ハーレム?12
うpろだ1387、1397
話は2時間ほど前に遡る。
永遠亭には現在男性一名が収容されている。入院、ではなく収容である。
その彼が脱走したのだ。
これにたいそう驚いたのが、永遠亭の当主蓬莱山輝夜。
随分彼に良くしてやっていたものだから、逃げるとは夢にも思わなかったのである。
「イナバ、捜索状況はどうなってるの!」
効果音と集中線を伴いながら、輝夜が言う。
「機械化兎兵中隊二個で探索に当たらせています」
「少ないわ、もっと出しなさい!」
「いや、これで全力ですので」
黄昏時に竹林外まで遠征できる兎は少ない。
遠征能力のある兎でも、群れていないと食われる危険性があるので全く安心できない。
「永琳は何処に行ったのかしら、こんなときに」
「師匠は里まで出張しています。もうじき帰ってくると思いますが……」
「うーん、永琳が居ないと発信機が使えないのよね」
「いつの間にそんなの埋め込んでいたんですか……」
ため息をつく輝夜と鈴仙。しかし両者のそれの意味は大分異なるものであった。
「ただいま戻りましたー」
「永琳お帰りなさーい」
作戦会議の最中に永遠亭のブレイン、八意永琳が帰ってきた。
彼女が帰ってきたならもう安心。てゐの能力と合わせてポコロコ永琳となり、きっと彼を見つけてくれるだろう。
「姫、こんなの捕まえました」
「捕まえられました」
その手の中には奴が居た。どうやら早速見つけてきたらしい。
「どうしましょう。拓でも取りますか?」
「とりあえず、真ん中に持っていきましょう」
そう言って輝夜は彼の右手を取る、なので永琳は左手だけを持つ。
「なんていうか捕まったグレイみたいね」
「宇宙人にそんなこと言われるとは思わんかったぜよ」
輝夜の軽口に適当に付き合う。しかし、輝夜はそれ以上は付き合ってこなかった。
「それで、何で脱走なんてしたの?」
「脱走? 誰がそんなことしたんだ?」
全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
脱走したのではない?
「じゃあ何で居なかったの?」
輝夜が聞くと、彼は平然と答えた。
「いや、屋台から竹串の大量注文をもらったんで材料調達に」
そういう彼の右手には鋸と、背中の籠にはぶつ切りにされた竹が入っている。
「ああ、だから竹を選んでいたの」
「なあんだ、じゃあ姫様の早とちりだったんですね」
「あら私としたことが、しくじっちゃったわ」
一同大笑い。これにて大団円と相成りまする。
「……ところでその屋台って妹紅のじゃないわよね」
と言うわけには行かない。瞬時に場が凍り、皆の視線が一点に集中する。
「Oooooops!」
「ごまかそうとするんじゃないの!」
輝夜が頬を引っ掴んで伸ばす。輝夜は常々良く伸びるこの頬を気に入っていた。
「大体なんでそんなことやってるのよ」
「なんでって、シノギをみつけないと里で暮らせないでしょ」
里と言う言葉に、輝夜は更に激昂する。
「里? 何で里に行く必要があるの! ずっとここに居ればいいじゃない!」
「いやいや、いつまでもここで微温湯に浸りながら暮らすって言うわけにも行かないでしょう」
言うと、輝夜は愕然とした表情になる。
「そんな……じゃあここを出て何処にいこうって言うの」
「んー、それほど考えていたわけじゃなかったけど、慧音さんと妹紅さんが世話してくれるって言うからちょっと甘えてみようかと」
「永琳、ちょっと妹紅殺してくるわ。あとお願い」
言うや否や駆け出す輝夜。それにかしこまりましたと答える永琳。
「まあ体も良くなったみたいだし外に帰ってもって、あれ何処行った?」
彼は輝夜の足跡を即座にロストしていた。それだけ輝夜の移動速度が速かったということだ。
「とは言われたものの、どうしようかしら」
「師匠、やっぱりこういうときは再教育じゃないですか?」
「再教育ね、まあ自己反省と総括というのもたまにはいいでしょうね」
ゆっくりとした足取りで、永琳が近づいてくる。それと合わせるように鈴仙も近づいてくる。
「さて、何から反省させてやりましょうか」
