ハーレム?8
うpろだ1105、1125
少し前に、○○という男が幻想郷に迷い込んだ。
○○は幻想郷に残ることを決め、外の世界でやっていた司書の経験を生かして紅魔館の図書館に住み込みで働くこととなった。
意外なことに、ただの人間であるはずの彼のもとを訪れる人妖は多かった。紅魔館の住人は勿論のこと、図書館を訪れる魔法使いや外の世界を知る隙間妖怪、新聞記者の鴉天狗に○○と同じく外の世界からやってきた山の上の巫女。
純粋に好意を抱いているのか、ただの興味本位なのかは本人達にしか分からない。しかし、これだけ多くの人妖のと交流を持つ人間は幻想郷でも数えるほどしかいないのは事実である。
○○が過労で倒れたそうだ。
これは千載一遇のチャンスだぜ。
本を借りるとかこつけて○○にイロイロとアピールをしてみたが、鈍感なのかまったく気づいてもらえなかった。
けど、今回は状況が違う。
必死に看病をすれば○○も私の魅力に気づいて
「魔理沙が本を盗むなんて、ウソだったんだな」
「そんなホラ話信じてたのか?」
「魔理沙は俺のハートを盗んでいった。返してほしい」
「……返してもいいけど、私もついてくるぜ?」
「喜んで受け止めるよ」
「○○……」
「魔理沙……」
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という展開になるはずだ。
そうと決まれば早速実行だぜ。
ちょっかいを出す連中がいるかもしれないし、念のために媚薬でも服用させておくか。
○○が過労で倒れてしまったみたい。
鈍感なせいか今までは色仕掛けも通じなかったけど、この状況は逆にチャンスとも言えるわ。
看病し続ければいずれ○○は私に依存して、私なしでは生きられなくなるはず。
「アリス、俺、司書やめるよ」
「どうして?」
「俺、アリスに恋してるんだ。アリスなしでは生きられない。アリスの操り人形なんだ」
「……○○、ずっと一緒よ? ずっと操ってあげる」
「アリス」
「○○」
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ふふ。ふふふ。
今までみたいな人形での予行演習はもう終わり。はやいとこ既成事実を作らないと。
邪魔されるといけないし、念のために媚薬でも服用させよう。
○○が過労で倒れてしまったようね。
○○は真面目すぎるところが欠点だわ。
まあ、これで傍にいられる時間が増えるのだけれど。
「パチュリー、俺、動かない大図書館
パチュリー・ノーレッジの専属司書になるよ」
「○○……」
「パチュリー……」
「こんなところで駄目よ。本が汚れちゃう……」
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鼻血で本が汚れるところだったわ。危ない危ない。
一番近くにいるのが私とはいえ、邪魔者がこないとは限らないから、念のために媚薬でも飲ませておこうかしら。
古来より、イモリの黒焼きは媚薬に使われる。
食事などにまぜて相手に食べさせれば、相手は必ず自分の虜になるという。
「「「出来たッ!!」」」
三人の魔女はイモリの黒焼きを用いて媚薬を作り上げた。
三者三様、それぞれが自身の経験と知識を限界まで活用し、オリジナルの媚薬として昇華させたのだ。
「「「あとはこれを○○に飲ませるだけ……!!」」」
我ながら不覚だ。
司書として働いてきた経験から体力には自信があったのに、過労で倒れるなんて。
あまり知られていなが、司書という仕事は結構体力を使う。百科事典や或いはそれ以上に分厚くて重たい本を何冊も持って移動したりすることがあるからだ。
ましてやこの図書館は異様に広く、ブックトラックがないうえに未製本のものや知らない言語で書かれたものもある。
空も飛べない、魔法も弾幕も使えない。そんな俺からすれば、この図書館での業務はまさに体力勝負だというのに。
でも、倒れたおかげでいいことがあった。
パチュリーさんや魔理沙さん、アリスさんが看病してくれたことだ。男としてこれほど嬉しいことはない。外の世界にいたら、こんな経験はすることがなかっただろう。
ただ、ひとつだけ疑問がある。
三人共俺のために薬を調合してくれたが、何故か三つとも黒い液体だった。しかも揃って微妙に粉っぽかった。
だだの偶然だろうか。それとも、魔女の作る薬というのはみんなあんなものなのだろうか。
とにかく、今日はもう寝よう。
数日後。
先日復帰した○○は今までのように司書として働いていた。
この図書館にもちゃんとした分類がほしいな、といつものように呟きながら○○は本を本棚に納めていく。
「○○」
そんな○○に声をかけたのは隙間妖怪――八雲紫――だった。
