東方学園3

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10スレ目>>706

 学生にとって最も自由といえる、高校二年生の夏。
 そう言えば聞こえは良いが、現実には大したロマンスも無い青春の一頁である。
 十七歳となった俺は当然、どこかの物語の主人公にはなれず、普遍的な日々を過ごしていた。
 言うなれば、日曜日に放送しているネバーエンディングストーリーの脇役といった位置付けである。

「こうやって、終わっていくんだろうなぁ」

 女友達は普通より多め、でも彼女はなし。
 親友は一人、本ばかり読んでいる色白の男。
 幼馴染はマイペースで、毎日起こしてくれるようなことはない。
 義理の姉と妹は、まぁ、可愛いのだが、そういった嗜好は無いので除外。
 母親は学校の理事長、此処だけは少しだけ自慢できる。
 多少なりとも、人よりは生活水準が高めなのかもしれなかった。
 それでも――。

「そんなことはどうでもいいから、恋がしたいよ」

 呟きは切なく、日曜日の終わりを象徴する魚介類家族のエンディングテーマに溶けていった。
 そして、この言葉が“自慢”の母君に聞かれていることなど、俺には気付きようがなかったのである。
 それが、喜劇と悲劇の始まりになるというのに。







 六月下旬の朝は日も高く、目覚めの傍からじっとりとした熱気を感じさせた。
 まだ眠い。そんなことを頑固に主張する目蓋をどうにか開いて、朝の目覚めを受け入れる。
 白濁とした意識から夢の残滓を振り落として、毛布を蹴り飛ばすように身を起こす。
 同時に、何かゴミのようなものを跳ね飛ばしたような気もするが、それは無視することにした。

「喉、渇くな……」

 ついでに言うのなら厠も近い、朝の生理現象である。
 まだはっきりとしない意識をどうにか働かせて、俺は乱雑な部屋を横切っていく。

「……あ」
「――っ!?」

 そして、扉を開けると同時に、鈍い衝撃が鼻先を襲った。
 尻餅をついて見上げた先には、開いた筈の扉がきっちりと閉まっている。
 なるほど、勢い良く扉を閉められて鼻を打ったわけだ。

「そ、そんな格好で出歩くんじゃない! まったくお前は朝から……」

 どこか慌てたような聞きなれた声に、自分の身体を見下ろしてみる。
 暑さのせいか、俺の格好は下着が一枚というものだった。
 更に、朝だから一部分が妙に元気だったりする。
 気付くと同時に、脳には瞬時に血が廻り、眠気は完全に吹き飛んでいた。

「ごめん。おはよう、藍姉さん」
「おはよう。今日はいつもより遅いな、遅刻はするなよ?」

 手早く服を着て自室の扉を開けると、そこには顔を赤くした藍姉さんが立っていた。
 彼女は俺の姉にあたる女性で、幼い頃にこの家に引き取られた俺とは血の繋がりが無い。
 しかし、幼い頃から共に暮らしていることもあってか、既にそのようなことは気にならなくなっている。
 彼女はとても身近で、大切な家族なのだ。





「あ、お兄さん。おはようございます」
「おはようなのかー」
「おはよー」

 起床後、藍姉さんと共に階段を下りてリビングに出ると、三重音声が聞こえてきた。
 右から大ちゃん、ルーミア、バカチルノである。

「なんだ、結局泊まってたのかお前ら」

 この三人は不出来な妹の幼馴染で、昔からよく家に泊まりに来ていた。
 大ちゃんはよく出来た子で、今もエプロン姿で台所に立っていたりする。
 残りの二人はリビングにだらしなく座り込み、餌ができるのを今か今かと待ち続けていた。
 その隣に、俺も着席して朝食を待つ。
 穀潰しトリオの完成だった。



「うー……おはようございます」
「橙! またお前はそんな格好で」

 それから数分遅れて、妹の橙が階段を下りてきた。
 こいつは朝に滅法弱く、今もふらふらと危なっかしい足取りでリビングまで歩いてきている。
 因みに、その姿は俺の寝起きと同じく半裸であることが多い。
 今も藍姉さんが慌てて抱えていく最中だった。

「おう橙、お前頭に凄いコブができてるぞ」
「あ、ほんとだ、痛いなぁ……」
「橙ちゃん、寝相悪いからね」

 顔を洗ってようやく意識を取り戻した橙が、こぶをこさえて着席する。
 同時に、朝食を持ってきた大ちゃんが苦笑いを浮かべながら橙の頭を撫でていた。

「まぁ、何はともあれ、いただきますだ」
「いただきます」

 全員が食卓について、朝食を採る。
 因みに母親の姿はそこには無い、橙の寝起きの悪さの大元は、今日も朝を抜いて出勤するようだった。

「おかわりー」
「早っ! ルーミア……お前少しは遠慮したらどうだ」

 ルーミアはお構い無しに茶碗を掲げて、餌を要求している。
 それに対して、藍姉さんは微笑みながら、電子ジャーを机に乗せた。
 なるほど、ルーミア対策に電子ジャーを二つ使うとは、朝食とは思えない程のエンゲル指数である。
 とりあえず、得意げな藍姉さんが微笑ましかったので、俺はもう何も言わないことにした。

「そうよ、早漏はそっと出すのよ」
「お前は朝から何を言っているんだ?」

 無論、チルノは朝から馬鹿丸出しだった。





 思うに、この学校は異界なのである。
 小学校から大学まで続くエスカレーター式の私立学校。
 私立東方学園、それが、俺の通う学校である。
 入学したら最後、五歳から始まる付き合いは最低でも二十二歳まで、約十七年もの間続いていく。
 それを考えると、学校は第二の家庭という言葉は納得のいくもので、文字どおり、この学校はそれを体現している。
 クラスメイトはもはや家族と同等に見えて、別のクラスにも知らない奴は居ない。
 もはや腐れ縁となった仲間達は、下手をすると本当の家族よりも、僕の内面を理解しているかもしれなかった。

「おはよう、霊夢」
「あら、おはよう」

 そして、その筆頭が、この幼馴染の霊夢である。
 校門前の大きな坂で、彼女は普段と変わらずのんびりと歩いていた。

「隣の家なんだから、待っていてくれても良いのに」
「そうね、でも今日は遅かったから」
「遅れたのは五分かそこらだろうに……」

 この通り、霊夢はいつも自分のペースで行動する。
 その為、相手が遅刻すれば一人で先に行ってしまうし、自分が遅れることも多々あるわけだ。
 マイペースな困ったお隣さんである。



「よう、元気か?」
「魔理沙か、おはよう」

 次いで、霊夢の影からひょっこりと顔を出した女、霧雨魔理沙も長く続く腐れ縁の一人である。
 男のような口調のさっぱりとした奴で、やたらと元気が良いのが特徴だ。

「あの……さ、今日お前の家泊まっても、いいかな」

 そのくせ、時折女の子らしい部分も見え隠れする、不思議な友人。
 頬を朱に染めて、金糸のような髪を弄ぶ姿など、普通の男なら簡単に撃墜されただろう。
 しかし、俺も伊達に小学生の頃から付き合っている訳ではない。