「それなら軍隊仕込みのいいのがありますよ。これでもう逃げる気も無くすというのが」
ニヤリと口の端を吊り上げて哂う鈴仙。
「ウドンゲ、ウドンゲ」
それにひらひらと手を振りながら、軽い調子で永琳が言う。
「それは敵前逃亡兵が言う台詞じゃないでしょ」
さすが永遠亭一のSと言われる女。古傷抉りも躊躇が無い。
「大体こういうことなら私に任せておきなさい。オルグもアジもなんでもござれよ」
胸を張って言う永琳。確かにこの手のことは得意だろう。
「でも師匠大丈夫なんですか?」
「あら私のことを信用しないのかしら」
多少不機嫌そうに永琳が言う。鈴仙はそれに物怖じせずに返す。
「だってまだ地上の兎達を思ったより懐柔出来てないじゃないですか。てゐ頼りで」
「それを言われるとちょっとつらいわね」
永琳も兎の統括がてゐなのは事実なので反論はしない。、
「師匠、それに彼をオルグするなら私のほうが適任だと思いませんか?」
鈴仙がスカートを少したくし上げ、その真白い太腿を露にする。
「あらそれはどういう意味かしら」
永琳が腕を組み―無論胸を誇示するためにだ―鈴仙を詰問する。
「率直に言わせてもらえば、師匠はもう古いんですよ。ここは新しい人材に任せてください」
そういう鈴仙も、ネクタイをはずし、シャツの第二ボタンまでをあけている。
「私の何が古いって言うのでしょうねえ」
永琳は目を大きく見開き、まさしく威圧するように鈴仙を見下ろす。
鈴仙も鈴仙で狂気の瞳を常時強力に発動させ、永琳を狂わせようとしている。
永琳も狂気耐性があるが、その精神保護をトンネルするか大出力で破壊して発狂させようという魂胆のようだ。
「まずは今更自己反省とか言っている事ですねえ」
鈴仙は不必要に語尾を延ばし、煽る様に話している。
「あら、肉体オルグなんていうのも十分古いんじゃないかしら?」
永琳も声に十二分の威圧感をこめて鈴仙に言う。
この一声だけでも、一発殴られるよりもよっぽど精神に堪えるのではなかろうか、と言う声色だ。
「どうでしょう。誰がやるかによるんじゃないですか?」
鈴仙はあくまでも視線を外さず、永琳に挑戦的な目つきで言い返す。
「それは私が年寄りだといいたいのかしら? ウドンゲ」
言いながら永琳がゆっくりと傍らにあった鞄に手を伸ばし――そして戦闘が開始された。
「ひでえなこりゃあ」
その言葉のとおり、今永遠栄の一室は台風でも通過したような有様になっている。
主な原因は鈴仙の精神攻撃の余波が物理世界に侵出してきたのと、永琳の直接攻撃だ。
「なんか、今日はみんな性格が変わったみたいだな」
ぼやきながら、とばっちりを食わないように部屋の端のほうに移動する。
さてどうしたものかと辺りを見回していると、ちょいちょいと襖の奥から手招きをする者が居る。
はて誰かねと思い襖を開けると、てゐといくらかの妖怪兎がいた。
「なに、どうしたの?」
「ねえ、ミスティアの屋台にヤツメウナギ食べに行かない?」
てゐからの食事の誘いは奏珍しいことではない。今までもちょくちょく誘われては少しつまみに行っていた。
ただ、そのたいていを奢らされると言うことが問題なのだが。
「ん、そうだな、行くか」
きょろきょろと襖の内側を見て決めた。今ここに自分が居るのはあまりにも危険すぎると言う判断だ。
妖怪兎達も嬉しそうに飛び跳ねる。
「おごりだー」
「おごりだー」
「いや、奢んないって」
妖怪兎達が残念そうに飛び跳ねる。
「おごれー」
「おごれー」
「ああもう、一杯だけだぞ」
「みんな、いっぱい奢ってくれるって」
てゐによって単語の意味を刷りられると、皆から歓声が上がる。
「たくさんじゃないのよ、ひとつだけだって」
「さー行こっかー」
その歓声の意味を打ち消そうと手を振るがなんらの意味は無く、てゐは号令をかけて出発する。
仕方が無い、大した金額にもならないし奢ってやろうと財布を確認する彼。
これがてゐと駆け落ちしたと誤解される2時間前の出来事である。
────────
Q:目の前に蓬莱山輝夜がいます。どうしますか?