「紫さん。今日も来たんですね」
「少し話したいのだけれど、いいかしら?」
「じゃあどこか適当な場所を……」
椅子がないかと○○は周囲を見渡す。
「あ、そのままでいいから」
「そうですか?」
「○○、倒れている間に何かあった?」
「何かと言われても、抽象的すぎて分かりませんよ……」
○○は首を傾げて紫を見る。
「そうね。じゃあ具体的に言うわ。永遠亭の薬師以外が調合した薬を飲んだ? それか、何か食べた?」
「ああ。それなら――」
○○は自分が倒れている間に三人の魔女が看病してくれたことを紫に伝えた。
「そう。どうせそんなことだろうとは思ったわ。それなら、責任はあの三人に押し付けても問題ないわね」
言葉と同時に紫が消える。
「ゆ――!」
紫を見失い、声を出そうとした○○だったが後ろから抱きしめられたことに驚いて声が途中で途切れた。
「いつもそうだけど、今のあなたはとても魅力的よ」
紫の手が○○の顎に添えられる。
「食べてしまいたいわ」
「え、ちょ……紫さん?」
「安心して。妖怪としてじゃなくて、女性として、あなたを食べてしまいたいの。私の言葉の意味、分かるでしょ?」
○○は唾を飲み込んだ。
「大丈夫よ。私がリードしてあげるから。あなたに本当の絶頂を教えてあげる」
紫は蠱惑的な瞳で○○を見つめ、唇を奪った。
「声なんて誰にも聞こえないわよ。さあ、力を抜いて……」
濃密にして抗いがたい妖艶な色香を醸し出しながら、紫の手が○○の下半身へするりと伸びていく。
「そこまでよ!」
「動くと撃つ!」
「待ちなさい!」
突如聞こえてきた声に○○は驚き、手にしたままだった本を落とした。
その場に乱入してきたのは、三人の魔女。
「あらあら、もう見つかってしまったのね。お楽しみはこれからだったのに」
紫はふわりと飛び上がり、三人の後ろに着地する。
「○○を攫ってもいいんだけど、それじゃあ面白くないわよね」
魔女達は既に臨戦態勢となり、紫を包囲陣を展開している。
「原因を作ったのはあなた達なんだから、なんとかしなさいよ。それじゃあね」
紫は微笑み、いつものように隙間に消えていった。
「○○、大丈夫だった?」
「○○、何かされなかった?」
「○○、変なことされなかったよな?」
頷く○○を見て三人は安堵し、それぞれに視線を送る。
「○○、今日はもう休んでていいわよ」
「え、でも……」
「「「 い い か ら ! ! ! 」」」
三人に気おされ、○○は落とした本のことも忘れて自室へ引っ込んでしまった。
山の上の巫女はそろそろ来る時間だし、どこぞの白狼天狗は境界をいじっておいたからそのうち乗り込んでくる。新聞記者はけしかけておいたから問題なし。
あとは誰を送り込んだら面白くなるかしら。
……永遠亭の姫にしましょう。薬師なんか送り込んで解決されたらたまったものじゃないわ。
ふふ……。面白くなりそうね。
あら、一番乗りは山の上の巫女のようね。
「あのー、東風谷さん」
「 さ な え 」
「あー、早苗さん」
「どうしました?」
早苗は○○の頭を撫でる。
「どうして俺は早苗さんに膝枕をされてるんですか?」
「いいじゃないですか」
早苗が○○の顔を覗き込んだことにより、二人の距離がぐっと近づく。
「……」
「……」
早苗は○○の顔を両手でがっしりと掴んだ。
「○○さん、ごめんなさい。頂きます」
「え? ちょ……!!」
早苗はうっとりとした表情で○○の唇を奪った。
「恋愛において、共通の価値観や趣味、話題というものはとても大事だと思います。その点、私は○○さんと同じ外の世界出身ですし、年齢も近いですから大丈夫ですよね」
早苗はにこやかに微笑んでみせる。
「初めて見たときから、○○さんのこと素敵だと思っていました」
肝心の○○はどういう態度を取ればいのか迷っている。先ほどの紫の行為も影響しているのだろう。
「私の能力は『奇跡を起こす程度の能力』です。ですが、私にも起こせない奇跡はあります」
「……?」
両手が離されたことを確認し、○○は立ち上がる。
「恋という名の奇跡です。けど、○○さんはその奇跡を起こしました」
「小娘が大層な口をきくものね」
突如聞こえた声に振り向けば、そこには紅魔館の主とメイド長。時間を止めて現れたのだろう。
「○○は私と愛し合う運命なのよ」
「いえいえ、お嬢様。お嬢様に人間の男は不釣合いです。ここは同じ人間である私が○○を引き受けますから」
紅魔館の権力者二人が○○に向けて手を差し伸べた瞬間、壁を突き破って白狼天狗の犬走椛と彼女を抑えようとしたであろう紅魔館の門番紅美鈴が飛び込んできた。そしてその後ろからは幻想郷最速の鴉天狗射命丸文が。
「○○さん、私と愛という名の一局を打ちませんか?」
