ハーレム?19
新ろだ638,640
――出会いがあれば別れが存在する。
それは人であれば必ず体験するだろう。
だがそれは妖怪であろうが亡霊であろうが変わることはない。
たとえ運命が操れたとしても……
紅魔館にも図書館の魔女や瀟洒な従者が居なかった頃も存在する。
これは、そんな時に出会った吸血鬼姉妹と一人の青年のお話――
「もう朝か。……ねむい」
朝。
人里を少し離れた所に在る一軒家に柔らかな日差しが照りつける。
窓の外から聞こえてくる小鳥の囀りを耳にしながら僕は布団の中でそう呟く。
それから暫くは心地よい布団の中でまどろんで居ようと再び目を閉じる。
が、徐々に意識が覚醒していく。
そして再び目を開き誰もいない空間に向かって叫んだ。
「ああぁぁぁ。眠いのに寝れない!」
休日の微妙に眠いけど寝れないと言う状況に嫌気がさしたので僕はストレスを発散するように叫んでから起床した。
「釣れないなぁ……」
朝餉を取り一息ついたところで僕は釣りに行く事にした。
理由は簡単である。
夜食べるものが余り無いので夕飯の材料を釣ってしまおうと考えたのだ。
そして家の奥から釣り道具一式を取り出し此処霧の湖までやって来た。
それから2時間ほど餌を湖に落とすが一向に釣れる気配がない。
「あら……? こんな所に人がいるなんて珍しいわね」
思っていた以上に魚が釣れなくていっその事里に行って買い物にしようか検討し始めた時少し幼い声が背後から聞こえてきた。。
振り向く。そこには幼い少女が日傘を手に立っていた。
「君は誰かな?」
気付いたら女の子がすぐ近くまで来ていたので驚きつつもそう尋ねる。
すると彼女は少し思い出すかのように一瞬だけ視線を動かす。
「(えっと…)人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るものじゃないからしら?」
そして再び僕と目を合わせると口元に微笑を浮かべてそう言い返した。
「これは失礼しました。僕は○○と申します。以後お見知り置きを」
目の前の幼い少女が、見た目に反した言葉で話した。
それが凄く微笑ましくて僕はそれに合わせる様な言い方で名乗る。
普段なら決してしないような名乗り方で我ながら違和感満載である。
「そう……○○と言うのね。覚えておくわ」
しかし彼女はそんな僕に満足したのかうんうんと頷きながら僕の名前を口にする。
「ところで君は何と言う名前なのかな?」
そこで次は僕が尋ねる。
流石に違和感が凄いので先ほどのような言い回しは辞めるのを忘れない。
すると次は先ほどとは違い凛とした声で名乗る。
それは僕の思いもしなかった名前だった。
「え?」
最初は耳を疑った。
それはそうだろう。紅魔館の主と言えば此処幻想郷でもトップクラスの力を持つ妖である吸血鬼なのだから。
その吸血鬼が何故か幼い女の子でしかも真昼間から外出していて、僕なんかの目の前にいる。
非現実すぎて冗談を言っているとしか思えない。
「え…と。冗談ですよね?」
とりあえず僕は敬語でそう聞き返す。
万が一、目の前の女の子が本当に紅魔館の主なら対等に喋れるような存在ではないからだ。
それによく見たら可愛らしい背に大きな羽を生やしている。
この時点で普通の人間でないことは明白なので腰を低くしておく。
「私にそんな事で嘘を言う理由があるのかしら?」
彼女は訝しげにだが凛と響く声でそう聞き返す。
そして僕が疑っていることをすぐに理解したのかこちらを睨むように見る。
そして少しだけ羽が動く。
それだけで背筋がゾクリとする。
動作一々に情けない反応を起こしそうになるが気合で持ちこたえる。