A:妹紅が燃やす前に逃げる。
「燃えろー!」
猛火が空気を喰う音と共に輝夜の体から勢いよく火柱が上がる。
妹紅のファイア16を食らって、すぐに輝夜は表面からこんがり炭と化していった。
「更に燃えろー!」
もう一発ファイア16を放つ妹紅。俺はと言うと、すぐ近くで頭を抱えてうずくまっている。
「とどめに燃えろー!」
妹紅がまたファイア16を使う。地面はぐずぐずに融け、あたりには嫌な臭いが広がっている。
周りにあった竹はすでに焼け、影も形も見えない。
それは輝夜も同じ事で、着物は無くなり、体も真っ黒に炭化している。
それを妹紅が蹴りつけると、グスリという音と共にあっけなく輝夜の体だったものは崩れていく。
何度か炭の塊を踏みつけ散らすと、妹紅はこちらを向いて歩いてきた。
なぜこんなことになったのかというと、だ。話は少し前に遡る。
激戦地となった永遠亭を離れ、てゐや妖怪兎と共にヤツメウナギの屋台にやってきた。
そこでは兎達が串の取り合いをした以外何事も無く、おおむね平和なものである。
しかし、その後が拙かった。喧嘩をする輝夜と妹紅に出会ってしまったのだ。
爆音と焦熱から嫌な予感はしていたし、回避行動はとったが、それも間に合わなかった。
そして接触したとき、輝夜は一瞬こちらに気を取られ、その隙を逃さず妹紅は輝夜を燃やした。
それが今の顛末だ。
「大丈夫だったか」
手を差し出しながら妹紅が言う。
危険に晒したのはお前だろうが、という言葉を必死で飲み込んで、妹紅の質問に首を縦に振る。
妖怪兎達は一目散に永遠亭に向かって走り去っており、すでにいない。
ここにいるのは俺とてゐ、妹紅に輝夜だった炭だけだ。
ちりちりと灼ける皮膚を無視しながら、ゆっくり立ち上がる。
「おかげさまで」
精一杯の皮肉を込め返答する。妹紅はそれでも満足そうに頷いた。
「怪我も無いね」
その問いにも頷いて返す。てゐも何事も無いらしい。
ただ、必死に腕を引っ張っているのはここから早く逃げ出したいためだろう。
俺を置いて行かないのは、置いて行ったとき永琳に何をされるか判らないからか。
「それじゃ、うちらは永遠亭に帰りますかね」
手を引っ張るてゐを先導に、一路永遠亭に向かって歩き始める。
そのはずだったのだが熱気にやられたか体がよろけ、地面に膝を着く。
多少驚いたが、頭がふらつくということはないし問題は無いと判断して立ち上がろうとする。
しかし、それを遮る様に妹紅が俺の体を突き飛ばす。
「ふらふらじゃないか! 本当に大丈夫か」
つくづくお前のせいだろうが、と思うが口にはしない。怖いから。
「ちょっと行けば私の家があるから、そこで休んでいこう、なっ!」
言いながら妹紅が俺の体を起こし、抱えようとする。
血走った妹紅のその目は、俺の心に恐怖心を植えつけるのには十分すぎた。
しかし、俺を抱き上げるという妹紅の目論見は成就することは無かった。
「だめよ妹紅、彼は渡さないわ」
ぞくりと背筋が震える。今確かに殺されたはずの輝夜の声は、全く真後ろからした。
輝夜の真白い腕が首に回される。そのか細い指が俺の喉笛を撫で上げる。
「た……確かに今死んだはずじゃあ」
「そうね、一回死んだわ」
そんなことは瑣末事だとでも言いたげな口調で輝夜が言う。
「でも、一回死んだだけなのよ。蓬莱人にはそんなのどうって事ないでしょう」
蓬莱人。そうだ、こいつらは不死化しているんだった。
なのに何で殺しあっているんだろう。無駄なのに。
輝夜は他方の手で妹紅の首を掴んでいる。
対する妹紅は俺が盾になってるために輝夜を燃やせずにいる。
「さよなら、妹紅」
そして妹紅の首元ゼロ距離で、弾幕になるはずだったものが弾けた。
「大丈夫だった? 妹紅に何か変な事されたりしてない?」
輝夜が俺の頭をがくがくと揺さぶる。傍らには首の肉の大半を削ぎ落とされた妹紅の死体が転がっている。
なんでもないと手を振り、肩を掴んで揺するのを止めさせる。
その動作に納得したのかは知らないが、輝夜は無事でよかったとでもい痛げに抱きついてきた。
「それでてゐ、こんなところで何をしていたのかしら?」
抱きついている最中に話と声色のベクトルが180度反転する。
話の矛先が自分に向くと、明らかに動揺した様にてゐは身をすくませた。
「え…、永琳様と鈴仙が喧嘩しているから逃げるついでに食事し痛たたた」
てゐの話を遮ってぎりぎりと輝夜のアイアンクローが炸裂する。
「私を差し置いて二人っきりで食事なんていい度胸してるじゃない」
「いや、他にも幾らか兔がいたぞ」
「あらそうだったの」
言って輝夜はてゐのこめかみから手を離す。
「そう。おかげで財布がすっかり寒くなった」
「なら暖めてあげようか。勿論働いてはもらうけど」
真横から声がする。同時に背中に荷重がかかる。どうやら妹紅が復活したらしい。
