東方学園5



11スレ目>>466


クリスマス。世界が血の赤と死体を吊り下げた木の緑と死に装束の白で彩られる日。
……訂正しよう。世界がサンタクロースの赤とクリスマスツリーの緑と雪の白で彩られる日。

学校が冬休みに入り、寮に住む生徒も里帰りをしたりそのまま残っていたりしながら祝福された日を謳歌していた。
「はあ、寒いな」
「雪でも降ればさらにいい日なんだけどな」
「……お前な。雪なんて降るような寒い日になってみろ。俺が出掛けたくなくなるじゃないか」
「酷いな、聖夜に雪が降るのはいい事なんだぞ?」
寒空の下、並んで歩く男女二人。魔理沙と△△だ。
「にしても、珍しいな?魔理沙が俺を誘わないなんて」
「何だよその発言。……私だって、たまには後ろをついて行きたいんだよ」
学園祭の一件以来、少しずつ仲を深めていった二人。今では周囲に見せ付ける……とまでは行かないがなかなかのイチャイチャっぷりを見せている。
「おお、お前がそんな事を言うとは。……こりゃ本当に雪が降るかもな」
「……△△の馬鹿」
いつもは魔理沙が先にどこか行こう、と言い出すのだが、今日はなぜかそういうそぶりを見せなかった。
しかし、明らかに『どこかに行こうって誘って光線』を出している魔理沙を△△は放って置けず、魔理沙を連れて出かける事になったのだ。
今はその事でからかわれて魔理沙がむくれている。△△は笑いながらすまんすまんと手を合わせて謝った。
「悪かったって。お詫びに何か奢ってやるから」
「……私はそんなに安い女じゃないぜ」
「あんまり高いのは勘弁してくれよな」
とは言ったものの、結局高い物を買わされそうだと△△は覚悟を決めた。魔理沙が立ち止まり、それに合わせて△△も止まる。そして魔理沙が言った言葉は……
「じゃあ、今ここで抱きしめてくれ。寒いんだ」
「……え?」
「こう、ぎゅっと。そうすれば許してやる」
両手で物をかき集めるようなジェスチャーをし、さらに言葉を続けた。
「マジで?」
……△△が戸惑うのも無理はない。夜とはいえ、人の多い大通り。その往来の真ん中で抱きしめてくれと言うのだ。はっきり言って恥ずかしい。
そんなバカップルみたいな事をやれって言うのか、と口から出そうになり、慌てて飲み込んでいると。
「△△、お願い……」
魔理沙がじっと上目遣いで△△を見つめる。
「おま、キャラが違うぞ……」
「……誰が私をこんな風にしたの?」
うっ、と言葉に詰まる△△。……確かに、△△と付き合うようになってからたまに魔理沙が女らしくなる時がある。
恋は女を変えるのよ、と変態教師、もとい永琳先生にも言われた。
「早く、して?△△がいなきゃ凍え死んじゃうよ」
まるで寒さに震える子犬のような目で△△を見つめている。
「わ、わかったからそんな目で俺を見るな!」
ついに△△も観念し、魔理沙を抱きしめてやった。ちょうど魔理沙の頭頂部が△△の顔の下に来るため、ほのかにシャンプーの香りがする。
「……冷たいな」
「△△も。……あ、そうだ」
おもむろに△△の腕から抜け出し、彼のコートの前を開いてその中に入った。
「へへー、あったかー」
「お前、本当に同い年か?……そういう事すると余計にガキっぽいぞ」
「だってあったかいんだもん」
もはや理由になってない返しの言葉に、△△はつい吹き出してしまった。
「何だよいきなり?っていうか頭にちょっと唾かかったぞ」
「スマンスマン。……ん?」
「どうした、△△」
「いや、見知った顔がいてな。ほら、鈴仙と□□」
△△が指をさした先には、確かに二人の知っている人物が。
□□と鈴仙が話しながら道を歩いている。……珍しい組み合わせもあったもんだ、と△△が呟いた。
「クラスの優等生と不良のコンビだなんてな」
「……あれ、△△はアイツの本性知らないんだ」
「本性?……あ、逃げた」
二人が話している隙にいつの間にか鈴仙と□□が視界から消えていた。
「鈴仙の事だよ。アイツはああ見えてブイブイ言わせてたんだぜ?中学時代のダチから聞いた話なんだけどさ」
「ブイブイ?あの鈴仙がか?」
学園ではクラス順位が決して5位から下がった事のない、立ち居振る舞いもお嬢様……とまでは行かないが(実際に学園内に良家の娘もいるし)かなり礼儀正しい。
その鈴仙が昔はちょっと荒れていたと言う。コレはかなり驚いた。

