ハーレム?20



トライアングルその2(新ろだ739)



懐かしい音が聴こえる。

まな板を打つ音と、自分を呼ぶ声。

いつものように談笑しながら朝食を摂り、いつものように行ってきますの挨拶。

通い慣れた道を行き、代わり映えの無い講義を受けて。

その後の予定は決まっている。

馴染みの二人のいる、あの場所へ―――


意識が現実に引き戻される。

我ながら単純だ。里帰り前夜に昔の夢を見るなんて。

遠足前夜の子供か、と一人ごちて眼を開ける。と、

息のかかる距離、

最愛の人の顔がそこにあった。


おいおい、これは恋人の距離だぞ。…ああ、恋人だった。

しかもご丁寧に目も瞑ってる。これじゃあこれからキスしますよって

言ってるようなものじゃないか。

考えている間にもゆっくりと近づく唇。

このまま受け入れてもいいが…

「…魔理沙?」

言った瞬間、跳ねるように顔を離す魔理沙。

その驚きようを見るに、俺の眠っている間に済ますつもりだったようだ。

「お、おはよう」

「ああ、おはよう魔理沙」

体を起こす。窓の外には雲ひとつ無い青空。いやいや、晴れて良かった。

せっかくの旅行だってのに曇天じゃあ気分も盛り下がる。

「で、何で魔理沙が我が家に?」

昨晩泊めた記憶は無い。

問われた魔理沙はあっはっはーと頭をかきつつ、

「今日はいつになく早くに目が覚めちまって」

子供かお前は。いや、人の事は言えないが。

「旅行の事を考えたら居ても立っても居られなくなって」

それで来た、と。

鍵は?とも思ったが、ドアノブのあったはずの所に空いた穴を見て考えるのを止めた。

「まあいいや。コーヒー淹れるからちっと待っとけ」

言って立ち上がろうとする俺を魔理沙が慌てて押し留める。

「私がやるって。起きたばっかで頭働いてないだろ?」

そんな事よりドアノブ直せよ、という言葉を飲み込んで素直に従う。

道具の場所を教えてやると、

「ついでに朝ご飯もご馳走するぜ」

そう言って魔理沙は台所に向か…おうとした足を止めこちらに向き直り、


ちう、と。


キスされたと気付いた時には既に魔理沙は台所に向かっていた。

真っ赤になった耳を見れば照れているのは丸分かりなわけで。

「……結局するのかよ」

鏡を見るまでも無く、自分の顔も赤いんだろうなと思った。


「到着!外・界!!」

朝食を平らげ支度をし(もちろんドアも直させた)、主催者である八雲紫の案内で、外界にやって来た。いや、帰って来たと言うべきか。

数年ぶりに吸った故郷の空気は幻想郷と比べるとお世辞にも美味いとは言い難いが、懐かしい味がした。

「期間とか集合場所とかはさっき渡したしおりに全部書いてあるから。それじゃね~」

そう言い残してスキマに消える紫女史。あれもこれから旦那と外界ツアーを堪能することだろう。

「○○、まずはどこに行くんだ?」

隣に立つ魔理沙が問う。色々見て回りたい所、見せてやりたい所はあるがまずは、

「実家に帰ろうと思う」

二年も連絡一つしなかったから心配してるだろうし、何より魔理沙を家族に紹介したい。

「そか、それじゃあ早速行こうぜ。こうしてる時間も勿体ない」

ついこの間行くのを渋っていたとは思えない張り切りようだ。原因は俺だが。


「……やっぱやめようか」

「ここまで来て何言ってんだよ」

今目の前に、懐かしき実家があるわけなのだが。

ここに辿り着くまでに、靴紐は両方切れ、黒猫一家が三度前を横切った。コーヒーカップも真っ二つに割れたっけ。

正直いやな予感しかしない。しかしまあ魔理沙の言う通り、ここまで来てバックれるわけにも行くまい。

意を決し呼び鈴に手を伸ばし、

「じゃあちょっと出掛けてくるねー」

呼ぶまでも無くドアが開いた。心の準備くらいさせてくれよ神様。あの神々じゃあ期待できないか。

出てきた人物、我が妹といえば俺の顔を見て静止している。そんなに見つめられるとお兄ちゃん照れちゃうよ。

数秒の沈黙の後、

「兄さん…?」

動揺しているのが見て取れる。謎の失踪を遂げた人間が突然目の前に現れれば、誰だって動揺もするか。

「久しぶりだな。相変わらず胸は薄いままか」

俺の声に我に返る妹。と思ったら手を引かれて家の中に連れ込まれる。外見もそうだったけど、中も全然変わってn


………
……


あ…ありのまま今起こった事を話すゼ!

