東方学園8



新ろだ680  ※元ネタは某ドラマ



  それはとある日のこと。

  メイン業務であるガキの世話とかったるい後始末を終わらせて、さあ家に帰って一杯やるかと考えながら廊下を歩いている時。
  俺は一人の女生徒に呼び止められた。

  面倒臭えと思いながら振り向いた自分に、ソイツは溌剌風味な声色でこう言った。

 「私、先生のことが好きよ」

  その時の自分は、その内容の意味を深く考えず、また気にも留めなかった。
  俺って意外と生徒に好かれてるんやね、ぐらいにしか思わなかった。

 「そらあんがとさん。んじゃ、気をつけて帰れや」

  だから俺は適当な感謝を投げ返した。
  そして誇らしげに微笑む少女に背中を向けて、その場を後にした。

  この言葉の正しい意味を理解したのは、翌日学園に来た時だった。

  海よりも深く後悔したのは言うまでも無い。












 「あ~今日も疲れた~」

  今日も一日お疲れさん、と自分で自分を労わりながら書類を鞄に詰め込んで職員室を出る。
  晩飯は何にしようかな~と考えながら廊下を歩く。
  ちらりと窓の外を眺めると、運動場で生徒達が部活動をしていた。

 「……よーやるわ」

  運動場では野球やサッカーなどの、所謂体育会系の連中が汗を流しながら練習に励んでいる。
  良く見ると時たま弾幕が飛び交っているが……まあどうでも良い。
  この学園では良くあることだからだ。

  ……にしても。あいつらホンマ、こんなくそあっつい中でよーやるなぁ。

  夏真っ盛りの夕焼け空の下を、運動部のヤツ等は汗まみれになりながらあちこち動き回っている。
  見ているだけだというのに、こっちにまで熱気が及びそう。

 「……なんか暑なってきた。はよ帰ろ」

  上着の襟元を団扇代わりに扇ぎながら、視線を廊下の先に戻して再び歩き出す。

 「今日こそはアイツに見つからんようにせんとなぁ……」

  周りの気配に注意しながら廊下を歩く。
  はたから見れば間違い無く怪しい人やな俺。

  突然でなんだが、俺には重大な悩みがある。

  なんと、生徒に好かれてしまったのだ。

  それの何処が悩みやって?
  そら生徒に好かれるのは嬉しいよ?
  でもな、それは『Like』の場合であって、アイツは……

 「先生! 今帰り?」

  嬉々とした声と共に、突然左腕に勢い良く何かがしがみついてきた。
  衝撃に体勢を崩しかけるが、何とか持ち直す。

  あぁ……また見つかってもうた……

  声の主を非難するようにして眉を顰めながら、しがみついてきた緑髪の少女を見る。
  案の定、しがみついてきたのは風見だった。

  ……あ~あ、今日も悩みの種が来たよこれ。

 「そうや、だから腕放せ」

  滅茶苦茶嫌そうに言ってやっても、当の風見はちっとも気にしてない御様子で。
  ニコニコしながら腕に両腕を絡みつかせてきた。

 「一緒に帰りましょう?」

 「アホか。なんでお前と一緒に帰らなアカンねん」

  人の話を全く聞かない少女に反論をしながら全力で引き離そうとするが、びくともしない。
  どうやら結構な力を入れているようである。

 「どうしてって、好きだからに決まってるじゃない。先生は私に何回同じことを言わせるつもりなのかしら?」

  不満そうな顔で尋ねてくる。
  心なしか両眼には若干の殺気が込められていた。

  だから鬱陶しいんやっつーの。
  なんでアフター5からもガキの面倒見やなアカンねん。俺は定時制の教師やないんやぞ。
  しかも無給で保険無しで下手すりゃおさらばとか、笑い話にもならんわ。

  細めた眼から渋さ全開の視線を送り返す。
  少女の真っ赤な瞳には、心底嫌そうな顔を浮かべた自分の顔が映っていた。




  ……そう、生徒に好かれるのは教師として純粋に嬉しい。

  だけどコイツの好きは『Like』ではなく『Love』らしいのだ。




  目下最大にして最悪の悩みの種であるこの少女、名は風見幽香。

  この東方学園内で教師を含めて五指に入る程の実力者で、四季のフラワーマスターの二つ名を持っている。
  性格は唯我独尊、荒唐無稽、傲慢不遜、etc。
  つまり、色々と俺様且つ問題児なヤツであった。女やけど。

  そんなコイツから、何の因果か只の一教師である俺こと○○は、一ヶ月ちょい前から熱烈なアプローチを受けている。
  帰りがけに腕を絡められるなんてのはしょっちゅうだった。

  幸いまだ他の先生方には知られていないみたいだが、このままだとそれも時間の問題であろう。
  教師と生徒が恋愛関係(一方的やけど)になるだけでも大問題だというのに、そのうえ相手は学園のトップ5。
  誰かに知られた場合、俺の末路は一つだけである。