「離れなさい、妹紅」
輝夜が冷たい声で言う。
「お前とは話してないだろ。割り込んでくるな」
妹紅が返す。言いながら頬擦りをしているあたり抜け目無い。
「どうする? いつから働く? 別に明日からでもいいよ。もち住み込みで」
ごろごろと甘えた声を出しながら妹紅が言う。輝夜はその間に殺意を充填していた。
「うふふ、妹紅あなたどうあっても邪魔をしたいようね」
大量の殺気を振りまきながら輝夜が言う。
妹紅はそれをちらりと見ると、また俺の頬に頬擦りしてきた。
「いいから離れなさい! 邪魔そうでしょ」
「邪魔なのはお前のほうだろ」
返す返す言うが、俺は前から輝夜に、後ろから妹紅に抱きつかれている。
つまりは怒鳴り声がステレオで聞こえてくるということだ。
「あー、喧嘩するなら離れてくれ」
堪り兼ねてそう言うと輝夜と妹紅は素直に俺を放し、少し離れたところで相対した。
「妹紅、率直に聞いておくわ。あなた彼のことどう思ってるの?」
「明日にでも祝言を挙げたいと思ってる。お前はどうなんだ」
「すでに婚姻届にサインしてスタンバイしているわ」
そして二人でため息をつく。
「つまり私達は恋のライバルということね」
「そういうことだ。嬉しいな、殺しあう理由がまた増えたぞ」
息を整えるように一拍置くと、二人息を揃えたように叫んだ。
「人の恋路を邪魔する奴は!」
「馬に蹴られて死んじまえ!」
両者共に左足を前に出し大見得を切る。つかお前ら仲いいんじゃねえか。
「でもここに馬はいないので!」
「代わりにあんただ!」
『上白沢慧音!』
「誰が牛か!」
言うや否や妹紅の頭に強烈な手刀が振り落とされる。
憐れ妹紅は死んでしまった。しかし即座にリザレクションした。
「お前達はパンピーのいる前で何をやっているんだ!」
「恋の鞘当て?」
輝夜が小首をかしげながら答える。
その仕草が癇に障ったのか慧音は握り締めた拳を震えさせると、やがて諦めたように言った。
「もういい、奴はうちで預かる」
「ちょっと彼は永遠亭預かりよ。何勝手に決めてるのよ!」
「慧音、今日から泊まってっていい?」
三者三様のいいざまだが、その実俺は何処に居るなどと決めた覚えはない。
成る程、ということは連中の言う奴は別のところにいるんだろうなあ、と適当に現実逃避をしてみる。
「駄目だ。二人とも近寄っちゃならん。里に定着させる」
「何を言ってるのよ。彼はこのまま永遠亭で暮らすのよ」
「人間なんだから、人里で暮らすのが道理だろう」
ここまで何かを考え込んでいた妹紅が口を開く。
「じゃあ何で私も駄目なんだ?」
「なんとなく」
そのあまりといえばあんまりな答えに一同絶句する。
しばしの沈黙の後、妹紅がため息交じりに言う。
「幾ら慧音の言うことでも、こればっかりは受け入れられないな」
「ならどうするんだ、妹紅」
「当然、実力行使だ」
身構えながら妹紅が言う。同様に輝夜も戦闘態勢をとる。
すると慧音は腕組みをし、二人を傲慢に見下ろす構えを取った。
その戦いには似つかわしくない構えに二人とも攻撃するのを躊躇し、しばし様子を見る。
先に動いたのは妹紅だった。動かなければどうにもならないとでも思ったのだろうか、強力な火炎を放る。
それはすぐに慧音までの地面を舐めつくし、慧音もそれに飲まれるように見えた。しかし、
グ レ ー ト ホ ー ン
『!?』
二人が驚いたのも無理はない。なにせ慧音が何もしていないのに独りでに妹紅の火の鳥が消え失せたのだ。
「その程度で、この私が倒せるとでも思ったのか!!」
その迫力に気圧される様にじりじりと後ろに下がる輝夜と妹紅。しかし意を決したようにまたも妹紅が飛び掛る。
「明日の屋台には牛串焼きも並べてやる!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
「……もう無茶苦茶だな」
「今のうちに永遠亭に帰るウサ」
てゐが俺の腕を必死の形相で引く。
俺もそれに逆らわず、てゐに従って歩き始めた。
てゐとの駆け落ち疑惑まであと30分の時の事だ。
うpろだ1429
荒れ果てた永遠亭の一室に佇む女が二人。
両者とも荒く息をつき、その息がこの惨状を作ったのが誰であるかを物語る。
「ところで師匠、てゐは何処に行ったんでしょうね」
片方の女、鈴仙が目を見開きながら言う。
「さあ、そこいらにでも隠れているんじゃないかしら」
他方の女、褐色瓶を持った永琳が答える。
「でもあの人もいないんですよね」
「あらあの人だなんて随分親しそうな呼び方じゃない」
露骨に怒りを浮かべながら鈴仙の言に永琳が返した、と思っていると直ちに永琳は平静な顔に戻る。
それにつられて鈴仙も落ち着いた表情に戻った。
「でも本当に何処に行ったんでしょ。部屋で不貞寝でもしてるのかしら」