   *>>コードMカラ コードRヘ ドウゾ<<*

「……あの女……マジで射殺してやりたいわ」
「とりあえず落ち着いてその上着の下で握っている物から手を離しなさい鈴仙さんや」
せっかくのデートだと言うのに他のクラスの生徒を見つけてしまい、さらに向こうからも気付かれてしまい仕方なく物陰に隠れて。
左手を上着の中に入れながら苛立った声で呟く鈴仙を□□がなだめる。
「ただでさえ最近はお巡りさんがうるさいってのに、お前は何でそんな物を持ってくるのかな」
「だって懐が寂しくて……」
「お前はどこぞのガン&カーマニアのインド系女性バウンティーハンターか」
「要するにラリー・ビンセントさんよね」
「要約するな。あえてぼかしたんだから」
……ちなみに。鈴仙の上着の下にはショルダーホルスターが装着されていて、小型ガスガンが収められている。
「そもそも、その男勝りな性格を隠すために猫かぶってるんだろ?……まあ、魔理沙がお前のことを知ってるならもう絶望的だが」
「……そうよ、あの人間拡声器に私の素性が知られたらもうおしまいなのよ!だから射殺させて!お願い!」
「時事ネタは頼むからやめろ!これでさらにエアガンが規制されたらどうするつもりだ!?」
□□の言葉を聞き、鈴仙が固まった。……その後に深呼吸をして心を落ち着かせる。
「そう、よね。ただでさえ私達みたいなサバゲーマーは風当たり強いし……」
この二人の接点は中学時代、サバイバルゲームで同じチームにいた事によって深まった。
同じ趣味を持っている事ですぐに打ち解け、ずっとコンビを組み続けている。チーム内の切り込み隊長である□□と、それをサポートする鈴仙。
この二人がチームに揃っているだけで、鬼のように強くなる。チームの他のメンバーがそう話すほどだ。
「それに、お前ぐらいなもんだろ?部屋のいたるところに隠しガンラックがあって、そこに銃をコレクションしてる女子学生は」
「えー?……ほら、よくぬいぐるみとかお人形を飾っておく子がいるじゃない。あれと同じ感覚よ」
「……いや、『キレイキレイしましょうねー』とか可愛く言いつつMP5やM700のメンテするのはお前だけだ」
□□の台詞を聞いた瞬間、鈴仙の顔が赤くなった。
「い、いつ見てたの!?」
「ああ、この前お前ん家に寄る機会があったからな。そん時に顔を出そうとしたら……」
その先が紡げない。赤面と涙目の鈴仙に喉元に小型ガスガンを突きつけられて口を動かす事が出来なかった。
「忘れて。お願いだから」
「応」
こんな顔も可愛いなぁ、と思いつつも喉に押し付けられた感触を無くす為に言わないでおく。
「……そんなに恥ずかしい事かよ」
聞こえないようにボソリと言ったつもりだが、しかし鈴仙には聞こえていた。
「恥ずかしいわよ!□□にあの姿見られたくなかったんだもん!」
「わかったから怒鳴るな。魔理沙に見つかったらどうする?」
「うー……」
鈴仙は唸りながら上着のポケットを探り、煙草を出す。ソフトケースの上を軽く叩いて飛び出させて、そのうちの一本を取り出した。
ケースをしまい、次に取り出したのはオイルライター。ヤスリを回して火を点け、それをくわえた煙草に近づける。
「……お詫び」
「ん?」
吐き出す煙と共に小さく出た言葉。
「お詫びよ、乙女の秘密を覗いた罰。受けてもらえるわね?」
「んー……仕方ないな、そのオトメノヒミツとやらに釣り合う物ならいくらでも受けてやる」
「いい心がけね。……次の二つから選ばせてあげるわ」
一体どんな罰が待っているのか、□□は真剣な面持ちで鈴仙の言葉を待った。
「一つ、ソードカトラス2丁と予備マガジン。二つ、HK33A2セット。どっちがいい?」
「って、それは作者が今欲しい銃じゃねぇか!」
「そんな事はどうでもいいのよ!どっちがいいの!?」
ツッコミにもめげずに言い寄ってくる鈴仙。□□は頭を抱えた。
「どっちも高ぇよ!……ったく、じゃあとりあえずHK33で……」
「……言ったわね?」
台詞と共に□□の腕を掴む鈴仙。ニヤリと笑みを浮かべ、咥えた煙草を動かす。
「何だその煙草ピコピコは」
「……明日買いに行くから□□の家に泊めて」
「ん、別にいいけど……いやよくねぇ!どういう意味だ!?」
前半だけを耳に通していたせいで危うく普通に頷きかけた。すぐに前言を撤回し、鈴仙を問い詰める。
「だって□□はいつも眠いからって断って午前から遠出をしたがらないじゃない」
「だからって何で俺んちに泊まる必要が!?」
「□□の部屋が見たいから」
きっぱりと言われ、□□は軽く立ち眩みを覚えた。それでも何とか踏みとどまり、頭から台詞を絞り出す。
「……あー、なんだ、つまり。さっきのオトメノヒミツに繋がってる、と?」
「というか、□□が私を家に呼んだ事って無かったよね」
「まあ確かに……だがよ。家に呼べってのはわかるが、泊めろって、なあ?」
「……つまり、『男と女、一つ屋根の下』な状況になるのがどうかと思うって事?」
鈴仙の台詞に□□が頷き、さらに続ける。
「俺だって男だ。下手すりゃ……その……食っちまうかもしれん」
「食べても、いいのよ?」
鈴仙のあっさりした切り返しに□□の顎が落ちた。
「な」
携帯灰皿に吸殻を入れ、さらに鈴仙は続けて言う。
「ただし、避妊はちゃんとしてね?この歳でお母さんになるのは嫌だから」
「……女としてどうかと思うぞ今の発言は」
「好きな人にわが身を捧げるのが問題なの?」
好きな人という単語を聞き、□□は口ごもってしまった。何よその反応、と鈴仙がふくれる。
「いや、本当にいいのか?」
「何よ今更。一度くらいはそういうコトをしたっていいでしょ?それとも……立たないの?」
「待て待て待て待て!そういう男心を傷つける発言をこんな所でするな!それにちゃんと立つわ!」
「……□□の方が恥ずかしい事言ってるじゃない」
急に赤面になり俯く鈴仙。それもそうかと一つ咳払いをし、□□が一言。
「わかった。今夜はうちに泊まるんだな?」
「うん……」
ぎゅ、と腕を掴む手に力が入る。なんとなく幸せになれた気がした。