彼我の力関係は兎も角、大の大人が幼い女の子に脅えさせられていると言うのはかなり情けないからだ。
そんなどうでも良いプライドのために僕は軽口を叩く。
「ですよね。僕なんかの前に紅魔館の主程の方が現れるとは思いませんでしたので」
内心では「こんな状況で何言ってるんだ僕は!」等と思っているのは内緒である。
どちらにせよ相手が妖では襲われれば歯が立たないので、彼女との会話をすぐに終わらせようと必死で頭を回転させる。
「ところで貴女は何故こんな所に?」
「ただの気まぐれよ。それとレミリアで構わないわ」
「ふむふむ……それではレミリア嬢、吸血鬼って日中出歩いても大丈夫なんですか?」
「たしかに日の光は苦手だけど偶には散歩でもしてみようかと思ったの」
「ほうほう。こう言ったらアレですけど……暇なんですか?」
世間話を少しして適当に切り上げようと思い会話を始めたのだが、何故か僕は軽口をたたく。
そんなつもりは無かったのだが、何故だか知らないがこの時はそうしてしまった。
「なっ! そ、そんな事は無いわよ!」
案の定彼女は頬を赤く染め怒ったように言ってくる。
しかし僕はさらに続ける。
「ではレミリア嬢は普段どんな仕事をしているのですか?」
「え?! いや、その…ええと……」
「どうしたんですか?」
「うぅ…」
すると案の定言葉に詰まる。想定通りの展開である。
最初の台詞を思い出すように言っていた事から、レミリア嬢は少し背伸びをしているように感じたからだ。
そして僕の予想通り言葉に詰まっている。
にやにやしながら見ているが、あまり度が過ぎると怒りを買うので助け船を出す。
「ああそうか。部外者である僕にそんな事教えられないのか」
「そ、そうなのよ。悪いけど教えるわけにはいかないわ!」
「これは失礼しました」
「ええ……許すわ」
すると彼女は助かったとばかりに続ける。
そして僕は少し笑みを浮かべた後謝罪する。
手玉に取られた手前強く出るわけにもいかないのか、納得できないという顔をしながらも彼女は許してくれた。
吸血鬼と言っても理不尽に襲ってくる訳では無いと解ったので、僕はしばらくレミリア嬢と話していた。
話してみると吸血鬼だからといって話が通じないわけではなく、むしろ話していると楽しいと思える人だった。
……この場合は吸血鬼だった。の方が正しいだろうか?
みた目どおり幼いだけかと思えば物事を鋭く指摘してくる。
その反面僕の軽口に向きになって反応してくれる。
当初あった恐れが、この少女と話しているうちにすっかり消え去っていた。
「そろそろ僕は帰ろうかな……」
楽しい時間と言うのはあっという間に過ぎてしまうのか、気が付けばもう陽が沈みかけていた。
僕は自衛手段をほとんど持っていない(逃げ足のみ有
よって夜になったら危ないので、レミリア嬢ともっと話していたいと思いつつも家に帰ることにする。
ちなみに話している間に三匹ほど釣れました。
「そう……。○○今日は楽しかったわ」
レミリア嬢は僕の言葉を聞いて少しさびしそうな顔をする。
が、すぐに微笑みを浮かべる。
「こちらこそ楽しかったですよ。それではさようなら……」
「さようなら○○……」
僕も同じように微笑みを浮かべて別れの挨拶を告げる。
そして彼女に背を向け歩き出す。
これで僕と彼女が会うことはないだろう。
そう思うと少しだけ、少しだけ寂しく感じた……
「○○!」
「……? なんですか?」
少し歩いたところで彼女から声がかる。
何事かと思い振り向くと――
「あ、明日もまた来なさいよ!」
――レミリアが少し困ったような顔をしてそう言った。
「……」
時間が止まった気がした。
今日だけだと思った彼女との時間がまだ続くとは思わなかったからだ。