『俺は久しぶりに妹の顔を見たと思ったらいつの間にか逆さ吊りにされていた』

な…何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

「久しぶりねえ、○○」

「……お久しぶりです、母上」

頬に手を当て微笑む母。相変わらず笑顔が素敵です、目が笑ってないけど。

それより頭に血が昇るんですが。

「降ろして頂けるとうれしいです」

「それは無理な相談ねえ」

何故にWhy?いや、わかるけどさ。

「二年も連絡一つ寄越さなかったオシオキ♪」

妹が続く。余計な所ばかり似やがって。

自分の頭上、いや、逆さになってるから正確には頭の下には水を張ったバケツが。そして母の手には俺の体を吊るすロープ。これはつまり…

「あら、手が滑ったわ」

「がぼがぼガボ!?」

ちょ、止めて!陸で溺れるとか無いから!!

「何か言う事は?」

引き上げながら問う母の笑顔は絶えない。俺はこの笑顔が怖い。

「す…すんませがぼガボ」

「それだけ?」

上げて!ちゃんと言うから上げて!!

再び引き上がる俺の体。うぁ、鼻に水入った。

「げほっげほっ…はぁ…」

「何か言う事は?」

繰り返される問い。

「……心配かけて、ごめん」

その瞬間、母の手からロープが離れるのを見た。

三度水没する俺の顔。と言っても支えであるロープが放されたからバケツが倒れ、溺死の危険から開放された。

周りは完全に水浸し。逆さ吊りからは開放されたが体は縛られたままなので、さながら芋虫のように体をくねらせながら起こす。

「おい!急に離す…な…」

言い終わる前に、母に抱きしめられた。

今さっきまで水に浸かっていた所為か、ぬくもりが余計に暖かく感じる。

「心配……したんだから」

言葉が胸に刺さる。そりゃそうだ。二年という時間は笑って済ますにはあまりに長い。

だから俺は、心配をかけた事への謝罪と変わらずに受け入れてくれた事への感謝を込めて、

「……ただいま」

「……おかえり」



「そういえば父さんは?」

タオルで髪を拭きながら聞いてみる。

妹がいた事からもわかるが今日は日曜日。てっきり全員いるかと思ったのだが。

「たまたま仕事よ。帰ってきたらちゃんと謝りなさい」

母の返答に唸る俺。雷が落ちない事を祈るばかりだ。

「それで、今までどこで何やってたの?」

妹の問いに、どう説明したものかと考え……

「あ」

慌てて玄関に向かいドアを開けるとそこには、

「………」

最愛の人(笑)が玄関先で体育座りしていた。

いかん、すっかり忘れていた。

「あの……魔理沙さん?」

無言でこちらを向く。目に光が灯ってない。

「私は……いらない子じゃないよな?」

「……すまん」

不可抗力だけどとりあえず謝っておいた。

「どうしたの兄さ…って、どちらさま?」

奥から顔を出した妹に俺は少しだけ考えて、

「えっと……嫁です」

目が点になるってこんな顔なんだろうな、と思った。


翌朝、目が覚めて最初に目に入ったのは懐かしい天井だった。

嫁と紹介した魔理沙を家族はすんなり受け入れてくれた。馴れ初めだのファーストキスはいつだのやる事やったのかだのまくし立てるように聞く母や妹に呆れたが、真っ赤になった魔理沙が可愛かったのでよしとする。