「私があなたの心の門番になります!」
「文々。新聞の一面を私と○○さんの結婚記事で飾りませんか?」
それぞれがそれぞれを睨み、お互いを牽制する。中心人物であるはずの○○がこの場で最も浮いていた。
「殿方の扱いがなっていない人達ね」
○○はいつの間にか空を飛んでいた。蓬莱山輝夜の腕に抱かれて。
「○○、私があなたに永遠に続く快楽を教えてあげる」
輝夜の美しい黒髪が○○の頬に触れ、芳しい香りが鼻腔を刺激する。
後ろを見れば、風にたなびく輝夜の黒髪の間に青いメイド服が見え隠れする。メイド長の十六夜咲夜が猛烈なスピードで追いかけてきているのだ。輝夜は咲夜を確認すると、これだから、と小さな声で文句を言った。
「どうしたものかしらね」
「○○を見失った!?」
非常に濃い面々が集まっている○○の部屋で、パチュリーはぐったりと壁によりかかった。そしてそのまま気を失ってしまう。
今回の騒動の原因は、三人の魔女がそれぞれ調合した媚薬を○○が全て摂取してしまったことにある。○○の体内で全ての媚薬が混ざりあって異常反応を示し、○○を見た者全てが○○に惚れてしまうという効果にかわってしまったのだ。
「解決方法はあるの?」
全力で壁の修復をしている美鈴を尻目に、レミリアが魔理沙とアリスに問う。
「紫か永琳か閻魔ならなんと出来ると思うぜ」
「一週間くらいで効き目は切れると思うけど、それまで放置しておくわけにはいかないし」
「ライバルが増えるというわけね」
魔理沙とアリスはレミリアの呟きを拾ったが、今はその時ではないと判断して触れないことにした。
「解毒剤か何かはないんですか?」
早苗の問いに魔理沙とアリスは、そんなものは作っていない、とない胸を張って自信満々に答えた。
「紫はこういうことを楽しむだろうから、ちょっかいは出しても解決はしないだろうな」
「なら永遠亭ですね!」
言葉と同時に文は飛び出した。ご丁寧にも美鈴が直したばかりの壁をぶち抜いて。
「とにかく、はやく○○を見つけないとまずいぜ」
「まかせて」
アリスが胸元から取り出したのは、一枚の白紙だった。
「○○の服には私が魔法をかけた布が縫い付けてあるの。私が呪文を唱えれば、どの服を着ているか、私からみてどの方向にいるかがこの紙に浮かび上がるわ」
「アリス、それってすとーかーってやつじゃないのか?」
「完全にストーカーですね」
魔理沙の疑問に早苗が答える。
「い、今はそれどころじゃないでしょ!!」
何気なく散歩をしていると、少し前にこっちに迷い込んできた○○という青年が倒れているのを発見した。
周辺にナイフや衣類の切れ端は落ちていたから、弾幕勝負にでも巻き込まれたのだろう。勝負をしていた人物達はどこかに移動したか、弾に当たって飛ばされてしまったか。
なんにせよ、こんなところで気絶していては妖怪に食べられてしまうので、介抱するため店に連れて帰ることにした。
それにしても、なかなかいい顔をしていると思う。インドア派だと聞いていたが、その割りには体つきもいい。
あの媚薬って同性にも効果があるのね。……って、関心している場合じゃないわ。
このままだと少しまずい展開じゃないかしら?
そういう趣味の男性がいるのは理解しているし、その逆もまた然り。
けど、二人とも知り合いで片方はついさっき媚薬の効果云もあってか本気で手を出そうとした人。
そもそも、媚薬の効果であって二人にそんな趣味はないはず……よね?
ここは少し境界をいじってしまいましょう。
「お、気が付いたようだね」
「ん……ここは……」
○○が身を起こすと、そこは見たこともない店だった。店内には○○が見たことのあるものから初めて見るものまで、商品が乱雑に並べられている。
「ここは香霖堂。まあ、細かい説明は割愛させてもらうよ。散歩していたら君が気絶しているのを見つけてね。一応ここまで運んだというわけさ」
「あ、ありがとうございます」
「そのうち迎えが来るだろうから、ゆっくりしていくといい」
そう言って香霖堂の店主は店の奥に消えてしまった。
「今日はいったい何が……」
○○は今日一日の出来事を振り返る。が、一日に二度も女性に唇を奪われたことを思い出して赤面してしまった。
「なんだか凄く疲れた……」
「「○○ーー!!」」
香霖堂の入り口を吹っ飛ばして突入してきたのは魔理沙とアリスだった。アリスの背中にはぐったりとしたパチュリーがおぶられている。
「ッ、○○……、何もされなかったか……?」
息も切れ切れの魔理沙は店内の壁にもたれかかった。
「えーと、輝夜さんと咲夜さんの弾幕勝負に巻き込まれて、気が付いたらここにいた」
「「よかった……」」
魔理沙とアリスの声が重なった後、数泊遅れてパチュリーの声がかすかに聞こえてきた。
