ハーレム?3



6スレ目>>829


 眠い。ひたすらに眠い。
 朝が来た事は重々分かっている。理解している。合点承知の輔している。だが、この肌
寒い中、布団という蟲惑的かつ包容力豊かな防御壁から抜け出せと言われて、至極簡単に
外へ旅立てる存在はどこのどなた様だと、小一時間程問い詰めたい。
 加えて、ここは周囲より高い位置にある神社。部屋から部屋に旅する風共の冷たさは、
とにかく耐え難い。寒風摩擦なんて考えるとそれだけで吐き気がしてしまう。
 自分が悪いのは分かっている。『妹紅と輝夜のインペリシャブルナイト ~特番! 正直
者の十番勝負~』二時間SPを全部聞いたら夜が明けてしまう時間になる。
 わかっててもやってしまう事って誰も一つや二つはある。絶対ある。足の親指の爪を切
り取って、何故か嗅いじゃって悶絶したりとか。
 ま、まずい……睡眠時間が三時間ぐらいだ。作業中に寝たら、お頭に大目玉を食う。
 どうにかしてこのまま眠り続ける方法はないだろうか。
 障子の開く音がする。甲斐甲斐しく自分を起こしにきてくれるその心には非常に感謝を
しているが、今日ばかりは見逃して欲しい。
「あさー、朝だよー。朝ごはん食べて、お仕事だよー」
 軽快な足音が近づく。寝ている俺の隣まで来て……頬をつつかれる。
「おにーちゃん、早く起きないとごはんなくなるよー」
 目を開き、視界が濁る。若干波打った萃香の笑顔が全面に映し出されている。
「うぅ……ねむーぃさむーぃ合掌ひねりーぃ」
 最後の一言は自分でも良く分からない。睡魔と戦っていると変なものを思いつく。
「むぅ。じゃあ、暖かくなればいいの?」
「おーぅ、なったら起きるぜぇ……」
 考えも無しに言ってしまったが、結果的に暖かくなる。萃香が布団の中に入ってきてべ
ったりと蛸の吸盤になってくれた。
「あははっ、おにーちゃん冷たい」
「ほぁぁぁぁ~っ、湯たんぽ萃香は極上品じゃぁ~」
 このまま寝れたらどれだけ幸せか。この柔らかでいて弾みのある肌の感触。幸せ通り過
ぎて昇天まである。
「ねぇ、萃香、お兄ちゃん起こした? ……って何してんのよ!」
 地を踏み荒らす振動と共に、布団が吹っ飛んだ──正直スマンカッタ。
 恐る恐る見上げると、青筋立てて顔をヒクつかせている仁王立ち霊夢。
「あー、いや。これはだな。俺って抱き枕ないと安眠が得られなくて」
「言い訳はそれだけ?」
「う……ごめんなさい。すぐ起きます」
 無駄に言葉を連ねれば連ねるほど墓穴。人間素直が一番だ。
 萃香から離れ、部屋を出ようとする。だが、霊夢に袖を掴まれて止められた。
「まだ、怒ってる?」
「怒ってません」
 口で言ってても霊夢の表情は正直だった。人を射殺す目をしている。
「まだ、朝の挨拶してないよ」
「あー……悪い。そうだな」
 のっけから普段と違った起き方をしたので忘れていたが、毎日の定例がある。恥ずかし
い事この上ないが、霊夢も萃香も喜んでるし俺も気にしてはいけない。
 仕事場の同僚に知られたら……確殺されてしまう。
 袖を掴む霊夢の腕を取って引き寄せ、できるだけ小さな力で包む。尖りきっていた顔は
瞬時に溶け、惚けた瞳を向けてくる。
「おはよう、霊夢」
「おはようございます」
 背伸びをしてきた霊夢に応え、軽く唇を交わす。横文字で言うとフレンチキスだかモー
ニングキスとかいう習わしなんだとか。教えてくれた寺子屋の先生はその時だけ顔を真っ
赤にして説明していた。
 顔が離れ、霊夢は頬に紅を塗ってはにかんだ。
「私もおにーちゃんと挨拶ぅー」
「はいはい、おはよう。萃香」
「おはよー!」
 豪快に飛び込まれて俺を軸に四回転決めた後、萃香に口を押し付けられた。音で表現す
るなら『むっちゅぅぅぅ』ぐらい聞こえそう。
「萃香っ、長い! 私より三秒ぐらい長い!」
「え~、いいじゃん。おはようには変わりないよ~?」
「全っ然違うから! なんで萃香ばっかり、お兄ちゃんも何か言って!」
 頼むから俺に振らないで下さい。ずるい狐と同じ顛末になりかねない。