  ぶっちゃけいつ校長室に呼び出されるかビクビクしていた。

  此処をクビになったら俺はどうすりゃええねん。
  それだけはなんとしても避けなければ……




 「だから、そういう冗談はやめいといつも言うとるやろが」

 「冗談じゃないわよ? 私は本気だもの」

  いつものように注意するも、風見は不敵に笑って真っ直ぐ見つめてくる。
  いつもと変わらない少女の対応にいつもどおり頭が痛くなってきた。

 「それが冗談やと言うとるんや。軽々しく好きだの本気だの言うな」

 「どうして? 本当に好きなのに」 

 「そのあけっらかんとした言い方が冗談やと言うとるんや」

 「だって本当のことだもの」

  少女はさらりとそう言うと、耳に掛かった髪を軽やかな仕草で払った。
  彼女の中身を知らない者であるならば、それはそれは魅力的に映った事であろう。

  だがしかし、今の自分にとっては彼女の言動その全てがストレス以外の何物でもなかった。

  頼むからいい加減少しは俺の言葉を理解しろや。
  ああもう、イライラしてくるなぁ……

  最近の俺は、この少女のお陰で胃に穴が空きそうなくらいにイラついていた。
  自由な校風をモットーとするこの学園で、のんびりとフリーダムな教師生活を過ごしていたというのに。
  風見からの熱烈アプローチが始まると同時に、それらを遥か遠くへと放り投げられてしまったのだから。

  今の心境を例えるなら、言うことを聞かない我侭な部下を持った零細企業の中間管理職。
  人目を憚らない求愛行動と熱愛発言に、自身の堪忍袋は膨れに膨れ上がっていた。

  あ~あ、八雲理事長とか上白沢先生とかならまだしも……何でこんな自信過剰のクソガキに告白されやなアカンねん。
  こないな俺にかて、選ぶ権利ぐらいあるやろ……
  しかも生徒とか……あ~も~腹立つわぁ。

 「本当のことを言うことに、何の問題があるのかしら?」

  こっちが鬱憤の類を我慢し続けていることに気づいていない少女は、尚も不敵に笑いながら話しかけてくる。

 「だからホンマに好きなら軽く言うなって言うとんねん」

 「どうして?」

 「お前もどうしてどうしてしつこいやっちゃなぁ」 

  イライラしながら頭を掻く。
  その様子がおかしいのか彼女はくすくすと笑った。

 「変なの。ただ好きなだけなのに」

 「だか」

 「だって好きなんだもの」

  こっちの言葉を遮って、当然だと言わんばかりに言う。

  ホンマに毎回々々好き好きと五月蝿いやっちゃ。
  お前のその危険な発言でこっちは生活出来やんくなるかもしれんっていうのに……
  俺のライフラインがストップされてもうたらお前、責任取れるんかコラ。

  大体なぁ、愛なんてこまっしゃくれたモンを、ケツの青いガキ如きにわかられてたまるか。
  あんなモンは、酸いと甘いを知った後に初めてわかるモンじゃ。

  まあ愛にも色んな種類があるかもしれんが、少なくともお前みたいなのを愛とは呼べん。
  そんな余裕たっぷりで恋愛が出来るか。
  人を好きになるっちゅーのは、そんな生半可なモンやないわ。

  そう、愛などというものは、それはもう厄介な代物である。
  持ってしまった場合、大概のヤツは周りが見えなくなる。
  ソイツだけ居れば良いと言わんばかりに相手のことしか考えなくなる。常軌を逸してしまうのだ。
  それほどまでに愛とかいうものは、重っ苦しい上に取り扱いに困る現象なのだ。だからといって、不必要というわけではないけども。

  やっちゅーのに、それをお前は知ったかぶりをしてべらべらべらべらと薄っぺらい言葉を並べおってからに。
  そーゆう中途半端なんが一番腹立つんじゃボケ。ホンマにもう……マジでいっぺんガツンと言ったろか。

  そう思っていた時だった。




 「好きなら好きって言うのは、常識でしょ?」 




  ソレに一番不適合で、尚且つ自分が最も気に食わない言葉が出たのは。

  みちりと。
  堪忍袋の緒が少し、少しだけ裂ける音がした。

 「常識?」

  少女の口から発せられた単語を無意識の内に聞き返す。

 「そう常識。だってそうでしょう? 想いは相手に伝えないと意味が無い。だから伝える。当然じゃない?」

  彼女はこっちの変化に気づかずに、さっきの言葉を更に装飾して告げる。

  ぶちん、と。
  幾つもある袋の緒の一つが派手に切れた。

 「当然?」

 「ええ、当然よ。当たり前じゃない」

  呟くような問い掛けに重ねるように不遜。

  脳裏に盛大な音を響かせて、今度は五六本纏めて切れる。

 「当たり前?」

 「そうよ、相手に好意を告げるのは当たり前の行為じゃない」

  畳み掛ける無知。

  ぶづんと。
  最後の一本が切れる音。

  束縛するものは、もう何一つ残っていなかった。
  頭の中心部で眼を血走らせた獣が唸るような咆哮を上げた。

 「そうかそうか、常識で当然で当たり前か~。はっはっは~」

 「そうそう。常識で当然で当たり前よ」

  意図せずして高らかに笑ってしまう。
  何を勘違いしたのか、少女は嬉しそうにはにかんだ。 

 「そらスマンかったな~。あっはっは~」

  明るい声色で笑う。だが内面はその逆。
  自身の内側は煮えに煮え、今なら鋼鉄ですら容易く溶かせそうなほどに超高温状態。

  袋の口を頑丈に締めていた緒の束は、全部が全部、見事にぶち切れていた。
  一ヶ月間、溜まりに溜まった怒りの奔流が勢い良く飛び出して、台風の如く脳内全域に猛威を振っている。