「迎えにきたようだね」
姿を消していた香霖堂の店主が盆に急須と湯飲みを載せて現れた。壊された入り口を見て一瞬顔をしかめたが、すぐに元の顔に戻る。
「やかんごと持ってこようか? いや持ってきた方がいいみたいだね」
店主は魔理沙に目配せをし、再び店の奥に消えてしまった。
「○○、本当にごめん」
突然誤りだす魔理沙に、理由が分からない○○は戸惑う。
「今日の事件の原因を作ったのは私達なの」
「この前私達が○○に飲ませた薬、覚えてる?」
アリスの言葉を引き継ぎ、ゆっくりと紡がれるパチュリーの言葉に○○は頷いた。
「○○の体内で混ざって異常な反応をしちゃったみたいなの」
「さっき紫が境界を操っておいたって言ってたから、もう心配はないと思うぜ」
「ちょっかいを出したのはからかっただけだと思うから安心して」
「あの、それで……私達がこんなことを言うのは間違ってると思うんだけど、許してくれる?」
パチュリーは責められることを覚悟して○○を見やる。
「許すも何も、看病してくれたのは嬉しかったし、なんだかんだで楽しかったから俺は構わないよ。流石に連日はいやだけど」
「「「よかった」」」
三人の魔女は揃って安堵の息をついた。
「流石に今日は疲れたぜ」
「私もよ」
「ほんと。これだけ激しく動いたのは久しぶり」
「隙間郵便の出張サービスよ~」
隙間が開き、紫が姿を現した。
「みんなお疲れさま。今日は特別に隙間を使ってみんなを自宅に送り届けてあげるわ」
「悪いな、紫」
「いいわよ。充分に楽しませてもらったから」
三人の魔女は苦笑交じりに紫を睨む。
「やーん、こわーい。○○、助けて~」
わざと甘ったるい声をだしながら、紫は○○に抱きついた。
「ちょっと、紫さん……」
「冗談よ冗談。三人共得物をしまってよ。ね? ゆかりからの お ね が い 」
紫は○○を盾にするように移動した。そこで○○から身を離し、いつもの表情に戻る
「明日は今回の騒動の終了を祝って神社で宴会よ。四人は必ず出席すること。いいわね?」
紫は四人の答えを聞かずに隙間を閉じた。
ふふふ。
また面白くなりそうね。
私が操った境界は媚薬の対象だけ。
同性への効果はなくなったけど、異性に対する効果はまだ残っているのよ。
ふふ。
フフフ……。
明日が楽しみだわ……。
─────────「
適当な時間まで○○と談笑しようと思っていたら、○○を神社へ連れて行く、と言って隙間妖怪が○○を連れていった。
正直なところ、不安でしかたがない。
媚薬の効果なのか単純に場を引っ掻き回そうとしたのかは分からないけど、昨日○○にちょっかいを出そうとしたのは事実。しかも図書館内で。
けど、任せるしか方法がなかったのも事実。
空を飛べない○○と一緒に歩く体力も、○○をおぶって神社へ向かって飛ぶという体力も私にはないわ。だからといって○○一人で神社にいかせれば、妖怪に襲われるという最悪の結果になりかねない。
昨日の媚薬騒動を解決してくれた借りもあるから、無碍に断ることも出来ない。
結局のところ、隙間妖怪が軽々しい行動に出ないことを祈るしかない。
「○○は異類婚姻譚のことを知っているかしら?」
博麗神社へ向かう道すがら、八雲紫は○○に問う。
「確か、人間と人間以外が結ばれる、っていう話でしたよね。悲劇で終わることも多いとか」
「そう。世界各地に多く頒布し、説話の類型として知られているわ。ホオリとトヨタマヒメ、白蛇伝、メリュジーヌ……」
「それで、異類婚姻譚がどうしたんです?」
○○は首を傾げて紫を見る。
「人外が多く存在する幻想郷では、異類婚姻は簡単に行うことが出来るの」
紫は○○の後ろに回り込み、手を掴んだ。
「妖怪の私と異類婚姻してみない?」
○○の耳元で、そっと、甘く甘く、情欲を込めて紫は囁いた。
「か、からかわないでくださいッ!」
昨日図書館でからかわれたのを思い出し、○○は紫から離れようとする。しかし、人間と妖怪では身体能力の差は歴然で、紫はびくともしなかった。
「冗談よ。本当、可愛い人ね」
だからみんなに好かれるのよ、という最後の言葉を飲み込んで紫は笑う。
「さあ、いきましょう」
○○を解放し、紫は歩き出だした。
本当、○○がきてから葛藤が増えたわ。○○のおかげで魔理沙が本を返しにくるようになったのはいいことだけど。
それに、館内も以前と比べて大分明るくなった。来客も増えた。
悪魔の棲む館と言われた紅魔館が明るく、来客が多いというのも妙な話だけど。
これも○○のおかげかしら……?
っと、物思いに耽っている場合じゃないわ。私もいい加減準備をしないと。
……そういえば、粉末にしたイモリの黒焼きがまだ余ってるのよね……。お酒に混ぜればバレないわよね……?