 後から聞いた話だが、二人とも俺が夜更かししていたのを知っていたらしい。それなら
注意しに部屋にきそうなものだったが、どっちが行くかで揉めてしまい結局疲れて寝てし
まったとか……何をしているんだ、この子達は。

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 なんとか、作業中に寝ぼける事はせずに済んだ。霊夢が淹れてくれたコーヒーがかなり
効き目あった。竹筒に入れてまで携帯した甲斐あって、色々と助かった。
 今日で作業は一括りついているので、数日は部屋でだらけるか、近場の民家で畑仕事を
手伝うかぐらいだろう。
 ここ数ヶ月は作業詰めだったし、せっかくだから可愛い妹達の為に時間を割くのは大い
に有りじゃないかと思う。
 血は繋がってないが。
「ただいまー」
 縁側から入り、部屋の中へ入るが誰もいない。二人とも出かけているのか、卓袱台に料
理が置かれているわけでもなく、茶を飲んだ跡があるだけだ。
 腰を落として休もうとしたが、すぐに霊夢が部屋に戻ってきた。近場の農家で貰っただ
ろう野菜を抱えている。
「おかえり、霊夢」
「あ、お兄ちゃん。帰ってきてたんだ」
「たぶん、すれ違いっぽいけどな」
 苦笑する俺を見て、霊夢は野菜を投げ捨てんばかりに卓袱台へ転がし、胸元に張り付い
てきた。誰が見てもわかる、活きた笑顔。
「まーったく、甘えん坊だなぁ」
「いっつも萃香ばかり贔屓してるんだから、たまには独り占めしてもいいじゃない」
「贔屓しちゃいないって。まぁ、萃香の押しが強いってのはあるか?」
「じゃあ、私も押しを強くしたらいいのね?」
 言うが早いか、全体重を乗せられて後ろへ倒された。尻餅をついて倒れたので頭を打つ
には至らなかったが、俺を下敷きにして霊夢が覆いかぶさる形になった。
「こ、腰がっ」
「オヤジ臭い」
 押し倒された挙句に酷い投げかけ。涙の一つでも流して困らせてやりたいぐらいに。
「萃香が帰ってくるまで、こうしてていい?」
「……いいよ。たーだーし、俺に甘えても金も食い物も出てこないからな」
「期待してません」
 これは酷い。盥が上から落ちてきて爽快な音を共に頭を強打された気分。
 ため息ひとつ、俺の胸元にある霊夢の頭を撫でる。嬉しそうな笑い声が小さく漏れる。
だが、こちらが身じろぎしようものなら、密着しているふたつの突起物と擦れ合って、脳
内革命起こしてしまうので断じて動いては……
 そこで思考を止めた。そして切り替える。なんで既に感触があるのか、と。
「霊夢、お前まさかサラシしてないんじゃ──」
「してないよ」
 電撃が走った。脳内が緊急事態の警鐘を鳴らしている。
 霊夢は俺から少し離れて、四つん這いになると、俺の手を取って……何の躊躇もなく自
分の胸に押し当てた。
「ほら」
 電撃が走った。大火災だ。
 ほら、とか簡単にやってしまう霊夢に末恐ろしさを感じる反面、煮え滾る何か。
「な、なんで今日に限って……?」
 できるだけ平静に。ここで何かをしてしまえば、雪崩が起きる。男の悲しい性たるや、
なんと如何わしいものか。ここを耐えずに、どう男でいられようか!
「触ってもらうと大きくなるって。サラシしてたら意味ないと思うし、前に胸が大きい方
がいいって言ってなかった?」
「あ、いや、まぁ……言ったような、そうでもないような」
 思い出せない。確かに、この前の新聞で『美人死神女性特集』やってた時、小野塚って
子の胸がやたらでかいと同僚達で盛り上がっていたが……霊夢に話した覚えはない。
「でしょ? サラシの上からじゃ意味ないと思うし」
「萃香とやればいいんじゃないか」
「話しちゃったら、萃香まで大きくしようとするじゃない」
 それはそうだ。いつもこの二人は妙な所で張り合ってるから、こういった考えが出てき
ても納得してしまう。
 なんといういじらしさ。頭に血が上りすぎて鼻から噴出しかねない。
「それにね、お兄ちゃん」
 離れていた身体がまた密着し、自分と霊夢の目線が一致する。鼻の頭がくっつき、互い
の息の温度が相手に伝わる。
「お兄ちゃんに……して欲しいの」
 言い切って、真っ赤な顔で視線をそらした。
 会心の一撃。燎原の火は世界を包み込んだ。自分の中の全てが赤い。
 ──ここを耐えずに、どう男でいられようか!── 終了。
 ──据え膳食わぬは男の恥── 新装開店。
「霊夢! 部屋……行こうか」
「う、うん」
 言葉が急に畏まったが、俺に抱き上げられても、嫌な顔一つしていない。むしろ、これ
からに対する期待の笑みがこぼれている。
 雪崩が起きても構わない。理由はない。
 自分が何を想像し、幻視しているのか全くわからない。霊夢を連れて部屋に戻れば後は
野となれ山となれ。向かう所は一直線。
「今夜はお楽しみでしたね……? って私に言わせたい?」
 氷河期がきた。