  もう我慢ならん。
  ホントもう、コイツはいっぺん痛い目みやなわからんみたいやな。

  なら、お望みどおりにしたるわ。
  外聞? 知るか、んなモン。

 「よっしゃ、お前の気持ちはようわかった」

 「本当!?」

  俺の言葉に風見は瞳を輝かせる。

 「ああ本当や。ま、ここで話すんのもなんやから、ちょっと場所変えよか~」

 「ええ、いいわよ」

  風見はこちらの提案にあっさりと同意する。
  遂に私の想いが伝わったのね~、とか何とか言いながら少女は後をついてきた。

  俺は歩きながら沸騰した脳味噌で、この勘違い馬鹿娘を更正させるためのプログラムを憤怒に任せて作成していた。












  ほどなくして放送室に着く。
  ドアを開けて中に入るよう促す。
  わくわくしながら入っていく風見の後に続いて入り、後ろ手でドアの鍵を閉めた。

 「先生、どうして此処なの?」

  風見の質問を無視して俺はパネルに向かうと、片っ端からスイッチを入れていった。
  数秒もしない内に全てのスイッチをオンにした後、不思議そうな顔をしている風見に向かい合う形で立つ。

 「お前、俺のこと好き言うたな?」

 「ええ、言ったわ」

  待ってましたといわんばかりに少女は即答する。
  喜色満面の笑みに、怒りより呆れが先に来てしまった。

  か~、噂通りの傲慢さやなホント。
  ここまで偉そうやと、なんつーかもう、逆に笑えてくるね。

  ……まあ、それもここまでやけどな。

  表情を崩さず、俺は激情の赴くままに反撃の狼煙を上げた。

 「そうか……なら、今すぐヤらせろや」

 「え?」

  瞬間、少女の笑顔が凍った。
  数瞬後、解凍された笑顔はその言葉の意味を理解したのか青褪めたものへと変化していく。

 「え? えっ? な、なにを言ってるの……?」

  訳がわからない。
  少女はそう言いたげな表情でこっちを見つめる。

  お~お~、えらい動揺しとるの~。

 「だから俺のことが好きなら、此処で校内放送生中継されながらヤらせろ言うとんのや」

 「……先生、本気?」

 「本気じゃなかったらこんなこと言うかい」 

  正気を疑うような顔つきでこちらを見つめてくる風見をキツく睨み返す。

 「それとも何か? あんなに好き好き言うとったんは嘘やったんか?」

 「う、嘘じゃないわよっ! 私は本当に先生のことがっ!」

 「ならヤらせろや」

 「っ!!」

  風見は言葉を詰まらせる。

  ……は、やっぱりな。

 「所詮お前の好きはその程度のモンなんや。はっ! 何が先生のことが好き、や。な~にが私は本気よ、や。ふざけんな」

 「ち、違う。私は……」

 「違わへんわい。ホンマに相手のことが好きやったら、何時だろうが何処でだろうが相手を求めることが出来る筈なんや。それが本当に相手を好きになるってことなんや」

 「…………違う」

 「何が好きなら好きって言うのが常識でしょ、や。何が相手に好意を告げるのは当たり前の行為、や。上辺だけで都合の良いこと抜かしやがってからに」

 「…………がぅ」

 「気持ちの篭って無いぺらっぺらの言葉ばかり並べ腐って……相手の全てを受け入れる度胸も覚悟も無いくせに、軽々しくそんなこと言うな!」

 「………………っ」

 「お前のそれは只のエゴや。適当に好き好き言って相手に構って欲しいだけや。そんなモンなぁ……好きでもなんでもないんじゃ!」

  圧倒的な罵倒の連打に風見は何も言わず、黙ったまま俯く。
  スカートを握った手が小刻みに震えていた。

 「わかったか? ま、わかっとろうがなかろうがどっちでもええわ。はよ帰れ」

  沈黙した風見を追い払うようにして手を振る。
  そして背中を向けてから俺はほくそ笑んだ。

  ……これでコイツも少しは大人しくなるやろ。
  あ~スッキリした~。

  言いたいことを言いまくって満足々々。揚々とした気分でパネルに向かう。
  そしてオンにしたスイッチを切りに行こうとした時……

  小さな呟きが耳に届いた。

 「…………わよ」

 「あん?」

  微かに聞こえた音の発生元へと振り向く。
  風見はその場から動かず、何かを耐えるようにして肩を震わせていた。

 「何か言うたか?」

 「…………るわよ」

 「は?」

  もう一度聞き返す。

  今何つった?
  もっとでかい声でしゃべれや。

  三度聞き返そうと近付くと同時に、風見は勢い良く顔を上げた。

  そして……




 「セックスくらい出来るわよっ!!!!」




  大絶叫。
  本人とスピーカーから発せられる大音響で一瞬校舎が揺れた気がした。
  いや、実際揺れたと思う。

  突然至近距離から発せられた騒音により、平衡感覚を麻痺させられて足元がふらついてしまう。
  酔っ払いみたいな足取りのまま、俺は先程風見から発せられた言葉を反芻した。

  ……なに?
  この子、急に何言い出すの?