「またプチ家出かよ」
「頼む、一日だけでいいんだ!」

 こいつは親父さんとの仲が滅法悪く、大喧嘩をやらかしてはこうやって友人連中の家を渡り歩いているのだ。
 色仕掛けも何も無い、今にも土下座に変化しそうな拝み倒しに、小さな溜息が零れ落ちる。
 黙っていれば可愛いものを、なんとも残念な輩である。



「霊夢先輩、おはようございますっ!」

 しみじみと考え込んでいると、不意に、体育会系の元気な挨拶が木霊した。

「あら、おはよう妖夢」

 一見少年のようにも見えるが、一応女生徒の制服に身を包んでいる。
 俺よりも頭二つ分ほど小さい背丈からは、朝から凄まじい気迫が感じられた。
 主にいうのなら、その手に握られた細長いものに対してなのだが。

「あー……おはよう」
「お、おはようございます、先輩」

 ただ、こうして挨拶すれば返してくれるし、真面目で良い子ではあるのだ。

「なんだ、私には挨拶無しか?」
「――霧雨、魔理沙か」

 そこへ、魔理沙の一言が、妖夢の導火線に火を点した。
 一瞬にして平和な朝の空気は火花が散るものとなり、妖夢の顔が険しいものに変わっていく。

「魔理沙“先輩”だぜ?」
「お前のような痴れ者に、そのようなものは必要あるまい」

 一触即発、阿鼻叫喚、地獄絵図、死屍累々。
 不吉な四文字熟語しか浮かんでこないこの状況で、魔理沙は不敵に笑い、妖夢は手に持った木刀に手を添える。
 ご覧の通り、魂魄妖夢は真面目で良い子ではあるのだが、魔理沙との相性は最悪なのである。


「そぉぉこまでええぇぇい!」


 そして、天地を揺るがす一喝に、両者はぴたりと動きを止めた。
 地獄のような轟音の主は、目と鼻の先にとなった校門の傍らに立つ老体。
 名を魂魄妖忌、私立東方学園の学園長である。

「妖夢、その程度のことで心乱すとは……未熟!」
「は、はい、おじいちゃ――」
「学園長と呼べええぇぇいっ!」
「申し訳ございません学園長!」

 因みに、魂魄という苗字から分かるように、彼は妖夢の血縁者にあたる。
 朝から元気な奴らばかりである。





 何とか遅刻はせずに教室へ辿り着くことができた。
 色々とトラブルは起きたが、そこは学園長に感謝である。

「霖之助、おはよう」
「……」 

 さて、教室に入ってすることと言ったら男友達との会話なのだが、挨拶に返されたのは無言と険しい視線だった。
 この視線を要約すると、「……は?」「何こいつ、誰だ?」「まぁいいか、本を読もう」である。
 仮にも親友に対してこの仕打ちは無いだろう。

「霖之助が本を読んでる時は、話しかけたって無駄よ」
「……わかってるよ」

 隣からの返答に、振り返りながら応える。
 半ば呆れたような顔で、頬杖をついたアリスが笑っていた。

「おはよう、○○」
「あぁ、おは……」

 言葉の途中で、俺は口を閉ざした。
 不意に、視界に入ったものに、絶句する。
 そこにあるのは、人形、人形、人形。
 もはや鞄なのか人形の塊なのか認識できないほどに、アリスの鞄には大量の人形のストラップが括り付けられていた。

「……また増えてねぇか? それ」
「いいでしょう」

 とたんに、アリスの顔が破顔する。
 純粋な、心からの笑顔に、何となく視線を逸らしてしまった。
 人形の話をしているときのアリスは、いつもこうなのだ。
 それが少し眩しくて、思わず目線を逸らしてしまう。

「それでも、流石に付け過ぎだろう。もう鞄と人形の区別がつかないぞ?」
「それもそうかしらね……そうだ」

 言って、アリスは笑みを深いものに変えていく。

「どれか一つあげるわ」

 珍しいこともあるもので、よほど機嫌がいいのか、アリスは鞄を持ち上げて机の上に置いた。
 まぁ、くれるというのなら貰うのが俺の主義である。


[無難な動物のストラップを選んだ(藍・橙:人形フラグ)]  ⇒[柄じゃない可愛い人形を選んだ]


「……なんで、それなのよ」

 急に、不機嫌そうな声でアリスが呻く。
 俺の手には柄にも無く、可愛らしい女の子の人形があった。

「ん、お気に入りだったのか?」
「違うけど、○○ってセンス無いわね」

 カチューシャをつけた、青い洋服を着た可愛らしい女の子の人形。
 別に、センスが無いと言われるとは思わなかったのだが、思うところでもあるのだろうか。

「本当に、それでいいの?」
「あぁ、うん。可愛いと思うけどなぁ、この人形」

 地味に傷ついたので、負け惜しみのように呟いてみる。
 すると、気のせいかアリスの顔が赤く染まっていくのが見えた。

「熱でもあるのか?」
「な、別に何もないわよ!」

 思えば、アリスが人形をくれるというのも可笑しな話で、本当に熱でもあるのかもしれない。
 しかし、もう一度問おうとした瞬間、予鈴の音が教室に響いてきた。 
 仕方なく、俺はアリスの席を離れるため話を切り上げる。

「まぁ、とりあえずこれは貰っておく」
「……いいわよ」
「具合悪いなら保健室行けよ?」

 最後に一応の念は押して、自分の席に戻る。
 担任教師の上白沢は、席についていないと無条件に遅刻扱いにするので気が抜けないのだ。

「お、○○。その人形はなんだ?」
「貰った」

 隣の席の魔理沙に適当な返答をして、頬杖をつく。
 指に吊るしたストラップは、やはりセンスが悪いとは思えなかった。
 案外、俺は結構根に持つタイプなのかもしれない。

「ふーん、なんかその人形、アリスに似てるな」
「……そうか?」

 確かに、カチューシャと金髪は、アリスにそっくりのような気がする。
 そこまで考えてから、ようやく、俺は気付いた。
 気付かれないように、こっそりと後ろを振り向くと、まだ頬に朱の残るアリスと目が合ってしまう。
 弾けるように、お互い同時に顔を背ける。

「そういうことかよ」

 気付いてしまうと、先の自分の言葉がどうしようもなく恥ずかしくなってくる。
 藍姉さんか橙にでもあげようと思っていたのだが、何となく送り辛くなってしまった。

「少女趣味」
「違う!」
「……ふん」

 そして、何故か機嫌を悪くしていた魔理沙の皮肉に溜息を落とす。
 俺が、何をしたというのだろう。





 朝からの異常なテンションに、始業直後に疲労感を覚え始めた頃。
 黒板には白線で自習という字が描かれていた。
 この状況で、俺がやるべきことは自由への逃避行以外にありえないだろう。

「ちょっと、自習中に立ち歩いてはいけませんよ!」

 そして、立ち塞がるはクラス委員長、四季映姫。
 何でも真面目であろうとする、通称鉄の乙女。
 成績優秀、品行方正、その実力は二年生でありながら生徒会長に就任するほどである。
 ついでに言うなら、一応は容姿端麗ということも説明に入れていいだろう。
 堅物な彼女が嫌われる事なくカリスマを感じさせるのも、そういった部分は少なからず関係があるはずだ。