   *>>コードRカラ コードAヘ ドウゾ<<*

あー、間に合わない!というわけで東方学園のクリスマスネタでした。
実は最後に○○と誰かを絡ませようと思ったんですが今の今まで見つからずに結局ボツ。

魔理沙は学園祭ネタ、鈴仙は屋上ネタを参照してください。

#鈴仙
→7スレ目 >>608-609(東方学園)


12スレ目>>59


東方学園。国内有数のマンモス校であるこの学園には多種多様、さまざまな人妖(その括り以外も)が集まり、今日はその入学式だった。

特進学級である一年一組に選ばれた大妖精はその教室の前で、一人おろおろと落ち着き無く辺りを見回していた。

 ……入学式早々の遅刻(原因は親友なのだけれど)。教室の中からはこれからについて語る担任らしい男の声がさっきから聞こえていた。




「困ったな……何て言い訳しても怒られそうだよ……」


               *


「まったく、特進学級の生徒のくせに遅刻なんぞしおって! そもそも特進学級というのはだな……」

 式終了後、予想通り職員室に呼び出され、長々と続く担任の小言を縮こまりながら聞く大妖精。今にも逃げ出したい思いでいっぱいだ。
 けれどそれは叶わないわけで、大妖精は心の中で困ったと小さく嘆息する。

「大妖精! 聞いているのか!!」
「え、は、はいっ!」
「聞いてなかっただろう! 大体お前」

「先生」

 担任の声を遮るようにして、不意にその場になかった第三者の声が聞こえた。大妖精と担任が揃って声の聞こえた方へ目をやれば、そこには大妖精と同じ一組の○○が立っていた。

「○○じゃないか! 何だ、何か用か?」

 担任は大妖精に対する態度とは正反対と思われるほど穏やかな口調で○○に話し掛ける。

「他の先生がその子を呼んでいたんですけど。連れて行ってもいいですか?」
「む……」
 まだまだ言いたいことはあったらしく、大妖精へねめつけるような視線を送りながら、

「……あぁ。構わないぞ」
 渋々といった様子で承諾した。

「どうも。……じゃあ、ついて来て」
「あ、は、はいっ」
 ○○に声を掛けられ、大妖精は慌ててその後を追う。

(どの先生に呼ばれたんだろ、また怒られるのかな……)

 咎められること以外では考えられず、きょろきょろと大妖精は周りを見回す。入学式のため、教師たちは忙しなく出入りしたり机に向かったりしていた。

「失礼しました。」
「えっ?」

その声ではっと我に返る。大妖精たちはいつの間にやら職員室を出ていた。がらがらと大妖精の後ろで扉が閉まる。

……訳がわからず、大妖精は控えめに声を掛けつつ○○を見上げた。彼は頭一つ分以上、大妖精よりも背が高い。その視線に気づいた○○は大妖精と目を合わせ、緩く笑ってみせた。

「さっきのは嘘。誰も呼んでないよ。それじゃ」

「あ……」
 助けてくれたんだ、と大妖精は一人心の中で納得する。そしてすでに歩き始めていた○○に向かって言った。

「あ、あの! ありがとう……!」

「え、」
 礼を言われるとは思っていなかったのだろうか、○○は少し驚いたような表情で振り返った。
 だがそれも次の瞬間にはどこか嬉しそうで意地の悪そうな(まるで子供のような)微笑を浮かべ

「ん、どういたしまして。またな?」
「……っ……」
 そう返し再び背を向けて歩き出した。大妖精はしばらくその場に立ち尽くす。……先ほど○○の見せた、微笑。どういうわけかそれが大妖精の頭に焼きついて離れなかった。

「……な、なんだろ、これ……」

 大妖精の中には微かに、けれど確実に芽生え始めている気持ちがあった。



 ○○ :基本のんびりした性格。少々意地悪なところも。しかられて弱った顔をしている大妖精をみてゾクッときた。

 大妖精:ヒロイン。中学入学初日、隣に住む親友のチルノを遅れないよう起こした後、ギリギリの時間なのにも関わらずチルノが先日乗れるようになった自転車
      で行くといって聞かず流されるまま後ろに乗ったが、登校途中後ろから追い抜かれたロードレーサーに対抗意識を燃やしたチルノが競争開始。結果遅刻。

 チルノ :大妖精とは別クラス。同じく遅刻するも、あまりの堂々とした態度に担任の先生(33歳独身、行き遅れ感ただようヤサグレ女教師)は注意だけに留めて放置。
      その後の学校生活で前代未聞のダメな伝説を次々うちたてる。