  戸惑いながら発信源である少女を見やる。
  風見は顔を真っ赤に染め、プルプルと肩を震わせ、目尻に涙を滲ませながらこちらを睨んでいた。

 「あ、あの……風見さん?」

  いきなりの大絶叫&爆弾発言に、さっきのまでの自分の威勢はどこへやら。
  急速に萎縮した俺は、おそるおそるといった具合で様子を伺ってしまう。

 「何よ!? すれば良いんでしょ!? 良いわよ! やってやるわよ!」

 「いや、あの、ちょっと落ち着かへん?」

 「落ち着く!? 落ち着くですって!? 初めてなのに落ち着ける訳ないじゃない!」

  顔を真っ赤にしながらえらい剣幕で殺気を辺りに撒き散らしながら怒鳴り散らす。

  ぶっちゃけマジ怖い。
  何気に能力使ってるし……あ~、放送機器が花まみれになってもうた。こら射命丸とローレライ、絶対キレるな。

  つかなんやねん急に。つーか、また爆弾発言しやんだかコイツ?

 「恥ずかしいに決まってるでしょう! 初めてなのにこんな場所で! しかも校内放送だなんて……恥ずかしくて恥ずかしくて、落ち着ける訳ないじゃないっ!」

  顔をトマトみたく真っ赤にしながら怒鳴りまくる緑髪の少女。

  髪が緑色やから完全体やな。ユー・アー・パーフェクトトマト。
  ナポリタン作るのに適してそやね。

  ……って、現実逃避しとる場合やないな。
  取り敢えずこの場を治めやんと。

 「いや、あのですね? さっきのはなんとゆーかですね? 言葉のあやというか何と言うか……」

 「でもする! 絶対する! だって本当に好きだからっ!」

  ビクビクしながら答える俺を無視して、尚も愛の咆哮を続けるフラワーマスター。
  叫ぶ度に放送室内に植物が生え、文明の利器を自然へと還してゆく。

  無理、俺には止められんわコレ。

  制御不能の暴走モードへと突入した風見を前に、止めることをあっさりと諦めた俺は、ほとぼりが冷めるまで静観に徹することを決意する。

  しかし……




 「あの時からずっと好きだったんだからっ!!!!」




  少女の三度目の爆弾発言によって、その姿勢は崩されることとなった。
  意味不明の告白。更なる混乱の材料が頭の中へと投下された。

  ……は?

  あの時? なにそれ?

  疑問符を頭上に浮かばせながら少女を見やる。
  風見は黙って俯いていた。

  最後の絶叫を終えた少女は、さっきまでの攻勢を急速に転じさせ、俯いたままスカートの裾を握っている。

  そして少しの間を空けた後。
  小さく、消え入りそうなほどに小さな声で彼女は呟いた。

 「ずっと好きだったんだもの……花壇で会った時から、ずっと……」

 「花壇?」

  なんやねん花壇て。

  呆けたように尋ねる俺に、風見は静かな声で。

 「先生が覚えてないのは無理ないわ。本当に些細な事だったから……」

  内に秘めた大切な思い出を紐解くようにして少女は語る。

  一方の自分は、彼女が何の事を言っているのかさっぱりわかっていなかった。

  ……何や? 俺、コイツに何をした?

 「先々月の弾幕騒動、覚えてる?」

 「まあ、覚えとるけど……」

  体育の授業中に生徒達が試合に白熱しすぎてガチ弾幕バトルに発展しよったやつやんな。

  あれは酷かったなぁ……校舎の一部が修理不可能になるくらいの損壊って、どんだけやねん。
  しかもそのクラスの生徒は半数が病院送り。その後、何故か残りの半数も入院。
  よーやるわホンマ。

  ……そーいや、残りの半分は何で入院したんや?

 「その時、私の花壇が壊されたの」

 「さよか」

 「怒ったわ」

 「そら怒るわな」

  そら壊したヤツはご愁傷様やな。
  風見幽香の花好きは、猫にマタタビくらい有名やからなぁ。

 「怒り狂った私は、花壇を壊したヤツを探し回ったわ。けど犯人はわからなかった、半分は入院してたし……」

 「そら残念やったな」

 「だから連帯責任ということで、残った生徒をぶちのめしたわ」 

  あれやった犯人、お前か。

  思い出して腹が立ったのか、風見は歯を食い縛る。
  ぎり、と。歯と歯が擦れ合う音が聞こえてきた。

  あ~……よっぽど腹立ったんやろな~。

  半分ほど同情。残りの半分は八つ当たりを受けた生徒達にしておいた。
  そんなことをしている俺を他所に、風見は話を続けた。

 「その後、花壇に戻ったわ。そして潰された花達を見てた」

 「……そうか」

 「見てるうちに泣きそうになった。どうして何の罪も無いこの子達がって思うと、悔しくて悲しくてどうしようもなかった……」

  瞳に溜まった涙が溢れ出して頬を濡らす。
  涙に動揺してしまった俺は、何か声をかけようとするも、何と声をかければいいのか分からない。

  いや、あの……というかですね?