出会って数時間しかたっていないが彼女にはそれなりに信用して貰えたようで嬉しく思ってしまった。
「……だめ?」
僕が何も言わずに固まっていると彼女は不安そうな声でそう聞いてくる。
「いいえ構いませんよ。ではまた明日」
そんな彼女をなるべく安心させるように僕は穏やかに答える。
それを聞いた時、夕陽の所為かも知れないが彼女の顔が少し赤くなっていた気がした。
───────────────
「釣れない」
レミリア嬢と昨日約束した通り僕はまた湖に来ていた。
彼女はまだ来ていなかったので僕は昨日と同じように釣竿に仕掛けをつけ湖に糸を垂らしていた。
結果は惨敗。
たまに引きを感じるのだが餌だけをを持っていかれている。
釣りを始めたやった時は餌だけとっていかれることにイライラしていたのだが今はそんな事はない。
それどころかこの微妙な駆け引きの応酬を僕は楽しんでいる。
釣り人と魚の一騎打ちは奥が深いのである。
「こんにちは」
それから又しばらく釣りを楽しんでいると後ろから声が掛る。
といってもだれかは予想が付いているので驚きもしないで前を向いたまま答える。
「はい、こんにちは」
「人に背を向けたまま挨拶を返すのはあまり感心できないのだけど?」
「それは失礼しました」
「はぁ……まあいいわ」
レミリア嬢である。
何気に声が震えている。
僕が振り向きもせず挨拶を返したことに若干御立腹の様子である。
この程度なら大丈夫だろうが機嫌を損ねたままなのは不味いと思いできる限りさわやかな笑顔で振り向き詫びる。
「はぁ……まあいいわ」
「ありがとうございます」
するとレミリア嬢はため息交じりで僕を許してくれた。
昨日そこそこ話しただけではあるが僕の扱いを覚えたようである。
まあ僕も彼女の扱いを覚えてきたところですが(笑
「今日も釣りをしているのね」
レミリア嬢は僕が昨日と同じで釣竿を片手に持ちながら話しているのに気付きそう言ってくる。
「ええ。まあ戦火は壊滅的ですがね」
今日のところは負け続けているので苦笑しながらそう言う
実際問題一匹も釣れていないのは不味い。
夕食の心配をしなければいけないからだ。
もしかすると今日は絶食と言うこともありうるので割と死活問題である。
「ふふ。それは大変じゃない」
そんな切り返しにレミリア嬢は愉快そうに笑みを浮かべながら僕の隣に座る。
若干日傘が邪魔なのは内緒である。
「まあまだ時間はあるのでそのうち釣れるかな?」
釣れないと色々と困るのだが、僕は暢気にそう続ける。
たまには釣れなくともいいか?等と思ってしまう。
何故か判らないけど彼女と話していたらそう思っていた。
「ところで○○」
「なんですか?」
「貴方はなにか仕事とかしているのかしら?」
「んーとですね。たまに魔道具とか作ってますね」
「魔道具って……人間なのにすごいじゃない!」
僕は一応魔道具職人をしていた。
簡単に言うと魔力や霊力を帯びた道具のことである。
「いえいえ。全然未熟なんで生活していく上で少し便利になる程度のものしか作れないんですけどね」
レミリア嬢が食いついてくる。
が、未熟な僕に作れるものは火を使わずに少量のお湯を沸かしたす器(ポットみたいなもの)等簡単な生活用品である。
熟練した魔道具職人は凄い武器など作ったりするらしいのだが僕には無理なはなしである。
「それでも凄いじゃない。自分の仕事には自信を持ってもいいと思うわ」
しかしレミリア嬢は僕を褒めてくれる。
褒められると言うのは良いのだが――
「いや……それ以前に魔道具作りは副業と言うか、趣味みたいなものですので」
――現実問題僕は定職についてるわけでもなくその日暮らしの生活であった。
NEETではないんだからね!