「……委員長」
「何です?」

 とりあえず、それは置いておくとして、重要なのは映姫が扉を塞いでいるということである。


 ⇒[適当に言い含めよう]  [強行突破意外にありえない(鈴仙・永琳・輝夜:危ない保健室、勿論生命的な意味で)]


「便所なんだ、そこをどいてくれ。それとも――」

 一緒に行くか? そんなことを言うと同時、映姫の顔が真っ赤に染まっていく。
 とんでもない堅物なのだが、扱い易さはトップクラスの委員長である。

「も、もう! 早く行きなさい、馬鹿!」
「はいよー」

 照れつつも道を譲る姿は可愛らしいと思う。
 そんなことを思いつつも、間延びした返事を残して、退屈な教室から脱出する。
 あれでもう少し人当たりが柔らかければ、惜しいものだ。
 さて、何処へ行ったものか。


[生徒会執行部・部室(パチュリー:サボリ仲間読書編)] ⇒[日のあたる屋上]


 授業中の廊下は普段とは違う雰囲気を持っている。
 そこを歩くのは自分以外に居らず、学校という場所がそれを異常だと感じさせるのだ。
 青空が広がる窓、時折漏れてくる他クラスの授業内容、その全てが不思議に思えてくる。
 屋上へ続く階段もそれは同じで、無音のそこには嫌というほどに自分の足音が響いた。

「そんなことを言って、もう一年間三年生をやるつもりか?」
「別に、それもいいさ」

 突然聞こえてきた声に、自然と肩が跳ねる。
 唐突に、階段の防火扉の向こうから生徒らしき女性の声が聞こえてきた。
 無論、今は授業中である。
 それにも関わらず、こんなところで話し込んでいるということは、それなりに深刻な話なのだろう。


 ⇒[すぐに立ち去る] [このまま聞き耳を立ててみる(幽香:強制労働、花壇編)]
 

 こちらはサボタージュの真っ最中なのだ。
 当然、見つかれば怒られるだろう。
 現在、俺が立っているのは三階の階段の踊り場である。
 屋上へはあと一階、この状況で悠長に聞き耳を立てている時間はない。

「……この声は慧音先生か、見つかったら厄介だな」

 一人呟いて、息を殺しつつ階段を上がっていく。
 そして、階段の踊り場を通り抜ける途中、声の主と目が合ってしまった。
 別に、向こうはこちらに興味は無いらしく、すぐに目を逸らされる。
 こちらも急いでいるため、特に気にすることなく階段を上がっていった。



 因みに、自由な校風を持つ東方学院といえども、屋上が解放されているわけではない。
 現実は厳しいもので、俺には先輩から貰った合鍵もピッキングテクニックもありはしないのだ。
 そうなると屋上前の踊り場に隠れることになるのだが、授業中にこんな所に来る物好きは同業者だけなので、特に気にすることはない。
 少しばかり、今日は忙しすぎた。
 午前中だけでこうなのだ、一日を真面目に生きてしまったらいったいどうなるのだろう。
 堅物委員長の顔が自然と浮かんできて、俺は苦笑した。
 俺には、あんな生き方を真似できそうにはない。
 そんなことを思いながら、冷えた床に腰を落として、そのまま後ろへ倒れこむと程よく睡魔が襲ってきた。

「……少し眠ろう」

 呟きと同時に、意識は眠りの中へと堕ちていった。
 


 頬をくすぐるような感触で、優しく、俺は夢の世界から追い出された。

「……人の寝顔を覗き込むのは、あまり良い趣味じゃないですよ」

 視界を覆うように煌めく、銀糸のような髪が印象的だった。
 まだ睡眠を欲しがっている身体を引き起こしながら、俺はその馴染みの人物に声をかける。

「またサボリですか、藤原先輩」
「ん、まぁね」

 それは、先ほど慧音先生に捕まっていた女生徒であり、顔馴染みのサボリ仲間だった。
 切れ長の瞳は鋭く、凛々しいという言葉の似合う人だ。

「鍵開けるけど、お前も出る?」
「晴れてますか?」
「でなけりゃあ此処には来ない」

 ニヤリと笑って、藤原先輩は手にもった鍵をチャラリと鳴らした。
 釣られてしまって、俺もだらしなく笑ってみる。
 寝起きの顔は相当に緩んでいたのか、藤原先輩は無言で俺の額を小突いてきた。
 曰く、キモイと。

「天気、良いですね」
「黙って寝てろ」

 伸びをして爽やかに会話を試みるが、返答は気だるげな一言だった。
 仕方なく、俺も日当たりの良い場所を選んで座り込む。

「……もっとそっちに寄れ」
「嫌ですよ、一番日当たりがいいのは此処な――」

 言葉が終わらない内に、藤原先輩は強引に俺の隣に座り込んだ。
 ベストポジションを追われて、仕方なく少しだけ横にずれる。
 結局、お互いの妥協点を見つけて、手の触れ合いそうな距離を保ちつつ寝転がった。
 視界いっぱいに青色が広がる屋上は、どうにも平和すぎる。
 隣に居るのが藤原先輩だということもあるのか、誰にも気負いすることなく、俺は再び眠りに堕ちていった。



「……ん、もう昼か」

 気が付けば、もう昼食の時間となっていた。
 結局、今日は午前中の授業を全てサボったことになる。

「これは、慧音先生に頭突き食らうかもな」

 危機感も持たずに、のんびりと呟いてみる。
 隣に顔を向けると、そこに藤原先輩の姿は無かった。


[もう少し屋上に居る(小町:年下上司の愚痴と自慢)] ⇒[腹が減っては戦は出来ぬ]


「戻るか、教室」

 立ち上がると同時に、欲望に忠実な腹が音を鳴らした。
 順調に欲望を消化する身体を引きずって、階段を下っていく。
 とろとろと重たい足を引きずって、行きの三倍もの時間をかけつつ、俺はようやく教室に辿り着いた。



「……無い?」

 それなのに、この仕打ちはないだろう。
 期待を持って開いた中身の少ない鞄の中に、待ち望んだものの姿は見えない。
 思えば、何も入っていない鞄は軽すぎたのだ。

「いや、後悔していても腹は膨れないな」

 斯くなる上は、


⇒[助けて霖之助っ!]   [仕方ない、食堂に行こう(橙・チルノ・大妖精・レティ:馬鹿の保護者)]


「忘れたのかい?」
「おう」
「……そうか」

 咆哮を続ける俺の腹、無視して弁当をつつく霖之助。
 冷めた空気が、穏やかな昼休みを包み込んでいた。
 
「……腹減ったなぁ」

 無言の押収は暫く続いて、臨界点を超えた空腹感に、俺は膝を折った。
 半ば倒れこむようにして机にへばり付き、情けない声を上げる。
 俺は一人辛い思いをしているのに、教室の中は楽しそうな喧騒に包まれていた。
 何となくやりきれなくなって、ざわめきの中心に視線を向ける。
 気付けば、霖之助を除く全ての男子が、廊下へと目を向けていた。
 その理由を、いや原因を俺は知っている。