「それより外に出ていたら大変じゃないですか?」
「大丈夫よ、一応武装はさせてるから」
鈴仙はあまり結び付けたく無い事柄を言う。
「でもそれがてゐとだったら?」
「前言撤回。ウドンゲ、発信機の座標を逐次送信するからそこに向かいなさい」
「了解。直ちに現場に急行します」
永琳の決定は迅速だった。鈴仙もその決定に即座に従う。
かくして保護・捕縛作戦が開始された。
永遠亭へと続く竹林の道を、てゐと二人歩く。
「大丈夫かな、永遠亭に戻って」
きょろきょろと辺りを見回しながら言う。
「もう二人とも落ち着いてると思うよ」
てゐは随分と冷静なもので、涼しげな顔をしている。
永遠亭の門扉まで来たが、爆音轟音は聞こえず静寂としている。
「確かに、もう大丈夫なのかな」
「そうそう。そんな鈴仙がいつまでも対抗できないって」
楽観的にてゐが言う。
「今日は散々な目にあったな。風呂でも入って早く寝るか」
「その前に姫様のこと言わないとダメだよ」
それもあったかと思って、気が重くなる。
いくら向こうも共闘していないとはいえ、それでも全員等しく二対一なのだ。
たぶん何か言われるんだろうなあと思いながら、俺は永遠亭の門をくぐった。
永琳がどこかの部屋に行き、程なくして一つの大きな箱を持ってきた。
中に入っているのは受信機一式だという。
「それで師匠、何処に行けばいいんでしょうか」
ヘッドマウントディスプレイとインカムを装備した鈴仙が尋ねる。
永琳が答える代わりに、操作説明を行う。
「まずHMDの中央に光点が見える? それがあなたよ」
「はい、見えます」
鈴仙が問いかけに答える。
「それで、そのほかの光点が大きな生命体。赤い光点が目標、つまりは彼よ」
「えー、はい判りました。じゃあ少し離れたところにある光点が師匠なんですね」
「そのとおり。それじゃ行ってらっしゃい。いい報告を頼むわ」
そう言って永琳は鈴仙を送り出す。
そのとき鈴仙が気付いた。
「師匠、赤い光点があります」
「本当ね、近づいてきてるわ」
モニタの倍率を操作しながら、永琳が言う。
「もうじき敷地の中に入ってくるわね。迎えに行きましょうか」
「そうですね。これ外しちゃいます」
そう言って鈴仙がヘルメットを取り、救急箱を取る。
「あら用意がいいわね」
永琳がそれを見て言う。
「ええ、四部屋に一箱常備してるんです」
何かあったら大変ですから、と鈴仙。
「いい心がけね、それじゃあ行きましょう」
白衣を着ながら、隣のふすまから出てきた鈴仙と合流し永琳が言う。
「師匠、その白衣何か入ってるんですか? 妙に重そうですけど」
その問いに、永琳は得意げな顔をするとおもむろに裾を翻す。
するとブラックジャックよろしく、裏地にぶら下がっている注射器が露になる。
「師匠、その薬は何なんですか?」
冷や汗を書きながら鈴仙が言い、永琳が答える。
「国士無双の薬四積みよ。ほかにも賦活再生薬があるわ」
その異常な装備に、鈴仙は何も言えなかった。
「静かすぎるな」
それが敷地に入っての第一声であった。
あんまりにも静かすぎる。普段ならもっと兎達の騒ぎ声が聞こえてもいいのだ。
だのに今は何の音もしない。まるで墓場だ。てゐも黙りこくってしまっている。
「!」
不意に何処からか足音が聞こえた。周囲を見回すが、特に何も見当たらない。
てゐも怖がったのか、背中に隠れてしまった。
周辺警戒を厳にして徐々に玄関口に近づいていくと、足音が止んだ。
怪しんで進行をとめると、突然に永琳と鈴仙が現れた。
「じゃじゃーん」
妙な効果音付きで。
消えていたのは鈴仙の波長変化なのだろうが、この永琳のはしゃぎようは何なんだろうか。
「おかえりなさい」
あんまりにもあんまりな登場に驚きを隠せなかったが、もうまともになっている。
それに少し安心しながら、ただいまと返す。
何処に行っていたのかと聞かれて、屋台に呑みにと答える。
ここで呑めばいいじゃないと言われたが、ドンパチやってる横じゃ呑めないというと反省したようだ。
「あれ、でもあなた一人で呑みに行ってたの? 迷わなかった?」
「いや、てゐもいるよ」
言って後ろに隠れているてゐに出てくるよう促す。
おずおずと出てくるてゐの姿を目にすると、永琳と鈴仙の目の色が変わった。
「そう。ところでてゐ、あなたは何をしていたのかしら」
ぎりぎりと本日二度目のアイアンクローを永琳から貰うてゐ。
てゐがタップして降参の意を示すと、永琳は手を緩めた。
「それで何処に行っていたのかしら、二人っきりで」
あくまでも緩めただけで、頭から手は離さない。つまりは返答次第ではいつでも握り潰せるという事だ。
「一緒にミスティアの所に飲みに、二人じゃなくてほかにも幾らか痛た痛いぃぃぃ」
「いや、その辺で。輝夜にもやられてるから」
「あらそう……今姫は何処にいるのかしら?」