昨日解決したばかりだし、きっとみんな油断しているはずよ。昨日の今日で同じことが起きるはずがない、と。
○○と紫が博麗神社につくと、二人の巫女と上白沢慧音が宴会の準備に奔走していた。黒白の魔法使いと鬼は箒を使って戯れている。
「お、○○。来たか」
「ひさしぶりだな、○○」
「こんにちは。伊吹さん、慧音さんお久しぶりです」
「○○、久しぶりだな。っと、悪いけど私は準備で忙しいからまた後でな」
挨拶もほどほどに、慧音は巫女二人の後を追っていった。
「私のことは無視? ひどいわ。ゆかりん泣いちゃう」
紫は○○の胸に顔を埋め、泣き真似を始めた。
「何がゆかりんだよ。そんな歳でもないくせによく言うよ」
ゆっくりと振り返り、紫は発言主の萃香を見る。
「伊吹萃香さ~ん、向こうで私と少しお話ししましょうか。ねっ?」
「え、いや、その……なんだ。言葉の文ってやつだよ。分かるよな?」
「鴉天狗の新聞記者がどうしたの?」
にっこりと微笑む紫。勿論、目は笑っていない。
「た、たまには霊夢を手伝ってくるぜ!」
魔理沙は顔を引きつらせながらその場から逃げ出した。
「○○さーん、ちょっと来てくれませんかー?」
「え、あ、はい」
早苗に呼ばれたのを好機として、○○もその場から逃げ出した。
「紫」
二人が完全に離れたのを確認すると、萃香の表情が真剣なものになる。
「今日の○○、随分と雰囲気が違わないか? なんかこう……前に会ったときよりも魅力的というかなんというか……」
「あら、気づいた?」
「誰だと思ってるんだよ。お前が何かやったのか?」
「まさか」
ふっ、と笑い、紫は肩をすくめた。
「私はけしかけただけよ。原因は魔女達」
「いったい何をやらかしたんだ?」
隙間が三つ開き、それぞれの先に魔理沙、アリス、パチュリーの姿が見える。
「過労で倒れた○○に三人が媚薬入りの薬を飲ませたのよ。それが見事に混ざって妙な反応を示しちゃったみたいなの。しかも同性にも効果があるというスグレモノ。まあ、同性への効果は私がなんとかしておいたけどね」
「つまり、異性への効果は現在も継続中、と」
「そういうこと。薬に媚薬が入っていたことも○○には伏せてあるわ。それに、あの三人がそんなそんなことを説明するはずがないし」
扇で口元を覆い、紫は笑う。
「あなたも○○をからかいたいのなら、構わないのよ? 何かあったら私が何とかするから。それに、今日はワーハクタクと薬師も呼んでいるし、事情も伝えてあるから大丈夫よ」
ワーハクタクも○○に好意を抱いていたみたいだから好機と判断したみたいね、と紫は口にしなかった言葉を反芻した。
「ところで、さっきの話の続きなんだけど」
「エッ!?」
「昨日は迷惑をかけてしまってすいません」
「あ、いや、そんなに謝らなくてもいいからっ」
○○を呼んでから、早苗は何度も頭を下げて謝っている。それに対して○○は、昨日早苗に強引に唇を奪われたことを思い出していたたまれくなっていた。
「お詫びと言ってはなんですけど、これを受け取ってください」
早苗が恥ずかしがりながら胸元から取り出したのは薄い紙袋。中には紙のような薄いものが入っているようだ。
「これは?」
「見てください」
早苗に勧められて袋の中身を取り出し、○○は愕然とした。
中身は早苗の写真だった。それも、セーラー服やブレザー、メイド服などを着ている。
「あのー、東風谷さん」
「 さ な え 」
笑顔で凄みをきかせる早苗。
「――早苗さん。これは?」
「男性は異装――特に制服フェチが多いですから、頑張ってみました」
あながち間違いでもない意見を述べる早苗は恥ずかしそうにしながらも笑顔を見せる。
「……」
「……もしかして、気にいりませんでした? 靴下は白の方がよかったですか? それとも、絶対領域がないのが原因ですか?」
「あ、いや、そうじゃないけど……」
妙な方向に向かっている早苗の真面目さについていけず、○○は曖昧な返事をして誤魔化した。
「その写真、ヘンなコトに使わないでくださいよ? けど、○○さんが望むなら写真なんかじゃなくて私が直接、その……」
言葉の進行と同期して早苗の顔が赤くなる。そしてついに、顔が真っ赤になったところで早苗は境内の方へ駆け出してしまった。
「ちょ、早苗さん……!!」
呼び止めようとしたが、○○が反応した時には既に遅し。取り残された○○は誰かに見られても困るので写真をポケットに入れておくことにした。
「○○」
早苗の次に現れたのはもう一人の巫女、博麗霊夢。
「霊夢さんお久しぶりです」
「久しぶり。ところで、早苗に何か言った? 凄い勢いで走っていったけど」
「いや、俺は何も。寧ろこっちが聞きたいですよ」
「そうなの?」
まあそれは置いといて、と言いながら霊夢は○○の腕を掴んで引き寄せた。
「人手が減ったんだし、○○も手伝ってよ」
「手伝いますけど、魔理沙さんは?」
「魔理沙が手伝うなんて、それこそ異変よ。解決しない方がいい異変なのかもしれないけど」
霊夢は肩をすくめ、そんなことより準備をするわよ、と○○を引っ張る。
「そ、そんなに引っ張らないでください」
霊夢のない胸が腕に当たりそうになり、○○は気づかれないように必死で抵抗する。
「○○、どうしたの?」
○○の腕を更に引っ張る霊夢。その目は血走っており、鼻息も明らかに荒い。
「え、ええと、手を握られてると手伝えないんですけど」
「ああ、ごめんないさい」
霊夢は残念そうに手を離した。
「俺は何を手伝えばいいんです?」
「そうね……それじゃあ料理でも手伝ってもらおうかしら。味見と称したつまみ食いは駄目よ? ……私なら今すぐに食べてもいいんだけど」
最後の言葉は照れて小さくなってしまい、○○の耳には届かなかった。
まさか私の媚薬のせいでこんなことになるとは……。
というか、アリスとパチュリーも○○に気があったとは予想外だ。
しかも二人共媚薬を○○に飲ませたなんて、考えが一緒にもほどがるぜ。
類は友を呼ぶ、ってやつなのか?