「あら? では何かしているのかしら?」
「……気ままにその日暮らしを楽しんでいます」
レミリア嬢が痛いところを質問してくる。
それに僕はなんとも言えない微妙な顔をして答える。
「あらら……」
何故か同情される。
しかし昨日の仕返しだと言わんばかりにニヤニヤしているのは気のせいではないだろう。
「いっそ誰かに弟子入りでもしようかなぁ……」
彼女の表情を見ているとなぜか負けた気がしたので本気でそんな事を考えてしまった。
「んー。不味いなぁ」
レミリア嬢と話しながら釣りをしていたのだが、一匹も釣れないで辺りが夕焼けに染まり始める。
最初は釣れなくてもいいか、等と思っていたが本当に釣れないとなると焦ってくる。
どうしたものかと考えこんでしまう。
「どうかしたのかしら?」
そんな僕に気付いたのか彼女は僕にそう尋ねる。
若干恥ずかしかったが、嘘を言っても仕方がないので僕は正直に答える。
「いやですね…まったく釣れないので今日の夕食どうしようかと思いまして」
「ああ、なるほど」
彼女は僕の今日の戦果を見てあっさりと納得する。
戦火無じゃ当然ではあるが(泣
「そう……なら私が夕食を招待しようかしら」
「いいんですか?」
彼女に言っても仕方がないと思っていたら、まさかの救いの手が差し伸べられる。
「駄目なら最初から誘わないけど?」
「たしかに」
「いや、冗談と言う可能性も捨てきれないので」
「なんでそんな事で一々冗談言わないといけないのよ」
「……なんとなく?」
「はぁ…もういいわ。結局夕食は御馳走しなくていいのかしら?」
「……御馳になります」
「よろしい」
まさかの申し出だったのでつい嬉しくなり軽口で返す。
レミリア嬢はそんな僕に呆れたかのように溜息をつきながらもどこか楽しそうだった。
――青年&発展途上カリスマ移動中――
「凄く……紅いです」
紅かった。
何と言うか……紅かった。
紅魔館と言うだけはあり屋敷全体が血のような赤で塗装されている。
遠くから眺めていた時はそれほどでもなかったのだが、いざ近くでその異様な雰囲気に見ると圧倒されてしまう。
しかし流石は吸血鬼と言えばいいのかレミリア嬢はこの屋敷を前にしてもほとんど違和感を感じなかった。
「ぼさっとしてないで早く来なさい」
「あ、はい」
いつの間にか扉が開き半歩ほど入ったところでレミリア嬢が急かすように言う。
害はないと解ってはいるのだが、僕は入るのを一瞬躊躇した後紅魔館に足を踏み入れた。
僕が中に入ったのを確認するとレミリア嬢は「いくわよ」っとだけ言いすたすたと歩いて行く。
外に居た時とは別人のように冷たい雰囲気を醸し出しながら悠然と歩いて行く。
それに僕は慌ててついて行った。
彼女について行くうちに数人のメイドらしき妖精とすれ違う。
彼女たちはみな主であるレミリア嬢に挨拶をした後僕に軽く会釈をする。
レミリア嬢はそれに視線だけ動かし進んでいき、僕は会釈を返しつつそんな彼女の後ろを歩いて行く。
これが紅魔館の主としてのレミリア嬢なのか、っと感心すると同時に少し無理をしているのかと心配になってくる。
それぐらい湖であったときとは別人のように感じていた。
食堂に入りレミリア嬢が席に座る。
「どこでも好きな所に座りなさい」
「はい」
僕は彼女の言うとおり適当な席に座る。
暫くお互いに無言で待っていると料理が運ばれてきた。
どの料理も僕が食べているようなものと違い、どの料理も見た目は色鮮やかで食欲をそそる良い香りが漂っている。
「それではいただきましょうか」
「はい。いただきます」
そして二人して無言で食事をとる。
料理はとても美味しいのだが……
「……」
「……」
お互い無言なので食べるので空気が重い。
この状態では料理を楽しむ余裕がなかった。
しかし館の主であるレミリア嬢が何も言わないのに、客でしかない僕が話しかけるのも失礼だと思い結局は無言で食事が進んでいく。
