西行妖1



3スレ目 >>854(うpろだ0007)


 満開の花が咲いていた、
  何処かの屋敷の広い庭。

 それが夢とは知りつつも、
  思わず見とれた立派な桜。

 桜の木の下、影ひとつ。

 同じく見上げる、影ひとつ。

 空色の衣身に纏い、
  優雅で幽雅なお嬢様。

 長剣短剣腰に下げ、
  後ろで控える幼い従者。

 ただただ静かなひとときで。

 ただただ静かに夢は覚めた。



 目覚めればそこは桜の木の下。

 生き物はみな近付かない、春でも咲かない大きな桜。

 何時でも誰もいないから、桜は彼が独り占め。

 何時も暖かいその桜、昼寝時にはもってこい。


 見上げた枝には葉すらなく、何処か寒くて淋しそう。


『……何時か、この桜も咲くのだろうか』

 ――あの、夢の中で見た見事な桜のように。

 呟き彼は眠りに落ちて、まだ見ぬ未来の夢を見る。

『だったら……見てみたいな』


 うつらうつらと眠りかけ、
  木漏れ日の中で夢の旅。

 夢と現実の境界を、ふわふわさまよい夢うつつ。

 預けた背中は暖かく、
  日だまりのような温もりは、
     夢の世界への直行便。



 守り寄り添う大きな桜。

 若く名も無き妖怪桜。

 いつも淋しい妖怪桜。

 桜の友達、彼ひとり。

 彼の呟き聞いていて、見せてあげようその姿。

 根から力を吸い上げて、枝へと送って花開く。

 やってみたのはいいものの、咲いた花は極僅か。

 まだ見せられない花一輪、もっといっぱい咲かせよう。


 桜は花を咲かせてく。

 いつも一緒の彼のため。

 淋しい桜の友達に、見事な花を見せるため。


 いつしか花は咲き誇り、桜も満足、満開に。

 それでも彼は眠ったままで、花を見てはもらえない。

 桜はずっと待っていた。

 起きない彼が見てくれるのを。

 起きない彼が目を覚ますのを。

 冷たい冷たいその背中。

 暖めながら待っていた。



 遥か昔の幻想郷。

 それは妖怪桜の物語。

 命の花を咲かせた時の、
    無知で一途な物語。



 春を集めた白玉楼。

 桜は立派に咲き乱れ、何処もかしこも花見頃。

 騒霊亡霊寄りに寄り、呑めや歌えやどんちゃん騒ぎ。


 幼い庭師は駆け巡る。

 料理の手配にお酌に案内、休む暇もありゃしない。

 だから見逃す霊一人。

 いつもは危ない妖怪桜、頼まれたって近付けない。

『別にいいわ』と主は言うが、
  門番も兼ねるこの妖夢。そんな軽くは通さない。

 だけどこの日は見逃した。

 くるくるくるくる目が回る。

 それほど大変忙しい。


「くるくるくる~っと。
 あ、妖夢。お酒まだ?」

「い、今暫くお待ち下さい~」



 いつもは咲かない妖怪桜。

 大きく立派な妖怪桜。

 封印されて、移されて、ついた名前は西行妖

 今年は立派に花をつけ、どの桜よりも美しい。

 小さな庭師やお嬢様、亡霊達や桜達、
  淋しくなんてないけれど、この花見せたいあの人に。

 どれほど昔か解らずに、
  どんな人かも解らずに、
   ただただ見せたいその人に。

 覚えているのはその背中。

 とても優しいその背中。


 例え記憶が薄れても、諦めきれない妖怪桜。


『……やはり、見事なものだな』


 呟く声は根本から。

 立派な花を見上げてる、一人の亡霊立っていた。


 例え記憶は薄れても、決して忘れぬその想い。

 見たいと言ったあの人に、綺麗な花を見せたくて。

 何時も一緒にいてくれた、その恩返しになるのなら。


『――綺麗だぞ、西行妖』


 そうして彼は背中を預け、昔のように夢を見る。

 立派な花咲く妖怪桜、その背を守って昔を想う。


 桜の木の下、想いが眠る。

 大事な大事な想いが眠る。

 桜はそれを吸い上げて、咲かせる花は想いの花。

 ――桜がこんなに美しいのは、その想いが美しいから。



 ここは冥界、白玉楼。

 それは妖怪桜の物語。

 想いの花を咲かせた時の、
     一途な願いの物語。



 あとがき

 確固としたキャラクター性もなく、何かと悪く書かれる西行妖ですが、
 今回はそんな西行妖に挑戦してみました。
 妖々夢設定を自己解釈したフシはありますが、お読み頂きありがとうございます。
 甘さ控めどころか、甘さのかけらもない気もしますが、
 読み終わった後で少しでも心が暖まって頂けたら幸いです。
 最近のスレの流れからして、こちらに投下するのはスレ違いな気もしましたが……セーフですよね?

 ただ花を咲かせたかったのに、大事な人を殺めてしまう西行妖。
 それは自らの力を知らなかった無知ゆえの結果、みたいな感じで。
 自分の中での西行妖は『力は強いがまだまだ子供』みたいなイメージがありますね。
 乱文失礼致しました。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年05月06日 02:30