「嘘、だろ?」

 残念ながら、嘘でも幻覚でもなく、それは存在していた。
 隠れているつもりなのか、金糸のような髪を戸の隙間から覗かせて何かを探している。
 その内に、整った凛々しい顔立ちの美人が顔を覗かせた。
 ひょっこりと出てきたジーンズに白のワイシャツ姿が、見る者に清潔なイメージを与える。
 そして、そんな彼女がとある一点を見つめて、先の不安が嘘のような笑顔を浮かべた。
 当然、彼女に魅入っていた男達は、その視線の先を目で追っている。
 言うまでもないのだが、その一点とは俺のことである。
 喧騒に支配されていた教室の空気が、静かに色を変えていった。
 恐らく、それは俺にとって最悪の色なのだろう。
 空腹の胃が、更にぎりぎりと締め付けられるのを感じながら、俺は席を立った。
 視線が、痛い。

「……姉さん」
「あ、○○」
「何……してるの?」
「うん、お弁当を忘れただろう? ……何だ、顔が怖いな」

 第一声は鋭く――したつもりだったのだが、藍姉さんには通用しなかった。
 訝しげに眉根を寄せる姉さんは、自分が原因などとは夢にも思っていないのだろう。
 それどころか、今にも的外れなことを自信たっぷりに言ってのけるだろう。

「そうか、そんなにお腹を減らしていたのか」

 この通りだ。
 しかし、空腹であることは事実。
 正直な話、空腹で顔が怖くなっているというのも、全く見当違いというわけではないのだ。
 それを思えば、姉さんの来訪は喜ぶべきなのかもしれない。
 一時の恥を凌げばいいのだから、ものは考え様である。

「それで、お姉ちゃんも持ってきたから。一緒に教室で――」
「――駄目だ」

 姉さんの言葉が終わらないうちに、俺は即答で応えた。
 前言撤回、教室で姉と飯を食うなんて、一時の恥というレヴェルじゃない。

「そ、そんなに嫌なのか。お姉ちゃん、邪魔だったか?」

 そして、続く姉さんの言葉に、俺はどうにもならないことが世の中にはあることを学んだ。
 自慢ではないが、俺はこの人に寂しそうな顔をされて耐えられるような男ではない。
 もはや後退は許されず、文字どおり前門の竜、後門の虎というわけだ。


 [教室で食べよう(霖之助:友情のきっかけ)] ⇒[他の場所で食べよう]


 いや、少し待てよ。
 よく考えれば、どうしても教室で食べなければいけない訳ではない。

「危なかったな。ただでさえ男子連中の中で浮いてたのに、決定打を自分で打つところだった」
「――? 何を言っているんだ」
「んや、姉さん。折角だから外で食べようか」
「うん? わかった」

 さて、言ったは良いが、教室以外となると時間も限られてくる。
 
「そうだ、大学院近くに学生食堂があるよね。あそこなら――あ?」

 不意に、空気が急激に重くなったように感じた。
 見れば、姉さんは呆然と顔を青白く染めている。
 血の気が引いていくというのは、恐らくこういうことを指すのだろう。
 下らないことに納得すると同時に、俺は姉さんが動揺しているということに驚いていた。
 そして、滅多に見られないこの状況を逃す手はない。


 ⇒[強引に学生食堂へ]   [藍姉さんの嫌がることはしない(藍:平和な食事風景)]


「ど、どこか別の場所にしよう?」
「もう時間がなくなるよ、ほら!」

 未だに抵抗を続ける姉さんの手を握って、俺は足早に学生食堂へと向かった。
 多少強引ではあったかもしれないが、偶には弱いところも見ておきたいのだ。



 一言で言えば、彼女は自慢の姉だった。
 幼い頃から見ていた背中はいつも凛々しくて、真っ直ぐに伸びていた。
 俺は、彼女が弱音を吐いているところを見たことがない。
 それは、幼心にも立派なことなのだと理解できて、いつしか姉は憧れの存在となった。

「これが噂の弟君か」
「あまり似てないわね。まぁ一卵性ってわけじゃないんだから、あたりまえか」
「まぁ、そもそも血が繋がっていませんからね」
「「!?」」
「ほほう、これは……藍が弟君を溺愛している理由が見えてきたわね」
「養子縁組にも入ってないなら、結婚もできるのね」
「ち、違っ! ○○はそんなんじゃ……」
「あら? 私は弟君の人柄を見て、可愛がるのも当然って思ったのだけど。ねぇ、メリー?」
「そうねぇ、私も例え話をしただけなのに。ねぇ、蓮子?」
「あ、それは……」
「「何が違うのかしら?」」
「――っ!」

 その憧れは今、学友に手玉に取られ、顔を真っ赤に染め上げていた。
 そこまで壮大にからかわれていると、見ているこっちも恥ずかしくなってしまう。
 さて、何故こんなことになっているのかというと、それは十五分ほど前のことになる。

「なぁ、やっぱり他の所にしないか? いくら近いからといって、大学院専用食堂じゃなくっても」

 学生食堂に着いて、藍姉さんは何度目かの説得を口にした。
 流石に、此処まで来て引き返すことはできないのだが、姉さんも半ば意地になっているのだろう。

「もう戻ってる時間はないよ、高等部専用食堂は連日満席だしね」

 あきらめて、と続く言葉を視線に込めて、空いたその手を引いていく。
 握った手は熱く、僅かに汗が滲んでいた。
 そこまで嫌がっているのかと、少しだけ心配になって顔を覗き込む。
 下から見上げた姉さんの顔は陰になってよく見えなかったが、少しだけ強張っているように見えた。
 それでも、納得してくれたのか、姉さんは顔を伏せたまま何も言わず着いて来てくれた。


 さて、この学生食堂なのだが、通常の学生専用の食堂とは少し違う。
 その外観は街にあるお洒落な喫茶店と似た雰囲気を感じさせた。
 唯一学生食堂を思わせるのは、全校生徒の大半を収容できる広さと人の多さくらいだろう。
 このような食堂が中、高、大学の三箇所にそれぞれ設置されている。
 それを設置するだけの土地に設備、人材を考えると、この学校の異常性が感じ取れるだろう。
 実際、脱税や政治家との癒着等、外では黒い噂が絶えないようだ。
 そして、我が義理の母である理事長なら、それくらいやってしまいそうだと思う自分が悲しくなった。

「さて、弁当持ちも結構居るし、場違いって事はなさそうけど……」

 高等部から近いだけあって、征服の生徒も多々見受けられるし、問題は座る席だけだろう。
 一つくらいなら空いている席もあるのだが、二つそろって空いている場所が見当たらなかった。
 流石に昼過ぎともなれば、どんなに食堂が広くても混雑は避けられないだろう。

「まぁ、高等部よりはマシなんだけどね。大学生は私服だから外食する人多いし」

 普段、あまり食堂へは行かないのだが、この混雑を思うと、藍姉さんが食堂を嫌がった理由も少しは理解できた。
 久しぶりに見た食堂戦争の図は、そう思わせるほどに衝撃的だったのである。
 食券販売所の人の波を横目に、俺は弁当の有難さを深く噛み締めた。

「おーい、藍!」
「こっちおいでー」

 不意に、いつの間にか先を歩いていた姉さんの肩が跳ねた。
 右手の方から聞こえてきた声には、確かに姉さんの名前が含まれていたと思う。

「あら、今日は弟さんと食べるって言ってなかったかしら」
「もしかして振られた? 溺愛の弟君に」

 振り返った先からは、確かに二人分の女性の声が聞こえてきた。
 まるで鉛のように固まった姉さんを、半ば引き摺るようにして進んでいく。
 すると、三人掛けの丸テーブルに、手招きをしている二人の女性を見つけた。
 