  その事と、俺は、どう関係してんの?

 「そんな時だった、先生に会ったのは」

 「は?」

  思った矢先に突然の登場。
  不意打ち気味の驚きに、つい間抜けな声を出してしまう。

  何でそこで俺やねん。

 「先生は花壇を見た後、私の頭に手を置いてこう言ったの」




 『また綺麗な花咲かせてくれな? 楽しみにしとるから』




 「嬉しかった。この子達を見てくれていたことが、この子達が花開くことを楽しみにしてくれていることが。凄く、凄く嬉しかった」

  泣きながら微笑む少女に、俺は何も返すことが出来なかった。
  ……正確には、それどころじゃなかった。

  えぇ~……そんなこと、俺言うたっけ?
  いや、確かにあん時、何と無く花壇に寄ったけど。

  ん? そーいや俺、花壇におった生徒に何か言った気がするなぁ……
  ……え? アレ、風見やったん?

  あ~、後ろ姿しか見てへんだから気づかんだわ。
  緑髪やったような気がするようなせんような……
  つーか、よう考えてみると、あの場所の花壇は風見専用やったような……

  ちゅーことは……俺、え~?

  衝撃の事実に頭がこんがらがっている俺を置き去りにして風見は自身の恋慕譚を続ける。

 「その時に好きになったの。だから、なんとかして先生を振り向かせようと思った……」

 「え~っと……」

  予想外の展開に自然と言葉に詰まってしまう。

  学園最高峰の実力者である風見が、今まで何の関わりも無かった只の一教師である自分に、何の前触れも無くあんなことをしはじめた理由はわかった。
  わかったことはわかったのだが……それでも処理はおっつかない。
  シンプル過ぎる恋心の発動条件に、自身の思考は成否を放り投げそうになっていた。

  混乱する俺を放置したまま、風見は話を終わりへと向かわせた。

 「ごめんなさい。私、誰かを好きになるなんて、初めてだったから……」

  そう謝ってから風見は涙に塗れた顔のまま、笑った。

  その笑顔を見た途端、どうしてか胸の奥が痛いほどに締めつけられてしまった。

 「好きで好きでどうしようもなかった。自分でも止められないくらいに……だから想いが伝わるよう、何度も好きって言ったの。冗談はやめろって言われちゃったけどね」

  儚げに微笑む。

  今にも壊れそうな少女の姿を見て、今迄幾度も聞いた言葉が脳内でリフレインした。

 『私、先生のこと好きよ』

  ……あれ、本気やったんか。
  あんまりにもあっさりやったから、俺はてっきり……うおぉぉぉ、罪悪感がぁぁぁぁぁ……

  自分が今まで風見に行ってきた対応を振り返り、一人悶える。
  特に浮き彫りになるのは、その時に自身がした彼女への返答。

 『ホンマに好きなら軽々しく言うな』

  無神経の槍が良心へグサグサと突き刺さる。
  そして襲い来る自己軽蔑の波。

  ああぁぁぁ、俺は、俺はなんちゅーことをぉぉぉぉ……

 「先生が私のことをなんとも思ってないのはわかってる」

  少女は気遣うような声で。
  自分の馬鹿さ加減に無性に腹が立った。

 「でも、本当に好きだから。先生のことが大好きだから。だから……」

  想いを語り終えた少女は、何かを決意したかのような色を宿した瞳でこちらを見る。
  そして、首に巻かれたスカーフにゆっくりと手をかけた。

  おい、待てや。お前、何を……

  不意に嫌な予感が脳裏を過ぎる。
  風見はそれを実行するかのように。

 「私……」

  言葉を紡ぎながらスカーフをほどいてゆく。
  ほどかれたスカーフはしゅるりと音を立てて落ちていった。

  やめろアホ。やめろって。

  声にならない声。
  制止の叫びは無音故、少女に届く筈もない。
  彼女の手は上半身へと伸びてゆく。

 「先生になら……」

  そして、制服のボタンを外そうと伸ばしたその手を……

  ああもう、俺の大馬鹿野郎。

 「もうええ」

  強く、握った。

 「もう、わかったから」 

  言って、ボタンにかけた手を下ろさせる。
  握った少女の手は微かに震えていた。

 「でも……」    

 「もうええねん、お前の気持ちは十分わかったから」

  言葉を遮って頭に手を置く。
  そして出来るだけ優しく撫でた。
  少しウェーブがかった柔らかい髪が、指に若干絡んでからするりと抜けてゆく。

  風見は最初困惑した様子だったが、暫くそうしていると何時の間にか目を瞑ってされるがままになっていた。

  そういえば、あの生徒の髪もこんな触り心地やった気がするなぁ。

 「スマンかったな、色々と酷いこと言うて……」

  撫でながら謝罪する。
  風見は弱々しく首を振った。

  くそう、コイツはこんなにも純粋に俺を慕ってくれとったのに、俺はなんつーことをしてしもたんやぁぁぁぁぁぁぁ……

  自己嫌悪と罪悪感で死にたくなる。
  それと同時に、少女に対する愛おしさみたいなものが胸の奥から湧き出してきた。

 「ホンマにスマン」

  再び謝罪。
  また風見は小さく首を振る。
  自身の純粋な想いを何処までも邪推して否定した男を許す少女の健気さに心が軋んだ。

  ……いや違う、そうやない。
  許すとか、そんなことで解決する問題やないよな、風見。

  そうだ。これは謝って済むとか、そんな類の話ではない。
  人の感情は、そんなに簡単に修復出来るモノでは無い。
  ならどうする? そうやな、誰に言われやんくてもわかっとるわな。