ちなみに父とも話したが、「後悔していないのならよし」とだけ言われた。全く、感謝してもし足りない。

現在時刻は午前五時ちょうど。

こっそり隣の、妹の部屋を見ると、魔理沙と二人仲良く夢の中。どうやら自分以外誰も起きてないようだ。

わざわざ起こすのも躊躇われるので、散歩にでも出る事にする。


珍しく朝早くに目が覚めた。

今日の講義は三限からなので、自宅で昼食と摂る余裕さえある。だというのに妙に目が冴えてしまい、二度寝は出来そうにない。

降って沸いた空き時間に戸惑ってしまう。友人に電話でもしようかと考えたが、

「こんな時間じゃメリーも寝てるか」

自己解決。しかし現状は変わらない。

「散歩でもしようかな」

考えていても仕方が無い。早朝散歩というのもたまには悪くないか。



十月に入った事もあり、外は随分と冷える。けれど天気はいいので日中はそれほど寒くはならないだろう。

時間が時間なので、辺りは閑散としている。通い慣れた道なのに人気が無いだけで新鮮に見える。

見慣れた建物が見えて来た。意識せずに大学まで来てしまったようだ。そんなに勉学熱心なつもりは無かったけど。

当然のように正門は閉まっている。ため息一つこぼし、踵を返そうとした所で人影に気付いた。こんな時間に変わった人だ。

「はは、変わってないなーここも」

時間が止まった気がした。

忘れるはずが無い。何度も聴いた声。もう一度聴きたいと思っていた声。

息が詰まる。言いたい事が沢山、たくさんあったはずなのに。

それでも声を絞り出す。呼び止めるように、縋るように、求めるように。

「○○!!」

振り返る。二年ぶりに見た彼は、少し大人びて見えた。

「……蓮子、か?」


止まっていた時計が、再び動き出す。

違う時を刻む為に。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺は続かないつもりで書いていたと思ったらいつの間にか続きを書いていた。

な…何を言ってるのか(ry

書き終えるまでに、霊夢とアリスと聖おばあちゃんとゆうかりんと咲夜さんに浮気してました。聖さんの膝枕は幻想郷一。



新ろだ780



――やや、そこにいるのはロリコンと名高い○○さん。

誰がロリコンだゴシップ大好き鴉天狗めッ。

――あや。でも……

なンだよ、ニヤニヤしやがって。

――貴方の交友関係を見直してみてはいかがでしょうか。

あン?交友関係……ねぇ。

――きっと否定はできないはず、ですよ?

神社に行くのは萃香と酒飲むのが目的だし、
ミスティアの嬢ちゃんが酒代メシ代タダにしてくれるっつーから、
よく3バカ+ミスティアの嬢ちゃん相手に遊んでやったりもしてるな。
紅魔館では館主の嬢ちゃんに入場料代わりに血くれてやって、
図書館よるついでに妹ちゃんと遊んでやって。
そういやァこの前は地獄猫の嬢ちゃんに連れられて地底遊びに……あ、あれ?

――ね?

いやまて。こ、これはあくまで遊んだりとかする交友関係であってだな!
俺自身は清純なお姉さん系が大好きなんだぞ!?

――ほほーう。例えを出すならどなたが?

例えか……これ、オフレコにしてくれるか?

――えー……折角の美味しいネタを……

水道水、3本。

――仕方ないですね、それで手を打ちましょう。

……チッ、割に合わねぇ。

――まま、運が悪かったと思って。それで、誰なんです?

そうだな、寺小屋の慧音先生とか、以前宴会で見かけた白玉楼の主とか……

――……それはまた、高嶺の花ばかりですね。

五月蝿ェよ。理想くらい高く持ってたっていいだろうが。

――思うだけなら自由ですもんねー。

いちいちトゲのある言い方する奴だな、お前。
俺ン中で好感度ランキングがちょっと下がったぜ。

――あや。ちなみに今私はどれくらいです?

ケツから3番目。

――レディに対してそれはちょっとひどいんじゃないですか。

冗談だ。冗談だからその団扇を下ろせ。

――もっと誠実に生きれば死後が楽ですよ?

殺す気かよ!俺は理想の恋人と大往生を遂げるんだ!

――……そうですか。で、結局私はどのくらいの順位なんですかー?

……さーて、そろそろ晩飯の準備しなきゃいけない時間だ。それじゃあな!

――あっ、ちょっと、○○さーん!?……行っちゃった。
――結局私って何番目くらいなんだろ。



トライアングルその3(新ろだ806)



正直、戸惑っていた。

予期せぬ再会。暇つぶしに散歩に出た先で、古い友人に出会ってしまった。

別に会いたくなかったわけではない。むしろどちらかと言えば会いたかったのではあるが。

それにしてもあまりに唐突だった。まさかこんな早い時間に外出しているなんて思いもしなかった。

これがB級恋愛映画のワンシーンならここから二流作家の書いたシナリオのようなラブストーリーが展開されるだろうが、こちとら純100%混じりっけ無しの現実である。そんなラブコメ展開は期待できるはずも無い。そもそも俺には既に嫁が居る。

そんな腹の足しにもならないようなくだらない事が頭の中を駆け巡る間、目の前の少女からは何の声も発せられていない。いつまでもだんまりでにらめっこというわけにもいくまい。