ξ_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/∀・)_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。を萃香に地でやられて数時間後、意識が戻った。布団に寝
かされていて、一撃の重みがまだ残っているのか、全身が軋む。
 霊夢に買い物を頼まれて戻ってみれば霊夢が抜け駆けしていた。俺達の一部始終を見ら
れていたらしい。萃香の力なら俺や霊夢の完全監視なんて朝飯前なのだろうけど、してい
なかったという事は、それだけ信頼があった証拠だ。
 悪かったとは思うが、本気で殴られるとは。まだ頬が痛い。
 もう深夜になる頃か。できれば、萃香に謝っておきたい。誤解も含まれるが自分が暴走
したのも原因の一つ。
 とはいえ、どう説明したものか。
「はぁ……莫迦か、俺は」
「おにーちゃん。起きてる?」
「萃香?」
 部屋に明かりはない。真っ暗で何も見えないが、萃香がこちらに来る音だけわかる。
 何も言わず布団に潜り込み、顔の隣に萃香の顔が並んだ。うっすらとでしかわからない
状態だが、特に怒っている様子もなく、普段と変わらない笑顔だ。
 朝と同じく、蛸の吸盤になる萃香。「いつものー」とねだる姿に気分が和らぎ、謝罪の
意も込めて両腕で強めに抱いてやると、素直に喜んでくれた。
「さっきはごめんね。痛かった?」
 頬を撫でられ、痺れを感じる。だが、声を上げる程ではない。
「大丈夫。こっちこそゴメンな。まぁ、あれはちょっと……」
「ううん、あれは霊夢が抜け駆けしようとしただけだから。もしあの状況で霊夢の誘いを
簡単に断れたら、おにーちゃん病気だよ」
 何の病気だ。
「だから、おにーちゃんは何も悪くないよ?」
「そういってくれるのはありがたいけど。ならなんで殴られたんだ?」
 素朴な疑問。まぁ、一時的な感情がどうのと言われれば納得せざる終えない。ついカッ
となってやった、今は反省している。みたいな心境は良くある話だ。
 そういう返答なのかと萃香を見たが、表情はとてもバツが悪そうに見える。
「それは、その……私と霊夢で色々と"オハナシ"したいなぁって。おにーちゃんに聞かれ
たくなかったし、ごめんね? いたいのいたいのとんでけぇ~」
 頬を撫でられ、布団の中で小さくバンザイをしてみせる萃香。すごくはぐらかされた気
分だが、オハナシの内容は恐くて聞けそうに無い。少々霊夢が心配になった。
 気にはなるが、二人の仲はかなり良いし朝方霊夢を見たら灰になってました、なんて展
開は絶対ないから大丈夫。喧嘩したとしても、ちょっとした弾幕ごっこだ。
「でね、でね。私もおにーちゃんにお願いしにきたの」
「胸触れとか、そーゆーのは駄目だ」
「むぅ、やっぱりだめかぁ。でもいいや」
 お願いしようとしてたのか。
「他にね、お願い──うぅん、ちょっとおにーちゃんにしてほしいことがあるんだー」
「まぁ、できることならいいけどさ」
 何かを一緒にしたいと言いたげな笑顔。一緒に寝るとかなら既に萃香は布団の中だし、
その程度のことなら俺に言うまでもなく勝手に実行してくる。
「で、俺は何をすれば?」
「うん。おもいっきりベェーってして。舌を、べ~って」
「は……舌? んぁ、ふぉうは?」
 大きく口を開け、伸ばせるだけ舌を萃香に向けて出す。何をする気だろうか。まさか、
やっぱり霊夢との一件を怒っていて、舌を切られるとかじゃ……
「おにーちゃん。そのまま、だからね」
「お……っ!?」
 両腕を首に回されて引き寄せられた途端、突き出した舌が萃香に食いつかれた。突然の
事に引っ込めようとしたが、歯を立てられていて鈍痛が走る。一寸先で俺を睨む萃香の目
は、『そのままでいろ』と訴えかけている。
 諦めて従うと、突き立てられた杭は抜かれ、唇に挟まれては撫でられる。舌は萃香が持
つ同じ肉に這い回られ、内部を駆けずり、時折耳に届く粘着質の音が腕を痙攣させる。本
来味覚を司る部品はさながら、萃香を愉しませるアイスキャンデー。このまま舐め尽くさ
れて融けきってしまうのではと不安さえ混じる。
 今まで生きてきた知識の中で理解も判断も不可能な、形容しきれない感覚と時間。仕舞
いに、蕎麦を啜る流音と共に、混濁した液体が全て萃香へと移動していく。
 強烈な眩暈を呼び起こす"して欲しいこと"が終わったらしい。今でも意識がはっきりせ
ずに映像がゆらゆらと揺れている。
「どうだった? おにーちゃん」
「う……ぇ、っは、はは……」
 頭痛が酷くて、状況がよくわからない。夜なのに、何故か視界は白い。
「おにーちゃんの味がした。すっごく美味しかったよっ」
 脳が金槌で殴られた。周りが白い……限りなく、白い。
 萃香の口がまだ動いていたが聞き取れず。世界は真っ白になった。