  そうや、なんぼ謝っても俺の罪は消えへん。だから、謝るのはこれで最後にする。
  んでもって、こっからは……

  真っ直ぐに風見の紅い双眸を見つめる。
  驚き顔に、俺は決意を込めた力強い声で。

 「もう冗談とは思わん」

  そして強く抱き締めた。
  抱きしめた少女の身体は想像していたよりも華奢で、とても学園有数の実力者とは思えなかった。
  突然のことに驚いたのか、風見はただオロオロと手を彷徨わせている。

 「こっからは俺も、真剣に相手したるわ」

  相手が本気とわかったら、こっちも本気にならんと失礼やからな。

 「わかったな」

  耳元で囁くように確認をする。
  その言葉を聞いた時、風見の身体は一際大きく震えた。
  だが、やがて意味を理解したのか、これが返事と言わんばかりに宙を彷徨わせていた両手を背中に回して抱き締め返してきた。

  抱擁に負けじと、更に強く抱き締め返す。
  そして少女の柔らかで少しだけ癖のある髪へと鼻先を埋めた。

  甘い花の匂いがする。 
  少女特有の抱き心地と相まって、凄く心地が良い。

  あ~良い匂いやなぁ……
  なんでもっとはよ気づいたらんかったんやろ~な~。
  そしたらもっと早くに堪能出来たっちゅーのに。

  太陽の恩恵を凝縮した蜂蜜みたいな甘ったるい匂いが鼻腔を擽る。
  暫くその香りを嗅覚で堪能した後、次に鋭敏になったのは触覚であった。主に胸元辺りの。

  自身の胸元に当たっているのは二つの巨大な双丘。
  動く度に変幻自在に形を変える女性の象徴は、持ち主の意思とは無関係にこちらに対して猛烈な接近戦を仕掛けていた。

  ……っちゅーか、やっぱ胸でかいなぁオイ。
  なに、この……なに?
  見た目からして、でかいでかいとは思っとったけど、まさかこれほどとは……コイツ、着痩せするタイプか?
  実力もトップクラスで、そのうえ乳もトップクラスとか。なんやねんお前は。どんだけハイスペックやねん。
  しかも柔らかい、柔らか過ぎ。
  ふにふに通り越してふにゅんふにゅんとかマジでヤバい。

  女性の魅力を最大限に生かした過激な零距離攻撃によって、こちらの防壁は悉く破壊されてゆく。
  動かなくても大ダメージ。身動ぎしたなら痛恨の一撃。数秒も置かずに、突撃軍は最終ラインにまで到達した。

  ……なんかムラムラしてきた。
  ぶっちゃけると、チンコ勃ってきた。
  張ち裂けそうやなこれ、いや、このままやと間違い無く張ち裂ける。
  う~ん、最初はびびらすためにヤらせろ言うたんやったけど……やっぱヤってまおうかなぁ。
  いやいや、流石にそれはいきなりすぎやろ。それは段階踏んで、なぁ?

  …………でもなぁ。

 「先生?」

  ムクムクと膨らむ欲情に一人悶々としていると、変化に気づいたのか、風見が不思議そうな顔でこちらを見上げてきた。
  涙で潤んだ紅い瞳で俺をじっと見つめてくる。

  ……アカン、ちょっと我慢できへん。

  普段とは一変して穢れ知らずの幼子のような態度に、溢れ出る情欲を我慢しきれなくなってしまう。
  煩悩という名の獰猛な獣が理性の檻をぶち破り、己の心身を縦横無尽に駆け巡る。

  それに抗う事も出来ずに流された俺は、滑らかな動作で風見の顎を軽く持ち上げた。

 「……ぁ」

  喘ぎにも似た声を小さく漏らす少女。だが、抵抗はしなかった。
  そしてその新緑の若葉のように瑞々しい唇を奪おうとして……




 「はいそこまで~」




  予告も無しに空中から現れた最悪の闖入者に遮られた。












 「あ~今日も疲れた~」

  今日も一日お疲れさん、と自分で自分を労わりながら書類を鞄に詰め込んで職員室を出る。
  晩御飯は何にしようかな~と考えながら廊下を歩く。
  ちらりと窓の外を眺めると、運動場で生徒達が部活動をしていた。

 「……よーやるわ」

  運動場では野球やサッカーなどの、所謂体育会系の連中が汗を流しながら練習に励んでいる。
  良く見ると時たま弾幕が飛び交っているが……まあどうでも良い。
  この学園では良くあることだからだ。