「よお。久しぶり」

右手を挙げて話しかけた。けれど相手は何の反応も無い。聴こえなかったと言うには周りが静か過ぎる。

リピートしようと口を開いたところで、向こうからこちらに歩み寄ってきた。何だ、聴こえてるじゃないか。

元々の身長差と俯いている所為で表情が読み取れない。とりあえず笑顔で話そう。

が、言葉を発する前に頬を叩かれた。痛いじゃないか。

思わず睨んだ蓮子の顔は俺の顔を見上げていて、目にはうっすら涙が溜まっていた。

女とは思えない力で俺の胸ぐらを握り締め、

「馬鹿!!!」

最初に言い放った言葉は罵倒だった。

「いきなり何も言わずに居なくなって!何様のつもりよ!!」

捲くし立てるように言葉を吐き出し続ける。

「それも二年よ!?ふざけんじゃないわよ!!一言ぐらい残していきなさいよ!!」

真っ直ぐ俺の目を見て怒鳴り続ける様から、どれだけ怒っているかが伝わってくる。

いや、怒りだけじゃない。

「心配…したんだから…!」

二回も同じ台詞を言われてしまった。

それだけ心配かけてたんだと申し訳なく思ったがそれ以上に、心配してくれたことに対する嬉しさが込み上げて来た。

相手に失礼だと思っていても、思わず笑みが毀れてしまう。

「……ただいま」

「……おかえり」



所変わってここはメリーことマエリベリー・ハーン宅。

感想の再会の後蓮子は俺を強制的に拉致り、その足でメリー宅へ。携帯電話でたたき起こして家に上がり、現在に至る。

見ればメリーはまだ寝足りないのか、時折欠伸をかみ殺している。こんな時間に起こされたんじゃ無理も無い。

それにしても女の子の部屋というのはどうも居心地が悪い。

「で、今までどこで何をしていたのかしら?」

コーヒーを啜りながらメリーが俺に問う。ちなみにコーヒーは蓮子が淹れた。悔しいが自分で淹れたのより美味しい。

さて、どう説明したものか……

「……旅?」

「家族にも言伝無しに?」

今度は蓮子が俺を問い詰める。

「タイミングを逃した、というか」

俺の言葉にメリーが呆れたようにため息を零す。

「まあ、誰しも秘密の一つや二つあるものね」

誤魔化せてない。けど全部まるまる話すわけにもいかないし、まあ納得してくれたならいいか。

ふと時計を見ると、短針が七を指している。家の連中も起きてるだろうし、いい頃合か。

「んじゃ、俺はそろそろお暇するわ」

席を立って玄関へ行こうとしたが、何かに躓いてすっ転んでしまった。位置関係と感触から蓮子の足だとすぐに解った。

「どこに行くつもり?」

悪びれた様子も無く話す蓮子。

「いや、そろそろ帰ろうかと」

「却☆下」

そんな笑顔で言われても困るんですが。メリーの方も当然だと言わんばかりに頷いている。

「二年も行方晦ましておいて謝罪の一つも無いのかしら?」

メリーの言葉でこの二人にはまだ謝ってない事を思い出し、二人の前で膝をついた。

「あー、心配かけてごめん」

「私達が欲しいのはそんな上辺だけの言葉じゃないの」

おいおい蓮子さんや、土下座までしたって言うのにそりゃないぜ。

「今日一日私達に付き合って貰うくらいしてくれないと」

「割に合わないわね」

それを実行に移した場合の財布の中身の減り具合を想像したりもしたが、それより俺は

今外界旅行と称してこっちに来ている。つまりこっちに滞在できる期間は限られている。

そんな貴重な一日をこの二人と過ごしてしまったら、肝心の魔理沙との外界巡りの時間が減ってしまう。

最近構ってやれなかった魔理沙への埋め合わせの為でもあったというのに、その上また待たせるというのは流石にまずい。

かといって断ろうにも二人がそれを許すとは到底思えない。

助けて神様。いや、あの神達は当てにならない。

時間だけが刻々と過ぎていく。

「今日は先客が……」

