は、知り合いに用事があるとかでそのまま飛んでいかれました。
  私のお守を任されたのが玄爺。紅魔館まで私を紳士的にエスコートしてくださいました。
  道中、玄爺は私の身の上話や人里の様子などをよく聞いてくださいました。
  そして、確かな経験と知識に裏打ちされた返事やアドバイスをして下さいました。

  玄爺との会話は楽しく、あっという間に紅魔館までついてしまいました。
  紅魔館で門番――確か幻想郷縁起では紅美鈴と書かれていたか――に案内され、所定の場所に荷物を置き捺印をもらいます。
  話している分には、ちょっとのんびりした人間なのですが…(こんな美人が、里の腕自慢達をものの数秒で叩きのめしたとは信じられない)

  さて、紅魔館から人里…また1人で帰らなければなりません。
  いつもどおり、1人寂しくか…そう思うと、来た時と比べると道のりが遠く感じていました。
  そう思い、暗い顔をしていると門番が「あぁ、お連れ様がお待ちですよ」と声をかけてきました。
  ――連れ…?
  門を見ると、そこには玄爺がいました。

  「ご主人様には「紅魔館まで」といわれたんじゃがの、人里まで乗せて送らんと心配で昼寝もできんわい。」

  その時、玄爺がニカッと笑ったような気がいたしました…

  人里に戻ってから、私は上白沢様や稗田様を頼り玄爺について調べました。
  博麗神社の池に暮らしている事がわかると、玄爺と巫女への礼を言うためにそこへ向かいました。
  ついて驚いたのは、神社は妖怪だらけ。オマケに鬼までウロウロしています。
  困った時の神頼みと、賽銭をいくばくか入れると巫女が私を歓迎してくれました。
  (緑の髪をした、チェック柄の女性…恐らく妖怪…は「私が来ても歓迎しないくせに。差別じゃない?」などと言っていた。)
  そして玄爺にもお礼を言いたいと伝えると、境内裏の池へと案内してくださいました。

  そこに、ぽつりと玄爺がいました。

  妖怪で騒がしいこの神社で、たった一人。静かにしていました。
  私は、遠目で見て玄爺が寂しそうに見えたのです。

  私はそのような感想は胸の内に秘め、玄爺と再会の挨拶を交わしました。
  そして暫らく世間話をし、他愛のないお喋りを繰り返しました。

  玄爺は、かつて巫女の教育係というかお目付け役をしていたそうです。
  今はそのような役目も終わり、悠々自適の隠遁生活だと笑っていました。
  ――私には、それが泣き顔に見えました。

  私は、再会の約束をして人里に帰りました。
  そして、何度も何度も博麗神社に訪れました。
  玄爺が寂しそうだから、という理由をつけてはいましたが、本当は私が寂しかったのでしょう。
  何度も通う内にお互い気を置けない仲となり、何でも話し合うようになりました。

  私は心優しい玄爺に、惹き付けられていきました。玄爺に男性を見るようになっていったのです。
  ですが、種族が…違います。それはあまりに大きな壁。

  思い悩み、私は上白沢様に相談しました。
  上白沢様は「妖怪でもまだ人に近いものもいる。人間とのハーフもいる。だから、否定はしない。
  だが、忘れてはならぬ。そのような結びつきは、ほとんど悲劇の結末が約束されていると歴史が語っている」
  そう、仰いました。
  納得はいかぬ、でも理解は出来る。
  結局私は、その日を境に博麗神社に通うことを止めました。


  ぽっかりと胸に空洞があいたような感覚。
  哀しさを埋めるため、仕事に日々明け暮れました。
  命知らずの仕事も請けるようになりました。
  永遠亭への一般消耗品の運搬、薬剤の買い付け
  香霖堂との商談 中有の道の罪人相手の商売
  大蝦蟇の池からの神水の回収…

  身を削るような日々を過ごしていると、家に月の杖を持った女性が尋ねてきました。
  よく見ると足がありません。亡霊か悪霊の類かもしれません。
  「あたいは気が短いからよぉ~く聞け。
  何で来なくなったか玄爺に話しに行くか、この場であたいにブチ殺されるか選びな。
  アンタにゃ悪いけどスペルカード・ルールは好みじゃなくってね、殺る時は殺るよ」
  えっと…そうだ。この人は神社の祟り神だったけか。
  「あの、急に言われてもわt――」

  (ドスン)

  「気が短いんだ、と聞こえなかった?」
  月の杖が、私の首を落とす寸前で止められていた。いや、壁に刺さらなければ確実に落ちていた。
  「玄爺はな――ずっと寂しかったんだ。アンタと会ったあの日、数年ぶりの外出だったんだぞ」

  私は、はっと息を呑んだ。

  「仲良くするのは悪いことじゃない。気に入らなきゃ解れる。喧嘩する。それも悪いことじゃない。
  だけど、急に来なくなったアンタを心配する玄爺の事を考えた事があるか?・・・・・・その顔じゃないな。
  いいか、玄爺はあの場からあまり動けない。アンタが心配だって動けないんだよ。
  アンタがどう答えを出すかなんて興味はないから、玄爺に対してけじめをつけな。」

  祟り神は杖を引き抜くと、夜空へと消えていきました。
  私を振り返る事もありませんでした。

  夜中、妖怪がもっとも活動する…人間は寝ているべき時間にもかかわらず私は駆け出しました。
  結局、私はただ逃げ回っていただけ。玄爺のことを思う気持ちからも逃げようとしていただけ。
  だけど、これは言える…私、○○は玄爺を愛している。
  受け入れられるかどうかなんて、言わなければわからない。
  石段を飛ぶように駆け抜け、草むしりがサボられた境内を抜け、闇の深い境内裏へと飛び込んだ。
  ばしゃりと、水音がした。
  息が切れる、心臓はこれ以上ないほど高鳴っている。
  月光に照らされる玄爺の影。
  全身から噴出す汗が、涙と混じり頬を伝う。
  いつものように、以前のようにしわがれた玄爺の声
  震える脚を、震える手を、揺れる視界を、玄爺へと向かわせる
  がさりと、草を掻き分ける玄爺。月光に照らされた顔は、雫に濡れていた。

  「私、○○は――あなたのことを、愛しています」

  ――だから、ごめんなさい。とそこまでは一息で言い切れなかった

  「その…ワシも…お主の事は特別じゃと思っておる。じゃから…」

  その後の言葉は要らなかった。百の言葉より一つの接吻が、お互いの心を通じ合わせるとわかっていたからだ。

  ――なお、このような面白おかしい状況を『夜が主体の』妖怪たちが見逃すはずもなく…弾幕花火や何やらでカップルの門出を祝福し、寝ていた霊夢に全員纏めてフルボッコにされた事は言うまでもない――


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8スレ目 >>534



「のぅ、○○や。本当にワシでよかったのかの?」
私は甲羅をブラシで磨く手を止め、「どうして」と聞きなおしました。
「○○なら、人里の男性の目に止まるじゃろう?こんなジジイの…」
私はくすり、と笑って玄爺の首に腕を回しました。
「それなら、霧雨の娘さんも博麗さんもずっと私より魅力的よ。それに――」
私は、玄爺にゆっくりと接吻をしました。
「――私は、やわらかいお髭の方が好きなの。」

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最終更新:2010年05月06日 02:22