やはり頭から手を離さずに、永琳が聞いてくる。
「向こうで、輝夜妹紅慧音で正真正銘デスマッチやってる」
「仕方が無いわねえ。ウドンゲ、ちょっと姫を連れ戻してきてくれる」
「はい、わかりました。……ところで何処にいるんです?」
「向こうって言ってたじゃない」
鈴仙の疑問は真っ当なものだ。そんなもので居場所が通じれば苦労しない。
「いや、向こうとだけじゃあ。ちょっと案内してくれますか」
「多分近づいたら爆音がするはずだから判るわよ。いってらっしゃい」
「小康状態になっていたら判らないじゃあないですか。案内は必要です」
また永琳と鈴仙が小競り合いを始める。きな臭いことになる前に俺はてゐを回収して家に入った。
部屋に戻り、洗面用具や着替えを用意していると、徐々に辺りが騒がしくなってきた。
屋敷の一部に荒れがあったので戦闘があったようだが、そのせいで兎達が引っ込んでいたらしい。
今は戦闘も収まり、安心したようで皆普段の平穏無事を取り戻している。
活気があるのはいいことだ、と思いながら風呂に向かった。
この風呂は時間によって男女用に分かれる。今の時間なら男向けだ。
服を脱いで風呂場に入り、体を洗って湯につかる。
もうじき男女切り替わる時間なので早いところ上がらないといけない。
「畜生、今日は疲れたなあ」
思っていた事が思わず口から出てしまう。年寄りくさいとは思うが仕方が無い。
腕だけで体を支え、全身を湯に浮かべる。他に誰かいればこんなことは出来ない、一人だから出来る芸当だ。
「今日はなんだったって言うんだいったい」
ぼやいても一人。淋しいが人に聞かせられる話でもない。
適当に一人で遊んでいると衣擦れの音が聞こえてくる。
あれもう時間かと思うまもなく、からからと戸が開き誰かが入ってきた。
その人物はまだ俺がいることに驚いた声を上げることも無く、体と髪を洗っている。
俺はそれを誰何もせずにただ見守る。無視というほうが近いかもしれない。
どうやら体を洗い終わったようで、蛇口から水の出る音が消えると湯船に近づき、入ってきた。
「……恥ずかしがったりしないのね」
少し離れたところに入ってから数分後、話しかけてくる。その声と髪の色から永琳だと判った。
彼女は拍子抜けをした様な、期待外れだったとでも言いたげな様な声で言う。
「眼鏡外してると碌に見えないし」
視力0.1を切ると顔なんてまるで見えない。加えて湯気と湯の色もあるので体つきもほぼ見えないと言っていい。
色で誰かいるかの判断はできるが、それ以上の情報は目だけでは大分接近しないと得られない。
「そう、それじゃあこうすれば恥ずかしがったりするのかしら」
言いながら背中に密着してくる永琳。
「うんにゃ、気持ちいいとは思うが、恥ずかしいとは思わんねえ」
「ならずっとこうしていようかしら」
「まあのぼせないうちは構いやせんよ」
そう言ってやると、永琳は抱きつく腕にさらに力を込めてくる。
気にはしないが、こそばゆいのはどうにかならんかなあと思いながらされるがままになっていた。
多少経ってからまたからからと戸の開く音がして、誰かが入ってくる気配がした。
「あれ師匠、こんなところで何やってるんですか?」
入ってきたのは鈴仙であった。彼女は真っ黒い何かを右腕に抱えている。
訝しんだのは永琳も同じで、彼女に対して問いかけている。
「ウドンゲこそ何してるの? 今は男用の時間よね」
「姫をお湯で戻しにきたんです」
「……姫を? あら本当干からびてるわ」
何を言ってるんだろうかこいつらは。見えないのが非常にもどかしい。
「大浴場で戻すわけにはいきませんし、こっちに来たんです」
「まあしょうがないわねえ。本当は水から戻したいのだけど」
永琳がため息をつきながら言う。
「大鍋に入れるって言うわけにもいきませんから」
「そうね。姫が入ってたらみんなびっくりするわ」
いってけらけら笑う二人。取り残される俺。
そして着物を着たまま湯に投入される輝夜。なんとカオスな。
輝夜を放り込むと鈴仙はすぐに風呂場を出て行った。
混浴に慣れていないのだろうか。初心な奴め。
「はー、生き返るわあ、文字通り」
湯に漬けること数分、輝夜が復活した。その暢気な様に俺は頭を抱える。
「どうしたの? そんな顔して」
「蓬莱人って死んでる間も意識があるの?」
浮かんできた疑問を投げつけるとすぐに返事が返ってきた。
「あるわけ無いじゃない、死んでるんだから」
「そうそう。なんでそんなこと聞くの」
「いや、なんだか随分都合よく生き返るんだなあと思って」
俺の疑問に輝夜が答える。
「生き返りやすくなるときはあるわ、状況によって」
「状況ねえ」
半信半疑といった体で俺が言うと輝夜が続ける。
「そう、精神寄りの存在になってるから生き返りやすいな、って言うときに生き返りやすいのよ」
更に永琳も続ける。