10スレ目>>698-701


  九月某日。
  俺の通う学校は、学園祭の準備に追われていた。
  「おーい、材料が足らんぞー!」
  校庭では先生達がやぐらを組んでいる。臨時の校内放送をする際に使われるのと最終日のお楽しみのために使われる、らしい。
  ……後者については担任から聞いた話なのでまだよくわからんが。
  「ちょっと、手が動いてないわよ」
  「ああ、すまんすまん」
  窓から下の光景をボーっと眺めていると、横で作業をしていたアリスに怒られた。
  まあ当然だがクラスごとに出し物を決めなければならない。俺のいるクラスは二つ三つの簡単なゲーム……よく祭りの屋台とかであるような遊びを出す。
  俺は玉入れゲームの台を作っていて、アリスは景品の人形を作っている所だ。
  むう、点の高いほうを前に持って行くか後ろに持って行くか。そう考えながらふとアリスの方に目をやる。
  一心不乱、と言っちゃ悪いが、きれいな指捌きで丁寧に縫っていく。まるで魔法をかけるように。
  一箇所を縫い終わり、一旦糸を切った所で俺の視線に気づいたらしく、アリスが俺を見た。
  「……どうしたの?」
  「いや、何か凄いなって」
  彼女に自分の目を見られているのが恥ずかしくて、つい目をそらしてしまった。
  「アリスの指が、人形に魔法をかけてるみたいでさ」
  「えっ」
  ちらりとアリスの方を見ると、顔が赤くなっていた。……余計恥ずかしくなってきた。

  「マスタースパーク!」

  突然聞こえた叫びとボインという音とともに、俺の頭に何かが当たった。……拾ってみると、ゴムボールだった。
  「あ、すまんすまん。変なところに飛んで行っちまったな。……やっぱ改良の余地があるな、この『マスタースパーク打法』は」
  「って、魔理沙!遊んでんじゃねぇよお前は!」
  本人の言葉と状況からして、出し物で使うゴムボールをバッティングして遊んでたんだろう。
  「ったく……あの馬鹿は」
  怒り任せに釘を叩く。あーもう適当でいいや。そっちの方がランダムで面白いだろうし。まったく、人がいい雰囲気のときに……
  「あだっ!」
  がづっ、と鈍い音と共に指先が痛みでしびれる。
  「ちょっと、大丈夫なの?」
  「いや、指打っただけ。しばらく我慢すりゃ痛みも治まるって」
  そんな俺を心配してくれたのか、アリスが声をかけてくれた。とりあえず苦笑いを返しておく。
  「んなもんつばでも付けときゃ治るって。私の分までしっかり働いておけよ」
  ニタニタと笑いながらドアを開けようとする魔理沙。
  「魔理沙、どこ行くのよ」
  「ちょっと花を摘みに」
  「……トイレならトイレって言えよ」
  そうつぶやく俺を睨みつけた後に、魔理沙は教室から出て行った。