「こっちが優先」

「二年も待たされてるんだから」

ですよねー。

「……家に連絡いれてきます」

怒るだろうなー、魔理沙。

一度外に出て、携帯電話を手に取る。そういえばこれを使うのも久しぶりだ。

電話帳から実家の番号を呼び出して耳に当てる。

一回、二回、三回。

四回目のコール音が途中で途切れ、聞き慣れた声が聞こえた。

「母さん?魔理沙呼んで」

 程なくして、

「どうした、○○?」

「実はかくかくしかじかで…」

今日は案内できない旨を伝えた。どんな罵詈雑言も覚悟していた。

が、魔理沙の声は予想に反して優しいそれで、

「そか、じゃあ私は今日は家に居るよ」

「怒ってない……のか?」

「一日くらいで怒るような狭い懐の持ち主じゃあないんだぜ」

それに、と言葉を続ける魔理沙。

「信じてるから、さ」

その一言が胸に響いて。なんか、うん。

「魔理沙の事好きになって良かった」

自然とそう口から出た。

「こんな事でそれを実感するなよ~」

そんな拗ねた声も愛おしく聞こえる。

「じゃあそろそろ切るな」

「ああ。明日から期待してるぜ?」

それじゃ、と通話を切った。

せっかく魔理沙が一日我慢してくれたんだ。旧友との一日を全力で楽しもうじゃないか。



講義の後、私達は繁華街に足を運んだ。午前中は大学で昔話に花を咲かせたので、外に繰り出そうという話になったからだ。

久しぶりに話して改めて感じたけど、背こそ伸びてはいても○○は変わっていなかった。

二年という短いようで長い時が経っても、彼の中身はあの頃のまま。私が好きな彼そのもの。

そう。私は○○が好きだ。

ずっともやもやと朧げな気持ちだったけど、再会して、話をして、確信した。

彼の言葉や仕草、その一つひとつが私の心を掴んで離さない。二流小説のような陳腐な感情が心を駆け巡る。

「蓮子?」

「ひゃ!?な、何?」

「だから、これからどこに行くんだ?」

「えと、どうしようかメリー?」

考えが纏まらずに親友に話を振ってしまう。

自分でも呆れるくらいの狼狽ぶり。暇潰しに読んだ恋愛小説でもこんなやり取りはあったが、まさか実体験することになるなんて思いもしなかった。

「そういえば、欲しいCDがあるって言ってなかったっけ?」

気に入っているアーティストの新譜が最近発売したことを思い出した。

メリーからも○○からも異論は無く、あっさり目的地は決まった。


店内に流行の曲が響いている。

目的の物は新作コーナーですぐに見つかり、今はそれぞれ物色している。

今私の隣には○○が。メリーは少し離れた所でDVDを見ているから、実質二人きり。

嫌が応にも意識してしまう。

「こーゆー音楽も久しぶりだな……」

彼の言葉に驚いてしまった。常にウォークマンを持ち歩く程の音楽好きだった○○が久しぶり、だなんて。

「最近聴いてないの?あれだけ好きだったのに」

「ああ、ちょっとな」

「だったらほら、聴いてみる?」

持っていたウォークマンのイヤホンの片割れを差し出した。○○はそれを左耳に、私は空いた方を右耳にかける。

聴こえてきたのはさっき買ったアーティストの別の曲。

お気に入りの音楽を楽しみながら、ふと思った。

一つのウォークマンを二人で使う。傍から見れば恋人同士に見えるんじゃないだろうか。

「仲のよろしいことで」

「ひゅい!?」

驚いて後ろを見ると、親友が買った物を提げて立っていた。

「め、メリー。もういいの?」

「ええ。掘り出し物も買えたしね。○○は?」

「ああ、俺もいいよ」

満場一致で店を出る事に。ほっとしたような残念なような。


その後も、本屋、ゲームセンター、アクセサリーショップ、エトセトラエトセトラ。色んな所を巡った。霊能サークルらしからぬ活動だったけど、久しぶりの三人での活動は本当に楽しかった。

けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。

「あら、もうこんな時間。そろそろお開きかしら」

メリーがそう切り出した。言われて空を見ると、二十二時四十七分三十秒、三十一、三十二…。

夜更かしは肌の大敵なのよ、というメリーの言葉に苦笑しつつ、今日はこれでお開きに。

メリーとは途中で別れて、○○と二人で歩いている。

夜風が心地いい。

またも二人きり。二年ぶりに再会して、自分の気持ちに気付いたとたんにこんなチャンスが転がり込むなんて。

手でも繋いでしまおうか。

「そういえば、さ」

○○の言葉にこっそり伸ばした手を引っ込めてしまう。もう少しだったのに。

「どしたの?」

「いや、こうして久しぶりに話して、遊んで思ったんだけどさ。……変わってないよな、二人とも」

「あれから成長してないって言いたいの?」

「そうじゃなくてさ。あの頃と変わらずに接してくれた事が嬉しかったんだ」

当たり前だ、と言おうとしてはたと気付いた。

二年という時間を不安に思うのは何も待つ側だけじゃない。

自分が居ない間に、自分が居た世界が変わらずにいてくれる保障なんて無いんだ。

自分のことを忘れているかも知れない。自分の居た場所に自分じゃない誰かが居るかもしれない。

不安だったんだ。○○も。

そう思うと、自然に○○の手を取れた。

「何言ってるのよ。私達三人で秘封倶楽部、でしょ」

「……ああ」


程なくして、私の家と○○の家のその分かれ道に着いた。

「じゃ、またね」

このやり取りも久しぶり。そう、これからはいつでも会えるんだ。

だと言うのに、

「ああ……またな」

そう言って背を向けた○○から言いようの無い違和感を感じた。

また○○が消えてしまう。そんな根拠の無い焦燥感。

このまま帰しちゃいけない。理由もなくそう感じた。

「○○!」

言葉よりも体が先に動いて。

振り返った○○に飛びついて。

彼の唇を、自分のそれで、塞いだ。
















<謝罪会見>

間に合わなかったよ畜生!!!その上まだ続くとか……。

もうむりぽ。書くけど。

その前に豊ねえとちゅっちゅしてくるノシ



新ろだ829



「うむ、こんなものか」

今朝の朝食はじゃがいもと豆腐の味噌汁とだしまき卵、そして沢庵と。
味噌汁の味も中々だ。

プリズムリバー3人に拾われてマネージャーとして居候させてもらって早1年くらい。
今では料理当番も任されてしまい主夫みたいな立場にもなりつつある、独身だが。
まぁ毎日大変だけど楽しくもあるから今の状態に不満はないんだがな。

さて、と。後は……

「困ったお嬢さん方を起こさないといけないんだよなぁ……」


ため息をつきながら俺は彼女たちの部屋へ向かうのだった。
















 *ルナサの場合

「ルナサさーん、起きてますかー?」

…………反応がない、珍しいといえば珍しい。
いつもは一人で来てくれるのだが……

「入りますよー?」

ドアを開けてみる。
さすがというか何というか部屋は綺麗に片づけられている。
楽器の本や道具がしっかりと仕舞われており、
どこぞのお嬢さん二人にも見習ってもらいたいところ。誰とは言わないが。
ベットを見ると膨らみと多少の動きが。
どうやらまだ夢の中のようだ。
とりあえずどんな様子かと顔を窺って見る。

「すぅ……すぅ……ん……」
「……」

どうしたものだろうか、何か幸せそうに寝ていらっしゃる。
これは起こすのを躊躇わされるが朝食が冷めてしまう、どうしたものか。

「ん……○○……」
「うぇ!?」

いきなり自分の名前が出てきてびっくりしてしまう。
その声によってかルナサさんの目が開く。
ちなみに今の状況は顔と顔が結構近い。
覗きこんでいる態勢のままなぜか動けない。
じーっと寝ぼけ眼でこちらを見つめてくるルナサさんの視線から逃れられない。
そして何を思ったか俺の両頬を掴み、

「ん…」
「!?」

キスをしてきた。
突然の出来事に俺はびっくりして何も対応ができなかった。
ただルナサさんの柔らかい唇の感触を感じることしかできなかった。
温かさなんて感じるはずがないのに温かい。彼女の心の温かさを感じているからだろうか。
そしてルナサさんの目が徐々に正気を帯びてきて……

「!?あ……ご、ごめんなさい!」

ルナサさんの顔が離れる、どうやら寝ぼけていたようだ。
それにしても普段のルナサさんからは想像もできないほどに積極的だったが。
互いに顔を真っ赤にして何も言えない空気になってしまった。

「えーっと、その……朝食、出来てますので」
「あ、うん、ありがとう……」

どうにも気まずい空気をなんとかしようと考えるが今の俺の頭にはいい考えは浮かばなかった。
しかし何かを喋らないといけない、そんな状態だ。

「あ、そういえばファーストキス……」

おい待て何を口走ってる俺。

「……私も」

そうかールナサさんもかぁー……っておいぃ!?

「す、すいません、俺みたいなのが初めてだなんて……」

ルナサさんみたいな綺麗な人(騒霊だが)にはそれ相応な人が似合うと思う。
それなのに俺みたいなのがファーストキスの相手だなんて悪い気しかしない。

「い、いいのよ……夢が現実になっただけだし」
「はい?」

後半が聞こえなかったのだがもじもじとしているルナサさんに聞くのも躊躇われる。

「え、えーとじゃあメルラン達を起こしてきますね?」
「え、えぇ、お願いね」

お互いぎくしゃくしながらも俺はルナサさんの部屋を出てドアを閉めた。
無意識に自分の唇を触っていた。
……柔らかかったなぁ……っといかんいかん!
両頬をぱんと叩いて気持ちを落ち着かせ、次の目的地へと向かうことにした。





「彼の初めてと私の初めて……か。
 駄目ね私、今本当に嬉しくてしょうがないなんて……」





 *メルランの場合

「メルラーン、起きてるかー」

ノックをするも返事は無い。
ルナサさんとは違い、これはいつもの事だ。
はぁっと一度ため息をつき、部屋に入る。
相変わらず部屋は荒れていた、この前一緒に掃除したのに……
そして件の子はぐーぐーと熟睡中。