  ……にしても。あいつらホンマ、こんなくそあっつい中でよーやるなぁ。

  少しだけ気温が下がったとはいえ、未だに夏を残した夕焼け空の下を、
  運動部のヤツ等は今日も汗まみれになりながらあちこち動き回っている。

  見ているだけだというのに、こっちにまで熱気が及びそう。

 「……なんか暑なってきた。はよ帰ろ」

  上着の襟元を団扇代わりにして扇ぎながら、視線を廊下の先に戻して再び歩き出す。

  そして次の瞬間……

 「先生! 今帰り?」

  嬉々とした声と共に、突然左腕に勢い良く何かがしがみついてきた。
  衝撃に体勢を崩しかけるが、何とか持ち直す。

  嬉しそうな声に眉を顰めながら、しがみついてきた緑髪の少女を見る。
  案の定、しがみついてきたのは風見だった。

 「そうや、だから腕放せ」

 「一緒に帰りましょう?」

  だから人の話を聞けゆーねん。

 「わかったから、はよ腕放さんかい」

 「良いじゃない別に~」

  相変わらず人の話をちっとも聞かない少女は、嬉しそうな表情のまま、腕をほどく素振りすらみせない。
  寧ろ更に強く腕にしがみついてきた。

 「あ~も~勝手にせえ」

 「ええ、勝手にするわ」

  ごねてもどうせ聞かない事は学習済み。
  なので非常に不本意だが、腕を組んだまま歩き出すことにする。

  なんでそんなにしがみつきたがるかな~。
  ぶっちゃけ腕組んだまま歩くのって辛くないか?

  ちらりと横顔を覗く。
  その問いは愚問とばかりに風見の横顔はとても眩しかった。




  あの放送室での出来事から、今日で一ヶ月になる。

  あの日……愛くるしい子猫のような瞳でこちらを見つめてくる風見に対して欲情を抑えきれなくなった自分が、
  子羊を襲う狼の如くその唇を奪おうとしたその時、突如目の前に現れたのは八雲理事長であった。

  八雲理事長の突然の出現によって体内の熱が一気に氷点下近くにまで下がった俺は、即座に風見から身体を引き離した。
  風見は不満そうだったが、あの時はそれどころじゃなかった。

  あん時はホンマでクビの二文字が頭ん中にでかでかと表示されたね。
  そらそうやろ。鍵を閉めた放送室で抱き合う教師と生徒。しかも状況を校内生中継。これでクビにならん方がおかしいわ。

  しかし俺は現在も教師をしている。
  それは何故か?
  どうやら俺が呆然自失状態になっている間に風見が理事長に何事か話を持ちかけたらしい。

  俺が正気を取り戻した時には全てが終わっていて、風見と八雲理事長は仲良さげに話をしていた。
  そして理事長はにこやかに、もう帰っていいと俺に告げた。
  何の糾弾もないことを不思議に思いながらも、従うしか選択肢のない俺はそのまま帰路に着いたのであった。

  そして次の日、内心ビクビクしながら登校した俺を待っていたのは、拍子抜けする程にいつもどおりの日常。

  教師も生徒もいつもどおりに挨拶をしてくる。
  たまに目線を逸らすヤツも居たが、何故か一瞬ビクッとした後、大声で挨拶をしてきた。

  これはおかしいと思って風見に聞いてみたら案の定、学校関係者全員(教師・用務員含む)に口止めしたとのこと。

  あくまで友好的に交渉した、とは風見の言葉だが、全く以って疑わしいことこの上無い。

  いくらなんでもあそこまで徹底した普通っぷりは異常やろ。
  なんか以前より生徒(一部除く)が従順になった気がするし……ついでに教師(主に一般人的な方々)も。
  実は、五・六人殺ってんとちゃうんか?

  想像して洒落になっていないことに気づく。
  なんせ花壇を壊された恨みでクラスの半数を病院送りにした実績を持つヤツだ。
  しかも学園内で五指に入る実力者。一般生徒の口止めくらい朝飯前だろう。

  ……まあ、そのお陰で助かったんやから感謝しとかなな。

  ちなみに、射命丸とローレライからは苦渋の表情で無言の抗議を送られた。
  風見から圧力を掛けられたためか直接的な被害は無かったのだが、反省はしておこうと思う。
  小動物よろしく小刻みに震えながらの涙目は、流石に良心の呵責を禁じ得なかった。

  とはいっても主犯格は風見なんやけどな。機械壊したんアイツやし。
  俺? 俺はほら、長期的に見れば被害者やん?
  確かに仕掛けたのは俺やけど……そもそもの原因はアイツにあるわけやし。
  そらまあ、俺が鈍かったのは悪いとは思うけどさあ。んなモン、誰かて疑うって。

  だってほら、教師と生徒が恋愛関係ってドラマの中だけの話やん?
  現実的に考えたら有り得……るんか。既に巻き込まれとる訳やし。

  ……あ~、もうやめやめ。この話は終了。

  終わり良ければ全て良し、や。
  全部片付いた訳やないけどな。

  そういえば……アイツあの時、八雲理事長に何を言ったんや?
  なんかあの日以降、理事長室に呼び出されることがやけに多くなった気がするんやが。
  理事長からはしきりにプライベートのことばかり聞かれるし。

  そのことについて風見に聞いてみても『大したことじゃないわ』の一遍張り。

  やたらと意気込んどったけど……なんなんや一体?