     ***

  あれから時間が経ってすっかり日も暮れてしまい、作業をしているのは先生と俺くらいになってしまった。他の生徒はもうほとんど帰ってしまっただろう。
  ……で、なんで俺が残っているかと言うと……
  「あの馬鹿、絶対帰りやがったな……」
  魔理沙の分の作業もやらされていた。それもほとんどの。
  「明日しばく。絶対しばき倒してやる」
  「あら、まだ残っている生徒がいたの?」
  その声に振り返れば、入り口に永琳先生がいた。
  「あれ、どうして保健室の永琳先生がここに?」
  「……どうしても何も、今日の宿直よ。今、何時だと思ってるの?」
  ふと教室の時計を見てみると……
  「うわ」
  すでに9時を過ぎてる。……やけに外が暗いと思ったら。
  「……門は閉まってるし、もうここに泊まっていったら?」
  閉める前に確認ぐらいしてくださいよ。そう言うのも面倒になってしまうほど疲れていたし、言葉に甘える事にした。
  「そうします。……とりあえず、この作業が終わったら、ですけど」
  「保健室のドア、開けておくから。そこのベッドで寝てなさい」
  はい、と返事をし、また作業に取り掛かった。……しかし、10分もしないうちに飽きてしまう。ずっと作業しっぱなしだしな……
  とりあえず保健室に行き仮眠をとる事にした。階段を下り、一階の廊下を進む。
  「夜の学校は、ぜんぜん雰囲気が違うな」
  そんな事を言いながら保健室のドアを開け、ベッドに直行。カーテンを閉めてマットの上に体を投げ出す。
  普通のベッドに比べて固めに作られたマットレスが俺の体を跳ね返す。が、その抵抗も意味がなくベッドの上に寝転ぶ事が出来た。
  しばらく寝れば疲れも取れるだろう、と仰向けになって目を閉じる。
  その五分後。ドアが開く音がした。先生か、と思って耳を澄ますと。
  「ついてないぜ。トイレで思わず寝ちまって、気が付いたらもう門が閉まってるだなんて、な」
  魔理沙だ。……あの野郎、トイレで寝てやがったのか。
  「確か、あいつもこっちにいるって聞いたんだが……あ、ここか」
  カーテンが開く音と人の気配。……何か仕掛ける気なら驚かしてやれ。そうしなきゃ居残り作業の恨みを晴らせん。
  「…………」
  何をするでもなく、立ったままの魔理沙。……ほら、仕掛けて来いよ。どうせ額とかまぶたに落書きだろ?
  「……寝てる、よな」
  よし、と小さく呟いた後に、ベッドがきしむ音……そして、俺の体の上に柔らかい感触。
  (……おいおいおいおい!?)
  「えへへへ、あったかいな……」
  なんと、魔理沙は俺の体に乗っかってきたのだ。……これは予想外、というか予想できなかった。
  「今日はごめんな。ゴムボールぶつけたりして。思わずかっとなっちまったんだ」
  俺の胸に顔を押し当てながら魔理沙が言う。
  「お前もお前だよ。あんな事言ってさ。……アリスに嫉妬したじゃないか。で、アリスにぶつけてやろうかと思ったら……本当にごめん」
  猫のように俺の上でもぞもぞと動いているのがもどかしい。
  「わ、私だって……違う。私は、お前が好きなんだから……って、こんな事言ったって寝てるからわかんないよな」
  (な、何ィィィィィィィッ!?)
  「だから、今はこうやってお前を独り占めできるのが凄く嬉しいんだ。今だけは、私の物になってるから……」
  衝撃的だった。あの魔理沙が、正直恋愛をあまり考えていなさそうな魔理沙が……俺を好き、だと。
  思わず魔理沙の顔を確認したくなり、薄目を開けてしまった。……今思えば、それが大ポカだった。
  「……あ」
  ゆっくりと薄目を開けていたので、辺りが見えるようになった瞬間目に飛び込んできたのはものすごく近くにある魔理沙の顔。
  しかも目が合った。
  「…………あ……う……」
  「……」
  「……聞いてた、のか?」
  「……ごめん」
  もう薄目にする必要は無い。目を開いてはっきりとそう答えた。……直後、魔理沙の顔が真っ赤に染まる。
  「あ……うあ……バカァーッ!」
  「いや俺が悪かモファ」
  涙目で枕を引っつかんで俺の顔に何度も何度も叩きつける。
  「バカ!バカ!ひどいよ!なんで!起きてたの!」
  「わかっモフ、おちつモフ、おちつけって!」
  何気に固い保健室の枕で何度も殴られてはたまらない。慌てて腕を掴み、止めてやる。
  「……ひぐっ、ひどいよぉ……うぐ、ぐすっ」
  「……悪かった。ちと悪戯でも仕掛けようかと思ってな。そしたらいきなり俺の上に乗って来たもんだから……」
  「もういいっ!それ以上言わないでっ!」
  魔理沙はもうマジ泣きだ。仕方ない、と苦笑して腕を掴んでいた両手を離し、
  「……ぅえ?」
  かわりにぎゅっと抱きしめてやった。
  「ごめんな、魔理沙」
  「あぅー……や、やめてよ……」
  「なんだ、これじゃあ不満か?ならとっとと降りてくれ」
  「ふ、不満じゃない不満じゃない!」
  あうあうと慌てる魔理沙が可愛く思える。……ふと悪戯心が湧いた。
  「なあ、魔理沙。さっきお前の顔が俺の顔に近づいてたけど、何をしようとしてたんだ?」
  「え、あ、いやその……気にすんな!」
  「気にするなと言われてもなぁ。お前は何をしでかすかわかったもんじゃないしな」
  まあ、本当はわかってるが。悪戯書きするにもあそこまで近づけないし……答えは一つだろう。
  「あー、えっと、えっと……そう、額だ。額に肉って書こうと……うわっ!?」
  抱きしめていた手で魔理沙の後ろ頭を押し、さっきと同じくらいの距離に顔を近づけてやった。
  「こんな、近距離でか?」
  「わ、私は近眼なんだよ。これくらい近づかないと……」
  「嘘はよくないな、魔理沙君。こんな距離で導き出される答えは一つだろう?」
  額同士をくっつけてニヤ、と笑う。そんな事をされたからか魔理沙の頭はさらに混乱したようで。
  「い、いや別にそんな、き、キスしようだなんて考えてなかったからな!それも唇に……っ!!」
  墓穴を掘ったな。自分からそんな事を言って顔を真っ赤にしている。
  「あわわわわわ……」
  「……面白い奴」
  く、く、く、と笑う俺を見て、どうやらからかわれたのがわかったらしく。
  「あ……何だよ!乙女心を踏みにじりやがって!バカ!バカぁ!」
  魔理沙が俺の肩をポカポカ叩く。悪かった悪かった、と軽く謝り頭を撫でてやった。
  「むぅ……」
  まだむくれてはいるが、満更でもないようだ。




  「……で、いつまでその熱々っぷりを見せ付けてくれるのかしら?お二人さん」

  「どっひゃ!?」
  「うわぁっ!?」
  少し開いたカーテンの向こうに立った人物の声に、俺たちは二人して飛び上がった。
  「セ、先生ィ!?」
  「声が裏返ってるわよ。……まあ、予想はついてたけれどね」
  その人物……永琳先生は呆れ八割、苦笑二割の顔でこう告げた。
  「この部屋はラブホテルじゃないんだから。乳繰り合うんなら別の部屋でしなさい。……今日辺りは廊下でやっちゃっても大丈夫よ」
  「何がですか!いや、何をですか!」
  「何って、ナニよ」
  「この変態教師!」
  「な、ナニって……何だ?」
  「あら。それはもちろん(あなた達!)よ。わかるでしょ?(此処は、)を(全年齢)に(板よ!)しちゃう事よ」
  「オイコラ!よい子のゼロs……もとい、よい子のイチャスレでなんつー事言っとるんじゃァー!」
  俺と先生の掛け合いを聞いていた魔理沙が突然倒れた。
  「はうぅ……」
  「あら、以外に初心なのね。……これからたっぷり自分好みの雌○隷にしていく喜びが生まれたわね」
  「いらんわそんな喜びはー!……ああもう、いい雰囲気で終わるかと思ったら何故か美川べるのチックなオチにー!」
  こんなグダグダでいいのか、と思いながらも勝手に終了されてしまうのだった。