「ほら、起きろメルラン。
 もう朝だぞ、朝食が冷めちゃうぞ」

ゆさゆさと揺すると薄目を開けてこちらを見て深く布団の中へ逃げ込むメルラン。
これもいつもの事。どんどん手強くなっていくから困る。

「後10分~」
「駄目だ、もうルナサさん起こしたんだからお前も早く起きろ」
「姉さんが寝てたなんて珍しいわね~後5分~」
「そ、そうだな……ってまて寝るな」

先程の事を思い出してしまった。
いかんいかん今は忘れないと。

「ねぇ、今何でどもったの?」

顔だけ出してこちらを見るメルランの表情が何故だろう、凄い怖いのだが。
ていうか起きてるなら早く起きろと。

「い、いや別に何もないぞ」

駄目だ……これじゃあ何かあったと言ってるようなもんじゃないか。
その証拠にメルランの目尻がさらに下がっている。
そしていきなり布団から出たかと思うと抱きつかれてベッドに押し倒された。

「言わないとこのまま寝ちゃうんだから、姉さんと何があったのか言いなさい」

むふふ~と抱きつかれたままどうしたものかと考える。
朝からテンションが高い事だがこうなると言わないと本当に離さないのがメルランだ。
それにこんな格好他の二人に見られたらどう思われるか……

「あーその、ルナサさんを起こそうとしたらちょっと事故があってな……」
「どんな事故?」
「起きようとしたルナサさんと……その……キス、しちゃってだな」

覚悟を決めて告白する。
この後殴られるのだろうかそれとも弾幕だろうか……

「ふーん姉さんのファーストキス奪っちゃたのね」
「は、はい……」

俺も初めてだった、とは言えない。
何か考えるそぶりをし、そしてにこりと笑いながら


「じゃあ私も奪われても……いいよね?」


そういってメルランは俺にキスをしてきた。
おまけに舌まで絡めてくる始末。
離そうと思えば離せたかもしれない。
しかし俺の顔はメルランの手で固定され、俺の意思は彼女の情熱的な舌に持っていかれていた。

「ん……ちゅっ、あむっ……んんっ、はぁっ……」
「んむ・・・はぁっ、はぁっ……なんで?」

彼女の意図がわからない。
責められるならまだしもどうしてこんな……

「そうしたかったから、じゃ駄目?」

熱っぽい視線でこちらを見るメルランにドキリとさせられる。
今になって彼女の肌蹴た胸元も意識してしまう。
まずい、このままだと何か非常にまずい気がする。
踏み込んだら帰ってこれない領域にまで入ってしまう気がする。
言うならば……そこまでよ?

「さーてと、それじゃあ着替えるわね~」

メルランが立ちあがった。
助かった、とでもいうべきなのだろうか?
どこかでこの先に行けない事に残念がる自分もいたが彼方に葬り去ることにした。

「ふぅ……メルランの考える事はよくわからないな」

「……鈍感」

「え?」

今何か言われた気がしたが聞き取れなかった。

「なんでもないわ、それより私の裸に興味あり?」

ウインクしながらちらちらっと胸元を見せるような仕草をするメルラン。
あまりの展開の変わり様に茫然としていたがそういえば着替えるって言ってたな。

「あ、あぁごめん。それじゃあ下で。俺はリリカちゃんも起こしに行ってくるよ」
「姉さんの時みたいに襲っちゃだめよ~」
「襲ってないから!事故だから!」

今の俺の顔は真っ赤だろう、とにかく恥ずかしいのでメルランの部屋から急いで出た。
まったくメルランにはペースを崩されまくりだ。
何か今日は下で二人とまた顔を合わせるのはとにかく気まずいぞ……
朝から少し憂鬱になりながら最後の目的地へ。
起きてくれていると面倒がないんだがなぁ……




「本当に鈍いんだから○○は……でもそんな彼だからこうして一緒にいるわけだしね。
 それにしても初めて、あげっちゃったなぁ……姉さんには負けないんだから」





 *リリカの場合

「リリカちゃーん、起きてるかー?」
「ん~おき~てる~わ~て、いう、か~ちゃんはやめ、なさ~い~」

コンコンとドアをノックしてみたら反応がある。
しかしこの反応は起きてるかどうかわからない、むしろ寝ている可能性が高い。
仕方ない、と思いながら部屋に入る。

すると、目の前にはまさに着替え中のリリカちゃんがいた。

「「あ」」

今まさにパジャマのズボンを脱ぐ瞬間であった。
上のシャツも肌蹴ており胸周りはばっちり見えていた。
さっき起きたばっかりで反応が悪かったのかと気付く俺。
そして今日の下着はピンクか、可愛いのを穿くなと思う俺。
最後に今日は俺の命日かなぁと自分の迂闊さを呪う俺。