まあ、考えても仕方ないか。それよりも今はこの残ったイモリの黒焼きをどうするかだ。どれくらいの人数が参加するかはわからないけど、これを酒に混ぜることくらいはできるよな……?
昨日の今日だし、みんなきっと油断してるよな。
木の幹にもたれかかる○○。そして、その正面には輝夜。昨日○○を部屋から無理矢理連れ出したように、霊夢の元から連れ出したのだ。
「○○、昨日はごめんなさい。メイドとの弾幕勝負にあなたを巻き込ませてしまうなんて、我ながら情けないわ」
輝夜は申し訳なさそうに呟き、○○の手を取った。
「○○、知っている? 身分の高い者にはその身分に伴う務めがあるということを」
「えっと、確か……ノブレス・オブリージュ……でしたよね」
「私に何か出来ることはないかと考えたの」
輝夜は○○の手を自身の胸元へと導いた。
「私に出来るのは、あなたを導くこと。あなたを永遠に続く快楽へ誘うこと」
○○を抱きしめ、輝夜は口付けをする。
「――ッ!?」
相手からの強引な口付けは、昨日の分も含めればこれで三度目。しかし、舌を絡められたのは初めて。
輝夜はそのまま○○を押し倒し、馬乗りになる。唇を離した際に唾液が糸を引いた。
「か、輝夜さん……!!」
「静かにして」
長く美しい黒髪が○○の頬を撫でる。その髪の隙間から月光が薄く差し込み、輝夜の体が淡いシルエットとなって浮かび上がった。
輝夜は強く艶かしい声で囁き、再び口付けをする。そして、器用にも片手で○○がしていたベルトをはずした。
「○○……」
「か――」
○○の唇を自身のそれで塞ぎ、片手をズボンにかける。
「姫様」
いつの間にか傍に佇んでいた従者――八意永琳――の声に輝夜は振り向く。
「どうしたの?」
冷たく、恨みの籠もった目で永琳を見た。
「○○に不満でも?」
「不満はありません。ただ、ここは野外です。それに、ここは博麗神社ですよ」
「永琳、気にしているの?」
輝夜の問いに永琳は首を激しく縦に振った。
「それとも、姫様は他人に見られたいのですか?」
一瞬呆けたような顔をした輝夜だったが、その表情はすぐに笑顔にかわる。
「そんな趣味ないわ」
手際よく○○のベルトを締めなおす輝夜。視線はずっと○○に向けられている。
「○○、この続きは今度にしましょう。あなたが望むなら、私はいつでも構わないから」
「姫様、宴会の用意が整ったようです」
「ちょうどいいタイミングね。さあ○○、行きましょう」
「昨日は永遠亭で無駄な時間を過ごしてしまいましたけど、今日はそうはいきませんよ」
輝夜の逃亡先=永遠亭と判断して○○を見失ってしまった文は、どこぞの不老不死の如く体から炎を出しそうな勢いで勝手に燃えている。
「ご苦労なことね。まあ、想像するのは自由だから、私と○○の結婚記事を書く時まで好きにさせておきましょう。そうでしょう、咲夜?」
「いえ、お嬢様に人間の男は相応しくありません。スカーレット家の名に傷をつけてしまいます。ですから、同じ人間である私が責任を持って○○を引き受けます」
意欲に満ちて燃え盛る文の視線と、たっぷりと余裕を含んだレミリアの視線が重なる。隣の咲夜はスカーレット家の名を建前にして淡々と自分の意見を紡ぐ。
「○○、私と一緒に愛の歴史をつくらないか? いや、やっぱり、私の寺子屋で愛の授業をうけないか? の方がいいか?」
少し官能的すぎるか、と呟きながら慧音は他の台詞を考えては頭をひねるを繰り返していた。
「○○さん遅いですね……。まさか、早速私の写真でそんなコトを……! もう、私がすぐ傍にいるのに……!」
早苗は自分の世界に入り込み、相変わらず顔を赤い絵の具のように真っ赤にしている。
まさか、桜の散ったこの季節に宴会とはね。まあ、花見じゃないんだから季節は関係ないけど。
それにしても、あの青巫女はなんであんなに顔を真っ赤にしているのかしら。ワーハクタクもさっきから妙なことをぶつぶつ言ってるし。
……いけないいけない。他人のことなんて気にしてる場合じゃないわ。
この予備のイモリの黒焼きをどうやって○○のお酒に混ぜるか。それが大事なのよ。
昨日の今日だから、みんな油断しているはず。予備を作っておいて正解だったわね。
今度こそ人形での予行演習は終わりよ。
「○○はどこいったんだ? せっかくいい酒が揃っているのに」
萃香は待ち遠しそうに両手で酒瓶を弄んでいる。