  どっとはらい



12スレ目>>528 うpろだ843


 晴れわたる空。 
 こんなに天気のいい日は学校の屋上でのんびりするのが一番だ。
 そんな感慨を抱きながら、私は懐から煙草を取り出し、火をつけた。
 いつも感じている甘ったるい匂いが鼻をつく。
 最も吸わない人間からすれば、どれも同じ匂いとしか思えないのだろうが。

 柵にもたれかかりながら、煙草を吸っていると、唐突に後ろに気配を感じた。

「ここにいたか、藤原」

 後ろへ振り返る。

 そいつは眼鏡をかけた優男だった。
 髪は全体的に短く、制服は第一ボタンまでしっかりと止められていた。
 まぁ、要するに十人いれば十人全員がそいつのことを優等生だ、と言うような風貌だ。

「何の用、○○?」

 ひどく面倒そうに尋ねてみる。

「授業をサボったお前を連れ戻しに来たんだ」

 眼鏡の中央を人差し指で持ち上げながら、そうのたまう。

 この光景も見慣れたものだ。
 いわゆる不良生徒である私を、このくそ真面目な優等生が更生しようとする。
 ただ、いつも最終的に負けるのが私なのが癪だった。
 何せ私を更生しようとするのは、こいつの他にもう一人いるからね。

「ふぅん、今日は慧音は一緒じゃないんだ?」
「ああ、手分けして探したからな」

 彼の言葉に内心で、ほっとする。
 彼女はこいつ以上にお節介だからね。
 まぁ、嫌いじゃないけど。

「それにしても……煙草はやめたんじゃなかったのか?」
「さぁ、何の事だか」

 悪びれもせずに答える。
 案の定、彼は顔をしかめる。

「いつも言っているだろう。未成年者の喫煙は法で禁じられていると」
「はいはい、そうだね」

 くわえていた煙草を落とし、足の裏で火を消す。

「ちゃんと聞け、藤原」
「ちゃんと聞いてますよ」

 少し嫌味っぽく言う。

 こいつに逆らうのは無駄だ。
 そもそも客観的に見れば向こうの方が正しいのだから。
 それに時間をかければ、二対一になってしまう。

 私はしぶしぶだが、彼に従うことにした。

「じゃ、さっさと行こうか。委員長様」
「全く……。これは君のためを思ってのことなんだぞ」
「なっ……!」

 真顔でそんなことを言った。
 いや、この男のことだから特に他意はないのだろう。
 純粋に私の健康とか、そういうのに気を使ったにすぎない。
 けれど、私だって女の子だ。
 そういうことを言われて嬉しくないわけではない。

「どうした藤原? 顔が赤いぞ。風邪か?」
「う、うるさい! いいからさっさと行け!」
「そ、そうか。じゃあ行くぞ。黙ってついてくれば、煙草の件は上白沢には黙っておいてやる」

 彼は屋上のドアの方へ歩き出す。

「ホント、ずるいやつだ」

 小さな声で一人ごちる。

 どうしようもないくらい、あいつはずるい。
 けれど、悪い気分にはなれなかった。

 私は懐から残りの煙草を取り出し、彼に気づかれないように屋上から投げ捨てた。
 今度こそやめられるかもね。
 そんなことを考えながら私は彼の背中を追いかけた。














































「痛っ。何だこれは? これは……妹紅が前に吸っていた銘柄。
 なるほど、私をたばかったということか……。
 くくく、待っていろ妹紅! その腐った根性を叩き直してやる!」

 教室に戻った慧音が頭突きをぶちかましたことは言うまでもない。



13スレ目>>349 うpろだ978


「え? お前、進学するのか?」

 朝の通学路、霧雨魔理沙は隣にいる一つ年上の○○を信じられないような目で見ている。
 彼女が通う東方学園。小中高大一貫のかなり珍しい学園であり、そのネームバリューは安い国立大学のそれの比ではない。
 学ぶジャンルも多岐にわたるこの学園の卒業生は即戦力として重宝されている――ねぼすけの魔理沙でも知っている事だ。
 事実、この学園を卒業する者の殆どは卒業後、そのまま就職している。(その殆どが学園の創設者が関連している企業に入社しているので、社会に出るまで一貫しているのかもしれない)

「ああ、卒業したら県外の大学院だ。一人暮らしだよ」
「だってお前、卒業したら私の家で働くんじゃないのか!?」

 ○○と魔理沙の関係を一言で表すと、被雇用者の息子と雇用者の娘だ。
 ○○の家は先祖代々霧雨家に仕えてきた家である。○○は一人息子だから当然卒業後から霧雨家で働くものだと魔理沙は思っていた。