「詳しいこと知りたい? それなら後で部屋に来なさい。準備して待ってるわ」
「あら永琳、手伝ったほうがいい? 一人で大丈夫?」
輝夜の提案に永琳は迷い無く答える。
「そうねえ、出来れば姫も一緒でお願いします」
どうにも二人何をしたいのか通じ合っているようだが、それがなにかが判らない。
とはいえまあ、問題というのは他の所にもありそうで。
「じゃあお風呂から上がったら永琳の部屋まで来てね。来なきゃダメよ」
あれよという間に俺のこの次の行動が決定させられてしまった。暇だからいいんだが。
輝夜がツツと近寄って来る。
「じゃあ上がるまでは」
近寄りながら言って来る。
「永琳みたいにさせてもらうわね」
そう言って座ってる膝の上に乗ってきた。
「輝夜、重い。着物重い」
言うと前と背中の両方から打撃が来る。
「女の子にそんなこと言わないの」
永琳が言い、
「じゃあ脱いだ方がよかった?」
輝夜が言う。
「いや脱がないでもいいよ」
生地が痛みそうだがどうなるんだろうか、と思うが俺の関与することでもない。
「そう、それじゃ抱きしめて頂戴、永琳がやってるみたいに」
言われるがままに輝夜の腰に腕を回し、力を込めてやる。
着物越しにも判る華奢な腰周りに少し驚いていると、輝夜が嬉しそうに言った。
「そうそう、ずっとそうしててね。いいって言うまで」
少しして輝夜が頭をこちらに預けて、目を閉じた。
永琳は仕方が無いという風な顔をすると、俺の体から手を離し輝夜の腰に手を回す。
そうして俺がのぼせるまで、永琳と二人で輝夜を抱きしめていた。
うpろだ1438
「永琳、○○が欲しいわ」
月の姫様は無理難題を仰る。
また始まった、と彼女は溜め息をついた。
「彼に会いたいなら、また連れてくればいいじゃない。いつものように問答無用で」
「手元に置いて、問答を愉しみたいのよ。ずっと。十日に一度は貸してあげるから」
「まったく冗談ばかり。……二日に一度」
「彼から習ったの。週一」
「その割には面白くありません。……週に三日」
「貴女ほどじゃないわ。……週一」
貸し出し交渉に粘るその身は一見、主従ともどもケチ臭いことこの上ないがしかし。
「……わかりました。では最初の五日間は姫の日。残りは私ということで」
「ふーん、5―2か。まあいいわ。たまにはイナバ達にも貸したげなさいね」
「御意に」
流石は月の頭脳、といったところか。
その後、人里から○○という男の姿が消えたのが次の日のこと。
さらにその後、輝夜が散々に彼を弄くり弄び味わいつくして、たまに弄られ五日間。
そのまた後日、永琳が良きこと良からぬことを、愉しみ愉しまれ愉しみ合い二日間。
その次の日、彼女は漸く騙されたことに気がついた。
「えーりん! 謀ったわねえーりん!」
輝夜は最初の五日間、彼を手にする。
そして永琳は残り。
だが彼女は、決して一週間のうち五日とは言っていないのだ。
足音も荒く踏み込んだ輝夜。
そこにはやたらに艶々とした部屋の主がいるだけで。
「○○は何処! さっさと出しなさい!」
両手には何やら得体の知れない道具の数々。
二日の充電期間(彼女は当初そう受け取った)の間に彼と愉しもうと準備した小道具である。
「○○でしたら、姫の下知の通り。今日は因幡たちに貸し与えていますわ」
「くっ……」
しれっと永琳はのたまう。
己の発言全てを手玉に取られ、彼女は。
「──くケええぇぇぇ!!」
それはもう、凄いことになった。
鈴仙・優曇華院・イナバは帰路を急いでいた。
師に命じられた使いを漸く済ませたところだった。
「うぅ、なんで今日に限って……」
今日は○○がイナバ達に貸し与えられた日だというのに。
○○が永遠亭に引っ越し(ということになっている)て一週間。
輝夜と永琳の相手ばかりさせられていて、彼女らは挨拶一つろくに出来やしない。
せっかくの機会、だというのに。
朝方、貸出許可を告げられた彼女は同時にこうも宣告された。
『ウドンゲ、貴女は人里までお使いね』
波は一気に急転直下。
彼女は気づいているだろうか。
彼と逢えると言われた時の己が目に浮かんだ悦びに。
それを見て取った師の目に潜む粘ついた輝きに。
恐らく気づいてはいない、彼女は少し迂闊だった。
「ああ! もう夕方じゃない」
すでに半日が過ぎようとしている。
べそをかきながら、鬼気迫る勢いで仕事を終わらせた彼女ではあるが、それでも出遅れは如何ともし難い。
許された一日の、半分しか彼と一緒にいられない。
「……待てよ?」
しかしここでふと思いついた。
自分は今日の今まで大変に厳しい仕事をやらされている。
だというのに、その報酬ともいえる時間が半分とは余りにも酷い話だ。
その半分、イナバ全員に与えられた筈の時間。
その残り全部を自分が独占してもいい、いやそうするべきではないか?