正直な話、屋敷の中のレミリア嬢は外と違いすぎるので困っていたのである。
吸血鬼としての威厳を保つためか、屋敷の中では外のように穏やかではなく凛としているので軽口を言うのも憚られる。
さてどうしたものか?等と考えていた時だった――
「お姉さま! お帰りさない!」
――明るい声が聞こえてきたのは。
「あらフランどうしたの?」
「お姉さまが戻って来たから一緒にごはんを食べようって思ったの!」
「そう……ふふ。じゃあ用意させないとね」
「うん!」
重苦しい空気を打ち砕いたのは金髪の女の子だった。
そしてそのままレミリア嬢に軽く抱きつく。
いかにも元気そうな子で、レミリア嬢に抱きついたまま楽しそうに笑っている。
そんな女の子にレミリア嬢は少し微笑みかけながら話を聞いている。
何気に屋敷に入って初めて見た笑顔である。
レミリア嬢をお姉さまと呼んでいるので二人は姉妹なのかな?などと思っていた。
「レミリア嬢その子は?」
二人の会話が一段落ついたところで僕はそう尋ねる。
会話の内容とレミリア嬢の表情で大体の関係は予想できているが一応確認はとっておく。
「私の妹で
フランドール・スカーレットよ」
「そうですか。はじめまして○○と言います」
「はじめまして○○! フランってよんでね」
「はい解りましたフラン嬢」
「よろしくね○○!」
そしてお互い自己紹介を終えたところでフラン嬢の食事が運ばれて来た。
フラン嬢を交えて再び食事を取り始めた。
「○○~」
「なんですか?」
「お姉さまとはどうして知り合ったの?」
フランドール嬢が加わったところで先ほどの重苦しい空気とは違い和やかな雰囲気で食事が進んで居た時に、何気なく聞かれる。
レミリア嬢とどういう経緯で知り合ったのかを。
いかにも興味津々と言う表情で聞かれているので早速答える。
「そうですね……釣りしているところに話しかけられました」
「それだけ?」
「それだけですねぇ」
「ええー! つーまーんーなーいー」
「いやいや。そんな事言われましても……」
レミリア嬢と知り合った時の話をするとなぜか文句を言われる。
実際これだけなのでどうしようもない。
最初は面白おかしく脚本しようかと思ったのだがレミリア嬢に何を言われるかわからないのでやめておいたのは内緒である。
「……その時にですね」
「うんうん」
「達磨がタンスから落ちてきてそいつに当たったんですよ」
「あはは、なにそれー!」
それからも色々とフラン嬢に聞かれる。
その殆どが他愛もない事なのだが彼女は楽しそうにしている。
僕も妹ができたような気がして気分よく話していた。
ふとレミリア嬢を視る――
「……」
――無言で睨まれました(汗
きっとフラン嬢と話してばかりで空気になっていたのが気に入らなかったのだろう。
「ねぇ○○?」
「はい?」
「ちょっと手をどけてー」
「?」
食事が終わりフラン嬢が僕の傍に来てそう言う。
僕はよくわからないが取りあえずは手をどける。
「えへへー」
「え!?」
「なっ!?」
三者三様の反応。
まあ僕とレミリア嬢は似たようなものだが。
簡単に言うと僕が手をどけたらフラン嬢が膝の上に座ったのである。
「あったかいー」
「ちょ、フラン嬢!?」
まさか膝の上に乗られるとは思ってなかったので焦る。
レミリア嬢を見ると目が点になっている。
助けは期待できないと思い何とかしようと思ったのだが――
「んん~。……すぅすぅ」
彼女はそのまま直ぐに眠ってしまった。
再びレミリア嬢を見る。
今度は目が合う。
僕が困ったように笑うと彼女も似たように笑ったのだった。
「ところで○○」
「なんですか?」
フラン嬢が完全に眠ったのを確認した後にレミリア嬢に話しかけられる。
「ものは相談なんだけど紅魔館で執事をしてみない?」
「はい?」
まさかの申し出に驚く。
「んん~~」
僕の声で一瞬フラン嬢が目を覚ましそうになる。
(声が大きい!)