「そろそろ戻ってくるんじゃないかしら? ほら、噂をすればなんとやら」
紫が扇で示した方向から、輝夜と○○、そして二人につき従うようなかたちで永琳が現れた。
「「「げぇっ、永琳!!」」」
魔理沙、アリス、パチュリーの声が重なり、三人共、最悪、と言わんばかりの表情で永琳に視線を向けている。しかし、当人達はまったく気づいていない。
「人の顔を見て驚くなんて失礼ね。私は汚物でもなければバケモノでもないわよ。それとも、私がいると何か困ることでもあるのかしら?」
永琳は笑ってみせるが、目は笑っていない。明らかに事情を知っている者の目だ。
「そ、そんなことないわよ……。ね、魔理沙?」
「そそそ、そうだぜ。な、なあ、パチュリー?」
「え、ええ。な、何もやましいことなんて考えてないわよっ」
三人共笑顔で答えるが、その表情は引きつっており永琳から目をそらしている。
「じゃあ、これはいったい何なのかしらね」
扇で口元を隠す紫が片手で弄んでいるのは三つの小瓶。それも、中身は揃って黒い粉末。
「「「あッ!!?」」」
「あら、知っているの? ゆかりん詳しく教えてほしいわ」
三人の反応を見て、紫はしてやったり、といった表情で笑う。
「わ、私は何も知らないぜっ!? ぱ、パチュリーなら知ってるんじゃないのか!?」
「ななな、何言ってるの。私はあんもなの知らないわよっ!!?」
「わ、私もまったく、こ、これっぽっちも身に覚えがないわ」
「ふーん。そう。じゃあ、こうしてもまったく問題がないわけね」
紫の掌から小瓶が零れ落ちる。それを見て三人は声を上げたが、時は既に遅し。小瓶は隙間の中へ消えていった。
「さてさて。ようやく主役も全員揃ったことだし、宴会を始めましょうか」
紫はしょんぼりとしている三人の魔女に向かい、何か言うことがあるでしょ、と言葉をうながした。
「あー、えっと、その、何だ。昨日は騒動を起こして悪かった」
魔理沙は、場を引っ掻き回したお前も悪いんだぞ、という目で紫を見る。
「まあ、細かいことは抜きにして乾杯しましょう」
かんぱぁ~いっ!!
女声の中にひとつだけ混じる男声。そして声に一瞬遅れて杯のぶつかり合う音が響く。
花見の季節はとっくにすぎているが、そんなことは関係ない。
花より団子。
ただただ飲んで騒ぐだけ。
ただただ騒いで夢を見る。
「○○、飲んでるかぁ~?」
既に酒のニオイを全身から漂わせている萃香が○○の膝の上にちょこん、と座る。他の参加者は萃香を睨んでいるが、鈍感な○○は気づかずにレミリアから勧められる咲夜謹製ヴィンテージワインを味わっていた。
「はい。飲んでますよ」
「よぉーし、もっと飲め!」
萃香は近くにいた早苗の杯を奪い、中身を○○に飲ませた。
「これ、ひょっとして間接キスってやつか?」
萃香の言葉で○○の顔が赤くなる。早苗は早苗で、頼んでくれたらキス以外にも何でもしてあげます、と顔を真っ赤にしている。その姿はまさにトマトだ。
「○○、こっちのお酒も飲んでみない?」
好機と見た霊夢は飲みかけの酒が入った杯を差し出した。丁寧にも、自分が口をつけた部分を○○に向けて。
「あー、いや、その……」
「霊夢、○○はワインの方が好みなのよ」
レミリアは自分が使っていたグラスにワインを注ぎ、○○に向けて差し出した。
「「さあ!!」」
「え、えーと……」
○○は助け舟を出してもらえないかと周囲に視線を送る。
「無理矢理飲ませて急性アルコール中毒になったらどうするおつもりです?」
「その通りだ」
咲夜の言葉に慧音が同意し、二人がかわりに酒を飲みほした。
「○○、困ったことがあったら私に相談してくれよ。そ、その、なんだ……。ずっと……隣で……さ、サポートするからな?」
酒のせいなのか自身の発言のせいなのか、慧音の頬は少し赤くなっている。
「先ほどのものより上質のワインが出来ましたよ。さあ、ゆっくり味わってください」
ついさっき自分が言ったことを無視し、咲夜は○○のグラスに能力で作り上げたばかりのヴィンテージワインを注いだ。私の体を肴にしてもいいんですよ、と口にして。
「ちょっと咲夜!?」
「紅魔館の主とメイド長、ひとりの男を取り合い大喧嘩、と。いいネタですね。そして○○さんは私のものです」
写真を撮ってさらりと問題発言をする文。
「○○さん。あんな二人はほうっておいて私としっぽりと飲み明かしましょう」
文がぐいと引っ張ると、○○の腕が霊夢のなかったそれとは別のものに当たる。