「……うん、そうよね。私、苦労したし、頑張ったし」
イナバのなかでは一番偉いんだし。
それぐらいは許されて然るべき、寧ろそうするのが自然じゃないか?
残りの半日、つまり今夜は○○を独占。
その権利はある筈。
「うわ、うわ、どうしよ。夜に、○○と――」
二人っきり。
ちょっと遅めの夕餉を食べて、○○の背中を流して。
それから、それから。
夜で、一晩中なんだから。
一緒の布団に……。
「うわ、うわ、うわぁ――」
想像するだけで頬が火照った。
首まで瞳と同じ色に染まる。
どうしよう、恥ずかしい、けど。
でもそれは凄く、かなり――イイ。
もはや彼女の中では確定事項となったそのアイディアに後押しされ、弾むような足取り。
そのおかげもあってか夕日が沈む前に、彼女は永遠亭に到着した。
「只今もどりましたー、っと」
浮かれた兎、夢みて跳ねる。
その目は月など見ていない。
「あ、姫様。○○見ません、でした、か……」
少し注意してみれば察しはついたはずだ。
偶然通りかかった輝夜の、鬼気迫る様子が。
今、彼女の前でその名前を出すのがどれだけ危険なことなのか。
しかし残念ながら、彼女は少々迂闊に過ぎた。
「○○……」
「え、ちょ、姫様? 顔とかが怖いですよ?」
「○○を出しなさい」
「いや、私も見ての通り今帰って……」
「○○は何処だーーーー!!」
「ぴぎゃーーーー!!」
同刻、永遠亭の一室。
そこにはイナバがみっしりと詰まっていた。
その中心に男、○○がいる。
人型をとったもの、兎の姿のままのもの。
それら全てに枕か布団代わりにされて彼は埋もれていた。
朝からずっと食事中でさえも遊び構い続けて、漸く人心地ついた所なのだ。
イナバ達も大半が遊び疲れて眠ったり、あるいは静かに寛いでいる。
「……いま、鈴仙の悲鳴が聞こえたような」
「いつものことだよ」
流石に息苦しいのかややくぐもった声。
それに答えたのは彼が枕代わりにしているものからだった。
イナバ達皆が彼に身体を貸りている中で彼女、てゐだけは彼に膝を貸していた。
所謂、ひざまくらという体勢である。
「……それもどうかと思うけどね」
とは言うものの彼も助けに行こうとはしない。
以前の経験とそしてこの一週間で、永遠亭の日常と役割は概ね把握できるようにはなった。
そこに自分が入るとは、思いもよらなかったろうが。
「○○は、さ――」
「うん?」
ぽつりと、膝の上の顔を撫でながらてゐは呟いた。
凡庸な、取るに足らない人間の男の顔。今は。
「○○は、しあわせ?」
「んー……」
只の人間の癖にホイホイ誘いに乗って、やって来たは永遠亭。
そこで毎日毎日、輝夜の相手やら永琳の実験やらに付き合わされて。
今日だって動けなくなるまでイナバに引っ張りまわされて。
「輝夜の相手は楽しいし、永琳もあんまり無茶はしないし。鈴仙の愚痴だって酒の肴になる。
酒は旨いしメシも美味い。なんでこんなにも待遇がいいのか不思議だけど、それでもまあ――」
割としあわせだと、彼は笑った。
「それにてゐもいるし」
「……ふん、だ」
彼女の能力が故か、いやそれとも。
問い詰めれば聞きだせるだろう。
しかし、胸の上に乗せたイナバに引っ張られて「ああ、みんなもいるしな」などとニヤける彼に聞くのは癪だった。
そっぽを向いて紛らわすものの、その頬が僅かに赤いのはご愛嬌。
「馬鹿正直な人間は、嫌い」
「嘘吐きな兎は、大好きだな」
「~~~~っ!」
こんな風なことばかり言うから、彼女は彼が大嫌いだった。
ずんずんと近づいてくるプレッシャー。
殺気を感じ取り逃げ出すイナバ達に続いたてゐは、振り返っても一度だけ訊ねた。
「本当に、ほんとーに、しあわせ?」
「これから起こるだろう不幸が恐ろしく思えるくらいには、しあわせだよ」
○○ただ一人となった部屋の前。
足音が、止まる。
襖が、開け放たれる。
「こぉこかあ~~~~っ!!」
一歩間違えれば死合わせだけど。
隣にあなたがいるから、まあ、倖せ。
結局、騒動の末に正式なローテーションが組まれることとなった。
輝夜が3、永琳が3、因幡に1の七日間を繰り返し。
ただし独占権は夕餉の後から次の日の朝餉までに限られる(それ以外はあくまで優先権)。
「なあ永琳、俺に休みは? 安息の日は?」
「あら、面白いこと聞くのね○○は」
「あの師匠、イナバの日に決まって私に仕事が入ってるのは?」
「あら、面白いこと聞くのねウドンゲも」
「判りきっていることに、答える必要があって?」
「……ですよねー」
最終更新:2010年06月05日 00:18