「って、あれ? 藍が男連れてる……っ!」
「落ち付きなさい蓮子。多分、彼が噂の彼よ」
「弟君か!」

 驚くように目を見開いた女性が、黒髪に乗せたシルクハットを揺らしつつ立ち上がった。
 もう片方の女性はそれを窘めつつ、純粋な金髪をかき上げて、油断無く俺を観察している。
 一言で言うなら、少しだけ変わった人達だった。
 すぐ隣では、姉さんが深い溜息を吐いている。
 その顔が疲れたように諦めの表情を浮かべるのを見て、俺は姉さんが学生食堂を鬼門としていた理由を理解した。

「初めまして、宇佐見蓮子よ」
「マエリベリー・ハーンですわ」
「宇佐見さんに、ハーンさんですね」
「メリーで良いわ」

 何故か宇佐見さんが訂正してくれる。
 メリーさんは暫く黙って、目を細めていた。

「蓮子で良いわよ」

 そして、今度はメリーさんが訂正してくれる。
 少しどころではなく、大分変わった人達だった。

「よかったら、一緒にどうかしら」

 そう言って、メリーさんは優雅に手を差し出してきた。
 しかし、三人掛けのテーブルにはどうしたって座りようがない。

「すまないが、この通り弟が一緒で――」
「ごめんね、椅子一つ借りるよ」

 姉さんが唇の笑みを隠しきれないまま紡いだ言葉は、蓮子さんが引き寄せた椅子の音に掻き消された。
 落ち着いた雰囲気を持つメリーさんに対して、蓮子さんは行動的な人のようだ。

「改めまして、姉がいつもお世話になっています」

 勧められた席を断る理由もなく、俺は椅子に腰掛けてありきたりな定形文を口にした。

「いえ、こちらこそお世話になってます。ところで――」
「――それより」

 定型文での返答に二つの声が重なる。
 この二人、タイプは微妙に違うが、だからこそ息はピッタリのようだ。

「お姉さんからいつもいつも、何度も、聞いてもいないのに」
「ほとんど毎日のように、弟君のことは聞いていますわ」

 その言葉が、先の悪夢の始まりとなった。
 弁当をつつきながらの質問攻めに、邪推、妄言、からかい放題という奴だ。
 そして今、もはや耳まで赤くした姉さんに、いつもの威厳は存在しなかった。

「……○○」
「何、姉さん?」
「こんなお姉ちゃんは嫌いかい?」

 涙を溜めた瞳を伏せて、姉さんは机に突っ伏してしまった。
 メリーさんと蓮子さんは満足そうに紅茶など嗜んでいる。

「いや何というか……正直、意外だったよ」

 言葉と同時に時計を確認して、俺達は何も言わずに別れた。
 今日の出来事を、お互いに悪夢だと言い張るために。





 午後の授業は前半の騒ぎが嘘のように、何事もなく過ぎていった。
 慧音先生の号令と共に、教室は帰宅ムードに包まれる。
 今日は本当に忙しい一日だった。
 俺は疲労感たっぷりの身体を引き摺って教室を出て――


  [廊下の掃除当番だ(映姫:意外な組み合わせ)]
  [荷物を迎えに行こう(橙、チルノ、ルーミア、大妖精:甘味に暴徒と化す少女)]
  [久しぶりに部活に顔を出さなければ(萃香:陸上は体力作りに最適?orルナサ・メルラン・リリカ:軽音楽部の幽霊部員)]
  [真っ直ぐ帰ろうか(霊夢・魔理沙:日常風景、幼馴染二人)]
  [委員会の仕事を(レミリア・咲夜・美鈴:支配された生徒会執行部)]
⇒ [一人で羽を伸ばそう]


 少しだけ寄り道をして帰ることにした。
 久しぶりに、商店街でCDのチェックでもしよう。

「おをっ! 幻樂団のCD……本日発売か」

 商店街に一つしかない大きなCDショップに訪れた瞬間、小さなポップに俺の愛する音楽グループの名前があった。
 特に買い物もなく寄った時、丁度発売しているというのは中々に味のある幸福感がある。
 俺は小さくガッツポーズをして、目当てのCDを探しに歩いていく。

「しかも、最後の一枚とは……どうしたんだよ俺、朝の不幸分の幸運がキてるのか?」

 最後の一枚、それは何だか運命的で特別に思えるものである。
 柄にもなく、俺は満面の笑みでCDを手に取った。
 心なしか浮き足立っているように思う。
 まぁ、趣味を前にした学生としては、あるべき姿なのではないだろうか。

「――っと!」

 不意に、軽すぎる衝撃が鳩尾に突き刺さった。
 見れば、少女が一人額を抑えて蹲っている。

「だ、大丈夫か?」
「……はい」

 大人しそうな、黒髪の女の子だった。
 恐らく、年は橙と同じくらいだろう。
 東方学院中等部の制服に、人参の形をしたペンダントが揺れていた。

「ごめんね、ぼーっとしてて」
「いえ、私こそ……それでは」

 言って、少女は脱兎のごとく逃げていった。

「悪いことしちゃったかな……」



 海はいつも優しいと、ドラマの女優は呟いていた。
 夕焼けに染まった空を映した海は美しく、確かに優しく見える。

「あそこまで持ち上げておいて、落とすかよぉ」

 その優しさが目に沁みて、情けない声を漏らした。
 心の中から大切な何かが抜け落ちたような感覚。
 まぁ、実際には尻ポケットから抜け落ちたのではあるが。

「あそこで財布、落としてるなんてな」

 やけに軽くなったズボンに、使い古しの皮財布はもう無い。
 あの後、意気揚々とレジへ向かった俺の惨状は、目も当てられないものだった。
 にこやかにCDを差し出す俺。
 そして無くなっていた財布。
 ちょっと可愛い店員のスマイルに焦る俺。
 ぐんなりと肩を落として店を出る俺。
 その全てが、全日本駄目男選手権上位入賞である。
 正直、軽く世界から消えたくなるような恥を晒してしまった。

「死にてー……」

 細い呟きに重なるように、波音が寄せては引いていく。
 そして、海からの風が耳元で轟音を鳴らす中、小さく調子の外れた声が聞こえた。

「……歌?」

 同時に、俺は言葉を失った。
 滲む夕日、夜と黄昏が混じりあう紫色の空、輝く海に揺れる波。
 身近な日常に溶け込んだ幻想的な風景に、綺麗な歌声が響いていた。
 一定のリズムを刻む波音、吹き込む風鳴りの声、その全てが歌声に取り込まれて、それは一つの音楽になる。
 その瞬間、他の全ては無音になって、世界は音の波に支配された。

――もう歌しか聞こえない。

 そして、黄金色の風景の中、歌い手もまた幻想的な世界に溶け込むように存在していた。
 赤紫色の髪が強い風に煽られて、愛くるしく整った横顔が露になる。
 同時に肩にかけた栗色の上着がはためき、ロングスカートが舞い上がった。
 あえて言おう、青色であったと。
 しかし、俺は何を思うことなくその姿に見入っていた。
 ありきたりな喜びなど掻き消すくらいに、それは美しかったのである。
 俺はもう、先ほどの沈んだ気分が吹き飛ばされてしまって、無心で歌声に聞き惚れていた。
 ゆっくりと目を細めて、滲んでいく視界に黄昏色が広がっていく。