 自分の意識が吹き飛び、無意識の間にもう一人の自分が現れてやらかしちゃった挙句に
『責任……取ってね、おにーちゃん』と慎ましやかにお腹擦られるとか、最終奥義を突き
つけられる展開を恐れたが、どうにか回避できていた。真っ白になった後、死んだように
寝ていただけらしい。
 なんで萃香が、あんな超絶技術……失礼。変な事をしてきたのか。答えは意外でも予想
外でもなく、腹立たしいが納得してしまうもので、単刀直入に言えば『男に一発で首輪を
掛けて飼う方法』というとんでもない内容の教えを受けたのだ。
 萃香や霊夢の知り合いに、人をからかって遊ぶのが大好きだと外見でも性格でも見て取
れる女がいて、情報源はそこ。わかってしまえば、なんと簡単な情報源だろう。
 最近は友人の家に入り浸っているようで、外来式の服で着飾って彼女の流行である"最近
の若い娘は"ごっこで遊んでいるらしい。近々友人の家に行って、変な入れ知恵をしないで
くれと伝えておこう。声を大にして伝えておこう。あの二人については勝手に大人の階段
のーぼるーしてて下さいと放置するが、こちらはそうもいかない、絶対にだ。

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「──さて」
 本日すべき作業が終了し、片付けに入る。同僚達から居酒屋に女手品師が来るとかで見
に行かないかと誘いがあったが、丁重に断った。興味はあったが、俺には余所見をしてい
る余裕はあまり無い。
 同僚達も結局『妹さん達の面倒を見るのも大変だなー』と苦笑交じりに理解してくれて
はいるが……面倒の一括りで終わる話じゃないと内心突っ込みたい気分で一杯だ。
 人里から離れ、神社へ続く道を歩く。人の手が施されていないので、普遍的な道とは呼
べないが。
「お兄ちゃーん!!」
 お迎えが来たようで、遠く先で霊夢が大きく手を振っている。萃香も一緒だ。二人のも
とへ到着し、間に挟まれ一列に並び、歩幅をそろえる。
「昼間でお仕事終了なんて、みんなのんびりだねー」
 軽快に笑う萃香に「そんなもんだよ、俺の仕事場は」と相槌を打つ。俺が神社にいない
間の行動は萃香が見ているので、帰り時や職場の話なんかはほぼ全て筒抜けている。安易
に霊夢に担ぐような言葉を口にしようなら、帰った途端に那由多の星になる。
「居酒屋に来る手品師が見たくて、同僚もお頭も鼻息荒くして行っちまったよ」
「それって咲夜のことでしょ? 新しい金稼ぎでもしてるのかな」
 霊夢が顎に指を添えて考えに耽る。あの館を見る限り、住人達はさぞ裕福に暮らしてる
のだろうと思っているが、中身は案外質素だったりするのかもしれない。
「まぁ、金はともかく。ほら、咲夜さんて若くて綺麗だしさ。お頭もいい年して鼻の下伸