「どうだろうな。将来的にはそうなるのかもしれない。でも、今は駄目だ」
「な、何でだよ……」
「あのな、魔理沙」

 ○○はそこで一つ、ため息。

「確かにさ、俺は――俺だけじゃない、俺の家は霧雨家にずっとお世話になってきた。
 でもさ、いつまでも二人一緒に仲良く――って訳には行かないだろ?」

 ○○の足が早くなる。その歩調についていけずに、魔理沙は一人取り残される。
 追いかけるはずの足は、いつの間にか止まっていた。

「何でだよ……」

 一人、魔理沙は呆然と立ち止まっている。

ーーー

 霧雨家といえば、この国で知らぬものがいないとまで言われているほど大きな家の一つである。
 その家の娘として生まれた魔理沙と、霧雨家に使える家系として生まれた○○。
 年が近いこともあり、二人はずっと一緒に育ってきた。
 何をするも、何処へ行くのもずっと一緒だった。
 魔理沙にとっては家族のようなものだし、何よりも大切な友人だ。
 だからずっと一緒だと、そう思っていた。

「っ……」

 指の痛みで正気に戻った。
 発生源に目をやればうっすらと血が滲んでいる。
 どうやら教科書で指を切ってしまったようだ。
 こういう痛みは残るんだよな、と思いながら魔理沙は指を咥える。

「何やってんのよ、魔理沙」
「あー、アリスか」

 そう声をかけてきたのはアリス・マーガトロイド
 魔理沙の前の席に腰掛けると、からかいの目をしたまま口を開く。

「なーに? 憧れのあの先輩の第二ボタンが欲しいなぁ、なんて考えてたの?」
「そんなんじゃないさ。ところで、何で第二ボタンなんだろうな?」
「んー? ああ、なんか第二ボタンってのはその人の心臓を現すんだってさ。
 第一は親族へ、第二は恋人へ、第三は友人へ、っていうのがルーツなんだってさ」
「ふーん。大変だねぇ、そういうの欲しがる人って」
「うわー、反応薄いー。卒業式も近いんだしもうちょっと色めきたってみたらどうなのよ?」
「余計なお世話だぜ。大体――」

 そう言うお前はどうなんだよ、と言いかけて、廊下からの目線を感じてそちらを見た。
 そこに立っていたのは一人の少女、確か後輩だったような気がするから、一年生の誰かだろう。
 少女は目が合ったことで決心したのだろうか、魔理沙の方へと歩み寄ってくる。

「あ、あの! 霧雨先輩、これ、○○先輩に渡して頂けませんか?」

 そう言われて差し出されたのは丁寧に整えられた便箋。
 封をしている控えめのハートのシールから、これが恋文であることが見て取れた。

「おー、○○先輩か。相変わらずもてるねぇ」

 感心したように言うアリスと、便箋と、手渡した少女を交互に見る。
 この手の手合いを相手にするのは、初めてではない。
 ○○の容姿は整っている方だし、普段は無愛想なくせに困っている人を放っておけないというお人好しな性格のためか、こうやって思いを寄せられる事は少なくない。
 普段なら、メッセンジャーの一つや二つ、平気でこなしている。
 なんといっても家に帰ったら○○の部屋に押しかけて、軽口の一つでも叩きながらそれを渡せばいいだけなのだから。

 でも。

「あー、今回はパスだ。そういうのは直接渡してやった方が喜ぶと思うぜ、あいつも」

 気が付けば、そう言っていた。
 少女は少し目を見開いた後、納得したように魔理沙に一言礼を言い、戻っていった。

「どうしたのよ。珍しいっていうか、初めてじゃない? あんたがこの類の依頼を断ったのって」

 意外そうな目をするアリスから目をそむけ、窓の外を見る。
 開け放たれた窓から、春風が運んできた桜の花びらが舞い込んでくる。

「卒業、か」

 否応無しに意識してしまう。別れという単語を。
 あいつのせいだ、と魔理沙は思う。
 あいつがあんな事を言い出さなければ、きっとこんなことを考える事もなかった筈なのに。
 ずっと一緒だと、そう思っていた。
 けれど、そのはずだった○○はずっと遠くにいて、ずっと遠くを見ている。

 何を言っても無反応の魔理沙に飽きたのか、はたまたチャイムが鳴っただけなのか、アリスが席に戻っていく。
 魔理沙はそのことにも気が付かない。

「ココロの距離って奴なのかねぇ……」

 呟きが、ため息と共に吐き出された。
 指先の痛みは、未だに消えない。
 魔理沙にはその痛みがまるで、自分を束縛する鎖のように感じられた。

ーーー

 その日は、いつもと同じようにやってきた。
 いつものように起きて、いつものように朝食を取って、いつものように○○と登校して、校舎の前で別れた。
 ただ普段と異なるのは、今日が卒業式で、一学年上の○○がこの学び舎を巣立つという、それだけだ。

「卒業ねぇ……来年卒業だなんて、実感湧かないと思わないか? アリス」
「まあ、ね。今までのんべんだらりでやって来たから急に社会に出て大変かもね」
「社会に出てから、か」
「その点魔理沙は羨ましいわね。家が就職先なんだから」
「そうでもないぜ? うちは実力主義だからな、党首の娘だからって特別扱いはされない筈だ。それに――」
「それに?」