「――っくしゅん!」

 しかし、そんな夢の終わりは案外近く、可愛らしい雑音と共に姿を消した。
 細めていた瞳は、鼻水を垂らす少女を見つめている。
 浮かび始めていた涙は、見事なまでに引っ込んでしまった。

「うー……あ!」
「あ?」

 不意に、鼻をかんだ少女と目が合ってしまう。
 日が丁度少女に重なった瞬間、影が手を振っているように見えた。
 一瞬、振り替えしてやろうかと思案する。
 しかし、その内に少女へと声がかかった。

「おーい!」

 手を止めた少女に、一人の少年が横から走り寄っていく。
 夕日の赤に映える緑色の髪が印象的な、中性的な美少年だった。

「彼氏か……羨ましいもんだ」

 それは果たして、どちらに宛てた言葉なのか、俺はあえて考えないことにした。
 まぁ、フリーだったとしても、声をかける度胸なんて無いのだけれど。

「――あ?」

 ロマンティックな赤い浜辺を、少年達は歩いていく。
 その途中で、ぼんやりと見送っていた少女の影が、再びこちらへと振り返っていた。
 その手が、もう一度こちらへと振られている。


[黙って見送っていた(リグル:宣戦布告?)] ⇒[思わず振り返してしまった]


 気付いたときには、俺の手はつられるように動いていた。
 遠目に見た少女の顔は笑っていた。
 そして、その隣の少年は静かに、こちらを見つめている。

「そりゃあ……彼氏としてはいい気もしないだろうね」

 一時の間、二人と視線を絡めて、立ち上がる。
 嫉妬されても困るし、したって困るわけで。

「あぁ、やっぱり……羨ましいもんだ」

 今気付いたのだが、あの少女はかなり理想のタイプなのだった。





 時刻は七時を過ぎて、夏場とはいっても流石に空も暗くなってきていた。

「○○、遅かったな」

 自動点灯式の電灯が光ると同時に、僅かに開いた窓から藍姉さんの声が漏れてくる。

「ごめん、ちょっと用事があって」
「次はきちんと電話するんだぞ」

 少しだけ不満そうな苦言と共に、焼き魚のいい匂いが漂ってくる。
 俺は返答もそこそこに、扉を開けてただいまを言う。
 迎えに出てきてくれた藍姉さんは笑顔のおかえりをくれた。

「そうだ、○○」
「え……あ、俺の財布?」
「今日の夕方落としただろう。幸い、中身はそのままのようだ。良心的な者に拾われたものだな」

 差し出された財布を手に取ると、確かに中身はそのままだった。
 藍姉さんが言うには、今日の夕方に交番から落し物として連絡が来たそうである。
 拾ってくれたのはよほどの金持ちか、もしくは相当に純粋な人なのだろう。

「お礼の一つもしなくちゃな……」
「私もそう思ったのだがな、その人は急いでいたらしく連絡先が分からないそうなんだ」
「そっかぁ」

 ともかく、ありがたいことには変わりない。
 顔も知らない誰かを拝むようにして、俺は今度こそしっかりと財布をポケットに仕舞い込んだ。



 夕食も済んで風呂場から上がると、時計は九つを指差していた。
 夜もいい時間となって、俺は持て余した時間を――。


 [居間でぐったり(藍:無邪気とはかない姉弟関係)] ⇒[部屋でまったり]


「――おにいちゃぁんっ!」

 部屋でゆっくりしよう。
 そんなことを思っていた自分が如何に愚かだったことか、俺は前のめりに倒れながら、文字通り痛感していた。
 鼻の頭に走った鈍い衝撃に、熱い何かが込み上げてくる。
 もう少し当たり所が悪ければ、部屋に敷かれた鈍色のカーペットは真っ赤に染め上げられていただろう。

「やりやがったなあ……」

 鈍痛の恨みを瞳に燃やして、振り返った先には予想通りの人物が経っている。
 こんなことをするのは我が愛しき愚妹に他ならない。
 朝の弱さに比例するように、夜中はすこぶる元気な馬鹿である。

「それで、きちんと言い訳は考えてあるよな、橙?」
「勿論……ほらっ!」

 言って、橙は小さな胸を張って腕を突き出してくる。
 普段は視線もそこそこに軽くあしらってやるところなのだが、今日ばかりはそうもいかない。
 何故なら、彼女の手には無視できないものが握られているのだ。

「そ、それは……」

 それは、今日発売したばかりのマイナーグループ、幻樂団のニューアルバムだった。

「ふふ、しかもこれ、最後の一枚だったんだよ」

 更に、最後の一枚とは、まさに運命的ではないだろうか。

「それで、一緒に聴こうと思って待ってたんだけど……怒ってるの?」
「まさか! 鼻血が出そうなくらいに鼻を強打したくらいで、俺が怒るわけないだろう?」

 自分でも現金だとは思うが、満面の笑みはもはや隠しようもない。
 握り締めていた両の手は一つを橙の頭に、もう一つはCDプレイヤーの起動に飛んでいく。
 人間、どんなに不器用でも趣味の前には手際良く成らざるを得ないのである。

「それじゃあ、はい」
「お、俺が、開けていいのか?」
「うん。お兄ちゃんそういうの開けるの好きでしょ?」

 俺はなんて良い妹を持ったのだろうか。
 感涙を心の内で流し、両手を突き出して微笑む橙を拝むようにして、CDを受け取る。
 そう、俺はラッピングされたものを剥がすのがたまらなく好きなのだ。
 新品のケースを包むポリプロピレンフィルムにそっと爪を走らせ、赤いテープ部分を引いていく。
 同時に、透明のそれが無抵抗に裂けていき、汚れの無い新品のCDパッケージが顔を出した。
 微かに触れると、そこに薄く指紋の跡がついてしまう。
 それが、まるで純粋な何かを汚してしまったようで、俺に異様な興奮を――

「お兄ちゃん、なんか変態さんみたいな顔になってるよ……」
「――っ! いやいや、そんなことはないぞ?」

 突然の声に、俺は慌てて表情を引き締めて笑顔を浮かべる。
 しかし、橙は訝しげな表情のまま、じっと俺の顔を窺っていた。


[アリスに動物の人形を貰っているとイベント分岐(var.橙)]


「まぁ、とりあえずこれ早く聴こうぜ?」
「うー……うん。待ちくたびれたし、そうしよう」 

 舌を伸ばすようにして大口を開けているコンポに、開封したばかりのCDをセットする。
 無論、傷一つ付けないように、その動作は履歴書の清書よりも精密に行われた。
 そして、いざ再生ボタンをと手を伸ばしたところで、俺は肩を叩かれた。