「お酒の勢いに任せて、文字通り密着取材とかもアリですね」
「ちょ、ちょっと射命丸さん」
「心配しないでください。私が口ぞえをしておきますから、山での働き口は安心ですよ。ああ、専業主夫なんてのもアリですね。こどもは何人にします? サッカーの試合が出来るくらいにしましょうか」
どんどんと飛躍していく文の妄想とそれについていけない○○。
「○○はどういう女性が好みなのかしら?」
少し離れたところにいる紫の発言でその場の空気が完全に破壊された。全員が○○に向けて一斉に視線を向ける。
「確か、外では『しゅうがくりょこう』と言ったかしら? お酒を飲んだ時としゅうがくりょこうの時は好きな異性のことを暴露するのが慣わしなのよね?」
早苗は自分に向けられた紫の視線から意図を汲み取り、はい、そうです、と大きく頷いた。
「○○、教えてくれるかしら?」
参加者全員の双眸が答えろ、という色を宿して○○を見ている。
「お、俺が好きな女性は……」
○○の視線は右へ左へと面白いように動いていく。
「勿論、人間に決まっているわよね」
今まで黙って様子を見ていた輝夜が微笑んで言った。魔理沙、咲夜、早苗、霊夢はそれに同調してうんうん、と頷いている。
「○○は博識だから異類婚姻譚は知っているわよね……?」
紫が同じことを話していたとも知らず、パチュリーが異類婚姻譚の例を挙げていく。
「このまま傍観しているつもり?」
「何か問題でもあるのかしら?」
永琳の問いに答えながら紫は酒を飲む。
「いいえ。姫様のあれほど楽しそうな顔は滅多に見れるものじゃないわ」
「媚薬の効果かもしれないわよ?」
「姫様の○○への好意は以前からのもの。これは確かよ」
初耳だわ、と言いながら紫は杯に酒を注ぎ、永琳に手渡した。
「言ってないもの」
「そりゃそうようね」
二人は苦笑し、酒を呷る。
「あなたはいかなくていいの?」
「○○への好意はあるけど、姫様が抱いている感情とは別物。まあ、○○だったら悪い気はしないけど」
永琳は嬉しそうに笑い、紫の杯に酒を注いだ。
「○○が永遠亭にきたら、みんな喜ぶでしょうね」
永遠亭に限った話じゃないでしょうけど、と付け足して再び微笑む。
「そっちは混ざらなくていいの?」
「私はもう充分楽しんだわ。……まあ、もう少し先にいってもよかったんだけど」
紫はふふ、と笑い自分達の方へ向かってくる慧音のために酒を杯に注いだ。
「○○~それでお前好みの異性はこの中でいうと誰なんだ? 言ってみろよ~?」
ニヤニヤと笑いながら萃香は○○に詰め寄る。それを止めようとする者は誰もいない。全員が○○の答えを期待しているのだ。
「先に言っておくけど、みんなが好き、なんて答えはなしだからな」
ずい、とさらに詰め寄る萃香。それにあわせて他のメンバーも○○を包囲するように前に進む。
「えっと、その……」
○○は助けてもらおうと紫を見るが、紫は笑顔で手を振るだけ。両隣にいる永琳も慧音も同じ。
「さぁて、助太刀してくれるやつはいなくなったぞ。観念するんだ。安心しろ、みんなお前のことを気にいっているから、告白したくらいじゃ嫌われないさ」
萃香の言葉を聞き、○○の顔が呆けたものになる。
「俺が……気に入られている……?」
「なんだ、ひょっとして気づいていなかったのか? 鈍感なやつだな」
○○の予想外の反応に萃香は大きく笑った。
「みんな! ○○のことが気に入っている。そうだろ?」
萃香が同意を求めると、周囲の人妖達がそれぞれ肯定の意見を述べる。
「な? だから、イロイロと吐いちまえよ。おっと、酒を吐くのは勘弁してくれよ」
○○は目を閉じ、胸に手を当てて深呼吸を始めた。
「おい、ちょ、まさか本気でリバースする気じゃないだろうなッ!?」
萃香は慌てて○○から離れ、様子を伺う。十秒ほど様子を伺っていると、○○が目を開けて立ち上がった。
「言います。俺が憧れているのは――」
――(自分の嫁の名前を入れよう!)さんです!
「あらあら。爆弾発言が出たわね」
紫は片手で弄んでいた扇をぱちん、と閉じる。
「本当ね」
「さて、それじゃあいろいろと処理しようか」
紫が立ち上がるのと同時に、永琳と慧音も立ち上がった。
○○にとって、幻想郷でのこれからの生活はどうなるのかしら。
幸せなものになるのか、はたまたその逆か。
これからがすごく楽しみだわ。
最終更新:2010年06月05日 00:04