ばしてるからなぁ~。手品見たいってよりは、下心の集合体じゃないか?」
 笑い飛ばして──困惑した。霊夢の足が止まり、こちらを睨んでいる。なんでそんなに
怖い顔をしているのか、俺は萃香と顔を見合わせたが、二人揃って首をかしげた。同僚や
お頭を笑ったらいけません、みたいな老人じみた説教だろうか。
「お兄ちゃんて、咲夜みたいな女の人が好きなわけ?」
「は……? 綺麗だとは思うけど。だからって好きとは言ってない」
 確かに綺麗だし、性格もよさそうだし、しっかりした人に見える。が、好意については
全くの別物。
 霊夢と萃香の二人は、自分にとって特別だからな。
「ほんとう、に?」
 まだ疑われているらしい。
「本当だって」
 真実を口にしたが、まだしかめっ面だ。
「うわぁー、霊夢妬いてるんだー」
 萃香に図星を突かれたようで、肩を震わせながら「違う! 妬いてなんかない!」と怒
鳴って俺達を通り越して先を歩き出した。
 どうしたものか、と肩を竦めると萃香がケラケラと笑う。
「複雑なお年頃ってやつか?」
「おにーちゃんて甲斐性なしだもん」
 冗談ぽく言われたが、非常に痛いお言葉。冗談じゃないなら立ち直れない。
「俺ってそんな風に見られてたのか……ぁー、涙が出てきそう」
 目から滝が流せるなら、今まさに流したい。しかし、このまま干渉に浸って霊夢を放置
するのも問題だ。頑固な娘だから、時間が経つと状況が悪化しかねない。
「行ってあげれば? おにーちゃん」
「そうだな。仕方ないなぁ、まったく」
 早足で追いかけ、霊夢に追いつく。振り向かず、膨れっ面のままだ。「待てって」と呼
びかけても反応のはの字も返ってこない、これは重症だ。
 こうなれば強引だが……
「霊夢!」
 大声と、霊夢の身体を抱え上げる行動を瞬時にやってのける。お姫様なんちゃらって形
に収まった霊夢が呆然と俺を見つめている。
「変な話して悪かった」
 それが引き金になったのか、また視線が鋭くなり「降ろしてよ」と声色低く、投げやり
に言ってそっぽを向かれた。
「断る」
 こちらも投げやりに返し、神社に足を進める。その後何度か「降ろせ」と「断る」のい
たちごっこが続き、駄々をこねる子供のように胸元やら肩やら頭を乱打された。どれ痒い
程度で、やがて疲れたのか大人しくなった。
 やれやれ。と軽く嘆息し、霊夢を見る。敵意ある様子は崩れ去り、後悔とも困惑とも取
れる塞ぎ込んだ顔。
「なによ、お兄ちゃんの莫迦」
「己の信じる先を行く一本気莫迦ではあるな。あーあ、嫌われてしまったかね、俺」
 わざとらしく苦笑してみせると、霊夢は頭を大きく横に振った。
 霊夢と萃香の為なら、莫迦にもなれる。男ならそういう道を選んでもいいはずだ。自負
であって、それが正論かと問われれば否定するけど。