「はい、お兄ちゃん」
「ん、イヤホン?」

 それは、唯一の趣味が音楽の俺が大枚はたいて買った、無駄に高性能なイヤホンだった。
 なるほど、時刻は九時過ぎ、確かに大音量で音楽を聴くには難しい時間帯だ。

「でも、一緒に聴くんじゃないのか?」
「うん、だからお兄ちゃんはこっちー」

 言って、橙は俺を後ろに座らせると、イヤホンのコードが長い方を渡してきた。

「んで、私はこっち」

 そして、橙はもう片方のイヤホンを手に、俺の膝の上に飛び乗ってくる。
 正直言って、中学生ともなれば重い。

「……重い」
「酷いっ!?」

 正直な感想に、驚いたように振り返ってくる橙。
 あぁ悲しいかな、それでも現実を受け入れるのだ妹よ。
 そして俺の膝から降りて不摂生を恥じるのだ。

「まぁ、気にしないけどね」

 残念、彼女は女を捨てていたようだった。
 これでもかというように、ぐりぐりと嫌がらせのように深く座り込んでくる。
 こうなっては、もう何を言っても退くことはないだろう。
 一つ溜息を溢して、俺はイヤホンを耳に押し込んだ。

「んじゃ、再生頼む」
「はーい」

 そして、音楽が流れ出すと同時に、騒がしかった俺たちはぴたりと言葉を失った。
 一昔前の電子音が刻むリズム、二つの音が重なり生み出される心地良い和音。
 懐かしくもあり、新鮮な想いも感じさせられるそれは、忘れられかけた幻想の音質。

――もう歌しか聞こえない。

「(――あ……これ、あの娘が歌ってた曲だ)」

 音に聞き惚れながら、脳裏に浜辺で見かけた少女の姿が浮かぶ。
 どれだけ引きずっているつもりなのか、思わず口元に苦笑がこぼれた。

「……おにいちゃん」
「ん、おう?」
「いいね、この曲」
「……そうだな」

 結局、俺たちは時間を忘れて、何度も繰り返し聴き続けた
 丁度時計の針が真上を指した頃、ようやくイヤホンを外して首を捻る。
 長い時間同じ姿勢だった為か、足の感覚が薄い。

「うわ、首バキバキいってら」
「……ん」
「こら橙、寝るならベッド。……その前に風呂に入れ」

 目の前で小さな頭が舟を漕いでいる。
 正直、良い香りのする髪に反応しなかったことに俺は安心していた。
 膝の上にある柔らかいそれを、俺は妹のものしか思っていない。
 
「お兄ちゃんと一緒なら入ってもいいよ」
「馬鹿。その風呂嫌い、そろそろ治せよ」
「……はーい」

 異性の姉妹を持っている身としては、距離感には気をつけないといけないわけだ。
 特に、橙は純粋でスキンシップが直線的なだけに、意識してしまう日が来てしまうかもしれないから。

「良い兄貴は辛いぜ」
「何言ってるの?」

 溢した溜息に橙の呆れた声が重なる。
 もしも何かの間違いで、今日のようなことを藍姉さんとしてしまったら、俺はきっと耐えられない。
 義姉、義妹という言葉を知らずにいられたら、どんなに幸せだっただろう。
 それも、我らが母君のお茶目が裏目に出た結果である。
 まぁ、あの人の茶目っ気が裏目に出なかったことは一度も無いのだけれど。 

「いいから、早く風呂入れ」

 もう一つ、深い溜息を溢してしまう。 
 ついでに追い出すように手を振ってやると、橙は小さい舌を精一杯に出して渋々嫌々と階段を下りていった。
 思わず零れていた微笑は、当分危惧していた状況にはなるまいと感じた為なのだろう。
 扉が閉まる音を遠くに聞きながら、ゆっくりとベッドへと倒れ込む。

「……はぁ」

 網膜に白い光が焼きつくのも気にせず、呆然と蛍光灯を見つめる。
 幻覚の類か、その白色の中に母の姿が浮かぶ。
 決して遠くない昔、あの人は言ったのだ。

「私達は血が違うんだから好きにしていいのよ、その為に、私はあなたの母であることを諦めたのだからね。藍も、橙も、そして――」

 あの人のことだから、本当にそんな理由で俺をただの居候として扱っているのかもしれない。
 幼心に本当の両親の為なのだと誤認していた俺は、その言葉に大層驚いた。
 というより、人間不信の一歩手前である。
 恋愛ごとのナニを気にしはじめた小学生高学年に、その生々しい言葉はトラウマになりかねない。
 まぁ、今現在も、些細なことに一喜一憂するくらいには影響されているのだけど。

「そういえば……昔」


 ――橙は大きくなったら何になりたいのかしら?
 ――お兄ちゃんのおよめさんがいい!
 ――そう、なれるといいわねー……


「まさか、あんな些細な理由じゃないだろうな……?」

 否定できないのが、我が母の怖いところである。





 時計盤の針が真上に重なって、時刻は丁度零時を示していた。
 光の消えた薄暗い部屋の中で、家の前を通る車のライトが時折差し込んでくる。
 淡いまどろみの中で、俺は一日を振り返っていた。

「……疲れたな」

 思えば思うほどに、今日は些細なことが積み重なった忙しい一日だったように感じる。
 だから、俺は薄く開かれた戸から漏れた光から顔をそむけた。
 石鹸の香りがするゴミが布団に入ってこようと、何も言うことはなかった。
 ただ、いつもは気にも留めないそれに、俺は背向けて寝入ることにする。
 そう、ただ単に“疲れていたから”、それだけの理由なのだ。

[橙に人形を渡しているとイベント分岐(人形を抱いて寝るゴミ)]

 やけに温かい布団の中、無意識の内に、俺は夢の中に落ちていく。
 何故だろうか、根拠は無いのだが、今夜は良い夢が見られそうな気がしていた。





「……ーい」

 絡み付くような、鼻にかかった女性の声が聞こえる。
 まるで俺を篭絡するかのように、その声が俺を包み込んでいく。

「おきなさーい」
「――いい加減、勝手に人の夢に入り込むのはやめてください。紫さん」
「あら、酷いわね。そんなに邪険にしなくても良いじゃない?」

 白だけが広がるイメージの中、名の通り紫色を基調とした衣服に身を包んだ女性が立っていた。
 俺は薄く目を開けて、その女性、八雲 紫さんに視線を向ける。
 金糸のように輝く長髪は風もないのにふわりと揺れて、夢の世界の非現実さを明確に感じさせていた。

「元気にしているのね、こっちも忙しくて中々様子を見に行けないのだけれど」
「親が居なくとも子は育ちますよ。育ての親も此処までくれば……ね」
「あら、少しは嫌味の言い方も勉強したのね。」

 無論、教師はこの紫さん以外にはいないのだが、言葉の押収で勝てる見込みは無いので黙っておく。
 そのまま数秒の沈黙を過ごして、紫さんはゆっくりと口を開いた。

「……楽しそうでよかったわ」
「まぁ、寂しくはありませんよ」

 柔らかく、安心したように紫さんは笑った。
 長年世話をしてもらっているわけで、この人のことはよく分かっている。
 昔から変わらないのだ、今や顔さえ虚ろな両親を亡くしてからずっと、俺のことを気にかけてくれた家族。

「あれだけの女の子に囲まれたら、寂しくもないでしょうね」

 紫さんは笑みを深めながら、瞳を閉じる。
 まるで終始見ていたかのような言葉に、俺は思わず肩を跳ねさせた。
 紫さんなら、本当にそんなことをしていてもおかしくない。
 二子を持つ身でありながら、未だに老いを見せない自称魔法使い、紫さんは自他共に認める「不可能を可能にする女」なのだ。