(もうしわけないです……)
彼女を起こさないように二人して小声で話す。
ついでにフラン嬢の頭を軽く撫でておく。
昔自分も親に頭を撫でてもらったら安心してよく眠れたからだ。
それを思い出した時にはもう手が動いていた。
「ん……zzz」
それが良かったのかフラン嬢は再び眠ったようだ。
彼女が穏やかに眠っている姿が微笑ましくて僕は少し笑みを浮かべる。
ふと視線を感じてレミリア嬢を見る。
すると彼女は少し驚いたような顔をしていた。
「どうかしましたか?」
「いや優しい顔をしていると思っただけ」
「……照れるからやめてください」
「ふふ」
「むぅ」
レミリア嬢に自分の表情を指摘される。
褒められてはいるのだろが気恥ずかしくなる。
そしてそっぽを向くと案の定笑われてしまった。
「それでやって貰えるのかしら?」
「そうですね……すぐには答えられそうにないので一日もらえませんか?」
「ええ良いわよ。良い返事を期待しているわ」
「ありがとうございます」
執事になるかどうかという件について聞かれる。
返事は大体決まっているのだが一応時間をもらう事にした。
「それから○○。今日はもう遅いから泊って行きなさい」
「いいのですか?」
「このまま追い出したら貴方死ぬんじゃないかしら?」
「ですよねー。ではお世話になりますね」
「ええ。ゆっくりして行きなさい」
夜も遅いので紅魔館に泊まっていけることになった。
断る理由はないので僕は好意を受けることにした。
そして僕は宛がわれた部屋に連れられて行った。
ちなみにフラン嬢はレミリア嬢に引き取ってもらいました。
トライアングル(新ろだ739)
―魔法の森・霧雨邸―
“第弐回神無月外界ツアーのお知らせ”
目が覚めると、テーブルの上にそう書かれたチラシが置いてあった。
「もしかしなくても紫の仕業か」
一年前も同じことをやっていたのを思い出す。“外”の文化に触れる貴重な機会だって香霖の奴も喜んでいたっけ。
コーヒーを啜りながら目を通していると、ある一文に目が留まった。
“※カップルに限る”
先日の異変でより絆が深まったカップルにはもってこいの企画。しかし珍しいな、あの紫が…あ。
「自分がやりたいだけじゃないか」
結局いつもの気まぐれか、と一人ごちて空になったカップ片付ける。
―妖怪の山―
「文様ー、○○さんをお連れしましたー」
白狼天狗に連れられ、敷居を跨ぐ。危険なのは判るが、毎度抱えられながら飛んで来るというのは慣れないもんだ。
居間に通されてしばらく待っていると、見知った黒髪が姿を現した。
「○○さん。いつもご苦労様です」
「いや、こっちこそ載せてもらってありがとな」
俺の職業は小説家、と言えば聴こえは良いが、目の前の少女が発行している新聞の片隅に連載しているだけなのが現状だ。
しかしいずれは本も出して、ベストセラーになって、一人でも多くの人…いや、妖怪にも読んでもらえるよう日々努力の毎日である。
「ほい、今回の分の原稿」
「いつもありがとうございます。結構好評なんですよ、これ」
それは何より。やっぱり自分で創った物で誰かが笑顔になるというのは良いもんだな、うん。
「はい、原稿料です。それからこれも」
「? 何々…、外界ツアー…?」
主催者は…ああ、あの隙間妖怪か。外界…外の世界か。
「○○さんも外来人でしたよね。いい帰郷になるんじゃないですか?」
「帰郷…ねぇ」
彼女の言うとおり、俺は外来人。元はこの幻想郷の外の世界の住人だ。
確かに俺が向こうに行くのは帰郷になるが…
「カップルに限るとありますぜ」
「またまた、相手がいないとでも言うつもりですか?」
ニヤニヤしながら言いやがってこのブン屋は。なまじ間違っちゃいないから反論もできない。
「この間の異変の時も話してないって聞きましたよ。いい機会じゃないですか、誘ってあげたらどうです?」
「む…」
あんまりベタベタするのは嫌いなんだよ…ってちょっと待て。
「なんで知ってんだよ」
「ブン屋の情報網をなめてもらっちゃ困ります。ふふん」
これからはもうちょっと周りに気を配ろう。主にプライバシー的な意味で。
「何でしたら私がご一緒しましょうか?」
「却下」
即答ですか、と苦笑い。心にも無い事を言うからだ。
「だったらこんな所で油売ってないで、本命誘いに行ってくださいなっ」
「話振ったのそっちじゃ…いたたっ、引っ張るなって」
「椛ー、○○さんのお帰りですよー」
「すみません○○さん。まったく、文様は…」
山を降りながら謝る椛。上司と比べて部下は礼儀正しくてよいよい。爪の垢でも煎じて飲んで貰いたいものだ。
「気にしてないさ。それより、今日は自宅じゃなくて…」
「魔法の森にお送りすればいいんですね、了解です」
…顔に出てるんだろうか。
「遊びにきたよん」
「ホント唐突な、お前」
せっかく会いに来たというのに。そんなしかめっ面してると、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。
「…恥ずかしい事言うな、馬鹿」
本心なんだから仕方あるまい。
「で、上がっていいのか?」
「…コーヒー淹れるから上がって待っててくれ」
りょうかーい。
「で、最近どうなんだ?」
「どうなんだ、というと?」
仕事だよ、と続ける魔理沙。
「何だ、読んでくれてないのか?」
ちょっとショック。
「新聞のは読んでるさ。他には無いのか?本を出したとかさ」
「…順調だヨ」
「目を逸らしながらじゃ説得力ないんだぜ」
ちっ。
「まぁぼちぼちやってくさ。っと、そうだ」
「?」
「これ。一緒にどうかなと」
言いながら外界ツアーのビラを見せてやる。天狗の受け売りじゃあないが、確かにここずっと会ってなかったしな。
「なんだ、○○の所にも来てたのか」
言って指差した先に全く同じビラが。なんだ、知ってたのか。
「それなら話は早い。行かね?」
「んー…」
「俺としては行きたいんだけど。帰郷も兼ねて」
「帰郷…」
ありゃま、あんまり乗り気じゃない?