「……ごめんなさい。ちょっと──ほんとにほんのちょっぴり、綺麗って聞いて悔しかっ
たかな」
 ほんのちょっとじゃないだろと言おうとして、薮蛇なので言葉を引き戻す。また怒らせ
て陰陽玉で殴られたのでは洒落にならない。
 霊夢は口を尖らせて、俺の胸板でのの字を書いている。なんとなく、自分のやってしま
った失敗を理解するが、くすぐったくて思考がブレる。
「三年……いや、二年か?」
「にねん?」
 意図の掴めない俺の一言にきょとんとする霊夢。
「今だって霊夢は十二分に可愛くて綺麗だ。二年経ってみろ、咲夜さんなんて眼中になく
なるほどすっげぇ女になる! 俺が保証してやる」
 咲夜さん以上になるかはこの際誇大発言だが、綺麗になるのは間違いない。こういう時
は大げさに言ってみるのも一興だろう。
「……じゃあ、お兄ちゃんは二年後の私に大好きって言われたら、どうする?」
「そりゃーもう、即刻連れ去って悪い蟲がつく前に結納済ませちま……ぁ?」
 大げさに言ってみるのも一興。ただ、勢い余って脱線した気がする。しかし、時既に遅
し、霊夢の紅潮しながらも輝く瞳に気圧される。
「お兄ちゃん、男だから二言はないよね? 確約だからね?」
「え、ちょっ」
 反論は許されない。途中で霊夢の唇に塞がれた。あまりにも積極的な姿に自失しかねた
が、背後からくる尋常ではない凍える風が全身を強張らせた。
 脊髄反射で首が勝手に動き、霊夢の唇を剥がすが「ダメ、もっとするの」と官能的な色
を出されて拒否する力が奪い取られ、延長戦。
 唇から来る霊夢の暖かさと背中を冷やす無言の萃香に板ばさみにされ、死活問題だと血
が騒いでは混乱する。最凶の甲斐性無しと自負できそう。
「れ~い~む~? 今日という今日は、しっかり"オハナシ"しないとだねぇ?」
 耳に入らず脳に伝わる轟音が萃香を包んでいる。霊夢が未だに離れてくれないので表情
は伺えないが、きっと目がイってる。絶対、琴線に触れてる。
 名残惜しさもひとしおに俺との延長戦を終え、存分に堪能したと舌なめずり。
「えぇ、そうね。私もちょうど萃香と"オハナシ"したかったのよ」
 ゆっくりと俺から降り、大きく胸を張って萃香を見下す霊夢。
 なんという挑発的な目だろう。従属属性持ちがこれに射抜かれたら瞬殺される。
 冷静に状況を判断しているように見える俺でさえも、殺気に全面包囲されて今にも発狂
しそうな程、手足が冷たい。血の気がみるみる引いていくのを実感している。
 どうするの? どうすればいいの!? どうするのよ俺!!
 『霊夢と萃香次第』
 こんだけしかねーのかよ!!
「おにーちゃんを誑かして、そんな確約だなんて通じると思ってるのかなぁ?」
「当たり前じゃない。私なら二年後と言わず、今でもね。ねー、お兄ちゃん」
 俺に振らないで下さい。