リリカちゃんは着替えを中断してパジャマを着直し、ドアをポルターガイストによって閉めた。
この家の防音処理は完璧で、結構な音がしても隣には聞こえないようになっているそうだ。
つまり、この後何をされても気付かれない、というわけで……

「ばかあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

彼女の特大のボディーブローをもろに喰らうのであった……どこにそんな力が……




「信じられない、着替えを覗くなんて最低っ!」
「はい、すいません……」

正座をさせられ、時折少しグーが飛んでくる。
とりあえず見ないようにと後ろを向かされ、彼女は着替えを再開した。
これはこれで衣擦れの音とかが聞こえてアレなのだが……

「着替え終わったからこっちを向いて」

向きを直すといつも通りの赤を基調とした服を来ているリリカちゃんの姿があった。
ちなみにまだ顔は少し赤く、いかにまだ怒ってますな感じである。
これはどうやって詫びればいいのか……

「反省してる?」
「もちろん」
「それじゃあ……一つ、私の言った事をやったら許してあげる」
「何をすればいいんだ……?」

この時俺は絶対に厄介な事だろうと思った。
悪だくみに関してはリリカちゃんは結構な物でその被害はよく貰っていたりする。
そんな彼女が一つ何かしろというのだ、何をやらされるかわかったもんじゃない。
内心びくびくしながら彼女の言葉を待つと……

「えーと、その、わ、私を抱きしめて」
「は?」

予想外すぎる言葉に俺は間抜け面をしていると思いながらポカーンとしてしまった。
今彼女は何て言った?私を抱きしめてと言ったか?
……なんで?どうして?ホウラーイ?じゃないホワーイ?

「ま、漫画でそういうシーンがあってこういうのっていいのかなぁーて思っただけよ!
 ほら!さ、さっさとやってみてよ!」

うーむ……まぁ彼女がやれと言うんだからやるけど……いいのかなぁ?
少し戸惑いながら彼女を優しく抱きしめる。
真っ赤な顔をして緊張しているリリカちゃんが可愛い。
不意に目があった、すると何かを考える素振りした後背伸びをして俺の首に手を回し、そして……キスをしてきた。
軽く触れるようなキスだった、それでも彼女を感じるには十分だった。
直ぐに唇が離れると彼女は俺の胸に顔を埋めてきた。

「こ、これも漫画であったからやってみただけなんだから。ファーストキス、だけど……
 い、いい?この事は姉さん達には内緒よ?絶対だからね!」
「あ、あぁ……」

言えるわけもないのだが。
しかし頭の悪い俺には彼女の行動の真意がわからない。
漫画で読んだから実行してみたっていうのは本当なのだろうか?
うーむ・・・・・・わからない。

そして少ししてリリカちゃんがもういいというまでずっとこの体制のままだった。
先に下に下がらせてもらったが離れてからもリリカちゃんは真っ赤だった、恥ずかしいのならやらなければいいのに。
まぁ格言う俺も凄い真っ赤な顔をしていそうなんだがな。






「や、やっちゃった、どうしょ!?どうしょう!?
 抱きしめて貰えればよかっただけなのに抑えられなかった……あうぅ……
 い、いやでもこれで私が一歩前進よね!?ふ、ふふふ、姉さん達には悪いけど○○は私のものにするんだから!」

















朝食は女3人もいればかしましいと思うかもしれないが比較的静かである。
今までのルナサの方針がよかったのかあまり色々と喋りながら、というのはない。
今朝の朝食も静かではある、あるのだが……

「……」(顔を真っ赤にしてこちらをちらちらと見て目が合うとすぐに目を背けてしまうルナサさん)
「……」(少し顔を赤くして幸せそうに食べるメルラン、えへへ~とか時折言ってたりする)
「……」(一番顔を真っ赤にしてこちらを睨むような視線を向けつつもどことなく嬉しそうな気配がするリリカちゃん)

何だこの状況は。
いや確かに今朝は色々とあったわけだがこうも妙な感じだと空気が……
何かとてつもない事をしでかしてしまったような気がする。
彼女たちのファーストキスを貰った事によって何かが動きだしてしまった気がする。

これからの生活に何も起きませんようにと願いながら俺は自分の作った料理を食べるのであった。




















夢でルナサとイチャついていたと思ったら3人分書いていた、何を言っているかわからねーと思うが俺もわからない!



最終更新:2010年07月31日 00:22