 あの家から、あいつはもういなくなるからな。
 そう続く言葉を、魔理沙は飲み込んだ。

「○○先輩! ―――……」

 聞こえてきた声に、弾かれたように振り向いた。
 そこには何人かの女生徒に囲まれる○○の姿。
 よく見かける光景だ。憧れの先輩の第二ボタンを求める後輩。それに応じる先輩。
 ただまあ、普段と違うのは求める後輩が複数人いて応じる先輩が戸惑っているところだろうか。

「ん? ああ、○○先輩か。最後の最後までもてる男ねぇ。複数人で囲まれてるのって彼くらいじゃない?」

 ちくり、と小さな痛みが指に走る。

 煮え切らない態度に業を煮やしたのか、後輩たちが一斉に○○に襲い掛かってきた。
 ○○は情けない悲鳴を上げ、近くの彼の友人が情け容赦ない野次を飛ばしている。

 痛みが心に伝播して体中を駆け巡る。

 後輩たちは○○を脱がしにかかった。○○の顔は真っ赤になっていて、抵抗する素振りも見えない。
 次々と外されていくボタン、するすると体から離れていくブレザー。

 走り出していた。痛みが我慢できなかったから。それよりも何よりも――

「――魔理沙?」

 すれ違い様に、脱がされそうになったブレザーをひったくった。
 後ろから後輩たちの非難の声が響いてくるが、そんな事では足が止まらない。

 走っていた。痛みが我慢できなかったから。それよりも何よりも奪われたくなかったから。
 どれも、奪われたくなかった。親族も、友人も、恋人も――

ーーー

 そのまま走って家まで帰った。
 ただいまの一つもせずに、靴を脱ぎ散らかして、乱暴な動作で自分の部屋に篭る。

「っ……」

 ベッドの上に座り込み、○○のブレザーを頭から被って魔理沙は泣いた。
 何て強欲なのだろうか、自分は。
 ここから去っていってしまう大切な人。それを留めることが出来ない無力な自分。
 こんなにも、彼のことが好きだというのに、それを伝えることすら出来ない。
 何時から意識していたのだろう、それを思い出すことは出来ない。
 ただ、何時の頃からか、彼に思いを寄せる女性の手紙を届けた時にふと、思ってしまったのだ。

 ――きっと私では、こういったことは出来ないのだろうな。

 赤の他人ではあったが、兄妹のように一緒にいた。その関係が壊れるのを、何よりも恐れていた。

「全部……全部、あいつのせいだ……っ!」

 彼が霧雨の従者の家に生まれていなかったら、自分が霧雨の家に生まれていなかったら。
 そう思うことは、何度もあった。
 けれどそれは○○でない○○と、魔理沙でない魔理沙が出会うことになってしまう。それでは意味が無いのだ。

 涙を拭うことも無く、魔理沙は上ずった声でそう零すと、ブレザーごと自分を抱く手をさらに強める。
 すると、くしゃり――、そんな音がブレザーのどこかから発せられた。
 その音で頭の中に冷静さが生まれる。荒ぐ息を落ち着かせ、音の発生源を探す。
 音の元は、ブレザーの内ポケットにあった。
 取り出して、その正体を確かめる。

「――え?」
「――人の持ち物、勝手に漁るなよ」

 振り向いた先に、○○がいた。
 ここまで走ってきたのだろう、ワイシャツのボタンをいくつか外し、肩で息をしている。

「○、○……!」

 抱きついた。魔理沙の手には一枚の写真。
 そういえば彼がデジタルカメラを購入した時に試し撮りだと一枚撮られたことがあった。
 そこに写っているのは、紛れも無い、魔理沙の姿だ。
 ○○は抱きついてきた魔理沙を優しく抱きしめる。

「折角、想いを振り切って行けると思ってたのに……台無しだよ、馬鹿」

 その言葉に、魔理沙の腕の力が強くなる。何だ――そんな風にも思った。
 関係が壊れてしまうことを恐れていたのは、自分だけじゃなかったんだ。

ーーー

「やっぱ、行くんだよな?」

 出発の日、新幹線の前で魔理沙はそう問いかけていた。
 本音を言えば、やはり行って欲しくは無い。
 けれど、それを本当に彼が望むのならば、引き止めるべきではない。そういう結論を、自然に彼女は下すことが出来た。
 そして、無言で彼は頷く。

「そう、か……」
「大丈夫だ、長い休みには帰ってくるし、たまにメールもするさ」
「……浮気、するなよ?」
「して欲しくなかったら次に帰る時までにもっといい女になっておきな」
「酷いぜ」
「はは、じゃあな。今年卒業なんだからお前もちゃんと勉強しろよ」

 新幹線の扉が閉まり、車体が動き出す。
 みるみるうちに見えなくなっていく、愛しい人の姿。
 卒業は別れではない。終わりではなく、始まりなのだ。
 けれど――涙が止まらない。
 ポケットから写真を取り出す。
 つい前日に撮ったばかりの写真の中で、○○と魔理沙は楽しそうに笑っている。

 終わりではない、始まりなのだ。

 そう自分に強く言い聞かせ、大きく春の息吹を吸い込んだ。


最終更新:2010年06月06日 22:08