 ──その後、数日間による修羅場、弾幕戦、よくわからない対決が続いたが……まぁ、
これは別の話だ。聞くも血の涙、語るも血の涙。察してくれ。
 現状? 三人一緒の布団で寝れる仲だぜ。言ったろ? 俺は一本気の莫迦なんだ──




終?


うpろだ292


幻想郷に来て俺は今まで様々な命の危機に出くわしている
妖怪に食われそうになったり、酒を大量に飲まされて急性アルコール中毒になりかけたりその他色々と
……よく生きてたな俺
まあ今では紅魔館で執事として働いている
毎日大変ではあるが充実してて楽しい……はずだったんだよな
ドゴーーーン!!!
「○○!なにをぼうっとしてるの!?死ぬわよ!」
「目の前の惨劇に少々現実逃避を」
チュドーン!!
「お姉さまの馬鹿ー!!」
「な!?馬鹿って言った方が馬鹿よ!!」
「バーカ、バーカ!お姉さまのバーカ!」
「また言ったわね!しかも三回も!」

俺の眼の前の惨劇を引き起こしてるのはこの館の主レミリア=スカーレット(通称お嬢様)と
その妹であるフランドール=スカーレット(通称妹様)が戦っているからである

「元を正せば貴方が原因よ何とかしなさい!」
「そりゃ俺に死ねってことですか?咲夜さん!?」
「原因が亡くなれば止めるかもしれないじゃない」
「字が!字が違う!ある意味では合ってるけど」

そもそもこの惨劇が起こったのは今日の茶会で珍しく妹様が出席し、姉妹同士の他愛無い話が原因だった

―回想開始―

「ねえねえお姉さま、お願いがあるんだけどいい?」
「お願い?いいけど外に出るのは駄目よ」
「外には出たいけどそれとは違うの
 そのお願い聞いてくれたらずっと館の中で暮らすよ」
「へぇ……どんな願いか言って見なさい」
「○○がほs「却下ーーー!!」なんでー?」
「○○はここ紅魔館の執事よ、つまり紅魔館の主である私のものだからよ」
「ぶー、お姉さまの横暴ー!」
「横暴だろうと何だろうと○○は私のものよ!」
「いいもん私の眷属にするから、そしたら私のものになるもん」
「私がさせると思う?」
「邪魔するならお姉さまでも殺すよ」
「はっフランが、私を?面白い、やれるものならやってみなさい」
「言われないでも!!」
ドゴーーン!!