「無理にとは言わないからさ。まだ日があるし、考えておいてくれ」
言って席を立つ。何か面白そうな本は無いかな~と…
物色するべく背を向けると、椅子の倒れる音と共に背中を衝撃とぬくもりが襲う。
抱き付かれた気づくのに殆ど時間は要らなかった。
「どした?」
返事が無い。ただの魔理沙のようだ。
繰り返そうと口を開いたところで、
「帰りたく…ならないか?」
言ってる意味が、良く分からなかった。
聞こうととした俺の言葉を遮って、魔理沙が言葉を続ける。
「里帰り…なんだろ?」
なーる、そういうこと。まったく、うちのお姫様は。
「Q1.俺とお前の関係は?」
「…恋人」
「その恋人である俺が信じられないか?」
「…最近、会って無かった」
「…寂しかった」
回された両手に力が入る。
「心が…離れたんじゃないかって」
…ったく、恋人失格だな、俺。
両手を後ろに回し、脇腹をつついてやる。
「ひゃっ!?」
拘束が緩んだ隙に体を180度反転。正面から抱きしめてやる。
シャンプーのいい香りが鼻をくすぐる。あー良い匂い。
「○○…?」
「Q2.魔理沙は、実家を出たんだよな?」
「…うん」
「Q3.じゃあ何で帰ろうと思わない?」
「そりゃ、ここが好きだから…あ」
そう。それが答えだ。
「俺の居場所は、ここだから」
「うん」
「それと、構ってやれなくて…ごめん」
「うん」
それともう一つ。
「外界ツアー、思いっきり楽しもうな」
「…うん」
体を離し、魔理沙の顔を見る。これからは泣かせないようにしないとな。
「…ん…」
久しぶりのキスの味は、ほろ苦かった。
朝日と鳥の囀りで目が覚めた。
ちなみに昨日は霧雨邸に泊まった。泊りがけで何をしたかはここでは割愛する。
隣には、俺の大事な大事なお姫様の寝顔。この顔を曇らせるくらいなら、少しくらいベタベタするのも悪くない。
先の異変の再来を、ちょっとだけ期待する俺であった。
ちょっとだけ、な。
―外界・京都―
――こ―
――れ―こ!
―蓮子!
「ひゃい!?」
友人の声に驚いて、持っていた本を落としてしまう。
「大きな声出さないでよメリー、ビックリするじゃない」
「ボーっとしてるのがいけないんでしょ」
「ごめん…」
メリーはため息をつくと、
「また、彼の事?」
図星だった。返す言葉が見つからない。
そんな私を見て二つ目のため息。
「ほんと、どこに行っちゃったのかしらね」
○○が、居なくなった。
元々放浪癖のある人だったけど、長くても二、三ヶ月しか家を空けなかった。
二年は長過ぎる。
家族の方も心配して警察に捜索を依頼したみたいだけど、見つからずに現在に至る。
死んだ、なんて言う人達もいる。そう考えるのも仕方が無いのかもしれない。
けれど、私は生きているって信じてる。きっとメリーも。
ううん、私の場合、願いでもある。生きていて欲しい。失いたくない。
恋、なのだろうか。
確かめようにも、彼はいない。私の気持ちは、宙ぶらりん。
会いたい。会って話がしたい。この気持ちを確かめたい。
「○○…会いたいよ」
運命の時は、目前に。
つづかない。
最終更新:2010年07月31日 00:18