  ……ま、気にしてもしゃあないか。
  ともかくクビにならんで良かった~。

  ん? 風見との関係はどうなったかって?

  別に変わらんよ?
  アイツはあの日以降も、いつもと同じ感じやし。

  まぁ、変わったモンと言ったら……




  二人並んで校舎を出る。

  数歩歩いた後、俺は左側に向けて最早日常と化している文句を言った。

 「お前な~、靴履く時くらい腕放せや」

 「細かいこと気にしないの」

 「細かくないやろ。履きにくいゆーとんねん」

 「良いじゃない別に」

  苦言など今更何処吹く風といった感じで風見は腕を抱き締める力を強めると、頬を擦り寄せてきた。

  だからむやみやたらに擦り寄ってくんなっちゅーねん。
  ごろごろ喉鳴らせおって、猫かお前は。

  まだ学園の敷地内だというのに、この過度なスキンシップ。
  不安要因は一応解消されたので以前よりは幾らか安心しているが、それでもどうも、こーゆうのは苦手である。

  というか風見よ、お前最近調子乗ってないか?

  そう思っても口には出さない。理由は明々白々だから。

 「はぁ……まあええわ、ほな帰るぞ」

 「え~、お茶くらいしていきましょうよ~」

 「嫌や、給料日前は厳しいねん」

  空っぽに近い財布の中身を頭の中に浮かばせる。
  給料日前はいつも強制サバイバルなのだ。

 「仕方ないわねぇ……それじゃ、花屋に付き合ってくれる?」

 「まあ、それならかまへんぞ」

 「決まりね、じゃあ早速行きましょう!」

  決定と同時に、少女は急かすようにして腕を引っ張ってきた。
  左に傾く重心。そして引き伸ばされるマイカッターシャツ。

  ちょ、生地が伸びる!
  俺の数少ないフォーマルな衣装が~っ!

 「ちょ、待てって! そんな急がんでも!」

 「早く早く~!」

 「だから待てって! 服っ! 服伸びる~っ!」

  慌てる自分を見て、少女は幸せそうに笑う。
  太陽の陽射しを満遍無く浴びた向日葵のように。

  俺はどうなんやろ?
  さあ? 自分の顔なんて鏡見やなわからんからな。

  でも多分、笑ってんちゃうかなぁ?

  ……いや、多分やからな?




  風見との関係は大して変わっていない。 
  コイツはあの日以降も、大体いつもと同じ感じや。

  寧ろ変わったのはどっちかっちゅーと……




 「ねえ先生」

 「なんや」

 「私、先生のこと好きよ」

 「……知っとるわ」




  俺、かな。





新ろだ697



ナズーリン…○○から見て一年後輩だが態度は不敵。
      星の家で同居しながら、あれこれと家主の世話を焼いている。
      ミステリー研究会の名を借りた探偵局を設立、ワトソン役として○○に目をつけ、無理やり引っ張り込もうとする。
      内心○○を憎からず思っているが、表には出さず冷ややかな態度を取ろうとする。
      が、うまくいかないことも多い(しばしば星の意図せぬ妨害によって)。


ナズーリンイベント「クッキー」

○○「あー、腹減ったー」
ナズ「情けない声を出すんじゃない。ほら、クッキーでも食べてしのぐといい。安物だけどね」
○○「うう、助かる……うまい」
ナズ「……安物だと言ったじゃないか。君の味覚はずいぶん安っぽいな」
 星「ナズーリンいますかー、ちょっと……あ、昨夜作ってたクッキーじゃないですか。
   ちゃんと○○くんに食べてもらえたんですね。うん、よかったよかった」
○○「え、手作り?」
ナズ「な!?ななな何を言い出すんだい!?見間違い、見間違いだよ!」
 星「あ、あれ、私何か勘違いしてましたか?ナズーリンの机に○○くんの写真が飾ってあるし、
   てっきり二人はお付き合いしてて、それで遅くまでがんばってクッキーを焼いてるんだとばかり」
ナズ「わーーー!わーーー!」 




寅丸 星 …教師。真面目で優しく生徒思い、かつ優秀なのだが、人が好すぎて危なっかしいのと忘れ物・落し物が多いのが玉に瑕。
      親戚(本家筋)から頼まれて教え子のナズーリンと同居中。
      体育祭で勝ちたいという○○に勝利を約束(毘沙門天的に)。
      何かすごい秘訣でも教えてくれるのかと思えば「まずは正しい生活習慣からですよ」と細々面倒を見てくれる。
      でもうっかり。


星イベント「お弁当」

○○「あの、寅丸先生、これは……」
 星「お弁当ですよ。○○くんの分も作ってきました」
○○「いや、売店でパン買いますから……」
 星「だめです。ちゃんとバランスよく栄養を摂らないと……あっ、箸箱に箸が入ってない!」
○○「食堂で割り箸でももらってきますよ」
 星「いえ、幸い私の箸はあります。こ、ここは、一つ箸で「あーん」とか……」
ナズ「先生、私の弁当に箸が二膳入っていたんだが」



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最終更新:2010年07月31日 00:28