―回想終了―

……やっぱ俺が元凶か?
この状況を何とかできるパチュリー様は二人の戦いが始まるやいなや
図書館に引っ込んでご丁寧に入って来れないように結界まで貼っている
畜生、覚えてろ紫もやし、ことが終わった後煮立ったお湯に入れた後塩コショウふって炒めてやる
それまで俺が生きていればの話だけど

「で、どうする気?あのままじゃ本当にどっちかが死んでしまうかもしれないわよ」
「それは……勘弁願いたいですね」
「そう思うなら何とかして止めなさい、この場を止められるのは私でもパチュリーさまでも白黒でも紅白でもない
 貴方だけなのよ」
「分かりました、死ぬ気で止めてきます」
「死んだらお嬢様たちが悲しむから死ぬのはやめときなさい」
「了解!!お嬢様!!妹様!やめてください!!」

そういうと俺は今尚続いている姉妹喧嘩に突っ込んでいった

「禁忌『レーヴァテイン』!!」
「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
カッ!!
「「「あ」」」
ピチューン!!


「……いったたたたた」
「○○おきたの!?!よかったわ、何があったか覚えてる?」
「確か俺はレーヴァテインとグングニルに挟まれて……」
そうだ、俺は確かにレーヴァテインとグングニルが当たったはずだ
単純な破壊力なら幻想郷屈指のスペルを二つ同時に
「何で生きてるんですか?俺
 痛みはありますけど五体は無事ですし、傷跡もないですよ」
「それに関してはその……」
咲夜さんにしては妙に歯切れが悪い、いったいなにをしたんだ俺の体に
「それについては私から説明するわ」
「あ、真っ先に逃げて引きこもったパチュリー様(紫もやし)じゃないですか」
「……なにか言葉に棘があるわね」
「気にしないで下さい、ささ、続きを」
「なにか釈然としないわね、まあいいわ、二人のスペルで貴方の体は右半身と下半身は吹っ飛んだの」
……よく生きてたな俺、すごいね人体って 
「まあそれでもかろうじて息が合ったみたいだからレミィと妹様の血で貴方を吸血鬼にしたのよ」
「はあ……吸血鬼にしたのはまあ納得いきますけどなんでお嬢様と妹様の血の両方を入れたんですか?」
「どっちが貴方を自分の眷族にするかで揉めてね、このまま放っておくと死にそうだったから
 妥協案として二人の血を混ぜて貴方に飲ませたの」
「飲ませたってどうやって」
パチュリー様の話が本当なら俺は血を飲む力もなかったはずだ
「ああ、それは咲夜が口移しで飲ませたのよ」
「パ、パパパパパチュリー様!?」
真っ赤になりながらどもる咲夜さん、マジ可愛い
「え、まじっすか?」
「まじよ、これもまた二人が揉めてね、埒が明かないから三番目の選択肢として咲夜に頼んだの」
「はぁ……スイマセンね咲夜さん、乙女のキスを俺なんかに」
「べ、別に構わないわよ、気にしないでむしろ……ウレシカッタカラ////」
「後半あまり聞こえなかったんですけど何か言いました?」
「べ、別に何も言ってないわよ」
「そうですか、そういえばお嬢様に妹様は?」
そういえば先ほどから二人の姿が見えない
俺が目覚めたのならすぐにでも飛んできそうだけど……自意識過剰かな?
「ああそのことなら咲夜が貴方にキスすることになってうるさかったからロイヤルフレアで黙らせた後
 地下の妹様の部屋に放りこんだわ」
ひでぇ、仮にも親友とその妹にする仕打ちじゃねーぞ
咲夜さんもその時のことを思い出して苦笑いになってるし
「まあそんなわけだから早いとこ二人の所に行きなさい
 二人が目を覚まして側に貴方がいないといろいろとうるさいことになりそうだし」
「そうですね、それじゃ行って来ます」
そう言い俺は地下の部屋に歩いていった
これから大変なことが起こるだろう
けどきっと大丈夫だ頼りになる人がここにはたくさんいる
一人では駄目でも皆ならきっと何とかなる
それに……俺は吸血鬼になったんだそうそう死ぬことはないだろう


後日あのまま死んでた方がよかった目に合ったがそれはまた別の話である


最終更新:2010年06月04日 22:22