「とーこーろーで、折角だからもっと色っぽい話もしましょうか。霊夢とはどうなのかしら、昔から一緒にいるわよね」
「ば、霊夢は……そんなんじゃない」
「あらあら、せっかくあなたの恋の境界をあやふやにしてあげているのに」
「……協会?」
「簡単に言うなら恋の魔法よ、もてもてなのよ!」

 恍惚と、身悶えするように紫さんが声を上げる。
 同時に、俺は眉根を寄せて半歩ほど後ろに下がった。
 紫さんの悪乗りは、もはや俺の身体に恐怖を植えつけるには充分なものだから。

「あ、それとも私が攻略対象なのかしら」
「……何を言ってるんですか」
「あら、血は繋がってないんだから問題ないのよぅ? 勿論、藍も橙も……その気になれば無問題」

 ニヤリと、紫さんの笑みが深く、胡散臭いものになっていく。
 その唇が紡ぎだす一言一言に、心が動揺を隠し切れず、大きく鼓動した。

「私もね、まだまだ……あなたを相手にできるぐらいには女のつもりよ?」

 パサリと、紫色が地に落ちる、同時に露になった白い身体を目にして――。

「だああぁぁっ!」

 叫びと共に、俺は夢の中から目覚めた。





[藍に人形を渡しているとイベント分岐(寝顔を見ていた藍)]


 夢見のせいか、全く眠った気のしない目覚めだった。
 しかし、いつの世も時間は全くもって残酷なのである。

「――八時っ!?」

 止めた覚えのない目覚まし時計は午前八時、通称遅刻の時間を指差している。
 そして、その上には、俺のものではない華奢な指先が乗っていた。

「……橙」

 幸多そうな寝顔が、今は何よりも癇に触る。
 因みに、起こしてやる気も時間も、今の俺にはない。
 とりあえずは普段通りに、ゴミを跳ね飛ばす仕草でベッドから押し出してやる。
 寝起きの悪い愚妹は、今日もこれくらいでは起きる素振りさえ見せなかった。

「行って来るぞー」

 玄関口から聞こえてきた藍姉さんの声に、焦りは募っていく。
 というか、起こしてくれたって良いのではないだろうか。
 床にずり落ちた布団の上で寝息を立てるゴミをよそに、俺は制服に袖を通す。
 身だしなみを整える余裕もないまま、顔だけを洗って歯を磨く。
 そして、俺は整髪料を鞄に突っ込むと、朝食を名残惜しくも無視して家を出る。

「――は?」

 そこで、俺は信じられないものを見つけた。
 一人走り抜けるつもりだった門の前に、少女が一人立っている。
 それが魔理沙だったのなら、まだ納得がいく。

「霊夢……?」

 軽く走れば間に合う時間だった。
 それでも、彼女ならもう学校に到着している時間の筈なのだ。
 
「どうしたんだよ、まさか寝過ごしたのか?」

 未だに信じられないまま、俺は考えられる唯一の理由を口にする。
 珍しくはあるが、ありえないわけではない。
 しかし、霊夢はあっさりと、その首を振ってそれを否定した。


「――だって、あんたが待ってろって言ったんじゃない」


 呆れたように、霊夢は言う。
 しかし、都合十年と数ヶ月にも及ぶ学園生活で、俺はそれがありえない事だと知っていた。
 こいつは間違いなく、待ち合わせの時間に遅れた奴は置いていくタイプで。
 友人といえど、逸脱した行為に及べばそれを正したりもする。
 つまりは縛り付けられない、縛り付けてはおけない性格なのだ。
 そんな奴がこうしている理由なんて、俺には――

――簡単に言うなら恋の魔法よ

「……まさか」
「早く行きましょ、遅れるわ」

 黒髪を振って、霊夢が歩き始める。
 俺は五秒ほど呆然として、その背中を見つめていた。

「ほら、早く!」

 この日から、俺の日常は変わっていくのだ。









 続 (かない
















■CAST

# 博麗 霊夢「……一緒に居たいから、此処に居るのよ」
# 霧雨 魔理沙「なんだよ、私に惚れたか?」
# ルーミア「一緒にいて楽しくて、それだけじゃだめなのかー?」
# チルノ「偉そうなことばっか言わないでよ!」
# 紅 美鈴「酷いですね、苛めですね、でも結構楽しいこともあるんですよ? 執行部」
# 小悪魔「はい、今日はいかがいたしましょう?」
# パチュリー・ノーレッジ「……うるさいわね」
# 十六夜 咲夜「お嬢様が一番ね、あなたは……十六番目くらいかしら?」
# レミリア・スカーレット「日が強い日は外にでも出られないし、面倒な女よ? 私……」
# フランドール・スカーレット「遊んでくれるの?」
# レティ・ホワイトロック「いつもチルノがお世話になってますね」
# 橙「お兄ちゃんってさ、モテるの?」
# アリス・マーガトロイド「ばっかじゃないの? 本当にもうっ! 怒って……怒ってないわよ馬鹿!」
# リリー・ホワイト「春はいいですよねー……あれ? 何を話していましたっけ?」
# ルナサ・プリズムリバー「……楽しい?」
# メルラン・プリズムリバー「あはは、アガってくるよねー!」
# リリカ・プリズムリバー「姉さん達みたいなの好みなんですねぇ……クス」
# 魂魄 妖夢「幽々子様はあなたが好きなようです。……認めたくはありませんが」
# 西行寺 幽々子「妖夢はちゃんと女の子なの。優しくしてあげてちょうだいね?」
# 八雲 藍「私は、少しでも立派なお姉ちゃんでいたいんだ」
# 八雲 紫「あら、私? ……いいわよ?」
# リグル・ナイトバグ「え、虫って可愛くない?」
# ミスティア・ローレライ「歌って暮らしていけるなら、それはきっと居眠りしている私の夢だろうね」
# 上白沢 慧音「この……ばか者」
# 因幡 てゐ「私が悪戯したり嘘を吐いたりすると、みんな喜ぶの。だから、私は今日も悪戯するし嘘も吐くわ」
# 鈴仙・優曇華院・イナバ「あ、あなたが言い出したんでしょ! 座薬って!」
# 八意 永琳「あらあら……あらあらあらあらら?」
# 蓬莱山 輝夜「妹紅と仲が良いみたいねぇ……?」
# 藤原 妹紅「あいつにだけは近づくな、分かったな?」
# 伊吹 萃香「気合と根性! あと嘘は吐くなよ青年!」
# 射命丸 文「良いから今は手を動かしてください! 部誌を落とすわけにはいかないんです!」
# メディスン・メランコリー「苛められてなんて……いません」
# 風見 幽香「あらぁ? また自主休校なのかしら?」
# 小野塚 小町「何事もほどほどがいいのよ、あの子に一番必要なのは手を抜くってこと」
# 四季映姫・ヤマザナドゥ「あなたは自分にできる最高のことをするべきではないですか?」






 学園恋愛シュミレーションノベルス
 「私立東方学園 ~恋の境界~」

 2007年・冬 発表予定!


















 ウソウサ(・x・)

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最終更新:2010年06月06日 21:38